総合研究所・都市減災研究センター(UDM)研究報告書(平成24年度)
テーマ3 小課題番号3.1-2
住宅基礎コンクリートの性状に及ぼす締固め方法の影響
住宅基礎 立上がり べた基礎 締固め方法 養生方法 花野 克哉* 篠山 彰* 佐藤 顕太**
宮本 真道** 阿部 道彦***
1.はじめに
近年、環境保全や資源の枯渇により、資源の有効利用 が以前にも増して求められている。このため、住宅にお いても長寿命化が要求されているが、木造住宅や鉄骨住 宅では「住宅の品質確保の促進等に関する法律」の住宅 の性能表示制度によると、基礎は評価の対象となってい ない。しかしながら、基礎も上部構造同等の耐久性を有 する必要があることから通常より強度の高いコンクリー トを用いる試みが行われているが、その強度特性につい ては十分な検討が行われていないのが現状である。
現在、現場で用いられている基礎のコンクリートの強 度 を 向上 させ る方 法の ひとつ と して 、 棒 形振 動機(以下、
バイブレータ)の再振動によ る締固めがあげられるが、実 施データが少なく、その有効性は明確でない。本研究で は、締固め方法の違いがコンクリートの品質に及ぼす影 響を検討することとした。なお、今回の実験では基礎の 立上りおよびべた基礎について検討を行うこととする。
2.実験概要 2.1基礎の立上り
基礎の立上りのコンクリートについて再振動による強 度への影響を検討することとし、模擬基礎と管理用供試 体 を 作 製 し 、 前 者 か ら コ ア を 採 取 す る 。 材 齢 4 週 、13 週で供試体の密度、超音波伝播速度、動弾性係数(JIS A 1127)、圧縮強度(JIS A 1107)を測定し、強度性状の評 価 を行う。また、乾燥収縮(JIS A 1129)および促進中性 化 (JIS A 1153)とコアによる 促進中性化の試験を行う。
写真1 模擬基礎型枠 図1 模擬基礎
寸法 :高さ300㎜×幅 500㎜×厚さ160㎜(模擬基礎) 寸法 :100φ×200㎜と 75φ×150㎜(管理用供試体) 寸法
: 75φ×150 ㎜(コア供試体)
型枠 :鋼製型枠(模擬基礎)
:プラスチック製軽量型枠(管理用供試体、75φの 供試体は鋼製型枠)
仕様:表1参照
表1 :実験の組合わせ(基礎 の立上り )
① 強度
・設計基準強度 24N/mm²
・耐久設計基準強度 24N/mm²(JASS5)
・品質基準強度 24N/mm²(JASS5-2009)
・呼び強度(一律) :30N/mm²(JASS5 24+6)
② 水セメント比 50%以下
③ スランプ
12cm、18cm(劣 化等級3、JASS5では 18cm以下)
④ 単位水量
170kg/m³以下(高耐久指針175kg/m³以下)
⑤ 締固め
バイブレータφ50、φ25 を用いて施工し、
バイブレータφ50 で再振動
⑥ 脱型
打設日の二日後とする。
立上り部分の脱型は材齢
(積算温度(20+10)×4=120°D・D)
⑦ 打設時期:2012年8月8日(水) 気温35℃を想定 打設時期:2013年2月6日(水) 気温5℃を想定
2.2べた基礎
べた基礎のコンクリートについて足踏みと再振動によ る強度への影響を検討することとし、模擬基礎と管理用 供試体を作製し、前者のコアを採取する。材齢4週、13 週で供試体の密度、超音波伝播速度、動弾性係数(JIS A 1127)、圧縮強度(JIS A 1107)を測定し、強度性状の評 価 を行う。また、乾燥収縮(JIS A 1129)および促進中性 化 (JIS A 1153)とコアによる 促進中性化の試験を行う。
寸法 :高さ1000㎜×幅1000㎜×厚さ160㎜
寸法 :鉄筋D13@200タテヨコ
寸法 :かぶり厚さ確保スペーサH =70㎜ 寸法 :防湿フィルム0.1㎜、砕石100㎜厚
寸法 :100φ×200㎜と 75φ×150㎜(管理用供試体) 寸法 :75φ×150㎜(コア 供試体)
*:東日本ハウス **:工学院大学建築学科4年 **:工学院大学建築学部 教授 工博
総合研究所・都市減災研究センター(UDM)研究報告書(平成24年度)
テーマ3 小課題番号3.1-2 型枠 :鋼製型枠(床スラブ)
寸法 :プラスチック製軽量型枠(管理用供試体、75φ の 供試体は鋼製型枠)
仕様:表2参照
表2 実験の組合わせ(べた基礎) 養生方法
締固め
冠水養生 シート養生
バイブ+足踏み+バイブ バイブ+バイブ(再振動) バイブ+バイブ(再振動) バイブ
・強度、水セメント比、単位水量および脱型は基礎の立 上りと同じとする。
① スランプ
12cm(劣化等級3、JASS5では18cm以下)
② 締固め
バイブレータφ50で再振動を行う。
足 踏 み に よ る 踏 固 め は 成 人 男 性 の 標 準 体 重 ( 約 65kg)で行う。
③ 打設時期:9月26日(水)打 設 気温20℃を想定
3.実験結果・考察 3.1基礎の立上り
基礎の立上り部分の管理用供試体とコア供試体の強度 試験結果を表3、表 4に示す。
(1) 管理用供試体
100φ ×200 の 供 試 体 で は 、 現 場 水 中 が 最 も 高 い 数 値 を得る結果となった。また、同じ水中養生でも標準養生 の強度の方が2~4(N/ mm²)小さくなった。これは 温 度の高い方がコンクリートの水和反応が起こりやすいた めである。また、標準養生と封かんでは大きな差は見ら
れなかった。これは封かんすることにより過剰な水分蒸 発を防げたことと、温度が同じであったためである。養 生方法では、水中養生が最も強度が高くなると言える。
75φ×150の供試体は、す べての供試体のなかで一番強
度が強くなった。よって、寸法の大きい供試体より小さ い供試体の方が高い圧縮強度を示すことが確認された。
(2) コア
スランプ12cm、18cmともに再振動を行った場合のほ
うが、行わなかった場合に比べて、密度・超音波伝播速 度・動弾性係数ともに値が大きくなっており、圧縮強度 が5~8(N/m㎡)程度増す ことが分かった。このこと か ら、基礎のコンクリートの再振動による締固めは品質を 向上させる上で有効であることが確認できたと言える。
スランプによる強度の違いは、材齢4週では単位水量 の少なく乾燥収縮率の小さいスランプ 12cm のほうが 4
~5(N/ mm²)高い圧縮強 度を示した。しかし、材齢13 週ではスランプ12cm、18cmでの圧縮強度の差はあまり ないと言える。
バイブレータの直径による違いは、材齢4週では僅か な が ら で は あ る が 直 径 の 小 さ い 25φ の バ イ ブ レ ー タ の 方が強度が大きくなっている。材齢 13 週の場合では 、 材齢 4週と同じく約 3(N/ mm²)直径の小さい25φ の バイブレーターの方が強度が大きくなっている。
今回の 実験で は、 スラン プ 12cm、再振 動あ りのも の が最も高い強度であり、基礎のコンクリートとしての使 用に適しているという結果が出た。よって現場での施工 の際もバイブレータによる再振動の締固めは有効である ことがわかった。
表 3 管理用供試体の強度試験結 果果
表 4 コア供試体の強度試験結果
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テーマ3 小課題番号3.1-2 (3)乾燥収縮
乾燥収縮供試体の乾燥収縮率、質量変化の試験結果を 表5、図2、図3に示す。
表5 乾燥収縮試験結果
スランプ12 スランプ18 スランプ12 スランプ18
0週 0.00 0.00 0.00 0.00
1週 -2.75 -3.20 -1.41 -1.59 2週 -4.55 -5.00 -1.72 -1.94 3週 -5.55 -6.08 -1.89 -2.13 4週 -6.23 -7.05 -2.01 -2.26 8週 -7.97 -6.76 -2.17 -2.51 13週 -9.00 -6.08 -2.29 -2.61 17週 -8.33 -7.55 -2.45 -2.76 21週 -7.78 -7.72 -2.46 -2.77 供試体寸法
(mm) 材齢 乾燥収縮率 質量変化
100×400×100
図2 質量変化結果
図3 乾燥収縮率結果
スランプ12cmはスラン プ18cmに比べ乾燥収縮率、
質量変化が共に小さいことが分かる。これはスランプ18 の方が単位水量が多いため、乾燥時に多くの水分が抜け たことによるものである。しかし、若干の測定ミスがあ るが、初めはスランプ12の 方が乾燥収縮率は小さいが、
期間が経過すると、ほとんど同じ値になることが認めら れた。また、収縮率が大きい方がひび割れの発生が多く なるため、表面を露出するコンクリートなどにはスラン プ12のコンクリートを使用することが推奨される。
(4)促進中性化
促進中性化の角柱供試体とコア供試体の試験結果を表 6、表7、図4に示す。
表6 促進中性化(角柱試験体)試験結果 供試体寸法
(mm)
スランプ
(cm) 4週 9週
12 7.53 9.36 18 8.23 9.99 100×400×100
表7 促進中性化(コア供試体)試験結果 供試体寸法
(mm) 材齢 スランプ (cm)
中性化 9週 4週 12 A バ50φ再 7.62
4週 12 B バ50φ 8.55
4週 12 C バ25φ 8.37
4週 18 D バ50φ再 7.09
4週 18 E バ50φ 9.20
4週 18 F バ25φ 9.38
75φ×150
成形方法
図4 促進中性化(コア供試体)試験結果 コア供試体では、最も小さい値となったのはスランプ 18cmのバイブレータ50φ 再振動有りとなった。しかし 、 他の供試体ではスランプ 12cmの方が 小さい 値となっ て いるので、これは実験の誤差の範囲内と言える。よって スランプ12のバイブレータ50φ再振動有りが最も良 い 結果となった。これは再振動することにより、密度が大 きくなり二酸化炭素の進入が遅れたためと考えられる。
3.2べた基礎
べた基礎の管理用供試体とコア供試体の強度試験結果 を表8、表 9に示す。
(1) 管理用供試体
100φ ×200 の 供 試 体 で は 、 現 場 水 中 が 最 も 強 度 が 高 い結果となったが、これは同じ水中養生でも標準養生の 強度とほぼ同じ値となった。また、封かんは他の水中養 生と非破壊試験では大きな差は見られなかったが、圧縮
強度では 3(N/m㎡)程度 の差が出た。75φ×150 の 供
試体は、供試体作製時のミスで形状が大きく損なわれた ため、比較ができなかった。
総合研究所・都市減災研究センター(UDM)研究報告書(平成24年度)
テーマ3 小課題番号3.1-2
(2) コア
今回の実験では、締固め方法として足踏み+再振動と 再振動のみの2種類を試みたが、全体を通して再振動の みの供試体の方が足踏みを行ったものに比べて良い結果 が得られた。圧縮強度を例にあげると、4週、13週とも に 再 振 動 の み の 供 試 体 の 方 が 約 3.0(N/mm2)程 度 高 く な っている。現在、現場で用いられている主な締固め方法 は、足踏みによるものである。しかし、今回 の実験では、
足踏みによって逆に強度を下げてしまう結果となった。
養生方法では全体を通して、冠水養生の方が良い結果 が得られた。非破壊試験では冠水養生がわずかに良いと いう程度であったが、圧縮強度では冠水養生が平均で約 10.0(N/mm2)高 く 、 冠 水 養 生 は 大 き な 効 果が あ っ た と言 える。管理用供試体でも水中養生の効果を示す結果が確 認されており、水を用いた養生が強度の向上に大きくか かわっていることが確認された。
(3) 促進中性化
促進中性化の角柱供試体とコア供試体の試験結果を表 10に示す。
コ ア 供 試 体 で は 、B( 再 振 動 有 り の 冠 水 養 生 ) が 最 も 中性化しづらいという結果が出た。
4.まとめ
住宅基礎コンクリートの性状に及ぼす締固め方法の影 響について検討し、再振動の有効性を確認した。またべ た基礎については冠水養生も有効であることが確認され た。しかし足踏みは逆に強度を下げる結果となった。
表10 促進中性化(コア供試体)試験結果 供試体寸法
(mm) 材齢 成形方法 中性化 9週
4週 A バイブ+足踏み+バイブ
(冠水あり) 4.05
4週 B バイブ+バイブ
(冠水あり) 2.17
4週 C バイブ+バイブ
(シート) 4.42
4週 D (シート)バイブ 4.02
75φ×150
図
5
促進中性 化(コア供 試体)試験結果 謝辞本実験は、東日本ハウス、建材試験センターおよび工 学院大学の共同研究により実施したもので、実験の実施 に当たり関係各位の協力を得た。記して謝意を表します。
参考文献
1) 青 木 穂 高、 他 1名 : 高耐 久基 礎 の 圧縮 強 度に 関 す る 検 討 、 日 本 建 築 学 会 関 東 支 部 研 究 報 告 週 CD-ROM、
1,028、2012.3 表 8 管理用供試体の強度試験結 果
表 9 コア供試体の強度試験結果