• Tidak ada hasil yang ditemukan

koji chosakubutsu mondai no kenkyu : kison kihan no dotaitekina bunseki to shinkihan no kakuritsu ni mukete no kanosei

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

Membagikan "koji chosakubutsu mondai no kenkyu : kison kihan no dotaitekina bunseki to shinkihan no kakuritsu ni mukete no kanosei"

Copied!
12
0
0

Teks penuh

(1)

1

早稲田大学大学院法学研究科

2012

年6月

博士学位申請論文審査報告書

論文題目 孤児著作物問題の研究

‐既存規範の動態的な分析と新規範の確立に向けての可能性‐

申請者氏名 菱沼 剛

主査 早稲田大学教授

高林 龍

早稲田大学教授

江泉芳信

新潟大学名誉教授 法学博士(京都大学)

齊藤 博

早稲田大学名誉教授 法学博士(立命館大学)

木棚照一

(2)

2 菱沼剛氏博士学位申請論文審査報告書 国連工業開発機関(UNIDO)知的財産権専門官、国連大学高等研究所客員研究員 菱沼 剛氏は、2011年12月10日、その論文「孤児著作物問題の研究―既存規範の動態的な分析 と新規範の確立に向けた可能性―」を早稲田大学大学院法学研究科に提出して、博士(法 学)(早稲田大学)の学位を申請した。後記の審査委員は、同研究科の委嘱を受け、この論 文を審査してきたが、2012 年6月 26 日、審査を終了したので、ここにその結果を報告す る。

Ⅰ.本論文の概要

いわゆる孤児著作物とは、著作権者の身元や所在の確認が困難あるいは不可能な著作物 である。孤児著作物問題の解決は、世界的に喫緊の課題となっている。すでに2006年 に米国著作権局は包括的な報告書を作成したところであり、2011年5月に欧州理事会 は孤児著作物指令(案)を提示した他、6月・7月にアイルランド共和国ダブリン市にお いて開催された国際著作権法学会(ALAI)コンファレンスにおいても、孤児著作物問題が大 きなテーマとなった。孤児著作物問題が今日において重要な問題となっているのは、権利 者の許諾を得ようにも、その身元や所在が不明である場合には、当該著作物の利用ができ なくなってしまうことにある。インターネット時代においては、創作活動を業としない一 般著作者によって創作され、あるいは利用可能にされた著作物の数が激増している。この ため権利者の所在や身元が不明な孤児著作物の数が増える一方で、孤児著作物の利用への 需要も増大している。近年では、著作物の利用促進を図ることは、重要な問題であるとの 認識が強まっている。 そこで、米国や欧州のみならず、日本を含む各国や地域において孤児著作物問題への解 決策が模索されるようになっている。ただ、孤児著作物を生じる原因は一様ではないこと、 そして従来の解釈方法で考察すれば既存の条約規範による制約があることもあり、いずれ の解決策も万能ではない。この点、現行著作権制度は、著作者あるいは著作権者の保護を 過度に図るものでありインターネット時代に即していないとの見解も支持を増している。 そして、著作権制度のあり方を、各国法レベルで根本的に改めようという動きがある。そ こでは国際規範との関係が十分に分析されているとは言い難い場合も多い。本論文は、孤 児著作物問題への解決策を、各国法の実態を踏まえつつ、国際規範との関係に着目して検 討する。既存の条約規範の内容を条約法上の手法に基づき把握した上で、既存規範の範囲 内でいかなる解決策があるか、あるいは既存規範の修正を図ることはできるか、また既存 規範が存在しない場合には新規範を創設することはできるか、それぞれの解決策に応じて、 相互の関係も含め検討している。

(3)

3

Ⅱ.本論文の内容

第1章 序論 本章では問題意識と全体の構成を示す。孤児著作物問題の現状と各国における検討の状 況を踏まえ、無方式主義の各概念の動態的な分析による無方式主義の射程範囲を、菱沼剛 氏は、『知的財産権保護の国際規範』(信山社、2009 年)(以下、「前著」という)において すでに検討した。無方式主義は、孤児著作物問題の背景の一つであるとともに、各国で提 案されている解決策との抵触を生じうる場合が多い。無方式主義の規範範囲については、 一切の登録制度廃止を示唆するとする見方から、一部の権利救済制度にあたり登録を要件 とすることを認める見方まで幅広いものの、他方において、条約解釈の一般原則に基づい た理論的分析は手薄であった。また、無方式主義については、最近の世界貿易機関(WTO) パネル報告書においても分析が回避されてしまった。そこで、孤児著作物問題の解決にお いて、客観的および主観的解釈を踏まえ、目的論的解釈による無方式主義の動態的な分析 が主な柱である。しかし、前著においては、無方式主義の客観的・主観的解釈手法を踏ま えつつ、目的論的解釈に焦点を当てたものの、条約法上の理論的考察が手薄であった。そ こで本論文では、条約解釈論の基礎的な考察を拡充する。 他方、既存の条約規範では対応できず、かつ国際社会において新しい国際規範の創設を 望む機運が高まっている問題については、事前予測可能性のある規範を確立する必要があ る。前著においては、既存規範変更や新規範創設による解決策についての検討が不十分で あった。そこで、孤児著作物問題の解決にあたり、既存規範の動態的な分析が必要なもの と、既存規範の解釈を超えるかあるいは既存規範が存在しないため、解釈論の枠を超えた 対応が必要なものについて、それぞれいかなる意義や限界を有するか考察する。具体的に は、裁定制度を含む著作権の制限・例外、準拠法ルールによる可能性及び限界の分析を通 じて、既存規範の枠を超えた国際規範も検討する。さらに、知的財産権法上の属地主義と 国際私法上の準拠法との関係を踏まえた具体的な検討へ進み、登録による権利帰属の推定 との関係を考察する。 孤児著作物問題の解決策は、各手段単独では万能ではない。孤児著作物の発生を事前に 防止し、かつすでに生じてしまっている孤児著作物の利用を事後的に促進する万能の解決 策は、未だ存在しないのが実態である。そこで、各解決策の長所及び短所を分析し、各解 決策は相互に補完的な関係にあることを示す。最後に、各解決策に関わる論点について、 日本法に及ぼす示唆についても触れる。 第2章 孤児著作物問題 本章では、孤児著作物問題について、その意義と現状、発生の背景と弊害を説明する。 さらに、各国における対応策や検討の状況を鳥瞰する。具体的には、既存の解決方法を踏 まえた上で、本問題について議論が進んでいる米国や欧州の状況のみならず、日本やカナ ダにおける裁定制度の状況についても検討する。既存の解決方法のみならず、各国におい

(4)

4 て議論されている主な論点や提案されている各解決策について、孤児著作物問題の解決に おいてどのような意義を有するのか、また既存の国際規範との関係についての議論を概観 する。 孤児著作物を生じる理由として、著作権制度においてベルヌ条約をはじめとする国際規 範において無方式主義が採られ、権利帰属が登録されない著作物が多いことがある。無方 式主義は登録制度を否定するのではないにもかかわらず、無方式主義の射程範囲の検討は 学説上も手薄であった。そこで、無方式主義を徹底して一切の登録制度を否定する見方か ら、無方式主義を緩和して方式制度への回帰を目指す見解もある。孤児著作物問題の解決 にあたって、情報提供機能の拡充が提案されてきた。しかし、無方式主義との抵触に懸念 があったため、十分な議論が行われていない状況にある。 また、著作権制度は著作権者による当該著作物の排他的な支配を内容とし、許諾を与え るか否かは著作権者の自由に委ねられる。そして、著作権者の身元や所在が不明な場合に は、許諾を得ることができないから、利用を望む者は利用を断念するしかないというのが、 現行法の建前である。このような枠組みは、著作物の利用促進ひいては広く文化の発展に とって阻害になっているとの認識が強まっている。したがって、著作権の例外や制限を活 用して孤児著作物問題の解決を図ろうとする流れがある。 本章では、孤児著作物問題に関する議論の現状と、重要であるにもかかわらず十分な分 析が未だされていない論点を指摘することにより、これを本論文における問題意識および 検討の基礎とする。無方式主義とスリー・ステップ・テストの射程範囲を検討する必要性 が指摘される。さらに、孤児著作物問題と直接的に関連づけられて議論されていないもの の、権利帰属に関する何らかの手掛かりがあるような著作物については、知的財産権に対 する準拠法ルールの明確化も権利帰属を明確にする。著作権者の身元を知る手掛かりが全 くないようなケースのみならず、何らかの手掛かりがあるものの権利帰属を法的に評価す ることができない場合もまた、権利者の身元または所在を把握できないのであるから、そ して利用が妨げられることに変わりはないのだから、やはり「孤児著作物」の定義に該当 する。したがって、準拠法ルールの明確化も、孤児著作物問題解決策の一つとして位置づ ける。 第3章 解決策としての無方式主義の動態的な分析(1)背景 無方式主義は条約上明文で定められた、また国際的にみて普遍的な規範である。新しい 国際規範を検討する前に、既存規範である無方式主義の射程範囲を明確にしなければなら ない。しかし、無方式主義の理論的な分析は、目的論的解釈のみならず、客観的解釈や主 観的解釈の見地からも、ほとんど検証がなされていない場合が多かった。このため、無方 式主義の見直しを模索する議論の多くは、条約規範に関する国際法的見地からの理論的考 察を欠いたきらいがある。国際規範の内容を十分に分析することなしに、各国がその目先 の利益を追求して無理な解釈を独自に行うことになれば、国際的な知的財産権制度全体が

(5)

5 弱体化し、知的財産の創作・流通が世界的に阻害される。したがって、国際規範の意味を 解釈するにあたっては、国際法上の条約法に関する一般的な手法に則って行う必要がある。 しかし、既存規範の歴史が長いためいわば権威化している場合においては、このような作 業はあまり行われてこなかった。 本章では次章における検討の準備として、無方式主義の目的論的解釈を行う背景を説明 する。まず、無方式主義の意義と趣旨を、現行条約のみならず各国法の立法経緯に沿って 検証するとともに、今日改めて分析する現代的な意義に触れ、本章および次章における問 題意識を示す。次に、ウィーン条約に基づく条約解釈の一般論を説明した上で、その手法 に従い目的論的解釈の前にまずは客観的解釈および主観的解釈の見地から、国際法秩序に おける無方式主義の位置付けを検証する。そして、無方式主義上の各概念である「方式」 および「権利の享有及び行使」概念に関して、ベルヌ条約のみならず、新条約による国際 規範の変更、条約締結後の事情変更や国際慣習法の見地も踏まえ、各国法の現状にも及び ながら、両概念の意義を検証する。 第4章 解決策としての無方式主義の動態的な分析(2)考察 条約制定当時における文言や当事者の意思のみならず、条約制定後の時代の変化を取り 入れた動態的な分析を受け入れる理論的・制度的な枠組みが条約法にはある。「動態的」な 分析とは、法的な安定性を守りつつも、目的論的解釈によって時代の変化を条約解釈の中 に取り込んでいく方法を指す。国際規範は死文化すれば、実効性を失う運命にある。新規 範の形成がますます困難になっている今日では、法的インフラである法的安定性を大切に しつつも、新しい時代の要請に応える必要もあり、動態的な把握はこのような要請を共に 満たしうるものとして、重視していく必要がある。ウィーン条約制定時に動態的な分析手 法に抵抗があったが、今日では目的論的解釈手法も一般的に受け入れられている。また、 知的財産法が高度化するに伴い、国際法を含む他の法領域との境界にあたる論点・分野の 検討が行われ難くなったのも一因であろうが、それでも克服していくことが可能であるし、 しなければならない課題である。知的財産制度に関する国際的な枠組みを大切にしながら、 現代的問題の解決を図るためには、各国が納得できるよう、条約解釈の一般論に則して歴 史的経緯に遡った検証を踏まえつつ、許容される範囲内での動態的な考察が不可欠である。 本章では、無方式主義の目的論的解釈を可能にする理論的許容性及び必要性を検討する ため、著作権制度の趣旨及び目的の分析に加え、インターネット時代における必要性をは じめ著作権を巡る現代的状況を概観する。なお、目的論的解釈について、「発展的」解釈手 法とする用語法もあるにもかかわらず、本論文では「動態的」とした理由にも言及する。 さらに、目的論的解釈を行う上での具体的な考察を行う。すなわち、権利帰属の認定、公 示および登録による法的効果という各段階について、各国法における現状と限界を踏まえ て、動態的な分析による可能性を検討する。動態的な分析による限界と今後の課題を示す とともに、過失要件との関係、立法上の手法や登録実務といった、関連制度や実務への示

(6)

6 唆にも触れる。とりわけ、登録による権利帰属の推定の許容性と可能性を検討する。最後 に、国際機関における検討、とりわけ国際的な登録への動きを踏まえ、無方式主義の動態 的な分析への無意識的な需要が国際社会に存在することを明らかにする。 第5章 既存規範の枠組みを超えた解決方法 本章では、著作権の制限・例外、そして準拠法ルールを分析する。いずれも、既存の国 際規範を前提としたのでは、孤児著作物問題に対して十分に対応できない論点である。著 作権の制限・例外については、孤児著作物問題への適用が既存のスリー・ステップ・テス トの枠に収まらないおそれがある。また、知的財産権に対する準拠法ルールについては、 各国法のレベルでも事前予測可能性が高くない上に、国際規範の形成は目下取り組みが進 められている課題である。こうした既存規範の枠に収まらない、あるいは新しい規範が求 められる解決策について、既存規範との関係を踏まえ、将来的な可能性の展望を示すこと に努めたい。 まず、TRIPS 協定は各国法によるスリー・ステップ・テストによる枠内での著作権の例外 や制限を認めているものの、各国法の体系によっては十分に活用されていないとの認識も ある。このため、わが国のみならず各国においても、フェア・ユースの導入や活用、ある いは裁定制度の活用によって、孤児著作物の利用を図ろうとする議論がある。また各国に おける検討をみると、直接的な言及の有無はともかく、国際規範における著作権の制限・ 例外との抵触が論点となるものが多い。スリー・ステップ・テストの射程範囲については、 WTO 紛争解決手続をはじめ、各国においても活発な検討がなされてきた。ただ、孤児著作物 問題についてフェア・ユースを用いることや裁定制度は、スリー・ステップ・テストを充 足しないおそれがある。このため、既存規範の修正も各国の検討において視野に入ってい る。とりわけ、スリー・ステップ・テストは国際規範として無方式主義に比べて新しいだ けに、条約制定の経緯そして条約制定者の意思も調べるのが比較的容易であり、見直しの 議論が起こりやすい。実際に特許権に関するものではあるが、TRIPS 協定で決着を見たはず の特許権への制限については、医薬品アクセスに関するドーハ宣言により、すでに TRIPS 協定への変更が加えられた。さらに、同宣言の趣旨の環境技術移転のための類似規範の創 設といった、活発な議論が起こりつつある。著作権についても利用拡大への声が高まって いるため、著作権の制限・例外の範囲に関する国際規範に対しても将来的な影響がある。 そこで本章では、スリー・ステップ・テストを巡る検討や各国法の状況を踏まえた上で、 環境技術移転問題をはじめ制限・例外に関する問題の経緯および動向を鳥瞰し、孤児著作 物問題の解決への展望を検討する。 次に、知的財産権に関する国際私法の現状を概観し、権利の帰属に関わる準拠法ルール のあり方を検討する。未だ各モデル法の間で相違は大きいものの、知的財産権に関する準 拠法ルールが創設され国際規範化されることになれば、著作者や権利変動について何らか の手掛かりがあるような著作物について、孤児著作物への一つの解決策となりうる。そこ

(7)

7 で、知的財産権に対する準拠法ルールについて、属地主義と普遍主義との対立という歴史 的観点も踏まえつつ、最近の動向を考察する。連結点を権利自体の存否や効力、原始的帰 属、権利の移転に分け、米国や日本の国内モデル原則のみならず、欧州域内や日韓共同で の国際的なモデル原則を踏まえて、国際規範としての準拠法のあり方を検討する。さらに、 知的財産権に関する準拠法ルールの確立が、権利帰属の明確化にとってどのような意義と 限界を有するかを示し、今後の課題を展望する。すでに、知的財産権に対する準拠法をは じめとした国際私法ルールの検討が各国や国際機関、あるいは研究機関において検討され てきたところである。こうした動きを鳥瞰するとともに、孤児著作物問題の解決に向けた 展望を明らかにする。 第6章 日本法への示唆 本章では、各解決策を日本法において導入することができるか、できるとしてどのよう な課題があるか、そして孤児著作物問題の解決に有益であるか分析する。まず、無方式主 義の動態的な分析によって、いかなる利用行為ができるようになるのか、また具体的にど のような立法となりうるのか検討する。米国法と同様、「一応の証明」を生じる推定規定を 検討することになろうが、さらに登録以外の方法による司法上の推定や、日本判例がすで に司法上の推定を認めていることもあり、外国登録による実体法上の推定も視野に入れる。 また、登録をしないことにより、権利者不在との推定が生じさせるのではないとする。 次に、現行の裁定制度を拡充できるのか、日本のみならずカナダにおける現状も踏まえ て考察する。行政庁の事務処理能力の限界があり、すべての著作物をカバーすることは現 実的でないため運用面での改善が必要である、そして、スリー・ステップ・テストとの抵 触関係を明らかにする必要があるといった課題が残っている。権利の制限・例外について は、権利濫用といった一般法理、さらには米国流のフェア・ユース導入への議論が盛んで ある。ただ、孤児著作物について一般法理やフェア・ユースの活用には、事前の予測可能 性の確保や、スリー・ステップ・テストとの整合性といった課題が残されている。また、 知的財産権に関する準拠法について、「法の適用に関する通則法」の今後のあり方を、日韓 共同原則といった最近のモデル原則も踏まえて展望する。さらに、孤児著作物問題の一因 である、権利保護期間の長期化問題にも触れる。ただ、権利保護期間を日本だけが独自に 短縮することは、実際上難しいものとする。 最後に、公示事項制限による登録制度活性化、対第三者対抗要件としての登録を含む権 利移転面の登録、外国登録による権利推定や集中処理機関の新たな役割といった、登録制 度の改善のあり方に関わる諸問題を検討する。そして、登録制度の今後の課題として、細 分化された権利の公示システムの確立や、不実登録への対応、とりわけインターネットを 活用した真権利者による監視システムの確立を展望する。 結語

(8)

8 本論文で検討された孤児著作物の利用に関する解決策は、どれか一つだけでは完全なも のではなく、相互補完的な関係に立つものとして検討されるべきものであることを指摘す る。

Ⅲ.本論文の評価

本論文は、筆者のこれまで知的財産に関する国際機関等で勤務してきた経験から培われ た著作権保護に関する無方式主義に関する問題意識から、近時問題となっている孤児著作 物問題の研究に果敢に挑んだ成果である。 第 1 章「序論」は、本論文を執筆するにあたって筆者が着想したアプローチの説明に加 えて、結論に至る過程の構成をスケッチする。権利者が不明となっている著作物を利用し ようとする場合、権利者からの許諾が得られないため結果として当該著作物が利用できな くなり、広く文化の発展を阻害する事態が生ずる。著作物の利用という観点から、これを 解決する必要がある。本論文は、この問題を解決するためには、既存規範の動態的な分析 が必要となる面と、既存規範の解釈を超えるためあるいは既存規範の欠如のために解釈論 を超えた対応を必要とする面があるとの前提に立って、解決策を模索するという最終目標 に向けて、第2章以下の構成が説明される。 第2章「孤児著作物問題と国際規範」は、孤児著作物問題が、欧州、米国、そして日本 でも解決の必要性が認識され始めているという現実をもとに、問題発生の背景と、その弊 害を明らかにした上で、この問題に対する欧米および日本の議論状況、さらにはそれらの 国々での検討課題を丁寧に紹介する。 無方式主義の下では、著作者の表示がないことが多い。著作権の帰属の変遷、住所変更・ 死亡・解散・事業終了等の情報が入手困難であったり、不正確であったりすることが生じ うる。保護期間が延長された結果、相続人の範囲が拡大して最終的に権利者不明となる状 況も生まれている。加えて、技術の進歩により保護著作物の対象が広がり、権利関係の把 握が困難になっている。これらが原因となり、権利者を特定して許諾を得ることが一層困 難になっていると同時に、利用コストの増大がもたらされているという。 これに対応するために各国でなされている様々な取り組みを、筆者は紹介する。米国で は、著作権局報告書で報告された、Orphan Works 条項、非演劇的音楽著作物のレコード に対する強制使用許諾、および特に図書館等が孤児著作物を利用する際に認められる、損 害賠償額の減額・減免措置があげられている。 日本については文化庁長官による裁定制度、カナダについては政府機関の著作権委員会 による許諾がある。欧州に関しては、英国、フランス、北欧諸国の制度が紹介されている。 これらを踏まえて、筆者は、各国の制度からうかがえる解決方法は、(a)現行法・現行制 度による解決、(b)新法によらない基盤整備、(c)権利行使を制限する法的手当て、(d)

(9)

9 ラディカルな制度改正 の4つであり、(a)の方法を活用すべきことに異論はないとしつ つ、米国における(c)の検討状況に強い関心を持ち、 欧州における議論状況にも検討を加え て、電子図書館という新しい発想の実現に向けての努力が重ねられていることを論じてい る。 第3章「解決策としての無方式主義の動態的な分析(1)背景」は、第4章「解決策と しての無方式主義の動態的な分析(2)考察」と一体となるものであり,世界のほとんど の国が採用している無方式主義(ベルヌ条約5条2項),特に「権利の享有」「権利の行使」 との文言の意味とその範囲について検討を加えるものである。無方式主義については,従 来は余りにも当然のこととして明確な分析がされてこなかったとの問題意識に基づいて, 無方式主義の淵源を探るとともに,インターネット時代を迎えた現代における無方式主義 の意義について検討を加えるものである。第3章では無方式主義を規定するベルヌ条約5 条2項について,条文中の文言の自然または通常内容により条約当事国の意思を求め,つ いで合意の一般的な文脈を勘案して総合的解釈を試みたうえで,国際規範として確立した 無方式主義のその後の国際規範としての動向や各国における国内規範の動向についての展 開を紹介している。 無方式主義がベルヌ条約で採用されるに至った経緯を詳しく追うことによって,これが 著作権制度に関する哲学的な議論の結果ではなく,内国民待遇を採用するためといった実 務上の議論の中で生まれてきたことを指摘しつつ,ベルヌ条約の成立やその後の改正経緯 をも年代順に丹念に調査することによって,権利保護の存在自体に関わるのではなく,そ の程度や種類を画するものあるいは権利の範囲や期間を画するにすぎない方式は無方式主 義の対象外と解してもよいのではないかとの,本論文の企図に沿う知見を得ている。とは いえ歴史的考察やその後の国際規範や国内規範の動向を参照するだけでは明確な基準を定 立することは困難であり,権利移転に登録を要求する制度が無方式主義に抵触するかにつ いても不明確であることを指摘している。 第 4章「解決策としての無方式主義の動態的な分析(2)考察」は、無方式主義の動態的な 分析につき、理論的考察、具体的考察を行い、WIPOなどにおける検討にも言及する。 まず、動態的な分析の理論的考察を行うにつき、目的論的解釈の手法に着目して、権利 の自発的な公示、権利帰属の推定という自論を理論面から裏打ちしようとする。そこで説 く目的論的解釈は、立法者の意思に反して行うことを考えるものではない旨、限界を画し た上、その目的論的解釈がどこまで許容できるか、権利者、利用者の観点から考察する。 次いで、目的論的解釈が、インターネット時代、創作者の多様化、著作物の多国間での流 通、著作者名表示、権利帰属の明確化、権利帰属の公示の上でも必要であるとする。 つぎに、動態的な分析の具体的な考察を行うにつき、権利帰属の認定を、水際措置、行 政上の強制手続、司法当局による差止請求、損害賠償請求との関連で論じ、さらには、具

(10)

10 体的な考察をインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)における権利帰属の認定と、 ビジネスの面にまで広げて諸国の現状を分析する。それに、権利帰属の公示については、 著作権の登録による公示をはじめ、契約による公示、著作物上への公示をも述べ、WIPO 著作権条約12条の定める権利管理情報の保護とその限界にも言及する。権利集中処理機関 の機能との関連では、CISAC(著作権協会国際連合)のCIS(共通情報システム)とその限界に も言及する。動態的分析の意義としては、権利帰属の推定が権利行使手続の迅速化をもた らし、権利帰属がインターネットを通して公示される途に言及する。加えて、動態的分析 の限界や課題を述べ、権利の細分化、権利関係の複雑化に対応することの難しさに言及す る。 第5章「既存規範の枠組みを超えた解決方法」は、既存の国際規範では十分対応するこ とができない二つの論点、つまり、著作権保護の制限・例外と準拠法規則を考察する。権 利帰属者が分からない場合に著作権保護の制限・例外を用いて孤児著作物の利用を認める という解決方法は、例えば、フェア・ユースの導入や活用、国内立法によるその他の方法 の制限・例外が考えられるが、ストックホルム改正会議で付け加えられたスリー・ステッ プ・テスト(ベルヌ条約9条2項)を満たさないおそれが生じるとする。つぎに、抵触法 原則を統一し、権利関係の調査を容易にしようとする試みにも着目し、アメリカ法律協会 の特別プロジェクト(以下、ALI と略する。)、ヨーロッパ・マックス・プランク研究グル ープ(以下、EMPGと略する。)、早稲田大学GCOEグル―プの知的財産に関する国際私法 原則を検討する。著作権の最初の帰属者の準拠法を著作物の本源国法とするALI原則313 条や早稲田大学GCOEのプロジェクト案308条2項とこの点についても保護国法によると するEMPG案3:102条を比較し、考察する。また、共同著作者の権利関係については当 事者自治の原則を広く認める方向性を確認する。このような抵触法的原則の国際的統一へ の展開にも一定の期待を寄せながら、抵触法原則が確立され、明確にされば、国際的な権 利帰属の明確化にとり有益であるとされる。 第6章「日本法への示唆」は、これまでの各解決策の検討を踏まえて、日本法に導入す ることができるか、導入するとすればいかなる課題があるかを考察する。無方式主義の動 態的分析との関連では、登録に権利帰属の推定を認め、これを外国登録にも適用すること を提唱する。権利帰属不明の著作物に対する裁定制度の利用やフェア・ユースの導入、活 用については、スリー・ステップ・テストの理論的補強や新たな規範の創造の可能性に期 待する。また、登録制度がより利用されやすいように公示事項の制限や開示の人的範囲の 制限の余地を指摘する。同時に、不実登録の排除の課題につき、登録内容の検索・監視シ ステムの構築が必要であるとし、登録制度の拡充を電子作品に限定することにもこの点か らみれば合理的理由があるとする。本章は、これまでの考察を踏まえて具体的な提言をし ている点が興味深く、今後の日本法への示唆となる点が少なくないように思われる。

(11)

11 本論文は,筆者がインターネット時代における孤児著作物の権利処理法を提言するに至 るうえで,その最大のネックとなる無方式主義の意義とその範囲を,歴史的に考察しかつ その後の運用の実態を調査することを通じて,従来の条約を前提としつつ、さらには既存 の条約を超えた解決策を見出そうとするものである。筆者は、孤児著作物問題の解決にあ たり、著作権に関する条約が採用している無方式主義に用いられる各概念の動態的分析が 有意義であるとする。それは、無方式主義が普遍的な国際規範という位置づけを与えられ ていながらも、内容が明確になっているとはいい難いという理解に基づいている。条約に よって生まれる法的安定性を維持しつつ、条約の目的論的解釈によって、時代の変化を取 り入れた動態的分析を行うことで、時代の要請に応えた解決策が見いだせると主張するの である。孤児著作物問題の解決策を総合的に模索しようとする本論文は、内外文献の周到 かつ丁寧な参照に基づいており、孤児著作物問題という現代的な問題に関する解決策に対 する方向性を示そうとするものとして重要な意義を有する。 筆者は、確立した国際規範である無方式主義を前提としてその射程を明確化し、グレー・ ゾーンを狭めるべく目的論的解釈の手法を用いつつ、権利の自発的な公示、権利帰属の推 定という仕組みを構築しようとしている。筆者が、権利帰属の公示や推定に強い思いを致 し、それを立法論としてではなく、既存のベルヌ条約の枠内で、したがって、極めて制約 の多い中で論じようとした姿勢は大いに評価できる。 また、その条約の生成過程とその後の展開に関する詳細な論述、検討は、先行研究によ った記述部分が多いとはいえ、条約交渉の全容やその後の動向を原資料に遡って探索する ことがきわめて難しい点を考慮すれば、資料としても価値が高いといえる。 さらに、既存規範としての条約や各国の国内法の解釈だけでは対応できない新しい問題 への解決策も検討対象しており、著作権の制限・例外に関する既存の国際規範の修正の可 能性と著作権に関する準拠法規則の現状、将来に向けた展望についても論じている。著作 権保護の制限・例外によって孤児著作物の利用に関する問題を解決する方法が既存の国際 規範であるスリー・ステップ・テストと抵触するおそれがあるとしながら、このテストが 国際決議や国家実行により改正される可能性がないわけではないとし、この既存のテスト の問題点を指摘する。この点も時代の変化に伴う既存規範の再検討という観点から重要な 視点といえよう。 もっとも、本論文にも残された課題がないわけではない。まず、無方式主義を権利者の 便宜のための規範と認識することでよいのか、仮にベルヌ条約起草者は表明しなかったと しても、無方式主義には、著作権は著作物の創作と同時に発生し、自由で多様な表現を促 し、これに接する者の心をも豊かにする働きがあり、特許法制等とは異なる著作権法制固 有のフィロソフィーが存するはずであり、このあたりの掘り下げも欲しいところである。 また、孤児著作物問題に関する国際機関や国内機関の取り組みを紹介する中で、WIPO 著 作権条約の定める権利管理情報の保護やCISACの推し進めてきたCIS計画についてもより

(12)

12 詳細な吟味が欲しい。さらに、著作権の制限・例外条項の導入がスリー・ステップ・テス トの解釈や運用の問題としてどこまで解決することができるのか、もう少し理論的検討を 深めて欲しい点が残るように思われる。 以上のように、本論文にはさらに検討すべき課題がないわけではないが、それらはいず れも本論文の総合的な評価を左右するものではない。本論文は、孤児著作物の利用を促進 する観点からベルヌ条約上の無方式主義の検討を深めるとともに、著作物の保護に関する 現在の国際法源を超えた方法をも含めて総括的に研究し、国際的な文献や国際機関の動向 などに関し、これまでのわが国における研究で必ずしも十分でなかった部分を補充すると ともに、この新しい問題を多角的に解明し、具体的な提言に至ったものとして、高く評価 することができる。

Ⅳ.結論

以上の審査の結果、後記の審査委員は、本論文の提出者が博士(法学)(早稲田大学)の 学位を受けるに値するものと認める。 2012 年6月26 日 審査委員 主査 早稲田大学教授 高林 龍 早稲田大学教授 江泉芳信 新潟大学名誉教授 法学博士(京都大学) 齊藤 博 早稲田大学名誉教授 法学博士(立命館大学) 木棚照一

Referensi

Dokumen terkait

Mempertahankan image dari bahasa sumber (bsu) dalam menerjemahkan metafora adalah untuk menyampaikan makna yang sama kepada para pembaca di bahasa sasaran (bsa), sedangkan

Secara umum, request expresiion terbagi menjadi dua yaitu direct request expresiion dan indirect request expresiion Pada bagian kedua akan dibahas tingkat

Ahli waris pengganti dalam hukum kewarisan untuk melengkapi hukum-hukum yang telah ada yang bertujuan untuk mencari rasa keadilan bagi ahli waris..Ahli waris pengganti

Kamis 14/05/2020 Strategi Penentuan Harga untuk Perusahaan. dengan Kekuatan Pasar dan Ekonomi Informasi

Langkah strategis utama kebijakan moneter pada periode ini adalah pengkonsentrasian pada satu tujuan yaitu mencapai dan menjaga kestabilan nilai Rupiah, baik kestabilan terhadap

Pola Perubahan Volume Lalu Lintas Kecamatan Cimenyan, Cilengkrang dan Lembang Alternatif solusi terhadap dampak lalu lintas yang timbul dari pembangunan perumahan di Kawasan

Usia pensiun normal bagi peserta ditetapkan 55 (lima puluh lima) tahun, dalam hal pekerja tetap dipekerjakan oleh Pengusaha setelah mencapai usia 55 (lima puluh

Meskipun dari hasil analisis derajat ploidi diketahui bahwa pada kedelai Anjasmoro perlakuan tidak terinduksi poliploid, analisis terhadap karakter fenotip kedelai tersebut masih