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化学と生物 Vol. 53, No. 9, 2015
本 研 究 は,日 本 農 芸 化 学 会2015年 度 大 会(開 催 地:岡 山 大 学)での「ジュニア農芸化学会」において発表された.茶葉 は製造工程を変えることにより緑茶,紅茶,黒茶といったさ まざまな製品を作ることができる.本研究は,同じ茶葉を異 なる製造工程で加工することにより,製造工程の違いにより 加工後のお茶に含まれる成分がどのように変化するかを分析 した興味深いものである.
本研究の目的,方法および結果
【目的】
お茶の葉からは,製造工程を変えることで,緑茶,紅 茶,黒茶を作ることができる.緑茶は生茶→蒸し→もむ
→乾燥の工程を経て作られ,これに萎凋と酸化発酵が加 わると紅茶に,後発酵と呼ばれる微生物による長期発酵 が加わると黒茶となる.そこで同じ畑で摘まれた同品種 の茶葉を使用して作られた緑茶,紅茶,黒茶(バタバタ 茶)を使用し,その成分を比較することで製造工程の違 いによる影響を考察するため実験を行った.本研究を進 めるに当たり,文献1〜5を参考にした(1〜5).
【実験方法】
実験1:市販のお茶を使用した成分比較と効能実験 市 販 の 緑 茶(せ ん 茶),紅 茶(セ イ ロ ン 茶),黒 茶
(プーアール茶)のカテキン,カフェイン,光合成色素 を抽出し,カテキンはペーパークロマトグラフィおよび TLCで,光合成色素はTLCで物質構成の比較を行い,
カフェインは,含有量の比較を行った.効能実験として 抽出した粗カテキンを使用し,ルミノール反応阻害実験 による抗酸化実験,アンモニアを対象とした消臭実験,
落下細菌を対象にした抗菌力試験を行った.
実験2:原料が同じ茶葉を使用した成分比較と効能実験 実験1では,試料の市販の産地の違いや生育環境の差 などのファクターが多く,お茶による成分の傾向が一概 に工程によるとは言い難いと思われたため,富山県下新 川郡朝日町にある なないろKAN 協力のもと,同じ 畑で摘まれた茶葉を使った緑茶,紅茶,バタバタ茶を使 用し実験を行った.実験2では,実験1の成分に加え,
総ポリフェノール量を吸光度によって測定し,遊離アミ ノ酸をUPLCによって測定,ビタミンC量を滴定により 算出した.また,効能実験として,実験1では数値化で きなかった抗酸化力をDPPH法で測定した.
【結果・考察】
実験1:カテキンは,各お茶で粗カテキン量,カテキン の種類構成ともに異なっていた.また同様に光合成色素 も,お茶によって色素の成分構成が異なっていることが わかった.これらは,緑茶,紅茶,黒茶の順に構成物質 が減っている傾向にあった.カフェインについては,各 お茶ともに収量にさほど差が見られないことがわかっ た.効能実験の結果,カテキンがアンモニアに対し消臭 効果があると確認された(図
1
).また,ルミノール反図1■粗カテキンによるアンモニア消臭
茶葉の成分は製造工程によって変化するのか
富山県立富山高等学校
山崎あかり,石井陽菜子,小林ゆきの,岡本悠里,松能美緒,柴田 龍,
下坂優輝,松崎多聞,上原信之輔,古野絢也(顧問:桑守祐子)
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応阻害実験により,カテキンと鉄が反応して濃い色に変 色した紙片ほど発光しなかったことから,抗酸化力があ ると考察した.殺菌力についても,今回採取した菌の一 部に阻止円を確認することができたため,一部細菌に対 して殺菌効果があることがわかった.
実験2:総ポリフェノール量は緑茶が最も多く,紅茶は その7割程度,バタバタ茶にいたってはごく少量しかな いことがわかった(表
1
).カテキンの種類構成は,緑 茶で3種類,紅茶では2種類,バタバタ茶では1種類と 実験1と同様の結果であり,製造工程が複雑化するほど 減ることがわかり,カテキンの分子構造が大きいものか らなくなる結果となった.このことより,カテキンは分 子構造が大きいものほど変化しやすく,製造工程が複雑 になるほど減少したのではないかと考察した(表2
). 光合成色素も実験1と同様にお茶によって色素成分の構 成が異なっていることがわかった.なかでもカロテンは 壊れやすいと考えられた(表3
).カフェインも実験1と 同様の結果となった.カフェインは分子構造的にも安定 しており,製造工程による影響は受けないと考えられ た.ビタミンCは,どのお茶もごく少量でさほど含有量 に差がないように思われた.遊離アミノ酸は,紅茶がア ミノ酸の種類や量が緑茶に比べ増加し,バタバタ茶にな ると激減することがわかった.このことから,遊離アミ ノ酸は紅茶の工程で増加されるが,バタバタ茶のような 微生物を使った発酵では分解され減少するのではないか と考えられた(表4
).抗酸化能実験では,数値的にも抗酸化力は緑茶が最も
高く,紅茶はその2/3程度であり,バタバタ茶にはあま り抗酸化力がないことがわかった.このことは,総ポリ フェノール量に比例する結果となり,緑茶の抗酸化力は ポリフェノールに起因するものと考えられた(図
2
).本研究の意義と展望
各お茶の成分が異なっていることは知られていたが,
本研究のように同じロットで作られた原料のお茶を比較 することにより,製造工程が成分に影響を及ぼすのかが 示唆された.今後は工程で加わる酸化や発酵などがどう 成分の分子構造に作用するのかという化学的アプローチ で実験を進めていきたい.
文献
1) 久延義弘,末松伸一ほか:東洋食品工業短大・東洋食品 研究所研究報告,20, 67 (1994).
2) 馬淵良顕:神奈川県立教育センター研究集録,20, 49 (2001).
3) 良辺文久,衣笠 仁,竹尾忠一:日本農藝化學會誌,62, 443 (1988).
4) 人見英里,磯村裕佳,三浦由紀子:山口県立大学学術情 報,5, 57 (2012).
5) 木村英生,長沼孝多,小松正和,恩田 匠:山梨県工業 技術センター研究報告,20, 101 (2006).
(文責「化学と生物」編集委員)
Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.53.643 表1■ポリフェノール量
1回目 2回目 3回目 平均
緑茶 2.162 2.290 2.345 2.416 紅茶 1.82 1.502 1.506 1.609 バタバタ茶 0.004 0.001 0.002 0.002
表2■カテキンの種類構成
緑茶 紅茶 バタバタ茶
エピガロカテキンガレート ○ × ×
エピガロカテキン ○ ○ ×
エピカテキン ○ ○ ○
表3■光合成色素構成
緑茶 紅茶 バタバタ茶
カロテン ○ × ×
クロロフィル ○ ○ ○
クロロフィル ○ ○ △
キサントフィル ○ ○ △
表4■遊離アミノ酸量
緑茶 紅茶 バタバタ茶
アスパラギン酸 <0.5 100 <0.5
グルタミン酸 3.7 35 <0.5
セリン <0.5 47 <0.5
グルタミン <0.5 37 <0.5
γ‒アミノ酪酸 <0.5 58 <0.5
アルギニン <0.5 47 <0.5
テアニン 34 300 <0.5
図2■DPPHラジカル消去能