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プロダクト イノベーション - J-Stage

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化学と生物 Vol. 52, No. 10, 2014

プロダクト イノベーション

不斉合成用生体触媒ライブラリー Chiralscreen®

株式会社ダイセル研究開発本部コーポレート研究センター

林 素子,上田桃子,山本浩明

光学活性化合物は,かつてはアミノ酸や糖などの天然 物に由来する不斉点(キラルプール)を利用して目的物 質を合成するか,優先晶析法で物理的に分割,あるいは ジアステレオマー法で化学的に分割するしかなかった.

これらの方法は現在でも有力な方法である.しかし,こ れらの方法では,求める構造の化合物を必ずしも入手で きるとは限らない.

近年はさまざまな不斉合成法の進歩,あるいはキラル カラムクロマトグラフィー法の進歩により,求める構造 の化合物を入手できるようになってきた.人工合成した 光学活性化合物が最も広く使われていると考えられる製 薬業界では,新規に認可された医薬品のうち,光学活性 化合物の占める割合は67%に達している.このうち,

光学活性体として使用されている化合物の割合は全体の 57%を占め,ジアステレオマー,またはラセミ体として 用いられている化合物はわずか10%にとどまる(1)

.こ

のことは,対掌体間で生理活性や毒性などに差があるこ とから(2)

,各対掌体は別の化合物であるとの認識が定着

し,光学活性体の作り分けが重要視されていることを示 している.さらに,光学活性化合物の使用は香料にも広 がっている(2)

.たとえば,メントールには3つの不斉点

があるが,そのうち(1 , 2 , 5 )体である -メントー ル(図

1

)だけが清涼感のある香りを有していることは よく知られていることである.同様に, -ノートカトン も3つの不斉点を有する化合物であるが,そのうちの一 つの異性体のみがグレープフルーツの香りを有する(3)

このように,医薬品や農薬のみならず,広い分野で光学 活性化合物が実際に使用され,あるいは使用を求められ ていることは疑いがない.

一方で,光学活性化合物の合成法として,生体触媒を 使用する方法も一部ではよく使われてきた.生体触媒と は,微生物や生物の組織そのもの,あるいはそこから抽 出し,(粗)精製した酵素のことであり,加水分解酵素で

あるリパーゼやパン酵母( )

を用いた不斉合成は,有機合成化学の分野でも比較的な じみのある生体触媒である.しかし,リパーゼは立体選 択的な加水分解あるいはエステル化を行う酵素であり,

通常はラセミ体を反応に供し,どちらかの対掌体だけを 反応させることで光学活性体を得るため,半量は使用で きない.また,パン酵母は複数の酵素を含んでおり,基 質に対して複数の酵素が競争的に反応する.そのため,

立体選択性の異なる複数の酵素が反応する場合は立体選 択性が低くなり(4)

,官能基選択性・位置選択性の異なる

複数の酵素が反応する場合には反応選択性が低くなる(5)

ということが起こりうる.また,酵素の速度定数などの 性質の違いにより,反応条件によっても得られる生成物 の光学純度や反応収率が変化する可能性があるため,安 定した光学純度,収率を得るには難がある.

一方,精製した酵素を用いる反応ではパン酵母で述べ たような問題は起こりにくい.しかし,酵素を精製する ためには手間と設備が必要であり,精製酵素は「生も の」であって保存性も一般的には低いことから,さまざ まな分野で使用するのは困難である.そこで,当社では

「Cloned Enzyme Library」と称する,高い立体選択性 および反応選択性を有する特定の酵素のみを大量発現さ せた組換え大腸菌のライブラリーを構築し,これを工業 的に光学活性化合物の製造に使用してきた(6)

.これら

OH O

l-Menthol d-Nootkatone

図1 -メントールと -ノートカトン

(2)

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は,目的とする酵素のみを大量に発現しているため,精 製をしなくても擬似的に(粗)精製酵素として用いること ができ,反応を安定して行うことができる.しかし,こ の場合も組換え大腸菌を培養し,使用するためのインフ ラが必要であり,2004年からは遺伝子組換え生物等の 使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律

(以後,カルタヘナ法と称する)に基づいた管理が必要 となったため,光学活性化合物を製造する企業のうち,

組換え大腸菌を用いた検討を行える企業は限定的であ る.

組換え大腸菌からChiralscreen®

当社は,酵素が有している高い立体選択性・位置選択 性・官能基選択性を伴った物質変換能力を広く活用して もらいたいと考え,有機合成化学に携わる人たちに,酵 素を有機合成に使用することに対する印象を聞いてみた ところ,次のような答えが得られた.

  1.酵素は不安定なので使いにくい.

2.酵素は水中で使用するので,基質が溶解しない.

3.特別な設備や試薬が必要.

4.酵素というものがそもそもよくわからない.

これらの懸念を払拭すれば酵素(生体触媒)の使用が広 まるのではないかと考え,解決策を見いだしていくこと にした.

酵素の安定性は,もちろん反応中に失活していくとい うことも含まれているであろうが,「生もの」なので保 存ができないということの方が大きいと思われた.酵素 の保存安定性を高めるために,溶液状態ではなく,凍結 乾燥した粉末の形態とすることにした.

2つ目の懸念については,リパーゼなどの一部酵素 を除くほとんどの酵素は水中で用いるものであり,有機 合成に通常使われる基質は水溶性が低い.しかし,実際 には,反応を進行させるためには溶解度はそれほど重要 ではない.たとえば,当社では,水に対する溶解度が 2 mM以下と極めて水溶性の低い3′,5′-bis(trifluoromethyl) 

acetophenoneに対して基質濃度10%で酵素反応を実施 し,ほぼ定量的に,かつ99%e.e.以上の立体選択性で反 応が進行することを確認している(図

2

.このような

データを機会があるごとに示していくことにした.

培養が不要であれば培養に必要な装置類は不要であ る.また,生きている遺伝子組換え菌を完全に除去して しまえばカルタヘナ法の適用を受けないため,法の求め る設備などの対応も不要である.それゆえ,酵素の生産 には(遺伝子組換え)菌を使用するにしても,除菌した

上で製品化することにした.菌を除去してしまうと,反 応に必要な補因子(補酵素など)を反応系内に添加しな ければならなくなる.そのため,小スケールの製品には 反応に必要な補因子は緩衝液などとともに添付した.手 軽に使ってもらえる形態にして,多くの人にまず酵素を 手に取ってもらい,その選択性の高さなど,人それぞれ の価値を見いだしてもらうことにより,4つ目の懸念点 も払拭いただけると考えた.

こうして,「準備いただくのは,基質と水と分析装置 だけ」で酵素反応ができるChiralscreen®が誕生した.

補酵素再生系の改良

当社は光学活性アルコールの製造を行ってきたことか ら,Chiralscreen® に含まれる酵素はアルコール脱水素 酵素,カルボニル還元酵素が多い.これらの酵素は,還 元 反 応 の 水 素 源 と し て 補 酵 素(NADHも し く は NADPH)を基質と当量必要とする.菌体反応の場合は 菌体中の補酵素とその再生系をそのまま反応に利用でき るが,Chiralscreen®は菌体を除去しているので,補酵 素の添加は必須となる.補酵素は酵母からの抽出によっ て製造されるために非常に高価であり,基質と当量を添 加することはコスト的に見合うものではない.すなわ ち,実用化に向けては補酵素の再生方法が鍵になると いっても過言ではない.

補酵素の使用量を低減するために,アルコール脱水素 酵素(7)

,グルコース脱水素酵素

(8)

,ギ酸脱水素酵素

(9)

亜リン酸脱水素酵素(10)などによる酸化反応と共役した 補酵素の再生方法が検討されてきた(図

3

.しかし,

アルコール脱水素酵素は主反応である還元に適した環境 中で酸化反応を行わせるために2-プロパノールを大過剰 に添加する必要があり,2-プロパノールと生成するアセ トンで酵素が変性したり,逆反応が進行したりするとい う問題がある.グルコース脱水素酵素は,C6化合物で あるグルコースを基質とし,副生するグルコン酸に由来

O F3C

CF3

OH F3C

CF3

OH F3C

CF3 ChiralscreenT M E039

ChiralscreenT M E092

>99%e.e.(R)

>99%e.e.(S)

図2疎水性基質のChiralscreen®による還元

(3)

701

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する環境負荷が高い.一方,ギ酸脱水素酵素(以後,

FDHと略す)は補酵素の再生に分子量の小さいギ酸を 使用するため,ほかの方法と比較して廃棄物量が少な く,生成するのは二酸化炭素で系中にほとんど残存せ ず,目的物質の単離・精製を邪魔しないというメリット

があることから,当社では 由来

のFDH(以後,McFDHと略す)の実用化に取り組ん できた.一般的に野生型のFDHは活性が弱く,かつ不 安定であり,実用化には向かないとされてきたが,複数 のCys残基の置換を行うことで酵素の安定性が向上 し,工業的に使用できる変異酵素McFDH-26を得るこ とができ,さまざまな化合物の反応に応用してきた(11)

Chiralscreen®でも,NADH依存性の酵素のほとんどは McFDH-26を共発現する系を採用している.

し か し,FDHはNADの み に 親 和 性 が 高 い た め,

NADPHの再生ができないという問題があった.これま で当社ではNADPHの再生にはグルコース脱水素酵素を 利用してきたが,環境負荷の低いFDHによるNADPH の再生は必要な技術と考え,これに取り組むこととし た.

唯一NADとともにNADPを利用できる野生型FDH として報告されている 由来のFDH は,223位のGlnが補酵素選択性に影響しているとの報 告がある(12)

.この酵素とMcFDH-26のアミノ酸配列を

比較したところ, 由来FDHのGln223に相当 する残基はAsp222であったため,この位置に変異を導 入することで補酵素選択性を改変できるのではないかと 考えた.実際に222位に変異を導入し,酵素活性を測定 したところ,Asp222Gln(McFDH-37)においてNADP を 利 用 で き る こ と が 確 認 さ れ た(表

1

.Asp222Ala

(McFDH-29)においては,NADとNADPの両方を ほぼ同様に利用できることも示された.

グルコース脱水素酵素はNADとNADPの両方を利

用できるが,たとえば 由来のグ

ルコース脱水素酵素は,補酵素結合部位としてAsn211 とArg213が報告されている(13)

.これらのうちAsn211は

McFDH-37のGln222に相当する.そこで,McFDH-37 の活性の上昇を目指し, 由来グルコース 脱水素酵素のArg213に相当するMcFDH-37のHis 224 にランダム変異を導入した変異体ライブラリーを作成 し,評価を行った.その結果,活性が約1.7倍に上昇し たHis224Asn変異体(McFDH-40)が得られた(表

2

モノづくりへの適用

こうして作成したNADP依存性McFDH-40が実際の 反応に適用できるかを検証するため,NADPH依存性ト ロピノン還元酵素による3-キヌクリジノンの還元反応を 実施した.基質である3-キヌクリジノン塩酸塩の濃度は 5% (309 mM)とし,トロピノン還元酵素およびMcFDH-  40のChiralscreen®を 各0.5%,NADPを2 mM,補 酵 素再生用基質であるギ酸ナトリウムを1 M添加して反応 させたところ,反応は定量的に進行し,生成した3-キヌ クリジノールの光学純度は99%e.e. ( )であった(図

4

すなわち,McFDH-40においては,活性が弱く,不安定 であるというFDHの欠点を克服したMcFDH-26の頑健 性はそのままに,補酵素選択性をNADPに変更するこ とに成功したことが示された.

R1

R2

O

Alcohol dehydrogenase / Carbonyl reductase

R1

R2 OH

NAD(P)H NAD(P)

+

OH O

Alcohol dehydrogenase

Glucose dehydrogenase Glucose Gluconate

Formate dehydrogenase HCOOH CO

2

Phosphite dehydrogenase Phosphite Phosphate

図3酵素による補酵素再生方法

表1補酵素選択性の改変 No. 222-Amino 

acid residue

FDH activity (mU/mg)

NADP/NAD NAD NADP

McFDH-26 Asp  

(native) 464 24.7 0.0533 McFDH-29 Ala 14.5 16.0 1.09 McFDH-37 Gln 61.4 315 5.13 McFDH-38 Asn 763 101 0.132 McFDH-39 Gly 566 162 0.286 表2活性の向上

ORF No.

Amino acid  

residue FDH activity 

(mU/mg) NADP/NAD 222 224 NAD NADP

McFDH-26 Asp His 464 24.7 0.0533 McFDH-37 Gln His 61.4 315 5.13 McFDH-40 Gln Asn 120 529 4.43

(4)

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McFDH-40をChiralscreen®に加えることで,補酵素 の再生に必要な資源投入量を削減でき,より環境負荷の 低い不斉合成反応が構築可能である.反応溶媒として水 を使用し,重金属などがなくても高い選択性が得られる 酵素反応の良さを知っていただくべく,さらに改良を重 ねていきたいと考えている.

文献

  1)  村上尚道:月刊ファインケミカル,37, 94 (2008).

  2)  A. Mannschreck & R. Kiesswetter:  , 84,  2012 (2008).

  3)  W. D. MacLeod:  , 6, 4779 (1965).

  4)  K. Nakamura, Y. Kawai, N. Nakajima & A. Ohno: 

56, 4778 (1991).

  5)  M. Utaka, S. Konishi & A. Takeda:  , 27,  4737 (1986).

  6)  山本浩明,小林良則:月刊ファインケミカル,36, 92 (2007).

  7)  多田雅人,山村栄虎,加藤朋子,藤本 昇,坂本恵司:

特開2004‒313033 (2004).

  8)  C-H.  Wong,  D.  G.  Drueckhammer  &  H.  M.  Sweers: 

107, 4028 (1985).

  9)  Z. Shaked & G. M. Whitesides:  , 102,  7104 (1980).

10)  R. Hirota, S. Yamane, T. Fujibuchi, K. Motomura, T. Ishi- da,  T.  Ikeda  &  A.  Kuroda:  , 113,  445  (2012).

11)  H. Yamamoto, K. Mitsuhashi, N. Kimoto, Y. Kobayashi & 

N. Esaki:  , 67, 33 (2005).

12)  R.  Hatrongjit  &  K.  Packdibamrung: 

46, 557 (2010).

13)  A. Theodossis, C. C. Milburn, N. I. Heyer, H. J. Lamble,  D. W. Hough, M. J. Dansonb & G. L. Taylor:  ,  F61, 112 (2005).

プロフィル

林  素 子(Motoko HAYASHI)   

<略歴>2002年京都大学大学院理学研究 科化学専攻博士課程修了/同年ダイセル化 学工業株式会社(現 株式会社ダイセル)

入社<研究テーマと抱負>酵素の製造方法 開発,酵素・微生物を用いた医薬中間体,

光学活性化合物,機能性素材の研究開発

<趣味>テニス,読書,ADH鍛錬 上田 桃子(Momoko UEDA)   

<略歴>1999年京都大学大学院農学研究 科応用生命科学専攻修士課程修了/同年ダ イセル化学工業株式会社入社<研究テーマ と抱負>物質混合系における物性発現メカ ニズムの解析<趣味>旅行,散歩

山本 浩明(Hiroaki YAMAMOTO)   

<略歴>1983年京都大学工学部工業化学 科卒業/同年ダイセル化学工業株式会社入 社/1984年京都大学化学研究所研究員(2 年間)/1986年エム・ディ・リサーチ株式 会社研究員(5年間出向)/1997年ダイセ ル化学工業株式会社主任研究員/2002年 同社主席研究員/2003年博士(農学)/2014 年コーポレート研究センター副センター長

<研究テーマと抱負>酵素・微生物を用い た医薬中間体,光学活性化合物,機能性 素材の研究開発・マネジメントに従事<趣 味>写真,サッカー観戦(特にアントラー ズ),最近は孫守(?)

Copyright © 2014 公益社団法人日本農芸化学会

N

O Tropinone reductase

NADPH NADP

+

N OH

McFDH-40 HCOOH

CO

2

HCl HCl

図4McFDH-40によるNADPH再生を利用した( )-3-キヌク リジノールの合成

Referensi

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