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書 館 化学 生物

化学と生物 Vol. 50, No. 12, 2012

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  基質を合成し発見の歴史

筆者は2010年37年間勤めた長崎大学薬学部を定年退職し た.この間一貫してプロリン特異性ペプチダーゼの研究を続 け,基礎と応用にわずかではあるが関与できた.同時に長崎 は出島で象徴されるように江戸時代唯一海外への窓口とな り,近代科学の導入の場所であったことから当時の資料を目 にする機会があった.ポンペがもってきた1856年出版の Wagner著「De Scheikunde (オランダ語の化学)」の有機化 学の章に,グリシン,アラニン,ロイシンやチロシンが組成 式と性質についての記載はあるが,プロリンはない.プロリ ンとヒドロキシプロリンは1900年頃に有名な化学者 E. 

Fischer により初めて報告された.

1932年にBergmannはアミノ基保護基としてベンジルオ キシカルボニル基(Cbz基,Z基)を開発することで一定配 列のペプチドを合成でき,ペプチダーゼの基質特異性の詳細 な研究が可能となった.後に酵素学の基礎を築いた J. S. 

Fruton や E. L. Smith は若い頃グリシルプロリンやプロリ ルグリシンなどを合成し,プロリダーゼ(X-Proを切る酵 素)やプロリナーゼ(Pro-Xを切る酵素)を見いだし研究し ている.また,後にイスラエルの大統領になった E. Katch- alski もポリプロリンを合成し,プロリルアミノペプチダー ゼ (PAP)  を 見 い だ し て い る.Hopsu-HavuとGlennerは Gly-Pro-

β

-naphthylamideを 合 成 し,ジ ペ プ チ ジ ル ペ プ チ ダーゼIV(DPP4,  アミノ末端から2番目にプロリンが存在 するとプロリンのカルボキシル側を切る酵素)を発見し た(1)

このように,プロリンを含むペプチド基質の化学合成によ りプロリン特異性酵素の研究が開始されたが,時代はまだ酵 素を十分に精製する技術が発達していなかったこともありプ ロリン特異性酵素の研究はその後停滞していた.

  新酵素プロリルオリゴペプチダーゼ POP

筆者は1969年大阪市立大学理学部生物学科の応用酵素学

(福本寿一郎教授)の修士課程を修了した.福本先生は微生

物アミラーゼを用いたブドウ糖の工業的生産で学士院賞を受 賞されており,基礎研究とともに応用も重視した教育をさ れ,教え子には農芸化学会の学会賞を受賞したものが多い

(図

1

.そのグループの一人,鶴 大典先生はプロテアーゼ 研究,特に金属プロテアーゼの亜鉛やカルシウムの役割を初 めて定量的に示された業績で知られている.学部,大学院時 代鶴先生に直接指導を受け,後長崎大学へ赴任されるときス タッフとして同行した.2年ほどして鶴研究室が安定してき た1976年,シカゴのイリノイ大学医学部のWalter教授のも とへ留学した.Walter 教授は日本ではペプチド合成分野で 知られており,オキシトシンやバソプレシン誘導体の化学合 成のみならず,生合成や生理学的研究および産科領域への応 用と幅広く研究し,30代の若さで生理学科長であった.特 にWalter教授を有名にしたのはオキシトシンの立体構造を NMRでの解明に成功し,NMRによる構造解析の先駆者と して有名であった.

Walter教授は放射標識したオキシトシンを化学合成し,

子宮からプロリンに特異性をもつエンドペプチダーゼである プロリルオリゴペプチダーゼ (POP) を発見されていたが,

その後放置されていた.その酵素について酵素化学的に研究 するのが私のテーマであった.酵素は自分の専門でもあり順

プロリン特異性酵素

生化学・構造生物学的解析と応用の経過 芳本 忠

摂南大学理工学部

図1大阪市立大学理学部応用酵素研究室(1969年)

福本寿一郎教授(1段中央),山本武彦助教授(2段中央),鶴 大 典助教授(1段左).この中に,農芸化学会の学会賞受賞者が5名 写っている.

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調に酵素の研究を進め,成果を学会発表とともに論文にする ことになっていた.ある日,大学院生のSimmons氏が最近 出た論文だと言ってKennyらの「DPP4がエンドペプチダー ゼ活性ももつ」(2) とタイトルに書かれた論文のコピーをもっ てきて,私が研究しているPOPはDPP4と同じ酵素ではな いかと教えてくれた.これは私にとってショックであった.

確かに見れば見るほど似ている,分子量は7 〜8万,セリン 酵素で,至適pHなどほとんど同じである.両酵素ともプロ リン以外に弱いがアラニンにも作用することまで似ている.

新しいセリン酵素として論文にしようとしているのに既知の 酵素であると論文にならず,これまでの研究は何であったか とその日は非常にがっくりしアパートに戻ったのを思い出 す.翌日気を取り直し,論文を注意深く読み,いくつかの データの疑問点に気づいた.そこで,同じ子羊の腎臓から DPP4とPOPそれぞれの基質を用い精製し,比較してみるこ とにした.図

2

はN末端アラニンを放射標識したペンタアラ ニンを用いた実験の決定的なデータである.その結果,明ら かにPOPはエンドペプチダーゼでDPP4はエキソペプチ ダーゼであることがわかった(3).当時はこのような放射標識

した基質を普通の研究室で合成し用いていたが,現在は不可 能である.結局,Kenneyらの酵素はPOPが混入していた.

このアラニンに対する作用は後述するように,生活習慣病に なると過剰のDPP4がインクレチンのアラニン部分を切断し 不活性化することがわかり,酵素阻害剤が2型糖尿病薬の開 発につながっている.

1979年Walter教授は不幸にもがんで亡くなり,潤沢だっ たNIHのグラントは返納され,大きかったWalterグループ は解散を余儀なくされた.そのため,プロリルオリゴペプチ ダーゼは芳本が日本で引継ぐことになった.

  合成基質の開発と酵素の分布

薬学部にいると化学合成の研究室が多いことが幸いし,見 よう見まねで簡単なペプチドなら自分で合成できるように なった.プロリン含有の合成基質を開発し,それらを用い動 物臓器での酵素の分布を調べると脳,腎臓や睾丸に高い活性 が見られ,植物や微生物をスクリーニングし酵素を見いだし 図2POPDPP4のペンタアラニン への作用(3)

高圧ろ紙電気泳動を行い,ニンヒドリ ン発色スポットの右の数値は放射活性

(相対値)を示す.

表1筆者が研究したプロリン特異性酵素(4)

酵素名 作用点 基質 起源

プロリルオリゴペプチダーゼ (POP) ̶A̶A̶A̶P̶↓̶A̶ Z-Gly-Pro-pNA 動物(腎,脳,睾丸)

Z-Gly-Pro-βNA 微生物

プロリルトリペプチジルペプチダーゼ(PTP) A̶A̶P̶↓̶A̶ Ala-Phe-Pro-pNA 微生物(歯周病菌)

ジペプチジルアミノペプチダーゼ(DPP4) A̶P̶↓̶A̶ Gly-Pro-pNA 動物(腎,小腸)

プロリルアミノペプチダーゼ(PAP) P̶↓̶A̶ Pro-pNA 微生物微生物,キノコ

アミノペプチダーゼP A̶↓̶P̶A̶ Gly-Pro-pNA 動物(腎)

+ PAP 微生物

プロリダーゼ A̶↓̶P Ala-Pro 動物(腎,小腸)

微生物 A : アミノ酸,P : プロリン,Z : ベンジルオキシカルボニル,pNA : -ニトロアニリド,βNA :β-ナフチルアミド

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た.微生物では,病原菌に高い活性が見られた.

(旧名 ) に高い活

性が見られた(4) (表

1

.本菌は乳幼児に感染し敗血症や脳膜 炎を起こすとBergyʼs Manualに記載されており,その頃わ が家の子どもが小さかったので気になり医学部微生物学教授 に菌の感染性について尋ねた.感染は病弱な場合のみで健康 な乳幼児への感染はないことを聞き安心した.ほかのプロリ ン特異性ペプチダーゼについても特異的な基質を用い微生物

をスクリーニングした. は水性菌で

ヒトに日和見感染する.両菌の由来のPOPをクローニング

し た. (旧 名 ) 

の DPP4,    ,  , 

のPAPについても初めて酵素を見いだしクロー ニングした.これらの菌は院内感染など日和見感染菌が多 い.

  新プロリルオリゴペプチダーゼ・ファミリー

遺伝子組換え技術は高分子量のタンパク質のアミノ酸配列 の推定を可能にした.プロリン特異性ペプチダーゼについ て,POP, DPP4, PAP, アミノペプチダーゼP, プロリダーゼ のクローニングに成功した.塩基配列の決定は手製の装置に 

32Pを用いフィルムに写った線を読む古典的な方法であった.

POP, DPP4, アシルアミノ酸遊離酵素は有意なホモロジーを もつことから新しいセリンプロテアーゼファミリーを形成す ることが明らかになった.

PAPについても,最初 -chloromercuribenzoic acid (PCMB) 

で阻害されPCMBを固定化したカラムで精製されることか らSH酵素とされていたが,アミノ酸配列のホモロジー解析 からシステインの保存がなく,触媒3残基が見られセリン酵 素であることもわかった.

これらの結果から,触媒3残基の位置がトリプシン・ファ ミリーでは His, Asp, Ser  であり,サブチリシン・ファミ リーでは Asp, His, Ser であるのに対し,上述の酵素は共通 して Ser, Asp, His  の配列で新しいプロリルオリゴペプチ ダーゼ・ファミリーの存在が明らかになった.

  結晶構造解析への挑戦

大学院時代にサイエンティフィックアメリカに載ったリゾ チームの立体構造に魅せられ,X線結晶解析法の本を購入し 勉強したが,いずれの本も数式で埋まっており,特にフーリ エ変換の部分で何度も挫折し,しだいに意欲が低下した.一 方,遺伝子組換え技術を用いた過剰発現により信じられない ぐらい大量の酵素を得ることができ,硫安により結晶ができ たので,立体構造が知りたくX線結晶解析の専門家に依頼 した.しかし,半年経っても何の連絡もなく,やる気がない と思いほかの専門家にも依頼した.それが元の依頼者に知れ 気まずいこととなった.勝手に第3者へ依頼した私が悪いの であるが,これで学生時代からの憧れのX線結晶解析を自分 でやろうと決心をした.1993年,だめもとで申請したX線 回折装置が当たった.時代はX線の発生機が管球から強力 なX線を発生させるロータリー式が開発され,解析ソフト CCP4が広まり始めたときで,最新鋭の装置が手に入ったわ けである.それまでに比べ取扱いが画期的に容易になったと はいえ,素人が解析するにはかなり困難であった.なり振り かまわず聞きまわり,特に日本で最初に阻害剤SSIの構造解 析に成功された三井幸雄先生と教え子の田中信忠先生(現  昭和大学)にずいぶんお世話になり,セラチア菌のPAPと デヒドロゲナーゼの変異体については成功した.タンパク 3000プロジェクトが始まり,なんとか参加できたので解析 速度を上げるため,専門家の中嶋義隆先生を助教に採用して 以後,水生菌のDPP4と歯周病菌のプロリルトリペプチジル ペプチダーゼ (PTP), そのほかアミノペプチダーゼNなど多 くの酵素について結晶構造解析に成功した(5).3種のプロリ ン特異性酵素の構造を図

3

に示す.それぞれの酵素に特異的 な阻害剤を合成し,複合体の構造も明らかにした.3つの酵 素は共通して,

α

/

β

-hydrolase fold  を有するドメインをも つ.このドメインにはセリン酵素としての触媒3残基 (Ser,  Asp, His) があり,触媒ドメインと呼ばれる.PTPとDPP4 にはプロペラドメインが結合した構造となっている.立体構 造がわかってみると触媒ドメインのアミノ酸配列はホモロ ジーが非常に低いにもかかわらず構造はぴったり合わさり,

図3X線 結 晶 構 造 解 析 を 行 っ た,

A 日和見感染菌   

DPP4, B 歯周病菌 由来のPTP, C 院内感染菌

菌のPAP(6)

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構造解析の威力を感じた.

一番重要な成果は,プロリンのみならずアラニンへも特異 性を示す機構を明らかにしたことである(図

4

.PAPにつ いて阻害剤Pro-2- -butyl-(1,3,4)-oxadiazole (Pro-TBODA),  Ala-TBODA, Sar-TBODAを合成し,これら阻害剤との複合 体構造を解析して,基質のPro残基の5員環構造に沿うよう にAla, Sar残基も疎水性ポケットに結合することで明確に説 明できた.この機構は POP, PTP, DPP4 に共通である.

アミノペプチダーゼ N (APN) は非常に広い特異性で広く 生物すべてに分布する.アミノ末端から切っていくが,

X-Pro結合は切れないのでプロリンの一つ手前で止まる.邪 魔なプロリンを取り除きAPNが働くために,上述の種々の プロリン特異性ペプチダーゼが必要となる.少なくとも4つ のグループでの競争となったが,われわれは最初にAPNの 構造解析に成功しユニークな触媒機構を解明した(6)

  プロリン特異性酵素研究の意外な展開

生体のプロリン特異性ペプチダーゼは病気と活性の関係を 研究した報告があるが,生理的役割が不明な点が多い.意外 な展開として,DPP4阻害剤が2型糖尿病治療薬として開発 された.マルチンルッター大学Demuth教授はDPP4に特異 的な阻害剤を開発し,経口投与で2型糖尿病に効くことを見 いだした(7).同教授とは1981年東ドイツで開催の学会で 会って以来30年間共同研究などで交流してきた.インクレ チンのAla-X結合をDPP4が切ることがキーポイントであ る.われわれが三十数年前に放射標識したペンタアラニンを 用いた実験や,酵素の立体構造の解析からアラニンがプロリ ンと同じ疎水ポケットに入る機構を明らかにしたことで少し 貢献できた.近年,新薬の開発はますます困難になってい る.これまで治療薬のなかった2型糖尿病の薬としてグリプ チン

*

がこのような形で生まれ世界的な大型ヒット商品とな

るとは,プロリン特異性酵素を研究してきた私にとって想像 もできなかった.今後,ほかのプロリン特異性酵素の研究に ついても新しい発想で医薬品の開発が進むことを期待した い.

  おわりに

プロリンという5員環の特殊なアミノ酸に興味をもって研 究してきた.今回記述しなかったが,腎機能検査のクレアチ ニン測定キットの開発にクレアチニナーゼを研究したり,ペ プチドのN末端ピログルタミン酸の除去にピログルタミル ペプチダーゼを研究したが,それらの結晶構造解析にも成功 している.それぞれの基質であるクレアチニンやピログルタ ミン酸は5員環構造で,よほど五角形に縁がある.そう言え ばこの頃,鏡で見る顔つきが五角形に似てきたような気が し,上の辺が真っ白となっている.これらは長崎大学名誉教 授の鶴 大典先生の指導によりともに行ってきた成果であり 心より御礼申し上げます.また若い頃奨励賞をいただいたの が励みとなり今に至った.改めて農芸化学会に感謝いたしま す.

文献

  1)  R.  Walter,  W.  H.  Simmons  &  T.  Yoshimoto : , 30, 111 (1980).

  2)  A.  J.  Kenny,  A.  G.  Booth,  E.  J.  Wood  &  A.  R. 

Young : , 4, 347 (1976).

  3)  T. Yoshimoto, M. Fischl, R. C. Orlowski & R. Walter : , 253, 3708 (1978).

  4)  芳本 忠:農化,58, 1147 (1984).

  5)  芳本 忠:薬誌,127, 1035 (2007).

  6)  伊藤 潔,中嶋義隆,田中信忠,芳本 忠:生化学,81,  5 (2009).

  7)  R. A. Pederson, H. A. White, D. Schlenzig, R. P. Pauly, C. 

H. McIntosh & H. U. Demuth : , 47, 1253 (1998).

図4PAPの疎水ポケットにプロリン のみならずアラニンやサルコシンが入 る

*商品名は,ジャヌビア(萬有製薬),グラクティブ(小野薬品), エクア(ノバルティスファーマ),ネッシーナ(武田薬品)ほか

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