11.余因子展開とその応用
科目: 線形代数学IA及び演習(1‐3組)
担当: 相木
一般のn次行列の行列式を計算する方法として余因子展開を解説する.余因子展開と 行列式のその他の性質を組み合わせることによって,行列式を求めるための計算量を減ら すこともできる.
小行列式
n次行列Aと1≤ i, j ≤ nを満たすi, j に対してAの第i行と第j列を取り除いてで きる(n−1)次行列をAij と書くことにする.detAij のことをAの小行列式という.
例えば,3次行列
A=
1 −2 7 3 1 −2
0 2 0
に対してA11とA23はそれぞれ
A11 =
(1 −2 2 0
)
A23 =
(1 −2 0 2
)
で与えられる2次行列である.
注意:2次行列A に対しては,行と列を1つずつ取り除くとAの成分のうち1つだけが 残り,1×1行列ができる.そこで,2次行列に対しては,その小行列式の値を残った成分
(スカラー)によって定める.
例えば,2次行列
A =
(1 −1 2 0
)
に対してdetA11 = 0, detA12 = 2, detA21 =−1 などと定める.
余因子
n次行列Aと1≤i, j ≤nを満たすi, jに対して
∆(A)ij = (−1)i+jdetAij
によって∆(A)ijを定義し,これをAの(i, j)余因子という.
行に関する余因子展開
n次行列A= [aij]と∀i∈ {1,2, . . . , n}に対して
detA=ai1∆(A)i1+ai2∆(A)i2+· · ·+ain∆(A)in
=
∑n k=1
aik∆(A)ik
が成り立つ.これを第i行に関する余因子展開という.
行列式の定義において,多重線形性や交代性は列に対しての性質として定めたが,行 に関しても成り立つことをプリント10で解説した.この関係から余因子展開は列に関し ても成り立つ.
列に関する余因子展開
n次行列A= [aij]と∀j ∈ {1,2, . . . , n}に対して
detA=a1j∆(A)1j +a2j∆(A)2j +· · ·+anj∆(A)nj (1)
=
∑n k=1
akj∆(A)kj
が成り立つ.これを第j列に関する余因子展開という.
余因子を用いると一般のn次行列に対してその逆行列を(存在すれば)与える公式を 作ることができる.
余因子行列
n次行列に対して,その余因子行列Cof(A)を Cof(A) = t[∆(A)ij]
によって定める.つまり,Cof(A)は(i, j)成分がAの(j, i)余因子であるような行列 である.転置しているのでiとjの位置が入れ替わっていることに注意.
このように一般のn次行列に対して余因子行列を定義すると全てのn次行列Aに対 して
ACof(A) = Cof(A)A= (detA)En
であることが示されて以下を得る.
n次行列の逆行列
n次行列Aに対して,以下が成り立つ.
(i) Aが正則 ⇔ detA̸= 0
(ii) detA̸= 0のとき,その逆行列A−1は
A−1 = 1
detACof(A) によって与えられる.
行列式を計算するためのテクニック
このプリントで紹介した余因子展開は行列式を計算するのにかなり便利な公式である.
n次行列Aに対して,ある行(あるいは列)に関する余因子展開は (Aの成分)·(Aの余因子)
という形をした項をいくつか足しあわせた式になっている.したがって,Aの行(あるい は列)で0が多いものに関して余因子展開すると計算量がかなり減らせる.
さらに,プリント10の最初に行列式には以下の性質があることを紹介した.
• ある列の定数倍を他の列に加えても行列式の値は変わらない また,行列式の多重線形性が列に対しても成り立つことから
• ある行の定数倍を他の行に加えても行列式の値は変わらない も成り立つ.これら2つの性質を利用し,
「ある列(仮に第j列とする)に着目し,それ以外の列の定数倍を適当に第j列に足して第 j列の成分を可能な限り0が多くなるようにした後で,第j列に関して余因子展開する」
という方法で計算すると行列式を求めるための計算量が減らせる.行に関しても同様であ る.もちろん,この方法は万能ではなく,行列の形によっては効果が薄いこともある.
最後に,上の方法で行列式を計算する際の書き方やどのような効果があるかを例示 する.
3次行列Aが
A =
−2 3 12 0 1 0 0 0 2
で与えられているときにdetAを求める.行列式は記号として|A|と表すこともできたこ とを思い出そう.まず,第1行に着目する.第2行の(−3)倍を第1行に足して
|A|=
−2 3 12 0 1 0 0 0 2 =
−2 0 12 0 1 0 0 0 2
を得る.さらに,第3行の(−1
4)倍を第1行に足して
−2 0 12 0 1 0 0 0 2 =
−2 0 0 0 1 0 0 0 2 となり,第1行に関して余因子展開すると
−2 0 0 0 1 0 0 0 2
= (−2){(−1)1+1 1 0
0 2
}= (−2)·(1·2−0·0) =−4
なのでdetA=−4である.
この計算過程において,第2,3行の定数倍を第1行に足していった際,第2,3行自身 は変えていないことに注意.あくまでも定数倍を足して得られたものを「新しい第1行」
として使っているのである.
この例の場合は,他の行の定数倍を足すという操作をしなくても,最初から第1列に 関して余因子展開すれば行列式は簡単に求まるが,計算法を紹介するためにあえてこのよ うな計算をした.
予約制問題
(11-1) 2次行列に対して置換による行列式の表現と行に関する余因子展開が一致してい
ることを確認せよ.
(11-2) 3次行列に対して置換による行列式の表現と列に関する余因子展開が一致してい
ることを確認せよ.
(11-3) 以下の行列の行列式を求めよ.
(i)
3 3 −1 0 −2 1 2 0 −1
(ii)
1 0 −3 1
0 0 1 2
−2 1 0 3
1
3 −2 1 0
早いもの勝ち制問題
(11-4) 以下の行列の行列式を求めよ.ただし,a0, . . . , anとb, xはスカラーである.
(i)
1 0 · · · 0 a1 0 1 · · · 0 a2 ... ... . .. ... ... 0 0 · · · 1 an a1 a2 · · · an b
(ii)
x −1 0 · · · 0 0 0 x −1 · · · 0 0 0 0 x . .. ... ... ... ... ... . .. −1 0 0 0 0 · · · x −1 an an−1 an−2 · · · a1 a0
(11-5) 以下の行列の逆行列を(存在すれば)求めよ.
2 0 −1 3
−1 2 0 12
−1 1 4 0
0 −1 3 0
(11-6) AとP をn次行列とし,P は正則であるとする.このとき,以下を示せ.
(i) det(P−1) = (detP)−1
(ii) det(P−1AP) = detA
(11-7) 教科書p.64の証明を参考にしながらn次行列に対して第2行に関する余因子展開
が行列式に等しいことを証明せよ.