1
4.産業内貿易指数
• グルーベル=ロイド(H.G.Grubel & P.J.Lloyd)による産業内 貿易指数(Index of Intra-industry Trade : ITT)
• 第j産業の輸出をXj、輸入をMjとすると、第j産業の産業内貿 易指数ITTj は、
と表せる。一般に、0≦ITTj ≦ 1であるが、極端なケースとして、
Xj=Mj のとき、ITTj=1となり、完全な産業内貿易 Xj=0 or Mj=0のとき、ITTj=0となり、完全な産業間貿易 となる。この指数が1に近いほど産業内貿易が進んでいる。
j j
j j
j X M
M ITT X
+
− −
= | |
1
2
貿易特化係数
一般に
-1≦貿易特化係数≦1であるが 極端なケースとして、
① Mi=0のとき、貿易特化係数=1:第i財は輸出のみで、自国 が完全に比較優位。
② Xi=0のとき、貿易特化係数=-1:第i財は輸入のみで、自国 が完全に比較劣位。
③ Xi=Miのとき、貿易特化係数=0:第i財は輸出=輸入で、完 全な産業内貿易。
i i
i i
M X
M X
+
= −
貿易特化係数
3
産業内貿易指数の比較
4
アジア域内での産業内貿易 ( 工程間分業の進展 )
中間財(部品) 資本財 (最終)消費財
国別 1990年 1995年 2000年 1990年 1995年 2000年 1990年 1995年 2000年
中国 0.480 0.511 0.623 0.394 0.509 0.524 0.131 0.212 0.193
韓国 0.587 0.700 0.793 0.446 0.551 0.555 0.189 0.429 0.470
台湾 0.712 0.710 0.819 0.688 0.760 0.525 0.320 0.597 0.532
シンガポール 0.573 0.619 0.812 0.434 0.392 0.550 0.519 0.552 0.480 マレーシア 0.435 0.593 0.744 0.258 0.524 0.474 0.528 0.627 0.505
タイ 0.453 0.574 0.747 0.378 0.395 0.604 0.252 0.311 0.361
フィリピン 0.469 0.492 0.739 0.307 0.307 0.490 0.330 0.361 0.296 インドネシア 0.154 0.265 0.338 0.054 0.248 0.746 0.408 0.428 0.357
日本 0.406 0.447 0.484 0.357 0.438 0.584 0.254 0.401 0.442
米国 0.436 0.506 0.562 0.560 0.610 0.631 0.191 0.341 0.243
出所:『通商白書』(2006年)
5
年 1990 1995 2000
紡績・衣類 0.471 0.526 0.287
鉄・鋼鉄 0.558 0.566 0.616
産業機械 0.597 0.660 0.761
電気機械 0.737 0.763 0.843
自動車 0.269 0.293 0.473
その他輸送機械 0.623 0.658 0.394
精密機械 0.535 0.683 0.806
アジア域内での産業内貿易 ( 各産業中間財貿易 )
出所:『通商白書』(2006年)
6
GL による産業内貿易の説明
• 同一産業(自動車産業)に属する2つの財:
財1(小型車)、財2(大型車)
自国も外国も同じ生産関数で生産
• 財1を、自国も外国もともにA点で生産を行い、平均費用はD点
• このとき、自国においてこの財に対する需要が拡大し(自国市場が拡大し)、生 産量がB点まで拡大すると、平均費用はE点まで低下する(規模の経済)。
• 他方、財2については、自国も外国も何の相違もない
• こうして、自国は財1 (小型車)に比較優位、外国は財2(大型車)に比較優位を持 つことになり、同一の産業に属する財1と財2を輸出入し合うようになる。
7
5 . 産業内貿易の独占的競争モデル
• 「独占的競争」 (monopolistic competition)
ある産業内に、差別化された財を生産する複数の企業が存在する 市場構造。その特徴は、
①供給者は多数いるが、その財について製品差別化(product
differentiation)が見られるため、こうした差別的製品を生産してい
る企業は、あるていど独占的な地位に立てる。すなわち、個々の供 給者が価格支配力を持ち、個々の供給者が直面する需要曲線は 右下がりになる。したがって、短期的には、「限界収入(MR)=限界 費用(MC)」 (利潤極大化の条件)で価格と供給量が決まる(独占的 特徴)。
②差別化された財であっても、その財にとって密接な代替財を生産す る供給者が多数いるため、超過利潤が発生している場合、新規参 入が容易である。すなわち、長期的には、「平均費用(AC)=価格 (P)」つまり利潤がゼロのところで均衡する(競争的特徴)。
8
Step1 : 個別企業の需要関数
Q : 個別企業の販売量、 S : 産業全体の販売量
P : 個別企業がつける価格、 : ライバル企業がつける価格 n : 産業に属する企業数
① 産業全体の販売量が拡大(S↑)するほど、
② この産業に属する企業数が少ない(n↓)するほど、
③ この企業が低い価格設定(P↓)を行うほど、
④ ライバル企業が高い価格設定( ↑)を行うほど、
個別企業の需要は拡大(Q↑)する
⇒(1)式は、不完全競争モデルの右下がりの需要関数に工夫を加 えたもの
P
) 1 ( )
1 (
− −
×
= b P P
S n Q
P
Krugman,P. and M.Obstfeld, International Economics, 7th ed.,2006, pp.117-125
9
Step1 : 個別企業の需要関数 (cont.)
• 個別企業がライバル企業と同じ価格をつけるとき、この企業 のマーケット・シェアは1/nとなる。
• 個別企業がライバル企業より高い価格をつければ、この企業 のマーケット・シェアは減る。
• 個別企業がライバル企業より安い価格をつければ、この企業 のマーケット・シェアは増える。
n Q S
P P
n Q S
P P
n Q S
P P
> ならば、
<
③
< ならば、
>
②
ならば、
① = =
10
Step2 : 費用関数
TC:総費用、 AC:平均費用、 c:限界費用(MC) 、F:固定費用
• 生産規模を拡大すればするほど、平均費用は下がる。すな わち、「内部的規模の経済」(企業レベルでの規模の経済)が 働いている。
cQ F
TC = +
(2) Q c
AC = F +
11
Step3 : 平均費用 (AC) と企業数 (n) の関係
• この産業に属する企業は、全て同じ需要曲線に直面し、同じ 費用関数を持っているとする。全ての企業が同じ需要と費用 に直面しているとき、均衡点では全ての企業が同じ価格をつ ける。このとき、 (1)式より、
P= のとき、Q=S/n
だから、これを(2)式に代入すると、
• (3)式は、企業数nが増加するしたがって平均費用ACは上昇
することを意味している。すなわち、企業数が増加すると、一 企業の生産量が減少することによって、平均費用が高くつくよ うになる。これは「規模の経済」が働いているためである。この 関係を図示したものが、右上がりのCC曲線である。
P
(3) S c
n F
AC = × +
12
Step4 : 価格 (P) と企業数 (n) の関係
(1)式をPについて解くと、
となる。したがって、総収入TR=P×Qは、
となる。これをQで微分して限界収入MR=d(TR)/dQを求め、
さらに(1)式をPについて解いた式(一番上の式)を代入すると、
b Q P S
n P b
− ×
+
= ×1 1
1 2
1 Q
b Q S
n P PQ b
TR − ×
+
= ×
=
b S P Q b Q
Q S b P S
n Q b
b P S
n b
b S P Q b Q
P S n
MR b
− ×
× =
× −
−
+
= ×
− ×
+
×
− ×
× =
−
+
= ×
1 1
1 2
1
2 1
P
13
Step4 : 価格 (P) と企業数 (n) の関係 (cont.)
利潤極大化の条件は「限界収入(MR)=限界費用(MC)」だから、
全ての企業が同じ価格を設定するとき、X=S/nだから、これを 代入すると、
となる。
(4)式は、企業数nが増加するにしたがって価格Pが下落するこ とを意味している。すなわち、企業数が増えれば、産業内の 競争が激しくなり、価格は下落する。この関係を図示したも のが、右下がりのPP曲線である。
b S
c Q
P = + ×
1 (4)
n c b
P = + ×
14
閉鎖経済の下での長期均衡
• 独占的競争のもとでの長期均衡は、CC曲線とPP 曲線の交点Eで、その時の企業数はn、価格はPと なる。なぜならば、
① 企業数がn
1のとき、P
1>AC
1で、利潤が発生して いるので、この産業には新規企業が参入する。企 業数がnになったとき、利潤は消滅して新規参入 は止まる。
② 企業数がn
2のとき、P
2<AC
2で、損失が発生して
いるので、この産業から既存企業が撤退する。企
業数が n になったとき、損失は消滅して撤退は止ま
る。
15
開放経済の下での長期均衡と「貿易の利益」
外国にも、自国と同様に、差別化された製品を生産する複数の企業が存在する独占的 競争産業。そして、外国も自国と全く同じ費用条件で。
唯一異なるのは市場規模で、外国では産業全体での販売量がS*であるとする。この場 合、貿易の開始は、自国にとっても外国にとっても、市場がS+S*に拡大することを意味 する。その結果、(3)式は、
となり、平均費用は低下する。すなわち、貿易による市場の拡大によってさらに規模の経 済が働くことになる。そのため、CC曲線は右にシフトする。
他方、(4)式で表されるPP曲線には、市場規模を表すSは含まれないから、これは市場 の拡大によって変化しない。
新しい均衡点は、図のE’になる。貿易の開始により、
①企業数が増加し(n↑n’)
②価格が下落する(P↓P’)
このように、独占的競争モデルでは、産業内貿易の利益が、
①差別化された製品に対する消費者の選択の幅(バラエティー)が広がり
②それらの製品の価格も下落する
ことが示される。
)' 3
* c ( S
S n F
AC +
× +
=
16
閉鎖経済・開放経済の下での長期均衡
閉鎖経済の下での長期均衡 開放経済の下での長期均衡
17
数 値 例
• 自動車産業の「産業内貿易の独占的競争モデル」において、
自国も外国も
b=1/30,000
固定費F=$750,000,000 限界費用c=$5,000
という同じ費用構造を持ち、市場規模だけが、
自国の販売量S=900,000台
外国の販売量S*=1,600,000台 とする、このとき、
①自国の独占的競争市場を均衡させる企業数と価格。
②外国の独占的競争市場を均衡させる企業数と価格。
③自国と外国で貿易が開始されたとき、統合された市場を均 衡させる企業数と価格、および貿易の利益。
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数 値 例 (cont.)
b= 1 / 30,000 、F=$ 750,000,000 、c=$ 5,000 、 S= 900,000 、S
*= 1,600,000 を代入し、
AC=P
として、 n 、 n* を求めると、
① 自国: n*= 6、AC=P=$ 10,000 、
一企業当たりの販売量Q ( = S/n) = 150,000 台
② 外国: n*= 8、AC * = P*= $ 8,750 、
一企業当たりの販売量Q *( = S*/n*) = 200,000 台
(3)
曲線 : c
S n F AC
CC = × +
1 (4)
曲線 :
n c b
P
PP = + ×
19
数 値 例 (cont.)
③貿易の開始により、自国市場と外国市場が統合されると、二つ の市場の総販売量は、
S=900,000+1,600,000=2,500,000台 となるから、これを(3)(4)に代入すると、
貿易(統合)後:n=10、AC=P=$8,000
一企業当たりの販売量Q(=S/n)=250,000台