応用分子昆虫学 第10回
- 個体間の情報伝達 -
昆虫の信号物質
生物は様々な化学的な刺激を情報として受け取り、
それに対する反応性を獲得 ⇒ 適応 昆虫では重要な情報の伝達に化学信号を使っている。
◎生物個体間の交信に利用される化学物質は、
信号物質(semiochmical)と呼ばれる
1.同種の個体間での交信に利用されるもの (pheromone)
2.異種個体間で作用する他感物質 (allelochemics)
a.放出者が適応的に有利と考えられる場合 アロモン(allomone) b.受容者に有利 カイロモン(kairomone) c.両者ともに シノモン(syhomone) d.両者ともに不利益 アンタイモン(antimone)
1.フェロモン 同種間信号物質
・性フェロモン :配偶行動を触発するフェロモン 図(7-1)
・その他のフェロモン:
集合フェロモン
分散フェロモン 行動を触発するフェロモン 警報フェロモン [リリーサーフェロモン] 道しるべフェロモン (解発フェロモン)
同巣認識フェロモン
相変異を引き起こすフェロモン(バッタ)
階級分化フェロモン(ミツバチ・アリ)
女王物質 ミツバチ
行動面のみならず
成長・生殖などの生理的な 変化を引き起こす
[プライマーフェロモン] (起動フェロモン)
(個体表面接触)
その他:テリトリー認識や死体認識に関わるものあり。
トノサマバッタの相変異-[十勝((明治))・鹿児島((1986))(毛島)での大発生など]
ex.ワタリバッタ
個体群密度が高くなると、接触やフェロモンの相互作用で変異を起こし、
形態や行動に著しい変化が現れる。
「群生相」 「孤独相」
群を作る性質と、優れた飛翔能力 バッタの大発生 被害 相変異
トノサマバッタの相変異
新得町 バッタ塚 手稲山口
(独)ブーテナント
雄ガを性的に興奮させる性誘引物質 (性フェロモン)を雌カイコガより取り出し 20年かけて構造決定
10,12-E,Z-ヘキサデカジエノール (トランス) (シス)
「ボンビコール」 と命名 1961年 1/1018 g/ml 溶液 1摘で
雄ガは婚礼ダンス(コーリング)
フェロモンの流れてくる方向を捜す行動 触角で1~数分子かげば反応
性フェロモン
*
セスジスカシバのコーリング 性フェロモンの分泌腺とコーリング
◎ 一般に雌が性フェロモンを出す
卵をかかえる雌よりも身軽な雄が雌を探した 方が合理的なのかも。
鱗翅目の雌の性フェロモン分泌腺は腹部末端 にある
一般に種により独特の姿勢で分泌腺を露出し 同時に伸縮させて、フェロモンを発散させる
コーリング(求愛行動)
これまでに 多様なフェロモンの化学構造が 決定された。
大部分は炭素12~18の直鎖化合物で
2重信号が1~3個ある不飽和アルコールの 酢酸エステル
生理学的興味
+
将来農薬に使えるとの思惑
昆虫学者
+ が1970年代より活発にフェロモンの研究を推進 有機学者
新しい学問分野
「 生理活性天然物化学あるいは化学生態学 」
害虫の防除・発生予察 などに利用
フェロモン研究
性フェロモンの認識機構 フェロモン分子が
触角上の嗅感覚子(嗅受容器)
にある無数のチューブ状の穴に 入る。
感覚毛液に溶解
フェロモン運搬タンパク質 が 30%濃度で含まれている
+
加水分解酵素
エステルであるフェロモンが 4分で加水分解される
臭細胞(臭覚受容ニューロン)へ 運ばれフェロモンを感じる。
https://www.secomzaidan.jp/interview/kanzaki-r-t4.html
性フェロモンの同定・合成が可能となって初めて利用研究が開始できる。
①発生予察への利用
利点 ・・種特異的であり捕獲虫の分類・同定に専門知識がいらない ただの誘蛾燈などと比べると誘引性が高く、取り扱いが簡便
棲息密度を知る
棲息密度と捕獲数は必ずしも平行関係にあるとは限らない
◎棲息数と捕獲数の割合(即ち抽出率)に影響する諸要因 a.性フェロモンの揮散量は時間とともに減少
(濃度低下、分解) b.c.dと関連 b.気象条件
(気温、風)
揮散量や昆虫自体の行動 c.昆虫の生理状態 Stage
(ex.羽化後間も無い個体は一般的に反応性低い)
d.野外の♀が多くなると捕獲率低下
(because 競合して♂を奪いあうのだから)
A 発生時期の予測(被害許容密度が低く毎年必ず殺虫剤の散布が必要な場合)
フェロモントラップの捕獲ピークの時期から殺虫剤散布適期を予測 ナシヒメシンクイなど果樹害虫防除に利用
B 発生量の予測(発生量が変動する場合)
ニカメクチョウ・ハスモンヨトウなど数年ごとに大発生をくり返し、
毎年防除が必要というわけではない
性フェロモン利用の現状
②大量捕獲法
合成フェロモンの強力な誘引性を利用して♂を大量に捕殺 産卵数の減少
次世代幼虫の密度を下げるのが目的
③交信撹乱法
♀♂間の性フェロモンによる交信を撹乱
次世代幼虫の密度減少をねらう
その他のフェロモン
a.集合フェロモン ‘集まれ’
ゴキブリ類、キクイム類をはじめ多くの鞘翅目昆虫 ex. チャバネゴキブリ
ルーズな集団で生活する準社会性昆虫 飼育していると 糞 に集まる
糞をメタノールで洗うと、メタノール分画に活性有 20年以上の努力で京大で
活性物質が アミン であることをつきとめた。
ex.キクイムシでは テルペノイド を中心とする
多くのフェロモンが同定されている。
*
*
b.警報ホルモン (社会性昆虫)と(準社会昆虫)に認められる アブラムシ類、カメムシ、アリ、ミツバチ
警報 一般的には逃避行動として観察できる。
ミツバチでは攻撃行動
巣の近くで一匹のセイヨウミツバチに刺されると 多くのハチが怒り出し、大挙して攻撃してくることは 養蜂家でよく知られている。
発散
攻撃命令 刺針
バナナ臭の
酢酸イソアミルが主成分
付属腺 警報フェロモン
d.女王物質(階級維持フェロモン)
女王バチを除くと
①直ちに 王台 が築かれる
セイヨウミツバチの巣
女王バチがいると 春の新女王をつくる 時期以外はおこらない
②若い働きバチの卵巣が発達し、
働きバチ産卵が始まる
女王バチの 大あご腺 から分泌される 女王物質 で
制御されている
9-ケト-E-2-デセン酸 を主成分とする5種の化合物
トランス
新女王を育てるた めの特別の飼育室
9-オキソデセン酸
未受精卵から 生まれる
受精卵から 生まれる
(誘因)
など
ミツバチの階級制度を制御するフェロモン
C.道しるべフェロモン(社会性昆虫で知られる)
・セイヨウミツバチ ナサノフ腺分泌物 働きバチを強く誘引 ・アリ
アリの行列 息をつきかけて乱してもすぐ戻る が
指で数センチの幅を強くこすったり 土を厚くはぎ取るとなかなか戻れない。
フェロモンの存在 北米に生息するミゾガシラシロアリ科のシロアリ
(2,2,E,)-3.6.8-ドデンカトリエン-1-オール がフェロモン
10㎝当たり、1×10-10合成フェロモンで ガラス板上に描いた線をたどれる。
世界世界一周1させるのに250μgあれば良い ドデカトリエン
e.コロニー臭
血縁者が集合生活するアリのコロニー
コロニーのメンバーの認知が必要
体表ワックスに含まれる
接触化学刺激物質 が用いられる
体表ワックスの化学組成の比率がコロニー間で異なる
1)アロモン 放出者に有利
昆虫が撹乱を受けた時に放出するイヤな匂いなどの刺激性物質や有毒性物質など 防御物質の場合が多い。
例外 ナゲナワグモ(中米に分布)
粘着球を糸の先につけて振り回し、餌を捕獲
同時にある種のヤガの性フェロモンに似た物質を放出し誘引されてくる♂ガを捕える 2)シノモン 両者ともに有利
植物-植食者-天敵
三者の食うものと食われるものの相互作用を三栄養相反作用と呼ぶ
(tritrophic interaction)
近年、三者間に化学的信号 有ること判明
ex.トウモロコシの実生はシロイチモジヨトウ幼虫の 食害を受けると発揮性テルペノイドを大量放出し、
この匂いに幼虫寄生バチが誘引される 機械的な傷ではダメで幼虫の 唾液 が必要
2.他感物質 allelochemic
*
3)カイロモン 受ける側に有利
よく考えてみると、生物化学的に奇妙な概念
放出者によって、そのような化学物質を放出することが決定的に不利であるならば、
そのような形質が進化するはずがない
したがって放出者にとっては本来アロモンやフェロモンである物質に、受容者が 2次的な適応をとげた結果と言える。
寄生昆虫が放出する性フェロモンは天敵が比較的長い距離から、寄生を探索する のに利用される多くの事例が知られている。
性フェロモン アブラムシ コバチ科 寄生蜂 カイガラムシ ツヤユバチ科 〃
カメムシ♂の集合フェロモン ヤドリバエ科 寄生バエ
クロタマゴバチ科の卵寄生蜂 ヨトウガ/性フェロモン 卵寄生蜂
ハマモンヨドウ/性フェロモン クロタマゴバチ科 〃
sos
sos
sos
食害
害虫の唾液成分がエ リシターとなりHIPVの
合成誘導
HIPVが食害害虫 の天敵誘引
害虫 食害 天敵
(寄生蜂、捕食性ダニ、昆虫)
HIPV産生
( HIPV)
植食者誘 導 性 匂 い物 質
(herbivore-induced plant volatiles) 」
エリシター: 病原菌等に接触した植物に防御機能 物質の合成を誘導する物質(ex. ボリシチン)
ex, トウモロコシ シロイチモジヨトウ
例えば,
コマユバチ♀
ボリシチン インドール、テルペノイド産生