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食と腸内細菌代謝産物を介した宿主エネルギー制御機構

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化学と生物 Vol. 53, No. 4, 2015

食と腸内細菌代謝産物を介した宿主エネルギー制御機構

短鎖脂肪酸受容体とエネルギー代謝ネットワーク

近年の腸内マイクロバイオーム研究の結果,腸内細菌 叢の変化がその宿主におけるエネルギー調節や栄養の摂 取,免疫機能などに関与し,肥満や糖尿病・免疫疾患な どの病態に直接的に影響するということが明らかになっ た.腸内細菌は嫌気性菌が大半を占めるため,培養が困 難なため,その機能解析が難航していたが,近年のゲノ ム科学,オミックス解析技術の進歩により,16S rRNA 系統解析やメタゲノム解析が可能となったことで,腸内 細菌叢の変化が宿主の代謝機能と密接に関係し,肥満や 代謝疾患に影響することが科学的根拠に基づいて証明さ れた.しかしながら,これは腸内細菌叢の変化が疾患の 原因であるか,その結果として疾患が発症するのかが明 らかではない.加えて腸内細菌の変化によって,何が腸 内細菌と宿主の連関に影響するかはいまだ不明なままで ある.したがって,腸内細菌研究の次なる展開として腸 内細菌自身あるいは,腸内細菌が作り出す産物が宿主代 謝機能とこれら疾患へ関与する可能性について模索され 始めた.たとえば食物繊維などの難消化性食物の分解産 物である酢酸,酪酸,プロピオン酸などの短鎖脂肪酸は 腸内細菌の主要代謝産物であり,宿主エネルギー源とし て 知 ら れ て い る が,同 時 に 細 胞 膜 上 受 容 体 で あ る GPR41, GPR43を活性化することや,ヒストン脱アセチ ル化酵素を阻害することによってエピゲノム変化に影響 することが知られている.すなわち,これら短鎖脂肪酸 が宿主側の単なるエネルギー源としてだけではなく,シ グナル伝達因子として,宿主の代謝機能制御へ直接的に 影響を与えているのではないかと予測された.

われわれは以前より遊離脂肪酸の細胞膜上受容体であ る脂肪酸受容体の機能解析を精力的に行ってきた(1, 2)

そしてこの短鎖脂肪酸受容体GPR41とGPR43もまた脂 肪酸受容体ファミリーに属することから,このGPR41 とGPR43の腸内細菌との関連について着目し,研究を 進めた.短鎖脂肪酸受容体GPR41はプロピオン酸,酪 酸を主とした短鎖脂肪酸によって活性化される細胞内 cAMP濃度の抑制を伴うGi/oと共役しているGタンパ ク共役型受容体(GPCR)である(1)

.また,もう一つの

短鎖脂肪酸受容体GPR43は酢酸とプロピオン酸を主と した短鎖脂肪酸によって活性化され,細胞内cAMP濃 度の抑制に関与するGi/oと細胞内カルシウム濃度の上 昇にかかわるGq/11タンパク質の両方と共役するGPCR である(1)

.これらの短鎖脂肪酸受容体の機能解析に関し

て,われわれは独自の詳細な発現解析と,血中の短鎖脂 肪酸濃度でも十分にこれら短鎖脂肪酸受容体が活性化す るという知見から,腸内環境だけではなく,血中を介し た末梢組織でのGPR41とGPR43の機能に関与するので はないかと予測し,研究を進めた.

GPR41に関して,腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸に より,腸内分泌細胞からの食欲抑制ホルモンPYYの分 泌を高めるとの報告(3)がなされていたが,われわれはま ず始めに,詳細な発現解析を行った結果,ほかの組織と 比較して交感神経節に著しく高発現していることがわ かった(4)

.さらにこのGpr41遺伝子欠損マウスは,交感

神経系異常に伴う,心拍数の有意な低下および,神経伝 達物質であるノルアドレナリンの有意な減少を示した.

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また交感神経細胞を用いた実験により,短鎖脂肪酸によ る刺激がGPR41を介してノルアドレナリンの分泌を促 進することを明らかにした(5)

.さらに,これらGPR41

を介した短鎖脂肪酸による交感神経活性化は,体全体の エネルギー消費量の上昇によく反映されていた.すなわ ち,GPR41は,交感神経を直接的に制御することに よって,生体内のエネルギー状態を認識し,エネルギー バランスを調節することがわかった.すなわち,食事 時,短鎖脂肪酸を指標に過剰エネルギーをGPR41が認 識し,交感神経を活性化することによってエネルギー消 費を高め,エネルギー恒常性を保つというGPR41を介 した新たなエネルギー調節機構を明らかにした(4, 5)(図

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一方,GPR43に関して,発現解析の結果,脂肪組織 および免疫系組織に豊富に存在していることを見いだし た(6)

.またこのGpr43遺伝子欠損マウスは体重,脂肪重

量の増加という肥満の傾向を,反対にGPR43を脂肪組 織特異的に過剰発現させたaP2-Gpr43トランスジェニッ クマウスは痩せの傾向を示した.また,これらの代謝機 能異常は無菌マウスや抗生物質処置により腸内細菌叢を 死滅させたマウスにおいては消失したことからGPR43 のリガンドである短鎖脂肪酸の供給源は腸内細菌に依存 することがわかった.さらに,このGPR43の脂肪組織 直接的な機能として,筋肉や肝臓などのほかのインスリ ン作用組織ではなく,脂肪組織でのインスリンの作用の みを選択的に抑制する結果,脂肪組織での脂肪の蓄積を

抑制することがわかった.すなわち,食事時,短鎖脂肪 酸を指標に過剰エネルギーをGPR43が認識し,脂肪組 織への過剰エネルギー蓄積を抑制し,エネルギー消費の 方向へ誘導し,結果として過度な肥満から起こる代謝機 能異常を防ぎ,体内のエネルギー恒常性の維持に働くと いうような,GPR43を介した腸内細菌の宿主エネル ギー制御機構をわれわれは明らかにした(6)(図

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以上より,腸内細菌による短鎖脂肪酸受容体を介した 宿主エネルギー恒常性維持機能の一端をわれわれは明ら かにした.しかしながらその一方で,これらの受容体 が,免疫系組織,腸管など,ほかの組織にも発現が見ら れることや,GPR41, GPR43ともに発現が見られる組織 など,これらの受容体が各組織においてどのようにエネ ルギー調節に寄与し,相互作用しうるのか,いまだ不明 である.したがって,各短鎖脂肪酸受容体の発現組織に おける生理機能の理解に加えて,短鎖脂肪酸受容体群の 相互作用にかかるさらなる知見が必要であるため,今後 も精力的にこの分野の研究を進めていきたい.

  1)  T. Hara, I. Kimura, D. Inoue, A. Ichimura & A. Hirasawa: 

164, 77 (2013).

  2)  A.  Ichimura,  A.  Hirasawa,  O.  Poulain-Godfroy,  A.  Bon- nefond, T. Hara, L. Yengo, I. Kimura, A. Leloire, N. Liu,  K. Iida  :  , 483, 350 (2012).

  3)  B. S. Samuel, A. Shaito, T. Motoike, F. E. Rey, F. Back- hed, J. K. Manchester, R. E. Hammer, S. C. Williams, J. 

Crowley,  M.  Yanagisawa  :  , 105, 16767 (2008).

  4)  I. Kimura, D. Inoue, T. Maeda, T. Hara, A. Ichimura, S. 

Miyauchi,  M.  Kobayashi,  A.  Hirasawa  &  G.  Tsujimoto: 

108, 8030 (2011).

図1GPR41による交感神経系調節

腸内細菌より産生された短鎖脂肪酸はエネルギー状況の指標とし て,交感神経節に発現するGPR41により感知され,交感神経系を 制御することにより,宿主エネルギー恒常性の維持にかかわる.

図2GPR43による脂肪蓄積制御

腸内細菌により産生された短鎖脂肪酸はエネルギー状況の指標と して,脂肪組織に発現するGPR43により感知され,過度の脂肪組 織における脂肪の蓄積を防ぎ,ほかの組織で利用を促すことで,

肥満,エネルギー代謝異常を防ぐ機能を有する.

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化学と生物 Vol. 53, No. 4, 2015   5)  D.  Inoue,  I.  Kimura,  M.  Wakabayashi,  H.  Tsumoto,  K. 

Ozawa, T. Hara, Y. Takei, A. Hirasawa, Y. Ishihara & G. 

Tsujimoto:  , 586, 1547 (2012).

  6)  I. Kimura, K. Ozawa, D. Inoue, T. Imamura, K. Kimura,  T. Maeda, K. Terasawa, D. Kahihara, K. Hirano, T. Tani 

:  , 4, 1829 (2013).

(木村郁夫,東京農工大学大学院農学研究院応用生命化 学専攻)

プロフィル

木村 郁夫(Ikuo KIMURA)

<略歴>2001年京都大学薬学部薬学科卒 業/2006年 同 大 学 大 学 院 薬 学 研 究 科 修 了 博士(薬学)[指導教官:伊藤信行教 授]/同年千葉科学大学薬学部応用薬理学 教室助手・助教/2008年京都大学大学院 薬学研究科薬理ゲノミクス分野助教/2011 年カリフォルニア大学サンディエゴ校医学 部客員研究員/2013年東京農工大学大学 院農学研究院応用生命化学専攻テニュアト ラック特任准教授,現在に至る<研究テー マと抱負>脂質を認識する細胞膜上受容体 を介した高次生命現象の分子レベルでの解 明<趣味>バンドやってます(ギター)

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会

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Waddington) は,このことを元に発生の機構 の視点から「エピジェネティクス」という語を使った. その後,この語は,遺伝子の塩基配列を変えずに遺伝子 発現のパターンが変化することを経て受精卵が特定の細 胞に分化し,分化した後に細胞が分裂しても遺伝子発現 のパターンが継承される機構を説明する語として使われ るようになった.すなわち,世代を越えて受け継がれる