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化学と生物 Vol. 55, No. 6, 2017

NAADP を基本分子としたバーチャルスクリーニングによる分子プローブの開発とその後

コンピューターによる研究の効率化

カルシウムイオン(Ca2+)は神経伝達,筋収縮,受 精,ホルモン分泌などさまざまな生体機能の調整におい て重要な役割を果たしている.小胞体内においてCa2+

放出を誘導するD-ミオイノシトール1,4,5-三リン酸(IP3), サイクリックアデノシン二リン酸リボース(cADPR)

などのほかに,ニコチン酸ジヌクレオチドリン酸(nico- tinic acid adenine dinucleotide phosphate; NAADP,図 1上)がリソソームにおいてCa2+放出を誘導することが 近年発見された(1).このNAADPは,膵臓・脳・心臓と いった組織で働いていることがわかっていた(2)が,その メカニズムや生物学的機能については不明な点が多かっ た.

これまで,Ca2+貯蔵庫を同定するためにbafilomycin  A1(H-ATPase阻害剤),thapsigargin(小胞体におけ るCa2+ポ ン プ 阻 害 剤),glycylphenylalanine 2-naph- thylamide(リソソームの浸透圧溶解を誘導)といった 間接的に働く分子プローブが広く利用されてきた.

NAADPもその受容体の活性化・不活性化に利用されて きたが,NAADPには膜透過性がないためピペットかリ ポソームを通して細胞内に導入しなければならないこ

と,またこの技術は取り扱える細胞が数個に限られてし まうことであった.またNAADP分子の構造変異体も 合成されているが,これら類縁体に関して構造‒活性の 相関は見いだせるものの,NAADPよりもはるかに活性 が低下するという問題があった.

以上のことから,NAADPに関する研究をより迅速に 発展させるため,NAADPにより調整されるCa2+放出 に対して,直接的かつ選択的に関与する分子プローブの 開発が望まれていた.これらを解決する手段として,わ れわれは「バーチャルスクリーニング」に注目した.

バーチャルスクリーニングとは,受容体や酵素などのタ ンパク質を創薬などのターゲットとして,その立体構造

(X線結晶構造および生理活性に関与していると考えら れる三次元構造)に基づき, (コンピューター を用いて)で化合物を探索する方法である.バーチャル スクリーニングは創薬の分野では一般的に利用されてい るが,基礎生物学解明のための分子プローブ開発には,

当時(2008年頃)はそれほど利用されていなかった.

そこでわれわれは,NAADPを基本分子としたバーチャ ルスクリーニングによる分子プローブの開発とその有用 性について検討した(3)

NAADPの活性コンフォメーションは不明であったた め,ソフトウェアOmegaを用いて考えうるNAADPコ ンフォメーションを探索して40個の推定構造を得た.

これら40個の推定構造に類似した化合物を,数百万個 ある化合物のデータベースZINCの中から検索した結 果,100個以上の化合物がヒットした.次に,NAADP とヒット化合物の三次元構造についてROCSを用いて比 較,NAADPとヒット化合物の電荷分布についてEON を用いて比較し,その相同性をランクづけした.電荷分 布に基づくランクは構造および正・負電荷のオーバー ラップも反映したTanimotoスコアを用いた結果(スコ アは−0.31〜0.85),3次元構造のみで探索した化合物の 上位10個をNrd(NAADP ROCS discovered),電荷に 基づいて探索した化合物上位15個(5個は新規化合物)

をNed(NAADP EON discovered)と名づけ,Tanimoto スコアに基づいて番号をつけた.化合物が市販されてい ない場合には,次点の化合物を用いた.これらの化合物 図1NAADPNed-19

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はすべて,NAADPと二次元構造は異なるが,三次元構 造ではTanimotoスコアが示すように類似していた.

選抜した化合物は,ウニ卵破砕液を用いてアンタゴニ スト活性試験を行った.ウニ卵は,哺乳類との類似性が あり,構造安定性が高く,また3種すべてのCa2+放出 セカンドメッセンジャー(IP3, cADPR, NAADP)に対 する反応がよく調べられている.選抜した化合物群は NAADPのEC50値に対する量的阻害を調べることでア ンタゴニスト活性を調べた.その結果,25種のうち21 種でアンタゴニスト活性が確認され,そのうちの4種に 強いアンタゴニスト活性を確認できた.生理活性が確認 された化合物のうち,NAADPの働きを顕著に阻害した 化合物Ned-19(図1下,構造的Tanimotoスコア:0.67,

電荷的:0.65)に注目した.

Ned-19は100 

μ

Mで効果的にNAADPによるCa2+放出 を阻害したが,IP3やcADPRによるCa2+放出は阻害し ないという特異性を示した.しかしながら,市販の Ned-19はジアステレオマーの混合物であることがF- NMR, H-NMR,逆相HPLCの結果から判明した.コン ピューターによる三次元構造の比較では,L-トリプト ファン由来のトランス体が最も良いオーバーラップを示 していた.これらジアステレオマーの生理活性を調べる ため,L-トリプトファンを出発化合物として,鍵反応に Pictet‒Spengler反 応 を 用 い る こ と に よ っ て - Ned-19,  -Ned-19をそれぞれ合成した.生物試験の結 果,Ca2+放出阻害(IC50  / =6 nM/800 nM)およ び[32P] 標 識NAADP結 合 阻 害 試 験(IC50  / = 0.4  nM/15  

μ

M)の両方において,トランス体がシス体よ りも強い活性を示した.このアンタゴニスト活性濃度と 結合阻害濃度の違いはNAADP受容体への結合が不可 逆的であることに起因しているためと考えられる.

log  は化合物の疎水性あるいは脂溶性を表す物性値で あり,脂溶性の高い化合物(分配係数 の高い薬物)で あるほど膜透過性がよい.Ned-19はlog  が3.68である ため細胞膜透過性があり,無傷細胞でも効果があるので はと考え,Ned-19(100 

μ

M)を含む人工海水中でイン キュベートした無傷ウニ卵にNAADPを添加したとこ ろ,予想どおりCa2+の放出は誘導されなかった.また,

哺乳動物細胞中でもアンダゴニスト活性が確認できるか を調べるため,マウス膵臓

β

細胞を用いてパッチ法によ り確認したところ,NAADPによるCa2+放出は阻害さ れた.以上のことから,Ned-19はウニ卵および哺乳動

物細胞において細胞透過性アンタゴニストとして働くこ とが確認された.トリプトファンの誘導体であるNed- 19は蛍光をもつ.そこで,無傷細胞中のNed-19が結合 したNAADP受容体を紫外アルゴンイオンレーザー

(Ex 351, Em 365 nm)を使用した共焦点顕微鏡を用い て可視化を試みたところ,NAADP受容体に結合してい ることが確認できた.さらにNed-19をリード化合物と してさまざまな誘導体を合成,それら誘導体を用いて アッセイした結果,NAADP受容体上には2つ以上の結 合部位があることを証明した(4)

有機化学者にとって,期待する反応が進行したとき,

化合物が結晶化したとき,綺麗に精製できたとき,天然 物合成ではその全合成が達成できたときなど,さまざま な喜びがある.そして,見いだした化合物をほかの研究 者やグループが用いて実験を行い,新たな発見や知見が 論文などで報告された場合もある.Sakuraiらは,ウイ ルスが細胞に感染する侵入経路について研究を行い,そ の侵入を防ぐ薬剤として「ベラパミル」などのカルシウ ム拮抗薬が有効であることを見いだし, -Ned-19も 同様にエボラウイルスなどのフィロウイルス感染を防止 することを報告している(5).また,Kintzerらは,シロ イヌナズナ( )由来のTPC1と - Ned-19の結晶を作製し,そのX線結晶構造解析(分解 能2.87 Å)を行った結果, -Ned-19が小孔ドメイン をVSD2へ固定することによってアロステリックに作用 していると報告している(6)

以上のように,われわれが見いだしたNed-19がさま ざまなグループによって研究利用されていることはたい へん喜ばしい.なお,われわれはプロセス化学的研究も 行っており,前駆体である -Ned-19メチルエステル をグラム単位で合成することに成功している.さまざま な生物種に対してNed-19の効果を調べてみたいが,有 機合成化学を主とする現研究室では生物試験を行う技術 を有していないため,さらに多くの研究者にNed-19お よびNed-19誘導体をご利用いただければ幸いである.

  1)  A. H. Guse & H. C. Lee:  , 1, re10 (2008).

  2)  H. C. Lee:  , 280, 33693 (2005).

  3)  E. Naylor, A. Arredouani, S. R. Vasudevan, A. M. Lewis,  R. Parkesh, A. Mizote, D. Rosen, J. M. Thomas, M. Izumi, 

A. Ganesan  :  , 5, 220 (2009).

  4)  D.  Rosen,  A.  M.  Lewis,  A.  Mizote,  J.  M.  Thomas,  P.  K. 

Aley, S. R. Vasudevan, R. Parkesh, A. Galione, M. Izumi,  A. Ganesan  :  , 284, 34930 (2009).

  5)  Y. Sakurai, A. A. Kolokoltsov, C.-C. Chen, M. W. Tidwell, 

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W. E. Bauta, N. Klugbauer, C. Grimm, C. Wahl-Schott, M. 

Biel & R. A. Davey:  , 347, 995 (2015).

  6)  A. F. Kintzer & R. M. Stroud:  , 531, 258 (2016).

(泉 実,岡山大学大学院環境生命科学研究科)

プロフィール

泉  実(Minoru IZUMI)

<略歴>1996年大阪府立大学農学部農芸 化学科卒業/1998年同大学大学院農学研 究科博士前期課程修了/2001年大阪大学 大学院理学研究科博士後期課程修了/2002 年産業技術総合研究所特別研究員/2003 年日本学術振興会特別研究員/2004年岡 山大学農学部助手/2005年同大学大学院 自 然 科 学 研 究 科 助 手/2007年 同 助 教/

2010年同准教授/2014年同大学大学院環 境生命科学研究科准教授,現在に至る<研 究テーマと抱負>糖鎖工学,有機化学など の講義における教育方法の工夫<趣味>息 子たちの玩具を自作すること<所属研究室 ホームページ>http://www.cc.okayama-u.

ac.jp/~mizumi/index.html

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.375

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