欝7年3月
商学論集 第65巻第嘘号
︻翻訳︼
十
麦
積
み ︵三︶
太陽は︑黒ずむほどに白かった︒空は抜けるように青く︑麦はまた
黄色く色づき︑平原はまた騒がしくなった︒
そこここの背中が太瞬に向いて雛る︒男や女の腰が麦爆に深々と麟
がって砕る︒太陽の匂い麦の匂いが麦のうねの中からゆら晦らと立ち
昇る︒鎌がサクサクッと騰参︑麦が背後に鱗されて融く︒
隊長はまた︑傷青に大芝嬢の後から麦鞠児を拾い︑麦懸箆をくくる
よう麟ウ振った︒大芝嬢は麦を薄導ながら鞠箆を作った︒彼女の麦鞠
晃の仕上が参の速く丈夫なことといったら︑見る懸に揚青をはるか後
方に置き去拳にしていった︒
傷青はもう大芝娘を追いかけようとはしなかった︒彼女は︑この麦
爆が︑この平原があま箏に人鋳にあわないほど広すぎると感じたむこ
んな天地の問で動いている人間は︑悲しいのか喜ばしいのかはっき撃
わからないと感じた︒
人々はまた前方へ押し寄せた︒表方には楽しみがあるのである︒新
鉄 凝原作・池澤實芳訳
しく就任した鎌長がまた後方に海かって瞬んだ︒﹁後ろのほう︒がおっ
てちゃいかんぞ! 前のほうには炸練子と緑豆飯湯が待ってるだぞ︒
たっぷ警あるだぞ! 食い放題だ!﹂
楊青は思い燐って麦懸子の上にすわった︒大芝嬢も彼女を誘いに駆
けてこなかった︒彼女たちは遠く離れていた︒いま彼女は︑彼女に︸
番近いのは平易帯だと感じた︒彼女はそこの天地を具体的に考えた︒大
通拳の街諮構に纏わっている︼本一本の中蟹擁や︑ 一軒一軒の商唐の
ドアや窓の色や︑自転車で通学していた時に︑通学路の途中で響みに
なっている場翫を還らなくてはならなかったことまでも⁝⁝そこが︑
つまり︑その一つ︼つの還箏の古いドアや窓の中が︑ついには今後の
彼らの落ち着き場所となるのだ︒彼らはそこで巣を作るだろう︒
彼らとは︑彼女にとっては︑彼女と陸野明を指す︒
春簸がすぎても︑睦野明はまだ蜷村に戻ってこなかった︒人々は︑破
がよその土地で︑病気の父続 弓ユーマチを患っている退職幹薬
1の轡議をしているのだと震った︒
春簾の聴に︑揚青は睦野明に逢いにいったことがある︒しかも彼を︑
一
一2懇一
池澤:麦 積 み (2〉・銀晦
大雪に覆われた公園に誘ったことがあった︒はじめ陸野明は行こうと
しなかった︒家に霧事があるとか︑風環をひいたからとか︑友達が来
るのでとか︑といった嚢実を設けて鋲つた︒その後︑それらの口実は︑
揚青の慧の前で︑結局は口実にすぎなかったことがばれた︒そこで綬
は︑綾女の後についてその公園に行った︒
揚鳶は陸野窮と震を壷べて歩きたかったのだが︑睦野明はどうして
も一歩退いて歩いた︑どうやらそれは揚青に薄する晶離簸梅を示している
らしかった︒
雪は深かった︒深く沈みこんだ彼らの足踏がくっき箏と麟された︒足
は深い雲の中に埋まって︑ズボッズ麟ッと音がした︒睦野窮は揚青の
背後を歩きながら︑新雪の上を乱暴に踏みつけた︒彼はそのズボッズ
ボッという音を彼女への告白に変えたかった︒稜は一時た讐とも沈小
鷺を好きになったことはないと︒あ盤夜があって︑彼女髪録する嫌
悪は︑永遠の嫌悪に変わったのだと臼ついに︑足下の﹁ズボッズボッ﹂
は蟻怒の言葉に変わった︒あんなやつ一 あんなやつ一・
揚音はその﹁言葉﹂がわかったが︑涯意深く薦へ進んだ︒彼女の足
音はとても小さかった︒まるで睦野瞬を慰めているかのように騨こえ
た︒私わかってるわ一 わかってる!
雪道の行進は︑揚青を完全に安心させた︑蟷村で︑後らが無言で操
縦してきたその小舟は︑ついに跨ごう岸に到着した︒彼女と彼は完全
な無傷で︑侮も失わなかった︒警々の暮らしから報復されたものは彼
らではない︑そればかウか綾女は深く得るものがあった︒いまついに
彼が彼女のものになったということを︑ほかでもなく背後からの音が
謹聴しているではないか︒
ズボツズ沖憲ツ﹃: あんなやつ︑あんなやつ⁝ス試︑スボ︑スボ!私わかってるわ︑わかってる!軽やかなる返答︒ 鎌はまた総監目の知らないうちに振参勤かされだした︒男や女の腰がまた麦のうねに深々と懸が参︑そこここの背中が太陽に露恥ている︒それらの背中は紫色に見えるほど赤くなっていた︒なかには笈がむけているものもあった︒ それの背中の激震さが︑青い空を感動させたからか︑青い空は突然涼しくなった︒遠くから雷鳴が轟いてきた︒纒かい雨も遜耀を縮織管のように鋒撃はじめた︒人々は雨露参をするために︑背中をまっすぐに締ばし︑璽属を抱え︑いましがた直立させたばか今の新しい麦積みに向かって走ったゆ 揚青は一番近くの麦積みを選んだ︒麦懸子を無造作に積みあげたその小さな麦積みは︑彼女を叡納してくれた︒背後には麦の茎があり︑頭の上にはずつし陰と重い麦の穂があった︒雨水は麦の穂を伝って地面に漉拳落ちている︒傷青の目の前には︑チカチカと霧瀕する珠簾ができた︒楊青は爾手で雨水を受けたが︑手のひらいっぱいに受けることはとてもできなかった︒その後︑建先で受けた︒雨水は足の甲を伝ってくるぶしから流れ落ちた参︑すねへ跳ねあがった参した︒彼女は自分の足首から下の建の横綴が広く︑白いことを発見した.蘇らにぺつた参とふくらはぎに賠9ついている綴かいうぶ毛は︑跳ねあがる雨滴を受けて︑気持ちよさそうだ︒ その後︑誰かが猿女の羨に立ち逢まった︒ここの麦積みは人のいる
欝㎜
を
『
第薦巻第唾懸
巣
払舞雑
学 商
場所から弱らかに離れていた︒
楊青ははじめ男の二本の足首から下の是を見た︒それから男の顔を
見た︒睦野墾だった︒
﹁きみがここで雨宿塗してるのが見えたので﹂と彼は言った︒
﹁戻ってきたの?﹂彼女は聞いた︒
﹁うん﹂と彼の返事︒
﹁着いたばかり?し
﹁養いたばか馨﹂
﹁雨になるとは思わなかったわ﹂
﹁雨になるとは思わなかったよ﹂
睦野明は︑しとしととそぼ降る平原に背を請けて︑この充実した無
言の墾塁に顔を向けて︑雨の中に立っていた︒雨水は綾の屑を伝って
渡れ落ちた︒
綾の騒は雨水に洗い流されて弱るく光っていた︒その騒は揚青に講
かってこう語警かけているようだ︒ぼくも雨宿箏できないだろうか?
ほら︒ぼくはいま.雨の中にいるだろう︒
霧青はたくしあげて恥たズボンの裾を下げると傍らに身を避けて︑
やは讐猛で彼に覆った︒聞くまでもないことよ.ここにたくさん場所
があるわよ︒
陸野明はチカチカと瞬織する珠簾をさっとくぐると︑ひょいと腰を
屈めて楊青の隣にすわった︒
被らの霧の薦はさっきよ今もぼうっと霞んできた︒広野は懸方に果
てしなく︑何だか急に大鷺界から遠ざかったように思われた︒
ここは瞬らかに幾重罪となった︒
揚音はまた︑彼女を騒覚めさせたあの黄昏を思い饑した︒充実と空 漠はともに人の欝覚めを激しく促すことができるのだ︒侮かが趨こるとしたら︑それはいまではないのか︑と彼女は考えた︒彼女はそっと蔭を閉じて︑待ち望んだ. 彼女の姿はまるで苦しい露々をじっと耐えているかのように見えた︒ 一窮の一瞬が︑それらすべてが彼女に告げた︒簿かが趨こらなかったわよと︒簿にも起こらなかったのよと︒雨はあがった︒雨糧は依然まばらに彼らの頭の上の麦の穂からボタ試タと落ちている︒あちらこちらに︑彼らの周麟には小さな水深ま拳ができていた︒ 陸野聡は揚青にさわろうと思えばさわれる場薩に膝を抱えてすわっていた︒何事かの是の指が披の黒いビニール製のサンダルから顔をのぞかせているのに︑楊青は気がついた︒揚青は実に愚かな是の詣たちなのだろうと思った︒まるで腰の縫がつた猫背の小さな老人どものようだ︒彼女はなんの遅出もなく是の振たちを鰻めしく思った︒おそらく建の指たちが愚かなのだ︒だからその愚かな指たちが︑陸野窮に彼女の存在を一しとしととそぼ降る素敵な小繧雨を 忘れさせてしまったにちがいな雛のだ︒ 太鶴がすぐに顔を壊した︒また人々の背中が野方八方の麦積みから現われた︒彼らは大声で購びながら︑ため息をつきながら︑あっけなかった︑余計物だったと︑雨に文句を言った︒ 大芝娘はまた揚青に声をかけた︒その騨び声は︑雨あが拳の平︑療に︑と箏わけすばやく︑と9わけ澄んで響きわたった︒ 楊青は立ちあが参︑自分の騒をひっぱってのばすと︑撮む臨いて睦野明に言った︒﹁私を辱んでるわ︒あなたはまずセンターに戻って脹を着替えたら︒私の風轟敷の中にあなたのランニングシャツがあるわ︒力
三
一2i4一
池澤:麦積み(2)・銀麺
ギは雛つものところよ﹂
陽春はそう言うと︑身体を軽くたたきながら︑蘭方の楽しみのほう
へ産っていった︒雛ましがたの潰薇幽は︑乱雑に積みあげられたその小
さな麦積みの中に置き去参にされた︒
大芝嬢を探しあてると︑楊青はまた振塗趣いて後方を見たひ陸野瞬
は麦懸肇のおわった燧を大殿で歩いていた︒
﹃︑ほら︒陸聾霧が戻ってきたわし揚蓋目は大芝嬢に震った︒
大芝嬢は陸野墾の後ろ姿を見ながら︑とっさに曝護葉が鐵なかった︒
彼女は沈心懸の二纏の椀のことを思い超していた︒
傷青は身体に力がみなぎってきた︒彼女は大芝嬢にぴつた参ついて
行こうと決意した︒
翌馨︑難野瞬は生産隊に復帰し菱躍りをした︒終霞ほとんど議をし
なかった︒仕事をおえた蒔︑沈小黙は郷の称で彼を待ち伏せた︒陸野
明は避けて遷ろうとしたが︑沈小鷹はそちらへ場漸を移して彼の行く
手をさえぎった︒
麦を薄塗おえた燐から履月が昇蓼︑平原や樹木がかすんで見えだし
た︒ ﹁ここを通って麟くつもり?﹂沈小鼠は覆った︒まるで露分の夫に嬬
する妻たちのいつもの購振りと講じだった.
﹁ここを通らないのなら︑ほかにどうやって帰れっていうんだい?﹂
陸野明は思い切って立ちどま拳︑沈小鷺と陶き合った︒
﹁ここにはもう戻ってこないと思ってたわ﹂彼女は齧った︒
﹁ここに戻らずに︑ほかにどこへゆけつていうのさ?﹂彼が言った︒
﹁私に対して︑そういう善い方をしてほしくないわ﹂
﹁どういえばいいのさ?﹂
睡
﹁あの臼の夜のよう些藩ってほしいの﹂
﹁あの彗の夜は︑いろんなことを議したから︑その中のどの書葉がほ
しいのかな?﹂
﹁あなたが一番言いたかったあの言葉がほしいのよ﹂
﹁ぼくが一番書いたかったのは﹁どいてくれよ︑ぼくは行くから﹂と
いう言葉だよ﹂
﹁そんなことは言わなかったわ﹂
陸野瞬は黙ったまま︑爾手をズボンのポケットにつっこんで︑ます
ますぼんやりとかすんできた地平線をじっと見つめた︒足元で︑一群
のウズラが飼かに驚いて︑バタバタバタと飛びあがったが︑それほど
飛ばずに︑またぶつかり合いながら舞いお参た︒
﹁私の手紙は襲いたでしょう?﹂漉小鷹はまた陸野瞬を問い詰めた︒
﹁孫又融ワ鞠継ったよ﹂
﹁受け取ったのに︑どうして返事を鐵さないの? 私ずいぶん長いこ
と待ってるのよ﹂
﹁きみは待っていたいんだろう︒でも︑ぼくはもう過ちをく彗返した
くないんだ﹂
﹁あなたは過ちだと思ってるの﹂
﹁ああ︒きみは遺ちだとは思ってないのかい?﹂
﹁ええ︑思ってないわ﹂
﹁過ちでないなら︑自己鏡鞍書なんか書くかな?﹂
﹁あれは仕方がないわ︒本心じゃないの.本心じゃないんだから︑書
かなかったと瞬じことよ﹂
﹁ぼくは自分から望んで書いたよ﹂睦野窮は言った︒
﹁ということは︑あなたは私を愛してないの?﹂
一2i3一
第酪巻第媛号
集
孤 学 露鍵
蕎
﹁愛してないよ﹂
﹁愛してないのに︑どうして私をこんなふうにさせたのよ?﹂
﹁だからぼくは過ちを猫したのさ﹂
﹁あなたが戻ってきたのは︑私に遜ちだつたというためだったの?.﹂
﹁そうだよ﹂
﹁それじゃ︑これからも︑私はやは肇あなたのものなの?﹂
﹁そうじやないよ﹂
﹁私はそう思ってるわ︒思ってるわ︒悪ってるわ一.﹂
暗やみの中で睦野萌はまた︑あの小さなこぶしーーあの雪のように
震い小さなこぶし一でたたかれているのを感じた︒いつもよりも厳
しかった︒つづいて︑あの藍麻色の髪の毛も彼の騰にふりかかった︒
﹁きみは⁝⁝﹂陸野瞬は立ちつくしていた︒
﹁きみは︑って簿? 言って︑言って﹂沈小風は必死に彼の騰にあら
がった︒ ﹁きみは︑きみ自身のものだよ﹂難野霧はついに彼女を押しのけた︒
彼は一群れの擁の苗木をよけて︑砂地を踏んで︑大殿で去った︒
陸野開は畢是で歩いた︒急いでこの擁の替から叛け出そうと患った︒
破は涯意深く後方の様子をうかがってみた︒沈小騒はどうやら追いか
けてこないらしかった︒陸野瞬はそこでようやくゆつく箏と歩きだし
た︒と︑いつのまにかまたあの麦積みの傍に来てしまった︒彼がこの
道は過ちだったと意識した蒔には︑沈小騒はすでに麦積みの後ろから
騒って彼を待ち伏せていた︒
またたくまに︑沈小鷺はもはや先ほどの沈小鷺ではなくなっていた︒
彼女は彼の還元に叢びこんで︑麦積みの傍らに半ば身体を赦して︑醗
で必死に彼の函足を抱えて︑身を震わしながら泣きじゃくった︑陸野 閣はすぐには彼女の鵬からのがれ崖ようとはしなかった︒彼はできるだけ露分を落ち着かせようとしながら︑うつむいて彼女に闘いた︒﹁きみは⁝⁝きみは︑まだ簿か震いたいことがあるのかい?﹂ ﹁あるわ﹂沈小鷺は書つた︒ ﹁それなら︑言いなよ﹂ ﹁言雛おわるまで帰らな雛でよ﹂ ﹁帰らな雛さ﹂ ﹁うそじゃないわよね?﹂ ﹁うそじゃないさ﹂ ﹁私⁝⁝あなたとむざむざ一鍵き参にしたくないの﹂ ﹁きみの善いたいことが︑ぼくにはわからないな﹂ ﹁私ね⁝⁝あなたの子僕を生みたいの﹂ ﹁そんなことができるわけがないよ!﹂陸野瞬の全身がぶるつと身震いした︒ ﹁できるわ︒私はあなたにもう一度してほしいの︒一度だけでもいいの﹂ ﹁きみは一﹂陸野聡はまた︑沈承徳の醗の中でもがきはじめた︒しかし︑沈小鷺は彼を先ほどト幽撃もっときつく抱鯵た︒ ﹁私は霞業窃得を望んでいるの︒その蒔になっても︑私はあなたを巻き添えにしないわ︒子供もあなたが騒倒をみなくてもいいのよ﹂沈小風は力をこめて顔をあげて陸野明を輝ぎ見た︒ ﹁きみつて⁝⁝まったく大芝嬢の家に無駄に泊まっていたわけじゃないんだね﹂ ﹁そうよ︒無駄じゃなかったわ︒その遜りよ!﹂ ﹁でもぼくは︑大芝の父蔑じゃないんだ︒きみつて︑まったく:⁝﹂
五
一2i2一
池澤:麦積み(2)・銀灘
﹁恥矯らずつて善うんでしょう?﹂
﹁きみ麹身で罵ってるなら︑議がはやいじゃないか﹂
陸野明は沈小懸のどぎまぎしているすきに乗じて︑ついに彼女の露
髄から自分の二本の足を引き抜き︑大殿で騰へ一歩のがれて︑言った︒
﹁きみもぼくも︑もう皿度新しく鐵なおさないかい﹂
難野瞬が麦の脱穀場を離れると︑沈小懸はもう追いかけてこなかっ
た︒ 彼女にはカが残ってなかったし︑力を硬う必要もなかった︒彼女は
静かに饑く必要があっただけだ︒彼女はまた﹁敦汁﹂﹁敦汁﹂を驚いた︑
そして次に聞こえてきたのは︑夜を織して鴫むつづけているギュー
シュシュ︑ギューシュシュという糸輩の音⁝⁝その音は遠くのほうか
ら近づいてきた︒糸車の音は彼女の心身すべてを支醒した︒
その夜︑沈小騒は鑓識青隼センタ⁝に煽らなかった︒大芝娘の家に
は瀧小懸はいなかった︒
翌疑︑誰かがわざわざ沈小懸を探しに平易薦に鑑かけていったが︑平
易毒に沈小騒はいなかった︒
蟻村には︑日自にも︑殿陰にも︑どこにも沈小騒はいなかった︒
遠くのほうで︑騰水が流れ動いて︑地平線がおぼろに霞みはじめた︒
また一年がすぎた︒
蟻識青年たちは︑転嚢が決ま吟都毒へ戻ろうとしていた︑その知識
青年たちの寮もまもなく空っぽになる︒離れる蒲に︑人々はまた︑し
ばらく飲んでいないイモ焼醗を思い鐵した︒夜︑誰かが先導して盤錯
縫のドアをたたき︑魔法藏に入れて買ってきた︒女子の簸識書庫たち
も︑保存しておいた凍滲擁︑水飴︑楡度豆を持参して︑そこに換わっ
た︒人々はひたすら酒を飲み︑穂を食べるばかりで︑誰も舞の話もし なかった︒その後︑誰だかが音頭をとって︑の験画の挿入歌を歌鵠だした︒ 六みんなで声をそろえてあ
おれたちの空
おれたちの土地
おれたちの鍬とおれたちの鐡
貧しい者どうし動け合い おれたちの土地を耕す
隷すのは自分のためでない
ひたすら社会主義のためだ
へい! 縫会主義!
後らは鋳度も何度も歌った︒最後には男子の知識青年たちだけが︑替
え歌で歌った︒
おれたちの空
おれたちの土地
おれたちは大挙して平易に戻る
やってきたのは擁のためか
嚢︑僕︑互いに翼いただすなら
ひたすら歓会主義のためだ
へい︒社会主義!
陸野明は歌わなかった︒
揚青も歌わなかった︒
一2難一
第弱巻第垂号
集
論 学 海
陸野瞬は十能で石巌をスト⁝プにくべた︒被は欝々しげにストーブ
をつつきながら︑欝々しげに石炭をくべた︒まるで一冬じゅうの石炭
を︑一瞬で全部燃やし尽くしてしまおうとするかのように︒
揚青は湯呑みを手にもってイモ燐酸を飲んだが︑その漕の強烈な麟
激を感じなかった︒つづいて︑彼女はまた一舞飲んだ︒
陸野瞬は十能を捨て︑壁の隣にしゃがみ凍拳楠を食べた︒壁の臨は
真っ黒で︑締は聡るく光って見えた︒
翌嚢は︑またしても霜がお姿た︒縁台もの荷馬車が男子の知識青年
と女子の鑓識青隼たちや彼らの荷物を載せて︑梅音︸つしない静ま讐
かえった︑平原を進んだ︒家畜たちの霞からは白い息が畦き串されてい
た︒ 近くの︑あの麦積みは古くなってしまっていたが︑遠くで︑新しい
麦積みがまた忽然と立ちあがった︒
十︸
聾月︑擁紫舞い︑魚売駐が遠くの道で呼び売参している︒
大芝嬢はまた庭に爆を作った︒詮子じいさんは丈の低い土塀の癖こ
うから縫いた︒﹁庭を全離耀にするつもりかいのう?﹂
大芝娘は言った︒﹁ちょつくらお尋ねしますがのう︒トウガラシとい
う作物は︑わしらの土地にはなじまんもんだべがな?﹂
﹁学生さんたちがみんな食っちょるが︑おおかたここからそれほど遠
くない土地で作つとるんでねえがのう露栓子じいさんは言った︒
﹁おれもそう思うんじゃが︒種で纏えるか︑苗で纏えるか︑どっちだ
べなあ?﹂大芝娘が開いた︒ ﹁おそらく蕩でねえがど思うけんどのう﹂栓子じいさんが言った︒ ﹁ちょつくら難いてはもらえねえべがなあ?﹂大芝嬢は言った︒ ﹁あんたまさか︑作ってみでえなんて思ってるのけ?﹈詮子じいさんが麗いた︒ ﹁すまんがのう︒ 一つ探してもらえんじゃろか﹂大芝娯は言った︒
栓子じいさんはイバラの枝で縮んだ篭を背負って︑何度か近くの毒
に是を運んだり︑遠くの毒にも鐵かけていった︒毒では︑彼は飽の物
は見ないで︑苗毒だけを見て睡った︒ネギ蕩︑なす苗︑ヤマイモ苗な
どは彼は見慣れている︒見慣れていないものを見ると︑ただちに是を
とめて尋ねる︒
栓子じいさんはついに遠くの毒から二塊の灘つた泥を持ち爆つた︒
二塊の湿った泥の中には二つかみのトウガラシの苗が入っている︒大
芝嬢は菊の燐の畦の遊吟にトウガラシを纏えた︒縫子じいさんは︑残
しておいた数珠を麦の騰殺場の縁に纏えた︒
麦が刈サ鱗されると︑トウガラシの苗が腰をシャキッとのばした︒
トウモ霞コシの茎が育つと︑トウガラシの藁薦も育った︒
擦の実が成ると︑トウガラシの花が咲いた︒
その後︑トウガラシは花が落ちブ\たくさんの豆超大の小さな生命
が現われ︑それらがみんな空を向いた︒
誰かが丈の低い土塀越しに大芝嬢に驚いた︒﹁まさか︑これがあの︑
トウだラシつち喰うものかいのう?﹂
大芝嬢は言った.﹁ほんのささいなことがらしかわからんけんど︑に
おいは似でるべなあと思うがのう﹂
誰かが麦の脱穀場の近くで詮子じいさんに聡いた︒﹁まさか︑これが
あの︑トウガラシっちゅうものかいのう?﹂
七
一2欝一
泡澤1麦積み(2)・銀額
栓子じいさんは震った︒﹁ふんとに︑誰が買ってきた苗だと思っちょ
るんだべなあ⁝﹂
穀物が黄色く魯づき︑トウガラシが赤くなった︒あちらこちらにポ
ツ潔ツと︑まるで誰かが緑の懸に気ままに捧い栂麟を押したように見
えた︒ 菊の葛が蠢く咲くと︑トウガラシはもっと轟くなった︒︸嚢の紅白︒
畦背晃に出入馨してやたらに駆けず箏躍る五星は︑白い菊の花を摘
みとった警はせずに︑もっぱら赤いトウガラシだけを選んで手に握っ
ていた︒ 翌年︑詮子じいさんは干したトウガラシから種を趨箏︑苗を纏えた︒
人に会うと誓った︒﹁鋳本か纏えろよ︒珍しいもんでも纏えてみろやに
端轡の人たちは菊の菟の傍らにトウガラシを纏えだした︒秋になる
と︑端韓の平原には彩りが増えた︒
十二
素晴らしき時もある哉
悪しき時あり 春景色
中ぐらいなる蒔もあり 春景色
蟻村にいた時︑センターのある勇子寮生がこんな詩を作ったことが
ある︒揚青はこの詩を︑薄笑しみがあって︑しかも心にぴったりくる
ものがあると思ったためか︑思わずしょつち膨う心の中で講じていた︒
いま︑詩を作った者とその詩を講じた考とは︑とも龍平易に懸ってき 八たが︑揚青は権変わらずその詩を講じた︒平易毒はひつそ参と彼らを受け入れてくれた︒ 揚青もなぜ﹁受け入れる﹂などという言葉で︑これら一群の人々の復帰を形容するのかがはっき箏わからなかった︒もともと彼らは︑平易の鐡身者たちだったのだから︒いま顔を合わせたりすると︑やは肇互いに消息を短らせ合った参した︒どこそこでは誰を受け入れたとか︑ある恥は誰はどこそこには受け入れてもらえてないとか︒平易の人たちと溝じように︑やっとのことで傷青が自転車で選勤するようになった時︑鰻前の広々とした畷るさを感じた︒⁝⁝⁝素繕らしき縛もある哉春景色︒ その蒔︑牽輪は︑平らとはいえない道の上を圏転していた︒密集しているとはいえない籐商店街が︑彼女の醸藩をゆっくりと滑ってゆく︒狭い横丁からは︑いつもゴマ濾や豆騰の呼び売参の声が薦こえてきた︒これこそが平易の人々が首子受すべきものだと彼女は懸った︒十字諮を遜る際に不漢意から赤信号を渡ってしまい︑お巡吟さんに呼びとめられて歩道で罰金を払わせられ︑講戒を覆戴するのでさえ︑彼女は幾分かの誇むを感じることができるだろう.か参に平易の人聞でなかったとしたら︑か箏にまだ蜷村にいたとしたら? 蟻村には︑道行く人に罰金を科すこともないし︑螺村には泰繕号もないのだ︒お巡りさんに五角のお金を払えば︑お巡警さんは領叡書を窮ってくれる︒そしたらまた自転車に乗る︒するとお店が鰻前を滑ってゆく︒⁝ーー−中ぐらいなる蒔もあり. 蒔には︑広々とした隣るさも靉靆から消えてしまうことがある.楼青を受け入れてくれた工場に一歩踏み入れるや︑コンタ婆ートの敷かれたじめじめして滑轡やすい職場の地面に乗ウ入魂るや︑鞍女はとた
一2鱒一
第総巻第善書
集
論 学
商 んにあの詩の第二句を思い鐡してしまう︒ーー悪しき購あ箏 春景色︒ そこは大きくもない製紙工場で︑職場から遠くない空き地に︑盲同々といくつかの麦積みが屹立していた︒それらの古い麦積みの頭認も︑黄色い泥が載せられ平らにな参︑さながら痘大なキノコのように︑柔らかなアーチを描いていた︒新しい麦積みの頭灘は雨よけの蕨がかぶせられているだけだった︒その薦の騒隅は︑紐の先に繕わえられてぶらさがっている石ころの重みで︑きつく下へひつばられていた︒ 新しい麦積みは︑すぐに紙パルプに変わ酵︑紙に変わるのだが︑あのいくつかの苦い麦積みはいつ豪でも残った︒麦積みの頭部の黄色い泥が次第に黒ずんだ色に変わ婆︑長さがふぞろいになった麦わらのくずは︑もはや麦積みを押し戴く光の繋のようでもなく︑もはやそのひさしの所でまぶしく光ってもいなかった︒それはさながら気違い女の蔑れ髪のようだった︒ 苦い麦積みどもは彼女を誘惑したし︑彼女を威癒していた︒綾女を
響び覚ましたことがあ拳︑彼女を擁圧していた︒いま︑そいつらは藪
るで地でもなく彼女にくっついてここまでやって来たかのようだ︒ま
るで︑彼女はもともと蟻村を離れたことがないかのようでもあった︒
盤饗は狭すぎる︒恐悔を感じる狭さだ︒盤の中の人は本来みんな村
から鐵てきたのだ︒死ぬまでそこで暮らす蕎もお撃︑移動した餐もい
る︒だが太錺は一つしかない︒
いつも揚青は通りで女を見る︒都毒の女たちの︑もうこれ以上薄い
ものはないというほど薄いブラウスの中に︑包まれているのは︑まぎ
れもなく大芝嬢のあの二つの大きな乳である︒やは滲彼女は︑ジーン
ズをはいている若い簸たちを︑若い時の大芝嬢ではないかと雛つも考 えた︒後ろ姿を見れば︑白い首簾︑亜麻色のおさげの娘もいる︒あれは沈小織だ一−彼女は恐ろしくなって︑急に騰も重苦しくなった︒ ︼つの太鶴の下には︑三人の女がいる︒彼女を含めて︒彼女は窮らかに移蟻したのだが︑それは一つの麦積みから驚の麦積みへ移動したにすぎないのかもしれない︒ 冬︑人々は嚢分を厚く包み込む︒傷青は選りでやはウ人々を観察していた︒露転車の人や歩いている人を︒ ある嚢︑三人の歩行壽が︑長筵離バスのターミナルから︑駅に肉かって歩いていた︒二人の大人が一人の子供をひいていた︒その子僕は平べったい頭で︑広がった耳をしていた︒傷青はすぐに彼らが誰なのかがわかった︒しかも︑牛皮︑翻毛震箪の裏灘を表嚢にした生壁︑硬底の大きな革靴に気づいた︒都竃の歩道を歩騒ていて︑都薦の音は︑それの蓄を︑かき消してしまってはいるが︑しかし︑その音はきっと黄土の小道の上よ参もずっと瞬醗であるにちがいない︒震の男は背中に︑手織参本緯姦でできた構ものの風騒敷包みを斜かいに背負っている︒風轟敷がずつし拳と盈いせ晒で︑背負っている人の蕎中が︼方に傾き︑猫背になっている︒傷青は霞転事を三人の騒の前につけて︑キューッとブレーキをかけた︒彼らがわかるかどうか見てやろうと︑わざと黙っていた︒ 老若三人はかなりの爵問どぎまぎしていた︒かな拳狼狽しているようだった︒この琶の中の綬則をふみ誤ってしまったのではないかと︑たぶん彼らはそう考えたのではないだろうか︒楊青は笑った︒ ﹁詮子じいさん︑小池さん︑私を忘れちゃったの? 腸胃よ︒この子は五星だよね?﹂彼女は下を海難て小池の脹の角をしっかと握っている子僕を見つめた︒
九
一2奪8一
池澤1麦積み(2ト銀晦
﹁おお︑揚青だ一﹂詮子じいさんははっと傷って︑予想外の笑みを顔
いっぱいにほころばせた︒彼は人々でごつた返すこんな大都会で︑自
分たちを知ってる人聞がいるなんて想像だにできなかったのだ︒
﹁皆さんはいったい⁝⁝﹂楊青は小池の騰呂敷を見ていた︒
﹁遠鐵するつもウでな﹂栓子じいさんは覆った︒
議す機会を詮子じいさんに譲った小池は︑神妙な藷持ちで︑五星の
手をひいて笑うだけだった︒笑うと難の蕎鱗に梅本か︿荒カッコ﹀の
ようなしわができた︒
揚青は彼らの行く先を予想してみた︒蟻村の人々は大きな商売はし
ないし︑大きな部門や大幹離と騰係を結ぶことはないから︑ふだんは
遠鐵する難事などな恥︒
﹁籔綴へ行くのかしら?﹂揚青は聞いた︒
栓子じいさんは邸答しなかった︑小池は顔を赤らめた︒五星はおず
おずしながら楊青を見ていたが︑頭を小池の駆に寄りかからせた︒
﹁駅まで送ってあげるわ︒さあ︒風暴敷包みを荷台に載せて﹂揚青は
小池の騰護敷包みをはずそうとした.
小池は言った︒﹁重くねえだよ︑重くねえだ﹂
揚音はやは鋒風呂敷包みをはずして︑荷台に載せた︒彼らは揚音の
案跨で︑おどおどしながら自転車や通行人を避けていた.
駅に着くと︑揚膏は彼らのためにどの粥車に乗ったらいいかを見て
やり︑小池に粥に壷ばせて燐符を買わせてやった︒詮子じいさんは︑こ
の時になってようやく揚青に蟹懲に行くことを話した︒
﹁箆ろや︒あっという間によう︑五星がすっかり大きくなつちまって
のう︒んじゃが︑蒔こうにやわしら蟻村の戯の者がおるでなあ︒葉は
落ちて根に帰るだよ︒ち.小うど︑あんたらが平易に爆ってきたのと購 一〇じようなもんだべえ︒欝こうにいる灘の者は︑やつぱ拳わしらの端村に帰るべきだべがらなあ﹂詮子じいさんはそう言った︒ ﹁それじゃ︑五星は?﹂揚青は驚いた︒ ﹁まんず︑五星を緯ちゃんに見せてからだ︒花児の気持ち次第だべな︒花箆もいきさつを矯ってる餐だでよ.肉蔑だべ︑まさしく肉親だがらのう﹂ 栓子じいさんの議は擁麟的だったが︑それでも楊青は誌の意味がわかった︒五星は花見の傍に留まるだろうと︑彼女は思った︒彼女は喜ぶべきか悲しむべきかわからなかった︒ 五星の霧欝はぼんや吟としていた︒揚青は彼が小さかった蒔にいつもこんなふうに憂い顔を漂わせていたのをまた思い思した︒ 小池は切符を麗ってきた︒揚音は駅前の露店から︑五星のために
ゴボンシァンスも チアンミミテイア書影香酵を二本と江米条露寒のかりん饗を一包み︑詮子じいさんの
ために黄色いカステラを丁包み饗ってきてやった︒彼女は︑彼らと鐵
会って︑自分にできることはすべて行なったと思った︒
五星は二本のステッキのような膨香醜をしっかと懐に麹いていた︒
その二つのくステッキ﹀は︑ 一本は赤で︑もう一本は黄色だった︒
栓子じいさんは両手でそのカステラを捧げるように持っていた︒
五星の江米条は︑小池が小指にひっかけて盲隅々とぶらさげていた︒誰
かが江米条の上のほうにぶつかった︒
乗車客は多かった︒栓子じいさんと小池は五星を真ん中に挟んでい
た︒彼らはたちまち華商の人ごみの中に巻きこまれた︒彼らは︑いき
んで顔を真っ赤にして︑めいつぱい力をこめて押した︒栓子じいさん
のあの革靴は飽の人の靴を踏んづけていたが︑また溺の人の靴に踏ん
づけられてもいた︒
形皿
カ
㎜
第騰巻第尋号
纂譲
隅子 薩
その後︑プラットホームには揚青だけが残った︒彼女はいましがた
彼らが破女にすべての男子と女子の惣識膏年たちの溝患を臨いたが︑
ただ沈小露と睦野閣のことだけは尋ねなかったことを思い鐵した.
陸野聡と楊青はしょつち傘う会っているわけではなかった︒鱗村を
離れると︑揚青は誰かを講擁しようという欲望が消えてしまった︒陸
野瞬ももうその種の興奮や安らぎを得ることはなかった︒会うといっ
てもただ会うだけのことで\それは通勤や食事と講じことだった︒し
かし︑毎選の逢瀬は︑彼ら二人にとって︑互いにそれにふさわしい印
象を留めることはできた︒二人とも蟻村の馨々に塗し訳がたつと考え
ているらしかった︒夜︑綾らはまばらな木陰の垂木遵を遜るたびに︑木
陰選管にいる男女を注税しながら︑綾らのなすべき︼窮のことを追求
し︑摸倣してみた︒
睦賢明はすべての男と隅じように︑馨転車を街灯の聡かりの当たら
ない講にとめて︑半身を後ろの荷台に斜めにもたれさせて︑分震あ鬱
げにタバコを畷う︒陽春は稜の近くに立って︑籔度を守りながら無頽
着なふうを示す︒議はいつも遠いことから身近なところへと移る︒
﹁ぼくたちの工場では新しい規則を決めたよ︒罵を鐵る蒔も︑入る時
もみんなが霞転車から降参なくちゃならなくなった﹂睦野墾は言った︒
﹁そう﹂湯青は返事した︒
﹁きみたちの工場はどうだい?﹂陸野畷は驚いた︒
﹁私たちの工場は︑窪由にしてるわ﹂楊青は震った︒
﹁そんな必要があると思うかい?﹂陸野明は闘いた︒
﹁嚢倒ね﹂揚青は言った︒
二人はしばらくぼうっとして︑また揚青は言った︒﹁暑くなったわね﹂ ﹁だんだん暑くなってきたよ﹂睦野墾は言った︒ ﹁どっちみち工場では冷房を入れるでしセ俳うけどね﹂楊轡は言った︒ ﹁ぼくたちの職場じゃお茶の葉っぱや露砂糖を齧ったな﹂睦野瞬は覆った︒ ﹁私たちの工場ではまだ選惣がないけど﹂揚青は言った︒ またしばらくぼうっとした︒ ついに︑彼らは欠かすことのできない実質的なあの開題に触れた︒陸野墾がまず蔭︑こも馨ながら難火を切った︒彼は最も弱々し恥鍛差しで霧青を見た︒語気には打診と要求が含まれていた︒鵜村に︑︿ニメイリ﹀が訪問したあの購い夜が︑どうやら彼に永遠の臆病を与えたようであった︒ 揚音は日鐙とも︑欝くない﹂とも震ったことはなかった︒ 彼らはやはウ約束通り会い︑音楽会に行き︑新麟を鑑賞し︑水泳をし︑ボートに乗拳︑オ⁝トパイの麟乗蓼を見にさえも鐵かけた︒毎懇︑陸野萌はいつも食窃の包みを揚壽の麩の慈に差し鐡す︒睦野墾が捧げ︑揚青がその包みの中を手探りしながら︑ぽりぼ肇食べた鯵︑手で食物に鍵れた雛︑包み紙にさわった参した︒その包み紙はいつも揚青の注意力を散漫にさせる︒彼女がさわっているのは︑彼女たちの工場で生産した︑薄黄色で麗いあの紙だ︑と彼女は思った︒その紙の原料は麦わらである︒ 毎馨毎馨︑揚青の手をたくさんの紙がかすめてゆく︒彼女は仕事をしていて︑ときどきわけもなく騰が重くなることがある︒ちらっと自分を見やると︑身体には斜大襟掛子を身につけていなかった︒破女はできるだけてきばきと鱗こうと努めた︒ 一つの︑黒ずむほどに白い太陽よ︒
一㎜
一2鰯一
二
一つの︑霜の降りていない新しい坑︒
一九八六年一二〜五月 鎌︷疋
﹃鞍穫﹄ 一九八六隼胱第五懇鐙欄聾戦
池澤:麦積み(2戸銀鱗
蕊『
ラリ
皿