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ミヤコシンAの構造決定 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 53, No. 4, 2015

ミヤコシン A の構造決定

長鎖アルキル鎖中の分岐メチル基の絶対配置

ミヤコシンAは, 属カイメンから単離された がん細胞に対して細胞毒性を示す化合物で,同属のカイ メンからしばしば見いだされる両末端が高度に不飽和化 した長鎖の鎖状アセチレン化合物に分類される(1)(図1 ミヤコシンAは,長いアルキル鎖中に分岐メチル基が一 つある単純な構造の化合物であるが,分岐メチル基がほ かの官能基から遠く離れているため,その位置と絶対配 置の決定が困難であることが予想される.われわれは,

FAB-MS/MSデータのイオン強度に着目して分岐メチ ル基の位置を決定し,さらに,X線結晶スポンジ法(2, 3) ならびに遠隔位不斉認識試薬(赤坂・大類試薬)(4)を用 いたキラル分析の適用による構造決定を試みた.本稿で は,ミヤコシンAの構造決定の経緯について紹介する.

ミヤコシンAは,沖縄県宮古島近海の深海(宮古曽 根,水深415 m)で採取した 属カイメンから,

ヒト子宮頸がん細胞(HeLa細胞)に対する細胞毒性物 質として単離された.NMRデータの解析から,三重結 合,二級アルコール,二重結合と順に続く,カイメン由 来アセチレン化合物に特徴的な末端構造の存在が示され た.両端に位置するこれらの部分構造は,分岐メチル基 を一つ含む長いメチレン鎖によって連結されていた.

直鎖中の分岐メチル基の位置は,FAB-MS/MSスペ クトルのチャージリモートフラグメンテーションを用い て決定可能である.すなわち,鎖状分子の片側だけが優

先的に帯電すると,置換基のない直鎖部ではメチレン基 一つの違いに相当する14 Daずつ離れたピークが順に認 められるが,メチル分岐点では,両隣の炭素との結合が 切断されたイオンに由来する二つのピークが28 Da離れ て観察され,それらの中間にはピークが認められない.

この特徴的なイオンの現れ方に基づき,分岐メチル基の 位置を決定できる.しかし,ミヤコシンAの分岐メチ ル基の位置の決定に,この方法は使えなかった.すなわ ち,そのFAB-MS/MSスペクトルで直鎖アルキル基中 の開裂ピークはいずれも14 Daずつ離れていて,分岐メ チルに特徴的な28 Da離れたパターンは認められなかっ た.この現象は以下のように説明できる.すなわち,分 子の両末端の部分構造が同一のミヤコシンAでは,そ れぞれの末端がほぼ同一の確率で帯電するため,FAB- MS/MSデータは,いずれかの末端が帯電したプレカー サーイオンに由来するプロダクトイオンスペクトルが,

二つ足し合わせられたものとなる.したがって,片側に 帯電した場合のプロダクトイオンスペクトルで28 Daの ギャップがあっても,逆側に帯電した場合のプロダクト イオンスペクトルによってそのギャップが埋められてし まう.このような理由で,プロダクトイオンの質量分布 から分岐点の位置は決定できなかった.

文献を調べたところ,分岐脂肪酸のFAB-MS/MSスペ クトルにおいて,分岐点の両側での開裂イオンピークは,

より遠方のメチレン炭素間のものより2倍程度大きい,

というデータを見いだした.そこで,この法則をミヤコ シンAに適用してプロダクトイオン強度を予測し,実 測値との比較を行った.すると,分岐メチル基が14位 に存在する場合にだけ,両者がよく一致した.したがっ て,メチル分岐点を14位と推定した.なお,ミヤコシ ンA中の第二級アルコールの絶対配置は,キラル補助 剤 の(+)-お よ び(−)-

α

-Methoxy-

α

-(trifluoromethyl)- phenylacetic acid(MTPA)によるエステル化を利用す る改良モシャー法(5)によって,いずれも と決定され た.

ミヤコシンAのメチル分岐点の位置が正しいなら,

C8およびC9のメチレン鎖が分岐点から左右に伸びるこ とになる.メチレン鎖中の水素はいずれもほぼ同一の化

OH 3

OH

8 9

COOH N O

O

図1ミヤコシンA(上)および赤坂・大類試薬(下)の化学 構造

今日の話題

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学シフト値を与えるため,両末端に位置する不斉炭素と の相対配置をNMRデータから導くことは不可能であっ た.

X線結晶解析を行うことができれば,分岐点の絶対配 置を導くことが可能であるが,ミヤコシンAは油状物 質で結晶化しなかった.そこで,二つの選択肢を考え た.一つは,大類教授らが開発した遠隔位不斉認識試薬

(赤坂・大類試薬)(4)を用いたキラル分析で,もう一つは 東京大学工学系研究科の藤田教授らが開発した結晶スポ

ンジ法(2, 3)である.結晶スポンジ法とは,多孔性結晶内

の空隙に非結晶性化合物を取り込ませ,孔内で規則的に 配列した化合物を多孔性結晶に封じた状態でX線結晶 解析に供するという革新的な技術である.この手法をミ ヤコシンAに適用した結果,X線結晶構造解析が実施で き,メチル分岐点の絶対配置は であると推測された.

しかし,さらに詳しくデータを検討したところ,スポン ジ中でのミヤコシンAの揺らぎが当初想定したものよ り大きいため,分岐点の絶対配置の決定は困難である,

との結論が導かれた.

この解析と並行して,赤坂・大類試薬を用いたキラル 分析を試みた.赤坂・大類試薬によって第一級アルコー ルを誘導体化すると,末端炭素から9番目以内の炭素上 に分岐メチル基がある場合は,その化学シフト値が立体 異性体間で異なるが,10番目以遠の分岐メチル基の化 学シフト値は立体異性体間に差が認められない(4).ミヤ コシンAの二重結合を切断後還元するとC21のジオール が生成するが,この化合物におけるメチル基の位置はそ れぞれの末端から10番目および11番目となり,赤坂・

大類試薬の識別可能範囲を超える.そこで,両端の第一 級アルコールを脱離反応に付し,生じた末端オレフィン を切断後還元してC19-ジオールに導いた.このジオール における分岐メチル基の末端からの位置は9番目および 10番目となり,赤坂・大類試薬による分析の適用範囲 内となる.このようにして,ミヤコシンAをC19-ジオー ルに導くとともに,その両鏡像体を化学合成により調製 した.これらを赤坂・大類試薬を用いるエステル化に付 し,1H-NMRスペクトルを比較したところ,標品では 体のメチル基のシグナルが 体のものより0.02 ppm低磁 場側に現れ,かつ,天然物由来のものの化学シフト値は 体のものと一致した.したがって,ミヤコシンAの絶 対配置を14 と決定した(6).なお,これらの一連の実験 により,MS/MSデータのイオン強度の比較によって,

分岐位置が正しく推定されていたことも確認された.

われわれの研究とは独立して,森 謙治東京大学名誉 教授によってミヤコシンAの8種類の異性体が合成され た.天然由来ミヤコシンAとともに赤坂・大類試薬に よる誘導体のHPLC分析が行われ,その実験結果はわれ われの結論を本質的に支持した(7).ただし,HPLCのほ うが1H-NMRスペクトルより分解能が高いため,天然物 には 体がおよそ5%含まれていたことが示された.

ミヤコシンAの遠隔位不斉炭素の絶対配置の決定を 通して,赤坂・大類試薬が遠隔位不斉認識を実現する優 れた研究ツールであることが示される一方,結晶スポン ジ法によるX線結晶構造解析が,微量化合物の構造解 析における革新的技術であることが確認された.

  1)  Y. Hitora, K. Takada S. Okada & S. Matsunaga: 

67, 4530 (2011).

  2)  Y. Inokuma, S. Yoshioka, J. Ariyoshi, T. Arai, Y. Hitora,  K.  Takada,  S.  Matsunaga,  K.  Rissanen  &  M.  Fujita: 

501, 262 (2013).

  3)  Y. Inokuma, S. Yoshioka, J. Ariyoshi, T. Arai, Y. Hitora,  K.  Takada,  S.  Matsunaga,  K.  Rissanen  &  M.  Fujita: 

495, 461 (2013).

  4)  K. Imaizumi, H. Terasima, K. Akasaka & H. Ohrui: 

19, 1243 (2003).

  5)  I.  Ohtani,  T.  Kusumi,  Y.  Kashman  &  H.  Kakisawa: 

113, 4092 (1991).

  6)  Y. Hitora, K. Takada & S. Matsunaga:  , 69,  11070 (2013).

  7)  K.  Mori,  K.  Akasaka  &  S.  Matsunaga:  , 70,  392 (2014).

(人羅勇気,高田健太郎,松永茂樹,東京大学大学院農 学生命科学研究科)

プロフィル

人羅 勇気(Yuki HITORA)

<略歴>2012年東京大学大学院農学生命 科学研究科修士課程修了/同年同大博士課 程在学中<研究テーマと抱負>特異な生物 活性を有した海洋天然物の探索研究を行っ ている.今後は,海洋天然物の機能に着目 した研究を行う予定<趣味>コーヒー,映 画鑑賞

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化学と生物 Vol. 53, No. 4, 2015

高田 健太郎(Kentaro TAKADA)

<略歴>2004年東京大学大学院農学生命 科学研究科修了/同年米国国立がん研究所

(NCI)博士研究員/2007年理化学研究所 基礎科学特別研究員/2008年立命館大学 薬学部助教/2010年東京大学大学院農学 生命科学研究科助教<研究テーマと抱負>

海洋天然物化学の視点から,新たな生命現 象の発見とその有効利用を目指し研究を 行っています<趣味>水泳,ハイキング

松永 茂樹(Shigeki MATSUNAGA)

<略歴>1984年東京大学大学院農学系研 究科修了/1984 〜 1991年博士研究員(東 京 大 学,ハ ワ イ 大 学,国 立 が ん セ ン タ ー)/1991年 〜 東 京 大 学(助 手,助 教 授,教授)<研究テーマと抱負>「Drugs  from the Sea」の実現に向けて,有用物質 の探索を続けています<趣味>スポーツ,

山歩き,おいしい物を食べること・飲むこ と・作ること,音楽鑑賞

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会

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【解説】 ゲノム解読が進むにつれ,糸状菌には,これまで同定された 化合物から予測されるよりも,はるかに多くの二次代謝物を 生産する能力が秘められていることが明らかになってきた. 二次代謝物生合成遺伝子の大半は,通常の培養条件下では休 眠状態にあり,われわれは,その能力の一部しか引き出せて いない.最近,急速に解明されつつある,エピジェネティク