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(1)

568 化学と生物 Vol. 53, No. 9, 2015

学習能力の発達を調節するタンパク質

成長期における α 2 キメリンの働きが おとなでの脳機能を左右する

私たちヒトの脳は,1,000億個以上の神経細胞(ニュー ロン)によって構成されています.神経細胞は互いに突 起(軸索と樹状突起)を伸ばし,シナプスを介して結び つくことによって複雑で精密な神経回路を作ります.こ うした神経回路が,記憶,学習,思考,言語といった高 いレベルの脳の働き(高次脳機能)の基盤となります(1). 神経回路は成長期(発達期)に単に作られるだけでなく さまざまな微調整を受けますが,そうした成長期の回路 微調整が,おとなになってからの脳の高次機能にどのよ うな影響を与えるかについては,よくわかっていません.

本稿では,「

α

キメリン」というタンパク質に着目し た最近の研究について紹介します(2)

α

キメリンはRac

(Rhoファミリー Gタンパク質の一つ)を特異的に制御 するタンパク質です.Racはアクチン細胞骨格を制御す ることにより神経回路の形成や調節を行います(3)

α

キ メリンは,日本で発見された「ウサギのように左右の足 がそろった歩様を示す」突然変異マウス(ミッフィー変 異マウス)の原因遺伝子として同定され,手足の動きを 制御する運動系神経回路の形成に重要な働きをすること が示されています(4).また,ヒトの

α

キメリン遺伝子の 機能獲得型変異が,デュアン眼球後退症候群(先天性の 眼球運動障害)の原因であることも報告されています(5). すなわち,

α

キメリンは運動系の神経回路形成に重要な 働きをすることがこの数年間で相次いで明らかになって きました.一方,

α

キメリンは,記憶に重要な働きをす ることが知られている「海馬」と呼ばれる脳の領域でも 強く発現しますが,脳の高次機能における役割はこれま

でに知られていませんでした.

α

キメリンは,

α

1型と

α

2型に分けられます.正常マウ スの脳において,成長期(生後2 〜3週ごろまで)には

α

2型が強く発現し,おとなでは

α

1型が強く発現します.

全身で

α

キメリン(

α

1型と

α

2型の両方)がノックアウト されたマウスの観察では,マウスは両足をそろえて歩く だけでなく,常にケージ内を走り回っているという過剰 活動を示しました.このノックアウトマウスの活動量を 1週間にわたりモニターした実験では,夜のほうが昼よ りも活動量が多いということに関しては正常でしたが,

昼夜のいずれでも正常マウスの20倍も多く動き回ってい ることがわかりました.このことから,

α

キメリンに動物 の活動量を調節する機能があることが示唆されました.

α

キメリンノックアウトマウスでは,「文脈型学習」

の能力も向上していました(図1.マウスを実験用 ケージに移して電気ショックを与え,数日後に再び同じ 実験用ケージに移すと(電気ショックがないにもかかわ らず)恐怖反応(すくみ反応)を示します.マウスは電 気ショックを受けたケージに移されるという文脈から電 気ショックを思い出し怖がるわけですが,すくみの程度 を計測することにより学習の能力を知ることができま す.このような学習を「文脈型学習」といいますが,文 脈型学習は海馬の働きに依存することが知られていま す.背側終脳(海馬を含む脳の部分)のみでノックアウ トしたマウス,

α

1型と

α

2型の一方のみをノックアウト したマウス,さらに,成長期には遺伝子をオンにしてお き,おとなになったらオフにするマウスなど,さまざま

今日の話題

(2)

569

化学と生物 Vol. 53, No. 9, 2015

な種類の

α

キメリン変異マウスが作製され,行動実験が 行われました.その結果,

α

1型と

α

2型の両方,および

α

2型のみが全身でノックアウトされたマウスでは,歩 様の異常,活動量の上昇,学習能力の向上のすべてが観 察されましたが,

α

1型のみがノックアウトされた場合 には,すべて正常でした.また,背側終脳のみにおい て,

α

1型と

α

2型の両方,あるいは

α

2型のみがノックア ウトされた場合には,歩様や活動量は普通でしたが,学 習能力だけは向上していました.一方,おとなになって から

α

1型と

α

2型の両方,あるいは

α

2型のみをノックア ウトした場合は,学習能力の向上は観察されませんでし た(図1).これらの行動実験の結果から,(成体ではな く)成長期での

α

2キメリンの働きが,成体における学 習能力の調節(抑制)に関与していることが明らかにな りました.

一方で,健康なヒトを対象に「

α

キメリン遺伝子のタ イプ(一塩基多型:Single Nucleotide Polymorphisms)」

と性格や能力などの関係が調べられました.すると,

α

2キメリン遺伝子のごく近傍の(遺伝子発現を制御し

ていると考えられる)領域にある「一つの塩基」が「特 定の型」のヒトでは,自閉症患者に似た性格傾向が見ら れ,加えて計算能力も高い傾向にあることが明らかにな りました(2).これらのことから,

α

2キメリンがヒトの脳 機能の個人差と関連していることが示唆されました.

一連の研究結果により,

α

キメリンがマウスやヒトの 高次脳機能の調節に重要な役割を果たすことが,初めて 明らかになりました.特に成長期における

α

2型の働き が,おとなになってからの学習能力に影響することが明 確に示された点は,自閉症スペクトラムなどの発達障害 のメカニズム解明や健常な子どもの脳の発達の理解につ ながる可能性が高いという観点から,インパクトが高い といえます.発達期において

α

2キメリンが欠損した脳 ではどのような回路調節異常が引き起こされ,それがど のようにしておとなでの高次脳機能異常の原因となるの かを突き止めることは今後の重要な課題です.

  1)  E. R. Kandel, B. A. Barres & A. J. Hudspeth: “Principles  of Neural Science,” Fifth Edition, McGraw-Hill, 2012, pp. 

21-38.

図1各種のαキメリン変異マウスでの文脈型学習の成績

発達期にα2キメリンをもたないマウスでは記憶力(すくみ反応の程度で評価)が向上するが,α1キメリンを欠損するマウスやおとなに なってからα2キメリンを欠損するマウスでは学習能力の向上は見られない.これらの結果から,発達期のα2キメリンの働きがおとなに なってからの学習能力を調節していることがわかる.

今日の話題

(3)

570 化学と生物 Vol. 53, No. 9, 2015   2)  R. Iwata, K. Ohi, Y. Kobayashi, A. Masuda, M. Iwama, Y. 

Yasuda, H. Yamamori, M. Tanaka, R. Hashimoto, S. Ito- hara  :  , 8, 1257 (2014).

  3)  L. Luo:  , 1, 173 (2000).

  4)  T. Iwasato, H. Katoh, H. Nishimaru, Y. Ishikawa, H. Inoue,  Y. M. Saito, R. Ando, M. Iwama, R. Takahashi, M. Negi- shi  :  , 130, 742 (2007).

  5)  N. Miyake, J. Chilton, M. Psatha, L. Cheng, C. Andrews,  W. M. Chan, K. Law, M. Crosier, S. Lindsay, M. Cheung 

:  , 321, 839 (2008).

(岩田亮平,岩里琢治,国立遺伝学研究所形質遺伝研究 部門)

プロフィル

岩田 亮平(Ryohei IWATA)

<略 歴>2010年 北 海 道 大 学 獣 医 学 部 卒 業/2014年総合研究大学院大学遺伝学専 攻博士課程修了/同年国立遺伝学研究所研 究員<研究テーマと抱負>神経回路の発達

<趣味>サボテン

岩里 琢治(Takuji IWASATO)

<略 歴>1987年 京 都 大 学 理 学 部 卒 業/

1991年日本学術振興会研究員/1992年京 都大学大学院理学研究科生物物理学専攻卒 業(理学博士)/1993年マサチューセッツ 工科大学ポスドク/1998年理化学研究所 脳科学総合研究センター研究員,副チーム リ ー ダ ー/2001年 さ き が け 研 究 者(兼 務)/2008年国立遺伝学研究所教授,現在 に至る<研究テーマと抱負>子どもの脳の 発達を理解すること<趣味>歴史

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.53.568

今日の話題

Referensi

Dokumen terkait

<例1> 昆虫は,脳を含むよく発達した神経系を有しており,そのおかげで,長い間人間とその他の霊長類だけのものだと 考えられていた非常に高度な活動を多数行うことができる。 <例2> 昆虫は,脳を含め,非常に発達した神経組織があるために,人間などの霊長類にしかできないと長い間考えられて いた,いくつかの複雑な行動を達成できるのである。 区分 配点 具体事例