タ
タイ イ・ ・バ バン ンコ コク クの の私 私立 立小 小学 学校 校の の教 教育 育と と生 生徒 徒の の日 日常 常
-イングリッシュ・プログラム・コース( EPC )低学年を事例として-
徳澤 啓一
岡山理科大学教育推進機構学芸員教育センター
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1..ははじじめめにに
タイの小学校は、大きく3つに分類でき る。1つは、公立小学校であり、授業料は無 償であり、圧倒的多数の子どもが進学して いる。2つ目は、私立学校(以下「スクール」
という)であり、バンコクやチェンマイ、コ ーンケーン等の都市部を中心にさまざまな 特色をもつ小学校が開校されている。ただ し、学費が高額であり、中所得層以上または 現地採用の外国人(両親のうち片親が外国 人等の場合もある)の子弟が通う傾向があ る。3つ目は、各国向けのインター・ナショ ナル・スクール(以下「インター」という)
であり、バンコクを中心として、駐在外国人 の子弟、タイ人富裕層の子弟が通っている。
学費は、年額 500,000~1,000,000THB(2022 年8月時点で1THB=3.7 円前後の為替レ ート)以上のきわめて高額なところが多い
1)。また、生徒の帰国を前提とする教育を行 っており、主として、母国語と英語、そして、
現地のタイ語で授業が行われている。上記 の ス ク ー ル は 、 英 語 プ ロ グ ラ ム コ ー ス
(English Program Course: EPC)を擁すると ころが多く、インターに準じて、英語による 授業を充実させる傾向がある2)。
ここでは、タイの小学校教育について、バ ンコク都バーンカピ郡にある私立小学校U スクールとそこに通う同郡フアマーク準郡
に暮らす世帯のコミュニティ・サークルで のインタビューをもとに、スクールの教育 の枠組みと学校生活をレポートしたい。
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2..生生徒徒のの住住環環境境
多くの生徒がUスクールから 30 分以内 の通学圏に居住しているものの、進学校で あるUスクールに通学するため、地方(バン コクの他地域を含む)から母子移住してい る世帯も少なくない。インフォーマントの コミュニティ・サークルは、東北タイの出身 者が多かった。こうした場合、父親は地方
(実家)で就労(就農を含む)しており、ま た、外国人、あるいは、外国に就労している 父親もあり、世帯収入が高い世帯がほとん どである。そのため、母親は専業主婦の世帯 が多く、また、実家や父親の仕送りをもと に、母子でマンション(日本でいうアパー ト)に暮らす世帯が少なくない。ほとんどが スタジオとよばれるワンルームであり、60
㎠のタイルが横 10 枚、縦6~10 枚、すなわ ち、22~36 ㎡(キッチン兼洗濯物干し場と してのベランダとシャワールームを含む)
に2~4人が居住し、中には、5~6人で居 住する世帯もある。賃貸料は月額 6,000~
9,000THB(光熱水費は別途)であり、この 地域の一般的な家賃相場が月額 3,000~
4,000THBであることを考えると、高級なマ
ンションに居住しているといえる。また、ダ ブルベッド1台に母親と子ども1~2名が 就寝し、父親が床に寝るという図式が一般 的である。また、学習環境としては、子ども 銘々の専用の学習机がある世帯はきわめて 少なく、ほとんどが食卓や小さなちゃぶ台 で宿題等に取り組んでいる。
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3..起起床床かからら登登校校ままでで
子どもは、早朝 5:30 に起床し、朝食・シ ャワーののち、6:45 に学校からの迎車で登 校する。号車によって送迎ルートが決まっ ている。ドライバーの他に1名の女性スタ ッフがアテンドしており、扉の開閉、安全確 認、保護者からスクールへの伝言等を担当 している。インフォーマントのすべての世 帯は往復の送迎車を利用しているものの
(図1)、父母が自家用車で送迎する世帯も ある。送迎車が来るまでの集合場所での時 間は、保護者同士の情報交換の場でもある。
7:00~7:15 に学校に到着し、8:00 の国歌 の放送にあわせて、各教室で国歌斉唱し、こ のうち、週1回は校庭で整列し、国旗掲揚と ともに、国歌斉唱を行うことになる。
図
図11 早早朝朝のの迎迎車車のの様様子子
(トヨタハイエース 11 人乗り・筆者撮影)
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4..担担任任ととココーースス・・ククララスス編編成成
Uスクールは、30 名上限の少人数教育で あり、男女共学である。多くの公立学校と異
なり、教室はエアコン完備であり、生徒の学 習環境に配慮している。むしろ暑さに慣れ たタイ人にとって、エアコンが利きすぎる こともあり、カーディガン等の上着をもっ ていく生徒も少なくない。
EPC の場合、担任3名制であり、タイ人 のクラス担任と外国人2名の組み合わせと なっている。外国人教師は、欧米等の英語ネ イティブの1名が充てられ、もう1名は、英 語を準母国語(公用語)とするフィリピン、
インドなどの出身者が担当する傾向がある。
外国人教師の役割は、教育大学(ラーチャ パット・スクール)等を卒業したタイ人教 師、すなわち、主担任の補佐役であり、主に、
英語を用いた授業で大きな役割を果たして いる。Uスクールでは、タイ最高学府である チュラロンコーン大学を卒業し、博士号を 取得しているタイ人教師も少なくない。
近年、バンコク首都圏をはじめとして、イ ンターやEPCにおける英語ネイテイィブの 需要が高まっており、外国人教師の転職が 頻繁という。こうした事情もあり、Uスクー ルでは、数年前に中学生以上のEPCを閉鎖 している。Uスクールの外国人教師は、
TOFEL スコア 550~600 以上、IELTS スコ ア 5.5 以上が採用条件となっており、小学 校ということもあり、あまり高いスコアは 要求されていない。
Uスクールは、3コース制となっており、
公立小学校に準じた教育プログラムを提供 するタイ・プログラム・コース(Thai Program Course:TPC)、フューチャー・プログラム・
コース(Future Program Course:FPC)、そし て、EPCがある。TPC及びFPCは、タイ人 の生徒で占められるものの、EPCは、30 名 中2~8名が欧米、中国、韓国、日本等の出 身者の親をもつタイ・ハーフである。
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5..学学期期・・学学年年譜譜
タイは2学期制であり、5月の暑季の終
わりから1学期がはじまる。また、2022 年 は 10 月9日がオークパンサー(出安居)で あり、11 日に1学期が終わる。この雨季明 けから2学期までの約 20 日間が長期休暇 となる。また、2学期は、11 月1日からは じまり、正月元旦を挟んで、旧正月ソンクラ ーンの前までとなる。
表1は、2022 年度、すなわち、仏暦 2565 年度の公立学校の学年暦であり、私立学校 もこれに準じた学年譜を作成している。
日本と同じように、学校週5日制を採っ ており、表1の濃い網かけが長期休暇、薄い 網かけが祝日であり、学校休日となってい る。表1の下欄が1月当たりの就学日数で あり、1学期あたり 100 日、通年 200 日の 授業日数が確保され、EPC2年生は、表2の ようなカリキュラムが用意されている。
表
表11 22002222 年年度度のの公公立立小小学学校校のの学学年年譜譜3)
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6..学学費費
先述のとおり、教育内容に応じて、U スク ールでは、3つのコースに分かれているも のの、とくに、EPC に関しては、入学審査 において、生徒の資質や学力というより、保 護者の国籍、職業、そして、資産・所得等が 生徒の受け入れに大きく影響している。
学費は、学期単位の納入となっており、
2022 年度は1学期あたり、TPC13,000THB、 FPC30,172THB、EPC37,300THBであり、顕 著な学費負担の違いがある。今回のインフ ォーマントの生徒は、すべてEPCに通って いる。学費には、給食費とおやつ(お菓子と 牛乳のセット)が含まれるものの、教科書、
制服、朝夕の送迎車等の負担は別にあり、1 学 期 当 た り EPC の 場 合 、 少 な く と も 60,000THB以上の負担が必要となる。
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7..正正課課教教育育(英語・理科・算数)
ここでは、表2のとおり、インフォーマン ト世帯KのEPC2年生の時間割を例に取り 上げ、正課教育の概要を説明する。
TPC及びFPCがタイ語での授業が中心で あることに対して、EPC は英語と英語によ る授業が半数を占めることに特徴がある 4)。 表2の濃い網かけが英語による授業であり、
英語で記載された教科書が用いられている。
これらが時間割のほぼ半数を占める。ちな みに、FPC は、日本でいうスーパーサイエ ンスコースであり、数学と科学に特化した カリキュラムになっている。
表2を見ると、授業は、1コマ 50 分であ り、2コマ 100 分が連続し、2コマの授業 ののち、10 分の休憩がある。午前中4コマ、
昼休憩 45 分を挟んで、午後3コマの1日7 時間授業となっており、多くの生徒がその 後のエクストラクラスを受講している。こ のように、学校での学習時間が長時間にわ たり、また、1日の過ごし方は、かなり過密 なスケジュールになっている。
表
表22 22002222 年年度度UUススククーールル EEPPCC22年年生生のの11学学期期のの時時間間割割(網掛け部分は英語での授業)
また、EPC では、父親が英語を母国語と する生徒が複数在籍している。彼らはすで に、英語とタイ語のバイリンガルであり、
Converの授業等において、外国人教師と他 の生徒を繋ぐコミュニケーターの役割を果 たしており、EPC 全体の英語力の底上げに 大きく寄与しているという。そのため、EPC に通わせる保護者にとって、自分の子ども のクラスにおける外国にルーツをもつ生徒 の数や出自は大きな関心事であり、生徒の 入学選考やクラス編成では、こうした生徒 の多様性を念頭に置いているという。
Science(理科)、Math(算数)に関しては、
英語とタイ語の両方の授業があり、タイ語 で英語の授業を補完している。また、FPCに
限らず、算数に関しては、1×12=12 から 25
×12=300 までを暗唱させている。科学に関 しても、サイエンスショー等を通じたイン タラクティブな授業が行われている。
加えて、タイは、博物館園の学校利用が盛 んなお国柄であるが、筆者が取材した8月 第3週は、教育省が定めるサイエンス・ウィ ークとされており、自然史博物館や科学博 物館等のさまざまな博物館園の見学が行わ れていた(図2・3)。また、EPCでは、英 語、Science、Mathの3科目に重点が置かれ ており、これらに関しては、学期末の成績表 のほかに、学期中、保護者に対して、タイ語 と英語で書かれたアセスメントシート(中 間成績と教師のコメントが記入されたもの)
図
図22 ササイイエエンンスス・・ウウィィーーククのの学学校校利利用用
(国立科学博物館,筆者撮影)
図
図33 大大型型ババススをを利利用用ししたた学学校校利利用用
(ラマ9世博物館,筆者撮影)
が配布され、これに対して、保護者がレコ メンドを返却することになっている。
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8..正正課課教教育育(その他の科目)
このほかに、第2外国語として、火2の中 国語がある。2021 年度、タイの大学入試に おける第 2 外国語の選択状況は、はじめて 韓国語を上回り中国語が1位となった。こ うした傾向にあるとおり、小学校で採用さ れる第2外国語は、中国語が占める割合が 増加している。ちなみに、2位韓国語、3位 日本語となっており、中国の経済成長の将 来性と韓国の外国人就労ビザの取得の容易 さがこうした選択の理由となっている 5)。 また、U スクールでは、第2外国語が中国 語となっているとおり、中国人あるいは中 国語が堪能なタイ人が中国語教師に採用さ れている。
火7の情報は、インターネットやコンピ ューター、情報を扱うための基礎やリテラ シーを学んでいる。3年生からハンズオン 的なコンピューターを用いた情報の授業が 本格化し、宿題もあることから、2年生の終 わりになると、各世帯はWindows OS を基 本とするタイ語でいうところの「コンピュ ーター・ノートブック」(ノートパソコン)
を 10,000THB 以上で購入することになる。
地方では、5~6年前から公立学校及び 集落のコミュニティーセンターに無償の公 衆無線LANが敷設され、AISやDTAC等の 民間情報通信企業が安価にデータ通信サー ビスを提供し、情報基盤インフラが整えら れ、スマートフォン等の情報通信端末を所 持さえしていれば、誰しもがインターネッ トに接続できるようになった。しかしなが ら、公立小学校の場合、コンピューターの数 が限られ、また、リプレースが追い付かず、
設置されているコンピューターがいまだに Windows XPのところもある。とりわけ、地 方の公立小学校では、数少ないコンピュー
ターをシェアしながら授業を展開し、情報 の授業が成立しているとはいい難いところ もある。
音楽の授業はタイの伝統音楽を題材とし て、木琴ラナート等の演奏を学んでいる。
金曜日のクラブは、学年によって開講さ れているクラスが異なり、例えば、タイ伝統 のお菓子作りや果物のカーヴィング等の多 様なプログラムから選択できる。
水曜日は、ボーイスカウト・ガールスカウ ト(以下「BGS」とする)・デーであり、金 曜日は、体育(水泳を含む)があり、生徒は、
BGS 姿、運動服で通学する。
なお、教科教育の詳しい内容や特色等は、
別途、採用されている教科書とともに取り 上げ、稿をあらためることにしたい。
図
図44 EPC22年年生生ののHealth((保保健健))のの 1
1学学期期末末のの試試験験問問題題のの一一部部(正解は「✓」)
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9..正正課課外外教教育育
15:15 に正課教育が終業すると、正課外教 育として、15:15~16:15 英語、中国語、
コンピューター、水泳、ダンス(タイの伝統
舞踊でなく現代の K-POP 等の振り付け)、 ムエタイ、宿題等のプログラムがあり、月額 3,200THB を支払うことで受講することが できる。16:30 に送迎車が出発するまで、こ うしたエクストラクラスを受講しない生徒 は、教室や校庭で遊びながら待機すること になる。ただし、保護者による迎えも可能で あり、こうしたケースは、低学年の生徒や、
正課教育後に別のスクールに移動する生徒 が多いようである(図5)。
また、送迎車を見ると、モーターサイ2~
4人乗りで送迎する世帯がある一方で、ド イツ製高級車、日本製(タイでの現地生産)
高級 SUV も少なくなく、同じスクールの中 でも生徒を取り巻く経済状況の格差を目の 当たりにすることができる。ちなみに、U ス クールの往復の送迎車の費用は、1学期 13,000THB、迎車だけの場合は、11,000THB である。そのため、往復の費用を支払い、帰 りの車の時間までを遊び時間に充てる生徒 が少なくない。なお、感染症禍以前は、8:00 から 15:15 までの土日のプログラムもあっ たという。
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100..放放課課後後
16:30 に送迎車に乗って、16:45~17:00 に帰宅する。その後、塾やオンラインレッス ンを受講する生徒もある。やはりEPCの生 徒は英語を学ぶ傾向があり、例えば、インフ ォーマント世帯Fの3年生が受講している フィリピン人によるオンライン英会話(1 対1)の場合、60 分で 400THB を支払い、
週5回受講している。19:00 前後から夕食を とり、その後、保護者のサポートで学校の宿 題に取り組み、21:00 過ぎに就寝となる。ま た、世帯Fは、土曜日になると、バーンカ ピのアートスクールに通って、絵画のレッ スンを受けているという。
宿題に関しては、保護者の関与なくして は難しい質量であり、とりわけ、図画工作に
関しては、正課教育に教科として位置づけ られていないとおり、週末の宿題となるこ とも多く、YouTube チャンネル等が教材と して指定され、これを視聴しながら保護者 が競って優秀な作品づくりに関わる。ここ でも教育や他者との競争に対する保護者の 意識の高さがあらわれることになる。
通学などは、朝夕警察官が校門近くに派 遣され、交通整理と子どもの安全確保に従 事する。また、送迎車や父母の送迎が一般的 であるものの、それでも誘拐などの事件・事 故を警戒し、ほぼすべての生徒が携帯電話 を携行している。5・6年生になると、スマ ートフォンを持つようになる。流行りもあ るが、低学年の場合、GPS、カメラ、通話機 能付きのスマートウォッチを身に着けてい る生徒が少なくない。こうしたスマートフ ォンやスマートウォッチの通話は、保護者 のスマートフォンにログが転送され、通話 の確認・遮断等ができるようになっている。
こ う し た ス マ ー ト ウ ォ ッ チ は 、 5,000 ~ 10,000THB以上し、これらのコピー商品は、
500THB以上から購入することができる。
図
図55 保保護護者者にによよるる放放課課後後のの迎迎ええのの様様子子
(Uスクール・筆者撮影)
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111..食食事事
食事は、1日3食であり、各世帯で朝食と 夕食をとり、昼食が給食となる。また、先述 したとおり、1日2本の牛乳とおやつが別
途支給される。インフォーマント世帯Kの 場合、朝食は、5:00 から開かれる市場で購 入、あるいは、炊事によるものの、低学年ほ ど朝食をあまり量的に採らない傾向があり、
給食の役割が重要と考えている。そのため、
給食とは別に果物等の補助食を持たせるこ ともある。夕食は、世帯や日によりさまざま であるものの、一汁一菜ならぬ一汁一飯、一 菜一飯が基本であり、主食のうるち米(カ オ・サワイ)あるいはもち米(カオ・ニャオ)
と副菜の汁物(ゲーン)、焼き物(ヤーン)、 揚げ物(トート)の組み合わせが多く、欧米 や日本人等と比較して、質素であり、1日あ たりの摂取カロリーは総じて低いといえる。
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122..週週末末のの過過ごごしし方方
以上のように、平日月~金の生活がきわ めて過密であるとおり、土日の生活は、休息 にあてることが多い。ビーチに行くなどの レジャーに興じることもあるが、自宅でゆ っくりテレビやスマホゲームに興じる時間 が長い。また、宿題もあり、これに充てる時 間も少なくない。また、実家を離れ、父親と 別に暮らす世帯が少なからずあるとおり、
週末を利用して、実家に戻る(あるいは父親 が訪ねてくる)ことも少なくない。こうした 傾向は、長期休暇も同様であるという。
なお、感染症禍の現時点では、毎週LINE を通じて、抗原検査の結果を担任に報告し なければならない。すり替え等を防ぐため、
キット本体に検査日時と氏名を記入し、日 曜日の 18:00 までにクラス担任に写真を送 付する。この情報は、グループLINEによっ て、同じクラスの保護者に共有されている。
抗原検査キットは、街中に大量に供給され ており、1キットあたり 30~80THBで購入 することができる(2022 年8月時点)。
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133..制制服服
男子生徒は、開襟のYシャツと半ズボン、
女子生徒は、丸襟のYシャツ・リボンネク タイとスカートであり、靴は、黒が基本であ る。女子生徒の場合、まず、髪型は、低学年 ほどツインテールの「しずかスタイル」(人 気漫画ドラえもんに登場するしずかちゃん の髪型をいう)の比率が高く、高学年になる とシングルテールとなる。これを白リボン で留めることになっている。また、Y シャ ツの左襟には学年の数の「●」の刺繍、右胸 には、学校名と生徒番号、左胸には姓名が刺 繍されている。また、EPC に在籍する生徒 は、これを記す徽章を付けることになる。
また、水曜日のBGSデーには、4年生以 上になると、モスグリーンの制服が別途必 要になるものの、3年生までは、普段の制服 にBGSのワッペンを貼ったものを着用する。
左腕に学校名とBGSのグループ番号が貼ら れている。また、男子生徒は虎、女子生徒は 天使の意匠の胸章とともに、学年の数だけ 星形のバッジを付け、スカーフと金色の留 め具、そして、緑色の帽子と腰に結わいた紐 を身に着けることになる(図6)。
また、首から多くのアイテムを提げてお り、感染症禍の現在では、ICカード付身分 証、マスク、除菌用アルコールを提げてい る。身分証は電子マネーがチャージされ、購 買部で文房具やおやつ等を購入できる。
図
図66 EPC2年2年生生のの女女子子生生徒徒のの制制服服
(BGS仕様)
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144..子子どどももにに対対すするる将将来来期期待待
タイ王国では、所得格差が激しく、都市と 地方、そして、中所得層と富裕層では、日本 では考えられないくらいの格差がある。こ のUスクールとEPCは、都市近郊に在住す る中所得層の象徴的な存在といえる。
タイ人にとって、生まれ持った境遇を越 えて、こうした格差を縮減するため、子ども に対する教育投資が盛んに行われている。
具体的には、子どもに対して、質の高い教 育を受けさせ、よい大学、よい就職、できれ ば、海外での就労を希望する世帯が少なく ない。そのため、EPC 等の外国語教育に対 する信仰にも近い期待がある。
しかしながら、経済的負担の大きさから 高等学校、あるいは、大学からの海外留学を 視野に入れている世帯は限られており、む しろ、EPC やインターがその受け皿となっ ている側面がある。
そのため、学校側は、質の高い外国語教師 を確保し、特色ある外国語プログラムや海 外交流協定校等を用意し、こうした期待に 応なければならない事情がある。
昨今、感染症禍の中でオンラインミィー ティングが一般化したことによって、手軽 に海外交流が実施できるようになったこと は、EPC の今後の教育の方法やさまざまな 取り組みに影響を与えると考えられる。
一方、公立の小学校教師は、給与水準が高 くなく、地方に行くほどなり手が少ないと いう実情がある。これは、医師と同じ傾向に あり、都市部の有名私立学校、そして、イン ターにおける給与が高額であり、ますます バンコク首都圏と地方、公立と私立の教育 の質の格差が広がりつつある実態もある 6)。
また、高額な教育投資であるが故に、保護 者の子どもに対する将来期待もはっきりし ている。すでに十分に経済的な豊かさを獲 得している世帯を除いて、EPC に通うイン フォーマントのうち、すでにドイツ移住が
決まっている世帯 J の場合、子どもの海外 での就労を希望し、また、タイ人夫婦の世帯 FUは、タイ国内で医師、法律家等の高所得 の職業に就くことを切望している。
タイの場合、国民全体をカバーする公的 年金制度がないことや、老齢福祉手当や生 活保護の支給額が少額であるとおり、老後、
子どもからの経済援助なくしては生活が成 り立たないという事情がある。
そのため、都市雑業等のインフォーマル セクターや自営業者、農業従事者等は、2015 年から国民貯蓄基金が開始されているもの の、新しい社会保障制度の先行きも読めな いことから、依然、生活安全保障上、子ども に将来の老後扶養、とりわけ、経済的負担を 期待している。そのため、経済的に余裕のあ る世帯では、それに見合うための子どもに 対する教育投資を積極的に行う傾向がある。
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155..国国民民形形成成ののたためめのの教教育育
Uスクールでは、EPCがエリートであり、
EPCの徽章は生徒と保護者の誇りである。
タイは近代まで身分制が存続し、これを もとにした厳密な階級社会といわれる。小 学校では、国旗掲揚、国歌斉唱をはじめとし て、王族を崇敬する行事や装置があらゆる 場面に用意されている。また、国王夫妻を父 母に見立てた祝祭行事も数多い。また、軍 人・警官のみならず、公務員や教員の制服に 階級章が表示されているように、小学生の 制服にも学年序列やコース・クラス等が表 示されている。このあたりの事情に、U ス クールの EPC が別の建物になっており、
TPC及びFPC間の生徒の交流はきわめて少 ない理由があると考えられる。
こうした小学校教育を通じて、王国を形 成するよき国民としての規範や秩序が涵養 され、そして、身分や階級をはじめとする自 他を区別する意識が刷り込まれていくこと になる。
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166..イインンククルルーーシシビビテティィ
タイには 18 の性別があるとされ、マイノ リティという言葉を用いることが躊躇われ るくらいに、性的少数者に分類される人々 が多い。小学校の高学年くらいになると、言 葉遣い、仕草、身なりで自らの性を表現する ようになり、多くの場合、友だち、保護者と 家族、教師と学校、地域社会は、彼らが主張 する性別を受け入れ、これに応じた振る舞 いを尊重している7)。
また、クラス内の子どもの年齢構成を見 ると、長幼の差は1年以内に収まっている わけでなく、2~3歳の年齢差を包摂して いることが多い。これは、飛び級や留年、外 国人の編入等によるものであり、とりわけ、
子どもの発達程度や家庭の事情にあわせて、
子どもの就学年齢を遅らせる(中断を含む)
ことは珍しいことではない。これは、わが国 の留年や原級留置とは異なる処置である。
むしろ、授業・試験やコミュニケーション等 に対して、子どもが抱えるストレスが小さ くなり、子どもにとっての学校での居心地 等を考えると、就学時期を遅らせる判断は、
必ずしも不適当と考えられていない。
そのため、タイの小学校では、Uスクール のように、小学校から高等学校までの一貫 教育であったとしても、中途入学が可能で あり、生徒の転入出は頻繁である。
近年、わが国では、インクルーシブ教育と して、障がいのある子どもとそうでない子 どもが共生するクラスづくりの動きがある。
さらに、発達の程度や性自認の違いととも に、国籍、宗教等を含めて、インクルーシビ ティを高めていく方向性にある。
しかしながら、わが国では、制度としての 飛び級や留年の仕組みがあるものの、疾病 に伴う長期間の欠席等の場合を除いて、学 齢期の早い段階において、年齢に応じた進 級を遅らせることに対し、きわめて慎重な 対応がとられている。
このように、クラスの中に年齢こそ違う ものの、成長や発達の程度を同じくする子 どもを共存させる、すなわち、年齢差を許容 するというインクルーシビティがある。
すべての子どもが発達のプロセスやスピ ードを一様に獲得するわけでないことを考 えると、わが国の年齢主義や教育事情に馴 染むかを別にして、こうした取り組みとそ の効果を見計ろうとする態度があってもよ いのかもしれない。
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177..おおわわりりにに
タイのEPC教育に関しては、タイ語やそ の他の教科の時間を縮減することで、英語 と接する時間を確保しており、英語以外の 教育を家庭教育に転嫁している部分がある。
国語としてのタイ語の修得は、むしろタイ 語を母語とする保護者、とくに母親に委ね られている部分も少なくない。また、子ども の学習到達度に対しては、わが国と異なり、
「教師より保護者に責任がある」という意 識が小さくなく、宿題や成績評価試験に対 する保護者の関与が大きい。そのため、母親 の専業化、放課後のレッスンやチューター を雇用する等の対処をしている家庭が少な くない。このあたりに、EPC 教育の弊害が あるといえる。
タイの教育制度は、すべての学齢期の生 徒に対して、就学機会と最低限の教育の質 を保証している。しかしながら、バンコク首 都圏と地方、公立と私立では、とりわけ、経 済環境に起因する教育格差が大きいという 事情がある。また、保護者の経済事情によっ て、子どもが享受できる教育の質量に大き な違いが生まれている。こうした側面は、程 度の差こそあるものの、わが国と似たよう な状況にあるといえる。
一方、外国語教育、社会規範(道徳)教育、
そして、クラスの中のインクルーシビティ 等の取り組みに見られるとおり、タイの教
育は、政策、制度と密接に関係しており、そ の背後には、タイに特有な社会的・文化的背 景がある。そのため、わが国の教育と大きく 乖離しいている部分があるものの、そこに、
わが国の教育に活かすことができる発想や 工夫もあり、さまざまな国の事情を仄聞す る意味があるといえる。
本レポートは、筆者が実施している東南アジア の窯業民族誌の調査中、タイ人アシスタントの子 育てに関する話題がもとになっています。アシス タントの子どもが通うUスクールに連れて行かれ、
そこからEPCに通うインフォーマント世帯との交 流が生まれました。インフォーマント世帯のみな さんからわが国の教育に関する質問を受けるとと もに、タイの教育事情等のさまざまな話題をわか りやすく教えていただきました。本稿は、その内容 の一部を書き留めたものです。みなさんのご交誼 に感謝するとともに、みなさんとお子さんたちが 思い描く将来の希望が叶うことを願って止みませ ん。
注
1)COVID-19感染症禍以前の 2019 年の「世帯」
あたりの月間収入は、バンコク首都圏 37,751 THB、 タイ北部 20,270THBとなっている。一般的に「世 帯」あたり2~3人が就労していることを考える と、インターやスクールに通わせることの経済的 負担の大きさを理解することができる。ちなみに、
タイにおける所得等に関しては、さまざまな統計 データがあり、出所によってその数値に大きな隔 たりがあることを附記しておきたい。
日本貿易振興機構デジタル貿易・新産業部 2021
『タイ教育(EdTech)産業調査』
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2 021/dae7fc1f17161e3e/rp-th202103.pdf
2)タイの小学校における英語教育の歴史等に関
しては、下記の文献に詳しい。
鈴木康郎 2005 「タイにおける小学校英語教育 の現状と課題(暫定版)」(中央教育審議会初等中等 教育分科会教育課程部会外国語専門部会(第9回)
参考資料4-4)
3)2022年度の公立小学校の学年暦の出所は、下 記のとおりである。
http://www.thaischool.in.th/_files_school/551019 99/data/55101999_1_20220525-080720.pdf 4)タイにおけるEPCの目的、導入の経緯、カリ キュラム等に関しては、下記の文献に詳しい。
Punthumasen, P. 2007 International Program for Teacher Education: An Approach to Tackling Problems of English Education in Thailand, Paper presented at The 11th UNESCO-APEID International Conference Reinventing Higher Education: Toward Participatory and Sustainable Development, 12-14, Bangkok, Thailand
5)タイにおける外国語教育のうち、第2外国語の 導入の経緯や科目の変遷等に関しては、下記の文 献に詳しい。また、最近のタイ人の生徒・学生の第 2外国語の選択状況は、毎年のように、タイ及びこ れを母語とする国、とりわけ、中国と韓国の新聞に 大きく取り上げられている。
澤田 稔 1995 「タイの近代化・国際化過程に おける外国語教育の展開:タイにおける外国語教 育の歴史と現状」『国際開発研究フォーラム』3 6)バンコク首都圏、地方都市、地方農村における 教育格差とその原因の一つである教師を取り巻く 状況は、下記の文献に詳しい。
牧 貴愛 2012 『タイの教師教育改革:現職者 のエンパワメント』 広島大学出版会
7)法律では、戸籍上の性別変更ができず、学校で は、戸籍上の性別にあわせた制服を着用すること になっており、現在、制服の選択の自由を求めた裁 判が係争中である。また、学校には男女の2種類の トイレしかないところがほとんどである。