自動 自 動車 車廃 廃棄 棄物 物班 班イ イン ンゼ ゼミ ミ論 論文 文
〜使用済み自動車の現状と問題点から〜
慶應義塾大学 経済学部 山口光恒研究会 自動車廃棄物班 岩崎 友彦
沈 陽
西岡 直保
根本 隆史
Ⅰ章.なぜ自動車廃棄物が問題なのか?
現在使用済み自動車のリサイクルは、他の製品に比べ回収ルートも整備されリサイク ル率も現在約75〜80%と高く、自動車工業会の自主的行動計画などによりさらなるその向 上が促されている。しかし、今日の自動車の廃車数は年間約500万台で、この内年間約80 万トンがシュレッダーダストとして廃棄されており、これは最終処分場の逼迫と資源制約 という観点からもさらなる改善が必要であり重要視されている。以下では、まずは今日の システムがどのようになっているか確認した上で、この最終処分場の逼迫によって生じる 様々な問題を分析する。そして、最後にそれらの問題を解決する方法とさらなるリサイク ル率を向上させる方法を提言していく。
Ⅱ章.現在の使用済み自動車処理システムの流れ
現在、日本の使用済み自動車は付図のように処理されている。
ここでフローに基づく各主体の現状を述べたい。
(1) 最終ユーザー
最終ユーザーは、図のように自らが使用した自動車を販売会社である新車ディーラ ーあるいは中古車ディーラーに持ち込むほかに直接解体業者に持ち込むことになるが、
不法投棄という形で手放す場合もある。一般的には各ディーラーおよび解体業者は最 終ユーザーに対して対価を支払うが、廃車手続きには諸費用が必要になるため、現在 ではここで逆有償になるケースも少なくない。また、この逆有償化を主因として発生 しているのが不法投棄である。
(2) 新車ディーラー及び中古車ディーラー
各ディーラーはユーザーより引き取ったELVを解体事業者へ持ち込む。ここでは解 体事業者から見てELVは資源の塊であるため、有価物として引き取られる。また、中 古車ディーラーは中古車あるいは廃車という形で海外への輸出も行っている。
(3) 解体事業者
解体事業者は、引き取ったELVから有用な部品や、非鉄金属、バッテリーなどを抜 き取り、有用な部品は中古利用(以下リユース)、あるいは海外へと輸出され、非鉄金 属、バッテリーは素材としてリサイクル(以下マテリアルリサイクル)する。リユー ス製品やリサイクルされた製品の販売収入が解体事業者の収入となる。こうして解体 されたELVはシュレッダー業者や簡易プレス業者に引き取られる。なお、解体事業者 にてリユース・マテリアルリサイクルされる割合は自動車一台全体の中で25%程度と
なっている。また、日本の解体事業者は約 5,000 社存在するといわれているが中小企 業や零細企業が主体であり、その解体過程における設備が貧弱であることが懸念され ている。
(4) シュレッダー事業者
シュレッダー事業者とは、主にマテリアルリサイクルを行う主体であり、全国に約 140社存在すると言われている。具体的には、解体事業者から引き取ってきたELVを シュレッディングすることにより、鉄、アルミなどの非鉄金属、樹脂類を分別する。
可能な限り鉄、非鉄金属を分別した後の残りの樹脂類などは、シュレッダーダストと 呼ばれる産業廃棄物となり、最終処分場にて埋め立てされる。実際は埋立処分事業者 へ処理費を支払い、引き渡す形となる。この際、直接埋め立てされるケースと焼却さ れた後に埋め立てされるケースがある。焼却するメリットは嵩密度の低いシュレッダ ーダストを密度の高い廃棄物とするだけでなく、焼却時に発生する熱エネルギーを回 収することである。なお、シュレッダー事業者の収入は鉄、非鉄金属の販売によるこ とになるが、埋立処分事業者へ払う処理費用をその収入で賄えず、シュレッダーダス トを不法投棄してしまうケースもある。また、シュレッダー事業者が存在する一方で 簡易プレス業者という主体がある。これは、シュレッダー事業者のような資源の分別 をおこなわずにギロチンと呼ばれる簡易プレスによって処理をおこなう。この簡易プ レス処理はシュレッダー処理に比べコストこそ低いものの鉄や銅の純度を著しく下げ てしまうという欠点があり、問題視されている。
現在、日本ではELVは焼却による熱エネルギー回収を含めると約75%がリサイクル されており、最終的にはELVの約25%がシュレッダーダストとして処分されているこ とになっている。
ELV のリサイクルは上述のように、そのシステムがある程度出来上がっている。ま た、リサイクル率も他の廃棄物と比較するとかなり高いことがわかる。しかし、ELV に関してはこれ以外にもさまざまな問題があり、近年それが顕在化している。それら 問題については以下のⅢ章にて詳しく検証する。
Ⅲ章.使用済み自動車処理における問題点の詳細な分析
(1) 最終処分場の逼迫…最終処分場の残余容量は全国平均で一般廃棄物で約 8 年、産 業廃棄物の場合約3年と非常に厳しい状態にある。さらにシュレッダーダストからの 汚染排水の問題をふまえた環境対策面から、96年4月からダスト(産業廃棄物)の処 分が安定型埋め立て処分から、管理型埋め立て処分に改定された。管理型処分場は、
埋め立て地から生じる浸出液による地下水および公共の水域の汚染を防止するため、
遮水工(埋め立て地の側面、底面にビニールシートなどを設ける)、浸出水を集める 集水設備、集めた浸出液の処理施設を必要とする為処分費用が高い。また管理型処分 場の数は全国で非常に少ないので、シュレッダーダストを処分できる処分場はさらに 限られることになる。安定型処分場であれば5、000〜8、000 円/tの処分費をシュ レッダー業者が支払えばよいが、管理型処分場へ支払う処分費は 25、000/t に高騰 している。この費用は処分場サイドによって一方的に決められてしまう。
(2) 鉄スクラップ価格の下落…シュレッダー業者によって分別され、鉄鋼業者に販売 される鉄スクラップ価格が、不況の煽りをうけて下がっている。1985年プラザ合意を 受けた円高を契機として鉄スクラップ価格は下落の一途をたどり、85年以前には20、
000〜30、000円/tだった価格が現在では8、000円/t代まで落ち込んでいる。
(1)、(2)から、シュレッダー業者は処理費用を自らの収入でまかないきることができず、
解体業者から処理費用をシュレッダー業者に支払ってもらい、処理をすることになる。こ れによって最終的に最終ユーザーが処分費用を負担することになる。これを逆 有 償 化とい い、これがELV処理の様々な問題の原因となっている。
逆有償化の問題点としてまず、最終ユーザーがリサイクル費用、処分費用を全額負担し、
メーカーが処理費用を負担しないため、メーカーにリサイクル率を向上させるインセンテ ィブが働かないということが上げられる。メーカーにリサイクル率を向上させるインセン ティブを与えれば、自動車の設計段階から、リサイクルをできる限り容易にできるように 配慮できるので、リサイクル率があがることは必至である。また、逆有償化することによ り、最終ユーザーや解体業者、シュレッダー業者が処理費用を負担するのを避けるために 不法に処分場でないところにELVを捨ててしまうという不法投棄、路上放棄の問題が生じ ている。このように逆有償化以降、静脈産業の問題点が表面化しその不透明性などが問題 視されている。
それでは、次に静脈産業の問題点について述べる。
(1)解体業者…業者が解体を行った後、ヤードに屑が不法投棄されている。解体業者は戦 前からいたクズ屋が鉄の需要が高いことに目をつけてはじめたのがきっかけで、基本 的に零細であり、アウトローが多い。よって業者全体の処理状態等に関する情報を把 握する事は大変困難であるし、また健全なビジネスとして成り立っていない。解体作 業は職人芸的な人手中心の業態となっている。家内工業的な小規模業態が特徴的であ り、業界全体の団体を持たないため行政とのつながりや施策の伝達も難しい。全国に 3、500〜5、000 社の解体業者が存在するが、そのうち1、500 社程度しか稼動してい ない。最近では、業者が解体後シュレッダー業者に処理を依頼するだけでなく簡易プ レス後そのまま輸出したり、ギロチン材としてギロチン機に投入し、あるいは直接鉄 鋼メーカーに出荷したりするケースが増加してきている。シュレッダーでは選別機能 が発揮されるがその他の場合、不純物が混入されたまま電炉業者が炉に投入すること
になるので、鋼の質を低下させる問題がある。シュレッダーで処理されることを主と する従来のリサイクル体系が多様化してきている。これは、前述した逆有償化による 費用支払いを避けるためだと考えられる。リサイクル率向上や不法投棄防止をしてい く上で自動車解体業の働きが重要になってくるが、解体業者の歴史的背景からもなか なか手をつけられないのが現状である。
(2)シュレッダー業者…管理型処分場の絶対的な不足からシュレッダー業者は25、000/
t の処分費用を処分場サイドの一方的な出し値で支払っている。このコストをシュレ ッダー業者のみが負っている点が問題である。さらに、バブルがはじけ、電炉メーカ ーの恒常的な減産によって設備過剰になり、全国にある177基(1999年4月現在)
のシュレッダーの稼働率は60%を下回っていると見られている。鉄スクラップ価格が 下落していることも問題である。シュレッダーダストの中で今注目されているのが銅 である。銅山から取れる銅の純度は0、9%にすぎないのに対して、シュレッダー内か ら検出される銅の純度は3%にも達する。現在、自動車リサイクルでは非鉄金属が従 業員の手作業で分別されているが、従業員の手でも分別出来ない銅線が現在の車両に は非常に多く使われている。これがリサイクルされずにいると自動車保有台数が増え ていったときに銅の資源量が足りなくなるのではないかという懸念がされている。
(3)中古車、中古部品輸出における問題点…輸出後の ELV や、自動車部品の海外での廃 棄までの流れは不透明であり、不安定である。たとえば輸入国が突然製品の輸入を禁 止するとリサイクルシステムの足腰が弱い日本においては周辺環境の突然変異に耐 え得る強さを持ち合わせていない。鉄スクラップ価格の下落でシュレッダーダストの 処理費用が高騰したことはいい例である。リサイクルシステムを十分に整備出来ない と、廃棄を輸出に依存していた分を国内で処理しきれなくなり、適正処理ができなく なる。よって安易に輸出すべきではないと言える。
その他の問題点…
(1)最近の自動車は燃費向上の為リサイクルしにくい樹脂の使用が増加している。リサ イクルが容易な鉄の使用量が減っている。これは燃費とリサイクル率のジレンマである。
(2)離島での現状…沖縄のような離島では廃棄物の処理がさらに困難な上、本州に運ぶ ためのコストが嵩み処理システムを確立することも出来ないため、不法投棄が発生してい る。離島ではアウトローな業者が鉄屑価格の高騰を待ち、処分しないで集めたものがゴミ となってしまうことが起きているが、この行為は取り締まられていない。不法投棄による 汚染が続いている。
(3)マニフェスト…マニフェスト制度とは、排出事業者(最終ユーザー)が ELV の収 集運搬、処分を委託する事業者に対してマニフェスト(管理表)を交付し、処理状況を確 認するものである。排出事業者はマニフェストに必要事項を正確に記入し、処分業者・処
分方法などを委託業者に伝えなければならない。こうすることで静脈産業をモニタリング することができると考えられた。ELVへのマニフェスト制度は平成11年12月1日から始 まったが、諸々の問題が見えてきた。マニフェストは、解体業者によってELVが部品取り された後プレスされ、「ガラ」となった時点で、どの ELV に対して発行されたものか全く 判断できなくなり、業者はただ盲判を押すだけとなっている。また、排出事業者によるマ ニフェストの交付率も非常に低く、交付率が高い排出事業者との取引が多い解体業者にと っては競争力がそがれる原因となっている。さらにマニフェストを交付し記入する業務上 のコストもかかる。マニフェスト本来の目的である廃棄物の適正処理や不法投棄防止には 全くかなっておらず、逆に無駄な紙が増えている。
Ⅳ章.自動車廃棄物処理システムの改善に向けて
まず、第3章でのべた自動車廃棄物処理システムにおける主な問題点をもう一度簡単に まとめると、逆有償化において処理費用をメーカーが責任を負っていないことと、逆有償 化により路上放棄や不法投棄がなされてしまう静脈産業の不透明性などがあることである。
では、このような状況にある日本の処理システムをどうすれば改善できるのだろうか。
自動車から排出される廃棄物の適正処理を行い、最終的にリサイクル率をあげていくに は、自動車を設計し、製造する段階からリサイクル、再資源化しやすいようにしていく必 要がある。自動車は複雑な素材や部品が組み合わさってできている商品であり、設計、開 発段階からリサイクルのことを考え、リサイクル率向上のイニシアティブを取れるのは自 動車メーカーである。拡大生産者責任(EPR)の原理に基づき、自動車メーカーに、廃棄 物処理の「責任」を重点的に負わせるようなシステムを作り上げれば、自動車メーカーが 設計、製造段階からリサイクル、再資源化を考えるインセンティブを与える事ができる。
しかし現状の体系では、自動車メーカーはELV処理に対して責任をとることはない。
このような経緯をふまえ、我々はELVのリサイクル率向上の為のシステムを2つの観点 から提言する。
(1)法整備
静脈産業をビジネスとして競争原理を働かせ、適正業者が生き残れるようにしていけば、
社会的に最小の費用で適正処理ができる。しかし、前述した自動車メーカーへの責任移転 を考慮する上で、法律で定める必要がある仕組みをまず述べる。法律で定める必要がある と考える部分は経済の活性化をできる限り阻害しないようにするために、最小限度にとど める。
・自動車メーカーによるELVの無償引き取り
…現在、ELV の処理料金は逆有償化しており、最終的に最終ユーザーが処理料金を負担し ている。最終ユーザーもしくはディーラーが自動車をELVと判断し、抹消登録した時点で、
自動車メーカーが無償でELVを引き取り、処理料金は自動車メーカーが負担するものとす る。このことによって、自動車メーカーは自動車販売時に価格に処理費用を上乗せするこ とが考えられる。ユーザーは、新車購入時に処理費用を含んだ価格を支払う。つまり、自 動車メーカーと新車ユーザーが処理費用を負担することになる。中古車ユーザー費用を負 担しない。自動車メーカーは解体業者に料金を支払って、その後の処理を委託する為、で きる限り少ない料金に処理料金を抑えようとする。処理料金を低く抑えるためには、自動 車の設計段階からリサイクルしやすい自動車を製造する必要があるので、結果的に設計段 階から廃棄物を減らそうとするインセンティブを自動車メーカーに与えることができる。
もしくは業者に処理を依頼するより自らの設立した施設で処理を行った方が安いと考え、
静脈産業に積極的に参入することも考えられる。これによって、既存の業者との間に競争 原理がおこり、結果的に適正業者が生き残ることになる。
ここで注目すべき点は、新車販売時の価格上乗せの料金設定をどうするのかという議論で ある。自動車がELVとなるまでには十数年かかるので、価格を上乗せする時点で、その車 の処理費用をはかる事はできない。よって我々は「年金方式」で、上乗せ費用を定める事 を提案する。
・マニフェスト
…自動車メーカーはELVの処理をより安い料金ですまそうとするので、必ずしも適正に処 理をしている業者に処理を委託するとは限らない。単に安い料金でELVを引き取り、部品 だけ売り払って不法投棄を行う業者も十分に考えられる。必ず適正業者によって処理が進 められていくようなフローが出来上がらなくてはならない。そのためには、静脈産業の業 者が適正な処理をしているかどうかをモニタリングする必要がある。そのために、現在使 用されているマニフェストを、もっと実用的なものに改良する必要がある。
現在使用されているマニフェストは紙製のもので、6 枚つづりで業者が記入していく形態 をとっている。前述したように、最終的に ELV が「ガラ」になった時点でどのELV に対 して交付されたマニフェストか判断出来なくなるという問題点の他、排出事業者がマニフ ェストを発行するコストを考えるとき、月に20台のELVを排出する事業者と、月に10 0台のELVを排出する事業者ではマニフェストを交付する業務上の手続きにも時間にも大 きな差が出る。また排出事業者内の下取り車、もしくは中古車の入庫・販売・在庫管理シ ステムが電子化されているところもあるので新たにマニフェストを交付するプログラムを 作成し、運用するのは手間がかかる。また、マニフェストを発行してから、最終的に排出 事業者が回収するまでに長期間を要してしまう。このように、現行のマニフェスト制度に は様々な問題が起きており、本来の目的であるモニタリング効果を十分に発揮できていな い。
ここで、我々は電子マニフェスト制度を提案する。自動車が永久抹消登録され、ELVにな った時点でマニフェストの登録を開始する。静脈産業の各業者は、ELV の処理を引き受け
た時点でELVに関する様々な情報をコンピューターの電子マニフェストに登録する。登録 した情報はホストコンピューターに保存され、情報はいつでも確認できる。解体業者に行 き着くまでのELVのマニフェストは1台についての情報として登録されるが、解体業者が ガラをシュレッダー業者に引きわたす時点で、重量ベースの換算に変更する。シュレッダ ー業者は引き受けた廃棄物全ての重量をコンピューターに記録しておき、処分場に廃棄す るシュレッダーダストの量と、電炉業者に販売する鉄スクラップの量を足しあわせた量が 等しいことを確認できるようにする。そのために処分場で引き受けたダストの重量をマニ フェストに記録する。紙マニフェストにおいては、1枚の紙に各業者が記入するだけなので、
1台1葉のマニフェストしか使用出来ないがマニフェストを電子化することにより、途中か ら重量ベースに変更して登録することも可能になる。また発行や配送のコストを削減でき る。さらに、マニフェストの進行状況が常時確認できる為、状況把握も容易である。
ここで注目すべき点は、マニフェストによって処理状況のモニタリングができるようにな り、適正処理が完全に行われるように一見思えるが、マニフェストはあくまで業者自信が 情報を登録するので、偽りの情報を登録することも十分に考えられる。実際は不適正処理、
不法投棄を行っているのに、マニフェスト上では適正処理をしているように見せかける事 はできる。各業者はマニフェストに詳細な処理方法を記入するものとし、もしこれとは異 なった処理が行われていたことが発覚した場合には法的な処罰が与えられるものとする。
それを検査する為に、2000年 12月に自動車関係業界の各団体によって設立され、スター トした「(財)リサイクル促進センター」による定期的な検査制度を設ける。当センターは 自動車メーカーや、その他自動車関係業界の出資で設立された。ここで、廃棄物処理法に よって業許可を受けている業者はセンター登録を義務づける。センターは年1回の定期検 査と、1回の不定期検査を各業者に対して行う。ここで、もし業者が不適正処理を行ってい た事が発覚した場合、業許可を剥奪する権限をセンターに与えるものとする。また、不適 正処理や不法投棄が発覚した場合、センターが処理責任を負うものとする。センターに登 録していない業者は、自動車メーカーからの処理料金を受け取れない。
自動車メーカーによる無償引き取りと電子マニフェスト制度、リサイクル促進センターに よる適正処理の管理によって、自動車メーカーの処理責任に基づく適正処理の枠組みが整 う。次項では、これらに基づいた市場原理の動向について考察する。
(2)市場原理の利用
・中古部品市場の活性化
現在、日本の自動車中古部品市場は活性化してきている。折りからの不況で、ユーザーは 事故等での自動車の修理において、新品の部品への入れ替えよりも安い中古部品に目を付 けることが増えている。リサイクルの概念として重要な「Reuse」という観点からも、中古 部品市場の活性化は非常に重要であると考えられる。現在の日本では、中古部品市場に対 する情報が不十分であるため、インターネットを利用して、全国の中古部品の情報を簡単
に確認できるようにする必要がある。保険会社にとっても安い中古部品の使用をユーザー に促す方が都合が良い。しかしフェンダーやバンパーのような、単純な機能をもった部品 であれば中古部品の使用も差し支えが無いとユーザーは考えるが、エンジンのような複雑 な機能を持った部品を中古として使用する事は、安全面等からまだまだ使用を差し控えて いる部分が多い。そこで、中古部品に対して、保険制度を設ける事を提案する。つまり、
ある中古部品の価格に保険料を上乗せし、保険料の一部はメーカーが中古部品の安全性を 検査する費用に当て、残りを保険会社の儲けとする。保険制度を適用する中古部品は、リ サイクル促進センターに登録している解体業者等のみとする。これによって、ユーザーの 安心感を得る事ができるのと同時に、適正業者に対するアドバンテージを与えることがで きる。中古部品市場が活性化することによって確実にゴミを減らす事ができる。さらに、
中古部品の販売によって得られる利益が大きくなれば、ELV が有価物として取引されるよ うになり、逆有償化が解消されることも考えられる。ユーザーへの安心感を与える事を定 着させ、中古部品の使用を積極的にさせるようにするためにも、上記のような保険制度の 導入は重要である。
・競争原理の利用
この論文を作成していくにあたって、私達の中で動脈産業と静脈産業の違いや働きについ て色々議論がなされた。一般的に静脈産業とは動脈産業から出たゴミを処理していく産業 であるが、私達は話していくうちに動脈産業と静脈産業を区別する時点で間違っているの ではないかと考えるようになった。今までは、動脈と静脈が分かれていることで動脈産業 と静脈産業はお互いにあまり関係せずに独自の活動をつづけてきた。しかし、この結果上 に述べてきたような問題が生じてきたと考えられる。
このような問題を解決するためには、「動脈産業の静脈化」が必要であると私達は考えて いる。つまりは、メーカーに静脈産業への進出を促し、また一方で静脈産業をもっとひら けたものにし、市場原理を導入するのである。ゴミ処理においてメーカーが生産し、それ を自分で処理するようになる可能性も考えられる。これによって、メーカーは処理しやす いものまた自分で再利用しやすいものを作るようになり、リサイクル率も伸びると考えら れる。現在、ELV 処理において逆有償化という現象が起こっている日本の静脈産業におい て、料金を支払って処理を委託してしまえば後の処理に責任はなく、それでよいという考 えがうまれてしまう状況を改善するために、法律と市場原理を有効に活用して、適正処理 を促しリサイクル率を上げるシステム作りを提言した。
自動車メーカーによる無償引き取り、電子マニフェストによる適正処理の管理、リサイク ル促進センターによる適正処理の検査というシステムを作り上げた上で、各業者間で適正 処理をさせるインセンティブを与え、市場の競争原理でより低コストで適正処理をする業 者が成長し、生き残る環境を作る必要がある。
以上が、我々が使用済み自動車処理における問題点を解決するためのシステムの提言だが、
これは短期的な解決策であると言える。長期的に考えれば、ユーザーから静脈産業の業者 に至る自動車に関わるすべての人が、廃棄物問題を真剣に考え、問題解決の為に協力しよ うという姿勢をもつことが最も重要である。問題に対する意識が高ければフリーライダー も存在しないし、不法投棄も存在しない。そのために必要なのは「教育」である。廃棄物 問題に対し関係業者に危機感を持たせるために、たとえばユーザーに対しては自動車教習 所における教育の徹底、静脈産業においては業者間での会合や研修等を政府の援助で積極 的に行っていく必要がある。そしてなによりも、自動車業界において最も強大な位置を占 める自動車メーカーが、大量生産による利益重視の企業経営を改め、資源の有効利用と環 境負荷の低い自動車の生産に日々尽力を注ぎ、業界全体に「利益重視」より「環境重視」
であるという指針をはっきりと示していくべきである。つまり「産業の環境化」である。
ディーラーに教育を徹底させ、ユーザーへの情報提供、適正解体業者を選択することを徹 底させることなどが必要である。
21世紀を迎えるにあたり、自動車という乗り物は人類の日々の生活に不可欠な商品とな っている。自動車が利便性だけを追求する時代は過ぎた。地球環境との調和を図るために、
廃棄物問題だけに限らず、自動車業界の果たすべき役割は大きい。我々の提言が自動車業 界の進むべき正しい道のりの手助けとなることを願い、この論文を締めくくることとする。
*お世話になった方
・財団法人 自動車リサイクル促進センター 齊藤和紀 様
・京葉自動車社長 日本ELVリサイクル推進協議会 会長 酒井清行 様
・株式会社自研センター 代表取締役 竹内啓介 様
・社団法人 日本自動車工業会 環境統括部 原田和昌 様 (五十音順)
*参考文献
・エクセレント・ビークルの時代1、2/渡辺 昇治
・高度技術集約型産業等研究開発調査/日本自動車研究所
・グッズとバッズの経済学/細田衛二
・クオータリーてつげん/社団法人日本鉄源協会
・使用済み自動車自主行動計画/社団法人日本自動車工業会
・日経ECO21/日経ホーム出版社
・豊かな環境を次の世代に/社団法人日本自動車工業会
・機械振興、9月号/財団法人機械振興協会
・その他多数のホームページ
付図 自動車処理システムの流れ
国 内 中 古 市 場 、 輸 出
リサイクルされる
自動車メーカー
新車ディーラー ユーザー
解 体 業 者
シュレッダー業者
中古車ディーラー
簡易プレス業者 中古・廃車輸出
地方自治体
シュレッダーダスト
埋 立 路上放棄
焼 却 電炉(鉄鋼)業者
輸 出
鉄 屑 非鉄金属
不法投棄
ギロチン化