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経営学領域における依存・パワー関係の 広がりと精緻化

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【 論 文 】

経営学領域における依存・パワー関係の  広がりと精緻化

──

Emerson

(1962)と

Pfeffer and Salancik

(1978),そして,その後の実証研究──

野口 寛樹・中本 龍市

1. 研究の目的と問い

本研究の目的は,Emerson(1962)と

Pfeffer and Salancik(1978)の対比を行い,さらに近年の

精緻化された研究をレビューすることである。古典的な資源依存理論に着目する理由は,近年,こ の理論的枠組みに関心が再び高まっているためである(小橋,2018 ; 山倉,2013)。

資源依存理論はより広義の組織間関係論の中に位置づけられる。組織間関係論は,組織を取りま く環境との関係で組織を解明する論理であり,特に組織と組織との関係を扱う事を主眼に形成され 発展してきた。現在でも資源依存理論は組織間関係を説明する強力なツールである(Davis and

Cobb, 2010)。なぜならば,第一に,組織存続の視点において資源依存という概念を用い,組織間

関係の形成,維持について説明しているためである。そしてそれは組織間関係がなんであるのかに 加え,分析枠組みも示している。第二に,組織間関係に関わる問題,また組織内部に注目するだけ ではなく,社会を組織間システム,あるいは組織間ネットワークと捉えることにより,社会理論の 構築を目的とするため,広範囲な問題を説明できるからである。そして,多くの論者に使用される ことにより,その地位は確立されてきた(山倉,1993)。

資源依存理論では,依存とパワーが鍵概念となっている。経営学領域における依存・パワー論で は,Emerson(1962)が転換点であり,Pfeffer and Salancik(1978)では,直接引用していないも のの,その影響を受けているとされる(山倉,2013)。

資源依存理論は,依存とパワーの議論から派生した関連概念である不確実性に対処するため,組 織が様々な行動を取ることを想定している1)。より具体的にいえば,不確実性に対処するとは,不 確実性そのものを消滅させる,あるいは,低減させるといった行動である。ただ,不確実性に対す る対処行動は,多岐にわたる企業行動を想定することになってしまい,分析すべき対象は一気に広 がる。これが資源依存理論の特徴であるが,それらをすべて扱うのは難しい。そこで本研究では,

以下のように稿をすすめる。まず第二節では

Emerson(1962)の依存・パワーに関する議論,つ

まり,資源依存理論の当初の議論を確認し,Pfeffer and Salancik(1978)の依存・パワーの議論と 比較する。続く第三節では,資源依存理論研究での依存という概念の精緻化と実証研究の成果を確

1) Hillman et al.(2009)は広範なレビューを行い,資源依存理論の研究対象を次のような5つの領域に整理し

ている。(1)合併と垂直統合,(2) JVとその他の組織間関係,(3)役員の兼任,(4)政治行動,(5)経営者 の継承である。

(2)

認する。最後に,本研究の整理,まとめを行う。

2.

 依存とパワー

この節では,依存とパワーという鍵概念が,Emerson(1962)と

Pfeffer and Salancik(1978)の

研究でどう扱われていたのかを確認する。

Emerson(1962)と Pfeffer and Salancik(1978)の共通点は,第一に主体間の依存がパワーを生

むという視点と,第二に依存関係として(その克服は目指されているものの)二者関係が想定され る点である。一方で相違点は,(1)依存の規定要因,(2)対処行動,(3)周辺の関連概念,の

3

点 である。これらを以下に詳しく確認する。

2

-

1. Emerson(1962)の依存とパワーの論理

Emerson(1962)は,パワーが社会関係によって規定されるとした。依存とパワーを鍵概念とす

る資源依存理論でも,Emerson(1962)は,たびたび引用されている。山倉(2013)も,資源依存 理論に影響を与えた研究の一つとして,Emerson(1962)を挙げている。

Emerson(1962)の依存の規定要因は,二者関係における(1)動機的投資,(2)代替的選択肢

2

点である。この依存の二要因によって,パワーが規定される。

対処行動は規定要因に対応している。つまり,自らの(1)動機的投資を下げるか,(2)代替的 選択肢を増やす,あるいは,相手の(1)動機的投資を上げるか,(2)代替的選択肢を封じること になる。Emerson(1962)は,さらにこれらに対応した

4

つの方略を示している2)

第一に,撤退(Withdrawal)である。二者関係において,一方が動機的投資を下げるという方略 である。第二以降のバランス化の方略は,二者関係を第三者も含めた広いネットワークに広げてい く。もともとの定義で,依存は,代替的選択肢に影響を受けるとされていることから,方略を第三 者へと広げていくのは自然な展開であるといえよう3)

第二に,パワーネットワークの拡張(Extension of Power Network)である。二者関係に第三者 を加えることにより,依存性を外側に広げる。これはパワー優位者の力をそぐ方法である。

第三に,地位の出現(Emergence of Status)である4)。第三者が加わることによって,順序が形成 される。これは地位の向上を図るタイプのバランス化操作である。パワー優位者に対しその関係性 の価値を引き上げることで,パワー劣位者のパワーを上げるタイプの操作方法となる。この地位の どれが一番意味あるものか(その地位の階層化)はグループ内の関係性を考える必要がある。ここ では,グループに対して一番依存度が少ないメンバー達が一番価値を持っていることになり,ここ

 2)例として子供の遊びや恋人との関係を用いて説明が試みられる。それは,元となる社会的交換理論が,社会 関係を人々の資源の交換関係の集合として捉え,ミクロレベルで確立された交換についての一般理論を用い て,よりマクロな社会構造まで分析の対象としようとするからである。社会的交換理論の大枠は,資源の交 換から社会が成り立つとし,また交換関係における権力の問題を重視する論理である(高橋・山岸,1993)。

 3)社会関係の二者関係から,三者関係への拡張は古典的な問いである。

 4) Emerson(1962)では,説明の都合上,三番目の方略を四番目の方略の後に記述している。

(3)

でいうバランス化操作は,パワー優位者に対し他パワー劣位のメンバーがなんらかの地位を与える,

という手段で行われる。それは,パワー劣位者達がパワー優位者になんらかの地位を与えることで 依存度を上げさせる,もしくは価値を下げさせて,依存度を減らす,という操作を意味する。

第四に,連合の形成(Coalition for Formation)である。第三者と協力関係を結ぶことで,その他 の他者と対抗しようという方略である。ここではパワー優位者に対し,パワー劣位者が連合を組む ことが想定される。連合は,パワー劣位者の力の増強を意味する。その連合を安定させるためには,

(1)役割の規定,(2)連合の規範が必要であり,それを運用するためには権威が重要となる。

2

-

2. Pfeffer and Salancik(1978)の依存とパワーの論理

Pfeffer and Salancik(1978)の依存の規定要因は,

(1)資源の重要性,(2)資源の自由裁量の程度,

(3)代替的選択肢である。従って,これらの三要因によってパワーが規定される5)

ここで,Emerson(1962)と比較して,もう少し複雑な論理が加えられる。それは,外部環境に おける不確実性である。外部環境における不確実性とは,環境の構造特性を元にした他の組織との 相互依存性,そしてコンフリクトによって決まる(Pfeffer and Salancik, 1978)。この不確実性に対 処する目的で組織は変化したり,環境に適応したり,環境を変化させるような行動を取る。この不 確実性は,依存性そして表裏一体のパワーと関係するものであるため,実質的には,依存あるいは パワーへの対処行動と解釈できる。この対処行動として

Pfeffer and Salancik(1978)は 4

つの分類 をしている(小橋,2018)6)

第一に,追従である。つまり,相手のパワーに対して,何もしないということである。

第二に,自律化戦略である。合併,垂直統合,内製化,多角化などが含まれる。合併や垂直統合 や内製化は,組織の境界を変更することで依存を低減させる。多角化は,代替的選択肢を確保する ことで依存の程度を下げる7)

第三に,協調戦略である。役員兼任,JV,カルテル,アライアンスなどが含まれる。

第四に,政治戦略である。正当性の確保や重要資源への法的規制などが含まれる。

組織の対処行動は,規定要因に対応しているものの,Pfeffer and Salancik(1978)では,主体を 組織レベルと想定しているため,Emerson(1962)よりも具体的な組織行動を示している。そして

Pfeffer and Salancik(1978)自身は,産業間での取引金額で依存を測定し,実証分析を行っている。

その後,Finkelstein(1997)がさらに検証している8)

ただし,Emerson(1962)でも,Pfeffer and Salancik(1978)でも,これらの対象行動における 動態的変化を指摘するものの,実際の分析では取り上げられていない。しかし,一方が何らかの方

5) 資源の重要性は,代替的選択肢と独立しているとは言えない。例えば,代替的選択肢があるということは,

その資源の代替資源があるということを意味する。資源の重要性に希少性が含まれるとすれば,二つは相関 している。

6) Pfeffer and Salancik(1978)は他組織との相互依存関係,つまり不確実性を避けるため,もしくは,マネジメ

ントするため,第二の自律化戦略以降を,6,7,8章を用いて説明をしている。

7) 部分的内製化であれば,代替的選択肢を増やす意味である。

8) これに関連して,宋・趙(2015)は,依存の程度を測定するのに,取引量は適切な尺度とはいえないのでは ないかと指摘している。

(4)

略を実行すれば,相手からの反作用的な行動を誘発してしまう。ゆえに,資源依存理論に基づいた 研究は静態的であるという批判が行われることになる。

2

-

3.

 小括

: Emerson

1962

)と

Pfeffer and Salancik

1978

)の比較

以上のように,理論的には,二者関係における依存がパワーを規定するという視点を共有して いる。しかし,依存の規定要因,また対処行動には,共通する部分,違いがあった。整理すると次 のようになる(表

1)。

以下

2

点において,比較する中での特徴を指摘したい。第一に,依存の規定要因として,代替的 選択肢は共有されている。また

Emerson(1962)は二者関係における主体の動機を説明変数とし

て加えている。一方,Pfeffer and Salancik(1978)のいう資源の重要性にも主観性は含まれる。山 中(2012)も指摘するように,その組織成員が考える社会的現実9)によって決まるのであり,両者 ともに,主観の議論は避けて通れない。

ただし,とりわけ,Emerson(1962)の動機について,門口(1983)をまとめるに10),依存度は 観察可能な行動を規定する変数によって決まっているため,動機に関わる部分の説明は,必要とさ れない。そして,動機の順位付けを行うことは難しいために,依存に関わる動機と代替選択肢のう ち,観察の容易な代替選択肢に研究の焦点が移っていくことになる。つまり代替的選択肢の布置状 況,すなわち交換ネットワークが,主要な分析対象となるのである(高橋・山岸,1993)。

第二に,対処行動はかなり異なっている。これは,分析レベルが異なるためである。

Emerson

(1962)

は個人を想定しているが,資源依存理論では,組織レベルの行動を説明しようとする。よって,

Pfeffer and Salancik(1978)では,組織の取り得る行動が具体的に説明されているといえよう。

次節で確認するように,相対的に測定が困難である動機的投資や資源価値,自由裁量の程度といっ た指標の操作化は十分に進んでいない。

 9)これはWeickのイナクトメントの議論に基づく。

10) p 71の記述による。

1 Emerson(1962)とPfeffer and Salancik(1978)の比較

Emerson (1962) Pfeffer and Salancik (1978)

依存の規定要因 (1)動機的投資

(2)代替的選択肢

(1)資源の重要性

(2)資源の自由裁量の程度

(3)代替的選択肢 対処行動 バランス化操作を考えた4つの行動(個人

レベルを対象とした議論)

(1)撤退

(2)パワーネットワークの拡張

(3)地位の出現

(4)連合の形成

交換の非対称性に対応する4つの行動(組 織レベルを対象とした議論)

(1)追従

(2)自律化戦略

(3)協調戦略

(4)政治戦略

関連概念 不確実性

  筆者作成。 

(5)

3. 近年の精緻化

資源依存理論は,実証研究を行う上でいくつかの困難を抱えている(Pfeffer and Salancik, 2003 ;  宋・趙,2015)。既存研究では,依存の程度の測定は,産業間あるいは組織間の取引量で定義され てきた。経営学研究における近年の資源依存理論の精緻化は,経営学領域の研究のみならず,依存 を定義した

Emerson(1962)に立ち返って,依存の定義そのものを捉え直している点が注目に値

する。以下では,概念の精緻化や依存の程度の測定方法で貢献した研究を整理する。

3

-

1. Casciaro and Piskorski

2005

:

共同依存とパワー格差

Casciaro and Piskorski

(2005)は,依存には二つの要素があることを指摘した。それは,共同依

存(mutual dependence)とパワー格差(power imbalance)である。Emerson(1962)ではパワー格 差が取り上げられているのみで,共同依存の場合を十分に捉えきれていないとする11)。Casciaro and

Piskorski(2005)は,Emerson(1962)の理論に依拠して,二者関係におけるパワー関係を正確に

捉えるためには,主体

i

が主体

j

との関係で保有するパワーと,主体

j

が主体

i

との関係で保有する パワーを同時に考慮する必要があるとしている。その結果,依存を共同依存とパワー格差の二つに 分けて測定した。

そこでは図

1

に示すような説明図式が提示される。Casciaro and Piskorski(2005)の説明図式では,

依存とパワーに対する組織的な対処として指摘がなされるが,Emerson(1962)の議論をより精緻 化するという説明がなされる。そのため,山倉(1993)が指摘するように,組織を超個人的実体12)

として扱っていると考えられる。ただし実証研究に当たり,Casciaro and Piskorski (2005)は,産 業間レベルでの依存を測定している13)

11)ただし,Emerson(1962)は,一般的な社会関係における共同依存(mutual dependence)に言及はしている。

12)それは,資源依存理論は組織内部の参加者間の利害対立と調整を重視してこなかった,という批判につなが る(山倉,1993)。

13)この点について,Casciaro and Piskorski (2005)は,脚注で,もともと,資源依存理論では産業レベルでの依 1 Casciaro and Piskorski (2005)の説明図式

    Casciaro and Piskorski (2005) p. 171より訳出して作成。

(6)

灰色がかっているボックスがパワー格差のない状態を表し,対角線上に対称となっている。対角 線から左上が

A,右下が B

からみたパワー格差である。表中の右上の(9)は,左下の(1)より 共同依存が高い。(1)のセルは,互いの影響力が弱い,もしくは,依存をしていない(必要な資源 を保有していない,代替選択肢を持っている)という状況であろう。(9)はその逆である。またパ ワー格差と共同依存は同時に存在し,共同依存はパワー格差を制限しないということが重要である。

彼らは,2者間におけるパワー格差が大きい場合,合併行動はおこらず,強い共同依存があるほ どに,合併行動が起こるという検証結果を示した。パワー格差が大きい場合には,パワー優位者,

劣位者ともに合併行動を実際に起こすメリットがない。一方で,共同依存が大きい場合,代替選択 肢がお互いになくなり,またバランスしている以上,二者関係はより強固となる。そのため,共同 依存自体が不確実性をもたらすこととなる。お互いの必要な資源の安定的な交換のための戦術,具 体的には

JV

やそれこそ合併等が必要となるのである14)

3

-

2. Gulati and Sytch(2007) :

共同依存と非対称依存

Gulati and Sytch(2007)では,Casciaro and Piskorski

(2005)の理論的枠組みを引き継いでいる。

Casciaro and Piskorski

(2005)が今後の研究として指摘をしていた,埋め込みの概念を使い,共同

依存,またその作用機序について精緻化をしている。

その定義もわかりやすくまとめられている。つまり,共同依存(joint dependence)は主体間の 関係における依存度の合計であり,非対称性依存(dependence asymmetry)は二者間の交換関係に おけるそれぞれの依存度の差と定義している。二者関係(ダイアド関係)の非対称性依存の議論で は量としての差に注目がなされ,過去のパワーの論理を受け継いでいる。その一方で,共同依存の 議論では,量としての和に注目がなされ,どのような協力関係にあるのか,つまりその価値を高め るような質の議論に注目がなされる。

Gulati and Sytch(2007)は(1)パワー格差のもたらす作用機序と,(2)共同依存のもたらす作

用機序を指摘した(図

2)。前者は,バランス化操作であり,後者は,埋め込み(embeddedness)

である。ここでポイントとなるのは,

Casciaro and Piskorski

(2005)において,不確実性の源泉となっ た共同依存は,Gulati and Sytch(2007)では機会の源泉として捉えられている。つまり,彼らは,

伝統的な資源依存理論が想定する組織存続ではなく,共同依存が成果に与える効果に注目をしてお り,埋め込みの特徴的な要素が成果に影響を与えることを明らかにしている15)

先行研究から,とくに日本の自動車産業を対象にした研究を念頭に,アメリカの自動車産業を対 象とし,取引レベルで

OEM

とサプライヤー間の調達戦略において,担当者に対し質問紙調査を行っ ている。

存が測定されてきたとしている。

14)以上のような理論を説明しつつ,Casciaro and Piskorski (2005)はそのパワー格差と共同依存が同時に存在す る場合に対してのさらなる考察も行う。

15)相互依存性をどうとらえるのか(不確実性をもたらすものか,機会か)の論点が存在する。さらには,例え ば小橋(2018)では,不確実性の源泉としての相互依存性,そしてその不確実性に対処するための相互依存 性を指摘し,不確実性→組織間関係への働きかけ→相互依存性という,組織間関係への働きかけを媒介とし た不確実性と相互依存性の一連のサイクルがあることを指摘している。

(7)

3

-

3. Katila et al.

2008

:

資源内容と対処行動

Katila et al.

(2008)は資源の中身について言及をしている。つまり,資源獲得は,不確実性を低

減させる効果があるものの,相手の戦略的な意図もあり,共同的な意味ではない,競争的な意味で の,トロイの木馬的要素(misappropriation of resources)があることを指摘した。それは,起業段 階の企業は潜在的なリスクのあるパートナー選びを成功させるため(シャークジレンマ(shark

dilemma)を克服するため),防御手段構築の必要性を意味する。

注目すべきは,取引は基本的には不確実性を低減することにつながるとしつつも,潜在的に存在 する資源のトロイの木馬的要素による負の効果に注目をし,それを抑える防御手段を検討している ことにある。共同の意味はあるものの,競争のサイドから見れば,資源にトロイの木馬を仕込むこ とは至極当然である。つまり魅力的である資源とは,潜在的にはトロイの木馬となり得る可能性が ある。彼女らの研究は,既存研究と比較するに,その資源の内容と特徴の特定を意図したことに貢 献があるだろう。

彼女らは,アントレプレナーの意思決定(entrepreneur’s decision)を対象に16),インタビュー調 査と

5

つの技術系産業(医薬,バイオ,通信,エレクトロニクス,ソフトウェア)を対象とした投 資関係の定量データ分析を用い,検証を行っている。

分析上の工夫は,ベンチャーと企業からの投資を分析対象にしたことである。つまり資源の内容 が,確定されやすい状況を作った。これらの分析対象が適しているのは,この二者間において,(1)

必要とする資源のトロイの木馬的要素はよくあり,また(2)ベンチャーにおいては選ぶ相手がお およそ決まっていることが挙げられ,(3)投資関係がそもそも重要である,という点にある。その ため,含意としては,アントレプレナー,ベンチャーを対象としている,という枕がつくものの,

その資源の内容・特徴が議論されたのである。

資源の内容として指摘されるのが,(1)資金,(2)補完的な資源(製造か,マーケティングか),

16)スタートアップ,ベンチャーなども同義である。つまり起業家の意志決定は,企業の意思決定と同義となる。

2 相互依存に与える2つの概念と作用機序

    Emerson(1962),Casciaro and Piskorski(2005),Gulati and Sytch(2007)を参考に筆者作成。

(8)

そしてその階層性である。つまり仮説としては,資金と補完的な資源,どちらが関係性を促すのか である。つづいて,防御手段である。不確実性を下げるため必要な資源獲得を目指す取引が,もし トロイの木馬的要素をもっていた場合,不確実性が逆に増す可能性がある。つまり,アントレプレ ナーは,相手企業からコントロールをされる可能性が出てくる。

そもそも企業は戦略的に,ベンチャーの技術を狙った取引を行う目的がある。そのため,ベン チャー企業は防御手段があれば,相手に陥れる意図(misappropriation)があっても取引をもつこと が可能となる。防御手段として,ベンチャーがとれる手段は法律に則った

2

つの方略が指摘される。

特許と企業秘密を持つことである。そして最後に,いつ,関係性を構築するのかという視角が提供 される(関係性は遅く構築した方がよい)。つまり一定の形になった技術,製品,戦略があれば,

それは守りやすくなるのではないか,という指摘である。

結論として,資金また基本的には補完的な資源を持つことは,関係性を促進させている。また興 味深い分析結果は,特許による防御は有効ではなく,取引のタイミングに効果があったことである。

彼女らはコスト面からの示唆を行い(つまりコストが低い方法を利用する),また特許は制度的に は強力な防御手段ではあるが,情報開示がされてしまうので,驚きがなく,防御手段にならない可 能性を指摘している。つまり特許は名刺代わりに使われていることを指摘している。

最後にバランスの議論(共同しての資源獲得と,資源獲得はトロイの木馬的要素を持つという競 争,が同時に統合された場合),具体的には資金と取引タイミングという防御手段がバランスされ たとき,取引が促進することを示した。

3

-

4. Rogan and Greve(2015) :

動態的資源依存と対処行動

Rogan and Greve(2015)も, Casciaro and Piskorski

(2005)以降の研究の潮流を引き継いでいる。

ただし,ここでも同様に,注意すべき点は,Rogan and Greve(2015)は取引レベルを対象に分析 をしており,資源依存の程度は直接測定していないことである。あくまで,仮説を導出する際の理 論として資源依存理論を用いているのみである。その意味では,Pfeffer and Salancik(2003)のい うメタファーである。

ただし,資源依存の動態を明らかにしようとした点で貢献は大きい。Rogan and Greve(2015)

はパワー向上の行動に対する対処行動に焦点を当てている。この研究では,広告業界の顧客企業が パワーを維持するために,取引アカウントを減らすことで依存を調整することを示している。具体 的には,広告企業が合併することによって顧客に対してパワー優位に立つ場合,顧客企業はそれに 対して依存程度を減らす行動を取る。

このように,Rogan and Greve(2015)は,ある主体が取った対処行動に対して,対抗策を取る という主体間での動態的な行動を明らかにしようとした点が大きな貢献である。彼女らの研究が示 すように,資源依存の程度は,Emerson(1962)の主張通り,主体の行動によって時間的に変動し ていく。静態的とも批判された資源依存理論ではあるが,それらを捉えることができるのが本来の 利点なのである。

(9)

3

-

5. 小括

これまでの議論を表

2

に整理する。

4. 結論

4

-

1. これまでの議論の整理

Emerson

(1962)から始まる依存・パワー関係,そして資源依存理論は,概念の影響力は大きい

ものの,実証のための測定が困難である。ゆえに,Pfeffer and Salancik(2003)が指摘したように,

メタファーとして用いられてきた。とはいえ,大きな理論的概念はこのようなメタファーとして用 いられることも少なくない。これについては,取引費用理論でも類似した問題が見られる17)。つまり,

取引費用や取引特殊資産といった鍵概念の測定が非常に難しいということである。

このような測定の方法は,構成概念妥当性に関する基本的な問題である18)。同時に,その変数が,

結果に影響を与えているといえるのかという内的妥当性の問題でもある。構成概念妥当性と内的妥 当性は当然に密接に関わっている。資源依存理論ではこの段階での問題を抱えつつも実証研究が進 められている19)

17)高橋は取引費用の測定方法の問題,難しさについて指摘をしている(高橋伸夫 http://www.bizsci.net/readings/

comment/dyer1997comment.html. 20191217日最終閲覧)。

18)これは経営学の実証研究の特徴である。心理学や経済学と比較すれば,構成概念の測定方法が統一されてい ない。産業コンテクストや分析レベルに依存して決まるためである。重要な構成概念を共有するがゆえに,

先行研究に言及したとしても,同じ測定方法を用いるとは限らない。むしろそうでない場合が多い。このよ うな,研究ごとの測定方法のばらつきも,メタファーとして鍵概念を用いる傾向につながるといえよう。

19)関連して,Burt(1983)が類似した手法で,産業間の拘束度という概念を用いて利益率を説明している。取 2 主要な実証研究の論点整理

Casciaro and Piskorski

(2005) G u l a t i a n d S y t c h

(2007) Katila et al.(2008) R o g a n a n d G r e v e

(2015)

鍵概念 共同依存とパワー格差 共同依存と非対称依存 資源獲得に関わる競争

面の存在 動態的資源依存 論理 共同依存に由来する不

確実性の吸収 共同依存は埋め込みの 論理により利益につな がる

資源獲得には競争面が あるため,取引には防 御手段が必要

取引関係におけるパ ワー優位性の維持

対処行動 共同依存は合併を促 進,パワー格差は合併 を抑制

高密度の関係性を築く 等,共同依存促進の検

防御手段の構築(企業 秘密を持つこと,取引 のタイミングを検討す る等)

パワー維持のための取 引アカウントの縮小

分析レベル 産業 企業の取引 起業家(ベンチャー)

と企業 企業の取引

分析対象の産業 産業間取引のデータが

収集可能な様々な産業 自動車産業 技術系ベンチャー 広告産業   筆者作成。

(10)

確かに,依存という鍵概念の精緻化を

Casciaro and Piskorski

(2005)が行ったといえる。ただし,

方法論上の精緻化は進んだといえるだろうか。Casciaro and Piskorski (2005)は,依存の測定方法 として産業間の取引量を用いている。それは既存研究の尺度を引きついだ伝統的な測定方法である。

つまり,結果として組織間関係があることを観察して,資源依存があるという外形的な基準を用い ているのである。

資源依存理論の実証研究では,資源価値を測定できない以上,当面は,取引量によって依存を測 定せざるを得ない。取引があることは少なくとも依存の一部を捉えている。しかし,取引費用と同 様に,必要な資源が外部にあることで取引が生まれる,取引があるから依存があるというトートロ ジーの構造となってしまう。また,取引の当事者が主観的に資源の重要性を感じているのかは明ら かでない。一方で,Gulati and Sytch(2007)のように,質問紙調査を行えば主観的な依存を測定で きる。また,Katila et al. (2008)が示したように,妥当性を高めるため,特定の状況に絞り込んだ 実証という手段もあるだろう。

このように,今後の精緻化のための一つの方法として,観察可能な変数としての取引量と,質問 紙調査によって補足可能な主観的な依存度合いの双方を併用すること,また特定の状況にだけいえ る含意というものを示すことが挙げられる。とはいえ,それは容易ではない。

4

-

2. 限界と将来の研究の方向性

Emerson

(1962)から始まる依存・パワー関係,そして資源依存理論については,日本の経営学

領域でも先達が多数の業績を残している。本研究もそれらの研究成果に依拠しつつ進められた。本 研究は,Emerson(1962)と

Pfeffer and Salancik(1978)の議論を確認し,とりわけ,Casciaro and

Piskorski

(2005)以降の精緻化された実証研究を中心に整理を行った。とはいえ,本研究は,すべ

ての関連論文を取り上げられていないため,レビューの網羅性に限界がある。小橋(2018)が整理 している通り,経営学領域のみならず多様な社会科学の領域で,現在も資源依存理論は影響力を持っ ている。それらを網羅的に扱えていない。

将来の研究の方向性は次の通りである。

第一に,レビュー範囲を広げることである。限界に示したように,本研究ではごく限られた文献 しか取り上げていない。最近の

Hillman et al.

(2009)などの資源依存理論に関する網羅的なレビュー に比較すれば少なすぎることは認めなければならない。

第二に,周辺の関連概念の整理である。Pfeffer and Salancik(1978)では,依存とパワーの他に,

外部環境における不確実性という関連概念が提示された。その結果,依存によって不確実性が生ま れるという指摘もなされた。この不確実性を,小橋(2018)は資源の不確実性と情報の不確実性と して分けた。また,パワー面の精緻化も行われている(山岡,

2003)。資源依存理論の実証研究では,

先述したように,それぞれの産業の事情に合う概念や周辺概念が用いられることから,より多くの 周辺概念の整理が必要となる。

引量で依存を測定すると,それを拘束度として転用することも可能である。

(11)

謝辞

:

組織学会(2019年,駒澤大学)のセッションにおいて,中野勉先生(青山学院大学),藤 本隆宏先生(東京大学),他多数の先生方からコメントをいただきました。ここに記して感謝いた します。本研究の誤りは,筆者のみに帰するものです。

本研究は科研番号

: JP19K01862

の研究成果の一部です。

参考文献

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Referensi

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