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「未完の脱植民地化」としてみるハイチ地震の被害拡大

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1. ハイチ共和国  −遠くて遠い国?−

   2010 年1月12日 16 時53 分(日本時間 13 日 6 時 53 分),ハイチ共和国( 以下,ハイチ)

の首都・ポルトープランスの西南西約 15km , 深さ 13km を震源とするマグニチュード 7.0 の地震が発生した。日本の多くの人々が「ハ イチってどこだっけ ? 」と思ったのではない だろうか。

 かつて日本地理学会が大学生を対象として,

10か国の位置認知度に関する アンケート調査 を行ったが,認知度の低かった下位2か国は イラク 56. 5%,ウクライナ 5 4.8% だった。

ハイチがその調査の中に含まれていたら,そ の結果はどうだっただろうか…? 日本のあ るハイチ研究者によると ,大学生のハイチに 関する知識はほぼゼロに等しいという。筆者 自身の話ではないが,ある高校の先生が 「 地 震があったハイチって知っているか?」と生 徒に質問したところ,「 あぁ,南太平洋です よね ! 僕 行ったことありますよ !!」という自 信満々の答えが返ってきたとか。それは「ハ

イチじゃなくてタヒチだろ? 」。まるでネタ のようだが , いかにもありそうな話である。

おそらく,ハイチは日本の多くの人にとって 馴染みの薄い国,「遠くて遠い国」に違いない。

 さて,ハイチとはもちろんカリブ海に位置 し,イスパニョーラ島の西半分ほどを占める 国である。高校地理の中に出てくるハイチと いえば,かつてのフランス植民地で公用 語は フランス語,世界初の黒人共和国,最貧国の 一つといったところだろうか。ちなみに,教 育出版の高校教科書『新地理B  世界をみつ める』ではハイチという文字は4か所あり , 本文中の記 述としては,フランス植民地の遺 産としての公用語=フランス語を記した1か 所である。 すべて確認したわけではないが , 他社教科書も同じようなものだろうと思う。

2. 「最悪の条件」が揃った災害

 話題をハイチ地震に戻そう。ハイチが位置 する地域は北アメリカプレートとカリブプレー トの境界にあたり 地震活動 が 活発な地域と いえるが,ここ数十年は被害の出る地震はな

↑世界で被害の大きかった主な地震の年表

(2000 年以降で死傷者が 1,000 人以上 )〔理科年表ほか〕

発生年月日 規模

(マグニチュード) 震源地域・被害状況・(死傷者行方不明者数)

2001/1/26 8. インド西部。インド・パキスタンで被害。(2万人以上)

2003/12/26 6. イラン南東部・古都バムで被害が甚大。(4万3,200人以上)

2004/12/26 8. インドネシア北西部・スマトラ島北部。津波による被害が甚大。(28万3,100人以上)

2005/3/28 8. インドネシア北西部・スマトラ島北部。津波による被害。(1,303人以上)

2005/10/8 7.7 パキスタン北部・カシミール。(8万6,000人以上)

2006/5/26 6.2 インドネシア南部・ジャワ島中南部。(5,749人以上)

2008/5/12 8.1 中国四川省。「汶川地震」などと呼ばれる。( 69,227人以上)

2010/1/13 7.0 ハイチ南部。建物の倒壊などによる被害が甚大。(53万4,367人[内訳:死者22万 2,570人,負傷者31万928人,行方不明者869人;2010/3/17の復興支援会 合での国連報告による数値])

2010/2/27 8. チリ中部。家屋の倒壊や津波による被害(津波は日本にも来襲)。死者数は不明

(数値が修正されるなど一定していない)。

2010/4/14 6. 中国青海省。家屋の倒壊などによる被害。(1万人以上?)

 

授業に役立つ新しい話題 2010 ④ 

「未完の脱植民地化」としてみるハイチ地震の被害拡大  

         神奈川大学附属中学・高等学校教諭  岩 佐 賢 史いわ         さ        けん        じ

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かった。今回の地震は, プレートの沈み込み 帯とは別の断層で起きたものであり, 震源の 浅い地殻内(いわゆる直下型)地震であったた め, 被害も大きかった。 死者は23万人以上 といわれており,20世紀以降最大の被 害者を 出 し た 1 9 7 6 年 の 中 国・唐 山 地 震( マ グ ニ チュード7.8の直下型地震)の死者25万人に 匹敵する。新聞記事等によると,地震による負 傷者は31万人以上,被 災者はハイチの総人口 の約3分の1にあたる3 0 0万人に 及ぶとい う。ポルトープランス(都市圏人口197.7万 人:2003年)では大統領府や国会議事堂が倒 壊,道路・通信のインフラも壊滅的な打撃を受 け,ハイチ公共事業相は瓦礫の撤去に2〜3 年,首都再建に要する年月は「想像もつかな い」と語った。まさに首都壊滅である。

 しかし, 地震以前からハイチは国家として 破綻していた。 災害の規模や内容は, 単に自 然現象に起因するのではなく, そこには社会 経済的な背景があることはよく知られている。

ハイチ地震についても, 政情不安や経済の低 迷が被害を拡大させたとする指摘はすでにな されている(例えば, 佐藤文則「ハイチ地震  被害拡大の背景」『世界』2010年3月号)。 国連 平和維持活動部隊の国連ハイチ安定化ミッ ションのミュレ代表代行はこの地震を「知りう る限りで史上最悪の条件が揃った災害」と述 べた。 多くの高校地理の先生方もこのニュー スに触れた際に, この災害の社会経済的背景 を思い描いたのではないだろうか。 あるいは そのような社会経済的背景を形成したハイチ の歴史に思いを馳せた方もいることだろう。

以下では, ハイチの社会経済状況と被害拡大 の関連について考えてみたい。

3.国土の荒廃,スラムの拡大

 フランス植民地下でのハイチでは1791年 に黒人奴隷が一斉蜂起を起こし, 1804年に世 界初の黒人共和国として独立を果たした。 こ れはいわばハイチの「栄光の歴史」である。

 しかし現在のハイチは最貧国の一つという

↑2010 年 1 月 13 日発生のハイチ大地震の概要と,フランス海外県との一人当たり GNI の比較

   

    520   

    7,900   

    14,400   

    8,300   

一人当たりの GNI(ドル)[コインは1枚=1000 ドル,ハイチは 2007 年,その他は 2003 年数値]

国・地域名,フランスとの関係 ハイチ共和国 仏から独立

仏・海外県

仏・海外県 仏・海外県 グアドループ(仏)

マルチニーク(仏)

ギアナ(仏)

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北アメリカプレート

カリブプレート 震源地

ハイチ共和国

ドミニカ共和国 プレート境界

ポルトープランス

(出典:東京大学地震研究所ほか)

0 100km グアドループ(仏)

マルチニーク(仏)

ギアナ(仏)

エンリキロ断層

( 数値出典は , 世界銀行資料)

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状況にある。 ハイチの社会経済状況を示すい くつかの指標をあげてみよう。 一人当たりのG NI(2007年)は520ドル, 貿易額(2007年)は 輸出額が5.2億ドル, 輸入額が17億ドル, 平 均寿命(2007年)61.0歳, 乳児死亡率(2007年) 57.0‰, 識字率(2007年)62.1%… 。  経済の 停滞が生命や教育といった面にも悪影響を及 ぼす「負の連鎖」を容易に想像することができ る。

 ハイチでは農業が労働力人口の約70 %を 占める基幹産業である。 確かに近年では軽工 業品(鞄や野球のボールなど)の生産と輸出が 見られるが,貿易収支は大幅な赤字であり, 

産業構造の脆弱さは明らかである。 輸出向け の作物であるサトウキビやコーヒー豆は植民 地時代に導入されたものである。 植民地支配 を通じて, ハイチは当時の国際分業において ヨーロッパ向けの商品作物を生産する地域と なり, プランテーションのもと土地や人々が 収奪されていった。 独立後プランテーション は解体されたが, 生産性が低い土地所有制の もと, 植民地時代に形成されたモノカル チャー経済が現在まで残存している。 モノカ ルチャー経済はハイチ経済の停滞をもたらす 大きな要因である。 また, 農業生産性の低さ は農村での生活を困難にし, 都市への人口移 動を促す。

 農村から都市への人口移動の背景には土地 の荒廃もある。 植民地時代, もともと山がち な土地にプランテーションが拡大されたが,

その結果, 森林面積は激減した。 また, 第二 次世界大戦時にはアメリカ合衆国の企業が軍 事上で必要であったサイザル麻の栽培面積を 拡大させたことも土地の荒廃を進めた。 さら に, 農村のエネルギー源として, あるいは都 市でも社会基盤が整備されていないことに よって薪が商品となるため森林が濫伐され, 

土地の荒廃が加速した。 現在, ハイチの森林 率はわずか2%である。 今 回の地 震の前に

も2008年にハリケーンによって80万人が被 災したが, その背景にも以上のような国土の 荒廃がある。

 このような状況では農地は侵食を受け, 農 業の生産性はますます低下する。 農村での生 産と生活の困難さは, 農村人口を都市へ押し 出す要因となる。 ポルトープランスでは貧し い農村出身者が傾斜地にも過密状態で暮らし ており, その数はポルトープランスの人口の 3分の2に及ぶという。 そのような立地条件 にあるスラム, あるいはそこで生活する人々 のもとに今回のような地震が起きればどうな るか。 都市人口の多くを占める貧困層の「最悪 の居住環境」が被害を拡大させたことは間違 いない。

4.政情不安をもたらす歴史的背景とは  ハイチでは経済の停滞や国土の荒廃に加え て, 地震の前からずっと政情不安の中で政府 が機能不全に陥っていた。 経済の停滞と政府 の機能不全は, 交通,通信, 衛生施設などのイ ンフラの未整備を招いていた。 今回の地震で は政府は機能せず, 国連機関や援助活動を 行っていたNGOも被災した。インフラの脆 弱性とともに, それらの機関が救援活動に迅 速に対応できなかったことも, 被害の拡大を 招いた要因の一つである。

 それにしても, ハイチの政情不安はどこか らくるものなのだろうか。 独立してから現在 に至るまで, ハイチではクーデターと独裁政 権の争いが繰り返されてきた。 その根底に は, 人種(肌の色の濃淡)的関係に規定された 社会 ・ 政治 ・ 経済的関係がある。 植民地時代 に 「有色自由人」 とされたムラート (黒人と 白人の混血)と黒人奴隷の区分が, 「旧自由 人」と「新自由人」の呼び名で独立後も温存さ れた。ハイチ社会で支配層を形成しているの は人口の5%にすぎないムラートであり, 社 会の下 層を形成しているのは人口的にはマ ジョリティーの黒人である。 両者の間には経

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済格差もあり, 対立関係として捉えることがで きる。  ハイチの政情不安の背景にはこのよう な国民統合の欠如がある。

 今日のハイチの経済停滞や政情不安に関連 して指摘しなければならないのは, ハイチが 独立の承認の見返りとして旧宗主国フランス に支払った賠償金についてである。 「独立をす るのに賠償金を支払う」など後にも先にも聞い たことのない話だが, ヨーロッパ諸国はもちろ ん, アメリカ合衆国やラテンアメリカ独立の指 導者たちも, 黒人によるハイチ革命の波及を恐 れたのである。 この賠償金は当初1億5,000万 フラン, 後に6,000万フランに減額されるが, 

いずれにせよハイチの支払い能力をはるかに 超えるものだった。 ハイチが完済したのは賠 償金の条件を受け入れた1825年から約60年後 の1883年だった。 賠償金支払いのためにハイ チ政府は農民を土地に縛り付け, それにより農 業 生産を上げようとした。 「 土地に縛り付け た 」 といっても多くの農民は土地を所有せ ず, 土 地所有者はムラートだった。 このよう な階層の固定化は, 現在のムラートと黒人の対 立, 独裁政権の誕生へとつながっていった。 そ して, 賠償金はハイチの経済 ・ 財 政 に重くの

しかかったのはもちろん, 「 貧しい農民 」 を作 り出していった。

5.まとめ −未完の脱植民地化−

 今回の地震の被害を拡大させたハイチが抱え るさまざまな問題の淵源はどこにあるのか。 経 済の停滞も土地の荒廃も政情不安もそれぞれ が相互に関連しながら進んでいるが, その根本 的な要因は何かと辿っていくと植民地支配に 行き着く。 「 ポストコロニアル 」 という用語が あるが, そこには独立後も植民地支配の影響が 依然として残存している, 脱植民地化は未完の ままであるという基本認識がある。 今回の地震 の被害拡大は, ハイチのポストコロニアルな状 況が大きく関わっている。

 今後も続く復 興支援はポストコロニアルな 状況をさらに強めていくのか。 あるいは, 復興 が国家再建への道のりへとつながり, それがポ ストコロニアルな状況の解消を指向するもの になっていくのか。 災害は時間が経つと人々の 意識から薄れていってしまう。 「 遠くて遠い 国 」 であるハイチではなおさらである。 ハイチ 地震を通じて, 現代世界の成り立ちについて考 える, そんな授業があるといいかなと考えて いる 。

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