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フィールドに出るということ

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Academic year: 2024

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1.消費者行動論

 私が専門とする消費者行動論という分野は,経営学 や商学におけるマーケティング論の一部,あるいは近 接領域として位置づけられる。消費者行動論がマーケ ティング論に含まれるのかどうかという点は議論の分 かれるところであるが,とにかくマーケティング論が,

主に組織の視点からいかにマーケティング活動を行う かに関心を持っているのに対し,消費者行動論は受け 手である我々消費者の立場からマーケティング活動を 眺める,といった視点(関心)の違いが存在する。ま たミクロ経済学で登場する消費者行動の理論とも関心 やアプローチがだいぶ異なる。ミクロ経済学が目指す ところは財の最適な再配分であり,その中で登場する 消費者は顔を持たない経済主体のカタマリである。よ って同じ情報と判断力を持ち,効用を最大にするよう な意思決定を行う消費者が仮定されている。一方,消 費者行動論の関心は個別の顔を持つ消費者自身である から,このような厳しい仮定は足かせになってしまう のでむしろ置かないことがほとんどである。消費者は 人によって関心も割けるコストも異なるため意思決定 が同じになるとは限らない。また同じ人であっても条 件次第で異なる意思決定をすることは多々ある。さら にその意思決定は必ずしも合理的なものではないので ある。

 消費者行動論は比較的新しい分野であるから,学際 的な面が強く様々な分野からの知見やアプローチが寄 せ集められたようなところがある。例えば市場の細分 化では細分化の基準として,社会階層やライフスタイ ルなど社会学の知見が活かされている。また,行動経 済学で有名なプロスペクト理論は消費者行動論でも登

場し,心理会計の理論やフレーミング効果などの説明 に用いられる。数理的なモデルを消費者行動の説明や 予測に用いるということもなされるが,これはマーケ ティング・サイエンスや計量経済学の知見が元になっ ている。しかし,何より心理学(とりわけ社会心理 学)からの影響が大きいことは異論のないところであ ろう。よって,研究のアプローチも社会心理学的な特 徴を強く帯びているのである。

2.研究のアプローチ

 言うまでもなく研究(活動)のアプローチは分野に よっても,そして同じ分野の中にあっても様々であ る。私の分野に限って考えると実証的アプローチが圧 倒的に主流である。つまり量的にしろ質的にしろ,現 実から何らかのデータを集め,データの分析・解釈を 基に知見を積み上げて知識体系を構築しているのであ る。さらに言えば定性的な調査や分析よりも定量的な 調査や分析が重視されていることは否めない。テキス トデータや視覚データなどの質的データの分析にはど うしても主観的な解釈が伴ってしまう。得られたデー タが同じでも,解釈する人によって結果が異なってし まうということである。一方,アンケートや実験で得 られた数値化された量的データであれば,いつも安定 して同じデータが得られるわけではないが,少なくと もいったん得られたデータについては誰が分析しても 同じ結果を出すことが出来る。データ収集の方法とし てよく用いられるのが質問紙法,実験法,観察法,面 接法である。どの方法でも量的データ,質的データの 両方を取得できるが,質問紙法と実験法は主に量的デ ータを,観察法と面接法は主に質的データを集める手 法となる。そのため,調査方法についても主にフィー

―地域の窓―

福島大学経済経営学類准教授  

中 村 陽 人 

  1

フィールドに出るということ

Conducting fieldwork

NAKAMURA Akito

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  2 ルドに出て行う観察や面接よりは,アンケートや実験 を行うことが圧倒的に多いのである。かくいう私もご 他聞に漏れずオーソドックスなアプローチを採るタイ プの研究者である。つまり,アンケートや実験による 数値データを集め,定量的に分析することがほとんど である。通常,私の研究は研究室で完結する。これま での知見を整理し,仮説を導出し,仮説を検証するた めに客観的で妥当性の高い方法を用いて数値データを 集め,正しく,厳しくデータを分析・解釈し,インプ リケーションをまとめるのである。

3.東日本大震災と研究

 さて,話は変わるが甚大な被害をもたらした東日本 大震災の発生から,もうすぐ4年が経とうとしている。

年という歳月によって被災地以外の人の関心は大い に風化したが,福島は食や観光における風評被害との 戦いの真っ只中である。そのせいもあってこの4年の 間に自治体の街づくりや調査に関わる機会を得るよう になった。このような機会は私に大きなつの経験を もたらした。1つ目は他分野の研究者と一緒に調査研 究を行うという経験である。関心もアプローチも経験 も知識も大きく異なる研究者が一つの問題について一 緒に調査し,議論するというのは思っていた以上にエ キサイティングである。まったく異なる視点が提示さ れた瞬間,問題の本質の捉え方そのものを変えていく ことにつながることもあった。まったく違うところか ら当てられた光によって,これまで見えなかった別の 姿が照らし出されたのである。また,私は自分の専門 分野を非常に意識するようになった。各々に求められ ているのは,それぞれの分野の専門家としての見方や 知識であり,自分に課せられたその責任を果たさなけ ればならないからである。

 そしてもうつは,フィールドに出るという経験で ある。私にとって消費者は研究対象であるのに,前述 のように私は研究室の中で研究を進めてきた。それは それなりにもちろん意味を持つことであるが,どこか 現実とは切り離された世界の中を歩いているような感 覚がいつも消えなかった。しかし,フィールドに出て 対象となる消費者やインプリケーションを活かそうと する自治体の職員とコミュニケーションをとること で,現実とのつながりを実感することが出来たのであ る。具体的に言えば,設定する仮説の位置づけと分析 結果の考察をずっとずっと深めることが出来るのであ る。数値データはある意味で客観的な事実を映し出し

ている。しかしその事実(データ)に秘められた本当 のニュアンスやコンテクストは当事者たちと向き合い 探っていかなければなかなか明らかにならないもので あることを実感したのである。

4.フィールドに出るということ

 私が始めて学術学会に参加したしたとき(修士課程 の大学院生のとき),パネルディスカッションにパネ リストとして招かれていた著名な研究者が「切って血 の出る研究をしなければならない」とおっしゃられた。

この一言は当時の私に大きな衝撃を与え,今でも私に とって研究の理念となるものであるが,一方でそれは 理念にとどまり実際のところどうしたらいいのかとい う具体的な行動の指針にはなっていなかった。という のも研究において主観を排除し事実(データ)と向き 合う作業は,ある意味で非常に無機質だからである。

しかし,フィールドに出ることによってようやくこの 理念が胸に落ちたわけである。つまり研究の中心部分 はこれまでどおり主観を排し,客観性や妥当性,正確 性を追及していかなければならないが,研究の入り口

(問題意識,仮説の設定)や研究の出口(結果の考察 やインプリケーション)においてはフィールドに出て,

できるだけ主観的になって現実と関わることが重要で あると気づいたのである。私にとってフィールドに出 るということは研究と現実を結びつけ,無機質な研究 に血を注ぐことに他ならないのである。

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