2007 年度
上智大学経済学部経営学科網倉ゼミナール卒業論文
インターネットの普及について
A0442417:前川 拓人
1 月 15 日提出
目次
Ⅰ はじめに
Ⅱ-①インターネット接続形式の発展と普及の流れ
-②FTTHが普及する過程-仮説-
-③ティッピング・ポイントの理論
-④イノベーション普及学・キャズムの理論
-⑤③・④の理論を用いたアンケートリサーチとその検証
Ⅲ まとめ
Ⅰ はじめに
電話回線を使用した ADSL 方式の導入により飛躍的にインターネットが普及した。更にその進 化形式である FTTH 方式が、パソコンのインターネットと共に、どのように人々に普及していっ たかを本論文で考えていきたい。
私がこのテーマを論文のテーマに据えようと考えたきっかけは、1つの CM にある。NTT の B フレッツ光ファイバーの CM で、SMAP を介して『旅立ちの日に』という曲が歌われていたのだ。
この曲は、公立中学に通っていた経験のある現在の高校生、大学生、あるいは新社会人の人々な ら、学校の合唱コンクールや音楽の授業で1度は扱ったことがある曲だ。なぜそうした世代をタ ーゲットにした CM 作りをする必要があったのか。B フレッツの光ファイバーを普及させるのに、
人口比から考えれば、団塊の世代あたりをターゲットにしたほうがより多くの人に普及させるこ とができるのではないか。そもそも、パソコンの普及と共に、人々はどのような意思決定をもと に、インターネットサービスを各家庭で採用していったのか。そうした疑問が湧いてきた。
近年、パソコンで動画や音楽配信が盛んに行われている。インターネット無料番組の Gyao も その一つである。その他にも、You Tube やデイトレーダーに必須のマーケットスピードなど、
FTTH 方式の光ファイバーの導入によって、インターネット利用の幅がかなり広がった。
次のⅡで、FTTH の普及について問題の詳細を提示し、それに対する主張、論証をしていきた い。
Ⅱ-① インターネット接続形式の発展と普及の流れ
なぜ FTTH が普及しはじめているかを考えるために、まずはインターネット接続方式やインタ ーネットの普及について説明していきたい。
日本において一般向けのインターネット・サービス・プロバイダが登場した1993 年以降、専 用線を引けない中小企業や家庭からの接続において、もっぱらダイヤルアップ接続が利用された。
ダイヤルアップ接続とは、コンピュータからネットワークへ接続する方式のひとつだ。使用した 時間分通信料が加算されるため、コストがかなりかかった。
回線には、固定電話回線では一般の電話網・ISDN網、無線回線では携帯電話、PHSなどが使わ れる。主に固定電話回線の物を言うが、無線電話回線の物(特に無線回線交換)を含める場合も ある。128kbps前後の低速回線(ナローバンドとも呼ばれる)が多い。
2000 年前後に、高速・常時接続・定額制料金で接続可能なブロードバンドといわれるCATVや ADSL、FTTHが登場し、サービス提供地域も拡大して、普及した。そのため、固定電話回線(特に ISDN)からのダイヤルアップ接続は減少している。
インターネットサービスの契約数 (単位 千契約)
インターネット接
続 FTTH DSL CATV
04’/6 28744 1758 12119 2689
04’/12 29547 2432 13325 2873
05’/6 30295 3410 14082 3062
05’/12 30796 4637 14481 3236
06’/6 31441 6306 14491 3410
06’/12 30627 7940 14236 3567
日本国勢図会 2007/08 年版より
CATV 方式は、ケーブルテレビのケーブル(同軸ケーブルや光ケーブルなど)を利用してイン ターネットサービスを行う方式だ。なかでも、住友商事の系列会社であるジュピターテレコムは、
J:COM テレビ、J:COM 電話、J:COM インターネットと、テレビや電話とのセット割引を駆使し、
急速に販路を拡大した。しかし、p4下図の 2004 年~2006 年末までのインターネットサービス の契約数を見る限り、現在となっては光ファイバーを使用した、FTTH の方が普及しており、今
後もその勢いは止まらないと言える。
一方、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line : 非対称デジタル加入者線)は、一般の アナログ電話回線を使用する、上りと下りの速度が非対称な、高速デジタル有線通信技術ならび に電気通信役務のことである。なお、日本国外では非対称であってもAをつけずに単にDSLと呼ば れることが多い。
Yahoo! BBやNTTの「フレッツADSL」など、主要な電気通信事業者によるADSL事業が立ち上がり 始めた2001 年頃から、ブロードバンドインターネット接続の普及の牽引役となり、利用可能な 地域の拡大と連動して急速に普及し、2001 年はブロードバンド元年といわれた。2001 年 1 月の 時点では 16,194 回線だったのが、2001 年 12 月の時点で、1,524,348 回線になった。総務省の発 表によると2003 年12 月末には 1000 万回線を突破した。基本的には電話線があればそのまま利用 可能なため、配線工事などの手間が少ないこともADSLの普及に貢献している。現在も地方では光 ファイバーが隅々まで敷設されていない地域も多く、FTTHの普及後も一定のシェアを持ち続けて いる。
都市部では 2003 年頃から、光ファイバーを使い、より安定して高速な通信が可能なFTTHサー ビスがNTTなど数社によって始められており、利用可能地域の拡大とともにFTTHへ移行するケー スも増えている。ADSLを主体とするDSL契約数は 2006 年 6~12 月期に減少に転じていることが、
p4下図で見てとれる。今後、FTTH利用可能地域がさらに拡大されると、ADSLからFTTHへの移行 が増えるものと考えられる。
Ⅱ-②FTTH が普及する過程-仮説-
まず、ADSL の場合、既に敷設工事がほぼ 100%完了している電話回線のモジュラージャック から直接インターネットを利用できたため、モデムさえ顧客に貸与すればすぐにでもサービスを 利用してもらうことができた。また、その普及に相乗効果を生み出したのは、Yahoo!BB が全面 に打ち出した、IP 電話とインターネットの併用である。Yahoo!BB の IP 電話は、Yahoo!BB の加 入者同士の通話が無料になるので、友人・親族での一括入会が相次いだ。駅前や繁華街での街頭 キャンペーンが行われていたのも、2001 年以降のことである。NTT は ADSL の普及において、
Yahoo!BB に大きく出遅れることになる。また、Yahoo!BB のインターネットに上記の様に友人・
親族と一括で入会してしまうと、仮にそれよりも優れたサービスが後から出てきたとしても、決 裁者が一人でないため、話し合いが必要であり、ましてや一括で入会した世帯数が多ければ多い ほど、離脱は困難を極める。また、一度入会してしまうと、半年ないし一年間の縛りがあり、そ の期間内に解約をするためには違約金を 9000 円弱月額利用料とは別個に支払わなければならな いシステムも、ADSL から FTTH に切り替える際、ネックとなる。
一方、ADSL の普及から約 2 年後に登場した FTTH が普及するためには、全国的に光ファイバー ケーブルの敷設工事を行わなければならなかった。始めは都市部だけであった敷設工事も、2006 年 12 月には、総務省の発表によると都道府県別の利用可能率では大阪府(99.9%)、東京都・神奈 川県(同率 99.7%)と、都市部を中心にほぼ 100%になり、全国平均でも、82.6%と世界的に見ても 非常に高い利用可能率を誇るようになった。一方、普及率(実利用率)では、東京都で 27.3%、滋 賀県において 25.3%、京都府では 22.3%、全国平均では 20%前後である。現在では、FTTH の普及 に伴って、ADSL と比較して品質が良質であるにもかかわらず、月額利用料に差がほとんど見ら れない。今後、ADSL や ISDN などからの移行により、更なる普及率上昇が見込まれる。
FTTH 普及のために、NTT の B フレッツも、ADSL を普及させた時の Yahoo!BB と似たことをし ていた。マンションをはじめとした集合住宅において、8 名以上の加入者が一棟につきあれば、
世帯ごとの月額基本料金が 1000 円程度割り引かれるというプランである。近隣住民と話し合い の上、合意のもと、一括で B フレッツの FTTH に加入すると、たとえ後から参入したプロバイダ ーの方が、料金が安価であったとしても移行は困難となる。NTT は ADSL の普及促進時の自らを 自省し、光ファイバーの普及に際し自らが業界を牽引していった。2006 年度第一四半期である 4 月~6 月には、FTTH のシェアが NTT 東西で 64.6%、電力系事業者で 15.6%、USEN が 8.0%とい う結果になっている。それ以後も、NTT だけがシェアを拡大し続けている。
私は、以上のことから、今後も FTTH のシェアは拡大していくと考える。前章のp4下図のイ ンターネットサービス契約数を見ても、DSL 契約数の伸びが 2006 年の前期で頭打ちになってい
るのに対し、FTTH は依然として高い水準の伸び率を維持している。今後も ADSL をはじめとする DSL から FTTH へ、あるいは CATV から FTTH へ移行する人が増えそうだ。
ではどのようにして FTTH へ移行しているのだろうか。私は、先にも事例として述べたが、近 隣住民や、友人・親戚などのネットワークが大きく普及に寄与していると考えた。特に集合住宅 の分譲マンションでは、FTTH を導入する際理事会で承認を得られなければ光ファイバーをマン ション共有部である PDF 盤に取り付けることが不可能であるため、全体の承認が必要だ。ある程 度理事会での住人の反応で、加入者がどの程度見込まれるかも予測できてしまう。
平屋の一戸建てに関しても、地域住人が一人加入すれば、たちまち主婦を介して決裁者である 主人にその話が伝わり、その近隣にまで口コミで普及していったのだと予測がつく。その意思決 定の際、CM をはじめとしたメディアや、営業のセールスマンが後押しする。新大学生や新社会 人についても同じような予測が立つ。パソコンに詳しい友人や既に FTTH のサービスを利用して いる先輩などが、口コミで広めるのだ。
次項では、以上の仮説を、テッピング・ポイントの理論と照らし合わせながら、もう少し掘り 下げて考えていく。
Ⅱ-③ ティッピング・ポイントの理論
FTTH の普及を考える上で、ティッピングポイントの理論を引用したい。以下にティッピン グポイントの理論の概要を整理しておく。
――――――――――――→
ティッピング・ポイント(THE TIPPING POINT)とは、あるアイディアや流行もしくは社 会的行動が、敷居を越えて一気に流れ出し、野火のように広がる劇的瞬間のことである。
ティッピング・ポイントが起こる3つの要因。
1;少数者の法則
→ごくわずかな人々が大半の「普及」に寄与しているということ。この、ごくわずかな人々と は、いかに社交的か、いかに活動的か、いかに知識があるか、いかに仲間内で影響力があるかで 決まる。
この考え方は、80:20 の法則からも裏付けられる。それは、「仕事量」の 80%がそれにか かわった 20%の人によって達成されるなどの例などからだ。
この、全体への普及にかかわるごくわずかな人々、すなわち少数者は、更に3つのタイプに 分類できる。
ⅰ;媒介者(コネクター)
→人脈の専門家であり、社会的にかわの役割を果たす。人間の交友関係はピラミッド状であり、
この頂点にいる人物。世界を束ねる特殊な才能を持っている人のことである。彼らは、友人や知 人を作る並外れたコツを体得している一握りの人で、弱い紐帯(そこそこ親しいがそれほど濃密 ではない関係)を会得している。また、一人の人間と他の人間を分かつ多くの特徴の一つとして の衝動があり、切手を集めるように知己を集めている人とも言える。
ⅱ;通人(メイブン)
→情報の専門家であり、データバンクの役割を果たす。コネクターと同一人物がこの役割を担 うこともある。あるものごとに対する知識を得たら、それを他人に教えずにはいられない。しか し、決して出しゃばることはない。他人の問題を解決することで、自分の感情的必要性を解決し ている人と言える。利害を離れた個性的で専門的な意見であるため、説得力がある。口コミによ る伝染を始動させるための知識と社交的技術が備わっているとも言える。
ⅲ;セールスマン
→説得する技術を持った選ばれたグループである。自分の感情を相手に伝染させることができ るのは、カリスマ的な人のみだ。彼らの、強力な伝染性を持つ抗し難い口説き文句とカリスマ性 が、普及に寄与する。
2;粘りの要素
→メッセージ、製品やアイディアをより多くの人の記憶に粘りつかせるということ。記憶に粘 るメッセージ、繰り返すこと、余白に小さな変更を加えるなどが粘りの要素だ。
3;背景の力
→環境の条件や特殊性。微妙で予測しがたい要素、例えば天候なども、私達の行動に作用して いる。
背景の力は、集団が社会的感染で演じる決定的な役割を果たしている。小集団の持つ力につ いて、150 の法則という法則がある。人は、ひとたび集団に入ると、仲間の圧力や社会規範など、
感染が始まるうえで決定的な役割を果たすなんらかの要素に左右されてしまう。その集団の規模 が、150 人以下の小規模で緊密なグループであるほど、あるメッセージなり発想なりが持つ潜在 的感染力を強化する力がある。また、150 人以下であれば、規範なしでも同じ目標を達成するこ とができる。集団の規模も、大きな変化を引き起こす微妙な状況因子であり、背景の力が作用す るのだ。
以上のことから、感染を生み出すには、まず最初に小さな運動体をたくさんつくらなければ ならないと言える。
―――――――――→出展:『売れ始めるにはワケがある;マルコム・グラッドウェル』より この理論を基に、今回の FTTH について考えて見る。
まず、1 の少数者の法則についてだが、ⅰのコネクターが誰なのかは予測が立てられなかった。
しかし、ⅱのメイブンは、パソコンに詳しく、とても親切に様々な知識を提供してくれる、同 じゼミ生の、上西培智君を推薦したい。彼は大学入学と共に上京し、一人暮らしをし始めた頃、
USEN の光ファイバーを自宅に引いたと話していた。ベストエフォート(一度に送れる情報の最 大値)100Mbpc に対して、自宅で速度を測定したら、80Mbpc も速度が出ているのでとてもいいと、
熱く語ってくれた事を今でも良く覚えている。その他にも、機械音痴な私に対し、いつも優しく かつ頼んでないことまで教えてくれた。当然彼の言うことには説得力があり、自宅でスキャナー を購入した時は、上西君推薦の物を疑いもせずに購入した。メイブンとはまさにこういう人では ないだろうか。
ⅲのセールスマンは文字通り営業する人だ。NTT をはじめとした様々な会社の販売代理店の 人々に相当するだろう。
では、2の粘りの要素に相当する事例は何だろう。私が考えるに、テレビ CM がその代表例だ と思う。そもそも私が FTTH について調べるきっかけとなったのも、CM 中に流れてくる歌に、粘 りがあったからだ。その他にも、駅改札近辺で繰り返し行われるキャンペーンや電気量販店の前 で行われる街頭キャンペーンがそれに当たると考える。
最後に、3の背景の力については、地理的要因が挙げられる。日本は国土が狭く、山地面積が 多いため、人口が平野部に密集している。よってインフラ整備がしやすい。また、集合的要因も 挙げられる。分譲または賃貸タイプの集合住宅ならば、共用の PDF に光ファイバーを導入する。
先にも述べたが、分譲ならば理事長が理事会に議題として提出し、承認が得られれば一斉に導入 が決定する。賃貸では、管理会社の承認でそれが成される。どちらの場合も、あくまでも共用部 に取り付けるだけで、各世帯がそれを自宅まで入線するかどうかは、各世帯の判断である。
Ⅱ-④イノベーション普及学・キャズムの理論
では、③のティッピング・ポイントで紹介した一定の役割を担う人々や状況が、普及の段階で 作用するのかを、イノベーション普及学と、それに付け加える様に登場したキャズムの理論と交 えて述べていきたい以下の図とその下の説明が、普及過程である。
図1 ロジャーズの普及理論によるベルカーブ
出典: E.M.ロジャーズ 「イノベーション普及学」 産 能大学出版部刊
表1 ロジャーズの普及理論による採用者分類
採用者分類 特 性
革新者
(イノベータ)
新しいアイデアや行動様式を最初に採用する人々。彼ら は社会の他の大部分のメンバーが新しいアイデアや行動 様式を採用しない前に採用に踏み切る。したがって彼ら は社会の価値からの逸脱者であり冒険者である。
初期採用者
(アーリー・アダプタ ー)
進取の気性に富んでいるが、革新者に比べて社会の価値 に対する統合度が高く、新しいアイデアや行動様式が価 値適合的であるかどうかを判断したうえで採用する。社
会の平均的メンバーとは、革新者ほどにはかけ離れてい ない。そのため彼らは、最高度のオピニオン・リーダー シップ(注 1)を発揮する。
前期多数採用者
(アーリー・マジョリテ ィ)
社会的には比較的早くイノベーションを採用する。
後期多数採用者
(レート・マジョリテ ィ)
社会の平均的メンバーが採用した直後に採用する。彼ら は新しいアイデアの有用性に関して確信を抱いても、採 用へと踏み切るためには、さらに仲間の圧力によって採 用を動機づけられることが必要な、大勢順応型である。
遅滞者
(ラガード)
イノベーションを最後に採用する人々であり、彼らの大 部分は孤立者に近い。疑い深く、伝統志向的である場合 が多い。
(注1) オピニオン・リーダー・・・世論に影響を強く与える人のこと
出典: E.M.ロジャーズ 「イノベーション普及学」 産 能大学出版部刊
ロジャーズの普及理論に対する欠陥を唱え、ロジャーズのイノベーション普及理論を進化させ たのがキャズム理論である。この理論ではロジャーズでいう5つの採用者分類の間には不連続な 関係(クラック(隙間))があるという。ある採用者分類に対して、ベルカーブ上でその左に位 置する採用者分類に対するのと同じ方法で製品が提示された場合には全く効果を発揮しない。そ れは、顧客グループによって製品を購入する目的が異なるからである。
「はじめに山ありき、やがて山はなく、そして山ありき。」と表現されているが、はじめの山 は革新者と初期採用者から形成される初期市場と呼ばれるものである。しかし、次第に山がなく なる。これがキャズムである。なぜならこの時期は、次の大きな山となるメインストリーム市場 の顧客はその効用を見極めようとして動かないからである。初期市場での一定の評価が得られれ ば、イノベーションはキャズムを超えることができ、前期多数採用者と後期多数採用者によって 形成されるメインストリーム市場が出現する。つまり、イノベーションの市場が一般の人々に開 かれるのは、このキャズムを越えた後からということになる。
ある商品を一般に普及させるためには、採用者分類ごとに販売戦略を変える必要があり、売り 出し方、情報媒体、そして、製品の使いやすさや信用度に関しても変えていく必要があるという のがキャズム理論である。
図4 キャズム理論のベルカーブ
出 典:
ジェフリー・ムーア 「キャズム」
翔泳社
ティピイング・ポイントの理論で大きな役割を果たしているコネクター、メイブン、セールス マンは初期採用者と前期多数採用者との間にあるキャズムを越えるために不可欠な人々であり、
感染を媒介する翻訳者だと言える。高度に専門家された世界に属するアイディアや情報を、一般 の私達にも理解できるような言葉に翻訳してくれるのだ。
Ⅱ-⑤ ③・④の理論を用いたアンケートリサーチとその検証
対象サンプルは、大学生 75 名。内インターネットを自宅で使用しているのは 65 名。インター ネット接続形式の割合は下図の通りだ。なお、ISDN をはじめとしたダイヤルアップユーザーは 一人もいなかった。
インターネット接続形式
51%
37%
12%
FTTH ADSL CATV
続いて、インターネットの導入時期は不明な者を除いて計 56 名。内訳は下図の結果となった。
現接続法の導入時期
0 2 4 6 8 10 12 14 16
00' 01' 02' 03' 04' 05' 06' 07' 年
人 系列1
導入した要因
37%
29%
23%
11%
背景的要因 メディア
友人・知人・親族 セールスマン
導入したきっかけは、当初の予想では友人・知人・親族の影響が最も多いと考えていたが、上 図のように、予想に反して背景的要因が主たる理由という人が最も多かった。もっと言えば、友 人・知人・親族と回答した 23%の人の内、80%以上の人間が決裁者は父だと答えた。つまり、
学生で実家から通っている者は、自分が決済権を握ることはなく、一家の大黒柱たる父親が最終 的な決裁権を行使していることが分かった
では、この父親たちはどのように判断してインターネット導入に踏み切ったのか。それを考え る前に、FTTH 採用者のみでの導入要因の内訳を見てもらいたい。
FTTHの導入要因
41%
28%
22%
9%
背景的要因 メディア
友人・知人・親族 セールスマン
P15 の下図を見て分かる通り、p15 の上図と比較して、わずかだが背景的要因の割合が増加し ている。
ADSLの導入要因
27%
35%
23%
15%
背景的要因 メディア
友人・知人・親族 セールスマン
一方、ADSL のみの導入要因は上図の通りだ。FTTH の導入要因と比較して、背景的要因が極端 に少ない。その他の要因は多少なりとも増えていて、背景的要因が少なくなった分、そのほかの 要因に分散される結果となっている。
CATVの導入要因
45%
22%
22%
11%
背景的要因 メディア
友人・知人・親族 セールスマン
一方、CATV に至っては、背景的要因が半数近くを占めている。
以上のことから考えられる事は、ADSL 以外の FTTH・CATV の導入要因は、個人の意思決定以前 の環境が大きく作用すると言えるだろう。私は、友人・知人・親族経由での意思決定が最も多い と仮説を立てた。しかし予測に反して背景的要因が大きかったのはなぜか。
先にも述べたが、ADSL は電話回線さえつながっていればどの家庭にも入線工事なしで惹くこ とができる。しかし、CATV や FTTH まずクリアしなければならないことは、集合住宅であれば共 有部へのローカルケーブルまたは光ケーブルの入線。更に各家庭に対し、日取りを決めて入線工 事をしなければならない。最低でも 2 段階は普及に対する壁が、ADSL よりも多いことになる。
そのため、集合住宅においては、まずはその建物に光ファイバーのケーブルが入線されている ことが最低条件となる。しかも、一度加入してしまえば、先にも述べたが、解約違約金や回線を 取り外す工事など、スイッチングコストがかかるため、先行者優位であると言える。そのため、
いち早くその物件に入線することが必要となってくる。入線が一社単独さえあれば、FTTH を引 きたい者は、その会社の物を引くからだ。そこが ADSL と FTTH・CATV の決定的な差だ。
先に述べた、友人・知人・親族と回答した 23%の人の内、80%以上の人間が決裁者は父(p15 上図の結果に対して)である、その父親の導入理由を追加調査した所、更にその中の 4 割弱は、
背景的要因と答えた。
Ⅲ まとめ
今回のリサーチの結果、口コミやメディアの影響以上に、背景的要因が FTTH の普及に関わっ ていることが分かった。また、以前 ADSL ユーザーだった者が、FTTH に切り替える際、電気量販 店で FTTH に切り替えるとパソコンが安く購入できたから変えた、という人も数名いた。また、
ウインドウズビスタに買い換えた時に、情報処理速度の問題から切り替えたという人。ADSL で インターネットに接続するとフリーズすることが多かったから切り替えたという人などもいた。
要するに、パソコンの進化とも連動していると考えられる。FTTH の普及について考えるならば、
パソコンのウインドウズ XP がいつ頃主流になったのか、どのように変化していったのか。そう した内容を追跡リサーチする必要があるように思う。
参考文献
・マルコム・グラッドウェル『急に売れ始めるにはワケがある』-ネットワーク理論が明らか にする口コミの法則- SB 文庫 出版 2007 年
・E・M・ロジャーズ『イノベーション普及学』 産能大学出版部刊 1990 年