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アーキアにおける遺伝暗号解読機構 - J-Stage

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(1)

遺 伝 暗 号 の 中 で 最 も 解 読 が 難 し い と さ れ るAUAコ ド ン を アーキアはどのように解読しているのか? 最近,アーキア 由 来tRNAIleの ア ン チ コ ド ン か ら ア グ マ チ ジ ン agm2C  名 付 け ら れ た 新 規 の 修 飾 塩 基 が 発 見 さ れ,AUAコ ド ン の 解 読機構が明らかとなった.アグマチジンの生合成機構の詳細 な 解 析 と,修 飾 酵 素 とtRNAの 複 合 体 の 結 晶 構 造 解 析 か ら,

これまでに例のないまったく新しい酵素触媒反応によってア グマチジンが形成されるしくみが明らかとなった.また,ア グマチジンの生物学的意義についても触れる.

コドンの解読原理

あらゆる生物はDNAに書かれた遺伝情報をもとにし てタンパク質を合成している.4種類の塩基が3つ組で1 つのコドンとなり,アミノ酸を指定するという考え方 は,半世紀前に確立され,セントラルドクマとして,生 命科学の根幹を貫く最もエレガントで美しい原理の一つ である.ところが,64通りの遺伝暗号をどのようなし くみで正確に解読するかは,古典的なテーマであるもの の,いまだ完全には解明されていない.

終止コドンを除く61通りのコドンを20種類のアミノ 酸に割り当てるために,遺伝暗号表は多対一の対応関係 になっている(表

1

.すなわち,通常,2 〜6通りのコ ドンが1種類のアミノ酸を指定している.MetとTrpの み1種類のコドン,それぞれAUGとUGGにより指定さ れている.遺伝暗号表を見ると,コドンの1字目と2字 目の塩基の並びがアミノ酸を指定しており,3字目はど の塩基 (N) であっても同じアミノ酸を指定したり

(ファミリーボックス),ピリミジン (Y) かプリン (R) 

かによって指定するアミノ酸が決まる(2コドンセッ ト)というルールがある.このルールにより多対一の対 応関係が成り立っている.

mRNA上のコドンはリボソームのAサイトでアミノ アシルtRNAのアンチコドンと対合することにより解読 される.その際に,コドン1字目はアンチコドン3字目 と,コドン2字目はアンチコドン2字目とワトソンク リック型の塩基対合によって正確に認識されなければな らない(図

1

.なぜならば,リボソームのAサイトに おいて,これらの塩基対合をリボソームRNAの保存塩 基 (A1492, A1493, G530) が副溝側から認識し(Aマイ ナー相互作用),コドン‒アンチコドンの正確な対合をセ How to Decipher AUA Codon in Archaea

Tsutomu SUZUKI,東京大学大学院工学系研究科

【解説】

アーキアにおける遺伝暗号解読機構

アグマチジンの生合成とAUAコドンの解読

鈴木 勉

(2)

ンシングするしくみがあるからである(1, 2) (図

2

.この 相互作用により,リボソームの小サブユニットが大きく 構造変化することで,EF-TuのGTPが加水分解されて 暗号解読が成立する(3).ところが,リボソームのAサ イトにおいて,コドン3字目とアンチコドン1字目の塩 基対合(通称wobble位)の周辺は比較的スペースが空 いており,塩基が自由に動ける状況になっている(1).し たがって,コドン3字目とアンチコドン1字目は,G-U 塩基対に代表されるいわゆるwobble(よろめき)塩基 対が許容される(図1)(2).この位置の対合の曖昧さこ そが,複数のコドンが1種類のtRNAに解読される基盤 原理であり,ひいてはコドンとアミノ酸が多対一の対応 関係になっている所以である.tRNAのアンチコドン1 字目にはしばしば修飾された塩基が存在し,この修飾が wobble対合を微妙に制御することで,遺伝暗号が正確 に解読されている(4)

修飾塩基を用いたAUAコドンの解読

64種類のコドンの中で,AUAコドンは最も解読が難 しい遺伝暗号であると考えられる.なぜならば,同じコ ドンボックスの中で,3字目がAとGのコドン (NNR) 

は基本的に同じアミノ酸を指定しているが,AUAは Ile,AUGはMetと,異なるアミノ酸を指定しているか らである(表1).UGAとUGGはそれぞれ終止とTrpで あるが,UGAはtRNAでなく解離因子 (release factor) 

が認識するので,ここでは議論の対象から外すこととす

る.NNRコドンが同じアミノ酸を指定するのは,アン チコドン1字目にUまたはU

*

(ウリジンの修飾体)を 有するtRNAがNNAとNNGの両方を解読するからであ る.もし,tRNAIleがAUAコドンと相補的なUAU(ま たはU

*

AU)をもつとしたら,AUAコドンのみならず AUGコドンをもIleに翻訳してしまうであろう.した がって,生物はAUAコドンを特異的に解読するための 巧妙なしくみを獲得している.以下に述べるように,

AUAコドンをどのように解読するかは,真正細菌,真 核生物,アーキアのそれぞれの生物界で異なっている.

共通しているのは,tRNAIleのアンチコドン1字目に修 飾塩基を用いている点である.

ほとんどすべての真正細菌は,AUAコドンに対応す るtRNAIleのアンチコドン1字目にCの修飾体であるラ イシジン (lysidine ; L) を用いている(図

3

(5, 6).Lはリ ジンの

ε

アミノ基がシトシン環の 2炭素に結合した修飾 塩基であり,この修飾によってシトシン環がエナミンか らイミンへ互変異性化し,Gとは対合できずにAと対合 する性質を獲得している.また,L修飾はtRNAが転写 後に酵素的に導入されるが,L修飾をもたないtRNAIle の前駆体はCAUアンチコドンをもつことから,あたか もtRNAMetのように振舞い,AUGコドンを認識するだ けでなく,実際にメチオニルtRNA合成酵素に認識さ れ,Metを 受 容 す る こ と が 知 ら れ て い る(図

4

(7) C→Lのたった1塩基の修飾によって,コドン認識が AUG→AUAに変化するだけでなく,アミノ酸受容能 もMet→Ileへと変化する.筆者らは,tRNAIleにL修飾 を導入するライシジン合成酵素 (tRNAIle lysidine syn- 表1遺伝暗号表

真正細菌,アーキア,真核生物のほとんどすべての生物に共通で あることから普遍暗号表とも言われる.マイコプラズマ,

酵母,繊毛虫,オルガネラでは一部の遺伝暗号が変化してい る.

図1コドンアンチコドンの対合様式

tRNAPheのアンチコドンはGAAであり,mRNA上のUUUコドン とUUCコドンを解読する.アンチコドン1字目のGは,Cとワト ソンクリック塩基対のみならずG・Uのwobble対合を形成する.

アンチコドンとの対合をわかりやすくするため,ここではコドン は右から左に5′→3′方向の表記になっている.

(3)

図2リボソーム小サブユニットのAサイトにおけるコドンアンチコドンの対合様式

高度好熱菌由来30SサブユニットにおけるUUUコドンとGAAアンチコドンの対合をX線結晶構造解析により解析した構造(2).下図は,コ ドン1字目‒アンチコドン3字目(左),コドン2字目‒アンチコドン2字目(中),コドン3字目‒アンチコドン1字目(Wobble位,右)の対合 様式を拡大したもの.16S rRNAの3つの保存塩基A1492, A1493, G530がコドン‒アンチコドンの対合のマイナーグルーブ側から接触して いる.しかし,Wobble位の認識は甘い.

図3真正細菌と真核生物におけ るAUAコドンの解読機構 真正細菌のアンチコドン1字目には ライシジン (L) が存在し,AUAコ ドン3字目のAと対合する.真核生 物のアンチコドン1字目にはイノシ ン (I) が存在し,AUAコドン3字 目のAと対合する.

(4)

thetase) を発見し,TilSと命名した(図4)(8, 9).実際に 遺伝子は必須遺伝子であることから,L修飾はAUA コドンの解読に必須であることが,生化学的かつ分子遺 伝学的にも判明している(8, 9)

真核生物では,AUAコドンの解読に別の修飾塩基を 用いている.AUAコドンに対応するtRNAIleのアンチ コドン1字目には,Aの修飾体であるイノシン (I) が存 在する(10) (図3).IはU, C, Aと対合することが可能で あり,AUU, AUC, AUAの3つのコドンを解読すること ができる.また,酵母などでは,I以外に,シュードウ リジン (Ψ) をアンチコドン1字目にもつtRNAIleも存在

し,ΨもAUAコドンの解読に寄与すると考えられてい る.

アーキアでは,どのような機構でAUAコドンを解読 するか長年未解明であった.様々なアーキアのゲノム解 析によると,AUAコドンに対応するtRNAIle遺伝子の アンチコドンはCATであり,真正細菌と同様な機構で 転写後にアンチコドン1字目のCが修飾されてAUAコ ドンを解読する機構が予想された.ところが,いくつか のアーキアでRNA修飾を解析したところ,Lは存在し ないとの報告があった(11).また,アーキアのゲノムに は 遺伝子のホモログが見つからないことも知られて 図4真正細菌におけるライシジ ンの生合成とAUAコドン解読能 の獲得

ラ イ シ ジ ン 合 成 酵 素 は リ ジ ン と ATPを基質に用い,tRNAIleのアン チコドン1字目にライシジンを形成 す る.こ の 修 飾 に よ りtRNAIleは AUAコドンの解読能とIleの受容能 を獲得する.

図5アーキアにおけるアグマチ ジンの生合成とAUAコドン解読 能の獲得

アグマチジン合成酵素はアグマチン とATPを基質に用い,tRNAIleのア ンチコドン1字目にアグマチジンを 形成する.この修飾によりtRNAIle はAUAコドンの解読能とIleの受 容能を獲得する.

(5)

いた(8).これらの情報から,アーキアではL修飾ではな い,別のCの修飾体がAUAコドンを解読していると考 えられた.

アグマチジンの発見

AUAコドンに対応するtRNAIleのアンチコドン1字目 にどのようなCの修飾体が存在するかを明らかにするた めに,高度好塩性アーキアである

か らtRNAIleを 単 離 精 製 し,液 体 ク ロ マ ト グ ラ フィー/質量分析計 (LC/MS) を用いて,アンチコドン 1字目を詳細に調べたところ,分子量355のシチジンの 修飾体 (N355) が発見された(12).精密質量分析による 解析から,修飾体の元素組成を割り出したところ,シト シン環にC5H14N4の組成を有する化合物が結合し,水が 1分子抜けたものであると予測された.この組成に該当 する天然の代謝物を調べたところ,アルギニンが脱炭酸 した代謝物であるアグマチンが候補としてあがった.重 水素置換による交換性プロトンの測定や衝突活性化解離 法による側鎖の詳細な解析から,N355の正体は,アグ マチンがアミノ基を介してシトシン環の 2炭素に結合 した2-アグマチニルシチジンであると予測された.実 際にこの修飾塩基を有機合成し,アーキアから単離した ヌクレオシドと詳細な比較解析をすることで確定した.

2-アグマチニルシチジンは,アグマチンがシチジンに 結合したものであることから,アグマチジン (agm2C) 

と命名した(図

5

(12).agm2Cは, 以外 にも,同じユーリアーキオータに属する

や からも検出されてお

り,またクレンアーキオータに属する

からも見つかっている.この結果から,agm2Cは アーキアの生物群に広く用いられている可能性が高く,

アーキアの共通祖先ですでに獲得された修飾塩基である と考えられる.

アグマチジンの生合成

次に,アーキアの細胞内において,アグマチンがアグ マチジンの直接の基質になっているか否かを調べるた め,13Cと15Nで安定同位体標識したアグマチンを培地 に加え, を培養後,tRNAを抽出しagm2Cの 分子量を測定した(12).その結果,agm2Cの分子量は安 定同位体標識した分,増加していることが判明した.さ らに,安定同位体標識したアルギニンでも同様の実験を 行なったところ,標識アグマチンと比較すると安定同位

体の取り込み効率は低いものの,分子量の増加した agm2Cが観測された.これらの結果から,アーキアの 細胞内において,アグマチンがagm2Cの直接の部品と なっていること,さらにアルギニンが脱炭酸して生じた アグマチンが取り込まれる経路も存在することが明らか となった.また,tRNAIleのアンチコドン1字目にアグ マチンを結合させる修飾酵素の存在も示唆された.

実際に,アグマチジン合成酵素を探索するため,比較 ゲノムの手法を用いた.目的の遺伝子は,ユーリアーキ オータとクレンアーキオータに共通に存在し,真正細菌 と真核生物に存在しないという条件で,候補遺伝子を絞 り込んだ.また,機能未知であり,RNA結合モチーフ があるという条件を加えたところ,最終的にCOG1571 という遺伝子が候補として残った.いくつかのアーキア のゲノムからCOG1571をクローニングし組換えタンパ

ク質の取得を試みたところ, 由

来の組換えAF2259を可溶性タンパク質として精製する ことに成功した(12).組換えAF2259を用い,転写合成 したtRNAIleを基質として,アグマチンとATP存在下 でagm2C形成反応を試みた結果,アグマチンとATP依 存的にagm2Cが形成されることが明らかとなった.こ の 結 果 か ら,COG1571を ア グ マ チ ジ ン 合 成 酵 素 

(tRNAIle agm2C synthetase) であると結論づけ,TiaS  と命名した(図5)(12)

アグマチジンによるAUAコドンの解読

agm2Cの構造はLと類似しており,Cに結合している リジンがアグマチンに置き換わった修飾塩基である(図 4).この修飾によってシトシン環がエナミンからイミン へ互変異性化していることから,Lと同様な機構で AUAコドンを解読すると予想された(図

6

-A).アグマ チジン修飾が実際に,AUAコドンの解読に必要かどう かを明らかにするために,組換えTiaSを用い,試験管 内修飾反応で転写合成tRNAIleのアンチコドン1字目に agm2Cを導入した.大腸菌のリボソームを用い,Aサイ トにおけるAUAとAUGコドンとの結合能を測定した ところ(12),CAUアンチコドンをもつ未修飾tRNAIleは 予想通りAUGに結合し,AUAには結合しなかった.一 方 で,agm2CAUア ン チ コ ド ン を も つ 修 飾tRNAIleは AUGの結合能が低下し,代わりにAUAに対する結合 能が大きく上昇した(図6-B).AUGコドンに対する結 合能が完全に低下しなかったのは,agm2C修飾効率が 約60%であったことに由来する.この結果により,ア グマチジン修飾は,AUAコドンの解読に必須であるこ

(6)

図6アグマチジンはAUAコドン の解読に必要である

(A) アーキアにおけるAUAコドン の解読機構.シチジン2位にアグマ チンが結合することで,シトシン環 がエナミンからイミンへ互変異性化 し,アデニンと結合できると考えら れる.(B) 大腸菌リボソームのA サイトにAUGまたはAUAコドン を結合させておき,各tRNAのコド ン 認 識 能 を 評 価 し た.ア ー キ ア tRNAIleのagm2C修飾率は約60%で あった.

図7アグマチジンはライシジンとはまったく異なる修飾反応により形成される

(A) TiaSによるアグマチジン修飾反応.リン酸化によりシチジン2位が活性化される.(B) TilSによるライシジン修飾反応.アデニル化 によりシチジン2位が活性化される.

(7)

とが明らかとなった.

TiaSによるアグマチジン形成反応

TiaSはアグマチンとATPを基質として,tRNAIleの アンチコドン1字目 (C34) にagm2Cを形成する.修飾 反応を詳細に解析したところ,TiaSは3段階の酵素反応 を触媒することが明らかとなった(13) (図

7

-A).まずは じめに,ATPをAMPとピロリン酸に加水分解する.次 に,C34の2位のカルボニル基を

γ

リン酸基でリン酸化す ることにより活性化する.最後に,アグマチンのアミノ 基にC34の 2炭素を求核置換攻撃させることで,リン 酸基が脱離し,agm2Cが形成される(13).agm2Cの構造 はLと類似しているにもかかわらず,修飾酵素のTiaS はTilSとはまったく異なるファミリーの酵素である.

また,TilSによるL形成反応(図7-B)は,C34の2位の カルボニル基をAMP(アデニル)化しアデニレート中 間体として活性化する(9)のに対し,TiaSによるagm2C 形成反応では,リン酸化することにより活性化する.

TiaSが触媒するagm2C形成反応で驚くべきことは,

TiaSがリン酸化に先立って,ATPをAMPとピロリン 酸に加水分解する点である(図7-A).この反応はTiaS とATPを混合するだけで進行し,基質であるtRNAIle が存在しない場合にも常に生じることからアイドリング 反応と呼んでいる.なぜ,このように一見エネルギーの 無駄遣いのような反応が生じるかは未解明であるが,こ の反応を生じないTiaS変異体はagm2C形成活性をもた ないこと,反応産物としてADPを生じるTiaS変異体が 見 い だ せ な い こ と な ど か ら,ア イ ド リ ン グ 反 応 は agm2C形成に必須であると考えている.

さらに,TiaSは自身の18位にある保存されたThr残 基 (Thr18) を自己リン酸化することを見いだした(13). リン酸化Thr18は翻訳後修飾としてagm2C形成反応に 重要な役割を担っていると考えている.TiaS-tRNAIle複 合体の結晶構造(14)から,TiaSは,RNA (C34) とタン パク質 (Thr18) の異なる基質をリン酸化する新規ドメ インを有することが明らかとなり,これをTCK (Thr  18-C34 kinase)ドメインと命名した(図

8

-A)(13, 14).リ ン酸化Thr18はTCKドメインのATP結合部位に存在 し,特に

β

γ

リン酸基の近傍に位置している(図8-A). 図8TCKドメインによるアンチコドン1字目のリン酸化とリン酸化Thr18の予想される機能

(A) TiaS-tRNAIle複合体のX線結晶構造.TCKドメイン(緑)の活性中心を拡大したもの.ATP(青)のγリン酸基とアンチコドン1字目

(黄)のシチジン2位が近接している.リン酸化Thr18がγリン酸基の近傍に位置している.アグマチン(水色)がATPの結合部位と反対 側に結合している.触媒活性に重要なアミノ酸残基を表示している.(B) リン酸化Thr18はγリン酸基と負電荷どうしの反発でC34のリン 酸化を促進している可能性がある.(C) リン酸化Thr18は負電荷どうしの反発でリン酸化C34 (p-C34) を弾き飛ばし,反対側に結合してい るアグマチン結合部位へ近づける働きがあるかもしれない.

(8)

したがって,リン酸化Thr18と

γ

リン酸基の間で電荷的 な反発が生じ,ピロリン酸からC34のリン酸化を効率よ く促進している可能性が考えられる(図8-B).さらに,

C34のリン酸化後に,リン酸化Thr18とリン酸化C34の 間で負電荷どうしの反発が生じ,リン酸化C34をアグマ チン結合ポケットまで移動させる役割があるのではない かと考えている(図8-C)(13)

アグマチジンの生理学的な意義 ユーリアーキオータである 

  の生育には,アルギニン脱炭酸酵素 ( ) が 必須であることが知られている(15). 欠損株にアグ マチンを添加することにより,生育が回復することか ら, ではアグマチンが必須の代謝物で ある.アグマチンはプトレシンやスペルミジンなどのポ リアミン生合成の前駆体である.アーキアには高温や高 塩濃度など極限環境に適応した種が多くみられるが,ポ リアミンによるDNAやRNAの安定化は,高温環境の 適応において重要な役割を担っていると考えられてい る.しかし,プトレシン添加によっては 欠損株の 生育は回復しないことが判明している(15).したがって,

アーキアではアグマチンがagm2Cの形成に必須であり,

AUAコドンの解読を行なっていると結論できる.実 際, において, は必須遺伝子であるこ とも示されている(16).もし,細胞内のアグマチン濃度 に応じてagm2Cの修飾効率が変化するとすれば,タン パク質合成や細胞の増殖速度がtRNAIleのagm2C含有量 でコントロールされている機構があるかもしれない.ア グマチンを生育に必須なtRNA修飾の部品として用いる ことで,極限環境に適応するしくみを獲得したと捉える こともできよう.

AUAコドンの解読機構にみられる収斂進化 TiaSとTilSにホモロジーがなく,まったく異なる ファミリーのタンパク質であることを考慮すると,アー キアと真正細菌の共通祖先からそれぞれの生物界に分岐 する過程で,独立にagm2CとLという異なる修飾シチ ジンを獲得したことが示唆される.agm2CとLは化学構 造的には類似しており,AUAコドンを解読する同じし くみを偶然に獲得したとすれば驚きである.分子レベル での収斂進化と捉えることができよう.それでは,共通 祖先ではどのようなしくみでAUAコドンを解読してい たのであろうか? ゲノム解析の結果,UAUアンチコ

ドンをもつtRNAIleがいくつかの真正細菌やアーキアで 最近見つかっている.このことから,共通祖先では UAU(またはU

*

AU)アンチコドンによりAUAコドン を解読していた可能性が示唆される.UAUアンチコド ンをもつtRNAIleがどのようなしくみでAUGコドンの 誤翻訳を防いでいるかは非常に興味深い命題であるが,

UAUアンチコドンからC

*

AUアンチコドンに置き換わ ることで,AUAコドンの正確な認識効率が飛躍的に高 まったのではないかと考えている.

謝辞:この研究に携わった当研究室の木村 聡君,寺坂尚紘君,池内与 志穂君,鈴木健夫君に感謝します.共同研究者の横川隆志先生(岐阜大 工学部),和田 猛先生(東大新領域)に感謝します.また,TiaS- tRNAIle複合体の構造解析は,産業技術総合研究所の沼田倫征先生,大澤 拓生先生との共同研究です.この場を借りて御礼申し上げます.

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