2019年度・線形代数学・同演義II 2020年1月9日
第 2 回中間試験の結果について
配点は,第1問4点,第2問4点,第3問7点,第4問8点,第5問7点です.満点は30 点,最高点は25点でした.得点分布は以下のとおりです.
得点 0–5 6–8 9–11 12–14 15–17 18–20 21–23 24–30
人数 6 8 8 7 5 7 8 2
採点基準・講評
1. 軽微な誤りは3点,深刻な誤りは程度に応じて1点または0点です.
「程度に応じて」の内容を,解答例に即して詳しくいえば次のようになります.基底 変換の行列 𝑃,𝑄 の定義がわかっていないものは0点.𝑃,𝑄 は正しく求められてい るが,求めるべき行列が𝑄−1𝐴𝑃であることをわかっていないケース,またはそれはわ かっていても,𝑄−1を正しく計算できていないケースを1点としました(最後の「逆行 列の計算を間違う」という誤りが少なくないのが気になります.これは検算をすれば絶 対に防げるのだが……).
2. 大筋として正しいものは3点.「議論に根本的な問題があるけれども,部分的には評 価できるところもある」というのが1点です.
「部分的には評価できるところもある」と判断する際の目安は,固有ベクトル 𝒗𝑖 に対 応する 𝐴の固有値𝜆𝑖 を用いて 𝐴𝑃を正しく書き表していることとしました.
3. (1)は3点,(2)は4点.
(1) 完全な解答以外は0点としました.
(2) 固有値と固有空間のペアが4ペアありますが,各ペアについて1点.ただし,軽 微な誤りに関する減点は,各ペアからではなく全体から1点引く形です.
なお,(1)で求めた表現行列𝐴が誤っていても,その誤った 𝐴に基づいて正しく 議論しているのであれば,(2)では減点しないことにしました.
典型的な誤りとして,「表現行列𝐴の固有空間を求めて終わっている」というも のがありました.これは各ペアについて0.5点としています(合計点から端数を切 り捨て).見直しの際,問題に対応する答案になっているかよく確認してください.
また,固有多項式の根として0が現れますが,この0を固有値から除外している 答案が複数ありました.これは勘違いです.「0は固有ベクトルではない」という のと混同したのでしょう.該当者は,理解を修正しておいてください.
4. どちらを解いても8点.
(1) 前半部4点.「線形空間を適切に設定すること」「線形写像を適切に定めること」
「用いる基底を適切に定めること」「表現行列を求めること」という4個の観点のう ち,3個以上が満足されていれば4点をつけました.そうでない場合は2点または 0点です.この前半部では,細かな係数等の誤りは減点対象としていません.
後半部4点.「固有多項式を求める」「固有多項式の根を求める」「与えられた微 分方程式の一般解を求める」という内容です.結果および説明の適切さに応じて,
4点,2点,0点のいずれかをつけています.
この問題は完璧に解いてほしかったところです.期末試験でも同様の問題を出題 します.できなかった人は,今度は取りこぼさないようにしてください.
なお,試験中の問題訂正が反映されていない解答が数件ありました.訂正が行わ れたとき即座に問題用紙に写すなどしてください.(訂正が必要になったことはお 詫びします.ごめんなさい.)
(2) こちらを解答した人はいませんでした.(論理的細部まで完璧に説明するとい う点からいえば,微分方程式より数列の漸化式のほうが簡単なんですが…….で も「数列を一つのベクトルとみなす」という考えが厄介に感じられるのもわかり ます.)
5. (1)は3点,(2)は4点.
(1) 行列 𝐴の固有値を求めただけの段階では加点していません.その後の方針が存 在し,実行に移していることを求めました.解答が十分なものであれば3点,一部 に問題があれば2点です.
対角化可能性の一般的な判定条件は「すべての固有値の重複度が,対応する固有 空間の次元と一致する」ということですが,本問の場合「固有値がすべて異なる」
あるいは「すべての固有値の重複度が1である」ことを根拠として述べてもよいで す(各固有空間の次元が1以上なのは当然のことだからです).
(2) 必要十分条件を調べるのですから,あらゆる場合が網羅されるような場合分けを するのが大前提です.その上で部分的にでも正しく対角化可能性を判定している答 案を加点対象としました.加点対象となった答案は1件だけでした.
2019年度・線形代数学・同演義II 2020年1月9日
第 2 回中間試験・解答例
1. Σ から Σ′ への基底変換の行列を 𝑃,Ξ から Ξ′ への基底変換の行列を𝑄 とする.
𝒂′1=2𝒂3−𝒂1,𝒂2′ =𝒂2,𝒂3′ =2𝒂1− 𝒂3,𝒃′1=2𝒃2−𝒃1,𝒃′2= 12(𝒃1−𝒃2) だから
𝑃=©
«
−1 0 2
0 1 0
2 0 −1 ª®
¬
, 𝑄 =
−1 1/2 2 −1/2
.
よって
𝐵=𝑄−1𝐴𝑃 =
1 1
4 2
0 −4 −3
4 7 8
©
«
−1 0 2
0 1 0
2 0 −1 ª®
¬
=
6 3 3
0 −2 12
. 2. 𝐴𝒗𝑖 =𝜆𝑖𝒗𝑖 とおく.すると
𝐴(𝒗1𝒗2 · · · 𝒗𝑛) =(𝜆1𝒗1𝜆2𝒗2 · · · 𝜆𝑛𝒗𝑛) = (𝒗1 𝒗2 · · · 𝒗𝑛)©
« 𝜆1
𝜆2
. .. 𝜆𝑛
ª®®®
®
¬ ,
ここで𝑃= (𝒗1 𝒗2 · · · 𝒗𝑛)に注意し,上式の両辺に左から𝑃−1を掛けて
𝑃−1𝐴𝑃=©
« 𝜆1
𝜆2
. .. 𝜆𝑛
ª®®®
®
¬ を得る.
[別証]行列 𝐴 を左から掛ける写像 Φ𝐴: C𝑛 → C𝑛 を考える.C𝑛 の標準的な基底 をΣ = [𝒆1,𝒆2, . . . ,𝒆𝑛] とし,またΣ′ = [𝒗1,𝒗2, . . . ,𝒗𝑛] とおく.そのときまず,Φ𝐴の Σ に関する表現行列は 𝐴 である.したがってまた,Σ からΣ′への基底変換の行列が 𝑃= (𝒗1 𝒗2 · · · 𝒗𝑛) で与えられることから,Φ𝐴のΣ′に関する表現行列は𝑃−1𝐴𝑃であ ることが従う.ところで直接計算により,Φ𝐴のΣ′に関する表現行列は
©
« 𝜆1
𝜆2
. .. 𝜆𝑛
ª®®®
®
¬
であることもわかる.ゆえに𝑃−1𝐴𝑃は上記の対角行列に一致する.
3.
(1) Φ(1) =0,Φ(𝑥) = (𝑥+1) ·1=𝑥+1,Φ(𝑥2) = (𝑥+1) ·2𝑥 =2𝑥2+2𝑥,Φ(𝑥3) = (𝑥+1) ·3𝑥2 =3𝑥3+3𝑥2だから
𝐴=©
«
0 1 0 0 0 1 2 0 0 0 2 3 0 0 0 3 ª®®®
¬ .
(2) 固有値は0,1,2,3である(詳細な計算は省略した.以下同じ).各固有値に対 する行列 𝐴の固有空間𝑊𝐴(𝜆)は
𝑊𝐴(0) =
𝑡©
« 1 0 0 0 ª®®®
¬
𝑡 ∈C
, 𝑊𝐴(1) =
𝑡©
« 1 1 0 0 ª®®®
¬
𝑡 ∈C
,
𝑊𝐴(2) =
𝑡©
« 1 2 1 0 ª®®®
¬
𝑡 ∈C
, 𝑊𝐴(3) =
𝑡©
« 1 3 3 1 ª®®®
¬
𝑡 ∈C
である.もとの写像 Φの固有空間𝑊Φ(𝜆) を得るには,これらを,基底Σ の定め る線形同型写像 𝜓Σ: 𝑉 → C4 の逆写像を用いて移せばよい.そうして 𝑊Φ(𝜆) = {𝑡(𝑥+1)𝜆 |𝑡 ∈C}がわかる(𝜆=0,1,2,3).
4.
(1) 𝐶∞級関数 𝑓: R→Cであって微分方程式 𝑓′′′′−5𝑓′′′+15𝑓′′−5𝑓′−26𝑓 =0を みたすようなもの全部からなる複素線形空間を𝑉とする.Φ:𝑉 →𝑉をΦ(𝑓) = 𝑓′ で定義する.このΦは線形写像(線形変換)である.
𝑉 の基底としてΣ = [𝑔0, 𝑔1, 𝑔2, 𝑔3]をとる.ただし
𝑔0は𝑔0(0) =1,𝑔0′(0) =0,𝑔0′′(0) =0,𝑔0′′′(0)=0をみたす𝑉 の元,
𝑔1は𝑔1(0) =0,𝑔1′(0) =1,𝑔1′′(0) =0,𝑔1′′′(0)=0をみたす𝑉 の元,
𝑔2は𝑔2(0) =0,𝑔2′(0) =0,𝑔2′′(0) =1,𝑔2′′′(0)=0をみたす𝑉 の元,
𝑔3は𝑔3(0) =0,𝑔3′(0) =0,𝑔3′′(0) =0,𝑔3′′′(0)=1をみたす𝑉 の元
とする.この基底Σ に関するΦの表現行列𝐴を求めよう.たとえばΦ(𝑔0) は,
Φ(𝑔0)(0) =𝑔0′(0) =0, Φ(𝑔0)′(0) =𝑔′′0(0) =0, Φ(𝑔0)′′(0) =𝑔0′′′(0) =0, Φ(𝑔0)′′′(0) =𝑔0′′′′(0) =5𝑔0′′′(0) −15𝑔0′′(0) +5𝑔′0(0) +26𝑔0(0) =26
だからΦ(𝑔0) =26𝑔3と表される.同様にしてΦ(𝑔1)=𝑔0+5𝑔3,Φ(𝑔2) =𝑔1−15𝑔3, Φ(𝑔3) =𝑔2+5𝑔3である.したがって
𝐴=©
«
0 1 0 0
0 0 1 0
0 0 0 1
26 5 −15 5 ª®®®
¬
となる.ゆえに固有多項式は𝑥4−5𝑥3+15𝑥2−5𝑥−26=(𝑥+1)(𝑥−2)(𝑥2−4𝑥+13). 固有値は−1,2,2±3𝑖 である.
各々の固有値に対応するΦの固有ベクトルとして𝑒−𝑡,𝑒2𝑡,𝑒(2±3𝑖)𝑡 をとること ができ,これらは(異なる固有値に対応する固有ベクトルなので)線形独立.𝑉 の 次元は4なので,𝑒−𝑡,𝑒2𝑡,𝑒(2±3𝑖)𝑡 は𝑉 を張る.すなわち,与えられた微分方程式 の一般解は
𝑓(𝑡) =𝑐1𝑒−𝑡 +𝑐2𝑒2𝑡 +𝑐3𝑒(2+3𝑖)𝑡 +𝑐4𝑒(2−3𝑖)𝑡 (𝑐1, 𝑐2, 𝑐3, 𝑐4∈C) で与えられる.
(2) 省略します.12月5日の授業の内容や演習問題解答例を参考にしてください.
5.
(1) 固有多項式は
Φ𝐴(𝑥)=
𝑥 0 −𝑎
0 𝑥−𝑏 0
−𝑐 0 𝑥
=(𝑥−𝑏)(𝑥2−𝑎𝑐) で,固有値は𝑏,±√
𝑎𝑐である.(1)で与えられた条件のもとではこれらの固有値は すべて異なるから,𝐴は対角化可能.
(2) 固有値がすべて異なる値であれば,(1)と同様に対角化可能である.(1)で扱った 場合のほかには,𝑎 ≠0,𝑐≠ 0,𝑏=0がそのような場合となる.
それ以外のケースを以下のように分けて考察する.
(i) 𝑎≠ 0,𝑐 ≠0,𝑏2=𝑎𝑐のとき.固有値は𝑏(2重),−𝑏(1重). (ii) 𝑎𝑐=0,𝑏 ≠0のとき.固有値は0(2重),𝑏(1重).
(iii) 𝑎𝑐=0,𝑏 =0のとき.固有値は0(3重).
(i)のときは,固有値𝑏に対する固有空間はたしかに2次元だから(詳細は省略.
以下同様)対角化可能.
(ii)のときは,𝑎 =𝑐 =0のときは固有値0に対する固有空間𝑊𝐴(0) は2次元だ が,𝑎と𝑐のいずれかが0でないときは𝑊𝐴(0)は1次元.𝑎 =𝑐=0のときのみ対 角化可能.
(iii)のときも,𝑎=𝑐 =0のときは固有空間𝑊𝐴(0)が3次元となるが,そうでな ければ𝑊𝐴(0)は2次元になる.𝑎=𝑐=0のときのみ対角化可能.
以上をまとめて,𝑎 ≠ 0かつ 𝑐 ≠ 0であるか,または𝑎 = 𝑐 =0であることが必 要十分条件.