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放射性セシウムのイネへの移行 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 51, No. 1, 2013

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セミナー室

放射性降下物の農畜水産物等への影響-8

放射性セシウムのイネへの移行

根本圭介

東京大学大学院農学生命科学研究科

昨年3月の福島原発事故により,さまざまな放射性核 種が多量に漏出して農耕地が広範に被曝した.こうした 核種のうち,放射性セシウム (Cs) は漏出量が多いうえ に 137Csは半減期も長いために注意が必要であるが,被 災地の代表的な農耕地土壌である灰色低地土には幸いに してセシウムを強く吸着する性質があったため,多くの 場合,作物による放射性Csの経根吸収は昨年の暫定規 制値 (500 Bq/kg) をはるかに下回った.しかし,一部 の山間地域(二本松市小浜地区,福島市大波地区,伊達 市小国地区など)では,500 Bq/kgに近い,あるいはこ れを超える玄米が多数見いだされ,被災地の農業復興に とって大きな障害となっている.実際,これらの水田で のイネの放射性セシウム吸収を郡山の平坦地などと比較 してみると,100倍あるいはそれ以上と桁違いに大き く,早急な原因解明が求められている.本稿では,この 問題に焦点を当てて私たちが得てきた知見をまとめてみ たい.

イネの放射性セシウム吸収に見られる“季節性”

いったん植物体に吸収・蓄積された後での体内移動が 少ない物質であれば,その体内分布から成長に沿った吸 収パターンを読み取ることができるため,まず吸収され た放射性セシウムの体内分布を調べた.郡山の福島県農 業総合センター水田のイネ(玄米の放射性Cs濃度は

5 Bq/kg前後)では下の葉から上の葉へと放射性セシウ ム濃度が低下したのに対して,470 Bq/kgの玄米が穫れ た小浜地区の水田では逆に上の葉ほど高い傾向があっ た.このことは,小浜地区の水田では上位の葉が成長し た盛夏に多量の放射性セシウムがイネに吸収されたこと を示唆しているが,その原因として可能性の高いのは高 温下での有機物分解の促進である.水田では,特に気温 が30℃を超えると急激な有機分解が起こる.このこと を考慮すると,夏季に水田内の有機物が分解され,放出 された放射性セシウムをイネが吸収した(落ち葉や雑草 などさまざまな有機物が放射性セシウムの供給源となっ た可能性を,共同研究者の塩沢 昌博士が実験的に示さ れている)という可能性が考えられるが,規制値超えを 起こした水田の多くが山の沢水を引き入れている水田で あることを考えると,夏季に山林の落ち葉などが分解さ れ,放出された放射性セシウムが水とともに水田に流れ 込んでイネに吸収された,という可能性も考えなければ ならない.実際これらの水田の用水を調査してみると,

懸濁態のセシウムが多いときには1リットルあたり数ベ クレルの濃度で含まれている.こうした懸濁物質が水田 中でどのように分解され可溶態のセシウムを放出してい くかを明らかにすることが必要である.

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放射性

Cs吸収は水田生態系の特長を反映している

ところで,有機物の貯留・分解や潅漑水からの物質流 入といったプロセスは,実は,水田生態系の持続的な生 産性の基盤をなすものである.上記の仮説が正しけれ ば,規制値超えのメカニズムは水田生態系の特長と表裏 一体の関係にある,ということになる.このことに関連 して触れておきたいことがある.セシウムは,土壌を介 さずに水から直接に経根吸収されると極めて効率よく吸 収されることが知られており,実際,今回降下した放射 性Csを含む水耕液でイネを水栽培したところ,1 Bq/L という低濃度の水耕液でも茎葉部に600 Bq/kg(乾物)

に近い高濃度の放射性セシウムが蓄積した.もちろん,

これほど過激な吸収(土壌からの吸収の数千倍の効率に 相当)が実際の水田で起こっているわけではなかろう.

しかし,規制値超えの米が穫れた水田の多くは排水が極 めて悪く,基盤整備の済んだ水田でも夏季に天水のみで イネが生育できるほど浸透量が少ない(塩沢博士によ る)ことを考えると,排水の悪い水田で放射性セシウム を含む水が田面水あるいは作土中に滞留し,その結果,

部分的にではあっても放射性セシウムが土壌に吸着され てしまう前に経根吸収される機会があった可能性は否定 できない.

もう一点触れておきたいのは,土壌の交換性カリウム 濃度の影響である.福島県と農水省によって土壌のカリ ウム欠乏は放射性セシウムの吸収を促進することが明ら かにされており,規制値超え地域でも水田土壌の交換性 カリウム濃度の低さが放射性セシウム吸収に拍車をかけ ている可能性が指摘されている.実際,上述の小浜地区 水田の土壌を用いた私たちの実験でも,カリウムの施用 によって放射性セシウムの吸収量が約十分の一に低減で きた.このことは吸収抑制対策として極めて有用である が,一方で,これらの地域で施肥量が減らされてきた背

景として,この地域の沢水に含まれる潤沢なミネラルを 良食味米の生産に積極的に生かそうという取り組みが あったことを強調しておきたい.こうした持続的な稲作 に取り組まれてきた農家こそが最大の被害者となった現 実をわれわれは重く受け止める必要がある.

このように,今回の稲作被害の背景として水田生態系 の特質がある.したがって,今回の問題をチェルノブイ リ事故の類推だけで対処することには限界があり,その 解決にはイネ学独自の視点と取り組みが必要であろう.

有機物に降下した放射性セシウムの行方

このように,規制値超えの問題を解明し対策を立てる うえで,山林と用水と水田を一つのシステムととらえた 放射性セシウムの循環・収支の解析が何より重要であろ う.今後のモニタリングに関連して一点,指摘しておき 図

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放射性セシウムを含む水耕液で栽培したイネにおける蓄積

図2山林で採取した落葉(上)と,付着する放射性セシウム

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たいことがある.上述の水耕実験を行うにあたり,私た

ちは放射性セシウムが降下した麦の枯れ葉からの溶出を 行った.こうした有機物には放射性セシウムがスポット 状に付着しているが,溶出実験の結果,このスポット状 降下物は熱湯と硝酸で洗い落としても全体の数%しか溶 出できないくらい溶けにくいものであることがわかっ た.どなたか化学がご専門の方に,こうしたスポット状 降下物の化学形を調べていただけたらありがたいと思っ ているが,実際,水田中の有機物や山林の落ち葉にも,

こうした難溶性の降下物が今なお多量に残っている.こ れらが完全に環境中に溶出し終わるのは,予想以上に長 期にわたるかもしれない.長期的視点に立ったモニタリ ングが是非とも必要であろう.

今後の重要課題―水田ごとのカルテを

以上のように今回の規制値超えには,空間線量率の高 い,水の集まる山間地域という 地域としての要因 に,セシウム供給源としての有機物や沢水,セシウムの 吸いやすさに影響を与える交換性カリウムの農後や粘土 鉱物の種類,土壌の排水性といった 個々の水田の要 因 が複雑に絡み合って起きたものと想像される.同じ 有機物でも雑草と樹木の落ち葉とでは分解速度が大きく 異なるため,吸収が収束するまでの年数も異なるであろ

う.したがって今後の対策を立てるためには,地域とし ての共通要因を明らかにしていくとともに,個々の水田 の要因を調査して 水田のカルテ を作っていかなけれ ばならない.特に,昨年,規制値超えが明らかになった 時点ですでに複数の水田の米が一緒になってしまってい たことから,水田ごとのカルテの作成は今後の調査のい かんにかかっている.今年,私たちは伊達市の規制値超 え地帯での試験作付をお手伝いしているが,そこでの最 重要課題が,こうした 水田のカルテ作り ではないか と考えている.

本稿で紹介した内容は本学の放射性同位元素施設,農 地環境工学研究室,栽培学研究室および福島県農業総合 研究センターの共同研究による.

プロフィル

根本 圭介(Keisuke NEMOTO)    

<略歴>1988年東京大学大学院農学系研 究科修了/同年東京大学農学部助手/1998 年東京大学アジア生物資源環境研究セン ター助教授/2005年東京大学農学生命科 学研究科教授<研究テーマと抱負>栽培学 へのゲノム情報の利用に興味をもって研究 を行ってきたが,昨年の春からはボラン ティアとして福島原発事故の被災地におけ るイネの放射性セシウム吸収についても調 査を行っている

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