10 . 逆関数
科目: 基礎解析学I及び演習(1‐3組)
担当: 相木
引き続き関数の様々な性質を解説する.このプリントでは逆関数を扱う.
逆関数
これまでI ⊂Rに対してI上の関数fは実数値であること以外あまり指定しなかった が,逆関数を考える上ではfの値域(特にどの範囲の値を取るか)も重要になるので値域 も詳しく指定する.
単射・全射・全単射
I, J ⊂Rと関数f :I →Jに対して以下を定義する.
(単射) ∀x, x′ ∈I, (x̸=x′ ⇒ f(x)̸=f(x′))
が成り立つとき,fはIからJへの単射であるという.単にf はI上で単 射である,と言ったりもする.
(全射) R(f) =Jが成り立つとき,f はIからJへの全射であるという.単にfは
I上で全射である,と言ったりもする.
復習:R(f) = {y∈R | ∃x∈I, y =f(x)}であったことを思い出そう(プ リント6参照).つまり,f(x)が取りうる値を全て集めた集合である.
(全単射) fがI上で単射であり,かつ全射であるとき,fはIからJへの全単射で あるという.単にfはI上で全単射である,と言ったりもする.
注意:関数f :I →Jが単射あるいは全射であるという性質はf(x)自身だけでなく,Iと Jにも依存する性質であることに注意しよう.例えば,以下の例を見てみる.
例1)I = (0,1), J = (−1,1)として関数f(x) = x2を考えるとf(x)は単射であるが全射 でない.
例2)I = (−1,1), J = [0,1)とするとf(x) =x2は全射であるが単射でない.
例3)I = (0,1), J = (0,1)とするとf(x) =x2は全単射である.
例4)I = (−1,2), J = (−2,5)とするとf(x) =x2は単射でも全射でもない.
このように,同じf(x) = x2でもこれを「どこからどこへの」関数とみなすかで性質が変 わってしまう.したがって,関数f :I →Jが単射・全射などの性質を満たすかを考える ときはI, Jにも注意する必要がある.
逆関数
I, J ⊂Rとし,関数f :I →Jは全単射であるとする.
このとき,fが全射であることから∀y ∈Jに対して
∃x∈I, f(x) = y (1)
が成り立つ.さらに,f が単射であることから(1)を満たすxは,ただ1つである.
以上をまとめると,∀y∈Jに対して(1)を満たすx∈Iが1つ対応するので,この対 応も関数である.このようにして定まる関数をf−1で表し,fの逆関数という.定め 方からf−1 :J →Iである.
したがって,上の定義からf :I →Jが逆関数を持つかを知るためにはfが全単射である かを見ればよいことが分かる.
また,I上で定義された関数fをf : I → R(f)とみなせば必然的に全射となるので,
この場合には,fがI上で単射であればfはIからR(f)への全単射である.
次に,関数fが単射であることと関連した性質を解説する.
(狭義)増加・減少関数
I ⊂Rと関数f :I →Rに対して以下を定義する.
(増加関数)
∀x, x′ ∈I, (x < x′ ⇒ f(x)≤f(x′))
が成り立つとき,fは増加関数であるという.
(減少関数)
∀x, x′ ∈I, (x < x′ ⇒ f(x)≥f(x′))
が成り立つとき,fは減少関数であるという.
(狭義増加関数)
∀x, x′ ∈I, (x < x′ ⇒ f(x)< f(x′))
が成り立つとき,fは狭義増加関数であるという.
(狭義減少関数)
∀x, x′ ∈I, (x < x′ ⇒ f(x)> f(x′))
が成り立つとき,fは狭義減少関数であるという.
定義から,関数f に対して
狭義増加関数 ⇒ 増加関数 狭義減少関数 ⇒ 減少関数
が成り立つことが分かる.
単射と狭義増加・狭義減少
I ⊂Rと関数f :I →Rに対して,以下が成り立つ.
fが狭義増加関数 ⇒ f は単射 fが狭義減少関数 ⇒ f は単射
逆関数の連続性
a, b∈R, a < bとし,I = [a, b]とする.f :I →R(f)が全単射かつI上で連続ならば fの逆関数f−1 :R(f)→IもR(f)上で連続となる.
最後によく知られた関数の逆関数をいくつか紹介する.
逆三角関数
(i) f(x) = sinxをf : [−π 2,π
2]→ [−1,1]とみなすと全単射になるので逆関数が存在 する.この逆関数f−1 : [−1,1]→[−π
2,π
2]をarcsinxあるいはsin−1xと書く.
(ii) f(x) = cosxをf : [0, π]→[−1,1]とみなすと全単射になるので逆関数が存在す る.この逆関数f−1 : [−1,1]→[0, π]をarccosxあるいはcos−1xと書く.
(iii) f(x) = tanxをf : (−π 2,π
2)→ Rとみなすと全単射になるので逆関数が存在す る.この逆関数f−1 :R→(−π2,π2)をarctanxあるいはtan−1xと書く.
まとめると,
arcsinx: [−1,1]→[−π 2,π
2] arccosx: [−1,1]→[0, π]
(2)
arctanx:R→(−π 2,π
2) である.
ここで,三角関数は上記以外にも逆関数が存在するような定義域と値域の定め方があ ることに気づく.例えばsinxは,sinx: [π2,32π]→[−1,1]とみなしても全単射になる のでf−1 : [−1,1]→ [π2,32π]なる逆関数が定義される.他にも定義域を適当に定めれ ば同じ三角関数に対して無数の逆関数が定義される.それらと区別するために(2)で 定めた逆三角関数は主値をとるという.
逆三角関数の例からも逆関数の議論をするときは定義域と値域をはっきりさせること の重要性が伺える.
指数関数の逆関数
f(x) =exをf :R→(0,∞)とみなすと全単射になるので逆関数が存在する.この逆 関数f−1 : (0,∞)→Rをlogxと書き,(eを底とする)対数関数とよぶ.
これまで対数関数は高校の範囲で学んだ性質を持った関数として定義されているもの として考えてきたが,実は対数関数は上のように「指数関数の逆関数」として定義される のである.しかし,未だに(少なくともこの授業のプリントで扱った範囲では)指数関数 は厳密には定義していないのでまだ厳密性の欠けている部分があるが,こういった部分に 固執するのは教育的な面を考慮すると得策ではないのであまり深入りしないことにする.
以下の演習問題においては,逆三角関数は主値をとるとする
予約制問題
(10-1) 以下の表を埋めよ.
x −1 −√23 −√12 −12 0 12 √1 2
√3
2 1
arcsinx
(10-2) 以下の表を埋めよ.
x −1 −√23 −√12 −12 0 12 √1 2
√3
2 1
arccosx
(10-3) 以下の2つを示せ.
(i) cos(arcsinx) =√ 1−x2 (ii) sin(arccosx) = √
1−x2
(10-4) I, J ⊂Rとし,f :I →Jを全単射な関数とする.このとき,逆関数f−1 :J →I に対して以下が成り立つことを示せ.
(i) ∀x∈Iに対して
f−1(f(x)) = x (ii) ∀y∈Jに対して
f(f−1(y)) = y
早いもの勝ち制問題
(10-5) 以下の表を埋めよ.
x −√
3 −1 −√13 0 √1
3 1 √
3 arctanx
(10-6) arcsinx+ arccosx= π
2 を示せ.
(10-7) 高校で学んだ指数法則を認めた上で対数関数に関する以下の性質を示せ.ただし,
(10-4)の結果を用いてよい.
(i) ∀x, y ∈(0,∞)に対して
log(xy) = logx+ logy (ii) ∀a∈Rと∀x∈(0,∞)に対して
alogx= log(xa)
(10-8) I ⊂Rとし,関数f :I →Rが増加関数かつ減少関数であればf は定数関数であ
ることを示せ.