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富 田   哲

1.序―問題の所在―

 「親」といえば,通常,父親が一人,母親が一人と考える。また親子関係は 存在するか存在しないか,いわゆるall or nothingであると考える。さらに親 子関係の効力,たとえば氏の使用,親権,扶養,相続等は一律に発生し,それ らがそれぞれ異なる人に帰属することはありえないと考える。確かに近代民法 における嫡出子の親子関係については,その効力に関して,父母と子との間

親子法制の再構成

―生殖補助医療から親子関係の効力を考える―

1 近代民法において予定している家族像は,「近代家族」であった。近代家族は 夫婦とその間の未成熟の嫡出子からなり,夫は対外的所得活動,妻は家事労働 といった性的役割分業を含む家族である。本稿において「嫡出子の親子関係

(嫡出親子関係)」という語は,近代家族のうち親子関係の部分を指している。

   目  次 1.序―問題の所在―

2.普通養子制度―親子関係の並存―

3.特別養子制度―血縁関係の断絶―

4.生殖補助医療―匿名の原則による親子関係の形成―

5.非法律上の親子関係の効力 6.おわりに

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でall or nothingに発生し,かつその効力は一律に発生し,多数の効力がいわ ば束となって親と子とを結びつけている

 しかし例外もありうる。第1に,養親子関係である。養子には実親と養親と がいるからである。日本民法は,普通養子が実親子関係と養親子関係との並存 的親子関係を認めているのに対して,特別養子は実親子関係を断絶させて,親 子関係は養親子関係のみに認めている。それゆえ特別養子は実親子関係に近い ものとなっている。養子制度の理念が「子のための養子」であるならば,特別 養子のような実親子関係に近い制度が養子制度としてふさわしいといえよう。

しかし日本においては,普通養子のほうが圧倒的に多いのが実情である。

 第2に,生殖医療を利用した場合である。生殖補助医療の発達は,親子の法 的関係につき難問を発生させた。提供者(ドナー)の精子を使用して非配偶者 間人工授精をすると,父は生物学上の父と養育の父とに分裂する。提供者

(エッグドナー)の卵子を使用して体外受精をすると,母は生物学上の母と 養育の母とに分裂する。さらに提供者の卵子を利用しかつ代理懐胎によって子 をもうけると,母は生物学上の母,出産の母,養育の母という3つに分裂す る。このような場合において,法律上の父または母を誰にするべきかという問 題が発生した。

2 法律上の規定をもって,親子関係の効力を部分的に排除または停止している場 合がある。たとえば,親権喪失(民法834条)・親権停止(民法834条の2)と か,相続欠格(民法891条)・相続人の廃除(民法892条)などがこれに該当す る。

3 日本産婦人科学会の会告においては,卵子提供による体外受精を認めていな い。なお,会告は当該学会の内部的な規制であって,法的な効力を有するもの ではない。

4 日本産婦人科学会の会告においては,サロゲート・マザー型もホスト・マザー 型も代理懐胎を一切認めていない。

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 生殖補助医療を利用して出生した子の親子関係につき,嫡出親子関係に倣っ て,父一人,母一人に確定しなければならないものであろうか。それとも普通 養子のように並存的親子関係を認めてもよいとするべきであろうか。後者の場 合には,親子関係の効力に関して,氏の使用,親権,扶養,相続といった親子 関係の効力につき,個別的に帰属者を確定するべきかという問題も発生する。

 日本においては,実子につき並存的親子関係を認めるとか,親子関係の効力 を分散して帰属させるといった主張をすれば,奇妙奇天烈な発想であるとの烙 印を押されかねない。しかし生殖補助医療のような新しい事態に対して,しか もその法的規制が強く求められている分野において,より柔軟な発想を必要と するのではあるまいか。そうした問題意識の下に,本稿においては,親子関係 の効力に関して一つの立法論を展開してみようと考えた

2.普通養子制度―親子関係の並存―

(1)普通養子における親子関係の効力  1)婿養子型から養育養子型へ

 日本においては,現在,法定血族は養親子関係のみである。日本民法は養

5 文化人類学の分野においては,複数的な親子関係の存在を認めるような報告が ある。たとえば,宇田川妙子「親子関係の複数性という視点からの親族法再考

―イタリアの事例とともに―」『文化人類学』第74巻第4号574頁(2011年), 梅津綾子「複数の両親による子育て―北部ナイジェリア,ハウサ社会の里親養 育慣行(リサ)の事例より―」『アジア・アフリカ地域研究』第14- 1号43頁

(2014年)など。前者はたとえば伯叔父・伯叔母と甥・姪との関係に実親子関係 に類似の関係を見出すものであり,後者は一種の養子縁組に並存的親子関係の 存在を認めるものである。

6 明治民法においては,「継父母ト継子ト又嫡母ト庶子トノ間ニ於テハ親子間ニ

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子制度として普通養子制度と特別養子制度とを設けている。このうち普通養子 が基本であるが,そもそも普通養子は婿養子を念頭においた制度であって,

婚姻とパラレルな規定が多くおかれている。婿養子という「家」の継承を前提 とした制度であるから,婿養子は婚姻可能な年齢以上であることが想定されて いた。婿養子は「家」のための養子,親のための養子であった。しかし日本 においても子の養育を前提とした養子制度が古くから存在した。いわゆる「藁 の上からの養子」である。養子といわずに「貰い子」などと称されていた。

この場合には,出生した子は実親の戸籍に入らず,いきなり養親の嫡出子とし て出生届が出され,養親の戸籍に入ることとなった。それゆえ,藁の上からの 養子は現在の特別養子に近い性質を有していた。1947年の民法親族編・相続

於ケルト同一ノ親族関係ヲ生ス」(明治民法728条)と規定し,継親子関係およ び嫡母庶子関係も法定血族とされていた。「継親子関係」とは,父母の婚姻が解 消され,父または母が再婚したとき,子と父母の再婚者(継母・継父)との関 係をいう。「嫡母庶子関係」とは,父が妻以外の女性との間に子をもうけ,その 子を認知し,子を自己の「家」に入れたとき,子は「庶子」と称し,庶子と父 の妻(嫡母)との関係をいう。

7 「婿養子」とは,養親と養子とが養子縁組をするのと同時に,養親の娘と養子 とが婚姻するという養子の形態である。

8 婚姻年齢につき,明治民法によると,男17歳・女15歳となっていたが(明治 民法765条),現行民法によると,男18歳・女16歳とされている(民法731条)。 成人年齢の引き下げに伴い,2022年4月からは男女とも婚姻年齢は18歳となる。

9 「藁の上からの養子」につき,判例は否定的であり,養子とする意思で他人の 子を嫡出子として出生届を出し,事実上の親子関係が長期間継続した場合で あっても,養子縁組は成立せず,虚偽の出生届であるので,親子関係不存在確 認の訴えを提起することができるとする(最判1950(昭和25)年12月28日民 集4巻13号701頁)。戦後になると,「藁の上からの養子」のような虚偽の出生 届を防止するために,出生届に医師による出生証明を添付することが義務づけ られた。

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編の全面改正によって,養子制度の理念は「子のための養子」となったが,そ のため未成年者を養子とする場合には,家庭裁判所の許可を必要とすることに なった(民法798条)10。とはいえ日本民法の普通養子は,婿養子的な成年養子 と養育養子的な未成年養子とを原則として同一の下に規制している。以下で は,普通養子の親子関係の効力に関して,氏の使用・戸籍,親権,扶養,相続 等について概観しておきたい。

 2)氏の使用・戸籍

 氏の使用について,民法は「養子は養親の氏を称する。」(民法810条本文)

と規定する。この規定は強行規定であり,養子は必ず養親の氏を称さなければ ならない。養子が実親の氏を称することはできない11。また養子は養親の戸籍 に入る12

 離縁の場合には,縁組前の氏に復するのが原則であるが(民法816条1項),

「縁組の日から7年を経過した後に前項の規定により縁組前の氏に復した者は,

離縁の日から3箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによっ て,離縁の際に称していた氏を称することができる。」(民法816条2項)と規

10 未成年者養子に対する家庭裁判所の許可につき,最も問題となるのは,同条 ただし書によって,「自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合には,この限 りでない」として許可を免除している。子を持つ女性が子連れで再婚し,再婚 の夫と子が養子縁組をするときにも家庭裁判所の許可が不要とされる。こうし た場合において,養父による虐待のケースが見られ,許可を免除することには 疑問がある。

11 ドイツ民法においては,「……新しい氏に従来の氏を付加することができる」

( 民 法1757条 4 項 ) と 規 定 し, 実 親 の 氏 と 養 親 の 氏 と を 結 合 し た「 複 合 氏

(Doppelname)」を養子が称することが認められている。

12 明治民法においては,養父母と養子とは同一の「家」に在るので,同一の氏 を称した(明治民法746条)。

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定する。離婚に際して復氏を強制していた民法767条を緩和して,婚姻中の氏 の継続を認めた1976年の民法改正13にならって,1987年の民法改正によって 離縁の場合も縁組中の氏の継続使用を認めることになった。ただし,離婚の場 合とは異なり,縁組の期間が7年を超えるものに限定されている。なお,養親 が死亡したときは,養子縁組は解消しないから,復氏の問題は生じない。

 3)親  権

 親権について,民法は「子が養子であるときは,養親の親権に服する。」(民 法818条2項)と規定している。すなわち親権者となるのは,常に養親であっ て,実親を親権者とすることは認められていない14。離縁の場合には,養親の 親権が復活するが,養親が死亡したときは,未成年後見が開始するというの が,実務上の取扱いである15

 4)扶  養

 扶養について民法は,「直系血族及び兄弟姉妹は,互いに扶養をする義務が ある。」(民法877条1項)と規定する。養親と養子との関係は直系の法定血族 であるから,養親と養子との間には,いうまでもなく相互に扶養義務が発生す る。問題は,実親と養子となった子との間にも扶養義務が残るのかという点で

13 1976年改正について,改正後の問題点をとりあげたことがある。富田哲「離 婚復氏に関する昭和51年民法改正の当否―改正後の動向―」『商学論集(福島大 学)』第56巻第3号1頁以下(1988年)。

14 明治民法においては,親権者は「家」を同じくしていることが要件とされ,

養親のみが親権を行使した。

15 日本における親権の問題点については,次の論稿においてとりあげたことが ある。富田哲「親権者の変更と戸籍の届出―民法における問題点の洗い出し―」

『行政社会論集(福島大学)』第27巻第2号31頁以下(2014年)。

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ある。婚姻の場合には,婚姻後も当然に直系血族としての扶養義務を負担す る。養子縁組後の実親と養子となった子と間の扶養義務についても,これを肯 定する見解が強い。それゆえ扶養に関しては並存的な親子関係を認めることに なる。

 扶養義務を肯定した場合において,養子となった子が実父母および養父母に 対して扶養義務を負っているとして,子が扶養権利者全員(実父母・養父母あ わせて4人)を扶養する余裕がないときに,実親と養親との間に優劣関係があ るのか否かが問題となる16。とりわけ少子化が進んでいる今日,この問題は現 実化する可能性がある。日本民法はこうした場合について明文の規定を置いて いない。すべて当事者間の協議に任せている。いわゆる白紙条項である。しか しはたして養親と実親との間で協議などできるであろうか。その場合には家庭 裁判所の審判によることになるが,家庭裁判所がいかなる基準をもって審判を するべきか,困難な事態が予想される。

 逆に,養子となった子が扶養権利者となる場合には,実父母と養父母とが扶 養義務者であり,4人の資力ではこの子の養育費に不足するという事例も考え られる。この場合にも,まずは協議によるが,これができないときは,家庭裁 判所の審判で行うことになる。これも家庭裁判所を困らせる事態となるであろ う。

 5)相  続

 誰が相続人となるのかに関して,民法は血族相続人につき,その順位を規定 している。すなわち「被相続人の子は,相続人となる。」(民法887条1項),

16 明治民法においては,実親にも養親にも扶養義務があることを前提とし,明 治民法956条但書は,「家ニ在ル者先ツ扶養ヲ為スコトヲ要ス」と規定し,養親 の扶養義務が優先されることを示していた。

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「次に掲げる者は,第877条の規定により相続人となるべき者がない場合には,

次に掲げる順序に従って相続人となる。一.被相続人の直系尊属。ただし,親 等の異なる者の間では,その近い者を先にする。(以下,略)」(民法889条2 項1号)と規定する。血族相続人については,第1順位が「子」,第2順位が

「直系尊属」である。ここには実親と養親とを区別する規定は存しない。それ ゆえ法定相続に関しては,実親と養親とは完全に対等であり,完全な並存型を 採用している。養子となった子は,実父母の相続も養父母の相続もできるし,

子が被相続人となったときは,実父母と養父母が平等に相続する17。この点に ついて争いはない18

(2)並存的親子関係の承認

 普通養子における養親子関係の効力19に関して,氏の使用,親権,扶養,相 続等をとりあげてきた。氏の使用および親権については完全に養父母優先型で あり,扶養は養親子関係の優先を含む可能性のある並存型であり,相続は完全 な対等型である。それゆえ日本民法における普通養子は,一方では養子縁組に よって形成された養親と養子との結びつきを尊重しているが,他方では実親子

17 明治民法においても,遺産相続については,「家」の相違によって相続権の存 否を決することとはされていないので(明治民法994条,同996条),実親と養 親,実母と継母との並存関係を認めていた。

18 相続が完全な並存性を認めているために,兄が弟を養子とした場合などに,

「重複相続」という問題が発生する。これについては,富田哲「相続資格の重複 に関する一考察―日本の養子制度に対する疑問―」『行政社会論集(福島大学)』 第18巻第2号81頁以下(2005年)においてとりあげたことがある。

19 民法809条は「養子は,縁組の日から,養親の嫡出子の地位を取得する。」と 規定する。すなわち養親子関係は嫡出親子関係と同一であるが,養子縁組後に 実親子関係につき,どの効力が維持しうるのかは,明文の規定があればそれに よるが,それがない場合には個別的に考える必要がある。

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関係を無視することはできず,実親子関係と養親子関係との並存をはかってい るといえよう。

 普通養子については,養親子関係が破綻するような場合には,離縁という解 消の手段が残されている。離縁のときは,氏は縁組前の氏に復するのが原則で あり,親権も実親の親権が回復する。それゆえ氏とか親権については,養子縁 組によって実親のそれらが消滅するのではなく,潜在化するといってもよい。

この意味では養親子関係は常に並存的親子関係の下に成立しているといえよ う。

 普通養子の場合には,「匿名」ということは考えられないから,通常,養子 となる者は実親を知っている。藁の上からの養子のように,ごく小さいうちで あれば実親を知らない場合もあるが,「人見知り」という言葉があるように,

乳幼児であっても母親を認知する能力を有している。そうして婚姻と同様に,

養子縁組についても成立要件のなかで最も重要なものは,縁組をする意思であ る。明治民法における婿養子はいうまでもなく合意により成立する関係である が,現行民法における代諾養子も「代諾」という文言が示しているように,代 諾者と養親となる者との合意が基礎にある。このように普通養子は「意思」に もとづく関係を基礎としており,この点で,まったく意思が介在しない実親子 関係とは対称的な位置を占めている。

3.特別養子制度―血縁関係の断絶―

(1)特別養子の意義とメリット

 1987年に導入された特別養子制度20は,実親と養子となる子との法的関係

20 特別養子制度の導入時におけるこの制度の解説として,米倉明・細川清編『民 法等の改正と特別養子制度』(日本加除出版株式会社・1988年)がある。

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を断絶させる制度である。それゆえ親子関係として法的に認められるのは養親 子関係のみである。それゆえ特別養子における養親子関係は嫡出親子関係とで きる限り同一のとして取り扱うことが予定されている。その結果,近親婚に関 係する規定を除いて(民法734条2項),嫡出実親子関係の効力と特別養親子 関係との効力はほぼ等しいものとなっている。

 「子のための養子」というキャッチフレーズからすると,嫡出子類似型の特 別養子が養子制度の到達点として賞讃されてきた。特別養子の場合には,嫡出 子と同様に父一人・母一人となり,親子関係は非常に単純になる。普通養子の ような並存的な親子関係は一切問題とならない。親子関係を安定させるという 点では,特別養子は普通養子にないメリットを有しているといえよう。特別養 子制度は,実親が死亡している場合には,親のない子に親を与えるという優れ た制度である。また実親による甚だしい虐待がある場合には,子を保護するた めにも有用な制度である。さらに一般的には施設で育てるよりも家庭で育てる ほうが子にとって好ましい環境となるともいわれている。これらのことを根拠 として,特別養子制度は子の利益に適った制度であるという評価が与えられて いる。

 ところが特別養子は実親子関係を断絶させることもあって,特別養子を認め るための要件はかなり厳格なものとなっている。とりわけ「父母の同意」(民 法817条の6)は厳しく判定されている。さらに離縁についても,特別養子の 離縁は普通養子のそれよりも要件が厳格である(民法817条の10)。そのため 日本においては,1987年に特別養子制度が立法化された当初は,ある程度の 利用があったが,その後は低迷している21。とりわけ要件が厳格すぎるとし

21 最高裁判所事務総局『2017年度 司法統計年報 3家事編』によると,2017年 の特別養子の審判確定数は616件であった。4万人を超えるといわれている要保 護児童の数からすると,特別養子の数は非常に少ないと指摘されてきた。

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て,使い勝手が悪い制度といわれてきた。そうして2019年6月になって,特 別養子縁組の成立に関する要件を緩和する民法改正が行われた22

(2)特別養子制度の残された問題点

 2019年の特別養子制度の改正は,当時,多くの要保護児童をかかえていた こともあって,これを解消するために特別養子制度を利用しようという意図が あったので,拙速という面があったことは否定できない。この改正によって特 別養子がどの程度増加するかはわからないが,ここでは特別養子の負の側面を とりあげることにする。

 要保護児童といっても,実親が戦争,天災,事故等により死亡している場合 には,特別養子制度は親のない子に親を与える優れた制度である。また実親に よる回復しがたい虐待等の事例もこれに該当するといってよい。これに対し て,実親が病気・事故・貧困23等により現時点では子育てに困難を抱えている

22 特別養子の成立要件を緩和することを盛り込んだ「民法等の一部を改正する 法律案」は2019年3月15日に内閣から国会に提出され,2019年6月7日に参 議院本会議を通過し成立した。公布は2019年6月14日であり,2020年4月1 日から施行することが予定されている。なお,改正に至る議論の状況について は,「特別養子を中心とした養子制度の在り方に関する研究会中間報告」(商事 法務研究会・2018年6月),国会審議の過程については,内田亜也子「養保護児 童のための特別養子制度構築に向けて―特別養子制度の利用促進を図るための 民法等改正案の国会論議―」『立法と調査』第415号35頁(2019年)等参照。

23 貧困により子育てが困難という事例につき,これを特別養子とすることは,

とくに問題がある。経済的な事情からすると,実親よりも特別養親のほうが豊 かなことが多いであろう。それゆえ特別養子に関する審判に際して,実親と養 親との生活環境の比較衡量が行われた場合に,もしも単純に特別養子になるほ うが子の幸せにつながるといった発想をするならば,これは貧しい者に対する 差別となる。

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としても,回復不可能とは断言できない事例で問題となる。この場合には,実 親にとっても実子にとっても複雑な感情が残ることになる。子を特別養子に出 した親の立場からすると,子を見捨てたのではないかという後悔の念が一生付 きまとうことがある。たとえ辛くとも親子で暮したほうがよかったのではない かと考えることもある。子の立場からすると,なぜ自分は特別養子とされたの かと考える。実親に何か特別な事情があったのかもしれないが,自分が悪い子 であったために親の手に余るから養子に出されたのではないのかと思い悩むこ ともある24

 日本の特別養子については,戸籍をたどることによって実親を確定すること ができる。しかし実親の側から,一度成長した子に会ってみたいと思っても,

養親に迷惑がかかるのではないかと考え,なかなか実行に踏み切れない。子の 側から,実親に会いたいと思っても,実親を探すことは養親に対する背信行為 ではないのかと考えてしまう。特別養子制度の理念からすると,実親は「瞼の 父」「瞼の母」でよいと捉えるのが一般的であると思われる。また子が実親に 特別養子とした事情とか動機を聞いてみたいと考えても,実現することは非常 に難しい。特別養子の場合には,実親との親子関係を断絶させる制度であるか ら,いったん特別養子が成立すると,親子間での交流をも認めないと考えられ てきたのである。

 特別養子制度は,実親子関係を法の力で「無」とし,養親子関係を嫡出親子 関係と同様の関係として作り出すものである。しかし法は万能ではない。家庭 裁判所が特別養子縁組の審判をすれば,法的には特別養子は成立する。しかし

24 特別養子制度は実親子関係を断絶させる制度であるから,その影響は大きい。

「子の幸福」「子の利益」を歌い文句に推進したとしても,実親による同意を安 易に考えると,やがて行き詰ることになろう。この点については,富田哲「血 縁断絶の波紋―特別養子縁組の成立と血縁上の父の地位―」『行政社会論集(福 島大学)』第9巻第2号177頁以下(1997年)においてとりあげたことがある。

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法の力で実親子関係を断絶させても,「血縁」という自然の力はどこまでも 残っている25

4.生殖補助医療―匿名の原則による親子関係の形成―

(1)人工授精・体外受精・代理懐胎

 生殖補助医療には様々な種類があるが,本稿においては,最も基本的な,① 人工授精,②体外受精,③代理懐胎について,配偶子(精子・卵子)の提供に よる人工授精,体外受精を中心にとりあげる。

 第1に,「人工授精」は男性から採取した精子を女性の体内に人為的に移植 する方法である。人工授精には,①配偶者間人工授精(Artificial Insemination by Husband(AIH)),②非配偶者間人工授精(Artificial Insemination by Donor(AID),Donor Insemination(DI))がある。配偶者間の人工授精に よって出生した子は,人工授精を実施した夫婦の子であるから,父は誰かとい う問題は生じないので,本稿の対象から除外する26。これに対して,非配偶者 間人工授精においては,「生物学上の父」は精子提供者(ドナー)であること

25 生殖補助医療においては,「匿名の原則」を採用することによって,生物学上 の親を完全に封印する建前となっている。それに対して,特別養子制度は戸籍 を辿ることによって生物学上の親に到達することができる。この点では,特別 養子制度は中途半端な制度という性質を残している。

26 配偶者間での生殖補助医療は,冷凍保存された夫の精子を用いて,夫の死後 に人工授精または体外授精を実施して,子が出生した場合に問題となりうる。

最判2016(平成18)年9月4日民集60巻7号2563頁は,こうしたケースにつ き,父子関係の成立を認めなかった。富田哲「生殖補助医療の発達と「同時存 在の原則」」『行政社会論集(福島大学)』第18巻第4号129頁以下(2006年)に おいては,このケースの第二審・高松高裁判決をとりあげている。

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に疑問の余地はないが,「法律上の父」については,人工授精の依頼者とする かドナーとするかという問題が生ずる。

 第2に,「体外受精(in-vitro-fertilization)」は,男性から採取した精子と 女性から採取した卵子とをシャーレの中で受精させ,その受精卵が16分割し て,いわゆる胚となったころに,女性の体内に移植して妊娠させるものであ る。配偶者間で行われる体外受精は,誰が父であり誰が母かという問題を生じ させないので,人工授精と同様に本稿の対象から除外する。日本においては,

現在,日本産婦人科学会の会告よって,妻の卵子を用いた体外受精しか認めら れておらず,卵子提供者(エッグドナー)による卵子の提供が認められていな い。そのため,外国に出かけて,第三者の卵子を取得して体外受精を実行する 人もいるし27,上記の会告に批判的な医師を巻き込んでこれを実施することも ある28。もしもこれを認めると,「生物学上の母」はエッグドナーであること に疑問の余地はないが,「法律上の母」については,体外受精の依頼者とする かエッグドナーとするかという問題が生ずる。なお,ドナーの精子を用いて体 外受精を実施したときは,父につき,非配偶者間人工授精と同様に,「法律上 の父」と「生物学上の父」との分裂が生ずる場合がありうる。

 第3に,「代理懐胎(代理出産・代理母)」には,①人工授精型の代理懐胎,

②体外受精型の代理懐胎とがある。「人工授精型の代理懐胎(サロゲート・マ ザー型,Surrogate Mother)」は,依頼者夫婦の夫の精子またはドナーの精子

27 日本においては,日本産婦人科学会の会告によって禁止されているために,

外国でエッグドナーから卵子の提供を受けて,体外受精を実施したことを公表 する例は少ないが,自由民主党の野田聖子議員はこれを公表している。

28 長野県にある諏訪マタニックの根津八紘医師が提供卵子による体外受精およ びホスト・マザー型の代理懐胎を実施したことを公表した。これに関する根津 医師自らの著作として,根津八紘『代理出産 不妊患者の切なる願い』(小学館 文庫・2001年)がある。

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を代理母に人工授精して,代理母が懐胎・出産することになる。この場合に は,代理母は「生物学上の母」でもあり,「出産の母」でもある。それに対し て,「法律上の母」については,依頼者とするか代理母とするかという問題が 生ずる。

 次に,「体外受精型の代理懐胎29(ホスト・マザー型,Host Mother)」は,

体外受精により作られた受精卵を代理母に移植して,懐胎・出産するという方 法である。この場合には,「出産の母」は代理母であること,および「生物学 上の母」は卵子を提供した女性であることに疑いはない。この場合に,代理懐 胎の依頼者の卵子を用いるときとエッグドナーの卵子を用いるときとがある が,エッグドナーの卵子を利用した場合には,母につき「生物学上の母」「出 産の母」「法律上の母」という形で,母が3つに分裂することがありうる。

 分裂している親のうち,いずれを法律上の親とするべきかに関しては,様々 に議論されてきた30。この議論に共通していることは,法律上の父または母と して最もふさわしい者を見出す際に,嫡出家族における父親一人・母親一人の

29 代理懐胎の主流は,ホスト・マザー型になりつつある。サロゲート・マザー 型では,代理母は生物学上の母でもあり,出産の母でもある。その結果,胎児 と母体との結びつきが強くなるといわれ,出産後に子の引渡しを拒否するケー スもあった。アメリカにおける「ベビーM事件」等である。代理懐胎に関して,

日本における裁判例としては,最判2007(平成19)年3月23日民集61巻2号 619頁があるが,これもホスト・マザー型の代理懐胎の事例であった。アメリカ に出かけて,依頼者夫婦の受精卵を用いて代理懐胎により子をもうけたのであ るが,最高裁は,出生した子を懐胎した女性が母であって,卵子の提供者は母 とならないと判示した。

30 この問題に関して,富田哲「親子関係を成立させる諸要因―生殖補助医療を めぐって―」加藤新太郎・太田勝造・大塚直・田高寛貴編『21世紀民事法学の 挑戦 加藤雅信先生古稀記念(下巻)』(信山社・2018年)721頁以下でとりあ げたことがある。

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家族像が念頭におかれてきたことである。そうして親子関係の効力はすべてこ の父母に排他的に帰属する形態が求められた。それゆえ,法律上の親のほか に,血縁が繋がっている生物学上の親が登場することは,親子関係を複雑にす るので,回避するべきことであった。それゆえドナーの精子またはエッグド ナーの卵子を利用した生殖補助医療に関しては,「匿名の原則」が必要とされ たのである。

(2)出自を知る権利による匿名の原則の破綻  1)出自を知る権利とは

 生殖補助医療が普及してくるにつれ,匿名の原則を採用していると,その問 題点も浮かび上がってきた。提供者の精子・卵子を用いた人工授精・体外受精 においては,匿名の原則により,生物学上の父または母を知りえないことにな る。その結果,出生した子は自己の出自の半分が不明なまま,一生を送ること になる。そこで「自己の出自を知る権利31(自己の血統を知る権利)」を認め て,自己の生物学上の父および母が誰であるのかを知ることができるようにす るべきであると考えられるに至った。出自を知る権利を承認すると,匿名の原

31 これまで私が「出自を知る権利」をとりあげてきたものとして,以下の論稿 がある。①富田哲「自己の血統を知る権利―Schmidt-Didczuhn の見解をめ ぐって―」『法の科学』第18号173頁以下(1990年),②富田哲「「血統認識権」

の意義と問題点―ドイツにおける判例の動向―」『行政社会論集(福島大学)』 第7巻第2=3号185頁以下(1995年),③富田哲「出自を知る権利―家族法か ら生殖補助法制への架橋―」『法の科学』第33号136頁以下(2003年),④富田 哲「生殖補助医療における匿名の原則と出自を知る権利」『行政社会論集(福島 大学)』第29巻第2号155頁以下(2016年)。なお,ドイツにおいて,出自を知 る権利は非嫡出子が自己の父が誰であるかにつき,母に告白させる権利として 成立したという事情がある。

(17)

則は破綻する可能性がある。ただし,出自を知る権利といっても,個人を特定 することができない情報までの開示であれば,両立し得るといえるのかもしれ ない。しかし現在では,出自を知る権利は個人を特定することができるものま でも含める見解が主流となっている。

 2)匿名の原則の根拠

 日本のみならず諸外国においても,早くから行われてきた非配偶者間人工授 精につき,精子提供者(ドナー)を明らかにしない「匿名の原則」が採用され てきたが,これにはいくつかの理由があげられてきた32

 第1に,匿名の原則は精子提供者(ドナー)を守るものためのものであっ た。ドナーは自分の精子を撒き散らすことにより,精神異常者という烙印を押 されかねない立場にあった。それゆえドナーの名誉を守るために,ドナーを特 定できないようにすることが必要とされた。

 第2に,ドナーが特定され,ドナーと出生した子との間に生物学上の親子関 係があることが確認されると,その間に法的な問題が生ずることが危惧され た。子の側からドナーに対して認知請求されたり,養育費の請求がなされるこ とが懸念された。こうした請求を阻止するために匿名の原則が必要とされた。

これも主としてドナーを守るためのものであった。

 第3に,匿名の原則はドナーの家族を守るものでもあった。独身時代にド ナーとして精子を提供した者がその後婚姻し,さらに実子をもうけて,平和な 家庭生活を送っているときに,生物学上の子と称する者から,認知請求とか養 育費の請求がなされるならば,これはドナーの家庭の平和が攪乱されることに

32 生殖補助医療における匿名の原則の根拠について,前掲,富田哲「生殖補助 医療における匿名の原則と出自を知る権利」『行政社会論集』第29巻第2号155 頁以下でとりあげたことがある。

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なる。

 第4に,ドナーの出現は出生した子にとっても脅威となりうる。子がドナー と称する男性から生物学上の父であるという通知を受け,自分が生殖補助医療 により出生したという事実を初めて知らされることにより,これまで築き上げ てきた両親との関係に亀裂が生ずる可能性が生ずる。

 第5に,匿名の原則を廃止すると,上記のような様々なトラブルが発生する おそれがあるが,そのためドナーが減少することが危惧された。生殖補助医療 に携わっている医師にとっては,これが決定的な理由であったのかもしれな い。

 3)匿名の原則と嫡出家族

 匿名の原則を厳格に適用すると,ドナーが誰であるかは,出生した子も,人 工授精を依頼した夫婦も,これを実施した医師も知り得ないこととなる。その ため法律上の父となりうるのは人工授精の依頼者のうち夫のみとなる。特別養 子が実親との親子関係を断絶させることによって,養子に単独の嫡出子の地位 を与えたように,人工授精においては,匿名の原則によって出生した子に単独 の嫡出子の地位を与えることができるようになった。同様のことは卵子提供者

(エッグドナー)の卵子を使用した体外受精についても当てはまり,匿名の原 則により依頼者でありかつ出産した者が法律上の母として確定することが保証 されるのである。

 いずれにしても生殖補助医療の背景にあるのは,血縁が繋がった近代家族と しての嫡出家族をつくりたいという願望であり,匿名の原則はこれを支えるた めに利用された。もしも生物学上の親が現われると,親子関係が複雑となり,

近代家族の理念から遠のくことになる。その結果,生物学上の親を隠蔽するこ とが必要とされたのであり,匿名の原則はここにその意義を見出したといえよ う。

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 4)出自を知ることのメリットと必要性

 匿名の原則の下で,ドナーは隠蔽されてきたが,それにもかかわらず生物学 上の親を知りたいという欲求には無視できないものがあった。安定した嫡出家 族を危険にさらすおそれがあるとしても,出自を知る必要性の前に匿名の原則 は後退しなければならなかった。次に出自を知るメリットおよび必要性をあげ ることにする33

 第1に,自己の出自を知ることのメリットとして,近親婚を回避できること である。近親婚の回避は公益的な要請でもある。日本においては,人工授精も 体内受精も病院内の密室にて行われている。それゆえ,同一ドナーの精子を何 回にもわたって異なる女性の人工授精に利用されたのかは外部からは判断でき ない34。もしも一人の者から採取された精液が多数の人工授精に利用された場 合には,法律上は赤の他人であっても,生物学上は兄弟姉妹という可能性が出 てくる。近親婚の危険を回避するために,出自を知る権利を認める必要があ る。

 第2に,自己の出自を知るメリットとして,自己の遺伝情報を知りうるこ と,その結果として遺伝性の病気の予防に役立てることができることがあげら れる。20世紀末から人の遺伝子(ゲノム)の解読が進められ,遂にその解読

33 出自を知る権利のメリット・デメリットの詳細については,前掲,富田哲「生 殖補助医療における匿名の原則と出自を知る権利」『行政社会論集』第29巻第2 号155頁以下参照。

34 慶応大学の吉村泰典教授によると,「わたしの病院ではここ20年くらいは,同 一のドナーの精子により10人の子どもが生まれたら提供をやめることになって います。」と発言している。水野紀子・石井美智子・加藤尚武・町野朔・吉村泰 典「〔座談会〕生殖補助医療を考える―日本学術会議報告書を契機に」『ジュリ スト』1359号9頁(2008年)。

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が完了した35。その結果,未知であった遺伝病の原因を突き止めることができ るようになってきた。遺伝病によっては,発症率および死亡率の診断がかなり 正確にできるようになった。またガンとか高血圧などになりやすい体質である といった遺伝情報は,それを知ることによって,高血圧とかガンに対する対策 を可能にするというメリットがある36

 第3に,自己の出自を知ることはアイデンティティの確立に有益であるとい われている。いうまでもなくアイデンティティは血統のみによって決定される ものではなく,それ以上に養育環境等は重要な要因となる。

 出自を知ることには上述のようなメリットがあるとしても,なぜ個人を特定 できる情報まで開示する必要があるのであろうか。近親婚の可能性があるか否 かとか,ドナーの遺伝情報など,知りたい部分のみを必要に応じて開示するこ とで足りるのではないかとも考えられる。またアイデンティティについても,

写真,音声の録音,手紙等により部分的にドナーの情報を開示すればそれで足 りるとも考えられるからである。

 5)匿名の原則の陥穽と出自を知る権利

 ドナーの精子を用いる人工授精またはエッグドナーの卵子を用いる体外受精 については,匿名の原則によりドナーは知りえないはずであった。子はもちろ ん,依頼者夫婦にも,さらに人工授精等を実施した医師もまたドナーを特定す る情報に接することはできないとされていた。しかしこうした匿名の原則には

35  ヒ ト ゲ ノ ム の 解 析 に つ い て は,1990年 か ら 始 め ら れ,2000年 に 終 了 し,

2003年には解析の完成版が公表された。

36 自己の遺伝子ゲノムを知ることは,メリットであるのと同時にデメリットで もある。なぜなら,自分が難病に罹っていること,およびそれが現在の医学で は治療不可能であることを知ったときは,死刑判決を受けたのに等しい結果と なるからである。

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重大な陥穽があった。

 第1に,生殖補助医療においては,情報が非対称的であるという問題があっ た。すなわち,人工授精・体外受精をしたという事実は,医師も依頼した夫婦 も当然知っている。親の側では自分は生物学上の親ではないことを知ってい る。これに対して子はこの事実を知らないままで育てられる。生殖補助医療を 利用した親の側からすれば,いつかはこの事実が発覚するのではないかと,そ の不安に苛まれる。親族とか知人に人工授精の事実を話した人があると,彼ら に裏切られるのではないかという不安に駆られる。そうしてこうした不安感が 安定した親子関係の形成にとってマイナス要因となる。逆に子の側からすれ ば,もしかすると自分は両親と血が繋がっていないのではないか,自分の法律 上の親がはたして生物学上の親であるのかという疑問を抱くことがありうる。

自分は養子ではないのか,自分は母の不義密通によってできた子ではないのか などと思い悩む。その結果,親は自分に何か隠しているに違いないという親へ の不信感が醸成される。こうした不信感を持つことは安定した親子関係の維持 にとって決定的なマイナスとなる。

 第2に,「匿名の原則」によって生物学上の父または母であることを隠蔽す ることを表面上はできたとしても,ドナーまたはエッグドナーが死亡していな い限り,地上のどこかに必ず生物学上の父母が存在する。たとえ死亡していた としても,その親族が生存していることもあろう。それゆえ生殖補助医療に よって出生したという事実がいつかは発覚する可能性がある。そうして多くの 場合において,子が精神的に不安定となっている時期に,たとえば両親の離婚 であるとか親の死亡を機に,自分が生殖補助医療を利用してできた子であるこ とが発覚する。予期していない時にこの事実を知らされたとき,子が受ける衝 撃は非常に大きいものとなる。

 こうしたことを背景に「出自を知らされない権利」37というものが唱えられ ることもある。しかしこうした権利は,守秘義務を負っている医師,助産師等 に対しては認められるかもしれないが,その他の者にとっては画に描いた餅で

(22)

ある。

 そうであるならば,解決の方法は匿名の原則を放棄し,かつ生殖補助医療に よって出生したという事実の開示をこれまで想定してきた年齢よりも早い時期 に行うほかあるまい。すなわち,人工授精等が何を意味することかを判断でき る年齢になってからではなく,かなり小さいうちに事実を告知することが望ま しいと主張されるようになった。なぜなら,15歳前後の思春期になって初め て親から告知されると,子どものほうでは親に対して鋭い言動を発する可能性 がある。「今まで嘘をついてきたのか」などと。その場合に,親の側では答え る準備ができていないことも多い。ところが4~5歳くらいの幼児であれば,

人工授精等の事実を告知されてもあまり追求してこない。人工授精等が何たる かを理解するのに時間がかかるからである。そのかわり何度も何度も質問して くることになる。親としては,次に子どもがどのような質問をしてくるか,そ の答を準備する時間を与えられることになる。こうして子どもが小さいうちか ら人工授精等に関する知識を与えていると,不意打ちということがなくなり,

血のつながっていないことを前提とした親子関係の構築が図られることにな る。これが重要であるという指摘がなされるようになったのである38

37 「出自を知らされない権利」が問題となるとき,自己の出自を知ったために,

最大の不幸に陥った例として,ギリシャ悲劇のオイディプスの話を思い出す。

これについては,ソポクレス,藤沢令夫訳『オイディプス王』(岩波文庫・1967 年)参照。

38 人工授精・体外受精等で出生した子につき,自己の出自を知ることの重要性 と,それを実施する方法を詳細に説いたのがケン・ダニエルズであった。ケン・

ダニエルズ,仙波由加里訳『家族をつくる 提供精子を使った人工授精で子ど もを持った人たち』(人間と歴史社・2010年)参照。日本においても,2000年 代の中頃から,出生した子の立場からの出自を知る権利が提起されるように なってきた。この問題をとりあげた文献として以下のものを参酌した。遠矢和 希「日本におけるDI(提供精子人工授精)の親子関係について」『医療・生命と

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倫理・社会』第5巻第1- 2号21頁(2006年),竹森美穂「提供精子・卵子・胚 による生殖補助医療(ART)によって生れた子の心理と社会的支援の在り方―

非配偶者間人工授精(DI)児に焦点を当てて―」『関西学院大学社会学部紀要』

第101号173頁(2006年),日下和代・清水清美・長沖暁子「非配偶者間人工授 精で生れた人の心理」『慶應義塾大学日吉紀要』第37号93頁(2006年),仙波由 加里・柘植あづみ・長沖暁子・清水きよみ・日下和代「AIDにおける「出自を知 る権利」―AIDで生まれた人たちが求める提供情報とは―」『生命倫理』第16巻 第1号147頁(2006年),殿村琴子「非配偶者間人工授精と「出自を知る権利」

の行方」『Life Design REPORT』2007年11・12月号32頁(2007年),梅澤彩

「ニュージーランドにおける生殖補助医療の実際と法規制の現状」『医療・生命 と倫理・社会』第6号17頁(2007年),日本学術会議「代理懐胎を中心とする 生殖補助医療の課題―社会的合意に向けて」(2008年4月8日),JISART「精 子・ 卵 子 の 提 供 に よ る 非 配 偶 者 間 体 外 受 精 に 関 す るJISARTガ イ ド ラ イ ン 」

(2008年7月10日,2016年2月13日最終改訂),才村真里「生殖補助医療にお ける子どもの出自を知る権利―英国の法律改正の背景―」『帝塚山心理福祉学部 紀要』第5号49頁(2009年),第41回シンポジウム日本学術会議法学委員会

「生殖補助医療と法」分科会公開シンポジウム「生殖補助医療と法~代理母と子 どもの知る権利をめぐって~(2009年11月29日関西大学千里山キャンパス)」

『ノモス』第25号35頁(2009年),二宮周平「子どもの知る権利について」『学 術の動向』2010年5月号40頁,非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グルー プ会員「子どもの出自を知る権利について―ADR(非配偶者間人工授精)で生 まれた子どもの立場から」『学術の動向』2010年5月号46頁,小泉良幸「「子ど もの出自を知る権利」について―コメント」『学術の動向』2010年5月号53頁,

林かおり「海外における生殖補助医療法の現状―死後生殖,代理懐胎,子ども の出自を知る権利をめぐって―」『外国の立法』第243号99頁(2010年),由井 秀樹「非配偶者間人工授精によって出生した人のライフストーリー」『立命館人 間科学研究』第24号35頁(2011年),貞岡美伸「代理懐胎で生まれた子どもの 福祉―出自を知る権利の保障―」『Core Ethics』第7号365頁(2011年),池庄 司祐子「DI児の望ましい福祉―非配偶者人工授精で生まれた子どもたち―」

『2012年度早稲田大学文化構想学部現代人間論系岡部ゼミ・ゼミ論文/卒業研 究』1頁,南貴子「オーストラリア・ビクトリア州における生殖補助医療の法

(24)

(3)代理懐胎における匿名の原則の破綻

 生殖補助医療のうち人工授精および体外受精までで留まったならば,匿名の 原則を維持して嫡出家族と同様の外観をつくりあげることが可能であったかも しれない。しかし代理懐胎をも視野に入れると状況が異なる。代理懐胎には出 産する女性が必要となるからである。代理懐胎は,中間にあっせん者がいるこ とが多いとはいえ,依頼者と出産者との間の契約として行われる。そのため出

制度化による子の出自を知る権利の保障」『海外社会保障研究Summer2012』第 179号61頁(2012年),加藤英明「〔講演〕AIDで生れるということ~加藤英明 さんに聞く~」『市民通信』第16号(通巻144号)1頁(2013年),加藤恵子

「非配偶者間人工授精におけるAID児の出自を知る権利に関する検討」『人文社会 科学研究所年報(敬和学園大学)』第11号177頁(2013年),才村真里「(講演)

生殖技術により生まれた子どもの出自を知る権利」(第17期女性学講演会・

2013年12月1日)『大阪府立大学学術リポジトリ』第17号28頁(2014年),加 藤英明「〔報告〕非配偶者間人工授精で生まれた子どもの「出自を知る権利」」 国際医療福祉大学大学院公開講座レジュメ(2014年10月22日),フェルディナ ンド・ヴォレンシュレーガー,甲斐克則・天田悠(訳)「予測的遺伝子診断にお ける基本権の衝突―知る権利,知らないでいる権利および秘匿権―」『比較法学』

第巻49第2号189頁(2015年),李怡然,武藤香織「配偶子提供で生まれる子へ の真実告知とインフォームド・コンセント―不妊カウンセラーへのインタビュー から―」『保健医療社会学論集』第26巻第2号74頁(2016年),久慈直昭・伊東 宏恵・井坂惠一「提供精子を用いた人工授精(AID)における告知と出自を知る 権利」『心身医』第56巻第7号705頁(2016年),清水清美「(報告)AIDを選択 した,AIDで親となった人の思い」(第3回生殖医療で形成される多様な家族と ウェルビーイングを考える研究会,2016年8月30日),渡邉斉志「出自を知る 権利の実効性強化―精子提供者登録簿の創設」『クオリティ・ジュリスト』第27 号96頁(2018年),泉真樹子「ドイツにおける生殖補助医療と出自を知る権利

―精子提供者登録制度と血縁関係に関する立法―」『外国の立法』第277号332 頁(2018年)など。

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産者を匿名とすることは不可能である。それゆえ代理懐胎を利用したときは,

必ず母が2人以上存在することになる。

 ここでも近代家族としての嫡出家族を念頭において,何とか一人の父と一人 の母を確定する途を模索することになる。もしも依頼者夫婦を法律上の父母と するならば,出産した者は単なる出産の道具となってしまう。そのため他人の 身体を単に手段として利用することは許されるのかということが問題となる。

逆に,「懐胎者=母ルール」を適用して,出産者を母とするならば39,出産者 には自分が母になるという意思がないのが普通であるから,こうした者が母と して適格といえるのかが問われることになる。そのため出生した子を依頼者夫 婦が法律上の子とするためには,特別養子など何らかの手続きが必要となる。

そもそも生物学上は親であるにもかかわらず,何のためにわざわざ特別養子と

39  ド イ ツ に お い て は,1997年 の 民 法 改 正(Gesetz zur Reform des Kindschaftsrechts(Kindschaftsrechtsreformgesetz)vom 16.12.1997(BGBl.

Ⅰ 2942), in Kraft seit 1.7.1998)によって,明文をもって,「子の母は,その 子を出生した女性である。」(ドイツ民法1991条)と規定し,懐胎・出産した女 性が出生した子の母であるとする。Dieter Schwabによると,「1998年の親子法 改正以降,ドイツ民法典は母性の定義を含んでいる。すなわち,母は子を出生 した女性である(ドイツ民法1591条)。女性が遺伝的に血のつながっていない子 どもをこの世にもたらすこと(卵の提供,胚の提供)が人工生殖の技術を通じ て可能となった後に,立法者はこの命題につき緊急を要することに気がついた。

親子法改正前は,この場合において誰が母とみなされるべきかにつき争いが あった。1591条における明確化は次のことを意味する,すなわち,「分裂した母 性」は存在せず,法的意味における母性は,唯一,分娩である。母姓を否認す る可能性もまた存しない。母性については,卵の提供者と分娩者との間の合意 を通じて,自由に処理できるものではない。」と述べている(Dieter Schwab, Familienrecht, 12.Auflage, 2003, S.215.)。

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いう回り道をしなければならないのかという疑問も生ずる40

 代理懐胎においては,代理母を隠蔽することができないために,たとえ特別 養子制度を利用して実親との法的な親子関係を切断したとしても,戸籍をた どって出産の母が明らかになってしまう。それゆえ法律上の母のほかに出産の 母または生物学上の母がどこまでも纏わりついてくることになる。

5.非法律上の親子関係の効力

(1)生殖補助医療と複数の親の存在

 ドナーの精子を用いた人工授精またはエッグドナーの卵子を用いた体外受精 については,法律上の親のほかに生物学上の親が存在することを否定すること はできない。代理懐胎によって出生した子については,法律上の親のほかに生 物学上の母または出産の母の存在を認めなければならない。すなわち事実のレ ベルにおいては,複数の親が存在する。こうした場合であっても,法によって 法律上の親を父一人・母一人に確定することは可能であるし,それが望ましい ことであるとこれまでは思い込んできた。それゆえ,生殖補助医療によって出 生した子については,法律上,複数の父母の存在を承認することはなかった し,親子関係の効力を複数の親に分属させたり,並存的に帰属させたりするこ とも認めてこなかったのである。

40 この疑問はいうまでもなく「懐胎者=母ルール」から発生する。それゆえ,

子のルールを金科玉条に使うことには問題があるといえよう。この問題につい ては,富田哲「代理懐胎における母子関係―「懐胎者=母ルール」に対する疑 問―」『行政社会論集(福島大学)』第23巻第4号85頁以下(2011年)において 言及したことがある。

(27)

(2)現実との妥協―扶養―

 法律上の親が確定すると,その者のみに親子関係の効力が認められることに なるはずである。しかし現実には,扶養義務については,法律上の親子関係が 存在しないにもかかわらず,これを肯定したり,逆に法律上の親子関係が存在 するにもかかわらず,これを否定するようなケースが判例に登場する。

 1)法律上の親子関係が存在しないのに扶養義務を肯定したケース  法律上の親子関係が存在しないにもかかわらず扶養義務を認めたケースとし て,1928年の大審院判決41(以下「1928年ケース」)があげられる。事案は,

原告Xの養女であった被告Yは私生子Aを分娩したところ,AをX方に放置し て,実家に帰ったので,XはAをYの私生子として出生届をした。Xはやむを 得ず,Aの養育費等を支出した。そこでXはYに対して支出した養育費の額を 民法702条2項により償還請求した。原審においては,YはAに対する扶養義 務はないと判示した。これに対して,大審院は「被上告人カAヲ分娩シタルモ ノナル以上,扶養義務ノ関係ニ於テハ被上告人ハAノ直系尊属トシテ民法954 条ニ依リAヲ扶養スルノ義務ヲ負フモノト解スヘキモノトス。」と述べて,Y の扶養義務を肯定したのである。

 日本の民法は,母についても「認知」をもって親子関係を確定する方式を採 用している42。1928年ケースにおいては,YはAを認知していないので,Y とAとの間に母子関係は存在しない。それにもかかわらず,YがAを分娩した

41 大判1928(昭和3)年1月30日民集7巻1号12頁。

42 当初の明治民法827条1項は「私生子ハ其父又ハ母ニ於テ之ヲ認知スルコトヲ 得」と規定していたが,1942年に私生子が「嫡出ニ非サル子」と改められた。

これが現行民法779条に引き継がれている。この規定につき,最高裁は「母子関 係は原則として母の認知を待たず,分娩によって当然発生する」と判示した

(最判1962(昭和37)年4月27日民集16巻7号1247頁)。

(28)

以上,Yに扶養義務があることを認めたのである。YにAの養育費を負担させ なければ,あまりにも不当な結果になると判断したためと思われるが,扶養義 務のない者に扶養義務を課すという法的には無謀なことを行っている。しかし Aは生物学上の母であることは確実である。扶養に関しては,法律上の母でな くても,生物学上の母に扶養義務を課すことを認めたのであるが,ここでは

「血縁」がマジックワードとなっている43

 2)親子関係が存在するにもかかわらず扶養義務を否定したケース  次に,法律上の父にもかかわらず養育義務がないとされたケースとして,

2011年の最高裁判決44(以下「2011年ケース」)があげられる。事案は,X

(夫)とY(妻)とは長男B,二男A,三男Cをもうけたが,AとXとの間に は自然的血縁関係がなかった。Xはこれを知り,親子関係不存在確認の訴え等 を提起したが,出訴期間を途過していたので訴えは却下された。原審において は,監護費用の分担として,Aについても法律上の親子関係はあるとして,

B・Cと同額の月額14万円とした。これに対して,最高裁は原判決を一部変 更し,次のように述べて,Yの請求を権利濫用とした。「YはXとの婚姻関係 にあったにもかかわらず,X以外の男性と性的関係をもち,その結果,Aを出 産したというのである。(中略)Xがこれを知ったのは,Aの出産の後,約7 年後であった。そのため,Xは民法777条所定の出訴期間内に嫡出否認の訴え を提起することができず,そのことを知った後に提起した親子関係不存在確認 の訴えは却下され[た]。(中略)婚姻関係が破綻する前の約4年間,Yに対し

43 この問題については,富田哲「条文を無視した法解釈(1)―「母の認知」

に関するおぼえがき―」『行政社会論集(福島大学)』第10巻第3号212頁以下

(1998年)でとりあげたことがある。

44 最判2011(平成23)年8月11日判例時報2115号55頁。

(29)

月額150万円程度の相当高額な生活費を交付することにより,Aを含む家族の 生活費を負担しており,婚姻破綻後も,Yに対して月額55万円を支払う審判 が確定している。このようにXはこれまでにAの養育・監護のための費用を十 分に分担してきており,XがAとの親子関係を否定することができなくなった 上記の経緯に照らせば,Xに離婚後もAの監護費用を分担させることは,課題 な負担を課するものというべきである。(中略)監護費用の分担につき判断す るに当たっては子の福祉に十分配慮すべきであることを考慮してもなお,権利 の濫用に当たるというべきである。」と。

 2011年ケースは,母の不倫により「生物学上の父」ではないにもかかわら ず,嫡出否認ができなかったために,父子関係が確定したという事案である。

法律上は父であるから,原審においては,他の兄弟と同額の養育費が認定され ていた。これに対して,最高裁は,原告が非常に高額の養育費を支給してきた ことも考慮して養育費請求を権利濫用としたのである45。ここでも父に養育費 を負担させることがあまりにも不当な結論になるとの判断があった。法律上の 父子であっても生物学上の父子関係が認められない場合には,養育費の請求を 権利濫用とする背景には,やはり「血縁の不存在」がマジックワードになって いると思われる46

 親子関係の効力は法律上の親子関係が存在することを原則としつつも,扶養 に関しては,血縁関係の存在という要素を考慮して,結論の妥当性を図ってい

45 2011年ケースのように,法律上は親であるにもかかわらず養育義務がないと 判断する場合には,養育費請求権を権利濫用とすれば足りる。それゆえ一応は 法的な構成ができているように見える。これに対して,1928年ケースのように,

法律上は親ではないのに養育義務を認めることを法的に構成することは難しい。

46 この問題については,富田哲「親子関係における要件と効力―扶養義務と血 縁をめぐって―」『行政社会論集(福島大学)』第25巻第4号41頁以下(2013年)

においてとりあげたことがある。

(30)

ると思われる。そうであるならば,法律上の親子関係を一つに確定しても,他 者,たとえば生物学上の親に親子関係の効力の一部を帰属させることがありう るのではないか。扶養に関しては,「血縁」という生物学上の要因を利用して,

こうした操作を行っているのではないのかという疑問がわいてくる。

(3)親子関係の効力の分属  1)類型的考察

 普通養子のように制度上にて親子関係の効力が並存している場合は除き,そ の他の親子関係は近代家族としての嫡出家族をモデルとして,一人の父と一人 の母のみが存在するものとされてきた。特別養子もこれに倣い,嫡出家族を構 成するものとした。生殖補助医療により出生した子もまたこれに倣っていた。

しかし生殖補助医療を利用した場合には,どうしてもその枠に収まらない事態 が発生する。なぜなら事実のレベルにおいては,複数の親が存在することを認 めなければならないからである。これに対して,上述した扶養義務において は,法律上の親と非法律上の親(生物学上の親)との対立であるから,妥当な 結論を求めて,具体的なケースに即して対応することで足りるといえるのかも しれない。こうしたケースはごく例外的な場合であるから,権利の濫用のよう な一般条項を利用することで解決を図ることも可能である。

 しかし提供された精子・卵子を用いた人工授精・体外受精とか代理懐胎など は,常に法律上の父母のほかに,生物学上の父母であるとか出産の母が存在す るのであるから,個別的な対応のほか,より類型化した対応を検討しておくこ とが望ましいと思われる。そうであるならば,親子関係の効力につき,親権,

扶養,相続など個別的な効力ごとに検討を進めるべきであるが,ここでは親子 関係の効力が分裂する可能性がある例として,①訪問権(面会交流権),②氏 の使用・戸籍について,若干の考察をするにとどめたい。

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6章 相関係数の検定と回帰分析 この章では2つの量的なデータの関係を調べる検定手法を学びます。2つの量的な データを表示するには散布図がよく用いられ、描画された点の散らばり方によって、 相関係数が計算されました。この相関係数はピアソン(Pearson)の相関係数と呼ばれ、 2つのデータの間の線形の(散布図では直線的な)関係を調べるものでした。しかし、