地球惑星圏物理学
太陽の構造と活動
1
太陽の内部構造
理科年表サイトより転載
中心核 (0 < R < 0.2R⦿)
・温度 107 K, 密度 102 g cm-3 の高温高密度
・水素核融合反応 (PPⅠ反応)
放射層 (0.2R⦿ < R < 0.7R⦿)
・放射によってエネルギー輸送
対流層 (0.7R⦿ < R < 1R⦿)
・対流によってエネルギー輸送
水素を主成分とする電離したプラズマ
中心核から太陽表面までは直進すれば光速で2秒程度だが、
実際には光子は散乱を繰り返し、106-7年かけて表面に到達
中心核における核融合反応
14 第 1 章 太陽系の構造と太陽系形成
1.3 元素の起源
1.3.1 ビックバン起源の元素
宇宙の物質の起源であるビックバン元素合成により、水素とヘリウム (とわずかなリチウ ム) が生成される。D は重水素である。
H : He4 : D : He3 = 3 : 1 :∼ 10−5 :∼ 10−5 (重量比) (1.13) 原子数 5 と 8 に安定原子核が存在しないために、宇宙初期では Li よりも重い元素はほとんど 生成されない。
1.3.2 恒星起源の元素
リチウム (Li) よりも重い鉄 (Fe) までの元素は恒星の内部で生成されたと考えられている。
典型的な恒星は、中心核付近での水素核融合によるエネルギーを発生で輝いている。水素核 融合は環境によりいくつかの反応の種類があるが、水素核融合反応は、結局、
4 11H → 42He + 2e+ + 2νe + 2γ (1.14) となる反応である。ここで νe は電子ニュートリノ、γ は光子である。材料である 4 つの水素 原子核 11H と生成された1つのヘリウム 42He と 2 つの陽電子 e+ の質量を比較すると、反応 により質量が減少していることがわかる。その質量欠損が E = mc2 の変換を経て莫大なエネ ルギーを生んでいるのである。
恒星の内部では、さらに原子核同士の衝突や核子による陽子・中性子捕獲反応+ β 崩壊を 経て原子番号 26 の鉄 (Fe) までの重い元素生成が起こる。しかし、鉄より重い原子では核融 合しても質量欠損が無く、より重い原子を作るためには逆に莫大なエネルギーを注入が必要 である4。恒星内部での核融合反応は鉄 (Fe) で行き止まり、重い星の晩期には中心付近に鉄 コアが形成される。重い星は鉄コアの光分解をきっかけに超新星爆発を起こし、重元素を宇 宙空間にばら撒く(type II supernova)。
1.3.3 その他
• 超新星爆発 (重い星の死)
太陽系元素組成で鉄の存在比が比較的多かった原因は、超新星爆発で一旦分解した核子 が再合成される際に、安定な鉄元素が選択的に多く再生成されるからである。鉄 (Fe) よりも重い元素は超新星爆発という爆発的な高エネルギー状態の際に生成される。
特に白金 (Pt) よりも重い元素が生成されるためには、短時間しか寿命のない不安定核 子を一旦生成する必要がある。このために超新星爆発のような環境で非常に短い時間で いっきに中性子捕獲反応が起こる必要がある。これを r プロセスと呼ぶ、一方、遅い中 性子捕獲反応を s プロセスと呼ぶ。
• 高エネルギー宇宙線と核子の反応
高エネルギー粒子である宇宙線が核子と衝突すると、別の核子を生成することがある。
• 放射性元素の崩壊
放射性同位体は α 崩壊や β 崩壊により原子番号の異なる核種へと放射性崩壊を起こす。
4鉄よりも重い元素の場合、逆に核分裂させるとエネルギーが発生する (原子爆弾は、原子番号 92 のウラン 235(235U)の核分裂反応)
Proton-ProtonⅠChain Reaction (PPⅠ反応)
3
太陽ニュートリノ
ニュートリノで見た太陽
スーパーカミオカンデのサイトより
ニュートリノは物質とほとんど反応しないため、
太陽の今(8分前)の姿を捉えることができる
2.3. 太陽風
太陽放射
27図2-3.太陽の放射強度スペクトル。オーム社『宇宙環境科学』より
2.3 太陽風
2.3.1 流体力学の基礎方程式
太陽風を記述するための道具として、ここで流体力学の基礎方程式を導出する。
平均自由行程:微視的には粒子の集合体である気体や液体 (総称して流体と呼ぶ)を、流体 力学では巨視的に平均化して連続体として取り扱う。粒子の平均自由行程 (他の粒子との衝 突の間に移動できる距離) を l とし、対象とする現象の典型的大きさを L とする。このとき、
l ≪ L ならば連続体と近似できる。逆に、l ≫ L もしくは l ∼ L ならば連続体ではなく粒子 として取り扱わなければならない。
平均自由行程l は、粒子密度 n、粒子の衝突断面積 σ を用いて、
l ∼ 1
nσ, (2.4)
と見積もることができる。地球大気の平均自由行程を見積もると、n = p/kBT ∼ 105/(10−23· 102) m−3 ∼ 1026 m−3, σ ∼ 10−19 m2 より、l ∼ 10−7 mとなる。これは人体の大きさ(∼ 1 m) に対して十分小さいため、人間の感じるスケールでは大気は流体として振る舞う。太陽風の 場合、地球軌道付近で平均自由行程が 1 AU 程度であり、連続体近似が成り立たないように 思える。実際には、太陽風が電離したプラズマで構成されているため、太陽磁場の磁力線と ともに運動することにより、連続体的な振る舞いをする (次章参照)。
ここでは簡単のため、粘性を無視した流体(理想流体) を考える。流体力学の方程式は、流 体の速度 v(r, t)、密度 ρ(r, t)、温度 T(r, t)、圧力 p(r, t) についての方程式であり、質量保存 の式 (連続の式)、運動量保存の式 (オイラーの式)、エネルギー保存の式、状態方程式から成 る。ここで、r は位置ベクトル、t は時間である (太字はベクトル)。
太陽の放射強度スペクトル オーム社『宇宙環境科学』より
26 第 2 章 太陽
空の温度 106 K の高温領域をコロナと呼ぶ。コロナが高温となる理由ははっきりとわかって いなかったが、近年の数値シミュレーションや太陽観測衛星「ひので」「IRIS」の成果により、
対流などで磁気流体の横波である Alfv´en 波が励起され、コロナで波のエネルギーが熱エネル ギーに変換されているという「波動加熱説」が有力視されている。コロナの外延は静止した 状態になく、外へ向かって太陽風となって吹き出している。
図 2-2.太陽の大気構造。オーム社『宇宙環境科学』より
2.2 太陽放射
太陽からのエネルギー放出の大部分は電磁波として放射される。図 2-3 に太陽放射のスペ クトルを示す。全放射の大部分は可視光と赤外線であり、この領域は太陽光球面温度である
約 5800 K の黒体放射で近似できる。黒体放射はあらゆる波長の電磁波を吸収・放射できる理
想的な物体 (黒体) の放つ放射であり、その放射スペクトルは温度 T で熱力学平衡にある光子 のエネルギー分布を計算して求めることができる。そのようにして得られた単位時間・単位 面積・単位立体角・単位振動数あたりの放射エネルギー Bν(T ) は、
Bν(T ) = 2hν3 c2
1
exp (hν/kBT ) − 1, (2.1) と書くことができる。ここで、ν は振動数、c は高速、h はプランク定数、kB はボルツマン定 数である。単位時間・単位面積・単位立体角・単位波長あたりで書くと、
Bλ(T ) = 2hc2 λ5
1
exp (hc/λkBT ) − 1, (2.2)
ここで、λ は波長である。黒体放射のピーク波長 λmax は、温度 T と以下のような関係がある。
λmaxT = 2.898 × 10−3 [m K]. (2.3) この関係式はヴィーンの変位則と呼ばれる。太陽光球面の温度 5800 K を代入すると、ピー
ク波長は 500 nm の可視光であることがわかる。
図 2-3 をみると、可視光より短波長の放射強度は光球面温度の黒体放射の値より大きいこ とがわかる。この波長帯の電磁波は光球面より上空の領域を起源とし、紫外線は彩層上部や 遷移層、X 線はコロナから放射されている。この波長帯は太陽活動の変動による放射強度の 変化が激しい。
26 第 2 章 太陽
空の温度 106 K の高温領域をコロナと呼ぶ。コロナが高温となる理由ははっきりとわかって いなかったが、近年の数値シミュレーションや太陽観測衛星「ひので」「IRIS」の成果により、
対流などで磁気流体の横波である Alfv´en 波が励起され、コロナで波のエネルギーが熱エネル ギーに変換されているという「波動加熱説」が有力視されている。コロナの外延は静止した 状態になく、外へ向かって太陽風となって吹き出している。
図 2-2.太陽の大気構造。オーム社『宇宙環境科学』より
2.2 太陽放射
太陽からのエネルギー放出の大部分は電磁波として放射される。図 2-3 に太陽放射のスペ クトルを示す。全放射の大部分は可視光と赤外線であり、この領域は太陽光球面温度である
約 5800 K の黒体放射で近似できる。黒体放射はあらゆる波長の電磁波を吸収・放射できる理
想的な物体 (黒体) の放つ放射であり、その放射スペクトルは温度 T で熱力学平衡にある光子 のエネルギー分布を計算して求めることができる。そのようにして得られた単位時間・単位 面積・単位立体角・単位振動数あたりの放射エネルギー Bν(T ) は、
Bν(T ) = 2hν3 c2
1
exp (hν/kBT ) − 1, (2.1) と書くことができる。ここで、ν は振動数、c は高速、h はプランク定数、kB はボルツマン定 数である。単位時間・単位面積・単位立体角・単位波長あたりで書くと、
Bλ(T ) = 2hc2 λ5
1
exp (hc/λkBT ) − 1, (2.2)
ここで、λ は波長である。黒体放射のピーク波長 λmax は、温度 T と以下のような関係がある。
λmaxT = 2.898 × 10−3 [m K]. (2.3) この関係式はヴィーンの変位則と呼ばれる。太陽光球面の温度 5800 K を代入すると、ピー
ク波長は 500 nm の可視光であることがわかる。
図 2-3 をみると、可視光より短波長の放射強度は光球面温度の黒体放射の値より大きいこ とがわかる。この波長帯の電磁波は光球面より上空の領域を起源とし、紫外線は彩層上部や 遷移層、X 線はコロナから放射されている。この波長帯は太陽活動の変動による放射強度の 変化が激しい。
黒体放射の式
ヴィーンの変位則
26 第 2 章 太陽
空の温度 106 K の高温領域をコロナと呼ぶ。コロナが高温となる理由ははっきりとわかって いなかったが、近年の数値シミュレーションや太陽観測衛星「ひので」「IRIS」の成果により、
対流などで磁気流体の横波である Alfv´en 波が励起され、コロナで波のエネルギーが熱エネル ギーに変換されているという「波動加熱説」が有力視されている。コロナの外延は静止した 状態になく、外へ向かって太陽風となって吹き出している。
図 2-2.太陽の大気構造。オーム社『宇宙環境科学』より
2.2 太陽放射
太陽からのエネルギー放出の大部分は電磁波として放射される。図 2-3 に太陽放射のスペ クトルを示す。全放射の大部分は可視光と赤外線であり、この領域は太陽光球面温度である
約 5800 K の黒体放射で近似できる。黒体放射はあらゆる波長の電磁波を吸収・放射できる理
想的な物体 (黒体) の放つ放射であり、その放射スペクトルは温度 T で熱力学平衡にある光子 のエネルギー分布を計算して求めることができる。そのようにして得られた単位時間・単位 面積・単位立体角・単位振動数あたりの放射エネルギー Bν(T ) は、
Bν(T ) = 2hν3 c2
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exp (hν/kBT ) − 1 , (2.1) と書くことができる。ここで、ν は振動数、c は高速、h はプランク定数、kB はボルツマン定 数である。単位時間・単位面積・単位立体角・単位波長あたりで書くと、
Bλ(T ) = 2hc2 λ5
1
exp (hc/λkBT ) − 1, (2.2)
ここで、λ は波長である。黒体放射のピーク波長 λmax は、温度 T と以下のような関係がある。
λmaxT = 2.898 × 10−3 [m K]. (2.3) この関係式はヴィーンの変位則と呼ばれる。太陽光球面の温度 5800 K を代入すると、ピー
ク波長は 500 nm の可視光であることがわかる。
図 2-3 をみると、可視光より短波長の放射強度は光球面温度の黒体放射の値より大きいこ とがわかる。この波長帯の電磁波は光球面より上空の領域を起源とし、紫外線は彩層上部や 遷移層、X 線はコロナから放射されている。この波長帯は太陽活動の変動による放射強度の 変化が激しい。
・可視光, 赤外線がエネルギーの大部分。5800 Kの黒体放射でよく近似できる
・紫外域は太陽大気から放射
紫外線 → 彩層上部から遷移層, X線 → コロナ
5
太陽の大気構造
オーム社『宇宙環境科学』より
光球(光球面)
・温度 5800 K
・可視光の見かけ上の表面
彩層
・温度 8000Kまでゆるやかに上昇
・フレア, プロミネンス
遷移層
・温度急上昇
コロナ
・温度 106 K (波動加熱?)
・太陽風, コロナ質量放出
太陽の大気構造
7
日本評論社『太陽系と惑星』より space.com
9
太陽風
Biermann (1951, 1957) 彗星の尾から予想
Parker (1958)
理論的に太陽風を導いた 1959年以降
人工衛星による直接観測
太陽風
コロナ質量放出
http://sohowww.nascom.nasa.gov/bestofsoho/Movies/flares.html
太陽風:コロナから超音速で吹き出す高温プラズマ
速度:400-1000 km/s, 温度:~105 K, 密度:~5個/cm3
※1天文単位(Astronomical Unit, AUと略す)での値 太陽-地球の距離 = 1.5 1011 m