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「 重 大 事 由 解 除 に 基 づ く 反 社 会 的 勢 力 排 除 の 法 理 」
藤 本 和 也
1 . は じ め に
生 損 保 各 社 は 、 保 険 契 約 締 結 後 に 当 該 保 険 契 約 の 契 約 者 や 被 保 険 者 等 が 反 社 会 的 勢 力 ( 以 下 、「 反 社 」 と い う 。) に 該 当 す る こ と が 判 明 し た 場 合 に お い て 保 険 契 約 か ら 反 社 を 排 除 す る た め 、 保 険 約 款 に 暴 力 団 排 除 条 項1( 以 下 、「 暴 排 条 項 」 と い う 。)を 導 入 し た 。暴 排 条 項 は 、い ず れ も 保 険 法 の 重 大 事 由 解 除 に お け る 包 括 条 項( 保 険 法 3 0 条 3 号 、5 7 条 3 号 、8 6 条 3 号 )の 具 体 化 で あ る と 整 理 さ れ た2。
も っ と も 、 重 大 事 由 解 除 ( お よ び そ の 具 体 化 で あ る 暴 排 条 項 ) に 基 づ く 反 社 排 除 の 機 能 や 限 界 は 未 だ 十 分 に 明 ら か に さ れ て は い な い 。 反 社 に 属 す る 者 は モ ラ ル・リ ス ク を 招 来 す る 高 度 の 蓋 然 性 を 有 す る こ と を 根 拠 と し て 反 社 属 性 の み で「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 が 充 足 さ れ 重 大 事 由 解 除 権 行 使 が 可 能 で あ る と す る 立 場 に お い て も 、 個 別 属 性 と 重 大 事 由 解 除 権 行 使 の 関 係 に つ い て は 検 討 が な さ れ て い な い 。 ま た 、旧 約 款 契 約 お よ び 旧 々 約 款 契 約3の 解 除 に つ い て は 行 為 要 件 そ の 他 の 事 情 を
1 厳 密 に 言 え ば 、「 反 社 会 的 勢 力 」 は 「 暴 力 団 」 を 包 摂 す る 広 い 概 念 で あ る が 、 暴 力 団 は 反 社 会 的 勢 力 の 中 心 と い え る こ と か ら 、本 稿 で は 暴 力 団 排 除 条 項 を「 反 社 会 的 勢 力 排 除 を 目 的 と し た 条 項 」 の 意 味 で 用 い る 。
2 藤 本 和 也 「 暴 力 団 排 除 条 項 と 保 険 契 約 」 保 険 学 雑 誌 621号 (2013)99頁 参 照 。「 組 織 的 に 統 制 さ れ た 状 態 で 違 法・脱 法 的 手 段 を 用 い て 経 済 的 利 益 を 獲 得 す る 反 社 に 所 属 す る 者 は 、犯 罪 行 為 に 手 を 染 め る こ と が 約 束 さ れ た 存 在 で あ り 、将 来 、保 険 金 の 不 正 請 求 に 関 与 す る 蓋 然 性 は 通 常 人 に 比 べ て 相 当 に 高 い 」 の で あ っ て 、「 反 社 に 属 す る こ と 自 体 で 保 険 金 の 不 正 請 求 を 招 来 す る 高 い 蓋 然 性 が あ る こ と を も っ て 信 頼 関 係 が 破 壊 さ れ た と 考 え る こ と は 、モ ラ ル ・ リ ス ク 排 除 を 念 頭 に 置 く 重 大 事 由 解 除 の 趣 旨 に 反 し な い 。保 険 者 は 、保 険 契 約 者 等 が 将 来 に お い て 保 険 金 の 不 正 請 求 等 の 保 険 制 度 の 健 全 性 を 害 す る 行 為 を 行 わ な い こ と を 信 頼 し て 保 険 契 約 を 締 結 す る の で あ り 、保 険 契 約 者 等 が 将 来 に お い て 保 険 金 の 不 正 取 得 等 を 行 う 蓋 然 性 が 高 い 集 団 に 属 す る こ と 自 体 、保 険 者 と の 信 頼 関 係 を 破 壊 す る 事 情 で あ る と い う べ き 」こ と か ら 、反 社 属 性 の み で 信 頼 関 係 が 破 壊 さ れ る こ と に よ り 重 大 事 由 解 除 権 の 行 使 を 可 能 と す る 見 解 で あ る 。
こ の 見 解 は 、 保 険 法 に お け る 重 大 事 由 解 除 の 包 括 条 項 を 根 拠 に 保 険 契 約 か ら 反 社 を 排 除 す る 。暴 排 条 項 導 入 後 の 新 約 款 契 約 で あ れ ば 重 大 事 由 解 除 の 具 体 化 で あ る 暴 排 条 項 を 直 接 の 根 拠 と し て 、暴 排 条 項 導 入 前 の 旧 約 款 契 約 お よ び 旧 々 約 款 契 約 で あ れ ば 保 険 法 を 直 接 の 根 拠 と し て( 保 険 法 附 則 3条1項 に よ り 重 大 事 由 解 除 は 遡 及 適 用 さ れ る 。)、保 険 契 約 か ら の 反 社 排 除 を 可 能 と す る( す な わ ち 、暴 排 条 項 が 存 在 し な い 場 合 で あ っ て も 、理 論 上 は 反 社 属 性 の み に 基 づ く 重 大 事 由 解 除 権 行 使 が 可 能 で あ る 。ま た 、暴 排 条 項 は 重 大 事 由 解 除 の 包 括 条 項 の 枠 内 に あ れ ば 適 法 で あ る と 考 え る こ と に な る 。)
3 藤 本 ・ 前 掲 註 2)105頁 註 51) に お い て は 、「 旧 約 款 に は 、 保 険 法 施 行 後 の 約 款 で 重 大 事 由 解 除 に 関 す る 条 項 が 導 入 さ れ た も の と 、保 険 法 施 行 前 の 約 款 で 重 大 事 由 解 除 に 関 す る 条 項 が
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考 慮 す べ き と の 見 解 も 見 ら れ る が 、 保 険 契 約 者 等 の 行 為 を 考 慮 し 得 る と し て も 如 何 な る 性 質 の 行 為 で あ れ ば 考 慮 可 能 か に つ い て は 検 討 の 余 地 が あ る 。 更 に は 、 対 立 抗 争 、 反 社 排 除 の 社 会 的 要 請 、 公 序 良 俗 違 反 と い っ た 要 素 が 「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 に 影 響 を 及 ぼ す の か 否 か は 未 だ 明 確 と は 言 え な い 。 そ も そ も 、 反 社 属 性 の み を も っ て 重 大 事 由 解 除 権 行 使 が 可 能 と す べ き か 否 か に つ い て は 議 論 の 余 地 が あ る と こ ろ4、近 時 、反 社 属 性 の み に 基 づ く 重 大 事 由 解 除 権 の 行 使 の 可 否 に 関 す る 新 た な 見 解 が 示 さ れ た5。そ れ ら の 論 拠 を 手 が か り と し て 、重 大 事 由 解 除 に お け る「 信 頼 関 係 破 壊 」 と は 何 か を 明 確 に す る 必 要 が あ る と 思 わ れ る 。
以 上 の 点 に 検 討 を 加 え 、 重 大 事 由 解 除 の 包 括 条 項 お よ び 「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 の 機 能 や 限 界 を 明 確 化 す る た め の 一 助 と な る と と も に 、 反 社 属 性 の み に 基 づ く 重 大 事 由 解 除 権 ( お よ び そ の 具 体 化 で あ る 暴 排 条 項 ) 行 使 の 正 当 化 を 試 み る こ と が 本 稿 の 目 的 で あ る 。
2 . 重 大 事 由 解 除 に 基 づ く 反 社 会 的 勢 力 排 除 の 法 理 の 展 開
( 1 ) 個 別 属 性 と 「 信 頼 関 係 破 壊 」
導 入 さ れ て い な い 約 款 が 考 え ら れ る 」と し た が 、厳 密 に は 、重 大 事 由 解 除 条 項 が 導 入 さ れ て い な い 保 険 法 施 行 前 の 約 款 に 基 づ く 契 約 と 重 大 事 由 解 除 条 項 が 導 入 さ れ て い る 保 険 法 施 行 後 か ら 暴 排 条 項 導 入 ま で の 約 款 に 基 づ く 契 約 に 二 つ が 存 在 す る 。そ こ で 、保 険 法 施 行 前 の 約 款 に 基 づ く 契 約 を「 旧 々 約 款 契 約 」、保 険 法 施 行 後 暴 排 条 項 導 入 前 の 約 款 に 基 づ く 契 約 を「 旧 約 款 契 約 」、 暴 排 条 項 導 入 後 の 約 款 に 基 づ く 契 約 を 「 新 約 款 契 約 」 と よ ぶ こ と に し た い 。
4 属 性 の み に 基 づ く 重 大 事 由 解 除 権 行 使 に つ い て は 、 宮 根 宏 一 「 片 面 的 強 行 規 定 の 『 趣 旨 』 と の 抵 触 に 関 す る 判 断 と 脱 法 行 為 論 」 保 険 学 雑 誌 614号5頁 註 12)(2011)、 嶋 寺 基 「 新 保 険 法 の 下 に お け る 保 険 者 の 解 除 権 - 重 大 事 由 に よ る 解 除 の 適 用 場 面 を 中 心 に 」『 石 川 正 先 生 古 希 記 念 論 文 集 経 済 社 会 と 法 の 役 割 』( 株 式 会 社 商 事 法 務・2013)838頁 、山 下 友 信 = 永 沢 徹 編 『 論 点 体 系 保 険 法 1( 総 則 、 損 害 保 険 )』288 頁 〔 山 下 典 孝 〕( 第 一 法 規 ・2014)、 山 下 友 信 = 永 沢 徹 編『 論 点 体 系 保 険 法 2( 生 命 保 険 、傷 害 疾 病 定 額 保 険 、雑 則 )』215頁〔 山 下 典 孝 〕( 第 一 法 規 ・2014) 参 照 。
5 反 社 属 性 の み に 基 づ く 重 大 事 由 解 除 権 行 使 の 可 能 性 に 言 及 す る も の と し て 、 落 合 誠 一 監 修・編 著『 保 険 法 コ ン メ ン タ ー ル( 傷 害 保 険・傷 害 疾 病 保 険 )第 2版 』177頁〔 榊 素 寛 〕( 公 益 財 団 法 人 損 害 保 険 事 業 総 合 研 究 所 ・2014)、 天 野 康 弘 「 重 大 事 由 解 除 と 反 社 会 的 勢 力 の 排 除 に つ い て 」 保 険 学 雑 誌 629 号 (2015)181頁 参 照 。
一 方 、 反 社 属 性 の み に 基 づ く 重 大 事 由 解 除 権 行 使 に 疑 問 を 呈 す る も の と し て 、 潘 阿 憲 「 生 命 保 険 契 約 と 重 大 事 由 解 除 」生 命 保 険 論 集 192号(2015)20頁 以 下 参 照 。こ の 見 解 は 、「 反 社 会 的 勢 力 に 属 す る こ と 自 体 で 保 険 金 の 不 正 請 求 を 招 来 す る 高 い 蓋 然 性 が あ る こ と を も っ て 信 頼 関 係 が 破 壊 さ れ た と 考 え る の は 、 短 絡 的 す ぎ る よ う に 思 わ れ る 。」、「 保 険 契 約 者 等 が 反 社 会 的 勢 力 で あ る こ と 、ま た は 反 社 会 的 勢 力 と の 間 に 一 定 の 関 係 性 を 有 す る こ と が 、た だ ち に 保 険 者 の 信 頼 を 損 な い 、保 険 契 約 の 存 続 を 困 難 と す る と 評 価 し て よ い の か 、な お 慎 重 に 検 討 す べ き で は な か ろ う か 。」 と 指 摘 す る 。
反 社 属 性 の み で 「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 が 充 足 さ れ る と 考 え る か 否 か は 、 保 険 契 約 か ら の 反 社 排 除 の 実 務 に 重 大 な 影 響 を 及 ぼ す こ と か ら 、 今 後 も 慎 重 に 検 討 さ れ る べ き 課 題 で あ る 。
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反 社 該 当 者 は 保 険 金 の 不 正 請 求 に 関 与 す る 高 度 の 蓋 然 性 を 有 す る こ と を 根 拠 と し て 反 社 属 性 の み に 基 づ く 重 大 事 由 解 除 権 行 使 は 保 険 法 上 許 容 さ れ る と す る 考 え 方 は 属 性 と モ ラ ル ・ リ ス ク と の 関 連 性 を 理 論 上 の 前 提 と し て お り 、 モ ラ ル ・ リ ス ク と 関 連 性 を 有 し な い 属 性 の み に 基 づ く 重 大 事 由 解 除 権 行 使 は 許 容 さ れ な い こ と と な る が 、 個 別 属 性 と 「 信 頼 関 係 破 壊 」 の 関 係 に つ い て は 十 分 に 検 討 さ れ て い な い 。 そ こ で 、 個 別 属 性 と モ ラ ル ・ リ ス ク と の 関 連 性 に つ い て 検 討 を 行 う 。
従 来 、 反 社 属 性 に 基 づ く 重 大 事 由 解 除 権 行 使 の 可 否 は 、 反 社 の 代 表 で あ る 暴 力 団 を 念 頭 に 置 い て 検 討 さ れ て き た 。も っ と も 、反 社 に は 、「 暴 力 団 」、「 暴 力 団 員 」、
「 暴 力 団 準 構 成 員 」、「 暴 力 団 関 係 企 業 」だ け で な く 、「 総 会 屋 等 」、「 社 会 運 動 等 標 榜 ゴ ロ ( 政 治 活 動 標 榜 ゴ ロ ・ え せ 右 翼 、 え せ 同 和 等 )」、「 特 殊 知 能 暴 力 集 団 等 」、
「 そ の 他 こ れ ら に 準 ず る 者 」 な ど も 該 当 す る6。 保 険 約 款 は 、 例 え ば 、「 暴 力 団 、 暴 力 団 員 ( 暴 力 団 員 で な く な っ た 日 か ら 5 年 を 経 過 し な い 者 を 含 み ま す 。)、 暴 力 団 準 構 成 員 、暴 力 団 関 係 企 業 そ の 他 の 反 社 会 的 勢 力 を い い ま す 。」と 反 社 を 定 義 し て お り7、「 そ の 他 の 反 社 会 的 勢 力 」 に は 、 文 言 上 、 総 会 屋 等 、 社 会 運 動 等 標 榜 ゴ ロ( 政 治 活 動 標 榜 ゴ ロ・え せ 右 翼 、え せ 同 和 等 )、特 殊 知 能 暴 力 集 団 等 、準 暴 力 団 、 そ の 他 こ れ ら に 準 ず る 者 が 含 ま れ 得 る こ と に な る 。
こ れ ら の う ち 、 暴 力 団8、 暴 力 団 員9、 暴 力 団 準 構 成 員10、 暴 力 団 関 係 企 業 ( フ ロ ン ト 企 業 )11は 、 従 来 か ら 反 社 と し て 検 討 を 行 っ て き た 対 象 で あ り 、 モ ラ ル ・ リ ス ク を 招 来 す る 高 度 の 蓋 然 性 を 有 す る 存 在 で あ る と 位 置 付 け る こ と に な る 。 ま た 、 準 暴 力 団12は 、 暴 力 団 と 同 程 度 の 明 確 な 組 織 性 は 有 し な い が 「 暴 力 団 に 準 ず
6 警 察 庁 組 織 犯 罪 対 策 部 暴 力 団 対 策 課・組 織 犯 罪 対 策 企 画 課「 平 成 26年 の 暴 力 団 情 勢 」参 照 。
7 共 栄 火 災 海 上 保 険 株 式 会 社 「 総 合 自 動 車 保 険 (KAPく る ま る )」( 平 成 27年 (2015年 )10 月 1日 ~ ) 普 通 保 険 約 款 第5章 第 13条 参 照 。
8 そ の 団 体 の 構 成 員( そ の 団 体 の 構 成 団 体 の 構 成 員 を 含 む 。)が 集 団 的 に 又 は 常 習 的 に 暴 力 的 不 法 行 為 等 を 行 う こ と を 助 長 す る お そ れ が あ る 団 体 」 を い う 。
9 暴 力 団 の 構 成 員 を い う 。
10 暴 力 団 又 は 暴 力 団 員 の 一 定 の 統 制 の 下 に あ っ て 、暴 力 団 の 威 力 を 背 景 に 暴 力 的 不 法 行 為 等 を 行 う お そ れ が あ る 者 又 は 暴 力 団 若 し く は 暴 力 団 員 に 対 し 資 金 、武 器 等 の 供 給 を 行 う な ど 暴 力 団 の 維 持 若 し く は 運 営 に 協 力 す る 者 の う ち 暴 力 団 員 以 外 の も の を い う 。
11 暴 力 団 員 が 実 質 的 に そ の 経 営 に 関 与 し て い る 企 業 、 準 構 成 員 若 し く は 元 暴 力 団 員 が 実 質 的 に 経 営 す る 企 業 で あ っ て 暴 力 団 に 資 金 提 供 を 行 う な ど 暴 力 団 の 維 持 若 し く は 運 営 に 積 極 的 に 協 力 し 、若 し く は 関 与 す る も の 又 は 業 務 の 遂 行 等 に お い て 積 極 的 に 暴 力 団 を 利 用 し 暴 力 団 の 維 持 若 し く は 運 営 に 協 力 し て い る 企 業 を い う 。
12 暴 力 団 に 準 ず る 集 団 で あ り 、 暴 力 団 と 同 程 度 の 明 確 な 組 織 性 は 有 し な い も の の 、 こ れ に 属 す る 者 が 集 団 的 に 又 は 常 習 的 に 暴 力 的 不 法 行 為 等 を 行 っ て い る と こ ろ 、こ う し た 暴 力 団 に 準
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る 集 団 」 で あ る こ と か ら 、 同 様 に 考 え て よ い と 思 わ れ る 。
た だ 、 特 殊 知 能 暴 力 集 団 等13は 、「 暴 力 団 と の 関 係 を 背 景 に 、 そ の 威 力 を 用 い 、 又 は 暴 力 団 と 資 金 的 な つ な が り を 有 し 、 構 造 的 な 不 正 の 中 核 」 で あ り 、 い わ ゆ る 振 り 込 め 詐 欺 等 を 行 っ て い る 集 団 又 は 個 人 で あ る が 、 こ れ ら の 者 が 直 ち に モ ラ ル ・ リ ス ク を 招 来 す る 高 度 の 蓋 然 性 を 有 す る と の か 否 か は 、 暴 力 団 と の 距 離 や 一 体 性 に よ り 異 な る 可 能 性 が あ る 。ま た 、共 生 者14は 、「 暴 力 団 に 利 益 を 供 与 す る こ と に よ り 、 暴 力 団 の 威 力 、 情 報 力 、 資 金 力 等 を 利 用 し 自 ら の 利 益 拡 大 を 図 る 者 」 で あ る が 、そ の 外 延 は 広 く 曖 昧 で あ り 多 様 な 者 が 含 ま れ 得 る 。「 暴 力 団 又 は 暴 力 団 員 と 社 会 的 に 非 難 さ れ る べ き 関 係 」を 有 す る 者 で あ る 密 接 交 際 者15も 同 様 で あ る 。 こ れ ら に つ い て は 、 モ ラ ル ・ リ ス ク と の 関 連 性 に つ き デ ー タ 集 積 お よ び 分 析 検 討 を 行 っ て い く 必 要 が あ る と 思 わ れ る 。
一 方 、総 会 屋16、会 社 ゴ ロ17、新 聞 ゴ ロ18に つ い て は 、該 当 者 が 直 ち に モ ラ ル ・ リ ス ク を 招 来 す る 高 度 の 蓋 然 性 を 有 す る 者 で あ る と 評 価 す る こ と に は 疑 問 が 残 る 。 こ れ ら は 確 か に 違 法 行 為 を 行 う 高 度 の 蓋 然 性 を 有 す る 者 で は あ る が 、 モ ラ ル ・ リ ス ク を 招 来 す る 高 度 の 蓋 然 性 を 有 す る 者 で あ る と 評 価 す る こ と は 難 し い よ う に 思 わ れ る 。社 会 運 動 標 ぼ う ゴ ロ19、政 治 活 動 標 ぼ う ゴ ロ20に つ い て も 同 様 で あ ろ う21。 ず る 集 団 に 属 す る 者 を い う ( 平 成 25年3月7日 警 察 庁 刑 事 局 組 織 犯 罪 対 策 部 通 達 「 準 暴 力 団 に 関 す る 実 態 解 明 及 び 取 締 り の 強 化 に つ い て 」 参 照 。)。
13 上 記 に 掲 げ る 者 ( 筆 者 註 : 暴 力 団 、 暴 力 団 員 、 暴 力 団 準 構 成 員 、 暴 力 団 関 係 企 業 、 総 会 屋 等 、社 会 運 動 等 標 榜 ゴ ロ )以 外 の も の で あ っ て 、暴 力 団 と の 関 係 を 背 景 に 、そ の 威 力 を 用 い 、 又 は 暴 力 団 と 資 金 的 な つ な が り を 有 し 、構 造 的 な 不 正 の 中 核 と な っ て い る 集 団 又 は 個 人 を い う 。
14 暴 力 団 に 利 益 を 供 与 す る こ と に よ り 、 暴 力 団 の 威 力 、 情 報 力 、 資 金 力 等 を 利 用 し 自 ら の 利 益 拡 大 を 図 る 者 を い う 。
15 暴 力 団 又 は 暴 力 団 員 と 社 会 的 に 非 難 さ れ る べ き 関 係 を 有 し て い る と 認 め ら れ る 者 を い う 。
16 単 元 株 を 保 有 し 、 株 主 総 会 で 質 問 、 議 決 等 を 行 う な ど 株 主 と し て 活 動 す る 一 方 、 コ ン サ ル タ ン ト 料 、新 聞 、雑 誌 等 の 購 読 料 、賛 助 金 等 の 名 目 で 株 主 権 の 行 使 に 関 し て 企 業 か ら 不 当 に 利 益 の 供 与 を 受 け 又 は 受 け よ う と し て い る 者 を い う 。
17 総 会 屋 、 新 聞 ゴ ロ 以 外 で 、 企 業 等 を 対 象 と し て 、 経 営 内 容 、 役 員 の 不 正 等 に 付 け 込 み 、 賛 助 会 等 の 名 目 で 金 品 を 喝 取 す る な ど 暴 力 的 不 法 行 為 を 常 習 と し 又 は 常 習 と す る お そ れ の あ る 者 を い う 。
18 総 会 屋 以 外 で 、 新 聞 、 雑 誌 等 の 報 道 機 関 の 公 共 性 を 利 用 し 、 企 業 等 の 経 営 内 容 、 役 員 の 不 正 等 に 付 け 込 み 、広 告 料 、雑 誌 購 読 料 等 の 名 目 で 金 品 を 喝 取 す る な ど 暴 力 的 不 法 行 為 を 常 習 と し 又 は 常 習 と す る お そ れ の あ る 者 を い う 。
19 社 会 運 動 を 仮 装 し 、 又 は 標 ぼ う し て 、 不 正 な 利 益 を 求 め て 暴 力 的 要 求 行 為 等 を 行 う お そ れ が あ り 、 市 民 生 活 の 安 全 に 脅 威 を 与 え る 者 を い う 。
20 政 治 活 動 を 仮 装 し 、 又 は 標 ぼ う し て 、 不 正 な 利 益 を 求 め て 暴 力 的 要 求 行 為 等 を 行 う お そ れ が あ り 、 市 民 生 活 の 安 全 に 脅 威 を 与 え る 者 を い う 。
21 現 在 の 暴 排 条 項 は 「 そ の 他 の 反 社 会 的 勢 力 」 に 該 当 す れ ば 重 大 事 由 解 除 権 行 使 を 可 能 と し
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反 社 属 性 を 有 す る 者 は モ ラ ル ・ リ ス ク を 招 来 す る 高 度 の 蓋 然 性 を 有 す る こ と を 前 提 に 属 性 の み で 「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 が 充 足 さ れ 重 大 事 由 解 除 権 行 使 が 正 当 化 さ れ る と す る 立 場 に お い て は 、 属 性 と モ ラ ル ・ リ ス ク の 関 連 性 が 理 論 上 極 め て 重 要 と な る 。 モ ラ ル ・ リ ス ク と の 関 連 性 を 有 し な い 個 別 属 性 に 基 づ く 重 大 事 由 解 除 権 行 使 は 困 難 で あ る 。 個 別 の 属 性 を 有 す る 保 険 契 約 者 等 と モ ラ ル ・ リ ス ク の 関 連 性 が 切 断 さ れ た 場 合 に は 、 当 該 属 性 の み に 基 づ き 重 大 事 由 解 除 権 を 行 使 す る こ と は 許 容 さ れ な い 。仮 に 、暴 力 団 員 と モ ラ ル ・リ ス ク の 関 連 性 が 切 断 さ れ る 事 態 が 生 じ る な ら ば 、 暴 力 団 員 と い う 属 性 の み に 基 づ く 重 大 事 由 解 除 権 の 行 使 は 認 め ら れ な い こ と に な る だ ろ う 。 一 方 、 例 え ば 、 保 険 金 詐 欺 を 実 行 す る グ ル ー プ に 加 入 し て い る 者 に つ い て は 、 そ の よ う な 属 性 の み で 「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 が 充 足 さ れ 重 大 事 由 解 除 権 を 行 使 す る 余 地 を 認 め る こ と に な る と 思 わ れ る22。
( 2 ) 保 険 契 約 者 等 の 行 為 と 「 信 頼 関 係 破 壊 」
反 社 属 性 の み で 「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 が 充 足 さ れ 重 大 事 由 解 除 権 行 使 が 認 め ら れ る と す る 立 場 に お い て も 、反 社 属 性 に 加 え て 保 険 契 約 者 等 の 行 為 を 加 味 し て「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 を 判 断 す る こ と は 妨 げ ら れ な い 。 で は 、 保 険 契 約 者 等 が 「 暴 力 的 な 要 求 行 為 」、「 法 的 な 責 任 を 超 え た 不 当 な 要 求 行 為 」、「 取 引 に 関 し て 、 脅 迫 的 な 言 動 を 行 い 、 又 は 、 暴 力 を 用 い る 行 為 」、「 風 説 を 流 布 し 、 偽 計 を 用 い て 信 用 を 毀 損 し 、 又 は 業 務 を 妨 害 す る 行 為 」、「 そ の 他 、 こ れ ら に 準 ず る 行 為 」23を 行 っ た 場 合 、何 ら 制 限 な く 直 ち に「 信 頼 関 係 破 壊 」が 導 か れ る と 考 え て よ い の だ ろ う か 。
保 険 者 と 保 険 契 約 者 等 の 間 の「 信 頼 関 係 」は 、「 保 険 契 約 者 等 が 将 来 に お い て 保 険 金 の 不 正 請 求 等 の 保 険 制 度 の 健 全 性 を 害 す る 行 為 を 行 わ な い こ と 」 を 前 提 と し
て い る が 、「 モ ラ ル ・ リ ス ク と 関 連 性 を 有 す る 反 社 」 の み が 「 そ の 他 の 反 社 会 的 勢 力 」 に 該 当 す る と 限 定 解 釈 し て 運 用 す る こ と に よ り 保 険 法 上 の 許 容 性 は 維 持 さ れ る と 考 え ら れ る 。現 在 の 暴 排 条 項 は 過 度 に 曖 昧 な も の で は な く 、限 定 し た 運 用 を 行 う こ と に よ り そ の 適 法 性 は 依 然 と し て 維 持 さ れ る と 考 え ら れ る 。( た だ し 、「 モ ラ ル ・ リ ス ク と 関 連 性 の な い 個 別 属 性 」の み に 基 づ く 重 大 事 由 解 除 に つ い て は 無 効 と な る 。)。今 後 、約 款 に 排 除 対 象 と な る 個 別 属 性 を 明 示 す る こ と も 考 え ら れ る が 、 暴 排 条 項 の 明 確 化 の 観 点 か ら は 望 ま し い と い え る だ ろ う 。
22 反 社 属 性 の み に 基 づ く 重 大 事 由 解 除 の 根 拠 を 、 モ ラ ル ・ リ ス ク で は な く 、 反 社 が 公 序 良 俗 に 反 す る 存 在 で あ る こ と 等 に 置 く 場 合 に は 、 上 記 と 異 な る 帰 結 が 導 か れ る こ と に な る 。
23 こ れ ら の 行 為 が 存 在 し た 場 合 、 行 為 要 件 (「 暴 力 的 な 要 求 行 為 ま た は 法 的 な 責 任 を 超 え た 不 当 要 求 行 為 を 行 う 団 体 ま た は 個 人 」) を 具 備 す る こ と に な る 。
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て い る 。 と す る と 、 暴 力 的 要 求 行 為 や 不 当 要 求 行 為 が 保 険 者 と の 信 頼 関 係 を 破 壊 す る も の で あ る と 評 価 さ れ る た め に は 、 当 該 行 為 が モ ラ ル ・ リ ス ク と の 関 連 性 を 有 す る 必 要 が あ る だ ろ う 。 一 方 、 モ ラ ル ・ リ ス ク と の 関 連 性 を 有 し な い 暴 力 的 要 求 行 為 や 不 当 要 求 行 為 ( 例 え ば 、 募 集 者 や 営 業 担 当 者 と の 個 人 的 ト ラ ブ ル を 根 拠 に 保 険 会 社 に も 因 縁 を つ け 慰 謝 料 や 示 談 金 を 獲 得 し よ う と す る 行 為 な ど 、 悪 質 ク レ ー マ ー と 同 様 の 行 為 が 想 定 さ れ る 。)が「 信 頼 関 係 破 壊 」要 件 の 存 在 を 基 礎 づ け る 事 情 と な り 得 る か 否 か に つ い て は 、 慎 重 な 検 討 が 必 要 と な る だ ろ う ( 保 険 金 支 払 担 当 者 の 態 度 や 言 葉 尻 に 因 縁 を つ け 脅 迫 的 言 辞 を 伴 っ て 保 険 金 増 額 を 要 求 す る 行 為 な ど は 、 モ ラ ル ・ リ ス ク と の 関 連 性 が あ る と い え よ う 。)。
仮 に 、 モ ラ ル ・ リ ス ク と 関 連 性 を 有 し な い 行 為 を 「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 の 存 否 を 判 断 す る 基 礎 事 情 に 含 め 得 る と し た 場 合 、保 険 者 と の「 信 頼 関 係 」は 、「 保 険 契 約 者 等 が 将 来 に お い て 保 険 金 の 不 正 請 求 等 の 保 険 制 度 の 健 全 性 を 害 す る 行 為 を 行 わ な い こ と 」を 超 え て 、よ り 広 く 、「 保 険 契 約 者 等 が モ ラ ル・リ ス ク と の 関 連 性 を 有 し な い 暴 力 的 要 求 行 為 や 不 当 要 求 行 為 な ど を 行 わ な い こ と 」 ま で 含 む も の に 変 容 し て し ま う 危 険 が あ る ( も っ と も 、 モ ラ ル ・ リ ス ク と 関 連 性 を 有 し な い 行 為 は
「 信 頼 関 係 破 壊 」要 件 を 基 礎 づ け る 事 実 と は な ら な い が 、「 契 約 継 続 の 困 難 性 」要 件 を 基 礎 づ け る 事 実 に な り 得 る 。)。
以 上 よ り 、「 信 頼 関 係 破 壊 」要 件 の 存 否 の 判 断 に お い て 保 険 契 約 者 等 の 行 為 を 考 慮 し 得 る も の の 、 モ ラ ル ・ リ ス ク と 関 連 性 を 有 し な い 暴 力 的 要 求 行 為 や 不 当 要 求 行 為 を 考 慮 す る こ と は で き な い と 考 え る べ き で あ る24。
24 「 既 契 約 に つ い て は 、 暴 力 団 等 の 属 性 要 件 だ け で な く 、 行 為 要 件 も 勘 案 し 、 重 大 事 由 解 除 の 包 括 条 項 に 該 当 す る か 他 の モ ラ ル リ ス ク 事 由 と と も に 総 合 的 に 判 断 す る こ と に な ら ざ る を 得 な い 」 と す る 指 摘 が あ る ( 犬 塚 = 加 藤 = 尾 崎 『 暴 力 団 排 除 条 例 と 実 務 対 応 』195 頁 〔 渡 邉 雅 之 〕( 青 林 書 院 ・2014))。 仮 に 、 こ の 指 摘 の 趣 旨 が 、 反 社 が 関 係 す る 旧 約 款 契 約 お よ び 旧 々 約 款 契 約 に つ き 重 大 事 由 解 除 権 を 行 使 す る た め に は 属 性 要 件 に 加 え て 行 為 要 件 の 具 備
( 実 際 に 行 為 が 存 在 し た 事 実 ) を 必 要 と す る も の で あ れ ば 妥 当 で な い 。
も っ と も 、 上 記 指 摘 は 既 契 約 に 変 更 後 の 約 款 の 効 力 が 及 ぶ か 否 か に 関 す る も の で あ る 。 別 途 、「 暴 排 条 項 の 規 定 さ れ て い な い 旧 約 款 契 約 に つ い て も 、 包 括 条 項 に よ り 解 除 が 可 能 で あ る 」 と 記 載 さ れ て お り 、 既 契 約 に つ い て 重 大 事 由 解 除 権 を 行 使 す る 際 に は 、「 旧 約 款 契 約 に つ い て 、理 論 的 に は 属 性 要 件 に 該 当 す れ ば 解 除 は 可 能 で あ る が 、契 約 時 に お い て 暴 排 条 項 が 存 在 し な か っ た こ と や 、こ れ ま で 契 約 が 継 続 し 、保 険 料 が 支 払 わ れ て き た こ と に 鑑 み て 、属 性 要 件 の み で な く 、行 為 要 件 そ の 他 の 事 情 を 考 慮 し 、慎 重 に 検 討 す る 必 要 が あ る 」と 記 載 さ れ て い る こ と か ら ( 同 219頁 )、 上 記 指 摘 は 属 性 要 件 で 足 り る が 、 行 為 要 件 そ の 他 の 事 情 を も 考 慮 し 、 慎 重 に 検 討 す る 必 要 が あ る と の 趣 旨 で 理 解 す べ き で あ ろ う 。
7 3 .「 信 頼 関 係 破 壊 」 の 根 拠
( 1 ) 対 立 抗 争 は 「 信 頼 関 係 破 壊 」 の 根 拠 と な る か
近 時 、 暴 力 団 は 「 全 人 格 的 包 括 的 な 服 従 統 制 下 の 団 体 の 構 成 員 同 士 が 、 不 可 避 的 に 、組 織 的 対 応 と し て 暴 力 行 為 を 伴 っ た 対 立 抗 争 を 発 生 せ し め る 」こ と か ら「 保 険 契 約 の 相 手 方 に 求 め ら れ る 特 別 の 善 意 と 信 義 誠 実 を 期 待 す る こ と は 到 底 で き な い 」の で あ っ て 、「 保 険 者 は 、暴 力 団 員 な ど 反 社 に 属 す る 者 に 対 し 、信 頼 関 係 を そ も そ も 構 築 で き な い 。 し た が っ て 、 両 者 の 間 に は 『 信 頼 を 損 な い 』 以 前 に 『 信 頼 関 係 は 存 在 せ ず 』、『 契 約 の 存 続 は 困 難 』 ど こ ろ か 『 契 約 の 締 結 か ら し て そ も そ も 不 可 能 』と い う 帰 結 」に な り 、「 既 存 保 険 契 約 に お い て も 属 性 の み で 解 除 で き る と 解 す る こ と が 理 論 的 帰 結 で あ る 」 と す る 見 解 が 示 さ れ た25。 こ の 見 解 に お い て 注 目 す べ き は 、 暴 力 団 に よ る 違 法 な 資 金 獲 得 活 動 と な ら ん で 暴 力 団 に よ る 組 織 的 な 対 立 抗 争 を 、「 保 険 契 約 の 相 手 方 に 求 め ら れ る 特 別 の 善 意 と 信 義 誠 実 を 期 待 す る こ と は 到 底 で き な い 」こ と の 根 拠 と し て い る 点 、お よ び 、反 社 該 当 者 と の 間 に は「 契 約 の 締 結 か ら し て そ も そ も 不 可 能 」 と す る 点26に あ る 。
25 天 野 ・ 前 掲 註 5)181頁 参 照 。
こ の 見 解 は 、「 集 団 的 に 又 は 常 習 的 に 暴 力 的 不 法 行 為 等 を 行 う こ と を 助 長 す る お そ れ が あ る 団 体 の 構 成 員 が 、団 体 の 威 力 を 利 用 し て 、多 様 化・不 透 明 化 し た 活 動 実 態 の も と で 多 種 多 様 な 資 金 獲 得 活 動 を 行 い 利 益 の 獲 得 を 追 求 し 、そ の 際 に 、他 の 団 体 と 緊 張 関 係 が 生 じ れ ば 、全 人 格 的 包 括 的 な 服 従 統 制 下 の 団 体 の 構 成 員 同 士 が 、不 可 避 的 に 、組 織 的 対 応 と し て 暴 力 行 為 を 伴 っ た 対 立 抗 争 を 発 生 せ し め る と い う も の で あ る 」 こ と か ら 、「 保 険 契 約 の 相 手 方 に 求 め ら れ る 特 別 の 善 意 と 信 義 誠 実 を 期 待 す る こ と は 到 底 で き な い と 評 価 せ ざ る を え な い 」と し て 、
「 保 険 者 は 、暴 力 団 員 な ど 反 社 に 属 す る 者 に 対 し 、信 頼 関 係 を そ も そ も 構 築 で き な い 。し た が っ て 、両 者 の 間 に は『 信 頼 を 損 な い 』以 前 に『 信 頼 関 係 は 存 在 せ ず 』、『 契 約 の 存 続 は 困 難 』 ど こ ろ か 『 契 約 の 締 結 か ら し て そ も そ も 不 可 能 』 と い う 帰 結 に な る 」 と す る 。
26 こ の 見 解 が 「 契 約 の 締 結 か ら し て そ も そ も 不 可 能 」 と す る の は 、 反 社 該 当 者 と の 保 険 契 約 は 「 契 約 継 続 の 困 難 性 」 要 件 を 充 足 す る こ と を 示 す 趣 旨 で あ ろ う 。
も っ と も 、「 契 約 の 締 結 か ら し て そ も そ も 不 可 能 」と の 記 載 が 、仮 に「 特 別 の 善 意 と 信 義 誠 実 を 期 待 す る こ と が 到 底 で き な い 者 」と の 保 険 契 約 締 結 自 体 が そ も そ も 不 可 能 で あ り 、そ の よ う な 者 と の 保 険 契 約 は そ も そ も 成 立 し 得 な い と す る 趣 旨 な ら ば 、妥 当 で は な い 。保 険 法 は 、 保 険 金 詐 欺 を 企 図 し て 保 険 に 加 入 し よ う と す る 者 で あ っ て も 保 険 契 約 の 成 立 自 体 は 否 定 し て お ら ず 、保 険 契 約 締 結 時 点 で 保 険 金 詐 欺 を 企 図 し て い た こ と が 契 約 締 結 後 に 判 明 し た 場 合 に お い て も 、保 険 契 約 が 直 ち に 不 成 立 も し く は 無 効 に な る わ け で は な い 。保 険 者 に よ る 重 大 事 由 解 除 権 行 使 は 、成 立 し た 保 険 契 約 か ら 保 険 者 を 離 脱 さ せ る と 共 に 保 険 制 度 を 悪 用 し よ う と す る 者 に 対 し て 保 険 制 度 を 通 じ た 利 益 を 与 え な い こ と を 可 能 と す る が 、保 険 法 は 保 険 制 度 を 悪 用 し よ う と 企 図 す る 者 と の 保 険 契 約 締 結 自 体 は 否 定 し て い な い( 新 約 款 は 反 社 該 当 者 と の 保 険 契 約 締 結 自 体 は 否 定 し て お ら ず 、自 賠 責 保 険 も 反 社 該 当 者 と の 契 約 締 結 を 可 能 と し て い る 。)。
保 険 契 約 締 結 前 に 保 険 契 約 申 込 者 が 反 社 該 当 者 で あ る と 判 明 し た 場 合 、 保 険 者 が そ の 者 と の 契 約 締 結 を 拒 絶 す る 法 的 根 拠 は「 契 約 自 由 の 原 則 」に あ る 。特 別 の 善 意 と 信 義 誠 実 を 期 待
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し か し 、 保 険 契 約 に お い て 契 約 関 係 者 に 特 別 の 善 意 と 信 義 誠 実 が 要 請 さ れ る の は 、 保 険 契 約 が 射 倖 性 を 有 す る こ と か ら 保 険 制 度 の 健 全 性 を 害 す る モ ラ ル ・ リ ス ク を 招 来 す る 危 険 が あ り 、 こ れ を 防 止 す る 必 要 が あ る か ら で あ る 。 対 立 抗 争 は 暴 力 団 に と っ て の 「 縄 張 や 威 力 、 威 信 の 維 持 回 復 の た め の 組 織 的 対 応 」 と し て 行 わ れ27、 一 般 市 民 の 安 全 や 社 会 の 平 穏 に 重 大 な 脅 威 を 与 え る も の で あ る 。 そ れ 故 、 暴 力 団 に と っ て 対 立 抗 争 が 不 可 避 で あ る こ と は 、「 暴 力 団 員 等 が 一 般 市 民 の 安 全 や 社 会 の 平 穏 に 重 大 な 脅 威 を 与 え る 行 為 を 行 う 高 度 の 蓋 然 性 を 有 す る こ と 」 の 基 礎 付 け に な る だ ろ う 。 し か し 、 対 立 抗 争 そ れ 自 体 が 保 険 金 の 不 正 請 求 に 向 け ら れ た も の で あ る と は 言 い 難 く 、 モ ラ ル ・ リ ス ク と 直 接 の 関 連 性 を 有 す る 事 情 と は い え な い で あ ろ う ( た だ し 、 対 立 抗 争 状 態 が 生 ず る こ と に よ り 渦 中 に あ る 暴 力 団 員 の 生 命 ・ 身 体 の 危 険 は 増 大 す る た め 、 死 亡 や 傷 害 の 発 生 に 関 す る 客 観 的 危 険 は 増 加 す る 。こ の 点 は 引 受 時 の リ ス ク 評 価 の 問 題 と し て 論 じ ら れ る べ き と 考 え ら れ る 。)。
し た が っ て 、 暴 力 団 が 対 立 抗 争 を 行 う 可 能 性 を 有 す る こ と か ら 特 別 の 善 意 と 信 義 誠 実 を 期 待 で き な い と し て 信 頼 関 係 の 不 存 在 を 導 く こ と は 、 困 難 で あ る 。 モ ラ ル ・ リ ス ク と 直 接 の 関 連 性 を 有 し な い 対 立 抗 争 と い う 事 情 を 、 モ ラ ル ・ リ ス ク と の 関 連 を 問 う「 信 頼 関 係 破 壊 」要 件 の 判 断 要 素 と す る こ と は で き な い と 思 わ れ る 。
( 2 ) 反 社 排 除 の 社 会 的 要 請 と 「 信 頼 関 係 破 壊 」
ア 反 社 排 除 の 社 会 的 要 請 は 「 信 頼 関 係 破 壊 」 の 根 拠 と な る か
反 社 属 性 の み に 基 づ き 「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 が 充 足 さ れ る と の 結 論 を 導 く た め に 、 反 社 排 除 の 社 会 的 要 請 が 存 在 す る こ と を 根 拠 に す る こ と は 可 能 で あ ろ う か 。
保 険 法 は 包 括 条 項 に 基 づ く 重 大 事 由 解 除 権 行 使 に 際 し 、「 信 頼 関 係 破 壊 」要 件 の 充 足 を 求 め て い る 。保 険 法 に 重 大 事 由 解 除 が 規 定 さ れ た 趣 旨 は 、「 保 険 契 約 は 保 険 契 約 者 等 と 保 険 者 と の 間 の 信 頼 関 係 を 前 提 と す る と こ ろ 、 保 険 者 に 保 険 契 約 維 持 を 期 待 す る こ と が で き な い 場 合 に は 信 頼 関 係 が 破 壊 さ れ た も の と し て 、 保 険 者 の
す る こ と が 到 底 で き な い 者 に つ い て は 信 頼 関 係 を 構 築 で き な い こ と を も っ て 、保 険 契 約 の 成 立 は 不 可 能 で あ る と の 帰 結 を 導 く こ と は 理 論 的 に 困 難 で あ る 。
27 最 判 平 成 16年11月 12日 民 集 58巻 8号2078頁 参 照 。
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一 方 的 な 解 除 を 認 め る 点 」28に あ る 。 重 大 事 由 解 除 は 保 険 の 健 全 性 を 害 す る 不 正 利 用 事 案 に 対 処 す る た め に 設 け ら れ た 規 定 で あ り 、「 信 頼 関 係 破 壊 」要 件 は 解 除 対 象 と な る 保 険 契 約 に お い て 後 に 不 正 請 求 が 行 わ れ る 可 能 性 を 前 提 と し て 考 察 さ れ て き た29。し た が っ て 、保 険 者 の「 信 頼 」は 、「 保 険 契 約 者 等 が 将 来 に お い て 保 険 金 の 不 正 請 求 等 の 保 険 制 度 の 健 全 性 を 害 す る 行 為 ( モ ラ ル ・ リ ス ク を 招 来 す る 行 為 ) を 行 わ な い こ と 」 に 向 け ら れ る の で あ り 、 重 大 事 由 解 除 権 行 使 に 際 し て は 、 こ の よ う な 意 味 で の 「 信 頼 関 係 破 壊 」 が 要 求 さ れ る こ と に な る30。 そ れ 故 、 保 険 者 の 「 信 頼 」 は あ く ま で も 保 険 契 約 者 等 が 将 来 に お い て 保 険 金 の 不 正 請 求 等 の 保 険 制 度 の 健 全 性 を 害 す る 行 為 を 行 わ な い こ と に 向 け ら れ る こ と に な る 。
し か し な が ら 、保 険 者 は 、「 反 社 を 保 険 契 約 か ら 排 除 す る こ と が 社 会 的 に 要 請 さ れ て い る 」 か ら 保 険 契 約 者 等 が 反 社 に 該 当 し な い こ と に 「 信 頼 」 を 向 け る わ け で は な い 。反 社 排 除 の 社 会 的 要 請 そ れ 自 体 は 、モ ラ ル ・リ ス ク と の 関 連 性 を 有 し な い の で あ り 、そ れ 故 、「 信 頼 関 係 破 壊 」要 件 を 基 礎 づ け る 事 情 に は な ら な い( そ れ は む し ろ 、「 契 約 存 続 の 困 難 性 」を 基 礎 づ け る 事 情 で あ る 。)。仮 に 、保 険 者 が 、モ ラ ル ・ リ ス ク と の 関 連 性 を 問 わ ず 、 反 社 排 除 の 社 会 的 要 請 が 存 在 す る こ と を も っ て 保 険 契 約 者 等 が 反 社 に 該 当 し な い こ と に 信 頼 を 向 け る の だ と す れ ば 、 そ の よ う な 信 頼 は 保 険 法 の 重 大 事 由 解 除 が 想 定 す る 「 信 頼 」 と は 異 な る も の で あ る 。 保 険 法 は 、 暴 力 団 や 信 念 の た め に は 殺 人 も 否 定 し な い テ ロ 集 団 や カ ル ト 宗 教 団 体 と い っ た 反 社 会 的 集 団 に 属 す る こ と の み を 根 拠 と し た 重 大 事 由 解 除 権 行 使 を 認 め て は い な い 。 保 険 者 の 「 信 頼 」 を 広 く 解 し た う え で 重 大 事 由 解 除 権 行 使 の 可 否 を 判 断 す る な ら ば 、 重 大 事 由 解 除 の 濫 用 に 繋 が る 危 険 が 高 ま る の で あ り 、 モ ラ ル ・ リ ス ク と 関 連 性 を 有 し な い 事 情 を 「 信 頼 」 の 対 象 に す る こ と は で き な い 。
し た が っ て 、保 険 契 約 か ら の 反 社 排 除 が 社 会 的 に 要 請 さ れ て い る と い う 事 情 は 、
28 落 合 誠 一 監 修 ・ 編 著 『 保 険 法 コ ン メ ン タ ー ル ( 損 害 保 険 ・ 傷 害 疾 病 保 険)』99頁 〔 甘 利 公 人 〕( 損 害 保 険 事 業 総 合 研 究 所 、2009)、山 下 友 信 = 米 山 高 生 編『 保 険 法 解 説 』563頁〔 甘 利 公 人 〕( 有 斐 閣 ・2010)、 萩 本 修 編 著 『 一 問 一 答 保 険 法 』97頁 ( 商 事 法 務 、2009) 参 照 。
29 藤 本 ・ 前 掲 註2)98頁 参 照 。
30 そ こ で 、 反 社 に 属 す る 者 は 「 将 来 に お い て 保 険 金 の 不 正 請 求 等 の 保 険 制 度 の 健 全 性 を 害 す る 行 為 を 行 う 高 度 の 蓋 然 性 を 有 す る 」者 で あ る こ と を 前 提 と し て 、保 険 者 に よ る「 信 頼 」は
「 保 険 契 約 者 等 が 反 社 属 性 を 有 し な い こ と 」に 向 け ら れ る こ と に な り 、反 社 属 性 の み に よ り
「 信 頼 関 係 」 が 破 壊 さ れ る こ と に な る と 考 え る の で あ る 。
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「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 を 充 足 さ せ る 理 由 に は な ら な い と い う べ き で あ る 。
イ 社 会 規 範 の 変 化 に よ り 保 険 者 と の 「 信 頼 関 係 」 は 変 容 す る の か
政 府 指 針 の 公 表 後 、 社 会 に お け る 反 社 排 除 の 動 き は 加 速 し 、 社 会 規 範 は 反 社 排 除 に 強 く 傾 い た 。 こ の よ う な 社 会 規 範 の 変 化 に よ り 、 保 険 者 と の 「 信 頼 関 係 」 は 変 容 す る と い え る の で あ ろ う か 。
こ の 点 、「 契 約 当 事 者 間 の 信 頼 関 係 は 、社 会 規 範 の 変 化 と と も に 変 容 し う る 」の で あ り 、 保 険 契 約 は 「 高 度 な 信 義 誠 実 と 最 大 善 意 が 求 め ら れ る 結 果 、 社 会 規 範 の 変 化 に は 敏 感 に な ら ざ る を 得 な い 」と し 、「 政 府 指 針 か ら 始 ま っ た 徹 底 的 な 遮 断 を も と め る 反 社 排 除 の 動 き は 価 値 観 ・ 規 範 の 転 換 」 で あ る こ と か ら 、 属 性 の み に よ る 重 大 事 由 解 除 を 可 能 と す る 見 解 が あ る31。 こ れ は 、 社 会 規 範 の 変 化 に よ り 重 大 事 由 解 除 の 包 括 条 項 の 機 能 が 変 容 し 、モ ラ ル ・リ ス ク 排 除 を 超 え 反 社 会 的 団 体 に 属 す る 者 一 般 の 排 除 す る 機 能 を 有 す る こ と を 許 容 す る 趣 旨 の 見 解 で あ ろ う32。
し か し な が ら 、重 大 事 由 解 除 は あ く ま で も モ ラ ル ・リ ス ク を 排 除 す る た め の 規 定 で あ り 、 社 会 規 範 の 変 化 に よ り そ の 機 能 が 変 容 す る こ と は な い と 思 わ れ る 。 重 大 事 由 解 除 に お け る 包 括 条 項 が モ ラ ル ・リ ス ク と の 関 連 性 な く 反 社 会 的 団 体 に 属 す る 者 一 般 を 保 険 契 約 か ら 排 除 す る 機 能 を 有 す る な ら ば 、 と り わ け 保 険 期 間 が 長 期 と な る 保 険 契 約 の 法 的 安 定 性 を 保 つ こ と が で き な い の で あ り 、 重 大 事 由 解 除 権 の 濫 用 と の 評 価 を 避 け る こ と は 困 難 で は な い か と 思 わ れ る 。
重 大 事 由 解 除 の 包 括 条 項 に お い て 社 会 規 範 の 変 化 や 価 値 観 ・ 規 範 の 転 換 を 考 慮 し て 判 断 す べ き は 、「 契 約 継 続 の 困 難 性 」要 件 で あ る33。保 険 契 約 か ら 反 社 を 排 除 す べ き と の 政 策 的 要 請 は「 契 約 継 続 の 困 難 性 」要 件 の 判 断 要 素 と な る が34、「 契 約 継 続 の 困 難 性 」 が 認 め ら れ た と し て も 、 直 ち に 「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 が 充 足 さ れ
31 天 野 ・ 前 掲 註 5)183頁 参 照 。
32 天 野 ・ 前 掲 註 5)183頁 註 24) 参 照 。
33 社 会 規 範 の 変 化 や 価 値 観 ・ 規 範 の 転 換 と い う 政 策 的 要 請 は 「 契 約 継 続 の 困 難 性 」 要 件 に お い て 評 価 可 能 な 事 情 で あ る が 、「 契 約 継 続 の 困 難 性 」 要 件 の 充 足 の み で 重 大 事 由 解 除 権 を 行 使 す る こ と は で き な い 。「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 の 充 足 が 重 大 事 由 解 除 権 行 使 の 要 件 で あ り 、 保 険 者 の 信 頼 は「 保 険 契 約 者 等 が 招 来 に お い て モ ラ ル・リ ス ク を 招 来 す る 高 度 の 蓋 然 性 を 有 し な い こ と 」 に 置 か れ る の で あ る 。
34 藤 本 ・ 前 掲 註 2)100頁 参 照 。
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る わ け で は な い 。保 険 法 は 、「 契 約 継 続 の 困 難 性 」の 判 断 に お い て 政 策 的 要 請 の 考 慮 を 可 能 と し て い る が 、重 大 事 由 解 除 が モ ラ ル ・リ ス ク 排 除 と い う 役 割 を 超 え て 機 能 す る こ と が な い よ う 、歯 止 め と し て モ ラ ル ・リ ス ク 排 除 を 趣 旨 と す る「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 を 設 け て い る と 解 さ れ る 。「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 に モ ラ ル ・リ ス ク 排 除 を 超 え た 機 能 を 与 え る こ と は 、 許 さ れ な い と 考 え ら れ る 。
ウ 賠 償 責 任 保 険 と 重 大 事 由 解 除35
現 在 、 賠 償 責 任 保 険 に お け る 新 約 款 に は 暴 力 団 排 除 条 項 が 組 み 込 ま れ て お り 、 賠 償 責 任 保 険 契 約 か ら の 反 社 排 除 を 可 能 と し て い る 。 一 方 、 賠 償 責 任 保 険 は 、 加 害 者 が 被 害 者 に 対 し て 支 払 う べ き 損 害 賠 償 金 を 補 償 す る 保 険 商 品 で あ り 、「 被 害 者 保 護 」 と い う 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る 。 そ こ で 、 反 社 が 加 害 者 と な る 賠 償 事 故 が 発 生 し た 際 に は 重 大 事 由 解 除 を 認 め る 一 方 で 免 責 を 制 限 す る こ と に よ り 、 賠 償 責 任 保 険 契 約 か ら の 反 社 排 除 と 「 被 害 者 保 護 」 の バ ラ ン ス を 図 っ て い る 。
も っ と も 、 現 状 に お い て は 反 社 該 当 者 に 対 し て も 自 動 車 運 転 免 許 証 が 交 付 さ れ て お り 、 反 社 が 加 害 者 と な る 交 通 事 故 の 発 生 は 避 け ら れ な い 。 仮 に 、 任 意 の 自 動 車 保 険 か ら 反 社 が 排 除 さ れ る こ と に な れ ば 、 対 人 ・ 対 物 無 保 険 車 両 が 公 道 を 走 行 す る 可 能 性 が 増 大 す る こ と に な る が 、 こ れ は 「 被 害 者 保 護 」 の 観 点 か ら 望 ま し い こ と で は な い だ ろ う 。 こ の よ う な 事 態 に 対 処 す べ く 、 今 後 、 反 社 該 当 者 に は 免 許 証 を 交 付 し な い ( 自 動 車 の 運 転 を 認 め な い ) と の 対 応 も 考 え ら れ る 。 一 方 、 反 社 該 当 者 に 対 し て 従 来 ど お り 自 動 車 の 運 転 を 認 め る こ と も 考 え ら れ 、 こ れ を 前 提 に し た 場 合 、 対 人 ・ 対 物 補 償 に つ い て の み 反 社 該 当 者 の 自 動 車 保 険 へ の 加 入 を 認 め る と い う 約 款 改 定 を 行 う こ と も 考 え ら れ る ( 車 両 保 険 、 人 傷 傷 害 補 償 保 険 に つ い て は 排 除 を 維 持 す る 。)。 後 者 を 採 用 す る 場 合 、 自 動 車 保 険 の 対 人 ・ 対 物 補 償 へ の 反 社 加 入 と 重 大 事 由 解 除 権 と の 関 係 は ど の よ う に 考 え る べ き で あ ろ う か 。
こ の 点 、 反 社 該 当 者 は モ ラ ル ・ リ ス ク を 招 来 す る 高 度 の 蓋 然 性 を 有 す る と の 立 場 に お い て は 反 社 属 性 の み で「 信 頼 関 係 破 壊 」要 件 の 充 足 が 認 め ら れ る と と も に 、
35 藤 本 和 也 「 賠 償 責 任 保 険 か ら の 反 社 会 的 勢 力 排 除 に お け る 課 題 」 金 融 法 務 事 情 2009号39 頁 参 照 。
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保 険 契 約 か ら の 反 社 排 除 の 社 会 的 要 請 が 存 在 す る こ と か ら 「 契 約 継 続 の 困 難 性 」 要 件 の 充 足 も 認 め ら れ る36( 保 険 者 に 重 大 事 由 解 除 権 の 行 使 が 認 め ら れ る 。)。 し か し 、反 社 該 当 者 に も 自 動 車 の 運 転 を 認 め る こ と を 前 提 と し た 上 で「 被 害 者 保 護 」 の 観 点 か ら 反 社 該 当 者 の 自 動 車 保 険 に お け る 対 人 ・ 対 物 補 償 へ の 加 入 を 認 め る 旨 の 社 会 的 コ ン セ ン サ ス が 生 じ る の で あ れ ば 、 こ の 範 囲 で 「 契 約 継 続 の 困 難 性 」 要 件 の 充 足 が 認 め ら れ な い こ と に な る と 考 え ら れ る 。こ の 場 合 、「 信 頼 関 係 破 壊 」要 件 は 充 足 さ れ る が 、「 契 約 継 続 の 困 難 性 」要 件 は 充 足 さ れ な い こ と か ら 、保 険 者 は 重 大 事 由 解 除 権 を 行 使 す る こ と が で き な い と の 帰 結 に な る37。
こ の よ う に 、 被 害 者 保 護 の 観 点 か ら 反 社 該 当 者 の 自 動 車 保 険 に お け る 対 人 ・ 対 物 補 償 へ の 加 入 を 認 め る 旨 の 社 会 的 コ ン セ ン サ ス が 確 立 さ れ た と い え る 場 合 に は 、 保 険 者 は 重 大 事 由 解 除 権 を 行 使 す る こ と が で き な い と 考 え ら れ る 。 た だ し 、 こ の よ う な 社 会 的 コ ン セ ン サ ス は 、 明 確 性 確 保 の 観 点 か ら 、 反 社 該 当 者 で あ っ て も 対 人 ・ 対 物 保 険 に は 加 入 で き る 旨 の 約 款 変 更 に よ っ て 明 ら か に さ れ る べ き で あ る 。 も っ と も 、 反 社 該 当 者 の 対 人 ・ 対 物 保 険 加 入 を 許 容 し た 場 合 で あ っ て も 、 保 険 契 約 者 等 が 反 社 に 該 当 す る 以 上 、 そ れ ら の 者 が モ ラ ル ・ リ ス ク を 招 来 す る 高 度 の 蓋 然 性 を 有 す る こ と に 変 わ り は な い 。如 何 に し て モ ラ ル ・リ ス ク の 招 来 を 防 止 す る の か に つ い て 、 工 夫 が 求 め ら れ る こ と に な る 。
( 3 ) 公 序 良 俗 違 反 と 「 信 頼 関 係 破 壊 」
保 険 契 約 か ら の 反 社 排 除 の 根 拠 を 重 大 事 由 解 除 に 位 置 づ け た 場 合 、 保 険 契 約 者 等 が 「 公 序 良 俗 に 反 す る 集 団 に 属 す る 」 こ と を も っ て 「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 の 充 足 を 認 め る こ と が で き る で あ ろ う か 。 こ こ で は 保 険 者 と の 「 信 頼 関 係 」 に 公 序 良 俗 違 反 と い う 観 点 を 持 ち 込 め る の か 否 か が 問 題 と な る 。
こ の 点 、 反 社 は 公 序 良 俗 違 反 の 存 在 で あ り 、 保 険 者 は 公 序 良 俗 違 反 の 存 在 と 保
36 藤 本 ・ 前 掲 註 2)98頁 以 降 参 照 。
37 潘 ・ 前 掲 註 5)28頁 註 47) は 、「 例 え ば 、 暴 排 条 項 が 導 入 さ れ て い な い 自 動 車 の 対 人 賠 償 保 険 の よ う な 保 険 契 約 に つ い て は 、被 害 者 保 護 の た め の も の で あ る か ら 、信 頼 関 係 破 壊 と な ら な い と 説 明 す る こ と に な る か も し れ な い が 、 論 理 的 な 整 合 性 が 問 わ れ る 。」 と す る が 、 本 文 の よ う に 、む し ろ「 契 約 継 続 の 困 難 性 」の 要 件 を 充 足 し な い と 説 明 す る こ と に な る と 思 わ れ る 。
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険 契 約 を 締 結 す る 意 思 を 持 た な い こ と か ら 、 保 険 者 の 保 険 契 約 者 等 に 対 す る 「 信 頼 」 に は 「 保 険 契 約 者 等 が 公 序 良 俗 に 反 す る 集 団 に 属 し て い な い 」 こ と も 含 ま れ る と 考 え る な ら ば 、 反 社 属 性 の 存 在 を も っ て 「 信 頼 関 係 破 壊 」 が 認 め ら れ る こ と に な ろ う 。 も っ と も 、 こ の よ う に 考 え た 場 合 、 反 社 属 性 と モ ラ ル ・ リ ス ク と の 関 連 性 を 前 提 と す る こ と な く 端 的 に 保 険 契 約 者 等 が 公 序 良 俗 違 反 の 集 団 に 属 す る こ と を も っ て 「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 の 充 足 を 認 め る 点 が 問 わ れ る こ と に な る 。
た し か に 、 如 何 な る 場 合 に 信 頼 関 係 が 破 壊 さ れ た と 判 断 す べ き か に つ い て は 解 釈 に 委 ね ら れ て い る と こ ろ で あ り 、 包 括 条 項 に お け る 「 信 頼 」 を 上 記 の よ う に 捉 え る 余 地 は あ る 。し か し な が ら 、そ も そ も 保 険 法 に お け る 重 大 事 由 解 除 は モ ラ ル・
リ ス ク の 排 除 を 可 能 と す る た め に 設 け ら れ た の で あ り38、 反 社 属 性 と モ ラ ル ・ リ ス ク の 関 連 性 を 問 わ ず し て 、「 公 序 良 俗 に 反 す る と こ ろ の 反 社 属 性 を 有 し な い こ と 」 自 体 が 「 信 頼 」 の 内 容 に 含 ま れ る と 考 え る べ き で は な い 。 あ く ま で も 、 保 険 契 約 者 等 に 対 す る 「 信 頼 」 は 、 保 険 契 約 者 等 が 「 モ ラ ル ・ リ ス ク を 招 来 す る 高 度 の 蓋 然 性 を 有 し な い こ と 」 に 向 け ら れ て い る と 考 え る べ き で あ る 。 保 険 契 約 者 等 が 暴 力 団 に 属 す る 場 合 に は 保 険 金 詐 欺 に よ る 違 法 な 保 険 金 取 得 を 行 う 高 度 の 蓋 然 性 を 有 す る 点 を 捉 え て 保 険 契 約 か ら 排 除 す る の で あ っ て 、 暴 力 団 が 公 序 良 俗 に 反 す る 存 在 で あ る と い う 点 を 捉 え て 重 大 事 由 解 除 権 を 行 使 す る わ け で は な い 。 保 険 者 の
「 信 頼 」 は 「 保 険 契 約 者 等 が 公 序 良 俗 に 反 す る 集 団 の 構 成 員 で あ る か 否 か 」 と い う 点 に は 向 け ら れ て い な い 。 保 険 法 に お け る 重 大 事 由 解 除 規 定 は 、 あ く ま で も モ ラ ル ・リ ス ク を 排 除 す る こ と を 目 的 と し た 規 定 で あ り 、公 序 良 俗 に 反 す る 者 一 般 を 保 険 契 約 か ら 排 除 す る 機 能 を 有 し て は い な い 。 し た が っ て 、 保 険 契 約 者 等 が 「 公 序 良 俗 に 反 す る 集 団 に 属 す る 」 と い う 事 情 だ け で 「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 は 充 足 さ れ な い の で あ っ て 、 契 約 者 等 が 「 公 序 良 俗 に 反 す る 集 団 に 属 す る 」 こ と を も っ て
「 信 頼 関 係 破 壊 」 要 件 の 充 足 を 認 め る こ と が で き な い 。
な お 、 暴 力 団 等 の 反 社 の 存 在 自 体 が 公 序 良 俗 に 反 す る と 評 価 す る の で あ れ ば 、 反 社 属 性 と モ ラ ル ・ リ ス ク と の 関 連 性 を 問 わ ず 、 別 原 理 で あ る 公 序 良 俗 違 反 ( 民
38 藤 本 ・ 前 掲 註 2)96頁 お よ び98頁 参 照 。
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法 9 0 条 ) を 根 拠 に 保 険 契 約 を 無 効 と す る 余 地 は あ る の か も し れ な い39。 も っ と も 、 も と も と 公 序 良 俗 違 反 は 個 別 の 法 律 行 為 に つ い て 問 わ れ て き た の で あ り 、 法 律 行 為 を 行 っ た 者 が 一 定 の 属 性 を 有 す る 事 実 を も っ て 公 序 良 俗 に 反 す る と 評 価 さ れ た こ と は な か っ た の で は な か ろ う か 。 反 社 の 代 表 た る 暴 力 団 に つ い て は 、 現 在 の と こ ろ 暴 力 団 を 結 成 す る こ と 自 体 が 法 で 禁 じ ら れ て い る わ け で は な く 、 あ く ま で 違 法 な 資 金 獲 得 活 動 や 一 般 市 民 を 巻 き 込 む 可 能 性 の あ る 対 立 抗 争 を 行 う 点 が 問 題 と さ れ て い る の で あ る 。 暴 力 団 の 存 在 自 体 が 法 に よ り 禁 圧 さ れ 違 法 化 さ れ て い る 等 の 事 情 が 存 在 す る の で あ れ ば と も か く 、 そ の よ う な 事 情 が 存 在 し な い 現 状 に お い て は 、暴 力 団 員 で あ る こ と 自 体 を 公 序 良 俗 違 反 と 評 価 す る こ と は 困 難 で あ り 、 暴 力 団 員 が 行 う 法 律 行 為 を 一 律 に 公 序 良 俗 違 反 で あ る と 評 価 す る こ と 更 に 困 難 で あ る と 思 わ れ る 。 保 険 契 約 を 「 反 社 属 性 を 有 す る こ と の み を も っ て 公 序 良 俗 違 反 に よ り 無 効 と す る 」 た め の ハ ー ド ル は 高 い 。
3 . 反 社 属 性 の み に 基 づ く 重 大 事 由 解 除 権 行 使 を 認 め る 際 に 検 討 す べ き 問 題 点
( 1 ) 新 た な 見 解
39 「 公 序 良 俗 違 反 に よ る 保 険 契 約 の 無 効 」に つ い て は 、山 下 友 信『 保 険 法 』228頁( 有 斐 閣 ・ 2005) 参 照 。 も っ と も 、「 公 序 良 俗 違 反 に よ る 保 険 契 約 の 無 効 」 は 、 あ く ま で も 「 不 正 請 求 対 策 と し て の 法 律 行 為 規 定 の 適 用 」 の ひ と つ と し て 論 じ ら れ て い る こ と に 注 意 を 要 す る 。 な お 、 潘 ・ 前 掲 註 5)24頁 は 、「 保 険 約 款 で も 、 保 険 契 約 者 の 解 約 に 関 す る 規 定 と 並 べ て 、
暴 排 条 項 に 基 づ く 保 険 者 の 解 約 権 を 別 途 設 け る 余 地 も あ っ た よ う に 思 わ れ る 。」と し 、「 独 立 の 解 除 権 と し て 定 め ら れ た 場 合 に は 、保 険 者 に 対 す る 信 頼 破 壊 の 有 無 を 問 題 に す る こ と な く 解 除 権 行 使 が 可 能 と な る の で 、 解 釈 論 上 疑 義 を 生 ず る 余 地 も な く な る 。」 と す る 。 暴 排 条 項 は 告 知 義 務 違 反 解 除 や 危 険 増 加 解 除 に 位 置 付 け た 場 合 の 難 点 を 考 慮 の う え で 重 大 事 由 解 除 に 位 置 付 け ら れ た が ( 藤 本 ・ 前 掲 註 2)95頁 参 照 )、 た し か に 、 こ の こ と に よ り 暴 排 条 項 を
「 独 立 し た 解 除 規 定 と し て 定 め る 」余 地 が 否 定 さ れ る わ け で は な い で あ ろ う( 潘・前 掲 註 5)
25頁 註 40) 参 照 。)。
も っ と も 、 仮 に 、 公 序 良 俗 違 反 を 背 景 と し て 暴 排 条 項 を 設 け る の で あ れ ば 、 反 社 属 性 を 有 す る こ と 自 体 が 公 序 良 俗 に 反 す る こ と を 示 す 必 要 が あ る 。保 険 者 と 契 約 者 と の 合 意 を 背 景 と し て 暴 排 条 項 を 設 け る の で あ れ ば( 特 に 、新 た に 設 け る 暴 排 条 項 の 内 容 が 保 険 契 約 関 係 か ら の 離 脱 を 認 め る の み な ら ず 、 免 責 を 認 め る の で あ れ ば )、 そ の よ う な 合 意 が 保 険 法 上 ど の よ う に 正 当 化 さ れ る の か を 明 ら か に す る 必 要 が あ る だ ろ う 。反 社 が 保 険 契 約 か ら 得 る 最 大 の 利 益 は 保 険 金 で あ る 。保 険 契 約 者 等 の 属 性 判 明 時 点 に お い て 保 険 事 故 が 発 生 し て い た 場 合 、免 責 を 認 め な い 限 り 保 険 料 に 比 し て 高 額 な 保 険 金 が 反 社 の 手 に 渡 る こ と に な る( こ れ が 銀 行 預 金 と 異 な る 点 で あ る 。)。こ の よ う な 帰 結 を 是 認 す る の で あ れ ば 、保 険 契 約 か ら 反 社 を 排 除 し 反 社 の 資 金 源 に 打 撃 を 与 え る こ と は 困 難 と な る 。一 方 、保 険 料 に 比 し て 高 額 な 保 険 金 を 受 け 取 る こ と が 可 能 と な る 保 険 契 約 の 特 殊 性 を 考 慮 し 、反 社 に 保 険 金 が 渡 る こ と を 阻 止 し 反 社 の 資 金 源 に 打 撃 を 与 え る べ く 免 責 と い う 厳 し い 効 果 を 認 め る の で あ れ ば 、暴 排 条 項 を 重 大 事 由 解 除 と は 異 な る 独 立 解 約・解 除 権 と し て 位 置 付 け た と し て も 、片 面 的 強 行 規 定 で あ る 重 大 事 由 解 除 規 定 に 抵 触 し な い か 否 か を 中 心 と し た 保 険 法 上 の 許 容 性 が 問 わ れ る で あ ろ う 。
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近 時 、「 反 社 会 的 勢 力 排 除 条 項 は 、信 頼 関 係 の 破 壊 で 説 明 す る か 、あ る い は 片 面 的 強 行 規 定 に 抵 触 し な い 重 大 事 由 と 説 明 す る か の 立 場 は 分 か れ よ う が 、 重 大 事 由 に よ る 解 除 を 基 礎 に そ の 有 効 性 を 基 礎 づ け ら れ る も の と 思 わ れ る 」 と し て 、 属 性 の み に 基 づ く 解 除 の 有 効 性 を 基 礎 づ け る た め の 理 由 付 け が 示 さ れ た40。 ① 信 頼 関 係 は 破 壊 さ れ て い な い が 、 そ も そ も 存 在 し 得 な い た め 破 壊 さ れ た に 等 し い と の 説 明 、 ② 契 約 締 結 段 階 で の 反 社 会 的 勢 力 該 当 の 隠 匿 は 他 保 険 契 約 の 告 知 義 務 違 反 と パ ラ レ ル な 理 由 に よ り 包 括 事 由 に 含 め ら れ る 一 方 、 契 約 締 結 途 中 で の 反 社 会 的 勢 力 に 該 当 す る 場 合 は 信 頼 関 係 の 破 壊 に 該 当 す る と の 説 明 、 ③ 包 括 条 項 に 含 ま れ る と い う 基 礎 付 け よ り は む し ろ 、 信 頼 関 係 破 壊 を 基 礎 と す る 包 括 条 項 に 直 接 に は 該 当 し な い 重 大 事 由 で あ る が 、 保 険 契 約 を 締 結 す る こ と が あ り 得 な か っ た 者 が 保 険 契 約 者 ・ 被 保 険 者 ・ 保 険 金 受 取 人 で あ る 以 上 、 こ れ ら と の 契 約 関 係 を 解 消 す る 約 款 条 項 が 重 大 事 由 に よ る 解 除 の 片 面 的 強 行 規 定 に は 抵 触 し な い と の 説 明 で あ る 。
以 下 、 こ れ ら の 説 明 に 含 ま れ る 重 大 事 由 解 除 条 項 の 機 能 や 限 界 に 関 わ る と 思 わ れ る 論 点 に つ き 検 討 を 行 う 。
( 2 ) 反 社 と の 「 信 頼 関 係 」 形 成 は 不 可 能 か
保 険 者 は 反 社 に 対 し て 「 信 頼 」 を 向 け る こ と が で き な い の で あ り 、 そ も そ も 保 険 者 は 反 社 該 当 者 と の 信 頼 関 係 を 形 成 す る こ と は 不 可 能 で あ る と し て 、 属 性 の み で 「 信 頼 関 係 破 壊 」 を 認 め る こ と は 出 来 る で あ ろ う か 。
反 社 と の 信 頼 関 係 形 成 が 不 可 能 で あ る こ と を 前 提 と す る 見 解 と し て 、 反 社 該 当 者 は 保 険 者 が 「 信 頼 関 係 を 形 成 す る 意 図 を 一 切 有 さ ず 、 保 険 契 約 を 締 結 す る こ と も な い 者 」 で あ る と し た う え で 重 大 事 由 解 除 の 包 括 条 項 に 基 づ き 属 性 の み で 解 除 を 可 能 と す る 見 解41、 お よ び 、「 保 険 者 は 、 暴 力 団 員 な ど 反 社 に 属 す る 者 に 対 し 、
40 落 合 誠 一 監 修・編 著・前 掲 註 5)177頁 お よ び 178頁〔 榊 素 寛 〕参 照 。な お 、榊 教 授 は「 反 社 会 的 勢 力 該 当 を 重 大 事 由 と す る こ と は 信 頼 関 係 形 成 が 不 可 能 で あ る 点 で 基 礎 づ け ら れ る 」 と さ れ る( 榊 素 寬「 共 済 契 約 者 が 反 社 会 的 勢 力 に 該 当 す る 場 合 に お け る 共 済 契 約 の 公 序 良 俗 違 反 と 錯 誤 」 ジ ュ リ ス ト 臨 時 増 刊 『 平 成 26年 度 重 要 判 例 解 説 』118頁 参 照 。)。
41 こ の 見 解 は 、 信 頼 関 係 は 破 壊 さ れ て い な い が 、 そ も そ も 存 在 し 得 な い た め 破 壊 さ れ た に 等 し い と 説 明 す る 。「 反 社 会 的 勢 力 に 該 当 す る 者 は 、1号 や2号 に 直 接 匹 敵 す る 事 項 で あ る と い う よ り は 、保 険 者 が 信 頼 関 係 を 形 成 す る 意 図 を 一 切 有 さ ず 、保 険 契 約 を 締 結 す る こ と も な い 者 に 該 当 す る こ と を 意 味 す る の で あ る か ら 、そ も そ も 保 険 者 と の 間 に 信 頼 関 係 を 形 成 す る こ と は で き な い 立 場 に あ る 」 と し 、「 反 社 会 的 勢 力 該 当 は 、 契 約 締 結 当 初 か ら 該 当 し て い た