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2010年 度 上 智 大 学 経 済 学 部 経 営 学 科 網 倉 ゼ ミ ナ ー ル 卒 業 論 文
ポイントサービスについての考察
A0742121 三井康晴
提出日 2011 年 1 月 15 日
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はじめに
本論文は、”ポイントサービス”という言葉、概念に対して私が持っている「なんとなく胡散臭 い」という個人的な感情が発端となっている。そのため、Tポイントという固有のポイントサー ビスを主な焦点として論文を進めており、ポイントサービス全体に対する示唆には欠けているに もかかわらず、「ポイントサービスについての」と、さもポイントサービス全体について論じる ようなタイトルとなってしまっている点をご了承いただきたい。
ポイント市場は年々増加傾向にあり、2009年の時点では1兆円規模とも言われている。以前 はスタンプカードに代表されるような、ある特定店舗でのみ使用できる形式が主流であったが、
2000年ごろから提携店同士によるポイントの交換の流れが、そして2003年ごろからはCCC株 式会社(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が運営する T ポイントに代表される、複数の 企業が共通のポイントシステムを用いて消費者へのサービスを提供するという形式が市場で大 きな存在感を示している。また、近年では電子マネーがポイントと密接なかかわりを持ちながら、
ポイントサービス同様、普及の途をたどっている。(詳細は後述)私がポイントと聞いて真っ先 に思いついたTポイントカードの普及は3500万枚を超えている。これは単純計算で日本全国民 の4 人に1 人はTポイントカードを所持していることになる。また、もっとも巨大なポイント を有するNTTドコモに至っては、その契約者数である4000万人超がポイントを有しているこ とになる。私の思惑とは相反して、世の中ではこれだけ普及しているポイントサービス。そこへ 些細な疑問を投げかけることが出来たらと思う次第である。
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はじめに
目次
1.本論文の概要 1.1 目的・方法 1.2 構成
2.ポイントサービスとT ポイント
2.1 ポイントサービスとは 2.2 ポイントサービスの変遷 2.3 素朴な疑問
2.4 なぜTポイントを扱うのか
3.仮説と検証 その1
3.1 第一の仮説:「Tポイントによる集客効果は無いのではないか」
3.2 調査から見えてくるもの(第一の結論)
3.3 気になること
4.仮説と検証 その2
4.1 第二の仮説:「結局”安売り”か」
4.2 調査から見えてくるもの(第二の結論)
5.第二の仮説を基に、少し考えてみる 5.1 今後の動向(コンビニ業界)
5.2 ファミリーマートについて
6.まとめ
6.1まとめ
6.2おわりに
参考文献
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1.本論文の概要 1.1 目的・方法
本論文の目的は、ポイントサービスの実態を明らかにすることである。Tポイントに着目し、
その集客効果に焦点を当てていくことで、ポイントサービスの効用について論じていく。論じる にあたって、思うようなデータを見つけ出すことが出来なかった点においては、サンプル数は不 十分ながらも、ファミリーマート勤務の友人3名にインタビューや、実地調査により補った。(調 査力不足?)
1.2 構成
まず、ポイントサービスについて、現在に至るまでの発展の流れを追っていくことで現在のポ イントサービスを取り巻く状況を明らかにする。その上で、Tポイントに着目し、コンビニ業界 とカフェ業界における T ポイント加盟店と非加盟店についての比較・検討を行い、ポイントサ ービスの集客力について議論をまとめる。その後別の観点から、コンビニ業界についての再調査、
仮説の再設定を行う。そしてその仮説をもとに今後のコンビニ業界の動向についての示唆を試み る。
2.ポイントサービスとT ポイント
2.1 ポイントサービスとは
ポイントサービスとは、各種の商品・役務の購入金額あるいは来店回数等に応じて、一定の条 件で計算された点数(ポイント)を顧客に与えるサービスである。そのポイントは、(多くの場 合)次回以降の商品・役務の購入時などに利用したり、一定数量のポイントを商品券に引き換え る。マーケティング用語の1つで、この語自身は日本でしか通じない和製英語である。
以上の定義は『wikipedia』によるものであり信頼性に欠けることは重々承知であるが、本論 文を進めるにあたっては特に支障がないため引用することにする。
2010年4月9日に野村総合研究所から発表された推計によると、ポイントサービスの年間発
行額は2008年度には8,917億円にのぼるとされており、2009年度には家電エコポイント793
億円を加算すると、1 兆円規模の市場である。これも補足だが、2005 年度のポイントサービス 年間発行額は4,500億円規模であり、当時の野村総合研究所は2011年度に5,500億円規模にな るとの予測を立てていた。現実はその予想をはるかに超えたスピードでポイントサービスが拡大 したことになる。
2.2 ポイントサービスの変遷
ポイントサービスがどのように普及の途を辿ったのか、静岡文化芸術大学の小本恵照准教授に よるレポート『進化するポイントカードとその将来性(2007)』を参考にしてその歴史を追うこ とにする。
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<起こり>
ある店舗のみで行われているスタンプカードなどを含めるとポイントサービスがいつから始 まったか定かな記録はないが、ポイントの発祥地は米国であり、1850年頃、仕入れの手違いで 選択石鹸を大量に抱え込んだ小売業者が包装紙にクーポン券を貼り付け、何枚か溜めると絵画と 交換できるサービスを提供したことがはじまりであると言われている。その後1896年には、ス タンプ・サービスをシステム化・商品化し、複数の小売業者に販売するというスタンプ専業会社 が出現した(トレーディング・スタンプ)とされている。また、「日本においては 1916 年の北 九州市の久我呉服店が始めたという説があるが内容は不明である 米国式のトレーディング・ス タンプの導入についてはかなり遅く、1958年にグリーンスタンプ、1962年にブルーチップが事 業を始めるまで見られなかった。」との記述がある。日本における普及が遅かった原因としては 流通システムの近代化が遅れたことが挙げられている。
<導入期>
流通システムの近代化が整ったのち、日本においてもポイントサービスが普及し始めることと なる。1985年にはヨドバシカメラが流通業界で初めてポイントカードを発行。狙いは「顧客と の値引き交渉を減らすため」とされている。また、正確な導入時期は明らかではないが1991年 時点では、大半のクレジットカード会社がポイント制を導入している。当時のポイント発行の狙 いは主に「値引きによるお得感の演出」を目的としたものであった。
<市場拡大期>
1990年代後半、「顧客の囲い込み」を目的としたポイントサービスの普及が進んでいく。1997 年、国内航空2社(JALとANA)が、国際線のみで導入されていたマイレージ制度を国内線に も導入開始した。また、家電量販店や百貨店も続々とポイントサービスを開始していった。1999 年にはダイエーがポイントサービスを開始することによってスーパー業界での導入が進む。コン ピューターの進歩によって POS(販売時点導入管理)とポイントサービスを連動させることで 売れ筋商品の把握など、マーケティングツールとして役立つことが明らかになったことも、この 普及に寄与している。商店街、ショッピングセンター、専門店と、大企業以外でもポイントを発 行する動きが広まり、ポイントが消費者の身近な存在となっていった。
<問題の顕在化期>
ポイントサービスが広まるにつれて、新たな問題も顕在化してきた。集客、顧客の囲い込み、
顧客情報を得ることに躍起となった各社は、カード会員になることの魅力を高めるため、壮絶な 割引合戦やキャンペーンをはじめた。その結果、ポイントカード利用者が増えるほど収益が圧迫 される状況に陥った。
『日経ビジネス(1999)』より一部を抜粋すると、
「高島屋では、97 年度、ポイント制によって販売費および一般管理費が 59 億円上昇した。
98年2月期の売上高1兆975億500万円(前年同期比0.3%増)とほぼ横ばいで、経常利益は 117億4100万円(前年同期比35.8%減)となっている。」
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「(日本石油のポイントサービスによる)1年間のキャッシュバック費用は19億4000万円に上 る。日本石油はキャッシュバックだけでなく、半年ごとに10万円が500人に、1 万円が4500 人に当たる懸賞金も出している。合計して20億円以上の費用がかかっている。他社のキャッシ ュバックも似たような状況だ。」
「会員を獲得するために割引などの特典を付けたが、すぐに競合他社と横並びになり、思うよう にシェアの拡大には結び付かない」
といった文章が見受けられる。ポイント=負債であり、集客のための費用を将来に回しているだ けの企業が多く存在した。しかし、「他社に顧客を取られてしまうのが怖く、最初にやめる決断 を下すことができない」「どこが最初にやめるだろうかと、各社が横にらみの状態」であった。
自社ポイントの差別化や、魅力を高める努力が求められた。
<転換期>
2000年ごろから、自社ポイントの差別化や魅力を高めるために複数企業が提携し、その企業 間でのポイント交換(売買)が行われるようになった。これは消費者の「ポイントが貯まりづら い」という不満が元となっていると考えられる。そしてJALとANAを中心に“ポイント通貨 圏”が出来上がる。JTB、りそな銀行、イオンで貯めたポイントはJALへ。楽天、みずほ銀行、
マツモトキヨシで貯めたポイントはANAへ、といった具合で、ポイントの“出口”が航空会社 という状況である。当時の加盟店はJALでは7万5000店、ANAでは5万5000店とされてい る。(『週刊東洋経済(2007)』より)この“ポイント通貨圏”の中心に航空会社が君臨したのは 限界費用の低さが起因となっている。乗客が一人増えることによる航空会社の追加費用は飲み物 代程度と、微々たるものであるため大量のポイント(マイル)を発行することができたのだ。
自社ポイントを自社でのみ使用できる閉鎖的な制度から、ポイントの相互交換という概念が広 まったのがこの時期である。この時期のポイント交換は、言ってみれば企業間のポ イ ン ト 売 買 である。たとえば、JALの加盟店A社でためた10,000ポイントをJALの10,000マイルと交 換したとすると、その裏ではA社がJALに対して10,000マイル分の代金を支払っているのであ る。1マイル当たりの金額は2〜5円ほどと言われていて、提携する企業ごとに異なる。航空会 社にとってこの「マイル販売」で得る付帯事業収入は大きな収入源となっている。参考までに 06年度の航空2社の付帯事業収入をあげると、JALは960億円、ANAは1532億円となってお り、「JALの付帯事業収入はマイル販売収入とほぼ同義」とも言われていた。
<Tポイントの登場>
このような背景の中、2003年、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)による「T ポイント」が登場する。Tポイントとは、「TSUTAYAをはじめTポイント提携先で、利用する 金額に応じて貯めることができるポイントです。貯めたポイントは、TSUTAYAや一部提携先で 使ったり、提携先が発行しているポイントなどと交換することができます。」とHPには載って いる。”提携先”であるが 提携企業・店舗数 は69社31,657店舗となっている。(CCC のHP より。2010年3月末時点)
この T ポイントと上述したマイルは、ともに他企業との提携を行うという点では同様だが、
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マイルが「ポイント売買」であるのに対してTポイントは「ポイント運営代行」という大き な違いがある。Tポイントを展開するCCCはポイントバンクとして提携企業が発行したポイン ト代金の管理をするのみでポイント売買は行わず、システム利用料を得るというビジネスモデル である。生活に密着した企業との提携を進めた T ポイントは会員数を急速に伸ばしている。以 下は、CCCのHPのニュースリリースより抜粋である。「CCCは、2003年10月より共通ポイ ントサービス「Tポイント」を開始し T会員数は、2007年2月に2,000万人、2008年8月に 3,000万人、そして2010年5月に前年対比8.0%増の3,514万人となりました。」単純計算する と日本全国民の4人に1人はTポイントカードを所持していることになる。さらにこの数字は 1年間以上ポイントを獲得・使用していない会員を除いた数であるという。
また、2010 年より三菱商事の子会社ロイヤリティマーケティングによる「Ponta」がサービ スを開始する。こちらも T ポイントと同様にポイント運営を代行するサービスである。T ポイ
ントは TSUTAYA、ファミリーマート、日本石油などと提携しているのに対し Pontaはゲオ、
ローソン、昭和シェルと、真っ向から対立する形となる。
企業がTポイントやPontaを導入するメリットについて、少し触れておく。大きく2つのメ リットがあるだろう。①提携企業内での顧客の囲い込み。Tポイントであれば、ビデオレンタル
はTSUTAYA、コンビニはファミリーマート、ガソリンは日本石油、といったように、アライア
ンス内で顧客を囲い込むことができる。②マーケティング・ツールとしての役割。企業は、カー ドを通して顧客データを得ることができる。普段消費者がどのような行動をしているかを分析す ることで、今後の戦略に生かすことができる。
<補足:電子マネーの台頭>
最後に、ポイントサービスの普及に際して、電子マネーの存在も大きな存在である考えたため、
補足として電子マネーのかかわりを軽く述べてみる。
現在主に流通している電子マネーを挙げていくと、あらかじめカードへお金をチャージしてか ら使うプリペイド型は「Edy」6,050万枚、「Suica」3,155万枚、利用したのちに使った分だけ 支払うポストペイ型は「iD」1,420万枚、「クイックペイ」486万枚となっている。(2010年10 月末時点『日経流通新聞』より)今でこそこれだけの流通量を誇る電子マネーであるが、普及に あたってのポイントサービスとの結びつきは深い。各社は“小銭で少額決済を行う手間を省く”
というサービス利便性に加え、ポイントサービスによる“お得感”を演出することで普及を促進 させようと試みた。電子マネーの基本的なビジネスモデルは加盟店から手数料を受け取るという 形であるため、“普及すること”は最重要事項なのである。
Edyは03年にANAと提携し、Edyで200円支払いにつきANAの1マイルを付与するとい うサービスを打ち出した。現在Edyとポイント提携している企業は、楽天、Tポイント、Ponta、
ヤマダ電機、KDDI、ヨドバシカメラ、Pontaなどがある。Suicaに関しては、05年JALと提 携。現在はKIOSK、スリーエフ、ビックカメラ、紀伊国屋書店とポイント提携を結んでいる。
このように、電子マネーはポイントサービスと密接な結びつきをしており、ポイントサービス の拡大に寄与している。
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2.3 素朴な疑問
「はじめに」でも述べたが、本論文の作成を始めた動機は「ひねくれた個人的な感覚」による ものであるため、ポイントサービスに対して抱いた素朴な疑問はこうである。“ポイントサービ スは効果的か?”
もう少し具体的にすると“ポイントによって店選びが変わるのか?”となる。
3章では、コンビニ業界とカフェ業界におけるTポイント加盟店と非加盟店のIR情報の中か ら「客数」(取引件数)の増減を追っていくことで、Tポイントによる集客効果について論じて いく。
2.4 なぜ Tポイントを扱うのか
次章からはTポイントに焦点を当てて論文を進めていくが、なぜTポイントを扱うのか、そ の理由についてここで述べることにする。
①発行枚数の多さ
上述したように、いまやTポイントは日本国民の4人に1人が利用しているポイントサービス であり、そのサンプル数の多さから社会的現象がデータとして現れやすいのではないかと考えた ため。
②1業種1社という提携方針
Tポイントは 1業種1 社とのみ提携するという方針を打ち出しており、同業種内の競合同士を 比べることでTポイントの影響を割り出しやすいと考えたため。
以上二点が、本論文においてTポイントに焦点を当てる理由である。
3.仮説と検証 その1
3.1 第一の仮説:「T ポイントによる集客効果は無いのではないか」
Tポイント会員の募集を行っている店舗が散見されるが、実際にはポイントサービスによっ て集客できているわけではなく、各店舗の来店客数に変化はないのではないか。コンビニ業界と カフェ業界に焦点を当てて調査していく。
3.1.1 調査その1 コンビニ業界
<コンビニ業界について>
コンビニ業界について、これから調査を行うにあたって大切と思われる部分のみを軽く記述 する。
コンビニ業界でTポイントを導入しているのは「ファミリーマート」であり、導入時期は2007 年11月20日。Tポイントをはじめに導入したのは「ローソン」であるが、2007年3月31日 にサービスを終了したという背景がある。Tポイントの普及数は2007年には2000万人であっ たのに対し2010年では3500万人と普及の度合いが違うため、本論文ではファミリーマートの
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Tポイントサービスに焦点を当てることにする。
また、2008 年 7 月より全国での「taspo」導入によりコンビニ業界は全店的に売り上げを伸 ばした。そのため、この時期のTポイントの影響は見えづらくなっている。
コンビニ業界全体のシェアは以下の表のとおりであり、「セブンイレブン・ジャパン」「ロー ソン」「ファミリーマート」「サークル K サンクス」の4社が市場の大半を占めていることが分 かる。よって本論文ではポイントサービスの集客効果を測定するためにこの 4 社に絞って論じ ていくこととする。
(http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/economy/convenience̲store/ よ り引 用 )
また、2009年2月期のファミリーマート決算短信には以下の通り、Tポイントサービスによ る客数増加についての記述がある
「「ファミマTカード」では、新たな会員向けサービスとして、平成20 年9月より、株式会 社NTTドコモが提供する後払い電子マネー「iD」に対応させた「ファミマTカードiD」の サービスを開始したほか、「ファミマTカード」や「Tポイントプログラム」の利用促進に向け たキャンペーンを引き続き実施したことにより、利用客数の増加に貢献いたしました。」
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<調査>
コンビニ各社の発表する各年度 2 月期の「客数」の推移を追っていく。セブンイレブンに関 しては客数の実数データが無く伸び率のデータのみであるため、別途説明を加える。
グラフで示すと
となり、実数は以下のとおりである。単位は一日当たりの来店客数(人)である。
06/2 07/2 08/2 09/2 10/2
ファミリーマート 既存店客数 838 834 858 922 926
ローソン 既存店客数 820 813 812 868 868
サンクス 既存店客数 821 811 806 849 830
07年2月期から08年2月期にかけて、ローソン、サンクスの客数が減少しているのに対し、
ファミリーマートだけが客数を伸ばしている。08年2月期から09年2月期においては上述し
たようにtaspo導入の影響で3社ともに数値を伸ばしているため、Tポイントの影響と言い切れ
ない側面が大きいが、ファミリーマートの伸びが多いこともまた事実である。
セブンイレブンの既存店客数の伸び率は以下のとおりである。
06/2 07/2 08/2 09/2 10/2
セブンイレブン 既存店客数 0 -1.7 +0.4 +4.7 +0.5
実数ではないため単純比較はできないが、ファミリーマートの客数増加が突出していること が分かる。
また、Tポイントの影響を細かく分析するため、taspoが導入される直前の第1四半期(各年 度3〜5月)に発表されたデータを参照すると
740 760 780 800 820 840 860 880 900 920 940
06/2 07/2 08/2 09/2 10/2
ファミリーマート 既 存店客数
ローソン 既存店客数 サンクス 既存店客数
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05/3〜5 06/3〜5 07/3〜5 08/3〜5 09/3〜5 10/3〜5
ファミリーマート 既存店客数 832 826 844 878 932 922
ローソン 既存店客数 808 796 793 811 856 846
サンクス 既存店客数 816 800 799 796 834 806
となる。06年から07年にかけてファミリーマートの客数が増加していることを踏まえると、こ の時期からファミリーマートの客数増加が始まっていた可能性(つまり先ほど述べた07年から 08年での伸びはTポイントサービスの影響ではなく、ファミリーマート独自の取り組みによる ものだとする可能性)は否めないが、その後も一定の客数増加傾向が見られることから、ここで は一先ず「Tポイントサービスの集客効果があった」として話を進める。
セブンイレブンの第1四半期に関してのデータは見当たらないため割愛させていただく。
3.1.2 調査その2 カフェ業界
<カフェ業界について>
コンビニ業界と同様、カフェ業界についてこれから調査を行うにあたって大切と思われる部 分のみを軽く記述する。
カフェ業界でTポイントサービスを導入しているのは「ドトール」であり、2009年11月25 日よりサービスを開始している。調査では、「スターバックスコーヒー」との比較を行う。
2社のみを比較するのは心許ないが、下記の表からわかるように、この2社だけで国内店舗の 半数を占めており、その実数もドトール系列は1,446店舗(2010年11月末時点)、スターバッ クスは898店舗(2010年11月末時点)、そして次ぐタリーズは391店舗と店舗数に開きがある。
そしてタリーズからは客数に関するデータを入手できなかったことから(実際はこちらが主な理 由ではあるが)、調査は2社のみで行うこととする。
700 750 800 850 900 950
ファミリーマート 既存店客数 ローソン 既存店客 数
サンクス 既存店客 数
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(http://www.shogyo-shisetsu.jp/article/data/data183.html より、商業施設新聞調べ)
<調査>
ドトールはTポイント導入時期からまだ日数が浅いため、導入時期である2009年11月周辺 の、月間の客数を分析対象とする。このデータは前年度との増減比率のみであるため、増減比率 の比較を行う。
09/10 09/11 09/12 10/1 10/2 10/3 10/4 ドトール 既存店客数伸び率 -7.9 -6.5 -5.8 -4.4 -3.8 -1.3 -2.2 スターバックス 既存店客数伸び率 -8.8 -5.6 -0.7 0.5 1.3 1.1 4.3
この表は、2009年10月から2010年11月までの2社の既存店客数の伸び率を示したもので ある。スターバックスは2010年1月より前年度比で回復を見せているに対し、ドトールが回復 を見せるのは2010年5月からである。その後もドトールの回復は、スターバックスに遅れをと っている。これまでのところTポイント導入による効果は見受けられない。
また、このデータは実数ではなく比率であるため、前年度までの影響を考慮する必要がある。
もしも前年度以前のスターバックスの既存店客数が大幅に減少していた場合、2010年1月以降 の客数の伸びは、意味を持たなくなる。簡単な例で考えてみると、来店客数が前年比で3%上昇 した時に、たまたま天候などの影響で客数 800 しかなかった翌年の+3%は、24 人だが、素晴 らしい戦略を打ち出して客数を1200に伸ばした翌年の+3%は、36人である。このように同じ
+3%でも、実情は異なる。
そのため、前年度以前の既存店客数を踏まえて先ほどのデータを考えてみる。2007年度から 2010年度までの2社の客数の伸び率を表で表すと、
10/5 10/6 10/7 10/8 10/9 10/10 10/11
0.2 0 1.3 5.7 2.3 0.6 1.3
4.9 4.9 6.9 5.9 6.7 6 5
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07 年度 08 年度 09 年度 10 年度
ドトール 既存店客数伸び率 +0.6 +4.5 -10.6 -5.3
スターバックス 既存店客数伸び率 +5.6 -2.0 -5.7 -5.6
(データの対象は、2006年4月〜2010年3月)
となる。これらの数字を踏まえると、Tポイントの効果を測定する2009年11月からの数字を 扱うに当たって、どちらか一方の数字のみが大幅にブレていないことが分かる。ためしに、06 年度の客数を100と仮定して計算すると、10年度の客数は、ドトール89,00、スターバックス
92,12となり、この状況から2011年度の客数比率を伸ばすのは、むしろスターバックスの方が
難しいといえる。このことからも、Tポイント導入がドトールの客数増加をもたらしていないと 推測できる。
3.2 調査から見えてくるもの(第一の結論)
以上の調査結果から、Tポイント導入時期からの客数増加は、コンビニ業界で見られるがカフ ェ業界では見られないことが分かる。これは、業界内でのブランドの重要性の違いが原因ではな いだろうか。「ローソン行こう」と「コンビニ行こう」、「スタバ行こう」と「カフェ行こう」こ の 2 つの対比がより意味を持つのは、後者ではないだろうか。各企業の差別化がはっきりして いる業界では「ポイントが貯まるから」という理由で消費者の行動の変化は起こりづらいと考え られる。逆に、各企業の差別化があまりなされていない業界(コンビニのような)においてはポ イントの影響で店選びが変わるとも考えられる。これを第一の結論とする。
3.3 気になること
コンビニ各社のデータを見ていく中で気になるポイントがあった。ファミリーマートの「客 単価の低さ」である。各社の2 月期ならびに第1 四半期のデータを以下に示す。単位は、一日 当たりの単価(円)で、“一日の売り上げ(円)/一日の来店客数(人)”である。
510 520 530 540 550 560 570 580 590 600
06/2 07/2 08/2 09/2 10/2 10/2
ファミリーマート 既存店客単価 ローソン 既存店 客単価
サンクス 既存店 客単価
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06/2 07/2 08/2 09/2 10/2 10/2
ファミリーマート 既存店客単価 562 559 558 551 540 540
ローソン 既存店客単価 585 585 586 589 569 569
サンクス 既存店客単価 591 586 586 587 573 573
05/3〜5 06/3〜5 07/3〜5 08/3〜5 09/3〜5 10/3〜5
ファミリーマート 既存店客単価 569 559 552 550 545 533
ローソン 既存店客単価 591 581 585 591 580 563
サンクス 既存店客単価 598 586 585 587 577 568
微々たる変化ではあるが、07年から08年にかけて、ローソンとサンクスが上昇または横ばいで あるのに対してファミリーマートは下降を続けている。また、ファミリーマートの客単価は「単 純に低い」。
このことを踏まえ、新たな仮説を立てることとした。
4.仮説と検証 その2
4.1 第二の仮説:「結局”安売り”か」
ファミリーマートの客数増加は、Tポイントサービスの開始によるものではなく、Tポイント サービスと連動したキャンペーンによるものではないか。
このキャンペーンとは、期間限定で、特定商品を、ファミマ T カード会員限定で値引きを行 うというものである。(ファミリーマートでは、通常の「Tポイントカード」と「ファミマTカ
500 520 540 560 580 600 620
ファミリーマート 既 存店客単価 ローソン 既存店客 単価
サンクス 既存店客 単価
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ード」を使用することができる。キャンペーン価格で購入できるのは、後者のファミマTカード を所持している場合のみである。)私が2010年1月某日に店舗で確認したセール品をあげてい くと、飲料では「午後の紅茶ストレートティー 147円→115円」「午後の紅茶茶葉2倍ミルク ティー 168円→125円」「アクエリアスビタミンガード 147円→115円」「Doleアップル100%
110円→90円」、アイスの「ザクリッチ 126円→105円」、「カップヌードル 168円→153円」
「カップヌードルビッグシリーズ 195円→185円」、お菓子では「galboシリーズ 128円→110 円」「ミニシルベーヌいちご&ココア 298円→258円」 と他にも多数見受けられる。要する に、”安売り”である。
この“安売り”キャンペーンによってファミリーマートは来店客数を伸ばしたのではないだ ろうか、というのが私の主張である。
<調査>
ファミリーマート勤務の友人 3 人にインタビューを行った。ファミリーマートの店舗は、葛 西と池袋(3人のうち2人は葛西)である。残念ながら店舗の実数データは、それぞれ”企業機 密”と”大掃除で捨てられていた”との理由から入手することができなかった。
以下ではインタビューをもとに、仮説の裏付けとなりそうな点を挙げていく。
①Tポイントカードの所持数であるが、「4〜3人に1人くらい」「2〜3割くらい」であり、その
Tポイント 加盟
客数増加
T ポ イ ン ト と
連動した
セール
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中でファミマTカードを持っている人間は、「Tポイントカードを持っている人の中で4人に1 人くらい」「全体の1〜2割くらい」との回答を得た。2010年の客数922を踏まえると、一日に 100人程度の来店客がセール品を買うことができる環境にいることになる。参考ではあるが、葛 西店の客数は、朝8〜9時には180人が来店するとの情報から推測しても一日の来店客数は平均 を上回るのではないだろうか。また、池袋に関しては3000人ほどではないかとのことである。
②また、Tポイントカードを所持していても、日によってカードを提示したり、提示しない人も いるという。
③ファミマTカードの所持者は、「若年層・中年層に目立つ」とのことである。
④セール品の売れ行きについては、「特に飲料は減りが早い。普段の倍は仕入れる。」「セール品 は物によるが 1,5倍〜2倍は売れる」「揚げ物類はあからさまに減りが早い」との回答を得た。
揚げ物類の一例をあげると、「ファミチキ」は、コンビニ店舗内で調理されるフライドチキンで あり、通常価格160円が、セール時には140円となる。この要領で、店内で調理される揚げ物 類が、セール時に20円ほど割引きされる。
<実地調査>
ファミリーマートの客単価の低さに焦点を当ててここまでインタビューを行ってきたが、実際 に店舗で販売されている商品の価格を調べてみることにする。今回はお弁当やパスタなど、各社 が独自商品を展開しているものを調査した。各社の客単価に影響が出やすいと考えたためである。
・ファミリーマート
お弁当:298円〜598円。もっとも多い価格帯は、430円。
パスタ:340円〜498円。398円の商品を中心に展開している。
・ローソン
お弁当:298円〜598円。498円の商品が中心。
パスタ:398円〜498円。398円の商品が中心。
・サンクス
お弁当:298円〜575円。398円と430円の商品が多くみられた。
パスタ:340円〜430円。398円の商品が中心。
これらの比較からは、ややローソンの価格帯が高くなっているものの、各社で大きな開きは見ら れない。
4.2 調査から見えてくるもの(第二の結論)
ファミリーマートの単価の低さやインタビューでの内容を踏まえると、一見 T ポイント加盟 によって客数を伸ばしたかに見えたファミリーマートは、ポイントの魅力によって顧客を獲得し たのではなく、“安売り”によって顧客を獲得したのではないかと考えられる。年々増加の一途 をたどるポイントであるが、消費者はポイント事態に魅力をあまり感じていないのではないだろ うか。ドトールが客数を伸ばせなかったことも、これで説明可能である。(ドトールはTポイン
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トを付与するのみで、値引きは行っていない。)根拠が弱いことは否定できないが、これを第二 の結論とする。
5.第二の結論を基に、少し考えてみる 5.1 今後の動向(コンビニ業界)
2010年3月1日より、ローソンはPontaの導入を行った。このことによって"Tポイント勢 力”と"Ponta 勢力”が出来上がるとの見方が多い。実際にローソンに足を運んでみると、ファ ミリーマートでTポイントと連動したセールが行われているように、ローソンではPontaと連 動したキャンペーンが行われている。しかし、ファミリーマートが値引きを行っているのに対し、
ローソンは「ポイントキャンペーン」を行っており、その内容は対象商品には多くポイントを付 与するというものである。第二の結論が事実だとすると、ローソンは来店客数を思うように伸ば すことができないのではないだろうか。顧客はポイントではなく値引きに反応するのである。少 なくともコンビニ業界においては、ローソンが値引きサービスを行わない限り、T ポイントと
Pontaの二大勢力圏が出来上がることはないと思われる。
5.2 ファミリーマートについて
ファミリーマートが来店客数を伸ばした原因が、上述したように”安売り”であったとすると、
ファミリーマートがTポイントを介して入手している顧客データの多くは、価格弾力性が高い、
いわゆる「よろしくない顧客」のものである可能性が高い。そのような顧客を囲い込み続けるた めには価格勝負しか道はない。誰かが倒れるまで価格で勝負する、辛く厳しい道である。そのた めファミリーマートは、入手したデータをもとに「よろしくない顧客」を追うのではなく、別の 道を模索する努力が求められているのではないだろうか。
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6.まとめ
6.1 まとめ
ここで、本論文の主張を簡単にまとめてみる。私の主張は3つである。
①Tポイントの、ポイントの魅力による集客効果は、あまり見受けられない
→ドトールの客数は伸びていない。ファミリーマートの客数の伸びは、”安売り”によるとこ ろが大きい。
②コンビニ業界において、Pontaの参入による勢力変化は、あまり起こらないだろう
→消費者が反応するのは「値引き」に対してであり、「ポイントが貯まる」ということに関し ての反応は少ない。
③ファミリーマートは、Tポイントで入手したデータに迎合する戦略を練るべきではない →Tポイントによって入手したデータは、「よろしくない顧客」のものであり、データを入手
できていない「優良顧客」に向けた戦略を練るべきである。
6.2 おわりに
突っ込みどころ満載の論文となってしまった。基本的に検証が甘い。「主張」を論理的に行う ことのむずかしさを痛感した。しかし、同時に一つのことを追いかけていく楽しさも見出すこと が出来た。気がする。今後、もしも論文を書く機会があった際には、しっかりと時間をかけなく てはならない。何かを論理的に主張するためには、時間がかかる。そのことを知っただけでも、
今回の論文を通じての収穫となった。
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参考文献・参考 URL
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http://www.nli-research.co.jp/report/report/2007/02/eco0702a.pdf 西川義昭/中田浩司/伊藤聡『ロイヤルティマーケティングの推進』
http://www.nri.co.jp/opinion/chitekishisan/1999/pdf/cs19990909.pdf
住友信託銀行 調査月報2004年4月号『産業の動き〜問われるポイントカード戦略』
http://www.sumitomotrust.co.jp/RES/research/PDF2/636_3.pdf
冨田勝己『企業通貨が促進する企業間・組織間連携〜ポイントプログラムがもたらす 4 大メリ ット』http://www.nri.co.jp/opinion/chitekishisan/2007/pdf/cs20070308.pdf
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社HP http://www.ccc.jp/company/
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野村総合研究所 http://www.nri.co.jp/
『日経ビジネス 1998/10/19』
『日経ビジネス 2006/4/24』
『週刊東洋ビジネス 2007/1/20』
『日経ビジネス 2008/5/19』
『日経流通新聞 2010/6/5』
『日経産業新聞 2010/12/10』
IR 情報
株式会社ファミリーマート 株式会社ローソン 株式会社サークルKサンクス 株式会セブン-イレブン・ジャパン 株式会社セブン&アイ・ホールディングス
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