セルフ・ヘルプ・グプレープ(SHG)の機能について
その社会的機能と治療的機能の相互関係
岡 知 史
大阪市立大学社会福祉研究会
研究紀要 第4号 抜刷
セルフ・ヘルプ・グプレープ(SHG)の機能について
その社会的機能と治療的機能の相互関係
岡 知 史
SHGはどのような機能をもっているのだろうか。メンバーはSHGを通じて何を しようとしているのか。SHGによってどのよう一に自分たちの問題を解決しようとし ようとしているのか。SHGはどのように周囲の社会とかかわっていこうとしているの か。本稿はSHGの機能を4つに分類し、その各機能間の相互関係を明らかにしようと するものである。
1.SHGの機能の分類
M.L.Moeller はSHGの機能を「治療志向」〉innere Selbsthilfe〈 と「社会志 向」〉auPere Selbsthilfe〈に分けているIi「治療志向」とは、個人と社会の不適 応から生ずる問題をもっぱら当該個人の側の再調整によって解決しようとするものであ
り、「社会志向」とはその反対に、社会の側の再調整を求めることによって問題を解決 しようとするものである。
「治療志向」はさらに「認識レベル」と「行動レベル」に分けることができるだろ う。2)「認識レベル」とは認識レベルでのメンバーの自己変革を目指すものであり、た
とえば「格印を押された」(stigmatized)自己イメージの修正、世界観、「障害」観、
「疾病」観といった「ものの見方」の修正を意味する。「行動レベル」とは、行動レベ
ルにおけるメンバーの自己変革を目指すものであり、たとえば酒害者にとって「飲酒」
のような「望ましくない行動」を抑圧させ、それに代わる「断酒」という「望ましい行 動」を身につけることを意味する。
いうまでもないことだが「認識レベル」と「行動レベル」とを全く分離してしまうこ とは不可能である。たとえば、飲酒にふけっていた酒害者が「断酒」するという「行動
の変容」を示すためには、酒害者自身が飲酒に対する認識を変えねばならない。また逆 にずっと家にとじこもっていた「障害者」は、外に出るという「行動の変容」によって 社会や自分自身に対する認識を大きく変えていくのである。このように「認識」の変化 は「行動」の変化をみちびくものであるし、またそうでなくてはならない。「行動」の
変化もまた「認識」の変化をみちびくものであるし、またそうでなくてはならないもの である。
一方「社会志向」は「サービスレベル」と「アクションレベル」に分けることが可能 であろう。「サービスレベル」とは、メンバーが同じ問題をかかえて悩んでいる人たち
に直接的にボランタリーな援助(主としてピア・カウンセリングのような対人サービス)
を提供することをいう。それに対して「アクションレベル」とは、SHGのソーシャル■・
アクションを行う機能をいうのである。ピア・カウンセリング、電話相談、友愛訪問
などは「サービスレベル」に類するものであり、福祉制度拡充への署名運動などは「ア クションレベル」に類するものである。
しかし、「社会志向」もやはり明確に「サービスレベル」「アクションレベル」の2 つに区分することは不可能であろう。たとえば、情報の提供という機能ひとつとりあげ
ても、その情報をパンフレットやマスコミを使ってひろく社会一般の人びとに提供する のなら、それは社会啓発活動として「アクションレベル」に属し、面接や電話相談を通
じて個別的になされるのなら、それは「サービスレベル」に属するものとなる。
SHGの機能の分類3)
認識 レ ベ ル
−−−⊂
治 療 志 向
(innere Selbsthilfe) 行動 レ ベル
サービスレベル
e 「[二
社 会 志 向
(auβere Selbsthilf アクションレベル
実は予想しうることであるが「治療志向」「社会志向」という区分も明確なものでは ない。むしろ、SHGにおいてはひとつの行動ないし活動は「治療志向」的側面と「社 会志向」的側面の二つを兼ね備えている場合が多いのである。例えば、ボランタリー・
サービスとしてのピア・カウンセリングをとりあげれば、それは、ボランティア活動と しては明らかに「社会志向」的側面をもつものであるが、その一方、ボランティア活動
を通じて「社会に役だっている自分」を発見して「格印された」自己イメージを修正し たり、カウンセリング過程で相手のもつ「問題」(それは同時にピア・カウンセラー自 身の「問題」である)をより客観的に見ることによって、自分の「問題」をより明確に把
−74一
握することができるのである。すなわち「治療志向」的側面ももつわけである。このよ うにSHGにおいてはひとつの活動が「治療志向」と「社会志向」という2つの機能を 同時にもつことがある。これをSHGの機能の「両向性」とここではよびたい㌔)
A.H.Katzは、「治療志向」の強いSHGをinner−forced groups,「社会志向」
の強いSHGをouter−forcedgroupsとよんでいるが、5)もしも「治療志向」あるいは
「社会志向」の機能しか持たないグループがあるとしたら、それはもはやSHGではな いと考えてよいだろう。SHGの特徴は、そしてその強みは、この「両向性」にある。6〉・
以下、各「レベル」にそってSHGの具体的な活動をひとつひとつ検討していくのだが、
ひとつの活動は同時に複数の「志向・レベル」(機能)をもつことを忘れてはならない。
各「レベル」(機能)との関連で述べられたいくつかの活動は、実際には「両向性」に よって、ひとつの活動として見なされるべきであるという状況が生じうるのである。
2.認識 レベル
認識レベルとは、自己の認識レベルでの変革によって社会との矛盾を解決しようとす
るSHGのはたらきをいう。人はSHGという小集団の中でどのように自己の認識を変 え、社会との矛盾をなくそうとしているのだろうか。私は、治療一認識レベルにおいて
行なわれるSHGのグループ・プロセスを6つに分けたいと考えている㌔Iすなわち、
(1)普遍化過程
(2)比較相対化過程
(3)情報付与過程
(4)枠組付与過程
(5)価値転換過程
(6)文化形成過程
(1)の普遍化過程とは、自分のもっている「問題」が自分固有のものではなく、他の多
くの人たちも同じようにもっている「問題」であることに気付くことをいう。いままで、
このような「問題」に悩んでいるのは「世界でただ一人だ」と思っていたのが、自分以 外にも自分とそっくり同じような「問題」に悩んでいる人を発見するのである。このよ
うに「問是引を自分個人に特有のものとしてではなく、一般の人びとにも共通なものと してとらえること、すなわち「問題の普遍化」は「問題」を客観化することにもつなが
る重要な過程である㌔)
(2)の比較相対化過程とは、「問題の普遍化」によって生活状況に多くの共通点を見い だしあったメンバーたちが、それでもお互いの「問題」は少しずつ違っていることを発 見する過程である。たとえば、こんどこそ酒をやめようと病院から退院してきたばかり
の酒害者が、断酒を何年も続けている人と出会った場合、後者は前者に「依存症は克服 できるのだ」という認識を与え、前者は後者に「断酒しようとしてできなかったころの 自分」を想起させることになる。メンバーは、お互いの姿に、過去の、未来の、あるい
は「一杯飲んでしまったあとの」自分を認めるのである。このことによって、かれらは
「問題」をより客観的なものとして見ることができる。つまり「仲間は鏡である」くデ〕
(3)の情報付与過程とは、「問題」に関する情報をメンバー間で交換しあう過程をいうも そこで交換される情報は、きわめて実際的ですぐに役立っ性格のものになるだろう。
T.Borkman(1976)はSHGの付与する「情報(とそれに対する態度)」を「経験的 知識(experientialknowledge)」とよび、「専門的知識」と比較しながら、その性格 を次の3点にまとめている。すなわち、
(1)理論的科学的であるというよりも実際的(pragmatic)である。
(2)知識の長時間にわたる発展的組織的蓄積を目指すというよりも、すぐにできる 行動(here−and−nOW aCtion)を指向したものである。
は)個々に分立したものというよりも、全体的・包括的なものである。10)
(4)の枠組付与過程とは、「問題」をもって頭の中が混乱してしまっている人に対して、
なにがどんなふうになっているのか、「問題」をどのように考えればよいかという考え 方の「枠組」(framework)を与えることである。L.H.Levy(1979)によれば、この
「枠組」の原理的説明(rationale)は科学的かつ有効的なものであることよりも、む しろ(専門的知識のない人びとにも)理解しやすく希望をもたせるものであることが重 要であるという。11)高度に複雑化した社会においては、人びとほ自分たちの「問題」
を理解することさえ難しくなったといえそうである。そういった意味で、専門的知識な しでも理解しうる「問題」の「発生メカニズムー解決モデル」をSHGが提供する意 義は大きい。121
(5)の価値転換過程とは、メンバーの「問題」にかかわるさまざまな価値観を転換する
過程である。R.Steinman ら(1976)によれば、SHGによる価値転換過程には2つ のタイプがある。13)ひとつは「再定義」(redifinition)とよばれるもので black is beautiful (黒い肌は美しい)とか「障害」を積極的に肯定する「ちがうことこそば んざい」14)というスローガンでよばれるものである。社会から「異常」とか「欠陥」
であるとかみなされているものを積極的に何か「価値あるもの」にしてしまうのであ
る。15)もうひとつは「緩和(amelioration)」とよばれるもので、それは社会の偏見に みちた差別的な考え方は拒否するが、自分たちのおかれた状態はそのままで完全に肯定 できるものではなく、なんらかの修正を加えていかなければならないと考えることであ
る。アルコール依存症を、人格の「堕落」とは考えず、「病い」として捉えていく認識
−76一
の転換はそのひとつの例である。16)
(6)の文化形成過程とは、「問題」をかかえたメンバーたちが、新しく自分たちのアイデ ンティティを築き、誇りと希望をもって生きていけるような土壌としての文化をSHGが つくりあげていく過程である。17)p.Antze(1979)はこのような文化、すなわち「問 題」に対処する「知恵」やそれに基づいたグループの仕方、ルール、メンバーの間で好
●●●●●●
まれて使われる「いいまわし」などをすべて含んだものをSHGのイデオロギーとよん でいる。18)P.Antzeによれば、SHGはその対処する「問題」のメカニズムに対応
したイデオロギーをもち、このイデオロギーこそは専門家の援助と比較してのSHGの 強みになっているわけである。
3.行動 レベル
行動レベルとは、自己の行動レベルでの変革によって社会との矛盾を解決しようとす るSHGのはたらきをいう。このレベルは、行動をどう変えるのかという点で、3つの タイプにわけられるだろう。すなわち、
(1)行動消去型 :〔治療的機能〕
(2)行動修正型(対人関係改善を含む):〔リハビリ的機能〕
(3)行動学習型 :〔教育的機能〕
(1)の行動消去型とは「問題」となる行動を消すということを目的としたSHGの(治 療的)機能である。この場合、消去すべき「問題行動」とは、飲酒、薬物使用、子ども の虐待、過食、ギャンブルなど、主として中毒、依存症、abuseとよぶべき行動になる だろう。
(2)の行動修正型とは、日常生活の行動の中に「問題」が生じている場合(たとえば吃 昔、歩行障害など)その日常的行動を修正する(リハビリテーション的)機能をいう。
専門的治療者の援助との相違は、そこでは「治療する者とされる者」という上下関係が ないことが指摘されるだろう。
それに加えて、SHGの場合、それはどこまでも行動の「修正」であって「治療」で はないことがある。たとえば、ある吃音者のSHGでは、毎週スピーチや討論会を開い ているが、これは必ずしも吃音を治すための発音練習として行なわれているのではなく、
吃音のために人前で堂々と話せなくなってしまった人たちが、どもってもいいから自信 をもって話せるようになるための機会として開かれている。19}
行動修正型を考察するにあたって忘れてはならないのは、それは対人関係(の行動)
の修正をも含んだものであることである。すなわち、身体的障害や欠陥、生活上の困難 などのさまざまな「ステイグマ」によって、個々人の人間関係形成能力に障害が生じた
場合(いわゆる「ひっこみじあん」「極度な内気」「被害妄想」など)、SHGという
小集団は人間関係形成能力を再開発する場にもなりうるのである㌔0)
(3)の行動学習型とは、「問題」を解決するために、あるいは「問題」を背負って生き ていくために、全く新しい「行動」(具体的にはなんらかの技術を意味することになる だろう)を身につけさせる(教育的)機能をいう。父子家庭の会が父親のために料理講 習会を、ねたきり老人をかかえる家族の会が介護講習会をひらいたりするのがその例で ある。21)
しかしながら、たとえば「飲酒」を止めることは「断酒」を学ぶことである。すなわ ち、ひとつの行動を「消去」することは別の行動を「学習」することでもある。この3 つのタイプの分類は、そういった意味で、ひとつの理念型にすぎないことを忘れてはな
らないであろう。
以上、行動レベルを3つのタイプにわけてみたが、その一方で、L.H.Levy(1979)
がSHGの「行動レベル的過程」としてあげた4つのgroup processを参考にして、
行動レベルの過程を次の4つに分類したい。22)
(1)社会的強化過程
(2)学習訓練過程
(3)モデリング過程
(4)計画行動過程
(1)の社会的強化過程とは、メンバーたちがお互いに励ましあったり、注意しあったり、
称賛しあったりして、メンバーたちにとって「望ましくない行動」を除去したり、「望 ましい行動」を身につけさせたりする過程である。たとえば、断酒会では何年も酒を止 めている人は、メンバーの熱い称賛と尊敬の視線をあびることになる。1年か2年、酒 を止めたことだけで(酒害者本人にとってはそれは命がけの闘いであったにちがいない のだが)何人もの人から心からの称賛を受けることなどは、断酒会以外の社会では全く 考えられないことであろう。SHGがメンバーにとって、「かけがえのない人たちの集 まり」であったとき、SHGの社会的強化の機能はいっそう有効なものとなってあらわ
れてくるだろう㌔3)
(2)の学習訓練過程とは、メンバーがグループで何か新しい「行動様式(技術)」を身 につけたり、リハビリテーションの訓練を行なったりする過程である。24)
(3)のモデリング過程とは、メンバーのひとりが他の人をモデルにして「問題」の解決 を計ろうとする過程である。つまり「仲間は目標である」。25)「問題」が(「患者」や
「生活保護申請者」にではなく)「生活者」におよぼす影響はかぎりなく多様なもので ある。たとえば、単身の酒害者が退院後も断酒を続けていこうとすれば、どんなにか多
−78−
くの複雑なとらえどころのない「問題」がおこってくるだろう!断酒会に行って夜の ひとときをすごし、自宅でテレビを見る。それまではいいのだが、テレビがおもしろく なくなればどうすればいいのか。眠れない夜はどうするのか。あした職場で宴会がある が、どのように酒を断わればいいのか。明日は何を食べようか。休日は何をしてすごそ うか。職場の上司からカンビールをもらったが、捨てるしかないだろう。しかし今度ま たもらったら捨てられるだろうか。自分が酒害者であることをどんなふうに説明したら わかってもらえるだろうか……などなど。 しかし、同じ問題をもった同じような生活環
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境にいる人を見つけだし、その人のように生きることは、このような複雑な無数の「問 題」にきわめて具体的なわかりやすい解答をみつける近道になるであろう。26)
(4)の計画行動過程とは、SHGがメンバーに、ミーティングやレクリエーションなど のスケジュールを与える過程をいう。酒害者の例を続けると、毎日酒を飲み続けてきた 人が、さて今日から断酒しようといっても、酒の代わりとなるものがないのである。酒 を飲んでつぶしていた時間をこんどは何でつぶせばいいのだろう。こういった「時間の 使い方」の問題は、とくに「行動消去型」の機能を必要としているaddicts(依存症の 人びと)にとって大きな課題である。SHGの行動計画過程は「時間を構成化する」意 味で、メンバーたちの助けになるだろう㌔7)
また、計画されたとおりに行動することは、ある種の人びとにとっては自分の内面に ばかり向けていたエネルギーを外に発散させることにつながり、バランスのとれた人格 を回復するのに役立つかもしれない。28)そしてレクリエーション活動などは、社会か ら孤立しがちで人間関係をつくっていくことの不得意なメンバーたちに人間関係をつく る機会を与え、対人関係能力の向上を促すであろう。
○行動レベルにおける「型」と「過程」の関連
行動レベルにおける「過程」は、認識レベルのそれと比べてやや複雑であると思われ たので、本稿では「過程」の他に「型」という分類項目をつけ加えた。それぞれの「過 程」と「型」の関連はどのようなものになるだろうか。
まず行動消去にもっとも大きな力をもつのは計画行動過程であろう。ひとつの行動を 消すには、その行動が生じないように一定の時間を別の行動で費やすればよいという考 え方である。また、行動学習にもっとも大きな力をもつのは学習訓練過程であろう。次 に行動学習に役立ち、かつ行動消去にも有効なのはモデリング過程である。最後の社会 的強化過程は、行動の消去・修正・学習のすべてのタイプに有効であるが、消去・修正 の持続にとくに貢献しうるであろう。そういった推論によって組立てられたのが下の図 である。「型」と「過程」の関連を考えるひとつの指標にはなるかもしれない。
4.サービスレベル
サービスレベルとは、個人と社会との不適応状態から生じた「問題」を、社会資源の 直接的供給によって解決しようとする機能である。したがって、それは具体的には「問 題」をもった人びと(それはSHGのメンバーであることもあればないこともあるだろ
う)に社会福祉的サービスを行なう機能である。メンバーの「問題」を直接、認識的に 治療するのではなく、「問題」をとりまく環境に直接なんらかの資源を提供することに
よって、「問題」を解決しようとするのがサービスレベルである。
サービスレベルといっても、それはSHGの外部の人にサービスを行なうことでは必 ずしもない。実際の活動においてはグループにはいったばかりの「新人」やこれからメ
ンバーになろうとしている人、またはグループがメンバーにしたいと考えている人など がそのサービスの「対象」となるだろう㌔9)
このサービスレベルをここでは3つの過程に分類したい。すなわち、
(1)小集団受容過程
(2)生活支援過程
(3)親睦活動過程
●●●
(1)の小集団受容過程とは、主としてグループ内部で行なわれるサービスであって、第 一には、孤独のなかで悩んでいる人に対してピア・グループ・カウンセリングを受ける 機会を与えることである。「格印」(stigma)を押されて地域で孤立している人びとに、
安JL、してくつろぎ何でも話せる場を提供するのである。
第二に、社会資源に関する情報をも含めて、「問題」解決のためのさまざまな情報。
アドバイスを親身になって提供することである。時間的に制限されている専門家のあわ ただしい対応や、公的機関の「冷淡な」態度に嫌悪と失望を感じている人びとにとって は、そこはなんでも気軽に相談できる頼りがいのあるところなのである㌔0)
第三に、SHGは、「問題」のために(そのメンバーにとって)「家族」や「友人関
一80−
係」が葛藤に満ちたものとなっているとき、その代替物として機能する。すなわち、
SHGは場合によっては、第一次集団として機能する。情緒的な共感性豊かなっながり をSHGは与えるのである。例えば、両親の反対を押し切って収容施設を出て「地域で 生きる」ことを始めている「障害者」たちは、しばしばSHGを第一次集団として生活
している。
●● (2)の生活支援過程とは、主としてグループ活動の外で行なわれるサービスであって、第
一には、(利益)代弁による生活支援がある。メンバーが「問題」とかかわるさまざまな
●●●●● 生活困難を克服し、地域や職場集団、家族の中で生きていこうとすることをよき理解者
●●● として支援していくことをいう。「障害」をもった人が地域に出てアパートで暮らそう
とするとき、家族やアパートの周辺の人びとがそれぞれの立場で反対するかもしれな
い。そのようなとき、本人の意思を支持し、時には家族や管理人に対して本人の代弁 者として抗議することも必要であろう。「問題」をもった人は、SHGの中でのみ生き
ていくのではなく、その「問題」を全く理解しようとしない人たちの中でも生きていか なければならない。SHGの「代弁」の機能はそういった意味できわめて大切なもので
ある㌔1)
第二には、緊急の際の援助活動がある。P.R.Silvermanは、メンバーが突然危機 状態に陥った場合、電話の連絡網を使ってその人を援助する機能をホットラインと呼ん
でいるが、彼女によれば、多くのSHGが24時間のホットラインを設置している。32)単 身の酒害者、自立生活をしている「障害者」たちは、緊急の事態になったときは夜中で
もメンバーに電話し助けをもとめている。33)
第三には、実用的資源・労力の交換というべきもので、それは、近代以前においては 親族関係や近隣関係の間で行なわれていた「助け合い」のひとつの側面である。SHG だけではなく、インフォーマルな集団であれば必ずそれに付随したかたちで存在する機 能のひとつではあるが、頼れる親族も友人もない人びとにとっては、SHGのメンバー
は「困ったときに力を貸してくれる」頼もしい人たちなのである㌔4)
●●● (3)の親睦活動過程とは、主としてグループを通じて行なわれるレクリエーション活動
として現れるものである。これにはさまざまなタイプのものがあると考えられるが、第
一に、その活動の参加者の「社会化」(socialization)を指向するものがある。35)障 害者のSHGが「健常者」や「障害者」との交流会を、在宅の障害者に向けて企画する
といったことはその一例であろう。
第二に、「娯楽」の機会の提供を指向したものがあり、その例としては酒害者の会が
主催する「カラオケ大会」がある㌔6)カラオケに酒と宴会はつきものであり、酒なし でしかも宴会風に何かを食べながらみんなの前でカラオケを唄える場は、この酒害者の
会の「カラオケ大会」以外にはめったにあるものではない。また身体障害者のSHGが、
在宅の障害者たちにも呼びかけて、山や海にキャンプに行ったりすることもこのタイプ
に類するだろう㌔7)
第三に、「問題解決」の機会を与えることを目的とした活動がある。例えば「単親た ち」のSHGの企画するダンス・パーティーなどは、親たちに再婚の機会を与えてい
るのである㌔8I
以上、SHGの行っているサービスについて検討したわけであるが、このサービスは
●● 必ずしも、専門家がクライエントに提供するような「一方的な」サービスではないこと
に注意したい。実態には、いわゆる「古参者」たちが「新人」たちにサービスをすると いう形態になっていることが多いのであるが、その場合においても、サービスを与える 者は「以前、私もこのように援助を受けた」から援助しているのであり、サービスを受
けている者は「いっか、私もこのように援助を誰かに与えるようになる」ことを考え て援助を受けているのである。このような「順列的相互性」(serialreciprocity)39)
を無視して、SHGのサービスを考察することは大きな誤解を生むことになるだろう。
5.アクションレベル
アクションレベルとは、個人と社会との不適応状態から生じた「問題」を、社会(的 環境)を造りなおしていくことによって解決しようとする機能である。したがって、そ れは具体的には、「問題」をもった人びとがソーシャル・アクションを行なうことを意
味している。この機能がないとSHGは地域社会とのつながりを失いがちであり、閉鎖 的・排他的な慰めあいの集団となってしまう危険性が大きくなる。そういった意味で、
このアクションレベルは、SHGがボランタリーな組織として真に福祉的な意義をもつ ために必要不可欠な機能である。
私はこのアクションレベルを3つの過程に分類したい。すなわち、
(1)組織拡充過程
(2)間接的社会変革過程
(3)直接的社会変革過程
(1)の組織拡充過程とは、SHGがその会員をふやし、組織としての力を増強して、地 域住民や地域の社会福祉サービス・システムの中に根づいていくことを目指して行なわ れる機能をいう。組織拡充過程はさらに3つの部分に分けることが可能である。すなわ ち(a)会員拡大(b)ネットワークづくり(C)資金集め(fund raising)である。
(a)会員拡大とは、会員の数をふやすこと、「問題」をもって孤立している人を「探し 出し」その人と「友達になる」ことを意味している。すなわちマスコミ等を使っての「会
−82−
員募集」(recruitment)、友愛訪問等を通じての「ニーズ発掘」(outreach−prOgram)40)
そして見つけだした人を仲間にひきいれる活動(befriending)といったことが行なわ れる。
㈲のネットワークづくりとは地域住民や地域の社会福祉機関、医師や弁護士、ソーシャ ル.ワーカーなどの専門家集団、同様の「問題」ととりくむ他のSHGなどとの深いつ ながりをつくっていく過程である。
(C)の資金集めとは、SHG運営のためゐ資金をさまざまな手段で集めることであるb GSHGでは、ほとんどその道官費は自分たちで調達できるであろうが、SHOでは運 営費において公的機関からの援助、一般市民よりの寄付金、SHOの自主的事業からの
収入が占める割合が高くなるだろう㌔l)
(2)の間接的社会変革過程とは、(a)啓蒙活動(public education)や(b)社会調査を通じ て、社会変革への素地をつくっていくことをいう。42)
(al啓蒙活動は、講演会や公開討論会を開くことを通じての教育活動、パンフレット や小冊子、ニュースレターを発行する出版活動、社会的に差別され搾取されている人 びとにその自覚をうながす意識高揚(consciousness−raising)運動(たとえば路上 でのビラ配布、署名運動などがこれに属するであろう)に分けることができる。
(b)調査活動ではSHGのメンバーたちが、自分たちの運動の課題を明確にするため、
自分たちの力で(しばしば専門的研究者の協力を得て)「問題」の実態を調査しようと する試みである。
(3)の直接的社会変革過程とは、地域に新しい社会資源をつくったり、社会福祉施設の 民主化運動を行なったり、法律改正・立法運動(1egislative action)をすすめたりす ることである。
ここでは3つに分けられた過程も、実際には、重複する部分が多いと考えられる。た とえば、全国的規模でネットワークをつくっていかなければ、法律の改正運動などは進
展しないだろう。「問題」をもつ人びとがいまどのような状態におかれているのかとい
うことを多くの一般市民に知ってもらわなければ、地域に「社会資源」をつくりだして いくこともできない。組織の拡充や間接的・直接的社会変革は、実際にははっきりと分
割できない多くの活動から成り立っているのである㌔3)
6.両向性をめぐる考察
先述したように、SHGの機能には両向性という性格をもつものが多い。両向性とは、
第1節で述べたように、「治療的志向」「社会的志向」という2つの機能を同時にもつ という性格をいうのである。この両向性こそが、SHGの特色であり強みでもあるので
あるJ4I以下、この両向性を、行動レベル的機能の4つの過程:社会的強化、モデリ ング、訓練学習、計画行動との関連で4つの両向性を設定し考察することにする。4つ の両向性とは、
(1)「問題の共有」をめぐる両向性(sharing)
(2)「模倣と指導」をめぐる両向性(modeling)
(3)「問題解決パラダイム」をめぐる両向性(teaching)
(4)「グループ活動」をめぐる両向性(grouping)
以下筆者がかかわった酒害者の会の事例などを挙げながら、このことを説明すること にする。
(1)の「問題の共有」をめぐる両向性(sharing)とは、共通の問題をもっている者同 志が出会った結果、「問題」の普遍性を確認し(認識レベル)、共に「問題」の自己克 服を目指し(行動レベル)、「問題」をもった人を、その「問題」の普遍性ゆえに捜し求 め(アクションレベル)、受容しようとする(サービスレベル)ことが同時に進行し、
相互に反復強化しあう関係にあることをいう。
SHARING
社会的強化 による修正
「問題」の 普遍化
グループに よる受容
アウトリーチ プログラム
行動レベル 認識レベル サービスレベル アクションレベル
具体的な例をあげると、ひとつの酒害者グループの中にはいれば、そこで自分の「問
題」は「普遍的」なものであることに気付く。「みんな同じ悩みをもつ仲間なんだ」と いう意識のもとに、お互いがよりよい生活ができるように支えあうことになる。また
「同じ仲間なのだ」という意識は、見知らぬ人でも同じ「問題」をもっている人とは 連帯したいという気持ちにつながる。「問題」の「普遍性」を確認したからこそ、酒
害との闘いで疲れはてた人を、たとえ初対面の場合でも古くからの友人のように受容す ることができるのである。また、精神病院を訪問し、ひとり孤独に悩んでいる人と手
をつなどうとするのである。さらにそうやって多くの人と出会い、支えあっていく過程
を通して、ますます「問題」の「普遍性」の認識が深まっていくことが考えられるので ある。
(2)の「模倣と指導」をめぐる両向性(modeling)とは、似たような「問題」をもった 人の集団にひとりの人が加わった場合、ある人は「問題」をうまく処理しているし、
−84−
またある人はそうでないことに気付く(認識レベル)。彼はよりうまく「問題」を処理 している人の仕方を模倣するであろうし、一方「初心者」からは模倣の対象となり、彼 はその(模範としての)役割に応えようとする(行動レベル)。このことは「初心者」
からみれば、モデリングによる個別指導をうけていることになる(サービスレベル)。ま
た、広く公衆の前で「生き証人」として『「問題」は克服できるのだ』と訴えることは、
無数の人びとにもモデルとしての自分をしめすことになる(アクションレベル)㌔5)こ れらのモデリングをめぐるSHGの機能め4つの側面は、もし同時に進行すれば相互に 強化しあうものになるであろう。
MODELING
「問題」解決 のモデル提供
「生き証人」
としての訴え
「問題」の 比較相対化 模倣と
役割期待
行動レベル 認識レベル サービスレベル アクションレベル
ひとりの酒害者が会に入れば、彼は多くのメンバーの中で自分と同じような社会的諸 条件のもとで断酒している人を見つけるであろう。会は彼に対して「このようにすれば 断酒できる」という「生きたモデル」を提供することになる。彼はその人のように行な えば断酒できると信じることができる。また一方断酒を続けている人は、新しく断酒し
ようとする人の「模範」を示すことになる。彼は他の人を導くという役割を受け入れる ことによって(役割期待によって)、断酒をより容易に行なうことができるようになる だろう㌔6)また同時に「断酒人」として「酒害は克服できる」と広く一般社会に訴え ることは、同時に「断酒人」としての役割を内面化することにつながり、彼は「使命感」
をもって「断酒」し続けることになるだろう。
(3)の「問題解決パラダイム」をめぐる両向性(teaching)では、「問題」をもった人 は会から、「問題」をどのように把握し処理していけばよいかというパラダイムを与え
られる(認識レベル)。そして、その考え方によって「問題」を実際に処理していく方法 を体で覚えていく(行動レベル)。考え方も実際の処理の仕方(技術)も学びながら、同 時にそれを他の人に教えていく。個人的に教えていく場合もあれば(サービスレベル)、
社会一般に訴えていく場合もあるだろう(アクションレベル)。他の人に教え訴えかけ ていくことは、ますますその考え方や技術を自分のものにし、みがき上げていくことに
つながるだろう乞7)
TEACHING
学習と訓練 枠組付与 個別相談 社会啓発活動
行動レベル 認識レベル サービスレベル アクションレベル
(4)の「グループ行動」をめぐる両向性(grouping)とは、ミーティングやレクリエー
ション(サービスレベル)、デモンストレーシ ョンや社会啓発活動(アクションレベル)
を企画し実行していくことは、一方では計画された行動をとることになり(行動レベ ル)、また、共に定期的に集団行動をとることは、集団内に下位文化を形成することに 役立つ(認識レベル)。逆に、下位文化が成立すれば、レクリエーションやソーシャル・
アクションの企画・実行、グループでの学習や訓練もより円滑に行なわれるであろうと いうことを意味する。
GROUPING
集団行動 時間構造化 下位文化形成 集団行動
行動レベル 認識レベル サービスレベル アクションレベル
「断酒会まわり」は、酒をやめはじめたばかりの酒害者たちがしばしばとる行動であ る。毎晩、一時間も二時間もかけて断酒会に通いつづけるのである。酒を飲むために費
やしていた時間を断酒会とその「通い」にそそぐのである。そのとき、ひとり何もしな
いでアパートに閉じこもっているよりは断酒しやすい状況が生みだされる。酒害者たち が断酒会に多くの時間を割くようになれば、そのグループも下位文化を発展させやすく なる。さらに、見知らぬ酒害者たちへの直接サービス(酒害相談など)、一般市民への 啓発活動を行なうようになれば、酒害者たちはますます忙しくなり「忙しくて酒など飲 む時間がない」状況になる。
7.「人前に出ること」の健全性
D.Spiegel(1976)はSHGのメンバーが「人前に出る」(going public)ことの重 要性を指摘している㌔8)さらにSHGのメンバーの活動にprivate−Public−pOlitical
という連続的な尺度(spectrum)を導入することを提案しているが、そこで主張されて いるのは「人前に出ること」の健全性である㌔9)すなわち、他の人に対するサービス
ー86−
や、社会への働きかけという活動を行なうことによって、よりいっそう個人的。内面的 な諸問題も解決しやすくなり、またその逆のこともいえるということである。
私がSHGの機能における「両向性」として4つあげたのは、このD.Spiegelの 主張するgoing publicの重要性をより具体的に述べるために他ならない。
これまでのことをまとめて図示すると次頁のようになる。4つの両向性は、SHGの 活動全体の両向性(ひとつの活動が社会的な意味をもちかつ治療的な意味をもつこと)
をより具体的に記述するための理念型にすぎない。実際にはこの4つのタイプの両向性 が複雑に混在したものだけが、SHGの活動の中に生きているのである。いずれにして
行 動 認 識 サービス アクション
レベル レベル レベル レベル
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GROUPING
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し______」 し _ __ __J 」_● ____」 し_____ _」
=PRIVATE = PUBLIC=POLITICAL =
も、上の図をみてもわかるように、SHGのひとつひとつの活動は、4つのレベル、4つ の両向性によっていわば「網の目状」に結ばれている。その結果ひとつの活動を活発に行 なえば、同時に他の活動も活発になりうるし、またひとつの活動を活発にするためには、
他の活動も同時にさかんに行なわなくてはならないという状況が生まれるのである。
【注】
1)M.L.Moeller(1981)Anders Helfen.Selbsthilfegruppen und Fachleute arbeiten ZuSammen.Stuttgart:Klett−Cotta.p.24.
2.)L.H.Levy(1979)は、SHGで機能しているグループ過程(Processes Operatingin SHG)を、行動志向的過程(Behavioral1y Oriented Processes)と認識志向的過程
(Cognitively Oriented Processes)の2つに分けている。ここでは前者を「行動レ?
ル」の機能、後者を「認識レベル」の機能と言いかえているが、それぞれの細分の仕方は
Levyの細分方法を参考にしている。L.H.Levy(1979)Processes and Activities in Groups.in M.A.Lieberman et al.(ed)Self−Help Groups for Coping with
Crisis:OriglnS,Members,Processes.andImpacts.San Francisco:Jossey−Bass.
3)たとえば、言語障害児の親たちのSHGである「言語の親の会」は自分たちの活動を次のよ うに分けている。
「①会員同士の親睦を計るために−運動会、みかん狩り、新年会、クリスマス会など、障害 児とその家族ぐるみで行なう楽しい行事等。
㊥会員の研修と啓蒙をかねて一学習会、座談会、映画会、講演会、親子合宿、文集や会報 の発行。
⑨対策の充実をはかるために一大会や役員会の開催、ことばの相談会の実施、行政機関へ の陳情や請願、その他。」
岐阜県言語障害児をもつ親の会他編(1981)「障害をもつ子どもの親の悩み相談室」教育出 版。p.223.
4)Moellerは「自己変革」と「社会変革」をSHGの「二重目的」(Doppelziel)として いるが、この両者の変革過程の相互連関性については詳述していない。M.LMoeller.
OPCit,pP196−197.
5)A.H.Katz(1977)Self−Help GroupsinEncyclopedia of SocialWork.New York:
NationalAssociation of SocialWorkers.p.1258.
6)この「両向性」は F.Riessman のhelper−therapy principleを若干拡大した概念であ る。Riessmanは援助することによって得られる援助者側の利益を重視し、その利益によっ て「問題」の解決はより容易なものとなりうると述べている。F.Riessman(1965) The
Helper Therapy Principle. SocialWork(Apr.1965).pp.27−32.
7)Levy(前出書)の分類を参照した。筆者なりに要約すれば、LevyはCognitively oriented Processesを次の7つの過程に分けている。①認識的混迷状態からの離脱 ㊤標準的情報
の供与 ㊥「問題」に関する考え方。見方の多様化 ④判別能力の増進 ㊥態度の変容の支 持(む「問題」の普遍化。比較相対比(う下位文化の形成。
8)D.Robinson et al.(1977)Self−Help and Health.Richard Clay:The Chaucer Press.p.74
9)谷中輝雄編(1980)「仲間づくりの方法と実際一精神科領域における−」やどかり出版。
p.164
−88−
10)T.Borkman(1976)ExperientialKnowledge:A New Concept for the Analysis ofSelf−Help Groups・SocialService Review50(3)・pP・445−456・
11)Levy.op.cit・p・250・
12)SHGの解決モデルの事例として「抑うつ者」のSHGである「抑うつ友の会」の「うつ状 態心得経」の一節を紹介する。
・・・うつにありて心得べき知慧あり 一つには 一時気休め を計るなり
各人 気の休まる事・処 必ずあり 自ら尋ね工夫すべし 二つには 一時切抜け を策すなり
心身低調といえども 一時なれば必ず事を処す力あり ・・・
三つには 一時自他をどまかす べし
うつなるを自にもどまかし他にもどまかし装うなり ・・・
四つには 暫く忍耐 と心定むるなり
うつに陥り至る日時の積重あり 然れば復する日時を要す ・・・
五つには 刻々現状肯定に努むべし
自己心身の現状及び為すところ 是認しがたしといえども 今ここにかぎり思わば 現状のままにても障擬なき時と処とあるを自覚し得ん ・・・
(筆者がアンダーラインをひいた箇所は、原文ではより大きな文字でかかれている。)外岡 豊彦(1983)「抑うつ友の会の活動」臨床精神医学12(2).pp.1489−1495.
13)R.Steinman et al.(1976) Redefining Deviance:The Self−Help Challenge to the Human Services. The Journal of Applied Behavioral Science12(3):347−
362.
14)牧口一二他編(1982)「みえない声援」健友館 15)D.Robinson etal op.cit.,P.91.
16)筆者の知る限りにおいて最も顕著な価値転換を行なっているSHGのひとつは、脳性マヒ者 のSHGである「青い芝の会」である。たとえば彼らは、その行動綱領のひとつとして「我
らは愛と正義を否定する」というテーゼを採択している。横塚晃一(1974)「ある障害者運 動の目指すもの」ジュリスト no.572.pp.209−214.または横田弘(1979)「障害者運動と その思想」福祉労働no.3.pp.34−43.参照。
17)Levy.op.cit.,P.255.
18)P.Antze(1979) Role ofIdelogiesin Peer Psychotherapy Groups7in M.A.
Liebermanetal.(ed)op.cit,.,pp.272−304.
19)池田邦彦(1979)「吃音者のセルフ・ヘルプ・グループ」村山正治他編「セルフ・ヘルプ・
カウンセリング」福村出版pp.45−63.
20)M.L.Moeller は心理的に「問題」のある人にとっては、病的(pathogene)状況とは 病的人間関係であるとし、そうした病的人間関係を治療する場としてSHGを考えている。
M.L.Moeller(1978)Selbsthilfegruppen:Selbstbehandlung und Selbsterkenntnis
in elgenVerantWOrtlichen KleingTuPpen.Reinbek beiHamburg:Rowohlt.pp.239−
250.
21)いずれも筆者が直接かかわった枚方市の事例である。
22)Levy のBehavioral1y Oriented Processes の分類方法をほとんどそのまま使ってい る。Levy.op.citリpp.245−249.
23)S H Gを SignificantTOther−System として見る視点については、D.F.Krill
(1978)ExistentialSocialWork.New York:The Free Press.p.111.
24)注21)の事例では、学習訓練過程は不定期的なものであり、会の活動としても付属的なも のである。学習訓練過程を中心の活動としているSHGの例としてはRecoveryInc.
がある。H.Wechsler(1976) The SelfTHelp Organizationin the Mental Health Field:Recovery,Inc.,A Case Study in G.Caplan et al,(ed)
Support Systemsand Mutual Help.New York:Grune & Stratton,pp.187−
212.参照。
25)谷中輝雄編(前出書) p.165.
26)「同じ問題」をもっている人なら誰でもモデルになるというわけではない。同性で同年齢、社 会的経済的条件もよく似ているという人がモデルになりやすいだろう。その点、SHGは多様 な人の集団であるから、モデルになる人も見つかりやすいと考えられる。D.Robinson etal.
(1979)From self−help to health.London:Concord Books.p.42/L・H・Levy・
op.cit.,P.248.参照。
27)T.J.Powell(1975)lThe Use of Self−Help Groups as Supportive Reference Communities AmericanJournalof Orthopsychiatry45(5).p.760.
28)L.H.Levy.op.cit,p249./P.Antze.op.cit,pp300−301.
29)SHGの機能の働く「対象」は誰なのかということはひとつの大きな問題である。第7節の
図は、Spiegelのprivate−publicTpOliticalのライン上に、左より行動レベル、認識レ ベル、サービスレベル、アクションレベルの順に4つのレベルを並べているが、SHGの機
能の「対象」を考えるとき、これがひとつの目安となるだろう。すなわち、アクションレベ ルは一般市民を対象とし、サービスレベルは「問題」をもった人すべてを、認識レベル・行 動レベルでは共にSHGのメンバーがその対象となるが、とくに行動レベルでは、より集中 的にSHGとかかわっているメンバーがその対象となるだろう。
30)専門家(医者やソーシャル・ワーカー、カウンセラーなど)を雇用しての相談業務は、ここ では考えない。あくまでメンバー自身の行なう情報提供のみをサービスレベルの活動とする。
注42)を参照。
31)たとえばLaLeche League(LLL)は乳幼児をかかえる母親のSHGであるが、
LLLは生まれたばかりの赤ん坊はなるだけ早く母親に抱かせるべきだと考えている。しか しながら生まれたばかりの赤ん坊を母親が抱きたいといっても、病院側が拒否する場合があ る。そんな時、LLLは強力にその母親を支援する。母親もLLLという「大きな組織」に 属しているという意識から、病院の「権威」に対抗できるようになる。P.R.Silverman
−90−
et al.(1976)・MutualHelp During CriticalRole Transitions・ Journal of AppliedBehavioralScience12(3)・pp・410−418・
32)P.R.Silverman(1980)Mutual Help Groups:Organization and Development・
Beverly Hills=Sage Ptlblications・p・57・
33)AAの緊急援助活動については、中村希明(1982)「アルコpル治療読本」星和書店,Pp・
169−174.参照。
34)身体障害者たちのSHGでは、外出したくても介護してくれる人がいないで困っている仲間 に「介護人を貸す」ということも自然な形で行なわれている。その他、自助異など、「問題」
をもつ人たちしか持っていないものを対象に、やはり自然な形で交換・貸し借りが行なわれ ている。
35)Silvermanは「社会化」の機会を提供するSHGのサービスを socialactivity と呼ん
でいる。P.R.Silverman.op.ciL,p・57・
36)筆者が直接かかわっている酒害者の会の例である。
37)Funkeはレクリエpションとの関連でSHGの重要性を指摘している。E.Funke(1976)
Aktivierung der Selbsthilfe Behinderter und ihrer Familien durch Selbst−
hilfeorganisationen7in K.Petersen(ed)Selbsthilfe undihre Aktivierung durch die soziale Arbeit.Frankfurt:Eigenverlag des deutschen Vereins fbr 6ffent−
1iche und prlVate Fursorge.
刃)単親家庭の会のレクリエーションには、配偶者選択の機会を与えるという機能もある。R.
S.Weiss(1976) The Contributions of an Organization of Single Parents to the Well−Being ofits Members:in G−Caplan et.al.op.cit.pp.177−186.
39)A.Richardson,(1983) The Diversity of Self−Help Groups in S.Hatch et.al.(ed)Self−help and healthin Europe.Copenhagen:World Health Or−
ganization RegionalOffice for Europe.,p.40.
40)P,R.Silverman,OpCit,p57.
41)GSHG:Gesprachs−Selbsthilf曙ruppe.(話合い自助グループ)とS H O:Selbst−
hilfeorganisation.(自助組織)については、M.L.Moeller(1981)op.cit,pp.23−25.
参照。
42)SHGが組織的に大きくなると、専門家(医者やケースワーカー、カウンセラーなど)を雇 用し、その専門家に相談活動を行なわせる場合がある。また専門家の養成機関をつくったり、
「問題」解決のための研究助成金制度を確立し、福祉施設の運営を行ったりする。そのような 活動は、雇用した専門家に代行させるわけだが、こうしてSHGが専門家を雇用し、専門家
に自分たちの活動を任せるようになることをKatzはSHGの「専門主義化」(professionL alization)とよんでいる。専門主義化のすすんだSHGの間接的社会変革過程には、実に
多様なものがあるだろうが、本稿の関心事ではないので省略した。AH.Katz(1961)
Parents of the Handicapped.Self−Organized Parents and Relatives Groups
for Treatment ofilland handicapped Children.Springfield,Ill二 Charles C
Thomas Publisher.参照。
43)(活動分類の事例として)田所晴男は、日本てんかん協会の活動を、次の7つに分類してい る。④広報活動 ㊥啓蒙活動 ㊥療育活動 ④相談業務 ⑤他団体との連繋 ㊥行政への働 きかけ(勤差別に対する実践行動。田所靖男(1983)「日本てんかん協会の活動」臨床精神 医学1202):1505−1510.
44)これに関しては異なる意見がある。たとえば、斎藤学らは断酒会に関する論文において次の ように述べている。
「断酒会には2つの基本的な機能がある。一つは治療集団としてのそれで、具体的には 例会と酒害相談である。もう一つは、行動集団としてのそれで、組織の運営と統合に関す る行事、会議、情報伝達、および対社会的な設立運動や情報提供などである。・・・
社会の近代化とは、通常この2つの機能(例えば治療型集団一家族、仲間集団;行動型
集団一企業組織)の分離であった。断酒会が2つの機能を両方ともに基本的として合わせ
持つことは、例会レベルでの平等と、組織としての上下関係とが同一メンバー間に併存す るのであるから、矛盾そのものを内包することになる。
しかしながら、平等と上下の二つの関係が同程度に原則として実行されることは事実上 不可能であるし、断酒会組織における上下関係の中味は権力関係ではなく、教える者と教 えられる者、したう者としたわれる者というような教育的色彩を土台としたものであるこ とは当然であろう。例会レベルの平等の原則を強めていく方向、つまり、治療集団の機能 の補強と、組織活動の縮小が問題解決の基本であろう。」
斎藤学他(1983)「断酒団体の現況〜社会変動を反映する再編期のダイナミズム〜」臨床精 神医学12(12).p・1513.
45)断酒している酒害者自身が酒害者の社会復帰のための機関で働くことはそれを見た多くの 酒害者たちを力づけ、その傷ついた自己イメージを修復させるのに役だっだろう。S.K.
Val1e(1979)AIcoholism Counseling:1ssues for an Emerging Profession.
Springfield,Ill.:Charles C.Thomas Publisher p.51.
46)大阪府断酒会事務局長の飛田好一は次のように言っている。
「『酒害相談』は経験者だけでなく、入会者全員が行なうことになっている。すなわち、
各人の経験に応じて酒害に因っている人びとに手を貸すことにより、自らを飲めない立 場にする。『自分を救う道は、他人を救う中にある』これが断酒を継続する力となるので ある。」
飛田好一(1981)「断酒会」ソーシ ャルワーク研究6(4),p.208.
47)『ピア・セラピー・グループのメンバーが新しく来た人をカウンセリングしたり、グループ の考え方を訪問者に説明したりすることに努める時、彼らもまた、自分自身の確信(convic−
tions)を努めて深めていることになるのである』P.Antze(1979)op.cit.,p.275,
48)D.Spiegel(1976) Going Public and Self−Help in G.Caplan et al.(ed)・
Op.Cit,pp.135−154.
49)public appearanCe の利益については、J.B.Moore(1983)LThe Experience of
− 92−
Sponsoring:A Parents Anonymous Group・ Social Casework 64uO)・p・589・
参照。
(おか ともふみ :大学院前期博士課程)
ー93−