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1990年代に顕在化するいわゆる「国際法 の分極化」(fra

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Academic year: 2023

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本号のテーマの「国際規制の交錯」は、1990年代に顕在化するいわゆる「国際法 の分極化」(fragmentation of international law)に由来するものであろう。国際連合国際法 委員会も2002年から2006年にわたりこの問題の検討に取り組み、42の結論(1)を含む 研究報告書を国連に提出している。この問題は、調和のとれた行政組織および法体 系が存在し、かつ強制管轄権をもつ完結した司法制度が確立している国内社会では あまり起こらない。他方国際社会では組織化が不十分で、それぞれの専門の分野の 専門機関その他のフォーラムが他の専門機関その他のフォーラムとの間に十分な協 議、調整を行なわずに、それぞれの国際法規則の制定を行なっている場合が多い。

そのこと自体は必ずしも悪ではなく、それぞれが他と競争し切磋琢磨してよい規則 を作るのはよいことである。他方近年では、ひとつの事象をひとつの観点のみから では処理できない事態が増えている。例えば漁業は、以前は漁業資源の管理の面の みから処理できたが、現在ではそれに加えて環境、通商の面の配慮も求められるよ うになった。それ故に関係する主体が増え、その間での調整がなされていない問題 が顕在化してきた。またそれぞれの分野で紛争解決手段が設けられることが増え、

問題を複雑化してきた。

この分極化の問題は、法的には「同一の事項に関する相前後する条約の適用」の 問題となる。関係する条約の内容が相互に抵触する場合には、上位法の下位法に対 する優先、特別法の一般法に対する優先あるいは後法の前法に対する優先という法 の一般原則および条約法(2)が適用されるので、あまり問題は生じない。問題が生ず るのは、それぞれの条約の内容が抵触せず両立して並行的に適用される場合であり、

またそれぞれが別個の紛争解決手続きを定めており、さらにその紛争解決の手続き の場で適用される法規範がそれぞれ異なる場合である。条約法条約は、これへの対応 策が欠落しており、それ故、いわゆる「国際裁判所の拡散」(proliferation of international

courts)がおこると、原告は公平な結果よりも自己にとって最も有利な結果が想定さ

れる裁判所を選ぶ「法廷漁り」(forum shopping)の風潮が生じてくる。

このforum shoppingの問題を、我が国がかかわったケースにより検証してみよう。

まず「みなみまぐろ事件」(3)がある。この事件はきわめて複雑なものであるが、簡略

国際問題 No. 592(2010年6月)1

◎ 巻 頭 エ ッ セ イ ◎

Yamada Chusei

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化すると次のようになる。

「みなみまぐろ」はインドネシアの沿岸で生まれ遠く公海へ回遊するが、インド洋 から南極海にかかる公海での「みなみまぐろ」の成魚をはえ縄で漁獲する漁業は、

1950年代に我が国が開発したものである。その後オーストラリア(豪)およびニュ ージーランド(NZ)がそれぞれの排他的経済水域内で「みなみまぐろ」の幼魚を巾 着網で漁獲し、育養のうえ日本に輸出するようになった。

処女資源であった「みなみまぐろ」はこれらの漁業によりその資源量が減少して きたため、3ヵ国は1993年に「みなみまぐろ保存条約」(CCSBT)を締結し、その条 約のもとで設立された「みなみまぐろ保存委員会」において資源の科学的調査に基 づいてそれぞれの漁獲割り当てを定めて資源の管理に当たってきた。しかし我が国 と他の2ヵ国の間に資源量の評価につき意見が対立するようになり、評価の精度を 高めるために調査漁業を行なうことには合意があったが、その規模につき合意が得 られなかった。

合意のないまま日本が一方的に調査漁業を実施したことが端緒となり、豪・NZは 2000年に国連海洋法裁判所(ITOLOS)に国連海洋法条約(UNCLOS)付属書Ⅶの強 制仲裁裁判の開始を訴えるとともに、同条約第290条5に基づき日本の調査漁業の中 止、従前の国別漁獲割り当ての順守および調査漁業の漁獲量の国別割り当てからの 控除を求める暫定措置を求めた。この訴えに対してITOLOSは原告の訴えに沿った 暫定措置を命令したが、その後構成された仲裁裁判所は本件についての管轄を認め ずITOLOSの暫定措置も廃棄した。

仲裁判決文の立論はやや難解であるが、その仲裁裁判官を筆者が務めた経験から 判決が導き出された背景を説明すると、仲裁裁判官の多数は、つぎのような感触を 抱くにいたった。

UNCLOSは確かに本件に適用があるが、その第119条は漁業資源管理の原則を定

めているのみで、その実施は第118条で地域漁業機関における関係国間の協力に委ね られている。仲裁裁判所は第293条でUNCLOSと慣習国際法を適用できるがCCSBT は援用できない。しかし、この訴訟の本案においては、「みなみまぐろ」の資源管理 を実際に規制するCCSBTとそのもとの委員会の成果を援用できなければ判断しえな いものであり、UNCLOSの仲裁裁判では紛争の適正な解決はできない。またITOLOS の暫定措置命令は、原告も主張していない「みなみまぐろ」の誤った資源評価に依 拠しており適正なものではない。豪・NZにとってはITOLOSの暫定措置命令を得た ことでもう目的を達していたもので、翌年にはじまる仲裁裁判では弁論も生彩を欠 き迫力のないものであった。このことからITOLOSへ提訴したのは暫定措置命令を 受けるためのforum shoppingであったとの印象が強く残った。

国際司法裁判所のGilbert Guillaume所長は「国際裁判所の拡散」とforum shopping

巻頭エッセイ国際法の分極化

国際問題 No. 592(2010年6月)2

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について、国際司法制度を乱すものとして当時深く危惧されていた。「みなみまぐろ」

仲裁判決の直後にジュネーヴの国際法委員会を訪問された際に筆者より仲裁の事情 を聴取され、同年10月の国連総会第6委員会での演説の冒頭に要旨次のとおり述べ られた(4)

「チリーと欧州連合(EU)の間の『めかじき』紛争および『みなみまぐろ』事件が forum shoppingの危険の増大を示しているとおり、国際裁判所の拡散とそれが国際法

に及ぼす影響は改善されていない。同種の事件について異なる判例が出される危険 が増加しており(5)、最近リヒテンシュタインより、すでに欧州人権裁判所が特定の 部分に判決を下した事件につき国際司法裁判所へ提訴してきた(6)。国際裁判所の拡 散は国際法の統一性を阻害するものであり、国際法の立法者と裁判官は慎重に対処 しなければならない。また諸処の裁判所の判決につき国際司法裁判所が審査できる 手続きを設ける必要があるかもしれない」。

同所長の国際司法裁判所が各種の国際裁判所の上訴審になるべきとの考えは、国 際社会の現状では実現の可能性が薄いと思われるが。

本年3月にドーハで開催された「ワシントン条約第15回締約国会議」(CITES

COP15)も、紛争解決が裁判にまで持ち込まれた例ではないが、我が国に大きくかか

わる「国際法の分極化」の例である。モナコが主導し、EUおよび米国が支援して

「大西洋くろまぐろ」の資源保存を理由としてその輸出入を禁止しようとしたが、今 回は多数の国の反対にあい実現はしなかった。筆者は1973年にワシントンで同条約 の作成交渉に当たったが、そもそもの同条約の理念は次のようなものであった。絶 滅の危機に瀕した種の保存はあくまでもその種を管理する国の責任ではあるが、そ の多くの国が開発途上国で十分な管理ができず、特にその種を対象とする市場が先 進国にある場合には密猟が頻発し、その対策に困っている。したがってその市場が ある先進国がその輸入を禁止することにより、当該種の保存に補足的に協力するこ とであり、条約はそれを定めようとしたものである。

当時、国際的管理機関がある場合の種を対象にすることは考えていなかった。「大 西洋くろまぐろ」については、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)が設立され ており、48ヵ国がその管理に当たっている。「大西洋くろまぐろ」資源が減ってきて いるのは事実であろう。しかしそれが全面的禁漁を必要とする水準にまで下がって いるかを一義的に判断すべきなのはICCATである。CITESで輸出入を禁止すること は、魚種の場合は陸上の種とは異なり自国船が漁獲した魚種の本国への持ち込みも 輸入とみなされるので、全面禁漁に等しい。それを漁獲もせず輸入もしない国が、

自己の価値観を他国に裏口からの手段で押し付けようとするのは如何なものか。も っとも先に述べた如く、現代は多様化の時代であり、漁業資源の管理も輸出入や環 境問題をも考慮する必要があり、諸機関にまたがる統合的対策(integrated approach)

巻頭エッセイ国際法の分極化

国際問題 No. 592(2010年6月)3

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が実現されなければならないことは言うまでもない。

1) 国際法委員会2006年報告書(A/61/10)、para. 251。

2) 条約法条約第30条。

3)『国際法外交雑誌』第100巻第3号(2001年)、175―183ページ。

4) 国連総会第6委員会議事録A/C.6/56/SR.12、para. 66―68。

5) この発言は、ニカラグア事件およびジェノサイド条約適用事件の国際司法裁判所の判例 とタジッチ事件での旧ユーゴスラビア刑事裁判所の判例の齟齬を指していたと考えられ る。

6) リヒテンシュタイン対ドイツの事件については、河野真理子「資料判例研究」『国際法 外交雑誌』第108巻第4号(2010年)、105―119ページ。

巻頭エッセイ国際法の分極化

国際問題 No. 592(2010年6月)4

やまだ・ちゅうせい 前国連国際法委員会委員 [email protected]

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