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次世代施設園芸について - J-Stage

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Academic year: 2023

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920 化学と生物 Vol. 54, No. 12, 2016

はじめに

野菜や果樹,花きといった園芸作物はわが国の農業産出 額の約4割を占め,わが国農業の重要な柱となっています.

また,新規就農者の7割以上が取り組みたいと選ぶ魅力ある 分野でもあります.一方で,園芸作物は貯蔵性が低く,1年 を通じて安定した供給を行うには,計画的な生産が可能な施 設園芸が不可欠です.現在,わが国では,簡易なビニールハ ウスから鉄骨ハウス,高度に環境が整備された植物工場まで 幅広く,全国に約46,000ヘクタールの施設が展開されていま す(図1

期待される施設園芸ですが,課題もあります.冬に加温 が必要な品目も多く,経営コスト削減や地球温暖化対策の面 から化石燃料依存からの脱却が必要です.高品質な作物生産 を実現している農家の方が培ってきた「匠の技」を新たに農 業を始める若い世代がスムーズに習得し,順調に経営を続け られるようなしくみづくりも必要です.46,000ヘクタールの うち温度や湿度,光などの複数の環境を制御できる装置を備 えた温室は700ヘクタール程度であることから,今後とも天 候に左右されずに野菜などの安定供給を確保するためには,

環境制御装置を導入した温室の割合を高め,生産性を向上さ

せることも重要です.

事業創設までの経緯

1. オランダの施設園芸

オランダは,九州と同じくらいの国土面積で,農地も日 本の半分以下しかありませんが,約1万ヘクタールの施設面 積で世界第2位の輸出額を誇る農産物輸出大国となっていま す.オランダの施設園芸は,産学官が連携して形成されたク ラスターが中心となって機械化,ICTの活用などの先端技術 の現場への応用が積極的に行われた結果,トマトの収量は 10アール当たり60トン以上(わが国は平均11トン)となっ ています.

平成25年5月,当時の林 芳正農林水産大臣はオランダ に行き,園芸生産者,研究機関,関連企業などが連携して施 設園芸のクラスターを形成している「グリーンポート」と呼 ばれる施設を視察しました.ウエストランド市のパプリカ農 場においては,約4ヘクタールの広さをもつ温室で,ICT技 術,生産施設に併設された出荷施設,ロッテルダムから購入 した二酸化炭素を光合成促進に利用する技術など生産性の高 い農業が展開されている様子を,また,ワーヘニンゲン大学

次世代施設園芸について

綱澤幹夫

農林水産省生産局園芸作物課花き産業・施設園芸振興室長 refer- ence

Reference Link

図1わが国の温室の設置面積 農政新時代を切り拓く技術の現在と未来-6

日本農芸化学会 ● 化学 と 生物 

バイオサイエンススコープ

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化学と生物 Vol. 54, No. 12, 2016

においては最先端の研究や産学官の強力な連携もご関心を もってご覧になりました.パプリカ農場を視察した林大臣

(当時)は,「進歩した施設園芸の姿を目のあたりにすること ができた.オランダと日本では気象条件も違うので,そのま まオランダのものをもってくることはできないが,学ぶべき ところは大いにあった」と発言し,その後の国会において も,「次世代施設園芸の産地を全国的に展開していきたい」

と答弁し,オランダ農業も参考にした事業の本格的検討が開 始されました.

2. 産業界と農業界の連携

「オランダの技術は特別なものではなく,産学官の連携に 強みがある.日本の民間の技術力ももっと農業に活用するこ とが重要」と林大臣(当時)が指摘されたのを受け,施設園 芸分野における産業界と農業界の連携強化を図るとともに,

幅広い参加者から意見を聴取し,今後の政策へ反映させるべ く,平成25年10月には「次世代施設園芸セミナー」を開催 しました.本セミナーには,民間企業53団体をはじめ,総 勢180名の参加がありました.冒頭には林大臣(当時)とと もに,日本経済団体連合会の十倉農政問題共同委員長(住友 化学株式会社代表取締役)からもご挨拶をいだたきました.

これを皮切りに全国の8カ所でも「地域セミナー」を実施 し,延べ431団体844名の参加を得て,事業のあり方につい て幅広い意見交換を行いました.

3. 次世代施設園芸導入加速化支援事業

林大臣(当時)のオランダ視察やセミナーなどを通じた ご意見をもとに,平成25年度補正予算において「次世代施 設園芸導入加速化支援事業」を創設し,以降,平成28年当 初予算まで約120億円の予算を措置し,全国10地区で施設整 備が進められています.

本事業の趣旨は,「先進技術と強固な販売力を融合させ,

木質バイオマスなどの地域資源エネルギーを活用するととも に,生産から調製・出荷までの施設の大規模な集約化や,

ICTを活用した高度な環境制御を行うことにより,低コスト な周年・計画生産を実現し,所得向上と地域の雇用を創出す ることを目的とする」としています.オランダ農業も参考に した大型施設園芸の導入に際しては,いくつかの点で,従来 の補助事業にはない考え方が盛り込まれ,また,その整備に 際しては,わが国の条件に合わせる形でオランダ施設園芸の アレンジがなされました.以下,その特徴的な部分を説明し ます.

3.1 コンソーシアム(協議会)が事業実施主体

これまでの施設園芸の導入支援に係る補助事業は,農業 生産の強化の観点から,事業実施主体については農業生産法 人や農業協同組合など生産者や生産者団体を対象にしてきま した.本事業ではオランダの施設園芸クラスターに倣い,産 業界と農業界の連携強化を図る観点から,民間企業,実需 者,生産者,都道府県などを必須構成員とするコンソーシア ムを事業実施主体としています.特に重要な点は,生産者と

実需者が一堂に会して契約栽培を推進することであり,これ は,高いレベルでの周年生産が周年の需要先と結びつくこと によって,経営収支の早期安定化につなげることを狙ったも のです.

また,コンソーシアムには,上記の必須構成員のほか,

研究機関や普及機関も参画することにより,研究機関のもつ 高度環境制御技術の円滑な導入や普及組織による経営,栽培 技術指導など技術的なバックアップが得られることも期待し ています.

3.2 地域資源エネルギーの活用

生産をエネルギーに依存する施設園芸農家にとって,地 政学的リスクの高い化石燃料依存からの脱却は極めて重要で す.オランダでは,北海由来の天然ガスを燃やして発電や熱 利用などを行っていますが,本事業では,これに代わり,わ が国に豊富に存在する資源である木質バイオマスなど地域資 源活用したエネルギーを施設園芸に活用することといたしま した.

本事業が始まるまでは,木質バイオマスボイラーの施設 園芸への導入事例は,一部の県を除き少数にとどまっていま したが,林野庁では近年,木質バイオマスの利用促進を図っ ており,中山間地域の振興や農業と林業の連携の観点から も,今後進展が期待されるところです.

本事業では木質バイオマスを含む地域資源の確保が最も 重要なことから,都道府県がその安定供給の責任を担うこと といたしました.

ちなみに,事業の政策目標事業要件として事業実施地区 においては周辺地域に比べて化石燃料使用量を5年間で3割 削減することとしています.

3.3 施設の集約化と高度化

現在の施設園芸産地は,個々の農家が生産物を集出荷施 設に搬入し,そこで選別,梱包,出荷する形態が多くなって いますが,搬入などの流通コストの低減を図るためには,

「生産場所=出荷場所」となることが理想です.

オランダのように,大規模な施設で生産から調製,出荷 までを一気に行うことができれば,大幅なコスト低減が可能 となることから,本事業では中核となる施設,すなわち地域 資源エネルギー供給施設,完全人工光型植物工場を活用した 種苗供給センター,高度な環境制御を行う温室,出荷施設の 4施設を1カ所に集約して整備することを必須としています.

温室は,大規模化のメリットが享受できるよう,おおむ ね3ヘクタール以上の大きさとしているほか,ICTを駆使し た高度な環境制御装置を導入することとしています.これに より計画的な周年栽培が可能となり,実需者との結びつきが より強固なものになると考えています.

なお,本事業は,大規模な面積の土地や地域資源エネル ギーの確保が条件となっているため,地域において適地を得 るのが容易でないと考えられたことから,事業実施地区の地 目は農振農用地に限らず,工業用地などでも整備可能とした ところです.

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3.4 オランダ施設園芸のアレンジ

次世代施設園芸の整備に際しては,先に述べた地域資源 エネルギーの利用として天然ガスの代わりに木質バイオマス などの地域資源を活用する点以外に,以下の2点でオランダ の大規模施設園芸のアレンジを行いました.

ア 台風などへの耐久性

緯度の高いオランダでは,日射量を確保するため,ハウ スの柱は細くなっています.一方,わが国においては,日 射量も重要ですが,むしろ台風や降雪といった気象条件に 備えることが重要となっています.このため,次世代施設 園芸の整備に際しては,ハウスの柱を太くすることで台風 被害などへの耐久性を高めています.

イ 品質の追求

オランダのトマト生産においては,品種を絞ったうえ で,収穫量の向上を追求することが第一の目標となってい ます.わが国においては,収穫量を求めながらも食味,品 質も追求していくこととしています.

事業採択地区の概要

本事業は,平成25年度補正予算において設立され,平成 26年2月には,北海道,静岡県,富山県,兵庫県,高知県,

宮崎県の6地区が採択され,その後,平成26年4月には宮城 県,埼玉県,大分県の3地区が,27年4月には愛知県が採択 され,計10地区で実施しています.各地区の概要は図2のと おりですが,いくつかの特徴について述べると,以下のとお りです.

① 品目はトマトが多くなっています.これはトマトの需要と 単価が安定していることや,環境制御による生産性の高い 栽培技術が確立していることによります.

② 地域資源エネルギーは木質バイオマスのほか,廃棄物由来 燃料や温泉熱などの固有の資源を活用しているところもあ ります.

③ 地域の特色を活かし,たとえば,北海道拠点では冷涼な気 候を利用したいちごの周年生産が行われており,富山県拠 点では水田単作農業からの脱却を目指したトマトや花き

(トルコキキョウ,ラナンキュラス)の生産が行われてい ます.また,降雪への対応のため,富山県拠点ではあえて 連棟にせず単棟ハウスを整備しています.

④ 施設園芸のモデル拠点として人材育成の機能も有してお り,たとえば高知県拠点では隣接する担い手育成センター と,宮崎県拠点ではJAの担い手育成システムと連携して います.

各拠点の整備計画はおおむね2〜3年となっており,28年 9月30日現在,富山県拠点,宮崎県拠点,兵庫県拠点,高知 県拠点,静岡県拠点,大分県拠点の6拠点が竣工し,北海道 拠点では整備面積の半分の2ヘクタールについて生産が始 まっています.残る宮城県拠点,埼玉県拠点,愛知県拠点と 北海道拠点の残りの2ヘクタールについても施設整備が進ん でおり,28年度中には全10拠点が完成する見込みとなって います.

今後の方向性

本事業の創設に触発される形で,新たな施設園芸の取り 組みが各地で起こっています.たとえば,民間企業が中心と なって共同出資会社を設立し,ICTを活用した高度環境制御 による大規模施設園芸団地を建設し,生産法人に貸し出す仕 組みが計画されています.これは,本事業による運営と重な るものです.また,民間企業と農業生産法人が共同出資会社 を設立し,木質チップを燃料とするバイオマスボイラーを利 用した大規模施設園芸を実施している例もあります.

また,本事業で得られた知見,

①高度な環境制御技術を駆使した栽培技術の確立と普及

②地域資源エネルギーの活用のノウハウ

③実需者を巻き込んだコンソーシアムによる安定的な販路の 図2次世代施設園芸導入加速化支援事業 実施地区

日本農芸化学会 ● 化学 と 生物 

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化学と生物 Vol. 54, No. 12, 2016 確保

については,全国的に展開できる可能性があることから,拠 点で得られた知見を全国で横展開すべく「強い農業づくり交 付金」に次世代型の施設園芸整備を行う場合の「優先枠」を 設けているところです.

さらには,地域での経営の核となる人材の育成および高 度な栽培技術の普及については,施設園芸の担い手の高齢化 が進むなか,早急に取り組むべき課題であり,拠点を活用し た研修などを行うなどの取り組みを進めています.

おわりに

本事業は,施設園芸の先進地であるオランダに学ぶべき ところは学びながら,わが国の技術や資源を駆使し,わが国 の気象条件などに合わせてオランダの取り組みをアレンジし つつ,これまでになかった規模での施設を集積した事業であ り,「攻めの農林水産業」の旗艦というべきものです.

もとより施設園芸は露地栽培に比べて生産性が高いもの ですが,その改良・普及は農家個々の努力に委ねられてきた 面が強くありました.研究者をはじめとする多くの関係者に より,生産現場で起きている事象の丹念な観察が行われると ともに,センサー技術やビッグデータの利用など農業以外を 含むさまざまな分野の研究の蓄積と融合の取り組みがなされ たことで,農家の「匠の技」の一部を数値化し,複合環境制 御技術に置き換えることなどが可能となりつつあります.次 世代施設園芸は,これらの成果を利用することでこれまでの 施設園芸の生産性をさらに一段高めたものです.

先日,ある会議でオランダの花き生産者からトルコキ キョウの年6回収穫に挑戦している話を聞く機会がありまし た.普通は年1回のものを6回作るのですから,どのような 特別な技術が使われているのかと思って聞いてみると,施設 内の環境制御を前提として,機械による苗の自動定植と一斉 収穫,スチームによる土壌消毒を繰り返すことにより,定植 から次の定植まで9週間のサイクルを実現することで可能と

しているとのことでした.もちろんこうやって作られたトル コキキョウはわが国の「仕立て栽培」で生産されたものとは 品質面で大きな違いがあり,栽培方法の優劣を云々するもの ではありませんが,施設内の環境を自在にコントロールでき る手段を有することが,従来にない発想を生み出しているこ とも確かです.そして,これらの技術を構成する各要素は,

決して天才による飛躍的発想に基づくものではなく,むし ろ,従来の技術を応用したり,少しだけ改良したりといった 積み重ねであり,この積み重ねが気がつくと大きな違いを生 み出しているように思います.

農林水産省では,次世代施設園芸の各拠点の運営をいち 早く軌道に乗せ,全国のモデルとして,得られた成果をほか の地域へと普及させることにより,施設園芸団地の構造改革 と地域農業の発展につなげることとしております.この分野 に多くの若い才能が参入することを心より望む次第です.

さらに詳しい情報をお知りになりたい方は,以下の情報 をご覧ください.

・ 農林水産省のHP: http://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/

engei/NextGenerationHorticulture/index.html

・ 日 本 施 設 園 芸 協 会 のHP: http://www.jgha.com/jisedai/

h27/pl/h28jisedai2.pdf

プロフィール

綱澤 幹夫(Mikio TSUNASAWA)

<略歴>1987年東京大学農学部農業生物学科卒業/1989年同大学 大学院農学系研究科農業生物学専攻修士課程修了/同年農林水産 省入省,現在に至る<研究テーマと抱負>まずは次世代施設園芸 拠点10カ所をしっかりと軌道に乗せていくことが,わが国施設園 芸農業を次の展開につなげていくうえで重要と考えており,その ための役割を果たしていきたい.花きの生産,流通,販売の関係 者と一緒に,国産花きのシェアの回復と,輸出を含めた需要の増 大に取り組み,わが国の花き産業と花きの文化を振興していきた い

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.920

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