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造血における前駆細胞の系列決定の過程 - J-Stage

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Academic year: 2023

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【解説】

血液細胞や免疫細胞は,細胞分化の研究材料として久しく用 い ら れ て き た.に も か か わ ら ず,本 質 的 な 問 題,す な わ ち

「ど の よ う な 系 列 決 定 を 経 て つ く ら れ る か」 と い う 事 象 に,

長い間手が付けられていなかった.最近,ようやく真の姿が 浮かび上がってきた.それは,多くの教科書に描かれている 仮想的なモデルとは異なるものであった.

血液細胞は赤血球,血小板,白血球に大別されるが,

さらに白血球にはT細胞,B細胞,顆粒球など多様な細 胞種が含まれる(図1.これらすべての細胞種は,た だ1種類の造血幹細胞からつくられる.その細胞分化の 過程では,多能性の幹細胞から単能性の前駆細胞へと,

分化能が少しずつ限定されていく.分化能が限定される ことを細胞の運命決定,あるいは系列決定という.

造血における系列決定の過程は,血液学においては最 重要課題のはずであるが,長らく研究が停滞していた.

一方で,ほとんどの教科書には分化経路図が既知の事実

のように載っている.それは,赤血球,血小板,顆粒球 などリンパ球以外の細胞すべてを一つのグループにまと め,T細胞とB細胞をもう一つのグループとして,造血 幹細胞からの最初に分岐でこれら2つの系列に分かれる とするものである(図2.このモデルは,70年代の終 わり頃から教科書に載るようになった.本稿ではこのモ デルを古典的モデルと呼ぶ.血液/免疫細胞分化の分野 で最先端の研究を行っている学者が,この古典的モデル をレクチャーのイントロでそのままの形で使うことはさ すがに少なくなってきたが,専門分野外の血液学/免疫 学の研究者の多くは,相変わらずこのモデルを使用して いる.

造血過程に関するきちんとした研究は,1990年代後 半になってようやく始められた.すると,この古典的モ デルでは合わない知見が多々見つかってきた.本稿で は,提唱されてきたいろいろなモデルを紹介し,考察を 加える.

血液細胞の種類

図1に示すように,血液細胞は,赤血球,血小板,白

造血における前駆細胞の系列決定の過程

古典的なミエロイド系/リンパ系二分法からの脱却

河本 宏 * 1 ,桂 義元 * 1 * 2

Lineage Commitment Process of Progenitors during Hematopoi e- sis : Revision of a Classical Myeloid/Lymphoid Dichotomy Con- cept

Hiroshi KAWAMOTO, Yoshimoto KATSURA, *1京都大学再生医 科学研究所再生免疫学分野教授,*2日本大学医学部先端医学講座 細胞再生・移植医学部門

(2)

血球に大別される.言うまでもないことだが,赤血球は 酸素を運び,血小板は出血時に赤血球を凝集させて傷口 を塞ぐ働きをする.白血球は病原体から体を守る働きを しており,免疫細胞と呼ぶこともできる.白血球は,大 きく食細胞系とリンパ球系に分けられる.食細胞は異物 や体内の死細胞を食べて消化する細胞のことで,大食細 胞(マクロファージ)と顆粒球が含まれる.血液中を流 れる単球はマクロファージの前駆細胞である.顆粒球に は,好中球,好塩基球,好酸球が含まれるが,食細胞と して主に働いているのは好中球である.

リンパ球にはT細胞とB細胞が含まれる.これらはい わゆる獲得免疫,すなわち抗原特異的な免疫を担う細胞 である.B細胞は,病原体の無力化,毒素の中和などの 働きをもつ抗体をつくる.一方T細胞には,ウイルスや 細菌に感染した細胞を殺すキラー T細胞と,B細胞や食 細胞の働きを促進する役割を担うヘルパー T細胞など が含まれる.

これらの血液細胞は,胎生期には肝臓で,成体では骨 髄で分化する.ただしT細胞だけは胎生期でも成体期 でも胸腺という別の臓器で分化する.

本稿ではいろいろの食細胞系の細胞を合わせてミエロ イド系細胞と呼び,近縁である赤血球と血小板系の細胞 を合わせてエリスロイド系と呼ぶことにする.すなわ ち,血液細胞を大きくエリスロイド系,ミエロイド系,

T細胞系,B細胞系に分けて話を進める.このように単 純化すれば,古典的モデルは,造血の最初の段階でミエ ロイド‒エリスロイド前駆細胞とT‒B前駆細胞に分かれ る,というように表すことができる(図3

古典的モデルの枠組みは形態的な分類法に由来する さて,図1を見ていただくと,血液細胞は免疫細胞

(白血球)とそうでない細胞(赤血球と血小板)と分け られそうに見える.したがって,[エリスロイド系]と,

図1血液細胞の種類と機能

図2古典的造血モデル

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[ミエロイド系+T細胞系+B細胞]に分けられてもよ かったはずである.しかし,古典的モデルではそのよう な分け方はなされなかった.また,教科書に載るくらい だから何らかの実験的根拠に基づいているのだろうと思 われるかもしれないが,実はこれを支持する実験データ があるわけでもなかった.どのような経緯でこのモデル が教科書に載るようになったのか,見ていこう.

19世紀の終わり頃に細胞の染色法が開発され,顕微

鏡観察による形態学的な研究が進んだ.骨髄の細胞を顕 微鏡で観察すると,赤血球,血小板,食細胞系の細胞に ついては,成熟細胞だけでなくその前駆細胞も,核の形 や細胞質の染色性などの特徴から詳細な分化段階を特定 することができる(1) (図4.そのため,赤血球,血小 板,食細胞はまとめてミエロイド系細胞(骨髄の細胞と いう意味)と呼ばれていた.これが,エリスロイド系と ミエロイド系を合わせたくくり方の始まりである.現在 でもエリスロイド系とミエロイド系を合わせてミエロイ ド系と呼ばれることもある.

一方リンパ球は,もともとはリンパ液中に多い細胞と して名づけられた.組織学的には,脾臓,胸腺に多い細 胞として記載されていた.形態学的には,特徴のないこ とが特徴とも言え,核以外の部分すなわち胞体が少ない ので,大した働きはしてないように見える.血液細胞の 前駆細胞という説や,栄養を末梢に運ぶ細胞という説な どなどがあったが,何もしていない細胞とする説すら あった.

1960年代になるとB細胞は抗体を産生する細胞とし て,T細胞は抗体産生を助ける細胞あるいは感染細胞を 傷害する細胞として,理解されるようになった(2).両者 図3単純化した古典的モデル

図4「ミ エ ロ イ ドエ リ ス ロ イ ド 系」と「リンパ系」という二分法 は,100年以上昔に形態学的な観察 から形成された

(4)

は明確に異なる機能を有しているにもかかわらず,これ らが抗原に特異的に反応するというほかにはない特徴を 共有していることが注目され,両者ともそのまま「リン パ球系列」というくくりにおさまった.

このように,形態学的研究から,ミエロイド‒エリス ロイド系列とリンパ球系列という二分法が形成された.

さらにその延長線上に,造血はこの2つの系列により構 成されるとする「二元論」さえも提唱された.そのよう ななか,1977年に1個の造血幹細胞からすべての血液細 胞がつくられることが示された(3).すると,当然のこと のように「同じグループ内の細胞は分化の経路も途中ま では共通であるはずだ」と想定された.こうして,ミエ ロイド‒エリスロイド系列とT‒B系列に分岐するという 古典的モデルが教科書に定着したのである.

提唱されたいろいろな造血モデル

古典的モデル以外にもいくつかの造血モデルが提唱さ れた.一つは,Ogawaらが1983年に提唱した確率的モ デルである(4) (図5A).造血前駆細胞をコロニー法で解 析すると複数種の細胞からなるコロニーが形成される が,その組み合わせはランダムのように見えるという.

この知見を敷衍して「系列決定はランダムな組み合わせ で進行する」というコンセプトを提示したのだ.した がって,ランダム拘束モデルとも呼ばれている.元来は ミエロイド‒エリスロイド系の範囲内で提唱されたモデ ルであったが,T/B系列も含めて一般化して論じる研 究者も多くいた.特に本邦では一世を風靡したモデルで あった.しかし,系列の組み合わせには一定のルールが あることが明らかになり,今日ではこのモデルの意義は 失われている.

Brownらが1985年に提唱したモデルでは,多能前駆 細 胞 は,分 化 に 従 っ て エ リ ス ロ イ ド→ミ エ ロ イ ド

→B→Tというように順次産生する前駆細胞の種類が変 わり,その途中で中間的な分化能を示す前駆細胞段階も あるとした(5) (図5B).提唱者らは現在でもこの説の有 効性を主張している.しかし,このモデルでは後述する ミエロイド‒Tという前駆細胞の存在は説明できない.

90年代半ばには,転写因子欠損マウスの解析から新 たなモデルが提唱された(図5C).このモデルの主な論 拠となっているのは,PU.1欠損マウスで赤血球/血小板 は正常に分化するがミエロイド,T, B系列が欠如する とした報告(6)と,Ikaros欠損マウスではT,B系列だけ が欠如するとした報告(7)である.しかし,これらの論文 における表現型解析結果は,その後の詳しい研究により

不正確であったことがわかっている.

これらのどのモデルでもT‒Bというステージが存在 しているという点に注目していただきたい.リンパ球系 列というカテゴリーの呪縛がそれくらい強かったという ことであろう.

古典的モデルを支持する報告

1990年代の後半から,血液細胞の分化経路の研究が 活発に行われだした.フローサイトメーターで細胞を分 取する技法と培養技術の進歩によって,分離した前駆細 胞を培養して分化能を調べるという手法が可能となった からである.1997年にStanford大学のWeissmanらの グループが,骨髄細胞の中にリンパ系共通前駆細胞 図5いろいろな造血モデル

(5)

(T‒B前駆細胞)を同定したと報告した(8).同グループ は,2000年にさらにミエロイド‒エリスロイド系前駆細 胞を同定したと報告した(9).これらの論文以後,古典的 モデルは実証されたかのような論調が研究者の間で支配 的になった.

ミエロイド基本型モデルの提唱

形態や機能が似ているからといって,実際に近縁とは 限らない.分化途上の前駆細胞の系列決定状態を明らか にするためには,個々の前駆細胞について,T, B, ミエ ロイド系への分化能を同時に調べるクローナルアッセイ が必要と考え,筆者らは1997年に MLP (multi-lineage  progenitor) アッセイを開発した(10).この方法を用いて マウス胎仔肝臓の造血前駆細胞を解析したところ,T,

B,ミエロイド細胞をすべてつくる前駆細胞,一つ系列 の細胞しかつくらない前駆細胞のほかに,T細胞とミエ ロイド細胞をつくる前駆細胞,B細胞とミエロイド細胞 をつくる前駆細胞が検出された.一方で,T細胞とB細 胞だけをつくる前駆細胞は全く検出されなかった.ク ローナルアッセイにおいては,限られた系列の細胞しか つくらなかった場合は,その結果が必ずしも調べた前駆 細胞の分化能を正確に反映しているとは言い切れない.

しかし,特定のタイプの前駆細胞は決して検出されない ことや,表面抗原によって分離した前駆細胞分画中に特 定のタイプの前駆細胞が濃縮できることなどを組み合わ せて解釈すれば,ある程度は実証的にデータを読み解く ことができる.一連の実験結果から,ミエロイド‒T前 駆細胞およびミエロイド‒B前駆細胞の存在と,T‒B前 駆細胞の不在が強く示唆された(10, 11)

筆者らはさらにエリスロイド系列も解析できるように MLPアッセイを改良し,マウス胎仔肝臓中にミエロイ ド‒エリスロイド系前駆細胞とミエロイド‒T‒B系前駆 細胞が存在することを明らかにした(12).これらの結果 を合わせて,2001年に新しいモデルを提唱した(13, 14) 

(図6

筆者らの提唱するモデルでは,最初の分岐でミエロイ ド‒エリスロイド前駆細胞とミエロイド‒T‒B系前駆細 胞に分岐する.ミエロイド‒T前駆細胞とミエロイド‒B 前駆細胞は,このミエロイド‒T‒B系前駆細胞からつく られる.すなわち,ミエロイド系への分化能がエリスロ イド系,T系,B系すべてへの分化経路に付随するとい うモデルである.最近は,ミエロイド基本型モデル 

(myeloid-based model) と呼んでいる(15〜17).ミエロイ ド系を血液細胞のプロトタイプとしてとらえ,ミエロイ

ド系細胞をつくることのできる状態というのを基軸とし て他の系列の細胞をつくるための分化プログラムが進行 するというコンセプトを提示している(図7

ミエロイド基本型モデルの実証

ミエロイド基本型モデルは,ミエロイド‒T‒B前駆細 胞,ミエロイド‒T前駆細胞,ミエロイド‒B前駆細胞と いう中間段階が含まれているのが特徴である.このうち ミエロイド‒T‒B前駆細胞については,2005年にJacob- senらによってマウスの骨髄中にその存在が追認さ れ(18),2010年にDickらによってヒト骨髄中でもその存 在が確認された(19).かなり市民権は得られたと考えら れる.ただし,Jacobsenらはミエロイド‒T‒B前駆細胞 を造血幹細胞とT‒B前駆細胞の間に配置するモデルを 提唱した(図5D).折衷案的でおさまりがよさそうに見 えるからか,レクチャーのイントロでこのモデルを使う 人が増えてきている.ただし,古典的モデルの二大特徴 の一つであるT‒B前駆細胞を残したままなので,いわ ば改変型古典的モデルである.

図5Dのようにミエロイド‒T‒B前駆細胞はモデル上 ではT‒B前駆細胞と共存しうる.しかし,ミエロイド‒

T前駆細胞やミエロイド‒B前駆細胞は,T‒B前駆細胞 図6ミエロイド基本型モデル(桂/河本,2001年)

図7古典的モデルは全系列を並列に置くが,ミエロイド基本 型モデルでは基本型と特殊型に分ける

(6)

を基軸とする古典的モデルとは本質的に相容れない.ど ちらが正しいか,この問題における筆者らの成果を紹介 しよう.

筆者らは「T細胞がつくられる経路上で,B細胞への 分化能とミエロイド系細胞への分化能のどちらを長く保 持するかを検証する」というアプローチをとった.胸腺 中の最も未分化なT前駆細胞は,すでにB細胞への分化 能をほぼ失っていることはわかっていた(20).筆者らは,

新規に開発したクローナルアッセイ法を用いて,この胸 腺中のT前駆細胞の中にはマクロファージへの分化能 を保持している細胞が多数存在していることを示し た(21).さらに,それらのT前駆細胞が,胸腺中でマク ロファージを実際につくっていることも示した.すなわ ち,T細胞へ向かう分化経路上では,B細胞をつくるこ とができなくなってからも,ミエロイド系細胞への枝分 かれが起こっていることになる(図8.これは古典的 モデルでは説明できない知見であり,造血モデルの改訂 の必要性を迫る決定打となった.同時に,ミエロイド基 本型モデルを強く支持する結果でもあった.

2010年に,筆者らはある培養条件ではミエロイド‒T 前駆細胞段階で分化が停止し自己複製することから,T 系列へ完全に決定されるステップが分化のチェックポイ

ントとして働いていることを示し,またそれが転写因子 Bcl11bに依存性であることを見いだした(22) (図9.こ の知見は,ミエロイド‒Tという決定状態の前駆細胞を 維持することができたという意味で,ミエロイド基本型 モデルに明確な支持を与えている.

ミエロイド基本型モデルに照らした種々の現象の再 考

ミエロイド基本型モデルを念頭に考察すると,血液学 /免疫学の分野で見られる種々の現象を理解しやすくな る.いくつか紹介しよう.

T細胞とB細胞は,その本質的な属性を考えると遠縁 である.すなわち,T細胞は細胞傷害性(キラー)細胞 的な性質が基本であり,B細胞は食細胞の一種といって よいほど食細胞的な性質を有している.現にB細胞は抗 原レセプターに結合した異物を捕食するし,さらにマク ロファージと同じようにT細胞に対して抗原提示を行 いT細胞を活性化する.また,培養しているうちにB細 胞がマクロファージに変化するという報告は古くから数 多く見られる(23)

白血病は血液細胞が制御をはずれて増殖する病気であ るが,その中には異なる系列の表現型を重ねて有するタ イプ(混合型白血病)がある.そうしたものの中では,

ミエロイド‒B型とミエロイド‒T型が多く,T‒B型はほ とんど見られない(24).古典的モデルではこのような系 列をセットでつくる前駆細胞段階がないので,この種の 白血病がどの分化段階の細胞に由来するかは長らく不明 であった.最近では,混合型白血病の起源は,ミエロイ ド基本型モデルに基づいて考察されるようになってきて いる.たとえば,ミエロイド‒T前駆細胞段階で分化停 止しさらに自己複製能を獲得して白血病化すると,起源 となる分化段階の状態が受け継がれるので,ミエロイ ド‒T混合型白血病になるという機序が考えられている

(図10 図8前駆細胞はB系列への分化能を失ってからもミエロイ

ド細胞を生成する

図9ミエロイド‒T前駆細胞からT系列への完全決定は転写因

Bcl11bによって駆動される分化のチェックポイントである 図10混合型白血病の発症機序を表すモデル

(7)

免疫細胞の系統発生に関する考察

細胞分化の研究においては,ときに進化という視点で 俯瞰したスケールの考察が必要であるが,この点でもミ エロイド基本型モデルは種々の知見をよく反映してい る.食細胞のように「動きまわって食べる」というのは 単細胞生物のときから保持していたごく原始的な機能で ある.多細胞生物になったときに,多くの体細胞でこの 機能は封印されたが,血液細胞はそのまま機能を発揮し 続けた.

やがて食細胞から赤血球やキラー活性をもつ細胞種が 派生した(図11.キラー活性をもつ細胞は無脊椎動物 でも見つかっている(25)ことから,そのような細胞種の 派生は,脊椎動物になる前に起こったと考えられる.脊 椎動物になって,無顎類(ヤツメウナギなど)から軟骨 魚類(サメ,エイなど)への途上で,Ragという分子を 用いた遺伝子再構成システムが形成され,獲得免疫系が 進化した(26).このステージにあたる生物が現存しない ので,何が起こったかは想像するしかない.筆者らは,

その際にキラー細胞と食細胞がそれぞれ遺伝子再構成で つくられるレセプターを用い始めたのではないかと考え ている.すなわち,T細胞はキラー細胞から,B細胞は マクロファージから,それぞれ独自に進化したというこ とになる.そう考えると,T細胞とB細胞の系統発生上 の分岐は,キラー細胞が食細胞から派生した時点と考え られ,相当に古いことになる.

実際,軟骨魚類の段階ですでにT細胞とB細胞への分 極は完了していることがわかっている(27).カエルや魚 のB細胞はマクロファージ並みの貪食能をもつことが報 告されており(28),これはB細胞がマクロファージから 進化したことを示すと解釈されている.最近,無顎類は 独自の獲得免疫系を保有することが発見された.無顎類 の獲得免疫系の細胞には2種類あって,それぞれがT細 胞とB細胞に似た性質をもつと報告されている(29).T 細胞とB細胞の系列が系統発生学的に非常に古い時代に 分極していたことを示している.

おわりに

本稿で見てきたように,古典的なミエロイド/リン フォイド二分法では造血過程が説明できないことがわ かっていただけたと思う.歴史的にはいろいろなモデル が提唱されてきたが,古典的モデルに代わるモデルとし ては,現時点ではミエロイド基本型モデルが最も妥当だ と思われる.

現代社会を理解するために社会の構成民族のルーツを 理解する必要があるように,血液学/免疫学の理解を深 めるためには,細胞種の起源を知ることが重要である.

ようやく造血細胞の系列間の類縁関係の真の姿がわかっ てきたところである.しかし,ミエロイド細胞をつくる 主要な経路はどれかという重要な問題は残っている.ま た,帰属がはっきりしない細胞種も多い.たとえばマス 図11赤血球,T細胞,B細胞の系統発生についての仮説

(8)

ト細胞がどの系列と近縁なのか,あるいはNK細胞がど こでどうやって生成するかなどは未解明である.ミエロ イド基本型モデルが今後の研究を先導する役割りを果た すものと期待している.

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