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魚油の風味劣化と抗酸化 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 54, No. 10, 2016

魚油の風味劣化と抗酸化

臭いのしない魚油を目指して

エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサン酸

(DHA)といったn-3系(オメガ3系)多価不飽和脂肪 酸(PUFA)の摂取は,心筋梗塞などの冠動脈疾患に対 する予防効果があると考えられている.これらのn-3系 PUFAとアラキドン酸などのn-6系PUFAは,いずれも 正常な生体機能維持に不可欠であるが,現代の食生活で は両PUFAの摂取バランスが崩れ,多くの場合n-6系過 多の状態となっている.したがって,このバランスを正 常に保つために,魚油などからのEPAやDHAの直接摂 取が推奨されている.しかし,魚油を食品素材として用 いるには大きな問題がある.それは,極めて酸化されや すいという性質である.

脂質の酸化では,まず,OOH基を1個有する反応物

(モノヒドロペルオキシド)が生成され,しばらく時間 を経て,モノヒドロペルオキシドの分解,重合,酸化と いった複雑な二次酸化反応が起きるとされてきた.しか し,最近の考え方としては,このような順を追った反応 プロセスは,リノール酸メチルなどのモデル系では観察 できるが,実際の脂質酸化では,モノヒドロペルオキシ ドの生成と二次酸化反応はほぼ同時に進行していく複雑 なものとされている(1).特に,魚油の場合には,酸化の ごく初期からさまざまな酸化物,特に低分子の揮発性成 分が生成するため,風味劣化が顕著となる.

脂質酸化を防ぐ(抗酸化)には,酸化反応に中心的な 役割を果たすフリーラジカルを不活性化することが重要 である.フリーラジカルとは,不対電子をもつ原子や分 子のことを言い,反応性が非常に高い.PUFAはまず フリーラジカルの攻撃を受け,自身がPUFAラジカル となったあと,これに酸素が結合する.したがって,こ うしたフリーラジカルに電子を供与し,非ラジカル化

(不活性化)する働きのある化合物が抗酸化物質として 知られている.魚油の抗酸化で最もよく用いられている ものにローズマリー抽出物やトコフェロール類があり,

いずれも電子供与能を有し,フリーラジカルを不活性化 する.しかし,実際に,このような抗酸化剤を魚油に添 加しても,風味劣化を完全に防止することはできない.

魚油の利用が主としてカプセルに封入したサプリメント にとどまっているのはこのような事情による.

魚油の風味劣化についてはこれまでも多くの研究があ り,EPAやDHAの酸化で生ずる低分子のアルデヒドや ケトンなどが劣化の主因とされている.こうした低分子 揮発成分の分析には,固相マイクロ抽出(SPME)法と ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)法の併用が一 般に用いられる.SPME法とは,吸着性のあるファイ バーに揮発性成分をトラップし,これをGCに導入して 分析する方法である.SPME法により,高感度での揮発 性成分の検出が可能となり,炭素数が5〜10の不飽和ア ルデヒドあるいは不飽和ケトンが魚油の酸化劣化の主成 分として報告されている(2, 3)

脂質酸化で生ずる低分子揮発成分の分析の基礎は,

Frankelら の グ ル ー プ に よ り,1980年 代 に 確 立 さ れ た(4).このとき,Frankelらは揮発性成分の分析法とし て,1)液相との平衡状態を保ったまま揮発性成分を含 む気相を取り出す方法(Static headspace method:平 衡ヘッドスペース法),2)揮発性成分を強制的に取り出 す方法(Dynamic headspace method:動的ヘッドス ペース法),3)酸化脂質を直接GCに導入する方法(Di- rect injection method)を比較している.3)の方法は,

生成した酸化物を直接GC内で熱分解後,分析するもの で,酸化物の分解機構の解析には適しているが,実際の 脂質酸化で生成する揮発性成分を見ているわけではな い.現在広く利用されているSPME法は2)に該当する が,Frankelらは,この方法の欠点として,揮発性成分 の抽出・吸着・脱離過程で,炭素数4以下の低分子成分 の減少と炭素数7〜10の不飽和アルデヒドの濃縮を指摘 している(5).Frankelらの主たる分析対象はリノール酸 を多く含む植物油であり,この場合には,炭素数4以下 の低分子成分の消失はあまり問題にならなかった.しか し,魚油の酸化物分析へのSPME法の適用の是非につ いては考慮が必要となる.

一方,1)の方法は,揮発性成分を含む気相をそのまま GCに導入するので,分析過程での特定成分の増減は少 ない.ただ,この場合,感度が低いという欠点があっ た.しかし,最近の分析技術の発達により,感度の高い 平衡ヘッドスペース法が活用できるようになった.そこ で筆者らは,魚油と植物油の初期酸化について,平衡

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ヘッドスペース法とGC-MSを組み合わせた分析を行っ た(6).その結果,魚油の場合,酸化のごく初期からアク ロレインが主成分として見いだされた.一方,大豆油な どの植物油ではアクロレインの生成はほとんど見られ ず,EPAやDHAなどのように,二重結合を多数含む n-3系PUFAの酸化により,アクロレイン(2-propenal,

図1)が先行して生ずることを明らかにした.アクロレ インは4-hydroxy-2-nonenal(酸化油脂の毒性成分とし てよく知られている)の約100倍の毒性を有し,その閾 値は3.6 ppbで,揚げ油の不快臭の本体としても広く知 られている.したがって,これまで不明であった魚油の 酸化初期で見られる風味劣化は,アクロレインに起因す るとも推測でき,その生成機構についての今後の検討が 期待されている.

仮にアクロレインが魚油の風味劣化の主因とすれば,

その生成を防ぐことが最も重要である.抗酸化物質に は,水素供与能があり,魚油中のEPAやDHAの酸化は ある程度抑制できるが,反応物をゼロにすることは難し く,少量でもアクロレインのようなアルデヒドが残存す ると風味劣化が起こってしまう.リノール酸を主体とす る植物油の場合,反応物のレベルや生成物の閾値が高い ので,抗酸化剤を添加すれば風味劣化はあまり問題にな らない.しかし,リノール酸よりも酸化されやすいn-3 系の

α

-リノレン酸が多いアマニ油では,魚油ほどではな いにしろ,アクロレインが生成する(6)ため,食品に広く 活用することは難しい.

それでは,魚油の風味劣化を抑制するにはどうしたら いいのか? この問題を解決するために注目したのがア ルデヒドとアミノ化合物とのアミノカルボニル反応であ る.なぜなら,この反応により,風味劣化の主因となる アルデヒド類を除去でき,かつ,反応物の抗酸化活性も 期待できるからである.これまで,アミノ酸,タンパク 質,リン脂質のアミノ基と脂質酸化で生ずるアルデヒド とのアミノカルボニル反応物の抗酸化活性については多 くの研究があったが(7),これらの反応物の抗酸化活性は それほど強くなかった.これには,生成物の分子量や,

脂質への溶解性などの化学的・物理的性質なども関係し ていると考え,魚油の酸化防止に最も適したアミノ化合 物を探索したところ,スフィンゴイド塩基を見いだし た(8).スフィンゴイド塩基はスフィンゴ脂質の構成成分 であり,トコフェロールとともに魚油に添加することに より,アクロレインなどのアルデヒド類の生成を一定期

間ほぼ完全に抑制できることを見いだした.その理由に ついては現在検討中であるが,スフィンゴイド塩基とア クロレインとの反応により強力な抗酸化物質が生成され ると推測している(図1).

  1)  K. M. Schaich:  Lipid Oxidation: Challenges in Food Sys- tems:  Challenges  in  elucidating  lipid  oxidation  mecha- nisms:  when,  where,  and  how  do  products  arise?    ed. 

by A. Logan, U. Nienaber, X. Pan, AOCS Press, 2013.

  2)  G. Venkateshwarlu, M. B. Let, A. S. Meyer & C. Jacob-

sen:  , 52, 1635 (2004).

  3)  A. Dehaut, C. Himber, V. Mulak, T. Grard, F. Krzewinski,  B.  Le  Fur  &  G.  Duflos:  , 62,  8014  (2014).

  4)  E.  N.  Frankel:  Lipid  Oxidation:  Methods  to  determine  extent  of  oxidation,   ed.  by  E.  N.  Frankel,  The  Oily  Press, 1998.

  5)  J. M. Snyde, E. N. Frankel, E. Selke & K. Warner: 

65, 1617 (1988).

  6)  A. Shibata, M. Uemura, M. Hosokawa & K. Miyashita: 

, Soc., in press.

  7)  F.  S.  H.  Lu,  N.  S.  Nielsen,  C.  P.  Baron  &  C.  Jacobsen: 

135, 288 (2012).

  8)  J. Shimajiri, M. Shiota, M. Hosokawa & K. Miyashita: 

61, 7969 (2013).

(宮下和夫,上村麻梨子,柴田阿子,北海道大学大学院 水産科学研究院)

プロフィール

宮下 和夫(Kazuo MIYASHITA)

<略歴>1979年東北大学農学部食糧化学 科卒業/1985年同大学大学院農学研究科 食糧化学専攻博士課程修了/同年北海道大 学水産学部水産化学科助手/1995年同学 部助教授/2000年北海道大学大学院水産 科学研究科教授<研究テーマと抱負>健康 的で美味しい食品素材に関する研究<趣 味>自然を楽しむこと,運動一般,ジム,

ビートのきいた音楽

図1α-トコフェロール存在下でのスフィンゴイド塩基とアク

ロレインとの反応による抗酸化物質の生成

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化学と生物 Vol. 54, No. 10, 2016

上村 麻梨子(Mariko UEMURA)

<略歴>2014年北海道大学水産学部資源 機能化学科卒業/2016年同大学大学院水 産科学院修士課程修了/現在同大学大学院 水産科学研究院海洋応用生命科学専攻博士 課程在籍<研究テーマと抱負>魚油に対す るスフィンゴイド塩基の抗酸化機構解明

<趣味>旅行,グルメ,映画鑑賞

柴田 阿子(Ako SHIBATA)

<略歴>2015年北海道大学水産学部資源 機能化学科卒業/現在同大学大学院水産科 学院海洋応用生命科学専攻修士課程在籍

<研究テーマと抱負>魚油の風味劣化機構 の解明と酸化安定性向上<趣味>旅行,ド ライブ,写真撮影

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.707

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