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化学と生物 Vol. 54, No. 8, 2016
分子細胞生物学 第7版
H. Lodishほか 著
石浦章一,榎森康文,堅田利明,須藤和夫,仁科博史,山本啓一 訳 A4変型判,フルカラー,1,080頁,本体価格8,300円
東京化学同人,2016年
本書は,分子細胞生物学のスタンダード教科書として 世界的に広く使われている “Molecular Cell Biology” の 日本語訳である.日本語訳は1989年の初版から4〜5年ご とに再版を重ね,前回の第6版は2010年11月に発行され た.以前の訳で学ばれた読者も多いに違いない.今回の版 ではI. 化学的・分子的基礎(1〜3章)から始まり,II. 遺 伝学と分子生物学(4〜8章),III. 細胞の構造と機能(9〜
19章),IV. 細胞の増殖と分化(20〜24章)まで全部で24 章から構成されており,綺羅星のごとき著名な先生方が訳 に携わられている.
まえがきでも述べられているように,学部学生や大学 院生の教育に長い経験をもち,常に教育の質を高める努力 をしている原著者らは,本書の執筆にあたり,ここ数年間 のうちに生まれた革新的技術を起爆剤として著しい進歩を 遂げてきた生命科学の新たな展開を取り入れている.たと えば,次世代DNA配列決定法の技術的解説と,それがも たらした大量のゲノム情報についての解説が新たに追加さ れている(5, 6章).また,2012年のノーベル生理学・医 学賞受賞の対象となり日本中が沸き立ったiPS細胞につい
ても取り上げられている(21章).
以前の版からであるが各節の最後にはまとめが箇条書 きで並べられていて,知識を整理するのを手助けしてくれ る.各章の最後には「将来の展望」や「重要な単語」とと もに「重要概念の復習」(章末問題)がまとめられている.
中でも章末問題は今回の第7版で大きく作り直されたり追 加されたりして最新の研究成果が反映されている.また,
「データの分析」は実験結果の解釈の訓練に役立つ.これ らに関しては,模範解答があればより理解が深まると感じ るのは怠惰な私だけであろうか.章末にところどころ挿入 されている「古典的実験」のコラムは生物学研究の歴史を 学ぶうえで最高の教材であり,古典に立ち帰ることの重要 性を教えてくれる.専門課程レベルの学生から教員,研究 者まで分子細胞生物学に携わるすべての人にとって必読の 一冊である.
(石丸喜朗)
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