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食品成分による線虫の老化制御 - J-Stage

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【解説】

食品成分による線虫の老化制御

統合栄養科学へのモデルケース

西川禎一

抗老化あるいは生体防御賦活効果を有する食品因子の探索と 機構究明に,線虫を実験動物として用いることの可否を検討 した.栄養学研究の常識である被験物質の経口投与や体重変 化の測定を可能にするため,新たな経口投与法を開発すると ともに投影面積を体重の代替データとする方法を提案した.

また,加齢に伴う日和見感染モデルとしても線虫を用いるこ とができることを示した.本実験系を用いて寿命延長効果や 生体防御賦活効果を有する細菌や食品因子を複数発見するこ とができた.線虫は栄養学研究における代替実験動物たりえ ると考える.

はじめに

わが国は世界一の長寿国家となり,人口に占める高齢 者の割合が社会システムのありようを問い直させる勢い で増加している.平成25年版の厚生労働白書によると,

平成22(2010)年の国勢調査に基づいて算出された高 齢化率は23.0%,推計によると平成42(2030)年には 31.6%に達する.この間に生産年齢人口は8,173万人か

ら6,807万人へと減るため,高齢者一人を支える現役世 代の人数は2.6人から1.8人になる.一方,平成22年に 37.4兆円に達した国民医療費は,今後も国民所得の伸び 率を上回る勢いで増加し,2026年ごろには2倍近い65.6 兆円となり,人口の約3割を占める高齢者の医療費が医 療費全体の7割近くに達するとの推計もある(1)

残り5年で高齢者となるわが身を考えると何とも言い 表しようのない複雑な気持ちにさせられる推計値だが,

国民の長寿は公衆衛生学が本来目指すべき目標であり悪 いことではない.問題はサクセスフルエイジングかどう か,健康長寿かどうかということである.高齢社会が避 けられないものである以上,活力ある社会の維持に必要 なマンパワーを確保するためには,現役として就労可能 で健康な高齢者であることが今後一層強く求められるで あろう.102歳の今も聖路加国際病院理事長として活躍 されている日野原重明先生は,「65歳から74歳はヤン グ・オールド,75歳になって初めて新老人,85歳から が真老人」と言っておられる.わが国の活性を保つため には65歳から高齢者とする考え方自体を改め,生涯と は言わないまでも,少なくとも75歳までの現役を目標 にして各人が健康管理に留意し,平均寿命と健康寿命の Regulation  of  Senescence  in  Nematodes  by  Food  Factors : A 

Model Case in the Integrated Nutritional Science

Yoshikazu NISHIKAWA, 大阪市立大学大学院生活科学研究科

(2)

差を縮めるべく努力しなければならないようだ.

上記のような未来予測を前にすると,個人の生涯設計 や医療の方向性も変わらざるをえない.医療機関も生活 習慣病の予防や治療に関与するだけでは不十分であり,

より積極的な健康増進である抗老化の方向で国民を支え る必要があると考える.なぜならば単一疾患の治療や予 防を目的にしてもモグラ叩き同然の結果となる.たとえ ば,ある試算によると,がん死を減らせば平均寿命は4 年延長するがほかの老年疾患の治療費がかかって医療費 は8.3%上昇する.同様に心血管疾患を撲滅すると寿命 が5.3年延長するが医療費は5.2%増加する(2)

.したがっ

て,老化そのものを標的とし,複数の疾患について発生 率を同時に低下させ,生活機能障害のない長寿(disabili- ty-free prolongevity)いわゆるPPK(ピンピンコロリ)

の実現を目指すのが理想的な戦略となってくる.ヘル シーエイジングやサクセスフルエイジングと言える状況 を生み出すことはもはや個人的な夢ではなく高齢社会が 必然的に目指すべきものとも言えそうな状況である.

線虫について(3〜6)

前述のような情勢判断に基づき,当研究室では主に栄 養学的側面から老化予防に寄与する可能性を,線虫

( )をモデル動物として2003年か ら検討してきた.栄養学領域では極めて異端なモデル で,学会発表し始めたころは怪訝な眼差しを向けられた

が,今では一般社団法人食品需給研究センターが農林水 産省補助事業として行っている「食品研究者等データ ベース」の食品機能性研究者・研究機関データにおいて も,老化防止機能の研究欄に「線虫等モデル生物試験」

という項目が設けられるに至っている.

線虫(Nematode)は,名前(nemaは糸を意味する)

のとおり糸状の小さな動物である.回虫のように大型の ものや,動植物に危害を及ぼす寄生性のものもあるが,

多くは小型で土壌や底泥中の細菌や真菌を摂食して自活 する目立たない動物である. は,土壌中によ く見られる細菌食性線虫グループであるRhabditida目 に属しており,大腸菌を餌として実験室内で飼育するこ とができる(図

1

.ほかの多くの線虫と同様に,孵化

後4回の脱皮を経て成虫(雌雄同体)になる.成虫に なってからも生殖細胞だけは増殖を続けるが,雌雄同体 における精子数は最初に作られた300匹に限定される.

したがって,産卵される自家受精卵も約300個であり,

精子が枯渇してからの産卵は未受精卵となる.雌雄同体 は5対の常染色体と1対の性染色体(XX)をもつが,生 殖細胞が減数分裂する際に性染色体の不分離が起きて性 染色体が(XO)となる受精卵が0.1%程度の頻度で発生 し,この場合は雄になる.雄と交配して精子を受け取っ ている場合は他家受精を優先して産卵し,総計1,000個 の受精卵を産む場合もある.

メ ッ セ ン ジ ャ ー RNAの 発 見 で も 有 名 なSydney  Brennerは,複雑な多細胞生物の発生・分化・神経など

図1

生活環

20℃で培養した際の受精卵から第1 期子虫,第2 〜第4期子虫を経て成虫 になるまでの各生育時間と細胞数お よび体長など.幼虫期に生育不適な 環境にさらされると耐性幼虫と呼ば れる状態になり生育に適した環境に 戻るのを待てるように4カ月近く寿 命 が 延 長 す る.(http://www.wor- matlas.org/hermaphrodite/introduc- tion/Introframeset.html)

(3)

の高次な生命現象の解析に適したモデル生物として を選んだ.体長1 mmほどの小さな線虫だが,

2002年のノーベル医学生理学賞は,BrennerとRobert  HorvitzおよびJohn Sulstonがこの虫を材料として行っ た「器官発生とプログラム細胞死の遺伝的制御」に関す る研究功績を称えて贈られた. は基礎生物学 材料との認識が一般的であったが,哺乳類を用いた実験 に比べて実験施設の準備が容易であり,動物愛護の観点 から規制が強まっている動物実験の対象にも含まれない ことから,当研究室では,生体防御と老化と栄養の関係 を探る目的で,免疫栄養学(immunonutrition)

,免疫

老 化(immunosenescence) お よ び 抗 老 化(anti- senescence ; antiaging)研究に を適用するこ とにした.

老化の基礎理論としては,プログラム説,エラー蓄積 説,フリーラジカル説,クロスリンキング説などさまざ まな学説が提唱されてきたが,いまだ確立されたとは言 い難い.そのため,特定の活性(たとえば抗酸化活性)

や少数のバイオマーカー(たとえば酸化脂質など)の変 化のみに基づいて抗老化効果を判断することはできな い.寿命の延長こそが最も明快な指標と考えるが,マウ スでも2年以上の寿命がある.早期老化マウスであれば 半年程度のものもあるが,特定の遺伝子異常により老化 が促進されている場合,一般健常者の自然な老化のモデ ルとなりうるのかどうか難しいところである.また,半 年の寿命といえども抗老化の評価実験系としては,短い とは言えない. が一生を約3週間で終えるこ とは当然ながらモデルとして選択した第一の理由であ る.さらに,線虫を用いて老化の基礎研究が進んだた め,老化に関連する遺伝子が数多く同定されており,各 遺伝子の機能に変調をきたした変異株も数多く得られて いる.干渉RNA実験などの分子生物学的手法も体系化 されており,線虫をモデルとして寿命延長効果のある物 質を発見できた場合に,その作用機構を探るうえで非常 に便利である.

一方,哺乳類に比べてはるかに下等であり,実験結果 をヒトに外挿するには抵抗が大きいこと,小さいために ハンドリングし難いこと,消化系など栄養学的な情報が 不十分であることなどが短所となる.しかしながら,一 次スクリーニングに用いることができれば,有効成分の ハイスループットな 探査が可能になり,哺乳動 物による実験を節約できる可能性を秘めていると期待で きる.

線虫を用いた免疫栄養学および抗老化研究への期待 と問題点

老化現象がどのような機構によるのかいまだ不明な点 が多いが,これまでの知見を解析した結果から,抗老化 には以下の3原則に留意することが有効とされている.

すなわち,①正しい食生活,②適度の運動,③適切なス トレス管理(良好な睡眠や趣味など)である.食生活は 文化でもあり,親から子へと伝わっていく.したがっ て,大人になってから食習慣を矯正することは非常に難 しく,子どもの頃から正しい食習慣を涵養することが重 要である.近年,栄養管理の適否が患者の入院期間や予 後に大きく影響することが認識され,治療にあたっては 医師や看護師だけでなく管理栄養士や薬剤師などコ・メ ディカル領域のスタッフを加えたNutrition Support  Teamの重要性が注目されている.自然と三次予防(適 切な治療と患者の管理によって機能障害や生活の質の低 下を最小限に抑える活動)に注意がいきがちであるが,

従来から行われてきた食生活の改善による生活習慣病予 防などの一次予防(健康障害の発生を未然に防ぎ健康を 増進すること)の活動から食事を介した抗老化へとさら に踏み込んでいくこと,そしてこのような活動のために 有用な知見を集めることの必要性はますます高まってい くであろう.

食品には栄養素としての一次機能,味や匂いなど嗜好 にかかわる二次機能があることは古くから認識されてき たが,近年は生理機能を調節する作用を有することが 次々に明らかにされ,三次機能として注目されさまざま な機能性食品が市場に出ている.これまでにも,線虫を 用いて被験物質の寿命延長効果を調べた報告があり,ビ タミンE, tocotrienol, coenzyme Q10, 赤ワインに含まれ るポリフェノールの一種であるresveratrol, イチョウ葉 フラボノイドのtamarixetin,  ブルーベリーのポリフェ ノール,カテキン,クルクミンなどなどの有効性が議論 されてきた.しかしながら,いずれの実験も,線虫を飼 育する寒天中に被験物質を高濃度に溶解して寿命に与え る影響を観察していた.いわば,被験物質に浸かってい る状態であり,栄養学で常用されるような食品として経 口的に摂取させたと言える条件からはやや遠く感じら れ,体重変化すらも記載されていなかった.そこで,老 化制御機能を発揮する食品や成分をもう少し従来の栄養 学実験に近い条件で探索すべく実験系の工夫を試みた.

(4)

線虫を用いた統合栄養学への工夫

1.  投与方法

まず任意の量の被験物質を的確に線虫に経口摂取させ る方法の開発を目指した.マウスに対してはマウスゾン デなどを用いて経口投与することも可能であるが,体長 1 mmの線虫には適用できない.そこで,線虫が病原性 のない大腸菌などの細菌を餌とすることに着目した.線 虫が忌避しない材料を用いてリポソームを作製し,そこ に被験物質の水溶液を包含させたところ細菌と間違えて 摂取させることに成功した(7)

.マイクロカプセル内に蛍

光物質を含ませておき,一定時間後に線虫から回収され る蛍光物質量を測定すれば単位時間当たりの摂取量も測 定できるし,餌とマイクロカプセルの混合比率を変えた りカプセル内に入れる被験物質の濃度を変えたりすれば 摂取量を調節することも可能である.線虫を飼育する寒 天中に被験物質を溶解する従来の方法に比べると被験物 質の量を1/100以下に削減できたので,抽出実験段階の 希少な天然化合物を試験するのに向いている.

脂溶性の被験物をどのように投与するかについても 種々検討したが,最も効率良い方法の一つは 

γ

-シクロ デキストリンに包接させ微粒子化する手法であり,被験 物質の溶液とシクロデキストリン溶液それぞれをあらか じめろ過滅菌してから両者を混合すれば無菌的な包接体 を得ることが可能である.この方法で注意すべきは,脂 溶性物質を溶解させている有機溶媒自体がシクロデキス トリンとの間で包接体を形成しないことをあらかじめ確 認しておくことと,被験物の種類によっては完全に水溶 化してしまい微粒子を形成しないことがたまにあること だ.リポソーム法にも言えることだが粒子径を5 

μ

m以 上にすると線虫が摂取し難くなるが,析出した包接体が 大きな塊を形成している場合は投与前にペッスルでホモ ゲナイズしてやれば,案ずるより産むがやすしで,リポ ソームと同様に細菌と間違えて摂取した(8)

2.  体重測定

栄養学実験では基本中の基本である体重測定だが,従 来の線虫を用いた試験では皆無であった.野生型成虫の 体積は4.5 nLほどなので水の重さに換算すると4.5 

μ

gほ どと推定され一般的なはかりでは測定できない.そこ で,実体顕微鏡で撮影した線虫画像の投影面積を,画像 解析ソフトImageJを用いて数値化することで成長曲線 の代用とした(9)

.現在では海外の研究者も用いるように

なっている.

食事と長寿の関連を探るモデルとしての線虫の有用性 1.  日和見感染モデルの作成

線虫は自然免疫系しかなく,しかも液性のみ,すなわ ち生体防御専任の食細胞すらもたない下等な生物であ る.免疫老化とその予防介入のモデルを確立したいと考 えたが,成算があったわけではない.しかし,細菌食性 と言いながらも大腸菌の代わりに緑膿菌を給餌すると短 期間に感染死するとの報告があった.もともと食品微生 物学を専門として研究していたこともあり,手持ちの食 中毒菌を片端から線虫に摂取させてみた.驚いたことに ヒトとは似ても似つかぬ線虫が,調べた14種の食中毒 菌のうち12種に感受性を示し有意な寿命の短縮が観察 された(10)

.通常ならば,線虫は細菌を餌として分解消

化するが,食中毒菌の多くはむしろ線虫の腸管内に蓄積 あるいは増殖しており,ヒトのみならず線虫に対しても 病原性を示した(図

2

一般に,高齢者では免疫力が低下し感染しやすくな る.65歳を過ぎると肺炎による死亡者数が増加し,85 歳を過ぎると死因の第一位になるのは,高齢者が誤嚥し やすいことと同時に免疫力の老化を反映したものと理解 されている.そこで,若いころには抵抗性であるにもか かわらず加齢によって感受性になるモデルを作ろうとし た.高齢者に日和見的に感染し肺炎を起こすレジオネラ を摂取させたところ,3日齢(成虫になったばかり)の 線虫が完全な抵抗性を示し餌の大腸菌と変わらぬ寿命を 示したのに対し,8日齢(雌雄同体の線虫が産卵を終え てしまう頃)の線虫に同菌を摂取させたところ,大腸菌 を食べている線虫に比べて有意に早く死滅した.また,

図2GFPを組み込んだ腸管出血性大腸菌O157を摂取した線 虫

腸管腔内に破砕されずに貯留しつつある菌体を蛍光顕微鏡で容易 に観察できる.

(5)

哺乳動物への病原性を喪失させたレジオネラ変異株では 線虫においても病原性が失われていた(11)

.すなわち,

生体防御機能の老化モデルとして用いることができると 判断した.

上記の実験の中で2種の食中毒菌は有害な作用を示さ なかったが,興味あることにそのうちの1種である

は餌用の大腸菌を摂取している対照群より もむしろ寿命が延長していた. 属の細菌は土壌 中の常在菌であり,線虫にとっては大腸菌よりもむしろ 本来の餌である可能性が高いと推察された.調べてみる と同様の所見が 誌上で先に発表されていた(12)

この興味ある結果に触発され,食中毒菌とは逆に長寿効 果をもたらす細菌を探索する目的で以下の実験を行っ た.

2.  プロバイオティクス研究モデル

上述のように,当研究室の目標は抗老化に有効な物質 の探索であり,今回工夫した技術は任意の物質をサプリ メントとして的確に線虫に摂取させるためのものであ る.しかしながら,食品による長寿の達成という目標に おいて線虫が真に適切なモデルであるかどうかを再度検 討しておきたいと考えた.そこで,線虫の本来の餌であ る細菌について,その種類を変えた場合にどのような影 響が生ずるか検討した.

今から約100年前,ノーベル賞を受賞したメチニコフ は,乳酸菌がヒトの長寿に寄与する可能性をすでに論じ ていた.その後,乳酸菌の有益な効果について精力的な 研究が進められた結果,現代ではプロバイオティクスと して商品化された菌株も多い.整腸作用,高脂血症予防 効果,免疫賦活効果などさまざまな効用について実験報 告がなされてきたが,抗老化効果を明快に示した実験 データはこれまでなかった.そこで,大腸菌の代わりに ビフィズス菌や乳酸桿菌を線虫に摂取させたところ,大 腸菌給餌に比べて有意に寿命が延長することが判明し,

乳酸菌の寿命延長効果を で示した世界で初めて の実験例として報告した(9)

.種々の動物を用いた実験に

より,低栄養などで繁殖開始時期を遅らせると寿命が延 長することは一般的な事実として知られている(図

3

しかしながら,本研究では成虫に達するまでは通常の餌 を用いて線虫を飼育しており,乳酸菌給餌に切り替えた のは成虫からである.したがって,乳酸菌の効果は,性 成熟の遅延によるものではない.

乳酸菌が寿命延長をもたらしたこと自体も興味ある知 見であるが,食品の三次機能としての抗老化効果を探求 するシステムを,線虫を用いて確立することを目標に考

えると,食餌内容によって線虫の寿命が明瞭に変化した という事実にその意義があった.今となっては驚くこと ではないが,10年以上前の当時はカロリー制限以外の 栄養介入で老化予防を研究するうえで,線虫が実験モデ ルとして寄与しうるか否か,確信がなかったからであ る.しかし,プロバイオティクス研究と線虫という意外 な組み合わせは,予想を超えた反響があり,著名な専門 誌の総説に取り上げられるに至っている(13〜15)

3.  抗老化効果

上記のようにプロバイオティクスや種々の化合物につ いて,本モデルを用いた評価を実施してきた.その結 果,複数の菌種や化合物が線虫に対して寿命延長効果を 有することが判明した.また,これら長寿効果を示す物 質は,細菌感染,重金属,農薬,過酸化水素,熱,紫外 線照射などに対する線虫の抵抗性を賦活していたが,物 質ごとに付与する抵抗性は異なり一様ではなかった.総 体的な老化予防の結果として寿命延長したのか,生体防 御を主に賦活した結果として寿命が延長したのかいまだ 明確な答えは得られていない.

生体防御システムは,①病原体の識別認識,②認識し た情報の処理(シグナル伝達)

,③防御因子の発現,以

上3段階に分けて考えられる.病原体の識別と感染認識 から感染抵抗性の発現へとつなげるためには,複雑なシ グナル伝達経路が関与している.ヒトやマウスなどは,

Toll-like receptor (TLR)を介して認識することが近年 明らかにされ,線虫もtol-1のようなTLR様遺伝子を保 有していることがわかってきた.一般にTLRは細胞内 に共通したドメインを保有しており,Toll‒interleukin-1 図3食餌量と寿命および繁殖力の関係(概念図)

(6)

受容体(TIR)ドメインと言われる,線虫はTol-1とは 別のタンパク質としてTIR-1をもっているとされてい る.また,防御因子として作用するライソザイムをコー ドする遺伝子lys-8はTGF-

β

経路の管理下にあること,

p38 mitogen-activated protein kinase(MAPK)経路や プログラム細胞死もサルモネラなどに対する抵抗に関与 していること,インスリン様受容体経路が寿命や成長の みならず種々の細菌に対する抵抗性にも寄与しているこ となどが明らかにされてきた.主なシグナルの認識と伝 達は図

4

のように整理されており(16)

,これまでに見つ

けた各長寿物質がどのような遺伝子を動かして効果を発 揮しているのか,マイクロアレイやRNA干渉そして変 異体を用いた実験で明らかにしようとしている(17)

おわりに

わが国においても基礎生物学分野で線虫は重用されて いるが,栄養学などの応用分野ではいまだなじみの薄い 実験動物である.しかしながら,海外では動物愛護の観 点からもより下等な代替動物を用いようとする動きが活 発であり,ヒト病原微生物の病原因子解析などに,線 虫,ヒドラ,そして蛾からゼブラフィッシュに至るまで 多様な生物が試用されている(18)

本稿では,生理調整物質の評価系として,老化と生体 防御に栄養を絡めた当研究室の線虫使用例を中心に紹介 したが,有害な物質や薬剤の評価にも有効と考えてい た.折から,科学研究費補助金の時限付き分科細目(平

成23 〜 25年度)として「統合栄養科学」が設置され た.その趣旨説明として,「栄養学は,成長や生命の維 持に関する代謝,生理,栄養素などの理解を通して健康 の増進や体力・体型の向上に大きく貢献してきた.しか し,一方において,過食・飽食,生活習慣,ストレス,

高齢化など,栄養学における新たな課題も顕在化してき ている.近年の生命科学の発展と分析・情報処理技術の 目覚ましい進歩は,栄養学研究における,分子,細胞,

実験動物からヒト集団までを対象とした新しい切り口で のアプローチを可能にしつつあり,このような栄養学の 新たな展開を加速させるためには,食生活学,応用健康 科学,食品科学,臨床医学など,既存の枠組みを超えた 横断的な研究コミュニティーの形成が必要である.本分 野では,複雑化・多様化した現代社会における健康の維 持・増進,疾病の予防や治療効果促進などを目指し,栄 養学の学術基盤の構築から臨床・現場への展開まで視野 に入れた,多面的な研究が推進されることを期待する.」 と説明されている.生活科学・農学・薬学などの研究者 の混成グループで,しかも馴染の薄い動物を用いた研究 プランに研究費獲得の機会を授けていただいたことに感 謝している.本稿が異形の栄養学研究も許容される機会 を広げ,統合栄養学への興味を刺激する一助になること を祈っている.

謝辞:本研究は,当研究室の卒論学生や大学院生の協力を得て実施した ものであり,彼らの努力に対し深甚の意を表する.

図4線虫の生体防御にかかわるシ グナル伝達経路

(7)

文献

  1) 日本抗加齢医学会専門医・指導士認定委員会編: アンチ

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プロフィル

西川 禎一(Yoshikazu NISHIKAWA)  

<略歴>1977年大阪府立大学農学部獣医 学科卒業/同年北海道大学大学院獣医学研 究科修士課程予防治療学専攻入学/1979 年同修士課程予防治療学専攻修了/同年大 阪府立大学大学院農学研究科博士後期課程 獣医学専攻入学/1984年同博士後期課程 獣医学専攻修了/同年東京大学医科学研究 所実験動物研究施設研究生/1985年同研 究所実験動物研究施設研究生修了/同年大 阪市立環境科学研究所研究員/1999年大 阪市立大学生活科学部助教授/2005年同 大学大学院生活科学研究科教授<研究テー マと抱負>食品因子による抗老化および生 体防御賦活.腸内細菌の炎症制御作用とそ の機構.定年まで6年となったので積み残 した課題をできるだけ解決したい<趣味>

野菜栽培など園芸,水彩画

Referensi

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よる中員環115の閉環を一挙に可能とする原理である(79〜81). さらに,環内に残るエンド型コバルト錯体をシスオレフィン に還元するルートを手始めに開発した(82〜84).これは鎖状ア セチレン錯体にも適用可能であるので,Lindlar還元の代わ りを務める反応を見つけたという意味もある. 標的化合物の絶対立体配置と両鏡像体合成