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2012年APECウラジオストク開催に関する

政策決定過程について

道上真有

はじめに

2012年アジア太平洋経済協力(Asia-Pacific Economic Cooperation、以下 APECとする)首脳会議が初めてロシアで開催されることになった。そこで本 稿では、APECロシア開催に関する政策決定過程と極東・沿海地方のウラジオ ストク市でAPECが開催されることの意義について、ロシアAPEC公式サイト1で 公表された情報を中心に明らかにしたい。以下では、2006年末から2009年に かけてのウラジオストクAPEC開催を巡る情勢について、(1)連邦政府と地方 政府の地域発展戦略との関係、(2)具体的な開発計画とその計画策定過程で 生じた問題点、(3)2008年金融危機のAPEC開発計画に対する影響、の3つの 視点から時系列的に整理する。最後に以上の整理を踏まえて、APECウラジオ ストク開催についてロシアが有する意図と、APECの基本理念との間に生じて いる若干の乖離について論じる。

1. 連邦政府と地方政府の地域発展戦略とAPECウラジオストク開催 ロシアがAPECに加盟したのは1998年である。当時のロシア政府のアジア外 交戦略上の目標は、「アジア太平洋地域におけるロシアの経済的・政治的影響 力の強化」と、「極東地域開発の資金や技術を調達すること」であった2。太 平洋戦略開発センター所長ミハイル・テルスキー(Mikhail Terskiy)によれば、

90年代のロシアのアジア経済外交は、首相エフゲニー・プリマコフ(Yevgeniy Primakov)が提起した「ロシアの東の首都」としてウラジオストクを発展さ せるためにアジア太平洋地域との経済交流を促進するという時代であった3。 現在はウラジオストクを、「2012年のアジア太平洋経済協力の首都」とするべ くAPEC開催準備を進める時代となった。

2012年のAPEC開催地にウラジオストク市を選出するという決定は、公式発 表では2006年10月20日、経済貿易発展相ゲルマン・グレフ(German Gref)主 導の下、モスクワで開かれた開催地決定会議で決まったと報じられたのが最

初である4。ロシアが2012年APECの開催国として立候補するという決定は2006 年に中央政府で検討されていたものと考えられる。その後、2006年11月18日

-19日にベトナム・ハノイで開催された第14回APEC首脳会議において、ロシ アが2012年のAPEC開催を申請する用意があることを初めて公式にプーチン大 統領が発表した5。最終的に2007年9月8日-9日にオーストラリア・シドニー で開催された第15回APEC首脳会議で、正式に2012年のAPECをロシア・ウラジ オストク市で開催することが承認された6

ロシア・ウラジオストクAPEC開催のための開発計画は、2006年に連邦特定 目的プログラム「極東・ザバイカル地域経済社会発展プログラム」(以下「極 東ザバイカル発展プログラム」とする)の中に位置づけられる形で策定され た。それは、同プログラムのサブプログラム「ウラジオストク―APEC2012の 首都」として策定され、約1500億ルーブルの予算額が配分されることになっ た7。そのうち1000億ルーブルが連邦予算から割り当てられ、残りは沿海地方 予算や民間投資で賄うことが発表された8。さらに政府は2008年6月に、連邦予 算からの支出をほぼ倍増の2000億ルーブルにまで拡大することを決定した9。 APEC開催準備のための法的な母体となる連邦特定目的プログラム「極東ザ バイカル発展プログラム」は、1996年4月に大統領令によって承認されたもの で、当初1996年から2005年の期限の発展プログラムであった。しかしこのプ ログラムは機能せず10、プーチン政権の2002年3月になって、期限が2005年か ら2010年に延長されることになった11。このプログラムは極東連邦管区の経 済不均衡と社会的不振を是正するために立案されたプログラムで、2002年の 時点では極東地域の輸送インフラを改善し、エネルギー・プラントやパイプ ラインの建設が主な内容であった12。2006年に連邦政府がウラジオストクで APECを開催すると決定したことによってこのプログラムは、連邦特定目的プ ログラム「2013年までの極東・ザバイカル地域経済社会発展プログラム」に 改訂され、2012年のAPEC開催計画に関連するウラジオストクの開発について のサブプログラムを中心とすることに改められた13。このプログラム改訂に よって、APEC開催のための関連施設を含め、ウラジオストク市および周辺地 域にわたる54の開発プロジェクトが計画され、連邦予算に計上されることに なった14。主な開発プロジェクトは、APEC首脳会議会場および開催に関連す

るインフラ開発に加え、港湾開発、石油・ガスパイプラインと石油精製所の 建設、アルミニウム工場、発電所、高圧送電線敷設、上下水道施設、廃棄物 処理施設および埋立地の開発等である。2007年12月にはサブプログラムの名 称も「アジア太平洋地域における国際協力センターとしてのウラジオストク の発展」に変更された15

このような連邦特定目的プログラムの改訂の流れから、APEC開催準備にあ たっての連邦政府と沿海地方政府の関係は、開催決定および開発計画の決定、

予算の面においても連邦政府が主導的な役割を果たしてきたことがわかる。

このことは、90年代からの中央の連邦政府と沿海地方政府の極東地域発展戦 略を巡る関係の変化の中で理解することが重要である。90年代の極東地域発 展戦略は、市場経済化による混乱のため、連邦政府は、地方の発展戦略にま で配慮できず、結果的に沿海地方やハバロフスク地方の地方政府が主導する 立場にあった16。当時は、地方政府から中央政府に様々な手段を通じて極東 地域発展のための支援を働きかける時代であった。しかしその裏では、地方 政府の汚職が横行し、「極東ザバイカル発展プログラム」が具体的に進展しな い状況に陥る矛盾を地方政府自らが抱えていた。膠着した地域発展戦略をめ ぐ る 中 央 政 府 と 地 方 政 府 の 関 係 に 変 化 が 起 き た の は 、 2000年 の プ ー チ ン (Vladimir Putin)政権からである。プーチン大統領は、それまでの統制の効 かない連邦制度を改革し、ある程度権力を中央政府に集中させ、汚職にまみ れ混沌とする地域発展戦略を再度仕切り直すかのごとく、地方の発展につい ての主導権を中央政府に移行させることに成功した17。この変化を受けて、

2000年以降の極東・ザバイカル発展プログラムは、連邦政府主導のもとで計 画、実施され、さらにはその予算執行を連邦政府が監視することになった18

このような中央政府と地方政府の関係の変化の中で、2012年APECをウラジ オストクで開催するとロシア政府が決定したことに大きな意味がある。それ は、これまで思わしくなかった同プログラムの進展を、APEC開催をきっかけ に本格的に極東地域の発展につなげようとする中央政府の明確な姿勢を映し 出しているからだ。それは、かつて90年代にプリマコフ首相が提唱したウラ ジオストクを「ロシアの東の首都」として極東地域の地位を向上させるだけ ではなく、APECを通じてアジア太平洋地域のビジネスセンターとして機能で

きるようにウラジオストクを発展させるという更に高いレベルの発展戦略で あることが、サブプログラムのタイトル「アジア太平洋地域における国際協 力センターとしてのウラジオストクの発展」からもうかがえる19。極東地域 の発展に不足する資金、人材、財を周辺諸国からの支援に頼るアジア外交の 時代から、資源・エネルギーのアジア太平洋市場へ輸出促進の時代に変わり、

さらには資源・エネルギー産業以外の産業や科学技術を競争力ある分野に成 長させ、その成長した産業と科学技術でもってアジア太平洋地域からロシア に投資をひきつける将来像がウラジオストクを舞台に描かれているのである。

2. APECウラジオストク開催開発計画とその問題点

APEC首脳会議のメイン会場は、ウラジオストク市のルースキー島のアヤク ス湾周辺に建設される。APECウラジオストク開催開発計画「APEC2012首脳会 議開催準備のための建設プログラム」は、このルースキー島の開発を中心に、

島と本土を結ぶ二つの橋や高速道路整備、ウラジオストク空港の拡大など、

約12の建設プロジェクトで構成されている。さらに2008年から2020年にかけ てのウラジオストクを中心とする長期投資プロジェクト「ウラジオストク―

アジア太平洋地域におけるロシアの窓口2008年‐2020年」も副次的に2012年 のAPEC開催開発を支えている。沿海地方のインフラ開発は、2012年のAPEC開 催を軸に10年単位で大きく進展する模様である。以下に、APEC開催準備に絞 った具体的な開発計画とその概要について列挙する20

(1) 金角湾横断橋:金角湾によって分断されている半島の両端を結 ぶ橋で、ハバロフスクからウラジオストクにつながるM-60「ウ スリ(Ussuri)」連邦高速自動車道路の延長にかかる橋となる。

全長2.1キロ、6車線の斜張橋。投資総額は130億ルーブルで、連 邦予算120億ルーブル、沿海地方予算10億ルーブル。建設期間は 2008-2011年。

(2) ボスフォラス東海峡横断橋:ウラジオストク本土(ナジモフ半 島)とAPEC首脳会議のメイン会場が建設されるルースキー島(ノ ヴォシルツェフ岬)とを結ぶ海峡横断橋。全長3.1キロ、4車線 の斜張橋。投資総額は、連邦予算139億1800万ルーブル。建設期