日本語教育実践研究 第2号 待 遇 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 教 育 に お け る 意 識 化 過 程 へ の 働 き か け 一2004年 秋 学 期 「口 頭 表 現6B」 に お け る教 室 活 動 か ら 一 村 上 ま さ み 【キ ー ワ ー ド】 待 遇 コ ミ ュニ ケ ー シ ョ ン教 育 意 識 化 過 程 教 室 担 当 者 の 働 き か け 共 有 化 一 般 化 個 人 化 0.は じ め に 筆 者 は2004年 度 秋 学 期 「日本 語 教 育 実 践 研 究(1)」 の 実 習 生 と し て 「待 遇 コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン教 育 」 を 主 眼 に据 え た 実 践 に取 り組 ん だ 。 蒲 谷(2003)の 提 唱 す る 「待 遇 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン教 育 」 は 、 「表 現 主 体 」 と 「理 解 主 体 」 の 意 識 化 に 焦 点 を当 て 、 「気 持 ち 一 な か み 一 か た ち の 統 合 を図 る 」 理 念 で あ る 。 学 習 者 に とっ て教 室 と は、 様 々 な 情 報 に接 触 し取 り込 む 場 で あ る 。 筆 者 は 、 教 室 で の 学 習 は学 習 者 が 持 つ 既 存 の 個 人 化 され た 情 報 の 共 有 化 か ら始 ま る と 考 え る 。 そ し て 学 習 者 が 主 体 的 に 自 己 に 引 き付 け て情 報 を取 り込 む過 程 で 、 他 者 と共 に 一 般 化 を 試 み 、 再 度 個 人 化 す る過 程 を仕 組 み と して 提 供 し て い き た い 。 こ の 実 習 で は 、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンの 双 方 向 性 を視 座 に 教 室 活 動 そ の もの が 学 習 者 の 学 び とな る 意 識 化 過 程 を 実 現 す る こ と を 目指 し た 。 本 稿 で は 、4ヶ 月 の 実 践 の 中 か ら 、9週 問 に 亘 っ て 実 施 した4つ の 「練 習 」 セ ッ シ ョ ン に 焦 点 化 し、待 遇 コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン に お け る 意 識 化 過 程 の 実 践 に つ い て 考 察 す る 。 1.「 意 識 化 過 程 」 を学 ぷ 内 容 と す る 待 遇 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン教 育 1司 待 遇 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン教 育 に お け る 「意 識 化 過 程 」 と は何 か 私 た ち は 社 会 の 中 で 様 々 な 形 の 言 語 を 介 し他 者 と意 思 を 通 じ合 い 、 他 者 との 関 係 性 を築 く。 筆 者 は 言 語 活 動 の 目 的 を他 者 との 関 係 性 の 構 築 と考 え る。 ま た 、 コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 を 、 「気 持 ち」 を 「こ とば 」 と して 自 分 に も他 者 に も見 え る 「か た ち 」 に し、 そ れ をや り と り して 他 者 との 関 係 性 を 取 り持 つ 力 と し て 捉 え る 。「待 遇 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン教 育 」を 提 唱 す る 蒲 谷(1995a,1995b,2003)は 、 言 語/言 語 教 育 の 考 察 に あ た り、 「「<言 語=行 為> 観 」 と い う 言 語 観 に 基 き、 「〈音 声 ・文 字 を 「媒 材 」 と した 「表 現 行 為 」 お よび 「理 解 行 為 」 そ の もの が 言 語 で あ る>と 捉 え 」、 「〈言 語 と は 、音 声 ・文 字 を媒 材 と し た コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン行 為 そ の もの 〉」 と 、行 為 と し て コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 捉 え る 立 場 を 示 して い る 。コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンの 行 為 が 成 り立 つ や り と りの 起 点 と着 点 を 「表 現 主 体 と理 解 主 体 」 と し、 言 語 活 動 に お け る 主 体 の 双 方 向 性 の 認 識 か ら 始 ま る待 遇 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 教 育 に は 、 互 い の 意 思 の 存 在 を 意 識 し効 果 的 な 言 語 活 動 を展 開 す る 、 よ り能 動 的 な 表 現 主 体 の 育 成 が 期 待 で き る 。 能 動 的 な 表 現 主 体 とは 行 為 を 十 分 に認 識 し、 理 解 主 体 に 対 す る 配 慮 を 持 ち 、展 開
す る言 語 活 動 に よ り問 題 を解 決 し他 者 との 関 係 性 を 築 くコ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 主 体 とす る, 蒲 谷(2003)の 規 定 に は 「「待 遇 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン教 育 」 は 、 「表 現 主 体 」 と 「理 解 主 体 」 の 意 識 化 に焦 点 を当 て た理 念 で あ る 」とあ る が 、「意 識 化 」とは どの よ う な こ と で あ ろ うか 。 筆 者 は 、 言 語 教 育 に お け る 「意 識 化 」 とは 学 習 者 主 体 が 接 触 した 情 報 を 言 語 学 習/教 育 を 通 し個 人 化1す る こ と に 帰 着 す る と考 え る。学 習 者 は 常 に 外 か ら の 様 々 な情 報 に さ ら され な が ら 、 多 少 な り と 日本 語 学 習 や 日本 語 使 用 に対 す る ス テ レオ タ イ プ や 言 語 不 安 を抱 え 、 克 服 を 期 待 し て 学 習 に 臨 む 。 しか し、 一 般 化 さ れ た 知 識 情 報 へ の 量 的 な 接 触 も 、 自 己 に 引 き 付 け 個 人 化 す る 過 程 を通 さ な け れ ば 学 び に繋 が る と は い え な い 。殊 に言 語 学 習 に 関 し て は 、 収 集 し た 知 識 量 が 増 え るに 従 い 、 こ と ば の 使 用 に お い て な お 違 和 感 や 不 安 感 が 煽 ら れ る と い う こ とが 起 こ る 。 そ して 「日本 語 」 や 「日本 人 」 の 異 文 化 性 が トラ ブ ル ・シ ュ ー テ ィ ン グ と され が ち で あ る ・ 言 語 学 習/教 育 で は 、 様 々 な 意 識 化 の 機 会 か ら多 角 的 で 複 眼 的 な思 考 経 路 を拓 き 、学 習 主 体 が接 触 した 情 報 を能 動 的 に 取 捨 選 択 し個 人化 す る こ と を 図 り た い 。 教 室 に お け る 待 遇 コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンの 意 識 化 過 程 とは 、 学 習 者 が 能 動 的 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 主 体 と して 教 室 活 動 に お い て 、他 者 との相 互行 為 の 中か ら問題 を発見 し解 決 方法 を探 る 営 み そ の もの で あ る 。 実 践 に お い て は 、 教 室 担 当 者 の 働 きか け か ら 意 識 化 過 程 が 出 発 す る 。 教 室 担 当 者 は 、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョン 主 体 と な る 学 習 者 に 、 「表 現 主 体 」 と 「理 解 主 体jの 立 ち 位 置 か ら 、 表 現 選 択 と場 面 展 開 の 関 連 を 予 測 ・分 析 を促 す 問 い か け と突 き戻 し を繰 り返 し、 学 習 者 の 声 を共 有 し て い く。 個 々 の 学 習 者 が 問 い か け を き っ か け とす る 教 室 内 の や り と り と向 き合 う こ とで 、「表 現 主 体 」 と 「理 解 主 体 」 の 相 互 行 為 と し て の コ ミュ ニ ケ ー シ ョンヘ の 認 識 を深 め る 。 【図11は 、 蒲 谷(2004.11.17講 義)に よ る 「待 遇 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に お け る 「気 持 ち」 と 「な か み 」 と 「か た ち」 の 統 合 」 を 図 る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン主 体 を示 す 図 を元 に 、 教 室 担 当 者 の 働 きか け に よ る 学 習 者L1の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン主 体 と し て の 意 識 化 過 程 を示 した もの で あ る 。 「意 識 化 過 程 」 と は 、 自 己 の行 為 の 「表 現 」 と … 教 室 担 当 者 の働 きか け 聖乏習 者= コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 主 体 そ の 時 、 あ な た が 相 手 に 伝 え た い こ と どん な気 持 ち? 況 か 状 ち の 嚇 ㌧ 気 ノ な の ? ん ? そ は ど な
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… 旨 ,1』,' 表 し2 .1●1 ,・'一 、 !表 現 玉 、 ・,.一..で弟 へ 〆、.'牧 メ 理 解 ソ 竃 咋ド ∼ みノ' 家 レ・・一"「f 【図1】 働 き か け に よ る 待 遇 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 意 識 化 過 程 1筆 者 は 「個 人 化 」 を 「自 己 を取 り巻 く事 象 を我 が こ と と と して 捉 え る 認 識 」 と 言 う意 味 で 使 う。 一24一日本 語教育 実践研究 第2号 「理 解 」 の 関 係 を認 識 す る こ と に よ り他 者 と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を活 性 化 す る 過 程 と し て 、 コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン主 体 の 二 側 面 を 絡 み 合 わ せ る思 考 活 動 を展 開 す る 。 つ ま り、 自 己 の 表 現 と他 者 の 表 現 が 重 層 的 に内 化 す る 過 程 と し て 、 言 語 活 動 の 相 互 行 為 の 諸 相 を 的 確 に 把 握 す る力 を コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン 主 体 に備 わ せ る 。 ま た 、 意 識 化 過 程 と は 規 範 的 で 構 造 的 な 学 習 項 目 を評 価 基 準 と して 目標 管 理 を し た りそ の 到 達 度 を 計 測 す る 類 の もの で は な い 。 待 遇 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン教 育 に は 、 教 育 実 体 を意 識 化 過 程 そ の もの と し、 個 々 の 学 習 者 が 主 体 的 に 行 為 と し て の コ ミュ ニ ケ ー シ ョン を 内 化 す る 過 程 を 重 視 す る活 動 型 の 言 語 教 育 が 必 要 とな る 。 この よ う な活 動 型 言 語 教 育 に は 、 日 本 語 学 習 や 日本 語 使 用 に 対 す る ス テ レ オ タ イ プ や 言 語 不 安 か ら学 習 者 を 自 由 に す る 可 能 性 を持 つ 実 践 と して も期 待 が 持 て る ・ 2.教 室 実 践 に お け る ア プ ロ ー チ の 実 際 2-1実 習 ク ラ ス概 要 ク ラ ス の 概 要 は 以 下 の と お りで あ る。 ■ ク ラ ス:早 稲 田 大 学 日本 語 教 育 セ ン タ ー 別 科 日本 語 専 修 過 程 「日本 語 口 頭 表 現6B」 ■ 学 習 者:6レ ベ ル213名 口 実 習 生:大 学 院 生6名(TAと して 参 加 〉 学 習 者 を3グ ル ー プ に編 成 し、1グ ル ー プ に つ き2名 の 実 習 生 をTAと して 配 置 。 圏04秋 学 期 シ ラバ ス:授 業 時 数:1コ マ190分/週 ×15週 ① ガ イ ダ ンス ② 自 己 紹 介1③ イ ン タ ビ ュ ー ・面 接 ④ 「依 頼 表 現 」練 習 ⑤ 「依 頼 ・断 魎H⑥ 「誘 い表現」練 習 ⑦ 「誘 い ・断 り表 現」練 習 皿⑧ 「許可 求 め ・許 可与 え ・禁 止 表 現 」練 習 ⑨r申 し出 ・断 り表 現 」練 習Iv⑩ 「ア ドバ イ ス 表 現j練 習 ⑪rご 挨 ㌫ ス ピ ー チ 」練 習 ⑫ ⑬ ま とめ の 練 習(1),(2)⑭ テ ス ト ⑮ ス ピ ー チ,振 り返 り (※1∼ 【Vはグル ープ ・セ ッシ ョ ン。1セ ッシ ョンご とに新 グ ル ー プを編 成 。) ■ 教 材:指 定 問 題 集3及 び グ ル ー プ ご と に 実 習 生 が 準 備 し た補 助 教 材 を使 用 。 ■ 授 業 構 成:前 半30分 … 指 導 教 授4に よ る 本 時 の 学 習 目標 と 要 点 の ま と め/後 半60分 一・実 習 生 が リ ー ダー と して進 め る グ ル ー プ 活 動。 ■ 実 習 の 計 画 と振 り返 り:各 セ ッシ ョ ンの 準 備 と して 実 践 研 究 ク ラ ス で 指 導 教 授 中心 に 指 導 要 領 を確 認 し、実 習 生 は教 案 を作 成 し、実 践 後 に 実 践 研 究 ク ラ ス で の振 り返 りを行 う。 2-2「 待 遇 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 意 識 化 過 程 」 を活 動 に取 り込 む 筆 者 ら は 意 識 化 過 程 の 活 性 化 を 目 指 す 上 で 個 々 の 学 習 者 の 考 え や 経 験 を 「学 習 内 容 」と し、 知 識 注 入 型 を出 来 る だ け避 け た 。 各 個 人 の 考 え や 経 験 を組 み 込 む 教 室 活 動 は 教 案 作 成 の 難 し さが あ る が 、 コ ミ ュニ ケ ー シ ョ ンの 促 進 は 大 い に期 待 で き る 。 活 動 に臨 む 学 習 者 の レ ベ ル は 、 早 稲 田 大 学 日 本 語 教 育 セ ン タ ー 実 施 の プ レ イ ス メ ン ト ・テ ス トの 結 果 に よ る 。 「日 本 語 問 題 集2004一 口 頭 表 現(6)』 指 導 教 授:蒲 谷 宏 先 生
無 理 な い 共 感 や 疑 問 が 個 と個 の 考 え の 往 来 に繋 が る こ と に よ っ て 、 教 室 に参 加 主 体 が 互 い の 関 係 性 を意 識 す る 場 と して の コ ミュ ニ テ ィ ー が 築 か れ る 。 教 室 活 動 で は 学 習 者 が 提 示 さ れ た 学 習 目標 を 自 己 に 引 き付 け 、言 語 体 験 を振 り返 り、 語 り、 対 話 す る 「教 室 」5造 りか ら 意 識 化 過 程 へ の 働 きか け を行 っ た 。授 業 計 画 は 、 〔① 学 習 者 の 既 存 の 個 人 化 さ れ た 体 験 ・知 識 を他 者 に 向 け て 発 信 一 ② 「教 室 」 に お け る 共 有 化 → ③ 共 有 化 した 「情 報 」5へ の 個 人 の 考 え を発 信 → ④r教 室」 にお け るr情 報 」 の検 討 ・判 断 ・合 意 形 成 に よ る 一 般 化 一 ⑤ 一 般 化 した 「情 報 」 の 個 人 化 〕 と い う流 れ を重 視 した。 【図 ②1に 、 そ の 流 れ を 示 す 。
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個 人化1体験 一 般 化 ノ知 識 ・情 報 化 ② 有 共③
Ln(他 者) 表現 個 人 化〆体 験 一 般{ヒ1知 識 ・情 報團
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06TA・:一.③
07B:一.③'グ
ルーブ:ぜ
①TA1か ら の 促 し:具 体 的 な 体 験 談 を求 め る 。 ② メ ン バ ー か ら の ほ ぐ し ③ メ ンバ ー の 共 有 感:理 解 主 体 側 か らの 共 感 (2〉Aが 語 っ た 場 面(05A)の 会 話 を再 現 す る。 "F④ 101TArAさ ん 、新 宿 に買 い物 行 きたか っ た んです よね。一 。 102A:電 話 で?一,⑤1103A1=じ ゃ、 電 話 しま しょう. ⑤104A;もし も し 、 た ま ち ゃ ん?<一qA1板 書 …>今 、 暇 な の?く …TA1板 書 ・一> ④105TA1:たま ち ゃ ん は?ど'9い ま す か 。 106A:相 手 は 今 、 家 に い ま す が 、 何 か 、 用 事 が あ る 、 っ て 、 あ の 、 私 に 聞 き ま し た 。(略 …} 109TA1:分 友 だ ち だ っ た ら 、 ・か 用 畢 、 が あ り ま す か 、 ま で は 昌 わ な い か な 。 ⑦ ⑧ 110AブC:登 一。④TA1の 促 し ⑤Aの 場 面 明 確 化 ⑥Aの 会 話 再 現=生 デ ー タ ⑦TA1の 推 測 提 示:会 話 の 再 現 へ ⑧ 他 メ ン バ ー の 支 援/共 有 化 と個 人 化:メ ン バ ー も 共 に 主 体 的 な 思 考 錯 誤 を 始 め る (1)は 、Aの 個 人 的 体 験 を 「教 室 」 が 共 有 す る場 面 で あ る 。Aの 体 験 を教 室 担 当 者 が 共 感 と共 に受 け 止 め 、 学 習 目標 「誘 い 表 現 」 に 合 わ せ モ デ ル 会 話 作 成 へ と誘 導 す る 。Aの 記 憶 を辿 る 形 を取 り なが ら 、各 学 習 者 はAの 語 る状 況 で ど の よ う に対 応 す るか そ の行 動 展 開 を 主 体 的 に考 察 す る。Aが 提 起 した 過 去 の 体 験 が 教 室 で の 学 習 体 験 と絡 み 合 う形 で 、 意 識 化 過 程 が 始 ま る 。(2)の 一 連 の や り と りで は 、TA1の 問 い か け に 応 え な が らAが 体 験 の 全 貌 を語 る過 程 でB,C,Dの あ い ず ち 、 フ ィ ラ ー 、 表 現 支 援 の 増 加 が 観 察 さ れ た 且o。 3-2接 触 した情 報 の 個 人 化 ■ 〔第7週11月17日 「誘 い の 断 わ り表 現 」 練 習:学 習 者A,C,DI1〕 一 応 用 練 習 「断 わ り」場 面 は 「気 持 ち一 な か み 一 か た ち」の 統 合 の 点 で 難 易 度 の 高 い タス ク で あ る ・ 意 図 的 に 難 題 を設 定 し、特 殊 な 状 況 で の 意 図 の 展 開 の 行 方 を 考 え る タ ス ク か ら、 言 語 行 動 の 一 般 化 情 報 の 確 認 か ら個 人 化 を 進 め る 過 程 が 観 察 さ れ た 例 を示 す 。こ の 活 動 は 、ロ ー ル ・ パ ー トナ ー 二 人 の や り取 りで な く、 グ ル ー プ ・デ ィス カ ッ シ ョ ン を通 し、 互 い の 問 い か け を 個 人 化 し な が ら表 現 を探 す とい う 、 ロ ー ル ・プ レ イの 変 形 タス クで あ る 。 (3)設 定 状 況 の 特 殊 性 に埋 没 させ ず 考 え る必 然 性 を 持 た せ タス ク の 個 人 化 を 図 る。 201TA2:じ ゃ 、Cさ ん 、 読 ん で く だ さ い 。 202C:(カ ー ド を 朗 読 一 要 約:セ ー ル ス レ デ ィ と し て 訪 問 し た 得 意 先 で 、 嫌 い な タ イ プ で 仕 箏 10紙 幅 の 関 係 上 、 デ ー タ部 分 は割 愛 す る。 11学 習 者Bは 欠 席 し た 。 一28一
日本語教育実践研究 第2号 に も繋 が る と は 思 え な い 男 性 に 、他 の 人 の い る 場 で 食 事 に 誘 わ れ た が 、断 わ りた い 。 ど う す る?) 203TA2:じ ゃ 、 み な さ ん だ っ た ら 、 ど う 断 わ り ます か?っ て こ と を 聞 き た い ん で す が 、遡 く前 に 、 こ'い'、 誘 わ れ た に 、 あ の 人 と は 一 緒 に 行 き た く な い な 、 と か 、 あ の 人 は ち ょ っ と ① 嫌 だ な 、 と か い ㌔誘 い 、 誘 わ れ た こ と あ り ま す か?み な さ ん 。 204C=あ りま す 。 ①TA2の 促 し'各 個 人 に 引 き付 け た 振 り返 りを 働 きか け る (4)σ の 体 験 を丁 寧 に引 き 出 し、 こ とば に 乗 せ る 過 程 を語 る よ う に働 き か け る 。 203TA2の 問 い か け に 応 え たCの 体 験 か ら 「教 室 」の 情 報 共 有 化 が 始 る 。Cの 体 験 は 「嫌 い な タ イ プ の 男 性 に カ ラ オ ケ に 誘 わ れ た が 断 わ っ た 」 と言 う もの で あ る 。TA2の 丁 寧 に 重 ね る問 い か け はCの ビ リ ー フ を 明 らか に した 。Cは 、 「断 わ り」 行 動 に つ い て 「好 き じ ゃ な い 相 手 、 した くな い こ と を 断 わ る の は 当 然 」 と 考 え る が 、 「日本 で は 、 直 接 断 わ る の は よ くな い 。 嫌 い な相 手 で も 「ま た今 度 誘 っ て く だ さ い 」 と言 っ た 方 が い い 」 とい う一 般 類 型 知 識 に よ る ス テ レ オ タ イ プ を伴 う言 語 不 安 を持 っ て い る 様 子 が 観 察 され た 。Cは 、 誘 っ た 男 の 人 につ い て 「大 嫌 いjと は っ き りと述 べ る が 、 どの よ う に 断 わ っ た か に つ い て は 、「あ の う、 … う 一 ん」 と言 い 淀 み なが ら、 「ま た 誘 っ て くだ さ い 」 と言 い 添 え た と答 え た 。B (5)「 気 持 ち」 とfな か み 」 が 「か た ち」 に沿 っ て い る か の 振 り返 りを促 す 。 ②229TA2=今度 ま た 誘 っ て く だ さ い 。 嫌 な タ イ プ な の に 、Aま た 、 誘 っ て くだ さ い? 23・D=ん.③ ノ231C=塑 ④ 、 一 ⑤ 、 、 ⑤ ⑥232TA2=○○ 語 で は 、 「だ め.行 き た く な い 。」1233C:ユ ∠必 。!234D:ん 。 ⑦235C=旦杢 一 。 ⑧236D:〃あ あ D ③ ⑤237A:〃塾 」 。1238C=ま ゴΣ. ② 耽2の 突 き上 げ 一 「気 持 ち」と 「か た ち」の 不 整 合 指 摘 ③Dの フ ィ ラ ー:TA2の 問 い か け を 共 有 し個 人 化 へ(疑 義 ・問 題 発 見 〉④Cの ビ リ ー フ の 開 示:表 現 へ の 違 和 感 ⑤Cの 再 表 現 化=「 気 持 ち 」 ⑥C,Dの あ い づ ち、 フ ィ ラ ー:Cの 「気 持 ち 」と 「か た ち」の 乖 離 へ の 共 感 ⑦Cの ビ リ ー フ の 開 示:「 日本 言刮 の 規 範 と 「か た ち」 ⑧D,A,Cの あ い づ ち:規 範 意 識 へ の 共 感 と一 般 化 Cは 「実 は … 、 ∼ 」 と 「か た ち」 と 「気 持 ち 」 の 乖 離 を 示 し(231C)、 実 際 場 面 で 「だ め ・ 行 き た く な い で す 。」 と言 い た い 自分 の 「気 持 ち」 を抑 え た 理 由 を 「日本 で 直 接 断 わ る こ と は ま ず い(235C⑦)」 と述 べ た 。Cに は 「理 解 主 体 」 へ 配 慮 が 見 られ 、rか た ち」 に乗 せ る もの は 「日本 で 」 の 言 語 行 動 と し て一 般 化 され た 「か た ち 」 が 妥 当 で あ る と す る ビ リ ー フ が 読 み 取 れ る 。 し か し、Cは 違 和 感 を抱 い た ま まで あ る 。 表 現 形 式 を 選 び と りな が ら 、 そ れ がCに と っ て 個 人 化 され た 「か た ち 」 で な い た め 、 不 安 を払 拭 す る た め に 、 「日本/ 日本 語jの 特 異 性 と い うス テ レ オ タ イ プ が 働 い て い る 。A,Dも 同様 の 状 況 に あ る と見 ら 12こ の 項 は、 紙 幅 の 都 合 上 デ ー タ を 割 愛 す る 。
れ る 。 そ れ は 、Cの235C⑦ 発 話 に重 ね 、 強 い 調 子 で あ い ず ち を打 つ 行 動 に 現 れ て い る。 こ の 後 、TA2の 働 きか け 、 突 き上 げ が 繰 り返 され る 中 で 、A、Cが 「断 わ る な ら、 直 接 的 に 断 わ っ た ほ うが よ い し、 断 わ られ た 場 合 も相 手 の 正 直 さ を 感 じ る 」 とい う表 現 主 体 と 理 解 主 体 と して の 自分 の 「気 持 ち」 に つ い て 語 っ た 。Dは 、A,Cの 発 言 に し き 頃 こ納 得 、 関 心 ・ 疑 問 と い っ た ニ ュ ァ ンス を伝 え る あ い づ ち を は さ み な が ら 、 注 意 深 く聞 い て い た 。 (6)「 断 わ ら れ る 」 理 解 主 体 側 の 「気 持 ち」 の 動 きの 考 察 を促 す 。 252TA2:も し 、 い じ ゃ な い 人 に 、 育 接 は っ き り'わ り ま し た あ る い は 、 置わ ら れ ま し た 一 ⑨(… 略 …) 255A癒 ぜ か とい う と、 あ の う 、 日本 人 と違 っ て 、 ○ ○ 人 は 、 自 分 の 意 見 と か 、 は っ き り言 う 人 が 多 い で す 。 な の で 、 あ の う、 も し、 わ た しの 友 だ ち も、 行 き た く な い 場 合 は 、 本 当 に 行 き た く な い と・ 私 に 言 っ た ら 、 か え っ て わ た し は 、 こ の 友 達 を 、 本 当 に 私 に 対 して(… 略 … 〉 正 直 な 人 と思 い ます 。1258Dlあ あ 。 … へ え 。1259TA2=一 。 ⑨ ⑩260A=あ 、 もち ろ ん〃 261C:〃 栽 しい 友 だ ち だ か ら。 262A=は い 。 あ ん も し、 あ ん ま り・・し くな い 人 だ っ た ら 、 あ の ぷ、 ん 一 、 話 し、 とか あ ん ま りLも な い と き 、 た だ 、 行 け な い 炉 か な い と 断 わ られ た ら、 も ち ろ ん な 耐 、 もあ り ます 塾.⑩!263皿2=そ れ は 場 合 に よ っ て.⑪1264A:_.⑫
⑨TA2の 問 い か け1理 解 主 体 の 意 識 化 へ の 働 き か け ⑩Aの 主 張 の 見 直 し ⑪TA2の 問 い か け. 多 様 な 場 面 の 想 起 を促 す ⑫Aの 主 張 の 転 換:TA2働 き か け を受 け 入 れ る こ の 場 面 は ・TA2の 丁 寧 な 問 い 返 しが 、Aに 新 た な 視 点 の転 換 を 引 き起 こ し、主張 に 「場 合 に よ っ て 変 わ る」 と い う見 方 を徐 々 に取 り込 む 過 程 で あ る 。 理 解 主 体 の 意 識 化 過 程 が 、 主 張 の 硬 さ に 柔 軟 性 を 取 り込 む 様 子 が 見 ら れ る 。 さ ら に 、TA2は 「先 生 との 場 合j「 少 し 目上 の 人 との 場 合 」 と考 察 を促 した 。 そ の 過 程 で はCが 「ま ず 謝 っ て 、 そ し て 、 は っ き り 理 由 を 説 明 す る 」 こ と は(自 分 の 言 語 も)「 日本 語 」 と同 じだ と発 言 し、 一 同 納 得 す る 場 面 も見 られ た ・意 識 化 過 程 を念 頭 に 置 い たTA2の 丁 寧 な働 きか け が 、接 触 す る様 々 な 情 報 を 再 個 人 化 す る こ と に成 功 して い る 。「個 人 化 」 の 過 程 で は 、教 室 活 動 で の コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン そ の も の が 学 び に繋 が る 学 習 者 主 体 の 「教 室 」 と して 機 能 し て い る 様 子 が 見 ら れ る 。 (7)「 気 持 ち」 と 「な か み ま を統 合 し、 「か た ち 」 に の せ る 表 現 の 個 人 化 を促 す 300TA1:例 え ば 、 こ の セ ー ル ス レ デ ィ ー の 場・合 は 、 難 し さ の 一 つ に は 士`も わ っ て い る し こ っ っ そ り誘 わ れ た ん な ら 、 ご め ん な さ い 、 で い い か も しれ な い 昏 ど 、 也の 人 も て る し。⑬ 301C:は い 。'302TA1:一 。 ⑪1303A:う 一 ん 。 304D:わ た し だ っ た ら 、誘 わ れ た 。 ・・で あ 、 い つ で す か?そ れ か ら、 ス ケ ジ ュ ー ル 表 を ⑭ て'一 ∫ま で い っ ぱ い で す ね え 。,が い い か あ な あ 。(… 略 … 〉 307D:で も・なんか・ なんか・… なんですかね。一 、あなた、童 一 、みたい、一 きた くない、っていうようなことは、一 一30一
日本語教育実践研究 第2号 な い で す ね ・ 全 く、 見 た こ と も な い 人 で す ね?そ れ だ か ら 、 ち ょ っ と 。 そ うす る と思 う ん で す け ⑭ れ ど も ・ い つ も、 昼 ご は ん の 郭 は い っ ぱ い 、約 が あ る 、 み た い な こ と を や る と 思 い ます 。 ⑬TA1の 論 点 の 引 き戻 し:「 タス ク 」 に戻 し、 「タ ス ク 」 で 考 え るべ き 論 点 を明 示 す る 。 ⑭Dの 表 現 の 個 人 化:「 気 持 ち 」 と 「な か み 」 を 「わ た しの こ と ば 」 と して 「か た ち 」 に 乗 せ る Cの 体 験 を軸 に した 「嫌 な誘 い に 断 る」 と い う言 語 行 動 の 考 察 で は 、Dに は主 張 や 意 見 は 見 られ な か っ た が 、積 極 的 に会 話 へ の 参 加 を して い る こ と は情 感 の こ もっ た あ い づ ち に 、 丁 寧 な 聴 く姿 勢 が 観 察 さ れ て い る 。始 め の タ ス ク に 話 が 戻 る と、DはDら し さが 豊 か に 表 現 さ れ た 「こ とば 」 を 見 つ け 発 表 す る(304D,307D)。Dの 意 見 は 、 活 動 で の 論 点 を余 す と こ ろ な く押 さ え(307D)、 活 動 で の 意 識 化 過 程 に お い て 、 こ の 教 室 でDが 接 触 した 情 報 を 総 括 的 に取 り込 み 、個 人 化 を 図 っ た 成 果 が こ の 「表 現 」に 象 徴 され て い る と言 え る だ ろ う。 4.考 察 まず 、 意 識 化 過 程 は 、 学 習 者 が 与 え られ た 学 習 内 容 を 情 報 と して 機 械 的 に 取 り込 む の で は な く、「何 を 学 ぶ の か 」、「どの よ う な 問 題 を解 決 した い の か 」 とい う問 い を 自分 の 問 題 と す る 「学 習 内 容 の 個 人 化 」 か らの 出 発 が必 要 で あ る こ と を 指 摘 す る。 授 業 分 析 か ら意 識 化 過 程 に 伴 う 学 び に は 、 学 習 者 の 体 験 と して 現 実 に 生 起 した 場 面 の 共 有 が 有 効 で あ る こ とが 分 か る 。 そ こ か ら学 習 者 自 身 が 発 見 した 問 題 を巡 り思 考 を 活 性 化 し 、 こ と ば と して や り取 りす る こ と で 、 教 室 は 問 題 解 決 に向 け て現 実 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を展 開 す る 場 と な る 。 本 稿 の デ ー タ は 第6∼7週 目 の授 業 活 動 の ご く一 部 で あ るが 、 こ の 短 い 時 間 に も、 既 存 の 個 人 化 さ れ た 体 験 を 呼 び起 こ し、 語 り・ 対 話 す る と い う 一 連 の 活 動 の 巾 で 、 言 語 活 動 と ビ リー フ の 問 題 ま で を 含 め た 、 総 合 的 な言 語 学 習/教 育 が ダ イ ナ ミ ッ ク に展 開 さ れ た こ と の 意 義 を 主 張 し た い ・ 教 室 担 当 者 が 意 識 化 過 程 の モ デ ル を教 室 設 計 に 意 図 的 に 組 み 込 み 、 活 動 の 目 的 を 明 確 に 意 識 した 働 きか け が ・ 学 習 者 に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン主 体 で あ る こ と の 能 動 的 な 自覚 を促 す 。 「学 習 内 容 の 個 人 化 」 へ の 働 き か け は 教 室 活 動 を有 効 に す る 。 ま た 、 「学 習 者 が 接 触 した情 報 の 個 人 化 」 は 、 意 識 化 過 程 に お け る 最 重 要 事 項 と言 え る だ ろ う。 重 層 的 な活 動 の 仕 組 み と共 に 、 教 室 担 当 者 が コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン 主 体 を認 識 し、 「気 持 ち」 と 「な か み 」 を充 実 させ て い く個 人 化 へ の 働 きか け と、 「か た ち 」 を認 識 し 、接 触 情 報 か ら 、 他 者 か ら の 合 意 を得 る一 般 化 を促 す 働 き か け を行 う。 相 互 行 為 の 過 程 で は 、 共 有 化 した 情 報 を合 意 形 成 か ら の 一 般 化 を 試 み る こ と も重 要 で あ る 。 しか し、 個 人 の 体 験 を素 材 とす る 場 合 、 合 意 形 成 に は特 に 教 室 担 当 者 か ら の 丁 寧 な 問 い 返 し、 つ き戻 しが 必 要 で あ る 。 十 分 な 対 話 を通 さ な い 場 合 、 安 易 な 合 意 は ス テ レ オ タ イ プ形 成 で 留 ま り、 ビ リ ー フ に硬 直 性 を 与 え る 恐 れ が あ る 。 協 働 的 に現 れ た 一 般 化 に は 、 再 度 各 人 の 思 考 を通 す 個 人 化 を働 き か け る 。 こ れ が 「理 解 した 情 報 の 個 人 化 」 の 過 程 で あ る 。 各 学 習 者 が 能 動 的 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン主 体 とな る た め に は 、 既 存 の 知 識 、 経 験 、 ビ リ ー フ な ど に よ っ て 支 え ら れ た 「既 存 の 一 般 類 型 化 」 を批 判 的 に 問 い 直 す 力 が 問 わ れ る こ と を忘 れ て は な ら な い 。
5.お わ り に 実 践 研 究(1)で の 実 習 は 、 常 に コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン とは 何 か と い う 問 い に 向 き合 う実 践 とな っ た 。 筆 者 は一 人 一 人 の心 の 中 に あ る もの を ど の よ う に こ と ば に す る か に 関 心 、 が あ る 。 こ と ば を め ぐる 活 動 と は 、 自 分 の 思 い を ま とめ 、 人 と交 換 し発 展 させ る 、 ま た 自 分 の 中 に 戻 し 発 展 さ せ 人 と交 換 す る とい う プ ロ セ ス で 、 自 己 と他 者 と の 関 係 性 を 築 い て い く も の だ と考 え る か ら だ 。こ の 実 践 を通 して 体 感 した こ と は 、「気 持 ち と な か みが 沿 っ た か た ち は 滑 らか さが あ る」 とい う こ と で あ る 。 そ れ は 、 聞 く側 に働 く 「正 し さ」 の 問 題 で は な く、 発 話 主 体 そ の 人 が 、 コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン に 心 地 よ さ を感 じて い る こ と が 伝 わ っ て くる と き、 そ の 表 現 活 動 は 「気 持 ち」 と 「な か み 」 が 「か た ち」 に 乗 っ て 、 伝 わ る こ と ば と し て 響 い て くる 。「正 し さ」は 誰 が 決 め る もの で は な く、そ の こ と ば を 共 有 す る 者 同 士 の 折 り 合 い で は な い だ ろ う か 。 こ の ク ラ ス の 学 生 が 最 後 の ス ピー チ で 「今 は あ ま りい ろ い ろ な こ と を心 配 しな い で 話 せ る 気 が し ます 」と 語 っ た こ とが 非 常 に心 に残 っ た 。「気 持 ち と な か み と か た ち 」 の 三 つ の統 合 につ い て 、 こ れ か ら もず っ と考 え て い き た い と思 う。 末 筆 と な り恐 縮 で す が 、 貴 重 な 学 び を与 え て くだ さ っ た 「口 頭 表 現6B」 の 皆 様 に心 か ら お 礼 を 中 し上 げ ます 。 参 考 文 献 蒲 谷 宏(1995a〉 「プロ ジェ ク トワー クの 試 み一 「<言 語=行 為 〉観 」 に基 づ く 日本 語教 育 の 実 践 例 と して 」 『講 座 日本語 教 育 』 第30分 冊 早 稲 田大 学 日本 語 研 究 教 育 セ ン タ ー (1995b〉 「「く言 語=行 為>観 」 に基 づ く言 語 教 育 につ い て 」 『早 稲 田 大 学 日本 語 研 究 教 育 セ ン タ ー紀 要 』7早 稲 田大 学 日本 語 研 究 教 育 セ ン タ ー (1997)「 「く 言 語i行 為>観 」 に基 づ く 日本 語 教育 に お け る 「文 型 」 の位 置 づ け」 『講 座 日本 語 教 育 』 第32分 冊 早 稲 田大 学 日本 語 研 究 教 育 セ ン ター (2003)「 「待 遇 コ ミュニ ケ ー シ ョ ン教 育」 の 構 想 」 『講座 日本 語 教 育 』 第39分 冊 早 稲 田 大 学 日本 語 研 究教 育 セ ン ター 蒲 谷 宏 ・川 ロ義 一 ・坂 本 恵(1993)「 依 頼 表 現 方略 の分 析 と 記述 一待 遇 表 現 教 育 へ の 応 用 に向 け て 一」 『早 稲 田大 学 日本 語 研 究 教 育 セ ン ター 紀 要 』5早 稲 田大 学 日本 語 研 究 教育 セ ン ター 蒲 谷 宏 ・川 口 義 一 ・坂 本 恵(1998)『 敬 語表 現 』 大修 館 書 店 川 口 義 一 ・蒲谷 宏 ・坂 本 恵(2002)「 待 遇 表 現 と して の 「誘 い 」」 『早 稲 田 大 学 日本 語 教 育 研 究 』 創 刊 号 早 稲 田 大 学 大学 院 日本 語 教 育研 究 科 細 川 英 雄 著(2002a)『 日本 語教 育 は何 を め ざす か 言 語 文 化 活 動 の 理 論 と実 践 』 明 石 書 店 編(2DO2b)『 こ とば と文 化 を結 ぶ 日本 語 教育1凡 人 社 (ム ラ カ ミ マ サ ミ ・修 士 課 程2年) 一32一