総合研究所・都市減災研究センター(UDM)研究報告書(平成25年度)
テーマ1 小課題番号1.2-2
シングル配筋ラーメン構造開発のための予備実験
(接合部破壊防止効果の検証実験の計画)
シングル配筋、鉄筋コンクリート造、耐震補強、高強度 小野里憲一* 新藤 隆男**
大吉宏幸**
1.はじめに
既存鉄筋コンクリー ト造建 物の耐震補強を行うた めに新しい工法として、高 強度コンクリートと高強 度鉄筋を利用して、図 1 に示すような厚さの薄いラ ーメン構造を提案し、その予備実験を行ってきた。
提案するラーメン構 造は、 柱梁柱筋の配筋をシン グル配筋にすることで、既 存建物に外付けする新設 構造体を薄くできる半面、 柱梁接合部強度が部材強 度に比較して弱くなること が欠点としてあげられる。
そこで、昨年度は柱 梁接合 部の中で最も接合部強 度が低いとされる L 形接合部について実験を行い、
その性能を確認した。試験 方法の概略を図 2 に示す。
実験に用いた試験体は 4 体 で、試験体名 L-1、L-2、
L-3 の 3 体の試験体は試験 体番号が大きくなるに従 い定着長さを長くし、も一つの試験体 L-4 は最も定 着長さを長くした試験体 L-3 の接合部に補強筋を配 置した。実験の結果は、定着 長さが長くなるに従い、
接合部強度が高くなり、破 壊形式は接 合部の掻き出 し破壊から、接合部のせん 断破壊に移行した。さら に L-4 試験体に関しては接合部のせん断破壊も防止 できた。しかし、試験 L-4 体の破壊形式は、接合部 でコンクリートが部材の厚 さ方向に 割り裂かれる破 壊となった。以降この破壊 を割裂せん断破壊という。
接合部強度は 4 体の試験体の中で最も高かったもの の、その破壊は脆性的で期 待する強度には至らなか った。
このような実験結果を踏まえ、本年度は L-4 試験 体に生じた破壊を防止する ための補強方法を提案し て、実験計画を立て、試験体の作製まで行った。
2.接合部の割裂せん断破壊
実験で観測された試験体 L-4 の接合部まわりの破 壊状況を図 3 に示す。図(a)は試験体の表面から観測 されたひび割れの状況、図(b)は実験終了後に試験体 を解体して調査した内部の 破壊状況を示している図 (a)に示す線がひび割れを 、図(b)の塗りつぶしが割 裂していた範囲である。割裂の位置は図 4(a)に示す
ように柱と梁の主筋の間であった。
*:工学院大学建築学部建築学科教授 **:工学院大学大学院工学研究科建築学専攻大学院生
***:工学院大学大学院工学部建築学科学生
L形 接 合 部 試 験 体
ア ク チ ェ ータ ー
変 位 計 正 載 荷 負 載 荷
図2 L形接合部の実験方法
割 裂 せ ん 断 破
割 裂 せ ん 断 破 の 範 囲
(a) 表面のひび割れ状況 (b) 内部の破壊状況 図3 L-4試験体の破壊 状況
柱 梁 梁
梁
梁 主 筋
せ ん 断 補 強 筋
図1 シングル配筋ラーメン構造
総合研究所・都市減災研究センター(UDM)研究報告書(平成25年度)
テーマ1 小課題番号1.2-2 3.接合部の割裂せん断破壊の補強方法の提案
補強は割裂せん断破壊の 面に対して垂直に鋼材を 配置する方法とする。鋼材 は既存躯体や型枠に設置 することを考慮してボルト 、および、鉄筋回りのコ ンクリートを重点的に補強 することを考慮してスパ イラル筋を用いる。割裂せ ん断破壊の位置と、ボル ト お よ び ス パ イ ラ ル 筋 と の 関 係 を 、 図 4(a)お よ び (b)に示す。
4.実験計画
ここで提案する補強効果 を確認するために実験を 行う。試験体は昨年度実験を行った試験体 L-4と同 形状とし、図5に示す 4種類の補強 を行う。試験体 名をそれぞれ、L-4-1、L-4-2、L-4-3、L-4-4 とする。
L-4-1 は 無 補 強 で 補 強 効 果 を 確 認 す る た め の 基 本 試 験体とする。L-4-2はボル トを配置、L-4-3はスパイ
ラ ル 筋 を 配 置 、L-4-4 は ボ ル ト と ス パ イ ラ ル 筋 を 同 時に配置した試験体とする 。実験の加力方法、計測 方法とも昨年度の実験と同様とする。
5.まとめ
現在、写真1に実際の試験体の配筋を示すように、
試験体の作製が完了して実 験の準備を行っ ている。
実際の実験は次年度行う予定である。
参 考 文 献
1) 劉智、船津卓馬、小野里憲一、高橋良徳:シ ング ル 配 筋 ラ ー メ ン 構 造 の 提 案 と 予 備 実 験 そ の 1.
実験計画、日本建築学会大 会学術講演会、2013.9.1 2)船津卓 馬、 小野 里憲一 、 劉智、 高橋 良徳: シング
ル 配 筋 ラ ー メ ン 構 造 の 提 案 と 予 備 実 験 そ の 2.
実験結果、日本建築学会大 会学術講演会、2013.9.1
(a) 破壊の位置 (b)ボルトによる補強 (c) スパイラル 筋による補強
図4 割裂破壊の位置と補強方法
(a) L-4-1 (b) L-4-2 (c) L-4-3 (d) L-4-4
図5 試験体の種類
(a) L-4-1 (b) L-4-2 (c) L-4-3 (d) L-4-4
写真1 試験体の写真