基礎化学 II
第1章原子の構造 第1章原子の構造
原子の中の電子のふるまい理解する
(電子の状態を表す軌道の概念 軌道の概念を理解する)
原子の基本構造
物質(化合物・混合物)
分子の集団
単位構造の繰り返し Material
Molecule
原子 Atom
素粒子 自然
Nature
化学 Chemistry
物理 Physics 生物学 Biology
˜110種の原子 元素 Element
(化学の基本)
電子
原子核
陽子 中性子 electron
proton neutron -
+
˜10-10 m
˜10-14˜15 m
˜0.1 nm
˜1 Å
原子の基本構造
atomic nucleus
原子の基本構造(詳細)
電子
原子核
陽子
中性子 electron
proton
neutron -
+
˜10-10 m
˜10-14˜15 m
˜0.1 nm
˜1 Å
atomic nucleus
-1.60218 x 10-19 C
記号 数 質量 電荷
e- p
n
Z
Z
N
9.1096 x 10-31 kg
1.6726 x 10-27 kg
1.6749 x 10-27 kg
Z:原子番号(atomic number) Z+N:質量数(mass number)
e (1.60218x10-19 C):電気素量(elementary charge)
元素 記号 Z
Z+N C 電荷/e(イオンの場合)
12
C
6
【復習】同位体(天然同位体存在比),原子量,アボガドロ数
+1.60218 x 10-19 C
原子の基本構造までの歴史
+ 電子
原子核 原子の基本構造 原子 分子
Isaac Newton (1642-1727)
ニュートンの古典力学
John Dalton (1766-1844) ドルトンの原子論1802 倍数比例の法則
Amedeo Avogadro (1776-1856)
アボガドロの分子論1811 倍数比例の法則
電子
原子核
J.J.Thomson (1856-1940)
1874電子説 G. J. Stoney 1876陰極線
1897トムソンの実験 1897油滴実験 R. A. Milikan
クーロンの法則 ファラデーの法則
(古典電磁気学)
トムソンの原子模型
Ernest Rutherford (1871-1937) ラザフォードの原子模型
1911散乱実験
e/m e
-
-
- - - -
原子核の存在 原子番号の決定 原子核の大きさ
+
+
+ +
+
ラザフォードの原子模型の矛盾
+ e- -
ラザフォード型水素原子模型
Ze+ m
M
電子
陽子
r v
f f = k0Ze2/r2 = mv2/r v = (k0Ze2/mr)1/2 Etotal = Ek + Ep = k0Ze2/2r - kZe2/r
= -k0Ze2/2r k0 = 1/4πε0
r E
電子のエネルギー
原子核からの距離
0 +
-
連続的光放射
原子がつぶれてしまう
(不安定)
(制動放射)
【復習】クーロンの法則(静電気力)
【復習】等速円運動
【復習】力学的エネルギー保存則
光の波動と粒子の二重性
電子の波動と粒子の二重性
1924ド・ブローイの物質波
量子力学の扉を開く
量子論の夜明け
19世紀末,古典力学,古典電磁気学では説明できない現象が観測さ れ,このような現象を説明するために20世紀初頭量子論的考え方が 生み出された。ボーアの原子模型は水素原子スペクトルの解釈では画期的なもので あったが,これ以降の量子力学の発展には全く貢献できなかった。
黒体輻射
1900 プランクの量子仮説
光電効果
1905 アインシュタインの光量子説
水素原子スペクトル
1911 ボーアの原子模型
黒体の振動エネルギーは量子化されている
E = nhν h プランク定数
光は粒子でもありそのエネルギーは振動数にのみ比例する
E = hν
水素原子の電子の角運動量は量子化されている
mvr = n(h/2π)
水素原子の電子の軌道半径は量子化されている
r = aon2 ao ボーア半径
ボーアの量子条件
プランクの量子仮説
h はエネルギーの最小単位 h = 6.626076 x 10-34 J s
輻射の振動数 ν /1014 s-1
紫外破綻 波動のエネルギーはその振幅に依 存し振動数や波長にはよらない
(古典電磁気学)
黒体の温度によって最も多く輻 射される光の振動数が変化する 固体
加熱
固体の振動エネルギー 電磁波の放射
黒体輻射(すべての振動数の光 を吸収・放射する理想物体を黒 体という)
光
黒体の振動エネルギーは量子化されている
E = nhν h プランク定数
プランクの量子仮説
nhνのエネルギーをもつ振動子は以下の 確率でボルツマン分布している
e
-nh /kBT黒体輻射
Max Planck (1858-1947)
black body radiation
Iν(T) = 8πh c3
ν3 eh /kBT -1
Iν(T) = 8πkBT c3 ν2
e = 2.71828
kB ボルツマン定数 c 光速 T 温度
= R/NA
アインシュタインの光量子説
光電効果
金属板
光
光電子
光電流
V - +
E
(1/2)mv2 = eV0 (1/2)mv2 - eV ≥ 0
で光電子の運動エネルギーを求める
光は粒子でもありそのエネルギーは振動数にのみ比例する
E = hν
波動のエネルギーはその振幅 に依存し振動数や波長にはよ らない(古典電磁気学)
(1/2)mv2 = E - W = a(ν - ν0)
= h(ν - ν0) = hν - hν0
光のエネルギー 仕事関数
E = hν W = hν0
光電子の運動エネルギーは光 の振動数に比例し,その傾き は金属の種類によらない。
光電子が発生するためにのし きいエネルギー(振動数)を 仕事関数といい,金属の種類 によって変化する。
光はあたかも粒子のようにふるまい(光量子photon),
光量子1つが電子(粒子)1つにエネルギーを伝達する
光(電磁波)の波動と粒子の二重性
注意)相対性理論
(アインシュタイン)
E = mc2
は光の性質ではない!
光は光速で進む波である
(波動性)
古典電磁気学
光は光速で進む粒子である
(粒子性)
光電効果
(アインシュタイン)
E = hν h (プランク定数)
= 6.626076 x 10-34 J s c = ν
干渉・回折
c (光速)
= 3.00 x 108 m
波長
波長(λ)m 振動数(ν)s-1
光子(photon)
光のエネルギー E=hν=hc/λ
エネルギーによって色々な性質(種類)の光(電磁波)がある
<and>
【参考】光(電磁波)の種類
1 m 1 mm = 10-3 m 1 µm = 10-6 m 1 nm = 10-9 m (1 Å = 10-10 m = 10-1 nm) 1 pm = 10-12 m (1 Å = 100 pm)
HIGH ENERGY
LOW ENERGY 光の
エネルギー 高エネルギー
低エネルギー
波長(m)10-15
m
10-10 m = 1 Å
10-8 m = 10 nm 10-9 m = 1 nm 10-11 m
X線 γ線 紫外線
(極紫外線)
可視光線
(近赤外線)
(遠赤外線)赤外線 マイクロ波
ラジオ波
10-7 m = 100 nm 10-6 m = 1 µm
10-5 m 10-4 m
10-3 m = 1 mm 10-2 m 10-1 m 1 m 10 m 100 m
1 km
名称
振動数(Hz)
エネルギー
(eV/mol)
物質との 相互作用
対象 1021 1019 1017
1015 1013
1011 109 = 1 GHz
107 = 10 MHz 108 = 100 MHz
106 = 1 MHz 104 - 109
102 - 105 1 - 102
10-3 - 1 10-6 - 10-3
<10-6
原子核反応 外殻電子 内殻電子
原子価電子 分子軌道電子 分子振動
電子スピン
核スピン 分子回転
X線回折分析 紫外可視分光
分析 核磁気共鳴法
(NMR)
380 430 490 550 590 640 770nm
紫 青 緑 黄 橙 赤
吸収 吸収 回折
エネルギーを表す単位
cm-1 eV/mol kJ/mol kcal/mol
1 cm-1 = 1 1.240 x 10-4 1.196 x 10-2 2.859 x 10-3
1 eV/mol = 8.066 x 103 1 96.48 23.06
1 kJ/mol = 83.59 1.036 x 10-2 1 0.2390
1 kcal/mol = 3.498 x 102 4.336 x 10-2 4.184 1
【参考】電磁波と物質の相互作用
hν
物質
物質のエネルギー状態
光(電磁波)
吸収
hν
物質
物質のエネルギー状態
光(電磁波)
発光
物質 hν
光(電磁波)
回折・散乱
相対性理論 E = mc2 = cp 1924 ド・ブロイの推論
h (プランク定数)
= 6.626076 x 10-34 J s c (光速)
= 3.00 x 108 m 波長(λ)m 振動数(ν)s-1 光のエネルギー E = hν = hc/λ
hc/λ = cp より
p = h/
p = mv
の運動量をもつどんな粒子もp = h/
の波長をもつ波動性をもつ 粒子にも適用ド・ブロイの物質波 de Broglie
ド・ブロイ波長
= h/p = h/mv
いろいろな運動する物体のド・ブロイ波長
粒子 m/kg v /ms-1 λ/pm 300Kの電子 9.1x10-31 1.2x105 6.1x103 100Vで加速した電子 9.1x10-31 5.9x106 120 300KのHe原子 6.6x10-27 1.4x103 71
ライフルの弾丸 1.9x10-3 3.2x102 1.1x10-21 ゴルフボール 0.045 30 4.9x10-22
電子の波動と粒子の二重性(仮説)
電子の波動と粒子の二重性(実証)
1926 電子線回折(G. P. Thomson)
アルミニウム箔から のX線回折像
アルミニウム箔から の電子線回折像
金属 入射X線 θ
回折X線
電磁波回折の原理
金属 面間隔 d θ θ
θ
入射X線 回折X線
単位格子
回折の条件
(ブラッグの式)
2d sin θ = n λ
水素原子のスペクトル
19世紀後半,水素原子のスペクトル(水素原子の発光スペクトル)は,離散 的な(連続的でない)輝線スペクトルで構成されていることが観測された。
+
- H2 放電 H
スリット
プリズム
写真 発光
放電
熱エネルギー 発光
励起状態
基底状態 電子
短波長 長波長
紫外線 可視光線 赤外線
高エネルギー 低エネルギー
ライマン系列 バルマー系列 パッシェン系列 Balmer
Lyman
Paschen
λ1 ν =~
= 109680 ( - ) [cm1 -1] 22
1 n2
(n = 3,4,5,···)
λ ν = 1
~ = 109680 ( - ) [cm1 -1] 12
1 n2
(n = 2,3,4,···)
λ ν = 1
~ = 109680 ( - ) [cm1 -1] 32
1 n2
(n = 4,5,6,···)
λ1 ν =
~ = RH( - ) [cm1 -1] n12
1 n22
(n2 > n1) RH=109680 [cm-1]
リュードベリ(Rydberg)の式
リュードベリ定数 バルマー(Balmer)の式
ライマン(Lyman)の式
パッシェン(Paschen)の式
水素原子のスペクトル
短波長 長波長
紫外線 可視光線 赤外線
高エネルギー 低エネルギー
ライマン系列 バルマー系列 パッシェン系列
∞
n
1 2 3 4
水素原子中の電子のエネルギーはとびとびの値をとるらしいが,なぜそうなるのかわからない
ボーア(Bohr)の原子模型
+ e- -
Ze+ m
M
電子
陽子
r v f'
f
f' = Ze2 4πε0r2
向心力(クーロン力)
遠心力(等速円運動) mv2 f = r
f = f' より
mv2
r = Ze2 4πε0r2 r = Ze2
4πε0mv2
(1) (2)
(3)
(3)'
ボーアの条件 (1913) mvr = n
2πh
h
= n (n = 1,2,3····)
角運動量が量子化されている (4)
r = πZe2m ε0n2h2
電子軌道の半径が量子化
(n = 1,2,3····)
(5)
ド・ブロイの定常波条件 2πr = nλ
p = mv = h
より λ mvr = n
2π
h = nh (n = 1,2,3····)
mv = nh
2πr (4)'
4π2r2
mZe2 4πε0r n2h2
=
(3), (4)' より
ボーア(Bohr)の原子模型
r = πZe2m ε0n2h2
電子軌道の半径が量子化されている
(n = 1,2,3····)
(5)
ボーア半径
a0 =
= 5.292 x 10-11 m = 0.5292 Å πΖe2m
ε0h2
n2 r =
r = Z a0
n2
πe2m ε0h2
水素原子の場合 (Z = 1) r = πe2m
ε0h2
(n = 1,2,3····) n2 (5)'
= a0n2
r1 r2 r3 r4
n1 n2 n3
n4
r1 = a0 r2 = 4a0 r2 = 9a0 r2 = 16a0
原子核
ボーア(Bohr)の原子模型
r = πZe2m ε0n2h2
(n = 1,2,3····)
πΖe2m (5)
ε0h2
n2 r =
(mv)2= mZe2 4πε0r
(3) より
(6)
電子のエネルギーを考える
rn
+Ze 原子核
v -e m
電子
M >> m
( ) Ee = K + U
= mv1 2 - 2
Ze2 4πε0r
= Ze2 8πε0r
Ze2 4πε0r –
= Ze2
8πε0r –
= Ze2
8πε0
– πΖe2m
ε0h2 n2
= m e4
8ε02h2
– n2
Z2 ( )
(6)
(5) を用いる
を用いる
(7)
電子のエネルギーも量子化されている
ボーアの水素原子モデル
電子軌道の半径が量子化
( ) Ee = m e4
8ε02h2
– n2
( ) 1 (7)' 電子のエネルギーが量子化 水素原子
Z = 1
r = πe2m (n = 1,2,3····)
n2 (5)'
= a0n2 ε0h2
Ee 0 +
–
電子のエネルギー
n = 1 n = 1 n = 2 n = 3
n = 4
Ee1 = m e4 8ε02h2 – ( )
( ) Ee2 = m e4
8ε02h2
– 4
( ) 1
( ) Ee3 = m e4
8ε02h2
– 9
( ) 1
( ) Ee4 = –
( )m e4 161 8ε02h2
r1= a0
r2= 4a0 r3= 9a0 r4= 16a0
Ee∞ = 0 r∞= ∞
n = ∞
a b
発光 hν
∆E = Eb – Ea =
= hν =
( – ) m e4
8ε02h2 na2 ( ) 1
nb2 1
hcλ
ボーアの振動条件
( – ) m e4
8cε02h3 na2 1 ( )
nb2 1 ν =~ 1λ
=
R∞(ボーアの式)
109737 cm-1
ボーアの原子モデル(まとめ)
( – ) mZ2e4
8cε02h3 na2 ( ) 1
nb2 1 ν =~ 1λ
=
R∞(ボーアの式)
109737 cm-1
電子軌道の半径が量子化 r = πΖe2m n2 (5)'
= (a0/Z)n2 ε0h2
( ) Ee = mZ2e4
8ε02h2
– n2
( ) 1 (7)' 電子のエネルギーが量子化
(n = 1,2,3····)
電子の粒子性を考えた古典力学の等速円運動モ デルに,電子の波動性にもとづく量子条件をと りいれた!
電子の軌道半径とエネルギーは量子化された!
n = 1 (K殻)
n = 2 n = 3
n = 4
(L殻) (M殻) (N殻)
-e
+Ze
r 2
8 18 32
ゾンマーフェルト 楕円軌道
水素原子スペクトルの解釈はできた!
水素以外の原子ではもっと複雑なエネルギー準 位があるらしい?
各殻に2n2個の電子が収容されるのはなぜ?
ボーアのモデルは量子力学の扉を開けなかった(残念!)
粒子性と波動性
ミクロの池 ミクロのアメンボ
(原子核ポテンシャル) (電子)
波 粒子
ミクロの池の中のアメンボの 位置は確定できない!
ボーアモデルの破綻
ハイゼンベルグの不確定性原理
∆x ∆p ≥ h 粒子
ミクロの池の中のアメンボは見えな いが,水面の波の形でその動きを推 定することができるかも!
シュレーディンガーの波動方程式 (波動量子力学)
Ψ 波動関数 波
量子力学の成功につながる
原子核 原子核
ポテンシャル
エネルギー
高
低
電子が一定のとびとびのエネルギーを もつと一定の波が広がる
イメージ