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プロダクト イノベーション - J-Stage

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プロダクト イノベーション

212 化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016

はじめに

黄金の液色に白い泡,その2色のコントラストがビー ルならではの美しさを演出する.泡はビールの酸化やガ スの揮散を防ぐだけでなく,その白くきめ細やかな性状 のためビールのおいしさを視覚から伝える重要な手段で ある.泡に関する研究は国内外のビール会社にとって古 くから,そして今もなお盛んに取組まれている分野であ る.

70年以上前,つまり戦時中の話になるが,東京上野 のカフェで来店者から「ビールの泡の量が多い」という 苦情が発生した.話が大きくなりビヤホール3社を被告 とした「ビールの泡がビールと言えるかどうか」といっ た裁判にまで発展した.法廷で当時東京大学農学部教授 であった坂口謹一郎先生が,ビールの泡はビールとほぼ 同じ成分である,また量として15〜30%が適当である と証言したことにより,1942年9月東京区裁判所から

「泡もまたビールなり」と無罪判決が言い渡された(1)

冗談のような話であるが,この事件をきっかけに日本の ビール各社は泡を重視するようになったのではないかと 個人的に思う次第である.

ビールの泡の研究は,主に泡がいかに長持ちするか,

すなわち「泡持ち」にフォーカスして行われてきた.泡 の構成因子としては大麦由来のタンパク質,ホップ苦味 成分,ビール中の炭酸ガスなどがあり,逆に脂肪酸,脂 質,酵母から排出されるタンパク質分解酵素などが阻害 物質として知られている.また,ビールが飲まれるその 瞬間までを考えると容器・グラスの形状,流通過程での 取り扱い,飲食店向け商品では注出サーバーの性能も重 要である.

当社はビールの泡品質に関する研究を長年広範囲に取

組んできた.今回はその中でも,醸造工程でのビール泡 品質向上策,泡持ちに優れたビール大麦の開発,飲食店 での付加価値提供を実現する生ビールサーバーの開発,

この3点について紹介する.

なお文中に登場するNIBEM法とはオランダHaffmans 社のNIBEM FOAM STABILITY TESTERを用い,所 定のグラスに一定条件で注いだ泡の高さが3 cm低下す る秒数を計測する世界で標準的に用いられているビール の泡持ち測定法で,NIBEM値が高いということはビー ルの泡持ちが良いということを示す.

醸造工程でのビール泡品質向上策

1. 大麦中のプラス成分を伸ばしマイナス成分を抑える 大麦は発芽することによって自らの酵素でデンプン,

タンパク質を糖類やアミノ酸へ分解し酵母に栄養源とし て供給するだけでなく,ビールの香りや味,そして泡に も大きく影響している.ビールの泡にとって大麦のタン パク質がプラス成分,脂質がマイナス成分と言える.

ビール大麦は重量比で2〜3%と脂質を比較的多く含 み,その構成脂肪酸の大半はリノール酸とオレイン酸で ある.脂肪酸は発芽工程やビール工場での仕込工程で酸 化され泡持ちの悪化や香味の老化を引き起す.特に泡持 ちの場合,リノール酸が複数の過程を経て9,12,13-トリ ヒドロキシオクタデセン酸(THOD)となり泡持ちを 悪化させることが知られており,われわれは小スケール での試験を重ね,脂質酸化を触媒する酵素リポキシゲ ナーゼ(以下LOXと表記)の活性を抑える仕込条件を 確立しビール工場へ展開した.

泡プラス成分のタンパク質は発芽の過程で徐々に分解 される.酵母の発酵性やその他最終製品の品質を考える

ビール泡品質向上への一貫した取組み

サッポロビール株式会社価値創造フロンティア研究所

中村 剛

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

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化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016

とタンパク質分解の程度は重要な管理指標である.当社 では,複数の大麦品種を用い発芽条件を変えた試験で,

ある大麦品種で発芽によるタンパク質分解が進んでも泡 持ちが影響を受けにくい,言い換えれば泡安定性の高い 品種があることを発見し,採用することとした.

また泡持ちにプラスとなるタンパク質は熱凝固性も高 いため,熱エネルギー管理のためにカロリー制御を導入 し,醸造工程で最も熱負荷の高い煮沸工程の熱エネル ギーを適正化した.

2. 酵母にストレスを与えない

わが国を代表するビール製造技術の一つである生ビー ルでは,非熱処理のため酵母由来のタンパク質分解酵素 が製品中でも失活されず経時的にタンパク質に作用し ビールの泡持ちを悪化させる.この酵素はProteinase A

(以下PrAと表記)と呼ばれ酵母の弱化や自己消化の際 に細胞外へ漏出されると言われていた(2)

.最近の研究に

より健全な酵母であっても,また酵母の増殖時にもPrA が排出されることが判明し,また酵母細胞外へのPrA排 出のメカニズムも明らかになりつつある.使用する酵母 株や,発酵・貯酒中の栄養条件やその温度,期間によっ て最終製品のPrA活性は大きく変化する.実際のビー ル製造においてPrA排出の低い酵母株の確認・選定や 酵母の弱化を起こしにくい管理を発酵および貯酒工程で 導入し,製品中のPrA活性低減を実現した.

なお流通における取り扱い(温度,振動,日光の影響 など)も製品中のPrA活性の影響を最小化するために は重要であるが今回は紙面の都合もあり省略させていた だくこととする.

これら醸造工程での施策は2000年から2002年にかけ て立上げた社内横断組織「泡プロジェクト」により,全 工場へ展開した.定着化した2004年以降の当社主要製 品のNIBEM法による測定値は2006年まで上昇し,これ から述べるLOXレス麦芽の使用を開始した2012年も含

め近年その数値は275前後で安定的に推移している.

泡持ちに優れたビール大麦の開発

前述のとおり大麦の脂質酸化は泡持ちを悪化させるだ けでなく,香味の老化を引き起こす原因でもある.当社 は岡山大学資源植物科学研究所と共同で,泡持ちと香味 耐久性の向上を目的として在来大麦遺伝資源から脂質酸 化を触媒する酵素リポキシゲナーゼ-1(以下LOX-1と表 記)のないLOX-1レス変異を探索した.数千系統のス クリーニングからLOX-1の活性を欠く自然変異を発見 し(3)

,この形質を導入した大麦を醸造試験に用いると,

大麦そのものでも,発芽させた麦芽においても泡持ちが 向上することを確認した(4)(図

1

2001年より,このLOX-1レス形質を栽培性や他の品 質面でビール醸造に適した大麦に導入するため,カナダ のサスカチュワン大学との共同で戻し交雑育種法による LOX-1レス大麦の開発を開始した.ビール泡持ちの高 い性質をもつ「CDC Kendall」との5回連続戻し交雑に より「CDC Kendall」の遺伝的背景をもち,なおかつ LOX-1レス形質を示す系統の育成に成功し,その後この 系統はカナダでの品種認定試験に合格し北米初のLOX-1 レス品種「CDC PolarStar」として2008年に品種登録を 出願した(5)

.以後,本品種の普及を進め,開発スタート

から10年以上を経て約17,000ヘクタール(2013年度)と いう大規模な栽培実績に到達した.

またオーストラリアでもLOX-1レス品種の戻し交雑 育種を進めアデレード大学と共同でオーストラリア初の LOX-1レ ス 品 種「SouthernStar」 を2012年 に 出 願 し,

2013年に商業規模の生産を開始した.日本では2013年 12月に国内初となるLOX-1レス品種「札育2号」を出願 し,さらに世界主要産地へのLOX-1レス大麦の普及を目 指してヨーロッパでも同様のプログラムを進めている.

ビールの泡品質を原料大麦から向上させるという取組

図1泡持ちとLOX-1の関係(A)および LOX-1レス麦芽・大麦による醸造試験の泡 持ち(B

9-HPOD: 9-hydroperoxy-10,12-octadecadienoic  acid. THOD: 9,12,13-trihydroxy octadecanoic  acid.  試験1:  麦芽での比較(麦芽24%発泡酒 仕様).試験2: 大麦での比較(大麦76%発泡 酒仕様).

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

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214 化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016

みは,交雑という手間暇のかかる地道な手法であるが当 社で長年培ってきた技術を活用したイノベーションと言 える.開発には交雑品種の栽培性やほかの品質面で多く の課題に直面し,幾多の改良を重ねたが10年以上の歳 月を経て商品へ使用できるレベルにまで実用化できたこ とは感無量である.

なお当社のほかの研究事例では,脂質関連酵素ではな くタンパク質に着目し,ビールおよび麦汁のプロテオー ム解析により新規な泡関連タンパク質を同定することに 成功し,大麦種子中の泡関連タンパク質含量に関与する DNAマーカーを開発,泡持ちの良い大麦新品種開発に おける選抜に利用している(6)

.本研究成果については

2015年5月ポルトガルで開催されたビール国際学会35th  EBC Congressで発表者の飯牟礼がBest Paper賞を受賞 した.

生ビールサーバーの開発

飲食店で提供する生ビールはビールの泡が実感できる 格別なシーンである.最終的な提供品質を維持・向上さ せるために生ビールを樽から注出するビールサーバーの 性能は重要である.サーバーの衛生状態が清潔に保たれ ていないとビールの泡品質はもちろん香りや味にも悪影 響を及ぼすため常に良好な状態を維持する必要がある.

当社では2002年より,構造上複雑なサーバーの冷却 部分を定期的に交換し自社の洗浄施設で分解洗浄する独 自の生ビール品質管理システム「サッポロセパレシステ ム」を導入した(7)

.2014年での導入店舗数は65,000店を

超え,分解洗浄の際に老朽部品の交換やメンテナンスを 行うため,サーバーは長寿命化され新規投資コストの軽 減という経済的なメリット,そして廃棄物の削減という エコロジーの観点でも各方面から評価をいただいてい る.

近年このサーバーを改良し泡付け機能を進化させたも

のを開発した.これまで泡付けのノズルはビールに対し て垂直方向に実施していたが,角度を90度変えることで グラス壁面接線方向へ泡付けすることにした(図

2

左)

これにより,泡付け時のビール液面の もまれ がなく なり,ガスの揮散を防ぎ,粒径の細かい泡をより長く維 持させることが可能となった(図2右)

.さらに飲むご

とに泡が再生し最後の一杯まで泡持ちの良いビールが楽 しめるようになった.ノズルの向きを変えるという単純 な発想であるが,ビールサーバー誕生から100年近く誰 も気がつかなかったイノベーションと言える.当サー バーは専用グラスや液温管理とともに「パーフェクト樽 生ビール」として2014年春より飲食店へ導入している.

おわりに

「美しい泡」はビール製造にかかわるすべての研究者,

技術者が追及すべき課題であり,ここで紹介した技術的 成果はその一部に過ぎない.紹介しきれなかった泡品質 向上に向けた多くの関係者の努力と成果に敬意を表した い.また農芸化学技術賞受賞をはじめ各方面からの評価 を励みにし,今後もビール泡品質のさらなる向上を目指 して努力を続けていきたい.

謝辞:大麦の研究・開発においては岡山大学の武田和義名誉教授,佐藤 和広教授,サスカチュアン大学(カナダ)のDr. Brian G. Rossnagel, Dr. 

Aaron Beattie,アデレード大学(オーストラリア)のDr. Jason Eglinton および関係いただいた多くの方々に感謝いたします.また2015年度農芸 化学技術賞へのご推薦と適切なご指導をいただいた静岡大学の河岸洋和 教授に厚く御礼申し上げます.

文献

  1)  坂口謹一郎: 坂口謹一郎酒学集成4 ,岩波書店,1998, 

p. 229.

  2)  S. Yokoi, T. Shigyo & T. Tamaki:  , 102, 33  (1996).

  3)  N.  Hirota,  T.  Kaneko,  H.  Kuroda,  H.  Kaneda,  M.  Taka- shio, K. Ito & K. Takeda:  , 111, 1580  (2005).

図2新型サーバーによる泡持ち向上効果

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

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化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016

  4)  N. Hirota, H. Kuroda, K. Takoi, T. Kaneko, H. Kaneda, I. 

Yoshida, M. Takashio, K. Ito & K. Takeda:  ,  83, 250 (2006).

  5)  T. Hoki, W. Saito, N. Hirota, M. Shirai, K. Takoi, I. Yoshi- da,  M.  Shimase,  T.  Saito,  T.  Takaoka,  M.  Kihara  : 

66, 37 (2013).

  6)  T. Iimure & K. Sato:  , 54, 1013 (2013).

  7)  門奈哲也:包装技術,42, 227 (2004).

プロフィール

中 村  剛(Takeshi NAKAMURA)

<略歴>1987年京都大学農学部食品工学 科卒業/同年サッポロビール株式会社入 社/1995〜1996年ビール醸造技術習得の ためドイツベルリンに留学/2014年3月よ りサッポロビール価値創造フロンティア研 究所にて勤務<研究テーマと抱負>常勝 R&Dチームの構築<趣味>子どもサービ ス,読書,住宅設計

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.212

日本農芸化学会

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Referensi

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