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seibutsu tayosei mondai kara miru chiteki zaisanho no henkaku : jinken hatten oyobi chiteki zaisan hosei no chowa ni mukete waseda daigaku shinsa gakui ronbun hakushi

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Academic year: 2021

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早稲田大学大学院法学研究科

2013 年2月

博士学位申請論文審査報告書

論文題目 生物多様性問題から見る知的財産法の変革

-人権、発展及び知的財産法制の調和に向けて-

申請者氏名 謝晴川

主査 早稲田大学教授 高林 龍

早稲田大学教授 江泉芳信

立教大学教授 上野達弘

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2 早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程学生謝晴川氏は、早稲田大学学位規則第7条 第1項に基づき、2012 年 10 月 29 日、その論文「生物多様性問題から見る知的財産法の変 革‐人権、発展及び知的財産法制の調和に向けて‐」を早稲田大学大学院法学研究科長に 提出し、博士(法学)(早稲田大学)の学位を申請した。後記の委員は、上記研究科の委嘱 を受け、この論文を審査してきたが、2013 年2月1日、審査を終了したので、ここにその 結果を報告する。 1 本論文の構成と内容 (1) 本論文の目的と構成 本論文は、生物多様性の保全と知的財産制度の対応というテーマを検討することを通し て、新時代のニ―ズに応えうる知的財産法のあるべき姿を描き出すことを試みるものであ り、第 I 章「序論 生物多様性問題の現状と内在する社会問題」、第 II 章「生物多様性保全 に対するインセンティブの創出」、第 III 章「バイオパイラシーと知的財産制度」、第 IV 章「生物遺伝資源出所開示制度と特許法の開示制度」、第 V 章「西洋的知的財産法制度の生 物多様性の保全への限界」、第 VI 章「農作物の多様性の保全と農民の権利の知財化」、第 VII 章「終わりに」からなる (2) 本論文の内容 1) 第 I 章「序論 生物多様性問題の現状と内在する社会問題」では、本論文の導入部 として、生物多様性とはいかなるものか、また生物多様性と知的財産法の関係はどのよう な形になっているか、といった問題の全体像を検討する。 まず第1節では、検討テーマの緊急性を示すために、国際機関や日本の環境省によって 発表された統計データや報告を通して、生物多様性の定義、機能および生物多様性保全の 厳しい現実を明らかにする。そして第2節では、生物多様性保全と知的財産法の関係につ いて説明する。バイオテクノロジー分野は、生命そのものの仕組みを解明しつつあり、ま た巨大な技術革新をももたらす非常に重要な研究活動であるといえる。だが、バイオテク ノロジー研究の基盤である生物遺伝資源の保護は、しばしば軽視されている。研究の素材 がなくなるとバイオテクノロジー研究を展開できないという点に鑑みると、なぜ技術進歩 を目標とする知的財産法は、研究の素材の保護を軽視しているのかという疑問に行き当た る。また、生物多様性の保全や生物遺伝資源の利用においては、古くから自然資源の中で 暮らしてきた原住民等の有する伝統的知識も重要である。しかし、伝統的知識は同じ人間 の知的所産であるものの、現行の知的財産法によってほとんど保護されていないばかりか、 むしろ現行の知的財産法制度によって他者に奪われているということすらできる状況にあ り、なぜ同じ人間の知的活動の所産が、知的財産法の保護を受けられないのかという疑問 も生じていることを指摘する。 第3節では、生物多様性の保全と知的財産法の対応という問題が、人権保護問題および

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3 南北問題にも強く結びついているということを、法的、社会的、経済的側面から分析し、 本論文での検討を進める際に留意すべき点を指摘する。 2)第 II 章 「生物多様性保全に対するインセンティブの創出」では、生物多様性保全 に対するインセンティブの創出について、そして特許制度が介入する理由について検討す る。 まず、国際機関の報告書によると、生物多様性の喪失原因は五種類に分類することがで きるが、基本的には、市場の失敗であるということもできる。生物多様性を保全するため には、多くの資金や精力を注ぎ込む必要がある一方、生物多様性の保全では特許をとるこ とができず、これによってもたらされる経済的利益は少ない。特に、生物多様性の豊かな 国の大多数は途上国であり、そこに住むのは経済・社会発展の遅れた住民である。仮に生 物多様性保全から生ずる利益が、生物多様性の保全主体へ還元されることができるならば、 保全に対するインセンティブが作られることになり、生物多様性の保全も保障されるよう になるだろう。 第2節で述べられるのは、契約によって利益を還元させるという利益返還モデルの持つ 意味と、生物多様性条約の誕生および発展の経緯である。「生物多様性条約」は生物多様性 の喪失に対応するため、各国政府の合意によって 1922 年に成立した。同条約は、生物の多 様性の保全およびその構成要素の持続可能な利用並びに遺伝資源の利用から生じる利益の 公正かつ衡平な配分を目的とする。生物多様性条約は、資源国が自国の生物資源に対して 主権的権利を有することを認めている。同条約によると、資源国の政府が遺伝資源のアク セスに関わる規制措置を定める権限を有し、それにアクセスしようとするものは、資源国 における特定の利害関係者から「事前の情報に基づく同意」を取得しなければならず、ア クセスは利害関係者が定めた「相互に合意する条件」 の下で行われなければならないとさ れている。生物資源の利用者と利害関係者は、アクセスおよび利用の条件並びに利益返還 の形式や金額について自由に交渉することができる。合意が成立すれば、法的な効力を有 する「アクセスおよび利益配分契約」が結ばれることになる。 ただし、一般的に契約は第三者に対する拘束力を有しないため、契約によって行われる 利益返還は容易に回避されうる。なお、生物多様性条約は契約モデルを提唱するものの、 契約の内容に関する規則の創設は各国の立法者に委ねられている。そのため、生物多様性 条約の定めた利益返還モデルは実質的効力を発揮できず、生物多様性は依然として喪失の 方向へ向かい続けている。そのような中、途上国の悲願であったアクセスやその利用から 生じる利益の公正・衡平な配分の規則を確立するための「ボン・ガイドライン」および「名 古屋議定書」が採択された。しかし、「ボン・ガイドライン」は任意的な参考例に過ぎず、 また「名古屋議定書」をめぐっては依然として対立色が濃厚で、契約によって利益返還を 行うというモデルの欠点が解消されたというのは早計である。そしてまた、利益返還の契 約を締結するには、十分な経験また高度の交渉力が必要であるため、利用者側に一方的に

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4 有利に定められた契約の実例も存在する。そして結論として、契約モデルだけではなく他 の利益返還モデルを探査しなければならないと結論付けている。 第3節では、国連食糧農業機関が農作物の遺伝資源の利用や利益配分を規制するために 採択した集中管理モデルについて検討する。農作物の遺伝資源の利用や利益配分は、主に 国連食糧農業機関において行われる。2001 年に国連食糧農業機関が採択した「食糧農業植 物遺伝資源国際条約」は、各国が農作物の遺伝資源に対する主権的権利を有することを確 認し、その主権的権利を行使するための効率的、効果的かつ透明な機制(いわゆる「アク セスおよび利用に関する多辺システム」)を創り出した。この多辺システムにより、他の加 盟国が作物の遺伝資源へアクセスしようとする場合、請求を受けた加盟国は迅速かつ最小 コストのアクセス条件を提供しなければならない。また、関連する非機密情報を農作物の 遺伝資源とともに提供する義務、遺伝資源の容易なアクセスを制限する知的財産権また他 の権利の要求の禁止、知的財産権や他の財産権利によって保護されている作物の遺伝資源 にアクセスする際の関連国の法律や国際協定に合致義務、取得された遺伝資源も他の利用 者が多辺システムで利用可能とする等の条件がある。この条件下で行われるアクセスは、 すべて多辺システムを通して、理事会で採択された「標準材料移転契約」という画一的な 契約を遵守して実行される。また、緊急災害が発生する場合、締約国は多辺システムを通 して協力することができる。なお、多国間システムにおいては企業の関与が強調され、拠 出された資金を管理するために「グローバル作物多様性トラスト」も設立された。 国連食糧農業機関の多国間システムは、農作物遺伝資源のアクセスおよび利用を集中的 に管理し、農作物遺伝資源の保全と利用のバランスを取ることに成功した。ここには著作 権法における著作権の集中管理制度の影響を受けた痕跡も見られる。国連食糧農業機関の 集中管理モデルでは、農作物多様性の保全と利用の両立が図られ、科学研究の自由や農民 の権利が確認され、企業の寄与や国際間の調和も強調されている。以上のことから読み取 れる理念は、本論文の基本的な精神にもつながっている。だが、集中管理モデルは農作物 の遺伝資源という狭い分野にだけ対応しているものといえ、すべての生物遺伝資源のアク セスおよび利用にも適用されうるかという懸念が依然として存在していることを指摘して いる。 第4節では、以上の3つの節で行われた検討に基づいて、生物多様性保全のインセンテ ィブを創出するには、特許制度が介在する必要があるという結論を導いている。生物多様 性条約が推奨する契約モデルは便利かつ柔軟な面を持つものの、国際的な協調、協力が強 く要求されているため、生物多様性条約が調印された後でも、生物多様性は依然として喪 失されたままである。生物多様性保全の利益返還を、契約当事者に委ねるのみでは不十分 であることが明白である。また、集中管理モデルも、幅広い分野におけるすべての生物遺 伝資源のアクセスおよび利用に適用され得ない恐れがある。一方、生物資源を利用して新 しい製品や技術の開発に成功したならば、一般的には、特許として登録が行われ、独占的 な権利を得ることで莫大な利益を取得できる。したがって、このような既存の特許制度を

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5 活用することによって、生物資源の利用から生じる利益返還が確保し、結果として生物多 様性の保全と協調することができるとの選択肢を提示する。 3) 第 III 章「 バイオパイラシーと知的財産制度」では、まず第1節で、多くのバイ オパイラシーに関する事件からブラジルに関連する代表的な事例を抽出し、歴史的視点か ら、知的財産制度の悪用によってなされるバイオパイラシー行為の本質を捉える。バイオ パイラシー(Biopiracy)という言葉は、生物を表す接頭語「Bio-」と海賊を意味する単語 「piracy」を合わせて作られた造語である。地元の住民からの許可を得ないまま、当地の 生物資源および生物資源の利用に関わる伝統的知識を盗み、地元の住民へ十分なあるいは 一切の補償なしに特許等の取得によって利用権を独占する行為である。ブラジルは最も豊 かな生物多様性を有する国のひとつであり、ポルトガル人に「発見」されるやいなやバイ オパイラシーの被害者となった。具体的には、ポルトガルによる過度な伐採により、国名 の由来であった 「ブラジルボク」の絶滅(赤い木事件)、イギリス人の行った種子密輸や 技術の盗み出しがもたらした経済破綻(天然ゴム事件)、フランスの企業によって行われた 木の種の利用方法の盗み出しおよび特許化(アンジローバ木事件)、木の種の利用する方法 の無断特許化また商標化(Cupuacu 木事件)などが挙げられる。表面的に見れば、現代の バイオパイラシーの特徴は知的財産制度の悪用であり、過去のブラジルボクの伐採や種子 の密輸とは違う形で行われているが、実際には、かつての武力を通して行われた略奪が変 容し、武力行使ではなく知的財産制度を利用する形になっているといえる。残念ながら、 知的財産制度はそのような略奪を正当化するために作用しているとの側面をも否定できな い。以下の節では、この点と知的財産制度本来の役割との乖離について指摘し、知的財産 制度をバイオパイラシーに対抗できる武器へといかに転換させるかということを検討する。 第2節では、生物資源および伝統的知識をめぐる権利論について検討する。ここでは、 生物資源および伝統的知識を対象として、排他的な財産権利を創出するという防御方法の 可能性を論じる。もともと、生物資源は「万人共有の遺産」として認識されていた。生物 の品種や遺伝子などは有体物とは違い、無体情報であり、個人が所有又は独占することは 難しく、かつては「万人共有の遺産」として認識されていた。しかし、現代社会では資金 と技術のある有力企業だけが旧来の「万人共有の遺産」を利用するチャンスを得ることに なった。しかし、そこでは保全の寄与者は何ら利益の配分を受けることがなく、極めて不 公平であることから、保全に対するするインセンティブが喪失していったことは疑いがな い。そこで途上国は「万人共有の遺産」という見方を否定し、生物資源に対する権利を主 張するようになった。「生物多様性条約」は、資源国が自国に存在する生物資源に対する主 権的権利の所有を認めた。同条約によると、資源国の政府は、遺伝資源のアクセスに関わ る規制措置を定める権限を有する。だが以上の定めは、あくまで加盟国に生物資源の利用 に対する管理規制行為に正当性を与えるものであり、知的財産法上の権利を付与したもの ではないことが明白である。したがって、生物の品種やそこに含まれる遺伝子は無体情報

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6 に当たるとはいえ、生物多様性条約によって知的財産的な権利と認められたわけではない と結論付けている。 次に、学説の分析を通して、生物資源はある種の知的財産権として認められるかどうか という問題を検討する。財産的権利は、有体物を対象とする有体財産権、そして無体物を 対象とする無体財産権つまり知的財産権という二種類ある。生物資源を財産的権利の対象 とするならば、その自然的属性から見て知的財産権の方が相応しい。もともと、世の中に 存在する情報は有用情報と無用情報に分けられる。そして有用情報は、ある特定の者に独 占させてもよい有用情報と、万人のものとして開放する方がよい有用情報に分けることが でき、政策的判断から特定の者に独占させてもよいとされる有用情報は、知的財産法によ る保護が与えられている。しかし、生物資源を知的財産とする際には、以下の点を考慮す る必要が生じる。まず、生物資源という情報は人間の頭脳によって創作された情報ではな いという点、権利の主体は個人ではなく住民の地域社会共同体というコミュニティーであ るという点、そして世界各地へ移植の進んだ生物資源は、今や決して原産地固有のもので はないという点である。 また、伝統的知識は人間の精神的な産物にあたるものの、知的財産法を通して伝統的知 識を保護するには、現存する法制度の枠には入りきらない。以下のような問題にも直面し なければならない。すなわち、伝統的知識を有する主体は個人ではなくコミュニティーで あるということ、伝統的知識は固定されていない場合が多いということ、伝統的知識の創 作時点は不可知であって、保護期間については「永遠」と要求される場合が多いというこ と、そして伝統的知識は「西洋的な」近代科学とは完全に異なる知識体系に属していると いうことである。 第3節では、公序良俗違反を運用し、バイオパイラシーから生じる発明の特許としての 効力を否定するという防御方法の可能性を検討する。多くの国の特許法においては、公序 良俗に反する発明に特許を付与してはいけないという規則が取り入れられている。バイオ パイラシーはすでに国際条約で禁止されているので、公序良俗違反を運用して発明の特許 効力を否定すればよいのではないかとの考えもあり得る。しかし、特許法における公序良 俗違反とはいかなるものか、あるいは公序良俗違反を特許法の考慮対象にすべきか等の点 は未だ不分明である。公序良俗によって生物多様性や伝統的知識の保護を図ると、特許法 に混乱をもたらすおそれがあることもまた事実である。なぜならばバイオパイラシーを通 して完成された発明そのものは、その技術が必ずしも公序良俗違反に該当するとは限らな いからである。特許法の分野では、公序良俗は発明の実施段階で規制すればいいという見 解が有力である。また、EU の「バイオ指令」 第6条 のように、公序良俗違反の判断は発 明の実施についてのみと限定された立法例もある。本節では、日本の著名な判例を検討す ることを通して、公序良俗違反の判断は発明の実施に限定される方が特許の実務に合致す るという結論に至った。したがって、特許法において公序良俗違反を運用してバイオパイ ラシーから防御する途も閉ざされることになり、問題は依然として残っていることを指摘

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7 している。 4) 第 IV 章「生物遺伝資源出所開示制度と特許法の開示制度」では、まず第1節で生 物多様性条約体系には生物遺伝資源出所開示制度の立法理由がすでに含まれていることを 指摘し、一部の途上国で展開されている立法の動きを紹介する中で、その立法目的は生物 資源の利用から生ずる利益返還の確保であることを述べる。一方で、遺伝資源出所開示制 度は特許制度とは異質なものであって、既存の特許制度に持ち込まれるべきものではない という先進国の懸念を紹介している。 第2節では、まず歴史の観点から特許法における開示制度の由来を説明する。「パテント」 という用語の語源は、「letters patent」、いわゆる国王の公開書簡である。特許制度創設 直前の英国は、ヨーロッパ大陸と比べて技術格差も圧倒的に大きく、それらの技術にキャ ッチ・アップするには、海外から有能な技術者や職人を集めなければならないようになっ ていた。しかし、当時の英国では、ほとんどの手工業は中世からのギルドによって独占的 に管理されていた。したがって、国王は特別措置として、ギルドの枠組みから外れた海外 からの技術者や職人に対して、自由に技術を実施するまたは独占する特権を授与した。そ の特権の授与の告知は、国王からの公開書によって行われるようになっていた。ゆえに、 特許制度は最初から「開示」という理念に深く関連していることは明白になる。 ところが、「letters patent」は技術の実施特権の授与にのみ用いられたものではない。 イギリスも日本も最初の特許法は「公開」を採用せず、「専売条例」(Statute of Monopolies) あるいは「専売略規則」を法の名称とした。しかし、特許とは、「特別に許された独占的な 権利」と解釈することができる。なぜ国家が自由市場という原則に反し、独占的な権利を 付与するかというと、国家と発明者の間に「契約」、ここでいう「パテント・バーゲニング」 が存在するからである。その契約内容は、発明者が社会に新しい技術を公開し、報酬とし て国家はそれらに対し、ある期間その技術を独占する権利を授与するということである。 そもそも発明の利益を得て、技術を保守することが発明者自身の役目であるが、自力で発 明を秘密として守ってゆくのは実際には難しい。また、技術の唯一の持ち主が死亡すると、 その技術も永遠に失われてしまう。したがって、発明の利益は、発明者個人の力に代わっ て、公の力で保護されることになる。発明者はその見返りとして、発明の秘密を社会に完 全に公開する。公開しなければならない理由は、特許権の内容を確認するなど特許実務上 の便宜への考慮だけではなく、発明者と社会の間の権利義務のバランスおよび特許法の社 会的な役割というより深いところにあるのであって、ここから特許制度はむしろ開示制度 に基づいて作り上げられたものであると結論付けることができる。 さらに、letters patent の時代から所謂パテントの時代に入ると、「パテント・バーゲ ニング」契約において変化したのは対価の内容である。独占の権利を得るために発明者が 支払う対価は、国王にとって利益となるものから、社会にとって利益となるものに変化し た。そして、社会にとっての価値を決するのは議会制民主主義に支えられた立法者である。

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8 つまり、議会制民主主義の時代に確立された特許法の開示制度に求められるものは、議会 制民主主義の求める価値に強く結びついているという仮説を提示することができる。 第3節では、開示制度の法哲学的根拠について考察する。特許法などの知的財産法は独 自の分野で具体的な役割を実現している一方、法の精神として内在的な価値を追求してい る。本節では、知的財産法と人権保護の関係という問題の全体像を検討した上で、近代社 会における特許の開示制度の原点は人権の保障であって、発明公開の目的が技術の進展や 社会の進歩にあることから、開示制度の修正も人権保護に沿って進められるべきという結 論を導き出す。ここで、開示制度の原点として保護されている人権の内容は、積極的自由 としての表現の自由および情報へのアクセス権(「情報を受ける自由」「科学研究の自由」 など)である。そして、アイザイア・バーリンの「消極的自由と積極的自由」理論に基づ いて、知的財産法の保護する自由の実態を分析し、開示制度の保護対象である積極的自由 としての表現の自由および情報へのアクセス権の内容を説明する。最終的に、日本特許法 における開示制度を例として、開示内容を A.純粋な形式的要件の開示、B.純粋な技術的 要件の開示、そして C.技術的要件に関連する形式的要件の開示という三点に類別し、そ れぞれの真意および役割を明確化する。そして、C.に属する発明の詳細な説明や図面など こそが開示されるべき「母体」であって、B.に属する特許請求の範囲(クレーム)は社会 の進歩に資する技術として独占権を与える範囲を明確に示すといった専門性に合致させる ための技術的な手法を運用して「母体」から作り出されたものであることを指摘し、以上 のような本来の従属関係が歪められ、知的財産の権利化および保護範囲の確定、効力の強 化といった側面が強調され、発明開示制度が有する他人の情報を受ける権利などと言った 人権保障の側面が薄れてしまっている要因として、権利者側のロビーイングなどによる強 い影響力を挙げている。 第4節では、以上の検討から得られた理論を用いて、生物遺伝資源出所開示制度の導入 の正当性およびあるべき姿を論じている。つまり、生物資源出所開示制度は特許制度にと って「異質」なものに見えるが、同制度が追求する価値は、実は伝統的な特許法における 開示制度に合致しているとする。そして、生物資源出所開示制度を導入すれば、発明を利 用した生物資源および関連する伝統的知識が明らかになり、第三者が積極的に関連分野の 研究を進めたり、同じ生物資源の性質や使い方を解明、開発することに役立つことになる。 その結果、他者の情報を受ける自由、科学研究の自由また教育を受ける自由などの積極的 自由の範囲が広がることになる。また、生物資源出所開示制度を導入することで、関連す る教育、研究また情報の交換も一層自由に行われるようになる。 そして最後に、前節でまとめた理論を通して、生物資源出所開示制度の強制性および開 示の範囲を検討する。生物資源出所情報は特許の場合の C.に属する発明の詳細な説明や図 面と同種のものと理解されることから、その開示の強制性やその範囲については原則的に 各国の立法者の判断に委ねることが現時点では最も現実的であることを指摘している。

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9 5)第 V 章「西洋的知的財産法制度の生物多様性の保全への限界」の第1節では、まず 19 世紀および現代の知的財産法の正当性の根拠となる理論を紹介しつつ、社会設計論と生 物多様性保全の関係を検討する。そして、知的財産法をめぐる国と国、人と人との間の利 益対立関係を分析し、生物多様性の知的財産法保護は、以上の利益対立に影響されている ことを指摘して、知的財産法の全般的な改革の必要性を説いている。 第2節では、国際知的財産制度の変革と生物多様性の保全を検討する。歴史的検討によ るならば、現在の先進国の経済や社会の発展は、かつてはまだ低いレベルにあった国際知 的財産保護や情報の自由流通を利用して果たされたが、現在の発展途上国からはそれらの 手段が剥奪されており、むしろ諸外国から高いレベルの国際知的財産保護要請に直面して いる。さらに、バイオパイラシーのように、知的財産法が逆に略奪の道具に使われる場合 も少なくない。知的財産法の正当化に関する理論は多く存在するが、こういった問題に対 峙することなく、また途上国の人々の権利や状況を尊重することなしに、途上国において 知的財産法が支持を得るのは難しいと思われる。 第3節では、次章の前提として、生物多様性の保護と第三世代の人権の関係について簡 単に指摘している。 6)第 VI 章「農作物の多様性の保全と農民の権利の知財化」では、インドの現実および 立法例を示し、農作物の多様性保全や「農民の権利」の知的財産化運動から得られた知的 財産法制度に対する示唆について述べる。 第1節では、「農民の権利」の由来および趣旨を説明する。「農民の権利」という理念が 生まれたきっかけは、育種者権という権利の定着である。育種者権は比較的新しい法制度 であるが、欧州諸国の育種家の提唱によって創設され、「植物の新品種の保護に関する国際 条約」や TRIPs 協定によって確立されたものである。育種者権の立法化は、植物新品種の 育成の促進に寄与した一方で、これによって農民の利益が制限されるようになったことも 明らかである。しかし、育種者権を一方的に強化するアプローチでは、農業の発展に寄与 できないことはすでにインドの「パンジャーブの悲劇」によって証明されたといえる。単 一の品種、化学肥料及び農薬の大量使用を特徴とする農業モデルから脱却し、このような 惨事を回避するためには、農業モデルを支持するために創られた法律も改革しなければな らないとされている。改革の一環として「農民の権利」の確立がある。「農民の権利」を確 立する目的は、昔から行われてきた育種活動を続けさせ、生息域内の作物多様性の保全を 促進し、また作物遺伝子資源プールの作成に対する彼らの貢献を奨励することにある。 第2節では、「農民の権利」をめぐる幾つかの検討課題ついて検討を加える。「農民の権 利」は私権に当たるか、農民の権利は知的財産権になりうるか、「農民の権利」の主体、「農 民の権利」の知的財産化がアンチコモンズの悲劇をもたらす可能性はないのか、といった 課題である。 第3節では、世界初の「農民の権利」に関する法律といわれるインドの「作物の品種及

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10 び農民の権利の保護に関する法律」を分析する。インドでは農作物の種苗が「共有の遺産」 とみなされてきた歴史があり、本来、育種者は独占的な権利を主張することができなかっ た。だが、1994 年、インドは TRIPs 協定に調印した。同条約は植物の品種に対して「特許 または特別の制度の保護」を要求しているため、インドも種苗法の立法に着手しなければ ならなくなった。ところが、TRIPs 協定は一方的に育種者権の保護を求めていることから、 これによって農民の自然的な権利が侵害される場合が生じ得る。そのため、NGO や農民(農 場主)団体は最初から種苗法の立法に反対の立場をとり、1994 年から 2001 年まで、種苗 法の草案は3回も却下された。その後、「農民の権利」の保護に関する条文が入り込まれる ことになり、ようやく「作物の品種及び農民の権利の保護に関する法律」といった名称を 有する法律が発効するようになった。 「作物の品種及び農民の権利の保護に関する法律」には、種苗の育成に関わる育種者の 権利が確認されたことに加え、「農民の権利」が盛り込まれている。同法の定める農民の権 利の範囲について、インドの学者の論説の主流は9権利説(これを9種の権利に分類する もの)である。だが、権利の実態をつぶさに分析するならば、実際に農民の知的活動つま り農民の育種行為を直接保護するのは作物の品種を登録する権利のみである。他の「農民 の権利」の実質は、育種者に対する権利制限、知的活動の前提への保護また発展の権利に 過ぎないことがわかる。 第4節では、インド立法が示唆するものおよび残された問題点を検討する。インドの「作 物の品種及び農民の権利の保護に関する法律」は、世界初の「農民の権利」を定める法律 であって、農民の権利の知的財産化における画期的な出来事と評価されている。インド法 は育種者だけを保護するいわゆる UPOV 式の立法アプローチを廃棄し、農民と(商業的な) 育種者、農民の品種と商業的な新品種をそれぞれ両立させ、一つの法律によって平等に保 護を与えるものである。この法は、種苗を、知的活動の成果でありながらも新たな創作の 素材とみなし、農作物の多様性保全にも保護を与えている。そして、保護の方式は私権化、 つまり農作物の多様性保全の成果を私権の対象と認め、多様性保全の成果から生じる知的 産物である種苗とともに同じ法律で保護し、すなわち育種者権と農民の権利の双方に平等 な保護を与えるものである。種苗の使用者である農民の「ユーザーの権利」を保護して、 知的財産権の育種者権に制限を設定する一方、種苗は知的活動の成果であるとともに、将 来の知的活動(農民による育種)の素材でもある点に鑑み、範囲の狭い知的創作者(商業 的育種者)の知的成果に対する保護に止まらず、より範囲の広い知的創作者(農民)の知 的活動の前提をも保障し、育種及び農業の発展を支えようとするものである。また、同法 から得られるもう一つの示唆は、知的財産権と第三代人権である「発展の権利」の融合で ある。同法に「農民の発展」という表現は見られないが、農民の経済的、社会的な発展を 促進するための条文は多く盛り込まれている。つまり、同法においては知的財産法の性質 を持つ種苗法が変容を遂げているということができる。 ところが、インドの立法においても幾つかの問題が残されている。まず、インド法にお

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11 ける農民の権利は伝統的な意味の、あるいは TRIPs 協定が認める「知的財産権」といえる のかといった疑問である。そして、同法は UPOV 式の種苗法に「農民の権利」の章を加える という形をとった結果、一つの権利(多様性保全の対価を求める権利)を「農民の権利」 という章で確認した上で、登録という手続きに関する章節においても再び規定しなければ ならないことになった。このことは、実務の面で混乱を招くおそれもある。さらに、農民 という定義自体も未だ明確化されているとはいえない。 第5節では、農民の権利の知的財産化と新時代の「ルサンチマン」の表れについて論ず る。ルサンチマンとは、強者に対して弱者の中に自然に生まれた恨みや非難の感情、さら にはそういったマイナスの感情を通じて行われた自己欺瞞である。TRIPs 協定をはじめと する現代の知的財産法は欧米の先進国の強力な後押しで作られたものである。そして、現 代の知的財産法体系においては、農民やインドのような発展途上国の人々は保護から外れ る弱い立場に置かれている。農民あるいは発展途上国の人々は知的成果を利用する際、ま た知的活動に従事しようとする際、往々にして先進国の知的財産権者の権利と衝突する結 果、活動を抑制される。TRIPs 協定による義務を守らなくてはならない以上、たとえ何千 何万もの人々が死んでいくとしても(医薬品特許の場合)、知的財産権者の要求に従わなけ ればならない。そういったことによりこれらの人々の間では、知的財産権への反逆や恨み、 つまりルサンチマンが生まれていくことになる。そういったルサンチマンが存在する以上、 これらの人々は強者である知的財産権者に対するために、もう一つの神、つまり絶対的な 価値を探す必要があった。そして、それもまた知的財産権であったと表現することができ よう。農民の利益を代表する NGO や発展途上国の政府や学者達は、農民の権利の知的財産 権化を求めていく。現代の知的財産法の効力が拡大し、それを受け入れざるを得ない状況 に陥っていることから、ある意味では知的財産権はそれらの者達にとっても絶対的な価値 を有するものに近づいているといえるかもしれない。しかし、前節で分析したように、農 民の権利の知的財産権化はこれまでの知的財産権理念に適応しえない部分も多くあるし、 また、インドの学者の調査によるならば、農民の権利の知的財産権化は経済上の意義より むしろ政治上の意義のほうが大きいといわれている。実際に農民にとって、権利を独占的 な私権とする「所有者」アプローチより、「管理人」アプローチのもたらす経済的利益は遥 かに高いのであって、農民の権利を知的財産権化することに真の実効性があるのか否かは いまだ明白にされていない。 7)最終章では、論文全体の主旨をまとめ、生物多様性の知的財産法による保全を阻害 している二つの壁、すなわち伝統的な知的財産法の一部のルールを超えてはならないとす る壁と、これまでの当然だと思われている国際的な知的財産法制の壁を指摘し、発明を生 む畑(素材)というべき生物多様性をも取り込んだ知的財産法の変革の未来像への展望を 述べて、本論文を結んでいる。

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12 2 本論文の評価 生物多様性という言葉に代表される生物遺伝資源の保護こそが技術進歩の根源に置かれ るべき問題と考える筆者は、第 I 章において、自然資源を利用するにあたり原住民が活用 してきた伝統的知識の保護を図るべきことの論証から議論を展開する。筆者によれば、バ イオテクノジーが対象とする生命の仕組みの解明には、豊かな生物遺伝資源を利用するに あたり古くから受け継がれてきた知識体系としての民族的伝統が欠かせないのであり、こ れこそが多くの問題を解決する基礎を構成するとしている。筆者は、先進国の利益を守る 形で機能してきている知的財産法への新しい視野を提供する根拠として、生物多様性の維 持という概念を持ちだしてきたことが極めて独創的である。 第 I 章をうけて第 II 章では、生物の多様性を確保するには、開発が進んでいないために 自然が喪失されないままにある途上国の住民に資源利用の利益を還元させる仕組みを構築 しなければならないとし、筆者は、国連「生物多様性条約」、「食糧農業植物遺伝資源国際 条約」等を検討の素材にする。しかし、これらの条約では生物多様性を十分に担保する力 をもたないと結論づける。筆者は、特許制度こそがこの目的の推進に恰好の道具となると いうのである。 第 III 章は、第 II 章までで検討してきた、途上国の住民が維持してきた伝統的知識を利 用して生物の多様性をいかに確保すべきかという観点から、ブラジルの事例を紹介する。 生物資源に対しても排他的な権利を独占させる、すなわちバイオパイラシーを認めること が西洋的な視座からは肯定されるとしても、生物資源国の立場からは問題を生じさせるの であり、生物多様性の喪失、原住民の利益の剥奪とも捉えられることになるのである。筆 者は、この悪影響を防止する手段として「公序則」を持ちだす可能性を示唆する。 生物多様性が知的財産法、特にバイオテクノロジーの発展に不可欠であり、生物多様性 の維持を基礎づけてきた伝統的知識の保護をいかに行うべきか、従来の法制度には必ずし も整合しないが、新しい保護のための方法を考える必要があるとする論説は、極めて斬新 であり、かつ広い視野に立ったユニークな秩序化の提案である。着眼点が新鮮で、また関 連資料も豊富に収集し、説得的な議論を展開しようとしている。先進国が自らの利益を擁 護するための制度として構成してきた知的財産法を、人類全体の立場から見直し、途上国 の立場を取り入れて再構築するための議論として、生物多様性という視点を持ちだした点 が独創的である。また、筆者の情熱がよく伝わってくる。 第 IV 章は生物多様性条約が提示する特許出願に際しての生物資源の出所開示制度が特 許制度と異質のものではないことを、特許制度の歴史的、制度的考察に基づいて検証せん とするものである。特許制度が発明の開示の代償として一定期間の発明の独占を認める制 度であることの意味を根源に遡って検証した結果、議会制民主主義の採用されている近代 国家において発明の開示により得られる利益は社会としての利益であり、その社会の利益 とは積極的な表現の自由としての情報を得る権利であると構成している。近時、知的財産 権としての独占に対抗するものとして表現の自由等の利用者側の人権を標榜する説は散見

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13 されるが、本論文は特許における情報開示制度そのものが積極的な表現の自由、情報アク セス権に対応するものと構成するものであって、これまでの視点とは異なる新鮮な着想と いうことができる。また、このような着想に至るには、文献を渉猟することによって特許 制度や人権保護の歴史に遡り、それだけでなく現代における各国特許法における開示要件 の規定等の調査をも行うなかでの咀嚼が行われており、歴史的かつ比較法的手法を用いた うえでの思考経路は説得力に満ちていると評価することができる。さらに、特許における 開示制度の分析に基づき、生物資源の開示制度をこれと同様の制度であると位置づけたう えで、各国の産業化レベルに沿って発明の開示要件に差異が認められる「発明の詳細な説 明や図面」における開示と同列に扱い、生物資源開示の強制性については各国の立法判断 に委ねられるべきとしている点など、理論先行ではなく、採用しやすい制度の提案に至り たいという穏当さを併せもっていることにおいても評価することができる。 第 V 章は第 VI 章への橋渡しをする章と位置付けることができ、知的財産制度の正当化根 拠を淵源から辿ることによって、社会設計論の立場から西欧先進国社会のために設計され てきた知的財産法を、途上国を含めた新しい社会の実情に合致するように再設計すべきで あることを指摘している。そして知的財産法に生物多様性を取り込むための視点として発 展の権利、環境の権利、平和の権利といった第三の人権に着目するに至る。知的財産制度 と人権保護双方の歴史的考察を経ることによって、知的財産法の変革すべき道筋を見出し たと宣言したともいうことのできる、意欲に満ちた論述ということができる。 第 VI 章は、インドにおける育種者権の立法における「農民の権利」の「知的財産権化運 動」(「農民の自然的権利を知的財産法に定着させようとする立法運動」)に目を転じて、そ の意義と問題点を踏まえた上で、そこから示唆を得ようとするものである。 まず、インドにおけるこうした動向に着目した点それ自体、本論文の着眼点が独創的で ユニークであることを物語っている。また、少なくともわが国での知的財産法学の従来の 議論においては、インドにおける「農民の権利」に関する紹介ないし検討がほとんど見ら れなかった中、本論文は当該制度について、アクセスや分析が必ずしも容易といえない外 国文献や資料も広く参照しながら、その経緯や歴史的背景に遡りつつ、これまでにない詳 細な紹介と検討が加えられており、その意義および価値は非常に高いものといえる。 また、本論文は、「農民の権利」を「知的財産(権)化」することに伴うと考えられる多 数の問題点を踏まえつつも、このことが知的財産法において近時しばしば議論される「ユ ーザーの権利問題」と関連するものであり、農作物の生物多様性保全にもつながることを 指摘した上で、インドにおけるこうした立法動向から本論文のテーマである「知的財産法 の変革」について大きな示唆を得ている点は、本論文の研究に多面性と深みを与えるもの となっているものであり、学術研究として高く評価することができる。 さらに、第 VII 章はまとめとして、われわれが伝統的な知的財産制度をいつの間にか自 明の前提として当然視してしまっているのではないかと問いかけた上で、生物多様性保全 のみならず、知的財産法の従来のあり方そのものを批判的に検討し、「民主主義の知的財産

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14 法」(「すべての人のための知的財産法」とされる)を掲げて、いわば私人の自然的権利を 尊重した知的財産法の将来像を構想しているものであり、この点は、筆者の将来性とその 研究の多様な発展性を強く期待させるものとして評価に値するものである。 もっとも、本論文にも問題がないわけではない。たとえば、発明の開示制度は、特許権 としての独占権の与えられる範囲を特許請求の範囲として明示させ、禁止権の境界を明ら かにさせることによって周辺技術の開発を容易にするとの作用も有している。筆者もこの ことは当然の前提としているのだが、最終的な結論に至るのに性急ともいわれかねない本 論文の筆致において、論述が一面的すぎるとの批判は免れないであろう。さらに、本論文 第 VI 章が、インドにおける「農民の権利」を取り上げ、これが「農作物の生物多様性保全 にもつながっている」と指摘する着眼点および考察は極めて独創的で興味深いといえるも のの、そのことから、生物多様性保全など個別的な制度設計について、最終的にいかなる 具体的な将来像を示したのかという点は、必ずしも明確でないようにも思われる。もっと も、本論文のテーマが知的財産法全体の基礎的な再構築という点にある以上、個別の論点 に関する具体的な制度像まで明確に提示することを要求するのはもとより適切でなく、本 研究が将来さまざまなテーマで具体化されることを期待させるものといえる。 以上のように、本論文には問題点がないわけではないが、それらは本論文の総合的評価 を何ら損なうものではない。これまで開発途上国からの生物資源利用利益の還元要求を知 的財産制度とは別次元の無茶な要求と理解し、その懐柔策の模索に汲々としていた感のあ る先進国としての発想に根本的な反省を促し、知的財産法を人類全体の立場から見直して 再構築しようとする本論文は、若々しい情熱に満ちており、読んでいてついつい引き込ま れてしまうという表現力も併せ持っている。その最終的な目的が壮大でありすぎるため、 新たな法制度の具体化にまで至ったものとはいえないが、そこへ至るひとつの道筋を示す のに成功しているものとして、高く評価することができる。これからも、その情熱を保持 しつつ、この大きな課題に取り組み続けることを期待したい。 3 結論 以上の審査の結果、後記の委員は、本論文の提出者が課程による博士(法学)(早稲田大 学)の学位を受けるに値するものと認める。 2013 年2月1日 審査委員 主査 早稲田大学教授 高林 龍 早稲田大学教授 江泉芳信 立教大学教授 上野達弘

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