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Chapter 16 Nagauta ni okeru katarimono sei

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第16章 長唄における語り物性

著者

小塩 さとみ

雑誌名

日本の語り物――口頭性・構造・意義

26

ページ

231-247

発行年

2002-10-31

その他のタイトル

Chapter 16 Nagauta ni okeru katarimono sei

URL

http://doi.org/10.15055/00005376

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第16章

長 唄 にお け る語 り物 性

小塩

さ とみ

1は じめ に 2「 語 り物 」 「歌 い物」 とい う二 分法 3語 り物 性 か らみた長 唄 の歴 史 4歌 い物 と して の長唄 5長 唄 にお ける語 り物 性 1は じ め に 日本 の声 楽 ジ ャ ンル を 「語 り物 」 と 厂歌 い物 」1)の2つ の カ テ ゴ リー に大 き く分 類 す る方 法 は 、各 ジ ャ ンル が 有 す る多 様 な 音 楽 様 式 を実 際 に は そ れ ほ ど単 純 に二 分 で き な い、あ るい は、 分 類 の 基 準 が 曖 昧 で あ る、 とい う批 判 や 言 い 訳 を伴 い な が ら も、 数 多 くの声 楽 ジ ャ ンル を整 理 した り、 ジ ャ ン ル 内 の 異 な る音 楽 様 式 を 説 明 す る た め の 便 利 な 方 法 とし て、 現 在 で も用 い られ て い る。 こ の二 分 法 に よれ ば、 長 唄 は 歌 い 物 の ジ ャ ンル に含 まれ る。 叙 情 的 な歌 詞 内 容 と、 よ く響 く声 で 旋 律(節)の 美 し さ を 聞 か せ る唄 い 方 、 定 形 の旋 律 型 に基 づ か な い で 旋 律 を紡 ぎ出 して い く作 曲法 な ど長 唄 の もつ 特 徴 は、 確 か に平 曲 や 義 太 夫 節 等 の語 り物 音 楽 と は 異 な る もの で あ る。 しか し一 方 で 、 長 唄 は 他 の 音 楽 ジ ャ ンル の様 式 を積 極 的 に取 り入 れ る こ とに よ っ て 自 ら の音 楽 様 式 を豊 か に発 展 さ せ て き た音 楽 で も あ る 。 長 唄 が 曲 の 中 に旋 律 を取 り入 れ た り様 式 を模 倣 した ジ ャ ンル と し て は、 地 歌 や 当 時 の はや り歌 等 の 歌 い物 もあ るが 、 一・中節、 河 東 節 、 常 磐 津 節 、 清 元 節 、 竹 本(義 太 夫 節)、 説 経 節 、 大 薩摩 節 な ど数 多 くの 語 り 物 や能 か ら も影 響 を受 け て い る。 この よ うな 長 唄 に お い て 語 り物 性 はい か に現 れ 、 長 唄 曲 の 中 で い か な る役 割 を担 っ て い る の だ ろ う か 。 本 稿 で は長 唄 曲 に お け る語 り物 的 な要 素 を明 ら か に しな が ら、 これ らの 問 い につ い て 考 え て い きた い。

2「

語 り物 」 「

歌 い 物 」 とい う二 分 法

具 体 的 に長 唄 に お け る語 り物 性 の検 討 に入 る前 に、 語 り物 と歌 い物 とい う二 分 法 の有 効 性 に つ い て 考 えて お く必 要 が あ るだ ろ う。 批 判 を伴 い なが ら も、 この 二 分 法 が 広 く使 わ れ て い

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第II部 語 り物の構造 音楽構造を中心に る の は な ぜ な の だ ろ うか 。 平 野 健 次 は語 り物 と歌 い 物 とい う二 分 法 は 最 近 に な って 生 ま れ た も の で あ り、 歌 い物 と は 声 楽 曲 の 中 か ら語 り物 で は な い もの を対 立 的 に扱 うた め に作 られ た概 念 で あ る と指 摘 して い る(平 野1989)2)。 しか も この二 分 法 の特 徴 は音 楽 の 中 に現 れ る複 数 の 要 素 を対 比 的 に と ら え る総 合 的 な概 念 だ とい う点 に あ るだ ろ う。 あ る声 楽 ジ ャ ンル が 物 語 を 口頭 で語 って い く芸 能 で あ るか 否 か 、 とい う点 だ けが 分 類 の基 準 で は な い。 歌 詞 テ ク ス トの 内容 が物 語 的 で あ るか ど うか の 他 に、言 葉 す な わ ち 歌 詞 を い か に旋 律 に の せ て い くか とい う音 楽 様 式 や 楽 曲 の 構 造 、 発 声 法 な ど も語 り物 ・歌 い物 とい う カ テ ゴ リー の性 格 を定 め る重 要 な意 味 を担 っ て い る。 ま た三 味 線 音 楽 の場 合 に は ジ ャ ンル の 系 譜(先 行 ジ ャ ンル が 語 り物 ジ ャ ンル で あ るか)も 分 類 の 重 要 な基 準 で あ る3)。 「語 り」 と 「歌 」 を対 概 念 と して 考 え る よ うに な っ た こ とで 、 声 楽 の 多様 な側 面 を整 理 す る こ とが 可 能 に な った 。 つ ま り声 楽 曲 に つ い て考 え る際 の座 標 軸 とし て語 り物 と歌 い物 とい う二 分 法 が 機 能 す る よ うに な った の で あ る。 あ る音 楽 を語 り物 的 と評 す る時 に、 ジ ャ ンル 全 体 を対 象 に 考 え て い る場 合 もあ れ ば、1曲 の 中 の ご く短 い旋 律 を対 象 に考 えて い る場 合 もあ るだ ろ う。 ま た語 り物 的 な要 素 とし て 、 どの 要 素 に焦 点 を 当 て て い る か も さ ま ざ まな 可 能 性 が 考 え られ る。 同 じ旋 律 を あ る人 は歌 詞 の 内 容 か ら語 り物 的 と考 え、 他 の 人 は旋 律 の 歌 い 方 か ら歌 い物 的 と考 え る こ と も あ り得 よ う。 さ らに 、 判 断 の 基 準 とな る音 楽 的 な知 識(そ の人 が どの音 楽 ジ ャ ンル に精 通 して い る か) に よ っ て 、 何 を語 り物 的 で あ り、 何 を歌 い 物 的 と考 え る か が 違 っ て くる と考 え られ る。 表1 に示 した の は 、長 唄 か ら見 た場 合 の 語 り物 的 要 素 と歌 い物 的 要 素 の例 で あ る(「語 り物 研 究 会 」 で の発 表 や 討 議 、 お よ び参 考 文 献 を も とに筆 者 が 考 え た もの)。 た だ しす べ て の 項 目が 「歌 」 と 「語 り」 と して 対 比 的 に考 え られ て い るわ けで は な い し、1曲 の 中 に表 に示 した す べ て の 要 素 が 現 れ る わ けで は な い 。 語 り物 と歌 い 物 とい う二 分 法 は、 研 究 者 だ けが 用 い て い る分 類 で は な い。 長 唄 の 演 奏 家 達 も 「語 り」 と 「歌 」 とい う 区別 を行 っ て い る 。 吉 住 慈 恭 は 「唄 に は、 う た う もの と、 語 る も ら く のが あ り ま す 。 どち らが 楽 で 、 どち らが むず か し い とい う こ とは あ りませ ん 。 が 、 どち らか とい う と、 語 り もの の ほ うが 人 物 が 出 て く るだ け楽 だ とい え ま す。(中 略)人 物 の 出 て く る曲 は、 そ の感 情 を出 せ ば し めた もの で す が 、 唄 ばか りは 、 そ れ を一 生 懸 命 表 現 し よ う に も、 し よ うが あ り ませ ん。」(吉 住1971:185)と 長 唄 の 中 の語 り と歌 を 登 場 人 物 の 有 無 で 語 り、 「「道 成 寺 」な ど は うた っ て聴 か せ る んで す が 、 「勧 進 帳 」は語 っ て 聴 か せ るん で す。」(吉 住1971: 56)と 実 例 を挙 げ て 区 別 し て い る。 また 実 際 の 稽 古 の場 で は、 師 匠 か ら 「この 部 分 は節 で は な くて語 る よ う に うた い な さ い 」 な ど とい う注 意 を う け る こ とが あ る。 この 場 合 の 「語 る」 と は物 語 の 内 容 や 表 現 に関 す る 注意 で は な く、 発 声 法 や 言 葉 を 明 瞭 に聴 か せ るた め の工 夫 を す る よ う に とい う指 示 で あ る こ とが 多 い。

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第16章 長唄における語 り物性(小塩) 表1:長 唄 にお け る語 り物 的 要素 と歌 い物 的要素 ←歌 ・歌 い物 的な要 素 →語 り ・語 り物 的 な要素 規 則正 しい拍 に支 え られた旋律 ←(a)→ 拍が 伸縮 す る旋 律 、拍 の ない旋律 音 節 を引 き伸 ばす メ リスマ的 な旋律 ←(b)→ シラ ビ ックな旋 律 隣 接音 へ の移動 を基 本 とす る なめ らかな旋律 ←(c)→4度 音程 を中心 に上 下 す る旋 律 音高 が明確 ←(d)→音 高 が不 明瞭 ←(e)→旋 律 型 の使 用:特 に大薩 摩節 の旋 律型 美 しい声 で節 を響 かせ る発 声法 ←(f)→ 力 の入 った言葉 を聞か せ る発 声法 ←(9)→詞 章 で登場 人物 が具 体 的 に描 写 され る ←(h)→登 場人 物 のせ りふ が あ り発話 主体 が特 定 で きる ←(i)→ 曲(詞 章)の 中で事 件 や物語 が展 開す る ←(1)→物 語 の登場 人物 に対 応 させ て唄 の ワケロ(曲 の 中 の独 唱部 分)を 分 担 す る ←(k)→ 詞 章 の 中 に物 語 に対 す るコメ ン トが あ る:例) 「語 る も涙 な りけ らし〈鷺娘 〉」「凄 ま じか りけ る次 第 な りく鞍 馬 山 〉」 「語 る もな どか哀 れ な りく紀 州道 成寺 〉」 ←(D→ 言葉 の明瞭 さを意識 した演奏(演 奏 様 式 として の語 り):例)吉 住慈恭 の唄 い方(常 磐津 節 か ら 大 きな影響 を うける) 表1で は、 長 唄 に お け る語 り物 性 を 、 曲 を構 成 して い る さ ま ざ ま な側 面 か ら示 した が 、 こ れ ら は、 以 下 の3点 に整 理 す る こ とが で き るだ ろ う。 ① 声 の 美 し さ や旋 律 の 美 し さ を絶 対 視 せ ず 、 言 葉 の リズ ム や 明 瞭 さ も大 事 に す る態 度 、 ② 語 り物 の 三 味 線 音 楽 に よ く見 られ る旋 律 型 を利 用 し た音 楽 の 構 成 、③ 楽 曲 内 で ス トー リー を展 開 、 完 結 させ よ う とす る考 え方 。 長 唄 が 他 の ジ ャ ンル か ら影 響 を受 け て次 第 に語 り物 性 を獲 得 して い く過 程 に お い て、これ らの 「語 り物 性 三 要 素 」 が 曲 の 中 に ど の よ うに現 れ て くる の か を以 下 に み て い きた い 。 3語 り 物 性 か ら み た 長 唄 の 歴 史 表2は 植 田1989に 基 づ い て長 唄 の歴 史 に お け る各 時 期 の特 徴 と語 り物 性 の展 開 に つ い て ま とめ た もの で あ る。 長 唄 が 江 戸 に お い て確 立 した と考 え られ て い る享 保 期 以 降 、 他 の ジ ャ ンル の音 楽 様 式 を取 り入 れ なが ら、 長 唄 は次 第 に語 り物 性 を身 に つ け て い く。 以 下 に長 唄 が 語 り物 性 を増 大 させ て い く過 程 を見 て い こ う。

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第II部 語 り物 の構 造 音楽構造 を中心 に 表2:長 唄 の 歴 史 概 観(植 田1989に 基 づ き 、 語 り物 に 関 す る事 項 を 若 干 補 足 した も の) 1.享 保 ∼ 宝 暦(1716-1764):ジ ャ ンル 確 立 期 。 享 保 期 に 江 戸 の 長 唄 が ジ ャ ンル と して 確 立 。 そ の後 、 上 方 の 影 響 で 三 下 り曲 が 流 行 。 「道 成 寺 物 」 「石 橋 物 」 な ど女 形 舞 踊 劇 の た め の 曲 が 作 曲 さ れ る 。 代 表 曲:〈 京 鹿 子 娘 道 成 寺 〉 〈英 執 着 獅 子> 2.宝 暦 末 ∼ 明 和 期(1764-1772)=第 一 次 語 り物 摂 取 期 。 大 薩 摩:節 との 掛 け 合 い 、 唄 浄 瑠 璃 の 流 行 。 一 中 節 の 太 夫 か ら転 向 し た 富 士 田 吉 治 が 語 り物 の 要 素 を長 唄 に持 ち 込 む → 本 調 子 の 曲 、 拍 子 か ら は ず れ た 旋 律 、 旋 律 型 の使 用(ナ ガ シ 、 外 記 ガ カ リ)、 上 調 子 の使 用 。 代 表 曲:〈 鷺 娘 〉 〈吉 原 雀 〉 〈安 宅 の 松> 3.安 永 ∼ 寛 政 期(1772-1801)=長 唄 の 江 戸 化 の 促 進 期 。 代 表 曲:〈 二 人 椀 久 〉 〈蜘 蛛 拍 子 舞> 4.文 化 ・文 政 期(1804-1830)=江 戸 趣 味 的 な長 唄 の 完 成 期 。 第 二 次 語 り物 摂 取 期 。 変 化 物 の 流 行 、 豊 後 節 浄 瑠 璃 との 掛 け合 い流 行 、 鑑 賞 用 長 唄 の 誕 生 、 大 薩 摩 節 の 吸 収 代 表 曲:〈 越 後 獅 子 〉 〈汐 汲 〉 〈老 松 〉 〈吾 妻 八 景 〉 語 り物 性 の 強 い作 品:〈 石 橋 〉 〈賤 機 帯> 5.天 保 期 ∼ 幕 末(1830-1868):長 唄 全 盛 期 。 語 り物 性 拡 大 期 。 鑑 賞 用 長 唄 の 傑 作 誕 生 、 高 尚趣 味 に よ る謡 曲 の 模 倣 代 表 曲:〈 勧 進 帳 〉 〈秋 の 色 種 〉 〈鶴 亀 〉 〈紀 州 道 成 寺 〉 〈竹 生 島 〉 語 り物 性 の 強 い 作 品:〈 紀 州 道 成 寺 〉 〈三 国 妖 狐 物 語 〉 〈十 二 段 〉 〈鞍 馬 山 〉 〈土 蛛> 6.明 治 以 降(1868一):語 り物 性 発 展 期 。 大 薩 摩 節 の 家 元 権 を正 式 に 取 得 、 吾 妻 能 狂 言 、 演 奏 会 で の 長 唄 演 奏 が 広 ま る。 語 り物 性 の 強 い 作 品:〈 綱 館 〉 〈安 達 ヶ原 〉 〈船 弁 慶 〉 〈橋 弁 慶 〉 〈望 月> 3.1初 期 の 長 唄 曲 に 見 る 歌 い 物 的 要 素 歌 舞 伎 舞 踊 の 伴 奏 音 楽 と して 成 立 した 長 唄 は 、 既 に設 定 され た 物 語 の 枠 組 み の 中 で 、 基 本 的 に叙 情 的 な歌 詞 内容 の 歌(短 い歌 曲)を い くつ も連 ね て 、 ひ とつ の 曲 に ま とめ て い く構 成 で 作 曲 され て い る。 例 えば 、 〈京 鹿 子 娘 道 成 寺 〉 は能 の 〈道 成 寺 〉 か ら題 材 を とっ た 曲 だ が 、 曲 の 中 で 道 成 寺 の物 語 が 展 開 す るわ けで は な い 。 歌 詞 の 中 で 道 成 寺 の 物 語 と直 接 関 連 す る部 分 は非 常 に少 な く、 む し ろ道 成 寺 の物 語 か ら連 想 され る 「鐘 」 や 「恋 」 を テ ー マ と した 歌 、 さ らに そ こ に当 時 の は や り歌 を入 れ 込 ん だ構 成 に な っ て い る。 この 曲 が しぼ し ぼ 「劇 的 な 一 貫 性 を 欠 く」(例 え ば浅 川1995:12)と 評 され る の は 、 この よ うな 曲 構 成 に よ る も の で あ ろ う が 、 歌 い 物 と し て の長 唄 に とっ て劇 的 な一 貫 性 は重 要 で は な く、 む し ろ歌 舞 伎 役 者 の踊 りに あ わせ て 、 ひ とつ の作 品 の 中 で多 様 な変 化 を見 せ る こ とが 重 要 で あ った と思 わ れ る。 音 楽 面 で は、 声 を よ く響 か せ る発 声 法 や 、 音 域 を あ ま り変 化 さ せ な い の び や か な旋 律 、 産 み字 を 用 い た メ リス マ 的 な旋 律 な どが 歌 い物 の 特 徴 を示 して い る。 これ を伴 奏 す る三 味 線 の 旋 律 は 、 唄 の旋 律 を支 え る よ う に、 唄 の旋 律 の 中 の重 要 な音 を奏 で て い く。 三 味 線 の旋 律 も 唄 の旋 律 も、規 則 的 な 拍 子 を守 っ て リズ ミカ ル に進 ん で い く。 この よ うな旋 律 の動 き は、 義

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第16章 長唄における語 り物性(小塩) 太 夫 節 の よ うに名 称 の つ い た旋 律 型 に基 づ い て旋 律 を構 成 し て い く語 り物 の楽 曲構 成 とは 異 な る もの で あ る 。 歌 い物 ら しい 旋 律 の動 き を示 す 例 と して 、 〈京 鹿 子 娘 道 成 寺 〉の旋 律 を譜 例 1と 譜 例2に 示 す 。 3.2第 一 次 語 り 物 摂 取 期 長 唄 にお け る語 り物 音 楽 の影 響 は、 長 唄 の歴 史 の 中 で もか な り早 い段 階 か ら現 れ て い る。 宝 暦 末 か ら明 和 期 にか け て活 躍 した 長 唄 の 唄 方 富 士 田吉 治(1714-1771)は 、 も と も と一 中 節 の太 夫 で あ り、 従 来 の 長 唄 に一 中 節 や 豊 後 節 な ど浄 瑠 璃 的 要 素 を取 り入 れ た と言 わ れ て い る。 この 時 期 を長 唄 にお け る第 一 次 語 り物 摂 取 期 と呼 ぶ こ と にす る。 富 士 田 吉 治 の作 曲 した 〈鷺 娘 〉 や 唄 浄 瑠 璃 と呼 ば れ て い る 〈安 宅 の 松 〉 の 中 に は 、 歌 い 物 ら しい の び や か な旋 律 の 他 に、 言 葉 の ア ク セ ン トや リズ ム を活 か した きび き び と した旋 律 が 現 れ て い る。 後 者 は語 り 物 性 を他 の ジ ャ ン ル か ら摂 取 した 結 果 生 まれ た 旋 律 と考 え る こ とが で き る だ ろ う。 譜 例3に 示 し た の は 〈鷺 娘 〉の 後 半 に現 れ る旋 律 で あ る。 唄 の旋 律 は音 程 が 大 き く上 下 し、 言 葉 の途 中 で 音 が 長 く延 ぼ さ れ る こ とが 少 な い。 また 旋 律 の途 中 で 三 味 線 が 「ナ ガ シ」 と呼 ば れ る定 形 の 旋 律 型 を弾 い て い る点 、 そ の 前 後 で 規 則 的 な拍 子 が 崩 れ 、 唄 に あ わ せ て 三 味 線 が テ ン ポ を調 節 す る 点 な ど も語 り物 的 な要 素 の現 れ と見 る こ とが で き る。 さ ら に、 発 声 法 も 通 常 の唄 い 方 とは異 な り、 強 い声 で 唄 う こ とが 要 求 され る。 現 在 市販 され て い る稽 古 本 で は この 部 分 に 「凄 味 ヲ帯 ビテ 強 メ ニ」 とい う 指 示 が 記 入 され て い る(吉 住1990b:13)こ とか ら も、 声 で劇 的 な雰 囲 気 を表 現 す る部 分 で あ る こ とが 見 て とれ る。 第 一 次 語 り物 摂 取 期 の 作 品 に見 られ る語 り物 性 は 、 冒頭 に示 した 語 り物 性 三 要 素 の う ち の ① と② 、 す な わ ち音 楽 的 な側 面 に 限定 さ れ て い る点 が 特 徴 と言 え る。 しか も1曲 の 中 で 語 り 物 的 な旋 律 や 発 声 が 用 い られ る の は ご く一 部 分 で あ る。 ま た、 詞 章 で 物 語 の登 場 人 物 が 具 体 的 に描 写 され た り、 曲 の 中 で 物 語 が進 行 す る こ とは な い 。 3.3第 二 次 語 り 物 摂 取 期 第 一 次 語 り物 摂 取 期 に長 唄 に取 り入 れ られ た 語 り物 性 の2つ の要 素 が さ らに強 調 され 、 そ れ に加 え て③ の 歌 詞 テ クス トに お け る語 り物 性 の 要 素 が 加 わ る まで に は、 し ば ら くの 時 間 が 必 要 で あ っ た 。 文 化 ・文 政 期 の第 二 次 語 り物 摂 取 期 は、 長 唄 に お け る語 り物 性 が 展 開 す る た め の 準 備 期 間 とし て位 置 付 け る こ とが で き る。 この 時期 に長 唄 を と り ま く状 況 が大 き く3つ の 点 で 変 化 した 。 これ らの 変 化 は この 時 期 に生 ま れ た長 唄 曲 だ け で な く、 そ の後 に 作 曲 され る長 唄 作 品 に も大 き な 影 響 を与 え る こ とに な る。 特 に長 唄 曲 に お け る語 り物 性 の 導 入 に関 し

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第II部 語 り物の構造 音楽構造 を中心 に

譜 例1歌 い 物 ら しい 旋 律 の例1(規 則 的 な 拍 子)(〈 京 鹿 子 娘 道 成 寺 〉 三 下 り) A:吉 住1990a:8

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第16章 長唄 にお ける語 り物性(小塩) 譜 例2歌 い 物 ら し い 旋 律 の例2(産 み字 を用 い た 旋 律)(〈 京 鹿 子 娘 道 成 寺 〉 三 下 り)

A:吉 住1990a:12

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第II部 語 り物 の構 造一 音楽構造 を中心に一

譜 例3第 一 次 語 り物 摂 取 期 に 現 れ た 譜 例4大 薩 摩 節 の 旋 律 型 を利 用 した 例 語 り物 性 の 例

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第16章 長唄における語り物性(小塩) て は、 この 時 期 の変 化 が 次 の 時 期 に大 き な 成 果 と して 実 る こ と に な る。 この 時 期 に起 き た第1の 変 化 は 、 歌 舞 伎 舞 踊 の伴 奏 音 楽 と して 長 唄 と常 磐 津 節 や 清 元 節 な ど豊 後 系 浄 瑠 璃 との掛 け合 い 曲が 流 行 し た こ とで あ る。 同 じ舞 台 の 上 で1曲 を交 互 に演 奏 す る掛 け合 い は 、 長 唄 の音 楽 家 に豊 後 系 浄 瑠 璃 の 旋 律 や音 楽 様 式 と間 近 か に接 す る機 会 を与 え た 。 また 掛 け合 い の た め に 作 曲 さ れ た 曲 が 、 後 に な っ て 長 唄 、 あ るい は浄 瑠 璃 の どち らか 一 方 の音 楽 家 だ けで 演 奏 さ れ る こ と もあ り、 長 唄 だ け で演 奏 す る場 合 に は、 本 来 浄 瑠 璃 が 演 奏 す る部 分 もす べ て 長 唄 の音 楽 家 が 演 奏 す る こ とに な る。 結 果 的 に 掛 け合 い 曲 の 流 行 は、 長 唄 の 中 に 多 くの語 り物 的 な旋 律 を流 入 させ る こ とに な っ た と言 え る 。 第2の 変 化 は、 大 薩 摩 節 の 家 元 権 を長 唄 の 音 楽 家 が 手 に入 れ た こ とで あ る。 この こ とに よ り、 大 薩 摩 節 の旋 律 を長 唄 曲 の 中 で 自由 に使 用 で き る よ う に な っ た 。 大 薩 摩 節 と長 唄 とが 掛 け合 い で 演 奏 す る曲 は、 既 に第 一 次 語 り物 摂 取 期 に作 られ て い た が 、 こ の時 に は長 唄 と大 薩 摩 は そ れ ぞれ が独 立 し た音 楽 ジ ャ ン ル で あ っ た 。 しか しそ の 後 大 薩 摩 節 専 門 の音 楽 家 が 少 な くな り、 長 唄 の音 楽 家 が 兼 任 す る よ う に な っ て い き、 文 政9年 に長 唄 三 味 線 方 の 四 世 杵 屋 三 郎 助 が 大 薩 摩 節 の 家 元 権 を預 か る こ と に な る 。 大 薩 摩 節 の吸 収 に よ り、 長 唄 は定 形 の旋 律 型 を組 み 合 わ せ て 曲 を構 成 す る作 曲法 を展 開 す る よ うに な る。 また 唄 の旋 律 に お い て は、 音 程 を あ ま り正 確 に定 め ず に言 葉 の ア ク セ ン トの 高 低 を重 視 す る、 「歌 を歌 う」 とい う よ り は 「言 葉 を 喋 る」の に近 い唄 い 方 が 見 られ る よ う に な る。 この 唄 い 方 に よ り、 詞 章 の 中 に 出 て く る会 話 や 叙 事 的 な 描 写 な ど物 語 に欠 か せ な い 要 素 が 効 率 的 に処 理 で き る よ うに な った 。 大 薩 摩 の 家 元 権 を預 か っ た 四世 杵 屋 三 郎 助(後 の 十 代 目杵 屋 六 左 衛 門)が 作 曲 した 〈石 橋>4)で は、 法 師 と山 人 との 問 答 や 、 法 師 に請 わ れ て 山 人 が 石 橋 の 由 来 を物 語 る部 分 で大 薩 摩 の旋 律 型 が ふ ん だ ん に駆 使 され て い る(譜 例4)。 第3の 変 化 は新 しい 演 奏 の場 の 獲 得 で あ る。 この 時 期 に な る と、 大 名 や旗 本 の 邸 宅 、 あ る い は料 亭 な ど、 劇 場 以 外 の場 で も長 唄 の演 奏 が盛 ん に行 わ れ る よ う に な っ た 。 こ の よ うな 場 で は、 歌 舞伎 舞 踊 の伴 奏 音 楽 と して 作 られ た 長 唄 曲 が 踊 りの入 ら な い素 の 演 奏 とし て行 わ れ る一 方 で 、 舞 踊 と は関 係 の な い鑑賞 用 の新 し い長 唄作 品 いわ ゆ る 「お座 敷 長 唄 」 も作 曲 され た 。 劇 場 か ら離 れ た新 し い演 奏 の場 は、 劇 場 で摂 取 した 語 り物 性 を長 唄 の 作 曲 に取 り入 れ る た め の 「実 験 の場 」 と し て機 能 した と考 え られ る 。 な ぜ な ら、 歌 舞 伎 の場 で 語 り物 音 楽 か ら 影 響 を受 けて も、 歌 舞 伎 の 中 で はそ れ ぞ れ の ジ ャ ンル の 三 味 線 音 楽 が 担 うべ き役 割 が す で に 設 定 され て お り、 舞 踊 の 伴 奏 音 楽 とし て長 唄 が 語 り物 性 を発 展 させ る に は制 限 が あ っ た はず だ か らで あ る。 歌 舞 伎 に お け る様 々 な拘 束 な しに 演奏 が で き る新 し い場 の獲 得 が あ っ た か ら こそ 、 次 の 語 り物 性 拡 大 期 以 降 に 語 り物 性 の強 い作 品 が 次 々 と生 み 出 さ れ て い った の で あ ろ う。 「お座 敷 長 唄 」 の代 表 作 と し て は 、 〈老 松 〉 や 〈吾 妻 八 景 〉、 〈秋 の色 種 〉 な ど登 場 人 物 を 排 した 叙 景 的 な作 品 が 挙 げ られ る こ とが 多 い が 、語 り物 性 の 強 い長 唄 作 品 も また 、「お 座 敷 長 唄 」 の 特 徴 的 な作 品 と して 位 置 づ け られ よ う。

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第II部 語 り物 の構造 音楽構 造 を中心 に一 3.4語 り 物 性 拡 大 期 天 保 期 か ら幕 末 に か け て、 第 二 次 語 り物 摂 取 期 に整 備 され た条 件 を基 に、 長 唄 曲 に お け る 語 り物 性 は拡 大 す る。 この時 期 の 特 徴 は 「語 り物 性 三 要 素 」 の③ の 要 素 で あ る歌 詞 テ ク ス ト に お け る物 語 の一 貫 性 を強 く意 識 し た作 品 が 多 く生 まれ て くる 点 で あ る。 この 時 期 に謡 曲 を 模 倣 した 作 品 が 流 行 した こ と と関 連 し て い る の か も しれ な い が5)、物 語 の 出典 と して 多 く利 用 され て い る の は謡 曲 で あ る。初 期 の長 唄 作 品 に も 〈京 鹿 子 娘 道 成 寺 〉 の よ う に謡 曲 の 物 語 に基 づ い た 作 品 が 見 られ る が 、 初 期 の作 品 で は先 に指 摘 し た通 り、 物 語 は曲 の 枠 組 み を設 定 す る もの で あ っ て 曲 の 中 で は展 開 しな か った 。 しか し語 り物 拡 大 期 の作 品 で は、 物 語 が 長 唄 曲 の 中 で も展 開 す る点 が 大 き く異 な っ て い る。 例 と して 能 の く道 成 寺 〉 の 物 語 に基 づ い た2つ の 長 唄 曲 〈京 鹿 子 娘 道 成 寺 〉 と 〈紀 州 道 成 寺 〉 の構 成 を見 て み よ う(表3)。 〈京 鹿 子 娘 道 成 寺 〉 が 鐘 や恋 をテ ー マ に した 歌 を連 ね て い く構 成 で あ る の に対 し て 、 〈紀 州 道 成 寺 〉 で は まず 冒頭 で 紀 州 道 成 寺 の 由来 を述 べ(①)、 白 拍 子 の登 場(②)、 白拍 子 の舞(③)、 鐘 入 り(④)、 鐘 消 失 の物 語(⑤)、 祈 り(⑥)と 物 語 が 曲 の 中 で 展 開 して い る。 さ ら に この 作 品 の場 合 に は、 曲 の 中 に道 成 寺 の 鐘 が 消 失 した 理 由 を説 明 す る も う一 つ の物 語 が 挿 入 さ れ て い る。この部 分 で は三 味 線 に奥 浄 瑠 璃 の 手 が 使 わ れ 、 別 の次 元 で の物 語 性 が 聴 き手 に伝 わ る よ う工 夫 され て い る(譜 例5)。 また 、 浄 瑠 璃 姫 物 語 に 基 づ い た 〈十 二 段 〉、殺 生 石 伝 説 に基 づ い た 〈三 国 妖 狐 物 語 〉な ど能 以 外 に物 語 の 出 典 を求 め た 作 品 も多 く作 られ て い る。 音 楽 面 で は他 の 浄 瑠 璃 ジ ャ ンル か ら定 形 の旋 律 や 節 を取 り入 れ て い る こ と、 曲全 体 の 中 で 歌 い物 的 な旋 律 が 少 な くな り語 り物 的 な 旋 律 の 占 め る割 合 が 増 えて い る こ とが 特 徴 と言 え る。 3.5語 り 物 性 発 展 期 明 治 に入 って か ら も長 唄 に お け る語 り物 性 発 展 の傾 向 は続 く。 こ の時 期 の 語 り物 性 の 特 色 とそ れ を生 み 出 した 背 景 とし て は、 次 の3点 を指 摘 す る こ とが で き る だ ろ う。 まず 第1に 、 明 治 元 年 に大 薩 摩 節 の家 元 権 が 長 唄 の 三 味 線 方 三 世 杵 屋 勘 五 郎 に正 式 に譲 渡 され た こ とで あ る。 大 薩 摩 絃 太 夫 を名 乗 っ た 勘 五 郎 は、 大 薩 摩 節 の 特 色 を活 か した 〈橋 弁 慶 〉 や 〈綱 館 〉 な どを作 曲 し た。 これ らの 曲 で は、 演 奏 の 際 に物 語 の 登 場 人 物 を どの 唄 い 手 が担 当 す るか を 明 確 に定 め る唄 い 分 け の指 示 が 見 られ る。 この よ う に、 この 時 期 の語 り物 性 の 強 い長 唄 作 品 は演 劇 性 を強 調 す る傾 向 を も っ て い る。 第2に は 、 江 戸 幕 府 の庇 護 を失 っ た能 狂 言 師 らが 興 行 と して 三 味 線 を伴 奏 に能 を上 演 す る 「吾 妻 能 狂 言 」 の た め の作 品 が 長 唄 と して 作 曲 され た こ とで あ る。 〈船 弁 慶 〉 〈安 達 ケ 原 〉 な

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表3:長 唄 曲 〈京 鹿 子 娘 道 成 寺 〉 と 〈紀 州 道 成 寺 〉 の 構 成

(吉住1990aお よび 吉 住1990cに 基 づ き、 浅 川1995と 蒲 生1982を 参 考 に して 作 成 。 膿:iill……ill::1:liiの部 分 は 歌 詞 が 共 通 で あ る こ と を示 す 。) 〈紀 州 道 成 寺 〉 〈京 鹿 子 娘 道 成 寺 〉 曲(物 語)の 構 成 該 当 部 分 の詞 章 曲 の 構 成 詞 章 の 内 容 該 当 部 分 の 詞 章 ① 道 成 寺 の 由来 を述 べ る そ も そ も紀 州 道 成 寺 と 申 す は∼ ② 白拍 子 の 登 場 ・道 行 「合 方 」 知 るべ の 道 は ∼ ③ 白拍 子 の 舞

  覦 一 ∴ 礁 騰 響

あ れ に ま し ます ∼ 物語 の ③ 毬 唄 廓 づ くし 恋 の分 里 、武 士 も道 具 を∼ 枠 組 み ④ 花 笠踊 わ きて節 梅 とさん さ ん桜 は∼ あや め杜若 は∼ ⑤ 合 方 ⑥ ク ドキ 恋 の歌2恋 の手 習 つい見 習 ひて∼ ⑦ 山づ くし 山づ くし 面 白の四季 の眺 め や∼ 鵬 嵩 ④ 鐘 入 り 識 る癰 鞭轟 ・港…i縫i;纏織 ← ⑧ 鐘 入 り 鑽 欝程 に表 る癬 ・…蘰・轄 鶴 ⑤ 鐘 消 失 の物 語 この鐘 につ いて女 禁制 の∼ 蠱 昔 こ の 里 に ま な ご の ∼ 寓 そ の 時 の 執 心 残 っ て ∼q ⑥ 祈 り 水 か えって 日高川 原 の∼ 黥 遷

H)

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第II部 語 り物 の構 造一一一一一音楽構造 を中心 に 譜 例5奥 浄 瑠 璃 の 手(〈 紀 州 道 成 寺 〉 本 調 子)

A:吉 住1990d:8-9

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第16章 長唄における語り物性(小塩) ど能 の 詞 章 を 基 本 に した 長 大 な物 語 曲 が 作 曲 さ れ た 。 吾 妻 能 狂 言 の 試 み は長 くは続 か な か っ た が 、 物 語 の 展 開 を 基 本 に構 成 さ れ た 語 り物 性 の 強 い 作 品 を長 唄 が 生 み 出 す 重 要 な 機 会 と な った 。 第3は 、明 治 後 半 か ら演 奏 会 形 式 で の長 唄 公 演 が 盛 ん に行 わ れ る よ う に な っ た こ とで あ る。 特 に四 世 吉 住 小 三 郎(後 の 慈恭)と 三 世 杵 屋 六 四郎(後 の 二 世 稀 音 家 浄 観)は 、 長 唄 研 精 会 を創 設 し、 歌 舞 伎 の 演 奏 を離 れ て活 発 な 演 奏 会 活 動 を展 開 し た。 多 数 の 聴 衆 を相 手 に音 楽 の 演 奏 だ け を聞 か せ る公 開 の場 が 成 立 した の で あ る。 江戸 時 代 よ り行 わ れ て い た 「お 座 敷 」 で の演 奏 と同 様 に 、 演 奏 会 に お い て も、 古 典 曲 の 演 奏 の 他 に新 し い作 品 の 発 表 が盛 ん に行 わ れ た 。 研 精 会 の長 唄作 品 で も、音 高 を定 め ず に 言 葉 の よ う にセ リフ を語 る手 法 や 、 登 場 人 物 に よ っ て 唄 の ワ ケ ロ を決 め る な ど、 曲 の 中 で 演 劇 的 な効 果 を生 むた め の工 夫 が な され た 曲 が 多 く見 られ る。 ま た そ の 一 方 で 、 唄 い 手 で あ る 四世 小 三 郎 は、 唄 の技 法 と して 、 言葉 が 明 瞭 に 聞 こえ る よ う な発 声 や 口 の使 い 方 を工 夫 し た と言 わ れ て い る。 つ ま り歌 い 物 的 な旋 律 で あ っ て も、 演 奏 方 法 と して 言 葉 の 要 素 を強 調 す る よ う な唄 い 方 を編 み 出 レた の で あ る。 小 三 郎 は この よ うな 「語 り物 的 な唄 い 方 」を常 磐 津 の 演 奏 を参 考 に し て身 につ け た とい う(吉 住1971: 172-173)。 これ も長 唄 が 獲 得 した新 し い 語 り物 性 の1つ と考 え る こ とが で き る だ ろ う。 4歌 い 物 と し て の 長 唄 以 上 の よ う に、 語 り物 の 視 点 か ら長 唄 の 歴 史 をた どっ て み る と、 長 唄 は他 の ジ ャ ンル か ら の 影 響 を取 り入 れ 発 展 させ て、語 り物 性 を 次 第 に増 大 させ て い る こ とが 見 て取 れ る。し か し、 長 唄 は語 り物 ジ ャ ン ル の もつ 語 り物 性 を無 選 択 に 受 け入 れ て い るわ けで は な い 。 以 下 に長 唄 で は行 わ な い 「語 り物 的 」 行 動 に つ い て 考 察 して み よ う。 物 語 を 曲 の 中 で 展 開 させ る、 とい う考 え 方 が 長 唄 作 品 の 中 に見 られ る よ う にな る と、 演 奏 に お い て 劇 的 な効 果 を上 げ る方 法 が さ ま ざ ま に考 え られ る よ うに な る。 登 場 人 物 の 間 の会 話 を 展 開 す る 、各 登 場 人 物 を特 定 の唄 い手 が 分 担 す る、 な どの工 夫 に よ り、 物 語 を よ り生 き生 き と表 現 す る こ とを 目指 す の で あ る 。 し か し、 そ れ に もか か わ らず 、 長 唄 は 唄 い 手 が 登 場 人 物 に な り きっ て 唄 う こ と を嫌 う傾 向 にあ る 。 例 え ぼ 〈土 蛛 〉 で武 者(ワ キ)と 禿(シ テ)が お馬 遊 び を す る場 面 で は、 譜 例6に 示 し た よ うに武 者 と禿 の 間 の会 話 を2人 の 唄 い 手 が 交 互 に 唄 う こ とで表 現 し て い る。 「乗 った か 」 「乗 った ぞ 」 とい う会 話 で は、 唄 い手 は旋 律 の音 高 を正 確 に 出 す必 要 は な く、 言 葉 の ア ク セ ン トの高 低 に従 っ てせ りふ 調 に唄 う こ とが 求 め られ る(譜 例 で歌 詞 の 右 側 に 示 され た 数 字 が 音 の 高 さ を 、 点 線 が そ の音 高 を節 と して 正 確 に 出 す 必 要 が な い こ と を示 して い る)。 しか し、荒 々 しい 男 武 者 の声 、あ るい は小 さ くて 可 愛 い禿 の 声 そ の も の を真 似 し て 出 す こ とは しな い 。 あ くま で も音 の 高 低(男 武 者 は低 め の音 域 で 旋 律 の動 き を大 き く、 禿 は 高 め の 音 域 で 旋 律 の動 き をや や平 ら にす る こ と)や 、 そ の 唄 い 手 の基

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第II部 語 り物の構造 音楽構造を中心に 譜例6〈 土蜘 〉 に現れ る禿(シ テ)と 武者(ワ キ)の 会 話 (〈土蜘 〉本 調子 吉 住1989:15) 本 的 な発 声 法 の 範 囲 の 中 で の微 妙 な 音 色 の差 に よ っ て の み 表 現 す る こ とが 重視 され て い る。 また せ りふ の 言 い方 も、 実 際 の会 話 体 の よ う に言 う こ と は決 して ない 。 音 高 は確 定 さ れ て い な いが 音 の 動 か し方 に は一 定 の 決 ま りが あ り、 旋 律 的 な 様 式 化 され た せ りふ で あ る と言 う こ とが で き る だ ろ う。 また 長 唄 で は身 体 を使 っ た感 情 表 現 を行 う こ とを嫌 う。 登 場 人 物 の気 持 ち に な っ て顔 の 表 情 を作 っ た り、 感 情 の 揺 れ を表 現 す る た め に手 を動 か した り上 体 を動 か す こ とは しな い 。 演 奏 中 に 過 度 に表 情 をつ くっ た り体 を動 か す こ とは、 物 語 の雰 囲 気 を よ り リア ル に観 客 に伝 え

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第16章 長唄における語 り物性(小塩) る手 段 と は認 め られ ず 、 む し ろ 「行 儀 が 悪 い 」避 け る べ き行 動 と考 え られ て い る。 これ ら は歌 い物 と し て の長 唄 が 拒 絶 した もの と位 置 づ け る こ とが で き るだ ろ う。 長 唄 が 長 唄 ら し くあ るた め の 美 的 基 準 と し て、 ど ん な に語 り物 の 要 素 を取 り入 れ た とし て も根 底 に は 「歌 」 の 要 素 が 流 れ て い な け れ ば な らな い 。 そ うで な け れ ば 長 唄 ら し さが 消 え て し ま う の で あ る。 つ ま り写 実 的 な せ りふ や 、 声 色 を 真 似 る発 声 法 、 身 体 に よ る表 現 な ど は、 歌 い物 の 長 唄 とし て は、 取 り入 れ る こ との で き な い 要 素 で あ った と考 え られ る。 曲 の構 成 につ い て も同様 の こ と を指 摘 す る こ とが で き る。語 り物 性 の 強 い作 品 で あ っ て も、 曲 中 に語 り物 と対 比 す る叙 情 的 な い し は叙 景 的 な 「歌 」 の部 分 が 挿 入 さ れ た り、 三 味 線 の み で奏 す る 「合 方 」の部 分 を 曲 の 中 に組 み込 む こ と に よ り、 長 唄 ら し さ を保 っ て い るの で あ る。 また 「ク ドキ 」 の 部 分 を 「歌 」 の聴 か せ ど こ ろ と考 えて い る 点 も重 要 で あ る。 時 田 ア リ ソ ン に よれ ば 、 清 元 節 で は 「ク ドキ 」 の部 分 は、 語 りの 本 質 的 な部 分 で あ る と考 え られ て い る (TOKITA1999:125-126、128)。 これ に対 して 、長 唄 で も同 じ よ う に詞 章 で は恋 す る気 持 ち な どの 感 情 が 表 現 され て い る の に 、 「ク ドキ」 は唄 い手 が 声 の 技 量 を聴 衆 に示 す所 で あ り、 聴 き手 は そ の旋 律 の 美 し さや 声 の美 し さ に 注 目 し て い る。 この よ うな 聴 き手 の 態度 も、 長 唄 の 歌 い物 と して の 在 り方 を示 し て い る と言 え るだ ろ う。 5長 唄 に お け る 語 り 物 性 長 唄 の 歴 史 を よ り広 い 視 点 で 見 る な ら ば、 語 り物 性 を強 め て い く と同 時 に、 歌 い物 性 も強 化 され て い る こ とに 気 が 付 く。 例 え ば、 歌 舞 伎 の場 を離 れ た 「お 座 敷 」 とい う場 で拘 束 の な い 自 由 な 作 品 を作 る こ とが で き る よ うに な る と、 語 り物 性 の 強 い 作 品 が生 まれ る一 方 で 、人 物 の 全 く登 場 し な い 〈吾 妻 八 景 〉や 〈老 松 〉 〈秋 の 色 種 〉 な どの よ う に叙 景 的 な 作 品 も数 多 く 作 られ て い る の で あ る。 長 唄 は語 り物 性 に傾 倒 して い っ て歌 い 物 とし て の性 格 を放 棄 して し まっ た わ けで は な い 。 語 り物 性 を強 め な が ら、 も う一 方 で 、 歌 い 物 の要 素 も十 分 に保 持 し て い るの で あ る。 し か も 「語 り」 と 「歌 」 とい う二 分 法 は長 唄 を構 成 す る さ ま ざ ま な要 素 に関 して 適 用 す る こ とが で き、 ま た適 用 範 囲 も曲 全 体 の こ と もあ れ ば、 短 い旋 律 だ け を対 象 に し て い る場 合 も あ る こ とは 、 す で に 述 べ た 通 りで あ る。 語 り物 と歌 い 物 とい う声 楽 様 式 に 関 す る座 標 軸 を導 入 す る こ と に よ り、 長 唄 は他 の ジ ャ ンル か ら取 り入 れ た 音 楽 様 式 を 自分 な り に 整 理 して 、 それ を活 用 す る こ とが で きた の で あ ろ う。 長 唄 に お け る語 り物 性 は 、 長 唄 を と り ま く他 の 音 楽 ジ ャ ン ル の 関 係 性 と、 長 唄 の もつ 音 楽 様 式 の多 様 性 の 中 で 、 歌 い物 性 とのバ ラ ン ス を と りな が ら存 在 して い る の で あ る。

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第II部 語 り物の構造一 音楽構 造 を中心 に一 〔注 〕 1)「 うた い も の」 「唄 い物 」 「謡 い物 」な ど と書 か れ る こと もあ るが 、本 稿 で は 「歌 い物 」 とい う表 記 で統 一 す る。 2)歌 い物 と語 り物 を対 に して 概 念化 す る よ うに な った の は、大正 末 期 頃 か らで あろ うか 。田辺1925に は 「長 唄 や歌 澤 節 の如 き所謂 『唄 物 』は、 浄 瑠 璃派 の諸 節 の如 き所 謂 『語 り物』 と全 然 そ の性 質 を異 にす る所 で あ る。」 とい う記 述 が 見 られ る(田 辺1925:11)。 3)三 味線 音 楽 に関 して は、浄瑠 璃=語 り物 とい う公 式 を ほ ぼ当 て は め る こ とが で きる で あ ろ う。浄 瑠 璃 の 系 統 の音楽 で あ れ ば語 り物 に 自動 的 に分 類 され る。 同 様 に地 歌(地 唄)の 中 の 「語 り物 」 とい うレパ ー トリー も系 譜 に よる分 類 と考 える こ とが で き る。 藤 田1943で は 「語 り物 」 の中 を更 に 「豊 後 もの 」 「半 太 夫 もの 」 「一 中 もの」 「義 太 夫 もの」 な どに分 類 して い るが(藤 田1943:664)、 この よ う に原 曲 の ジ ャ ンル名 で 整理 をす るの も、三 味 線 音 楽 に お いて 分類 の際 に音 楽 の系 譜 が重 視 され た こ とを示 し て い る。 4)文 政3年 作 曲 と言 わ れ て い るが 、稀 音 家1994に よれ ば文 政13年 と記 され た正 本 が あ り、この 曲 が作 曲 さ れ たの は三郎 助 が家 元 権 を預 か った後 の こ とで は な いか との こ とで あ る。 こ の曲 は外 記 節 の 復 活 を 目的 に 作 曲 され て お り、語 り物 を作 曲す る とい う意識 が長 唄 の 演奏 家 の 中 にあ った こ とが 読 み取 れ る。 5)こ の 時 期 には 高 尚趣 味 の 流行 を反 映 して 「お 座敷 長 唄 」 だ けで な く歌 舞伎 で も 〈勧 進 帳〉 や 〈鞍 馬 山〉な ど、首 尾 一 貫 した ドラマ性 を もった 作 品が 上 演 され て い る。 〔参考 文 献 〕 浅 川 玉兎1995(初 版 は1976)『 長 唄名 曲要 説 』、東 京:日 本音 楽 社. 植 田隆之 助1989「 長 唄 」、 平野 健 次;上 参 郷 祐 康;蒲 生 郷 昭(監 修)『 日本 音 楽 大事 典 』、p.520c-523c. OTSUKA,Haiko1990"σ 彪(chant)et々 磁褊(r6citatif)danslamusiquedes加 鰯sθη",谷 村 晃;馬

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第16章 長唄 における語 り物 性(小塩) 吉 住小 十 郎(編);吉 住 慈恭;稀 音 家 浄 觀(閲)1989『 長 唄 新稽 古 本 第 参拾 五 編 土 蜘 』、 二 四版 、 東京: 邦楽 社. 吉住 小 十 郎(編);吉 住 慈恭;稀 音家 浄 觀(閲)1990a『 長 唄 新 稽 古 本 第 参 拾編 京 鹿 の子 娘 道成 寺 』、 四五 版 、 東京:邦 楽社. 吉住 小 十 郎(編);吉 住 慈恭;稀 音家 浄 觀(閲)1990b『 長 唄 新 稽 古本 第 参 拾 四編 鷺娘 』、 三 九版 、 東 京:邦 楽 社. 吉 住 小 十 郎(編);吉 住 慈恭;稀 音 家浄 觀(閲)1990c『 長 唄 新 稽 古本 第 参拾 九 編 外記 節 石橋 』、 二 四 版 、 東 京:邦 楽 社. 吉 住 小 十 郎(編);吉 住 慈恭;稀 音 家 浄 觀(閲)1990d『 長 唄 新 稽 古本 第 六拾 編 紀 州 道 成寺 』、 廿 五 版 、 東 京:邦 楽 社. 吉 住 慈 恭1971『 芸 の心 』、東 京:毎 日新 聞 社.

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