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1816を通じて、国連加盟国に対して、

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(1)

はじめに

冷戦末期以降、アフリカにおいては数多くの国内紛争(内戦)が発生してきた。そのなか でもソマリアは、現地の状況の悲惨さと国際社会の対応の失敗もあって、おそらくルワン ダと並んで、日本で最も注目を集める事例であったように思われる。冷戦後の国際関係の 分析において多用される破綻国家や崩壊国家の実例として、ソマリア情勢が言及されるこ とも多い(1)。そのような文脈では、以下に述べる今回の海賊取り締まりについても、ソマリ アが破綻国家であって、自らの手では解決できない問題について国際社会の協力を仰いだ、

という図式が成立するであろう。

国際連合安全保障理事会は、

2008

年6月2日付の決議

1816を通じて、国連加盟国に対して、

ソマリア周辺の公海での海賊行為に加えてソマリアの領海内における武装強盗に対する取 り締まり活動を行なうことを認めた。日本もこの安保理決議を受ける形で、2009年

3月 13

日に自衛隊法に基づく海上警備行動を発令して、海上自衛隊の艦船を派遣するとともに、

海上保安官による司法警察活動を開始した。さらに、同年6月19日には「海賊行為の処罰及 び海賊行為への対処に関する法律」が衆議院で再可決され、成立した。

本稿は、この、いわゆるソマリア沖海賊問題とそれに対する国際社会の対応を取り上げ る。特に本稿では、ソマリア沖における海賊取り締まり問題が、国際社会における主権観 念の変化を含意するものなのかどうかという観点から検討を行ないたい。とはいえ、後に 述べるように、本件に対する国際社会の対応、特に安保理決議の法的論理構成は、国際法 の既存の枠組みのなかで十分説明可能であり、ソマリアの主権を侵害する要素はみられな い。むしろ、ソマリアの主権侵害はもとより、既存の主権概念やそれを前提とした国際秩 序の否定という批判を浴びないよう、注意深く構成されたものだとも言える。

他方で、本来なら沿岸国(今回の場合で言えばソマリア)が果たすべき警察機能を国際社 会が肩代わりするという事態は、通常の国際関係では考えづらいものであることも確かで ある。一定の領域に対する排他的支配を認められた主権国家が並存する、という国際社会 の基本構造から考えれば、ソマリアでの状況はきわめて例外的なものに属することになる。

仮にソマリアでの状況が主権観念そのものの変化までは意味しないにせよ、特定国の状況 に対する安保理の対応としては特異なものであり、そのような対応が可能となっているこ との含意、さらには、それが今後一般化する可能性があるのか否かを検討する必要性は依

(2)

然として残るであろう。

1

ソマリア沖海賊問題の構造と特徴

本来、国際法において「海賊(piracy)」と領海内での「武装強盗(armed robbery)」は明確 に区別される犯罪類型である。そこで、本論に入る前に、「海賊(piracy)」という用語につ いて若干の説明を加えておきたい。

海賊とは、公海またはいずれの国の管轄権にも服さない場所において行なわれる、すべ ての不法な暴力行為、抑留または略奪行為を言う(国連海洋法条約第101条(a))。このような 行為が行なわれた場合は、いかなる国であっても、海賊行為を行なっている船舶あるいは 航空機の拿捕、実行犯の逮捕・処罰など刑事管轄権の行使が認められる(同第105条)。ただ し、同条約第100条をみる限り、条約当事国に海賊の処罰義務までもが課されているわけで はない。

いずれにせよ、本来、海賊とは公海上で行なわれるものだけを指す概念である。また、

公海上で行なわれる限りにおいて、普遍的管轄権が認められることになる。これに対し、

同種の行為がいずれかの国の領域主権の下にある海域(領海)内で実行された場合は、あく までも沿岸国の国内刑事法の下で沿岸国警察当局のみが刑事管轄権を行使しうるのであっ て、国際法上の海賊には該当しないことになる。言い換えれば、暴力行為、抑留または略 奪行為が海上のどの地点で行なわれたかによって、行為の法的性質や管轄権行使の国際法 上の根拠が異なるのである。

このような区別は、伝統的国際法の下での公海・領海二分論と、その前提としての領域 主権を実効的に支配する正統政府の存在・並存に対応するものである。すなわち、領海に おける行為については沿岸国の排他的支配に服するものとし、公海での行為についてのみ 国際法に基づく管轄権が設定されているのである。安保理決議

1816

(2008)などが海賊と

(海上)武装強盗を区別するのは、このような理由によるものである。とはいえ、ソマリア 沖では、公海・領海を問わず暴力行為、抑留または略奪行為が発生している。加えて、ソ マリア当局にはいずれの行為をも抑止したり、取り締まったりする能力がないという問題 が存在しているのである。したがって、ソマリア沖海賊問題の特徴は、国際法的な意味で の海賊行為(すなわち、国連海洋法条約第100条に該当する公海上での行為)に対して各国が行 使しうる管轄権を、ソマリア領海内における武装強盗に対しても行使できるようにする特 殊事情があった、という点である。

2

海賊取り締まりの法構造と特徴

1) 安保理決議の概要

ソマリア沖海賊問題に対する国際社会の取り組みは、国連海洋法条約の下での海賊取り 締まりに関する諸規則を下敷きにしつつ、具体的には4本の安保理決議によって規律されて いる。以下、各決議の内容を本稿と関連する範囲で整理しておきたい。

(3)

①安保理決議1816(2008年6月2日)

この決議は、前文第2項において、海賊と領海内での武装強盗がソマリアへの人道援助物 資の輸送と、商船の航行の安全に対する脅威になっていることを非難しつつ、深い遺憾の 念を表している。海賊と領海内での武装強盗に関する事実関係については国際海事機関

(IMO)からも報告されているとともに、IMO総会決議

A.1002

(25)(2007年9月18日)におい ても本件海賊問題への対応が各国政府に対して求められている(安保理決議1816前文第3お よび9項)。他方で、ソマリアの「暫定連邦政府(TFG)」に本件海賊問題に対応する能力が ないことは明白であり(同第7項)、TFGから国連事務総長に宛てて、海賊問題に関する国際 的な支援を歓迎する旨の書簡も発出されている(同第10項)。

このような状況に対し、安保理は、「ソマリア領海とソマリア沖公海にある船舶に対する 海賊行為および武装強盗事件が、地域における国際の平和と安全の脅威を構成し続けてい るソマリア情勢を悪化させるものと認定」(同第12項)したうえで、国連憲章第

7

章に基づ き、次のような措置を採択した。まず、すでにソマリア沖公海に海軍船舶および空軍機を 派遣している各国に警戒を要請するとともに、同海域を商業目的で利用している各国に海 賊行為の抑止のための行動を行なうとともに、そのためのIMOとの協力を求めている(同決 議主文第2および3項)。また、TFGから国連事務総長宛に事前通報があった国については、

関連する国際法に基づいて公海上で許容されている方法に従い、海賊および武装強盗の抑 圧のためにソマリア領海へ進入し、「あらゆる必要な措置(use . . . all necessary means)」を用い ることを許可している(同第7項)。また、これらの措置は、決議採択から

6ヵ月という時限

的なものとされている(同項)。

②安保理決議1838(2008年10月7日)

安保理決議

1816の採択によっても状況は好転せず、むしろ海賊や武装強盗集団が重装備

化したことを受けて採択されたのが、本決議である。決議

1816がすでにソマリア沖に展開

している各国海軍船舶および空軍機へのソマリア領海への進入許可であったのに対し、本 決議は、同海域の安全に利害をもつ関係国による幅広い協力を求めることが目的とされて いる(主文第2項)。また、決議1816で言及されていない点として、世界食糧計画(WFP)が ソマリア向けに行なっている人道援助物資のための船舶保護を呼びかけている点(同第5項)

も特徴として挙げられる。

③安保理決議1846(2008年12月2日)および

1851

(同16日)

両決議も、TFGによる事前通報があった国による、ソマリア領海内における「あらゆる 必要な措置」を通じた抑止行動を認めているという点で、従前の決議と異なるところはな い。特徴としては、1851号主文第

3、4

および5項において、海賊等の実行犯の身柄を拘束 する意思をもつ諸国(ソマリアの近隣諸国が想定されている)の法執行官をソマリア沖で展開 する諸国の艦船に乗船させるための特別協定を締結することを促し、かつ、広く海賊およ び領海内での武装強盗問題に対処するための国際協力のメカニズムを構築することを促し ていることを挙げることができる。また、本決議の下での措置には

12

ヵ月という限度が付 されている(主文第10項)。

(4)

2) 安保理による対応の特徴

以上を踏まえて、まず、海賊および海上武装強盗問題に対する安保理の対応の特徴をま とめておきたい。

①国連海洋法条約との関係

すでに触れたように、公海上での海賊行為の取り締まりについては、国連海洋法条約第

100

条以下に規定が置かれている。今回の一連の決議も、国連海洋法条約を中心とした「関 連する国際法の下で海賊に関連して公海上で許容された行動と一致する方法」(決議1816主 文第7項(a))での外国船舶によるソマリア領海への進入を許可するものとなっている。また、

同決議主文第

7

項(b)などにみられる、「あらゆる必要な措置」についても同様の文言、すな わち、「関連する国際法の下で海賊に関連して公海上で許容された行動と一致する方法」と の限定が付されている(2)

これらのことからも明らかなように、ソマリア領海内に進入する諸国家に許された行動 は、国連海洋法条約第100条に基づく抑止義務を基礎としている。ただし、同条約第

105条

に基づく普遍的な裁判管轄権までもが、ソマリア領海内での拿捕にまで自動的に及ぶかど うかという点は問題となる。この点については、決議1816主文第

11

項などが、海賊および 領海内での武装強盗の犯人および被害者の国籍国を含むすべての国(船舶の国籍国、寄港国 および沿岸国など)の間での管轄権の調整を求めていることから、拿捕した国に自動的に裁 判管轄権までもが及ぶことは想定されておらず、別途、ソマリアないし関連の近隣諸国と 取り決めを結ぶ必要があるものと考えられる。

②国連憲章第7章と

TFG

の「事前の同意」

決議1816以降、海賊行為および領海内での武装強盗行為が「地域における国際の平和と 安全の脅威を構成し続けているソマリア情勢を悪化させるものと認定」したうえで、国連 憲章第7章に基づいて一連の決議が採択されている。すなわち、海賊行為および領海内での 武装強盗行為を放置することで、すでに人道上の危機にあって「平和に対する脅威」とな っているソマリア情勢をさらに悪化させる、という論理構成である。国連憲章の文言上、

ある事態が第

39条に言う「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為」と決定されるこ

とが、安保理による非軍事的措置(第41条)ないし軍事的措置(第42条)の決定の前提条件 である。しかし、決議1816以降の一連の決議は、海賊行為および海上武装強盗行為そのも のが「平和に対する脅威」であるとは決定していないのである。この点は、ソマリアでの 海賊および武装強盗行為そのものを「平和に対する脅威」と認定することに反発した途上 国(たとえばインドネシア)に配慮した結果でもあるとされる(3)

また、今回の一連の決議における、もうひとつの特徴は、ソマリア領海内へ進入するこ とを許されているのは、TFGと協力し、TFGから国連事務総長に事前通報された国の海軍軍 艦に限られるという点である。すなわち、今回の措置は、TFGによる事前の同意(あるいは 要請)を前提としているのである。もちろん、TFGがどのような手続きを経て事前通報を行 なっているか、言い換えれば、事前通報がTFGの自由な意思にゆだねられているのかどう か、という点は問題にしうる。しかし、少なくとも法的にはソマリアの主権を侵害しない

(5)

形式が確保されているのである。

そうすると、一連の安保理決議が国連憲章第7章に言及したことの意味も問われなければ ならない。国連憲章第39条に基づく「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為」の決 定と、それに基づく非軍事的措置(第41条)あるいは軍事的措置(第42条)は一般に強制措 置(enforcement action)と呼ばれ、対象国の同意にかかわらず実施しうるものである。今回の 場合、海賊および領海内での武装強盗行為そのものは、第

39条の下での「平和に対する脅

威」の直接の対象となっていない。また、外国海軍艦船のソマリア領海への進入もTFGに よる事前の同意に基づいて行なわれる。その限りで、今回の一連の措置は、安保理決議が 国連憲章第7章に言及はしているものの、第7章に依らなくても実施可能なものであるとも 考えられる。この「同意に基づく強制措置」とでも言うべき現象は、冷戦後の平和維持活 動(PKO)の一部でみられるようになった、いわゆる伝統的な

PKO

と湾岸多国籍軍(1990年)

のような強制行動の中間に位置するものである(4)。このような決議において憲章第

7

章に言 及する意義としては、単に決議の政治的重みを高めるため(5)とも、一定の範囲で当事国(ソ マリア)による同意を排除し、安保理側の判断で活動内容を変更する余地をあらかじめ残し た(6)ものとも解釈できるだろう(7)

いずれにせよ、一連の決議を通じた今回の枠組みが、あくまでもソマリアにおける海賊 と海上武装強盗行為を対象としたものであって、他水域での海賊や他国領海内での武装強 盗行為への対応に波及させないという意図をもっていることは明らかである。また、決議

1816主文第 9

項などが明記するように、本件が国連海洋法条約等の国際法の下での各国の権

利義務に影響を及ぼすものでなく、さらに、慣習国際法の形成に影響を及ぼすものでもな いことが強調されている。言い換えれば、今回の措置はあくまでも例外的なものであると いう位置づけを明確にし、同種の問題を抱えるインドネシアなどの諸国の反発を招かない よう、注意深く形成されたものであることは明らかであろう。

3

「主権の変容」論への含意―破綻国家への対応問題として

以上、概観したように、ソマリア沖での海賊および海上武装強盗問題に対する安保理の 一連の対応をみる限り、少なくとも国際法的にはソマリアの主権の侵害あるいは衝突を回 避した対応がとられていることは明らかである。そのような前提に立って、本号の特集で ある「国際政治の構造変動」という文脈で本稿が示唆しうる点に触れておきたい。

1) 国家の「破綻」にどう対応するか

冒頭でも触れたように、本来、ソマリアが果たすべき警察機能が長年の国内紛争によっ て麻痺したことが、今回の安保理決議を通じた一連の措置の背景にあることは言うまでも ない。伝統的なリアリズム国際政治学においては、国家を、国際関係において国益を追求 して合目的的に行動するものと捉えてきた。また、そのような国家について国内状況を検 討する必要はないとされてきた。硬い外殻に覆われ、そのなかを見通すことができない、

という意味で、ビリヤードボールに擬せられた国家観である(8)。このリアリズム的前提から すれば、ソマリアの事態はまったく想定外のこととなる。ソマリアは国内の治安を維持す

(6)

る能力を失なった結果、公海上はもとより自国領海内においても犯罪を取り締まることが できなくなっている。これが単にソマリア国内の情勢を不安定化させているだけならまだ しも、ソマリア近海を航行する他国船舶にも被害が及んでいる。事ここに及べば、ソマリ アの国家としての硬い外殻はもはや存在せず、国際社会の関与を通じて、ソマリア自身の 手によっては為しえない治安維持を代行せざるをえなくなる。このような事態は、リアリ ズム国際政治学の前提を根本から覆すものである。

もっともこのビリヤードボールという表現も多分に比喩的なものであることは言うまで もない。国内の状況が完全にブラック・ボックス化しているなら、国内の統治にかかわる 問題は一切、国際問題化しないことになる。むしろ、国内問題不干渉原則を厳格に解釈し て、国内統治問題を国際化させないほうが、国際関係の安定に資すると考えることも可能 である。しかし、基本的人権保障に関する第2次世界大戦以後の国際社会の関心の高まりや、

開発援助問題など、国民の権利や貧困削減をめぐる問題は明らかに国際問題として取り扱 われてきたからである。

また同様に、ビリヤードボールとは言えなくなった国家が、自動的に破綻国家とラベル 付けされるわけでもない。別稿でも記したように(9)、「一定領域とその住民に対する実効支 配が認められず、そのためその領域住民の安全・生存が恒常的に脅かされている状態」(10)が 破綻国家と呼ばれるが、具体的な基準が存在するわけではない。また、仮に破綻国家とい うラベルが貼られたとしても、国家性そのものを喪失するわけでもない。現にソマリアは 引き続き国連加盟国であり、暫定政府であるとは言っても

TFG

がソマリアを代表して国連 に対して、海賊および海上武装強盗の取り締まりに参加する加盟国についての事前通報を 行なっているのである。

そのように考えるなら、ビリヤードボール・モデルも破綻国家も、国際関係の主体とし ての国家の捉え方としては同じように極端なものだと言えよう。もっとも、これら2つの国 家観あるいは主権観を単に極端な見解として排除すること自体、あまりに法的な、あるい は、手続き論的なものにみえるかもしれない。なぜなら、国家の「破綻」が問題とされる ようになった背景には、「主権国家の国際法的側面が制度化し、安定性を増すこと」(11)への 反作用という側面があるからである。

他方で、事実の問題として国家の統治構造が破綻状態となり、その結果として国内紛争 が起きたり、他国に対する脅威となったりすることになれば、国際社会として何らかの対 応をとらざるをえない。それは、国内紛争に伴う人道危機を回避するという利他的な動機 に基づく介入でもありうるし、安全保障上の脅威を除去するという、利己的な動機をも含 みうる介入でもありえよう。この介入の実施にあたっては、あらためて破綻国家の側の国 際法的な意味での主権が問題とならざるをえない。

破綻国家への国際社会の対応をめぐっては、かつてヘルマンとラトナーが「新たな非自 治地域(newly non-self-governing territories)」として国際的な管理下に置くことを提唱したこと が想起される(12)。その一方で、国連による暫定統治(領域管理)が破綻国家と呼ばれうるよ うな国(地域)、とりわけアフリカの紛争後国家(地域)で実施されたことはない(13)。今回

(7)

のソマリアに対する対応も暫定統治に匹敵するような全面的・包括的なものではなく、海 賊およびソマリア領海内での武装強盗の取り締まりという限定的な対応にとどまっている。

国家の「破綻」に一様の基準があるわけでもなく、また、破綻した国家の戦略的な位置づ けによって周囲の対応も異なる以上、それはやむをえないことである(14)。では、破綻国家に 対する国際社会の対応において、法的な意味での主権概念はどのように機能しているのだ ろうか。

2) 安保理の役割

冷戦後の国際社会においては、安保理が国連憲章第7章に基づく強制措置を発動する機会 が飛躍的に増大した。その契機となったのが、1990年

8月に発生した湾岸危機であることは

言うまでもない。その後、安保理の機能の変化あるいは拡大と呼ばれる現象が続いている(15)。 そのような状況の下で、先に紹介した今回のソマリア沖海賊問題への安保理の対応は、ど のような意味をもつだろうか。

まず、今回の措置の非強制措置性が指摘できる。もっとも一連の決議は国連憲章第7章に 言及しており、形式的には強制措置としての体裁を整えているのであるから、このような 表現は誤解を招きかねない。しかし、本来の強制措置、すなわち、非軍事的措置および軍 事的措置が「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為」の認定を受けた国家に対する 制裁的・懲罰的措置として予定されていたのに対し、今回の措置は、自ら取り締まる能力 のない国家(ソマリア)に代わって、他の能力ある国家による取り締まりのための領海進入 を許可するものである。すなわち、そこには、ソマリア自身による事前通報を通じた主権 の自己制限を前提としているからにせよ、制裁的・懲罰的な意味合いはない。その意味で、

本来の強制措置とは異なるのである。

また、一連の安保理決議では、ソマリア沖やアデン湾を航行する各国船舶の安全確保も さることながら、WFPなどによるソマリアへの人道援助物資の輸送の安全の確保が、今回 の措置の導入を決定した理由として繰り返し言及されている。国連憲章第39条との関連で、

ソマリア情勢のさらなる悪化を防ぐための措置として海賊および海上武装強盗を取り締ま る、という論理構成とも重なる点である。言い換えれば、ソマリア情勢の安定が今回の措 置の第一義的な目的として掲げられているのである。

ソマリアに対する制裁・懲罰ではなく支援・援助として、また、外国船舶の安全確保で はなくソマリア自身の和平の促進という形式(少なくとも外見上は)を整えた今回の措置は、

手続き的な意味でのソマリアの主権を尊重したものであることは言うまでもない。加えて、

今回の措置を現下のソマリア情勢に限定した例外的なものと位置づけ、国連海洋法条約に 基づく権利義務に影響を及ぼさず、また、慣習国際法の成立にも影響を及ぼさないとした ことは、さしあたり同種の問題を抱えるインドネシアのような国に対する配慮の結果であ る。と同時に、ソマリア情勢に匹敵するような状態にならない限り、安保理決議を通じた 代替的統治は、仮に支援・援助の色彩を帯びたものであっても実施されないということを 含意する。このことは、統治の実質に問題を抱える国々に対して、安保理が自ら高いハー ドルを設定してみせたことになると言うこともできよう。

(8)

む す び

本稿では、ソマリア沖における海賊・武装強盗問題に対する国際社会の対応を検討する ことで、今日の国際社会において主権概念、さらには国際秩序観に変化の兆しがみられる かどうかを探ってきた。これまでの検討を踏まえ、次の点を指摘して本稿を閉じることに したい。

冷戦後、国家による統治の巧拙が問題となる機会は飛躍的に増大し、また、国家の統治 の巧拙を比較・批判する言説や説明概念も増加した(16)。その背景には、冷戦構造に基づく 援助や支援によって支えられていた一部の途上国が、急に自立を求められるようになった という事情が作用している。加えて、情報・通信分野を含む技術革新と低コスト化により、

秩序の攪乱要素の側(犯罪者やテロリスト集団)も安価に高度な技術を利用できるようにな ったため、秩序を維持する側の能力が鋭く問われるようになったという側面もある。秩序 を維持する側に能力不足がある場合、秩序の攪乱行為の影響が国際社会全体に及ぶ可能性 も必然的に高まることになる。

このような状況にあっては、破綻国家と呼ばれるような国家の主権を大幅に制限し、能 力ある国家による統治の代替を実施したほうが、秩序維持という観点からは望ましいのか もしれない。しかし、今回のソマリア海賊問題をみる限り、ソマリアの主権を形式的には 最大限尊重した形で一連の決議が採択されている。それは、単にソマリアの国際法的な意 味での主権を尊重しただけではなく、他の国家にとっても国際法的な意味での彼らの主権 がきわめて強固に保持できることをも含意している。その一方で、統治の内実をめぐる問 題への直接的な関与をめぐっては、実態に応じて制裁的・懲罰的な介入から、支援的・援 助的な代替的統治の実施に至るまで、さまざまな手段が国連憲章第7章を柔軟に解釈するこ とを通じて実施されることになる。また、破綻国家への国際社会の関与(介入)をめぐって は、介入する側(先進国や国際機関)と介入される側(ソマリア)という二項対立的な図式で 捉えられやすい。しかし実際の関与策の決定にあたっては、ソマリアで現に発生している 事態の重大性は認識しつつ、それが自国に波及することを懸念するインドネシアのような 国の存在を見逃すことはできない。一連の安保理決議にみられたように、今回の事態をい わば特例扱いすることの前提には、伝統的な主権理解と国際秩序観が根強く残っているの である。

その意味で主権は引き続きビリヤードボールの外殻のような外見であり続けるのだが、

統治の内実とそれが国際社会に与える影響によって硬くもやわらかくもなる、つまり、対 処すべき問題に応じて、介入を行なう側・介入を受ける側・反射的に影響を受ける側とい う三者の関係性に応じて変化するのが、今日の主権だと言えるのではなかろうか。

1) ソマリア情勢と国連の関与について、たとえば、井上実佳「ソマリア紛争における国連の紛争対 応の『教訓』、軍事史学会編『PKOの変容』『軍事史学』第42巻3・4合併号、2007年)、338―356 ページ。

2) したがって、決議1816において許容される「あらゆる必要な措置」とは、軍事力の行使ではな

(9)

く、公海上での海賊行為に対して許される臨検、拿捕および逮捕にとどまると考えられる(森川 幸一「海上暴力行為」、山本草二編集代表『海上保安法制―海洋法と国際法の交錯』、三省堂、

2009年、312ページ)

3) 森川、前掲論文、311ページ。

4) 則武輝幸「合意に基づく『強制』」、横田洋三・山村恒雄編『現代国際法と国連・人権・裁判

―波多野里望先生古稀記念論文集』、国際書院、2003年、29―67ページ。

5) 香西茂「国連による紛争解決機能の変容―『平和強制』と『平和維持』の間」、山手治之・香 西茂編『現代国際法における人権と平和の保障(21世紀国際社会における人権と平和―国際法 の新しい発展をめざして(下)、東信堂、2003年、232―233ページ。

6) 酒井啓亘「国連平和維持活動における同意原則の機能―ポスト冷戦期の事例を中心に」、安藤 仁介・中村道・位田隆一編『21世紀の国際機構―課題と展望』、東信堂、2004年、259ページ。

7) 第7章下の措置とすることで、ソマリア領海内での武装強盗の取り締まりという、「国内管轄権 内にある事項」への「干渉」となることを回避する効果をもつとも考えられるが、そもそもTFG による事前通報に基づいて他国海軍艦船の領海進入が認められているのであるから、憲章第2条7 項との関係で第7章にあえて言及する実質的意義は乏しい。

8) 須藤季夫『国家の対外行動(シリーズ国際関係論4)、東京大学出版会、2007年、50ページ。

9) 山田哲也「ポスト冷戦期の内戦と国際社会」『国際問題』第545号(2005年8月)、48―49ページ。

(10) G. B. Helman and S. R. Ratner, “Saving Failed States,” Foreign Policy, Vol. 89(1992–93), pp. 3―20.

(11) 岡垣知子「主権国家の『ラング』と『パロール』―破綻国家の国際政治学」『国際政治』第147 号(2007年1月)、53ページ。

(12) Helman and Ratner, op. cit., p. 12 and ff.

(13) 暫定統治(領域管理)が実施される紛争事例の選択性をめぐる問題については、山田哲也「領域 管理と国際秩序―『新信託統治』が問いかけること」『国境なき国際政治(日本の国際政治学第2 巻)、有斐閣、2009年、177―195ページ、とくに194―195ページを参照。

(14) 岡垣、前掲論文、56―57ページ。

(15) この点についてはすでに数多くの研究が行なわれているが、網羅的に検討したものとして、村瀬 信也編『国連安保理の機能変化』、東信堂、2009年、がある。同書は「はしがき」(vii―viiiページ)

にあるとおり、『国際問題』第570号(2008年4月)を基礎としたものである。

(16) 山田哲也「ポスト冷戦期の内戦と国際社会」、45―57ページ参照。

やまだ・てつや 南山大学教授 [email protected]

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A.EL 人類を含めた地球上に生息するすべての生物は、さまざまなかたちで相互に補完しあい バランスをとりながら共存してきました。その生物種の多‑が、近年激化している無秩序 な特許争奪戦のために失われてしまうおそれがあります。特許制度のもとでは'これらの 生命体はみな、北側先進国の多国籍企業によって私有財産にされてしまうのです。

[要旨] 冷戦終焉後から21世紀の初頭にかけて世界各地でまき起こった大規模な政治 変動によって広い意味での国家建設の波が急激に広がった。そこでは連邦解体や 分離独立による新国家の誕生や民主化や市場経済への体制移行による国造りもあ ったが、9・11事件後の対テロ戦争による政権打倒を経て新国家建設が試みられ

酒の発音の声調が安定しなくなってしまって、第二声の和( た。何事も楽しむことが大切だと感じました。自 になれましたし、終わった後に充実感もありまし とても楽しかったです。だからこそ練習中も真剣 り屋なのでゼミの友人達と一緒に練習することが たという記憶だけが残ると思います。私は寂しが も味わえず、結果的に大変だった、楽しくなかっ

はじめに これまで歴史上で、幾度となく新興国が台頭してきた。それは既存の国際秩序を大きく 動揺させて、ときにその不安定化が戦争へと帰結した。現在、中国やインドなどの新興国 が急速に台頭しつつあるなかで、国際秩序が動揺している。はたしてこれからの世界は、 勢力均衡が大きく崩れていくことでよりいっそう危険で不安定となるのか。あるいはそれ

第三章 多極化と対米バランス 中国とロシアは冷戦後、国境確定を進めながら信頼醸成に努めてきた。ロシ アは中国にとって最新鋭兵器、エネルギーの供給源であり、中国にとってます ます重要な存在になっている。また、イスラム過激派対策などから中国は中央 アジアとの関係強化もはかっており、ここでもロシアの理解が必要だ。もとも

3 じて参加国における物理教育を一層発展させることを目的としている。科学・技術のあらゆ る分野において増大する物理学の重要性、また次代を担う青少年の一般的教養としての物 理学の有用性からも重要な国際イベントである。成績優秀者には金メダル(参加者の成績 上位約8%)、銀メダル(次の 17%)、銅メダル(さらにその次の 25%)が与えられる。

ところが、ここでひとつの疑問が生じる。反中感情がこれほど強烈でありながら、それが近 年の対中国政策に影響した形跡が見当たらないのである。前節でみた極右・ネオナチ団体は いずれも政治組織化されておらず、国会・地方議会での議席も有していない。またモンゴル では総選挙のたびに政権与党の構成が変わっているが、これによって政府の対中国政策に揺