国語科授業における論理構造の可視化
花 塚 寛
研究の概要
1 問題の所在と研究課題
説明的文章の読みの授業において、 文章の論理構造を捉えることの意義は、
従来から広く認められてきた。 しかし、 論理構造という概念が指し示す内容 は必ずしも適切であったとは言えない。
松本修 (2009:140) は、 「説明文・評論文でとらえるべき論理性が、 文章 構成に無理に関連づけられたということもできる。」 と述べて、 論理構造と 文章構成が混在していたことを指摘している。 松本の指摘するように、 論理 構造と文章構成との区別が明確でない先行研究は少なくない。 しかし、 論理 構造と文章構成とは同一のものではない。 例えば、 原因と結果の関係という 論理構造を文章化するとき、 書き手は、 「原因→結果」 という文章構成を選 択することもできるし、 「結果→原因」 という文章構成を選択することもで きる。 すなわち、 ある論理構造が文章として書かれた結果として、 序論・本 論・結論といった文章構成が生じるのである。
文章構成と論理構造とを峻別した研究としては、 森田信義の研究が挙げら れる。 森田信義 (1998:25) は、 「 論理 を読むとは、 ことがら・内容の関 係を読むことである。 ……… (引用者中略) ………説明的文章教材の学習に 当たっては、 文章の全体を視野に入れた部分相互の関係を把握し、 それに主 体的に反応することが最も重要である。」 と述べている。 筆者は森田と同じ 視座に立ち、 論理構造を捉えることが説明的文章の学習において重要である という立場をとる。 以下、 本論文においては、 文章における部分相互の、 ま・・・・・・・・・・・ ・ たは、 文章全体と部分の関係を論理と呼び、 それらの論理の総体である文章
・・ ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・
全体の構造を論理構造と呼ぶ。
・・・・・
しかしながら、 その論理構造を捉える方法については、 森田にしても、 具 体的には提示しておらず、 「論理構造をとらえるためには、 段落や部分のう ちで抽象レベルの高いものに目を付けなくてはならない。」 (森田 同:28) として、 文章における抽象と具象の関係への着目のみが示唆されている。 こ の点について、 森田以外の先行研究や先行実践においても、 同様に抽象と具 象の関係を捉えることの重要性を指摘している文献は散見されるが、 その具 体的な方法までを提示した文献は、 管見の限り少ない。
そこで、 本研究の課題を次のように設定した。 論理構造を捉える方法論に
ついての先行研究を紐解き、 国語科授業において活用できる具体的かつ有効 な方法論を提案すること。
2 研究の目的と方法
研究課題を解決するための方法論として、 筆者は、 佐藤佐敏 (2007) によっ て提案された 「ロジックツリー」 に着目した。
佐藤 (2009a:140) は、 「抽象と具象」、 「全体と部分」、 「主張と根拠」、
「結果と原因」、 「目的と手段」 の5つ1の論理 (上位概念と下位概念の関係) を可視化する方略であるロジックツリーを提案した。 一例を挙げると、 「主 張と根拠」 の関係を、 図1のようなロジックツリーで示している。
図1のロジックツリーは、 上位 の 「死刑を廃止すべきだ」 という 一文が上位概念 (主張) であり、
下位の3つの文がそれぞれその下 位概念 (根拠) であるという関 係を視覚的に図示している。
このロジックツリーという方略を用いることで、 論理構造を可視化するこ とが可能になる。 また、 ロジックツリーを生徒に活用させることで、 生徒は 論理構造を捉えやすくなるであろう。
しかしながら、 現在 (2015年) の時点において、 このロジックツリーを理 論的に裏付ける研究はなされていない。 そこで、 筆者は、 佐藤の提案したロ ジックツリーの理論的な裏付けを図ることを企図する。
本研究の目的は、 文章の論理構造を可視化する方略であるロジックツリー を理論的に裏付け、 説明的文章の読みの授業における活用の方途を明らかに することである。
そのために、 次のような研究方法をとる。
第一に、 抽象と具象の関係という観点から、 一般意味論におけるS.I.
Hayakawa (以下、 ハヤカワと表記) の〈抽象のハシゴ〉の理論について考 察し、 方法論的な示唆を得る。
第二に、 国語科教育における先行研究・先行実践を調査、 検討し、 ロジッ クツリーの有効性を明らかにする。
第三に、 ロジックツリーを活用した授業の在り方について考察し、 授業論 を提案する。
1 佐藤 (2014) は、 後に、 上位概念と下位概念の関係として、 この5種に 「一般と特殊」 の関 係を加えた6種があると修正している。
死刑を廃止すべきだ
冤罪がある 他の方法で
償 え る 野蛮な風習 図1 (佐藤2007:資料7)
森田が主張する抽象と 具象の関係に着目するこ とに関しては、 多数の文 献においてその意義が主 張されている。 中でも、
ハヤカワ (1985:173)2 は、 一般意味論において、
抽象と具象の関係3を明 晰にし、 可視化する方法 と し て 、 〈 抽 象 の ハ シ ゴ〉を提案している (図 2)。
ハヤカワ (同:203) は、〈抽象のハシゴ〉に
ついて、 「抽象のハシゴは、 語と 対象 と事がらとの間の関係を視覚的に 説明しており、 抽象の過程を理解し常に意識する助けになるように意図した ものである。」 と説明している。
図2の〈抽象のハシゴ〉では、 「ベッシー」 (牝牛の名) を対象にして、 図 の上方ほどその諸特性が少なくなり、 外延が広がる過程 (「抽象の過程」) が 可視化されている。
このような 「抽象の過程」 を理解することは、 抽象と具象の関係を捉える ことの基礎となると言えよう4。 また、〈抽象のハシゴ〉として図示すること で、 本来は不可視のものである抽象と具象の関係という論理を可視化するこ とも可能になる。
なお、 ハヤカワ (同:183) は、 「抽象のハシゴを使って、 単語と同様、 叙
2 筆者は、 S.I.Hayakawa (著) 大久保忠利 (訳) 思考と行動における言語 原著第四版 (岩波書店) を参照している。 原著初版 LANGUAGE IN THOUGHT AND ACTION は 1939年に米国で出版され、 1951年に邦訳 (大久保)、 出版されている。
3 ハヤカワ自身は、 「抽象と具象」 という用語は用いず、 「抽象の過程」 と表現している。 詳細 については後述する。
4 ハヤカワは、 具象 (具体) という語を用いてはいない。 ハヤカワは言語のレベルを超越した
「1」 の 「原子過程のレベル」 までを想定しており、 人間には知覚不可能な領域までも対象とす るためである。 なお、 本研究においては、 ハヤカワの言う 「3」 以降の 「言語のレベル」 を対象 としている。
図2 〈抽象のハシゴ〉
述をも様々な抽象のレベルに定位することができる。」 としている。 叙述の 抽象度を的確に判断できることは、 論理構造を捉えるうえで重要である。
論理構造を捉えるための一つの方法として、〈抽象のハシゴ〉によって抽 象と具象の関係を縦方向の階層で図示するという方法は、 抽象度という着眼 点を与えるフレームとして有効であろう。
〈抽象のハシゴ〉の活用と限界
日本における一般意味論の第一人者である井上尚美 (1972:24 25) は、
語レベルでの抽象度に注意することが必要であり、 そのためには〈抽象のハ シゴ〉が有効であると主張している。 また、 井上 (1974:107 108) は、 授 業における〈抽象のハシゴ〉の活用の方法の1つとして、 資料1のような問 題を提示している。
井上 (同:107 108) は、 資料1のような問 題を通して、 「ことば には、 具体的な個物を 表わす語もあるし、 一 般的な一つの 「類」 を 表わす語もあり、 さら には形のない抽象的な
観念を表わすものもあるということ」 を理解させるとしている。 そして、 最 終的に 「抽象
具体の往復作業ができるようになることが、 柔軟な思考には 必要だということを理解させること」 をねらっている。この井上の述べるねらいを適切なものと筆者は判断する。 ただし、 資料1 の問題は〈抽象のハシゴ〉の活用の限界を示しているとも言えよう。 その根 拠は以下のとおりである。
〈抽象のハシゴ〉は、 具体的な個物である対象を出発点として、 単線で作 られるものである。 例えば、 井上の問題
では、 「フナ→淡水魚→魚→生物」が正答である。 この問題では、 提示された4つの語の抽象度の違いは表現で きている。 しかし、 類種関係を構造的に表現することはできていない。 例え ば、 淡水魚という類にはフナ以外にも、 コイ、 アユなどの様々な種があるこ・ ・ とは表現できない。
これに対し、 ロジックツリーでは、 そのような類種関係も含めた構造を可 視化できる。 例えば、 先の井上の問題
は、 図3のようなロジックツリーを 用いる問題とすることで、 よりねらいに迫りやすくなるであろう。・ 次の一組のことばを、 抽象度の低いものから 高いものへ、 また特殊なものから一般的なもの へと順に並べ替えてみましょう。
(例、 土佐犬→犬→哺乳類→動物)
魚、 フナ、 淡水魚、 生物資料1 井上 (1974:107 108)
図3では、〈抽象のハシゴ〉
と同様に、 抽象度が縦方向に4 段階で示されている。
〈抽象のハシゴ〉との相違点 は、 筆者が追加した鳥、 海水魚、
スズメ、 マグロという語によっ て、 類種関係が横方向の広がり として示されている点である。
類種関係を捉えさせるうえで は、 種にあたるいくつかの語・ (下位語) に対し、 それらを類・ としてまとめる語 (上位語) が あることを示すことが有効であ
る。 ロジックツリーを用いることで、 そのような類種関係を可視化すること ができる。
〈抽象のハシゴ〉は、 抽象と具象の関係への着目とその可視化という点で 有効であるが、 複数の個物の類種関係を示しうるものではない。 これに対し、
〈抽象のハシゴ〉の利点を生かしつつ、 その限界を乗り越えうるロジックツ リーは有効であると言えよう。
2 国語科教育の先行実践
Ⅱ−1では、〈抽象のハシゴ〉による抽象と具象の関係の可視化に着目し た。 この可視化という点について、 近年、 情報を可視化するツールに関する 研究や実践が注目されている。 例を挙げれば、 田村学・黒上晴夫 (2014:13) は、 「情報の可視化」 と 「情報の操作化」 を促す方法として、 「思考ツール」
を提案している。 また、 山本茂喜 (2015:7) は、 「思考の方法を視覚化し たもの」 として 「ビジュアル・ツール」 を提案している。 これらの提案では、
様々なツールによる可視化が提案されているが、 文章の論理構造を対象とし たツールは、 管見のところ提案されていない。
これに対し、 国語科教育における先行実践の中には、 文章の論理構造を対 象とし、 それを可視化する方法を提案する実践が少数ながら見受けられる。
本節では、 それらの先行実践5を調査し、 ロジックツリーとの比較、 検討を 通して、 ロジックツリーの有効性を明らかにする。 具体的には、
野口芳宏 (1987)、 寺崎賢一 (1988, 2006)、 堀裕嗣 (2002) 秋山達也 (2005) の実践を取りあげる。5 対象となる文献が少ないため、 授業の詳細な記録や指導の効果の検証についてまで述べてい ないものも先行実践として扱い、 検討の対象とする。
問題 次のことばを、 ロジックツリー で整理してみましょう。
[魚、 フナ、 淡水魚、 生物、
鳥、 海水魚、 スズメ、 マグロ]
(※下線は筆者が追加した語を示す) 解答: 生 物
鳥 魚
淡水魚 海水魚
スズメ フ ナ マグロ
図3
野口芳宏 (1987) の先行実践 1) 概要
野口芳宏 (1987:84) は、 「論理 構造を把握する、 ということは、 い わば 概念の抽象のレベル を的確 に見抜き、 それぞれのレベルにふさ わしく内容を理解するということで もある。」 と述べ、 論理構造を把握 することと抽象と具象の関係の関連 を指摘している。 その上で、 野口 (同:128) は、 「上下関係を見ぬく ルールを教える」、 「左右のつながり を見ぬくルールを教える」 「上下、
左右のつながりはモデルで示す」 と いう指導を提案し、 図4のような図 示の方法を示している。 なお、 野口 (同:128 129) は、 「上下関係」 に は、 「全体的−部分的、 主−従、 大−
小 (細)、 包むもの−包まれるもの、 まとめ部分−例示部分」 があるとして いる。 また、 「左右のつながり」 には、 「対等な関係、 列挙する場合、 累加・
展開、 付け足し」 があるとしている。
2) 考察
野口 (同) は、 「抽象のレベル」 を捉えることで論理構造が把握されると して、 論理構造の可視化の方法を、 実践レベルにおいていち早く提案してい る。
野口 (同) の実践の特長としては、 「上下」 および 「左右」 の関係性に言 及している点が挙げられる。 この 「左右」 の関係性の分類については、 佐藤 (2007, 2009a, 2009b) は、 言及していない。 しかし、 「左右」 の関係につい ては、 野口の挙げる4種の他にも、 時間的順序や空間的順序など無数の関係 を挙げることができ、 類型化することは困難であると言える。 また、 「上下」
の関係性の類別について、 野口の提示した 「大−小 (細)」、 「包むもの−包 まれるもの」、 「まとめ部分−例示部分」 は、 「抽象と具象」 と概括すること ができる。 「抽象と具象」 以外の関係性 (「主張と根拠」、 「結果と原因」、 「目 的と手段」、 「全体と部分」) をも対象とするロジックツリーの方が汎用性の 高い方略であると言える。
野口の論理構造を可視化するという考え方については、 筆者も賛同すると ころであり、 ロジックツリーに通底している。 しかし、 関係性の類別につい てはさらに検討すべき点が残されていると言えよう。
方 法 一 魚の身の守り方
敵 を 攻 撃 す る
敵 を お ど か す
敵 に 見 つ か り に く く す る
方 法 二 特
別 な 模 様 を 付 け る
針 を 立 て る
体 を 大 き く す る
体の 色を まわ りに 合わ せて かえ る
体 の 色 を 空 や 水 に 似 せ る
魚 の 例 の
こ ぎ り ざ め
た て じ ま き ん ち ゃく だ い 一 点 蝶 々 魚
は り せ ん ぼ ん
ふ
ぐ か
れ い ひ ら め
い わ し さ ん ま
図4 (野口1987:130)
寺崎賢一 (1988, 2006) の先行実践 1) 概要
寺崎賢一 (1988) は、 抽象と具象の関 係に着目し、 それらが読みの能力と関わっ ているということを先駆的に指摘し、 ま た、 その関係を把握する力を育成する方 途を提案している。 佐藤の研究において も先行実践として引用されている。
寺崎 (同:159) は、 「抽象化能力」 と
「具体化能力」 の育成のために、 「〈理解
する〉・〈肉体化する〉・〈応用する〉」 という3つの段階を含む授業展開を提 案している。
第一の 「理解の段階」 では、 図5 (同:161) を板書しながら、 抽象と具 象の意味を理解させることを目的としている。
第二の 「肉体化の段階」 では、 図6のようなドリル (同:163) を行うこ とで、 抽象と具象の関係の理解を
定着させることをねらっている。
第三の 「応用の段階」 では、 文 章を対象に 「論理能力」 を鍛える ことを目的とし、 説明的文章内の 抽象と具象の関係を抽出させる実 践事例として2つの例を紹介して いる (同:163 165)。
また、 後年、 寺崎 (2006:56)
は、 「①抽象と具体の関係、 ②同列の関係」 の 「関係認識の能力」 を育てる 説明的文章の授業として、 段落と段落の関係を捉えさせる実践事例を紹介し ている。 ただし、 この実践事例においては、 段落間の関係を可視化する方略 についてまでは言及されていない。
2) 考察
寺崎 (1988) の実践では、 抽象と具象の関係について理解させ、 定着させ る段階的な指導が充実しており、 佐藤 (2007, 2009a, 2009b) にも、 習得 と活用という段階的な指導過程という形で継承されている。
しかし、 読解における図の活用という点では、 文章全体の論理構造を把握 したり可視化したりするための具体的な方途までは提案されていない。 また、
上位概念と下位概念の関係を類別することもなされていない。 この部分には さらなる追究の余地があると言えよう。
植 物
抽象的
木 花
マ ツ
ヒ ノ キ
ア サ ガ オ
ダ リ ア
チ ュ ー リ ッ プ
ヒ マ ワ リ 具体的
図5 (寺崎1988:161)
初級クラス (全6問) (※〈 〉内は抽象語 { } 内は具体語)
〈 〉→ { }
中級クラス (全5問)
{ } →〈 〉
上級クラス (全2問)
〈 〉{ }
〈 〉→
〈 〉{ }
図6 (寺崎1988:163)
堀裕嗣 (2002) の先行実践 1) 概要
堀裕嗣 (2002) は、 中学校の主に 「聞くこと」
領域において、 話の内容を要約しながら聞き取 る (「要約聴取」) 能力を育てるために、 「樹形 図」 を用いた指導を提案している。
堀 (同:96 99) は、 「言葉には〈レベルの違 い〉があり、 それは相対的なものである」 こと を子どもに認識させ、 体感させるために、 「上 位語 (上位概念)」 「下位語 (下位概念)」 とい う用語を用いながら、 図7の樹形図のような図 を作らせるという指導をしている。
堀 (同:105) は、 この 「言 葉の〈レベルの違い〉」 は、 単 語だけにあるのではなく、 文、
段落、 文章にもあるとして、
「文の〈レベルの違い〉」 も同様 に指導している。 具体的には、
バラバラに提示された文を並び 替えて、 図8のような 「樹形図」
を作らせるという指導を提示し ている。
2) 考察
堀 (2002) の実践においても、
単語レベルでの習得から、 文レ
ベル、 文章 (談話) レベルでの活用という段階的な指導過程がとられている。
図8の文章 (談話) レベルの例では、 最上位に抽象的な文が置かれ、 中位 にその具体が置かれ、 下位にはさらにその具体が置かれるという論理構造が 示されている。 この時、 上位概念と下位概念の関係は抽象と具象の関係であ る。 これは、 抽象と具象の関係のロジックツリーと同一の図であり、 ロジッ クツリーと堀の 「樹形図」 の考え方には、 共通するところが多い。
しかし、 堀 (2002) は、 他の先行実践と同様に、 抽象と具象の関係のみを 対象としており、 上位概念と下位概念の関係性の類別については言及してい ない。
生 物 植
物 動
物 バラ キ
ャベ ツ
カー ネー ショ ン
サル 縞 馬 い
ぬ
図7 (堀2002:99)
ぼくのクラスですごい人を二人紹介します 坂田さんは文化的素養
ナンバーワンです 菊谷君はクラス一の スポーツマンです デ
ザ イ ン の コ ン ク ー ル で は い つ も 入 賞 し て い ま す
合 唱 コ ン ク ー ル で は ソ プ ラ ノ の ソ ロ を 担 当 し ま し た
学 校 祭 で は 上 手 な 演 技 で 劇 を 盛 り 上 げ ま し た
十 段 の 跳 び 箱 を 簡 単 に 跳 ぶ こ と が で き ま す
バ ッ ク 転 を す る こ と が で き ま
す 五
十 メ ー ト ル を 六 秒 台 で 走 る こ と が で き ま す
図8 (堀2002:105) (引用者一部改編)
秋山達也 (2005) の先行実践 1) 概要
秋山達也 (2005:1) は、 「文章の内部情報 (内容) を階層に分けて整理 し、 視覚的に表すもの」 である 「ツリー図」 を用いて、 「具体的な例、 まと めている事柄や言葉など、 内容・言葉のレベルの違いを認識させることがで きる。」 としている。
秋山は、 小学校の説明的文章 イースター島にはなぜ森林がないのか 6 の授業において、 「ツリー図」 を活用した実践を報告している。 この実践で は、 全10時間のうち、 前半の6時間が教材の読み取り、 後半の4時間が 「ツ リー図」 を用いた指導となっている。 後半の4時間について、 第7時では
「ツリー図」 の取り立て指導、 第8時では、 教材の内容を 「ツリー図」 に整 理する活動、 第9・10時では発展・応用として、 「ツリー図」 を箇条書きに 改める活動 (第9時)、 他の文章を 「ツリー図」 で表現する活動 (第10時) が行われている。
第7時の取り立て指導の一例としては、 バラバラに提示された単語を図9 のような 「ツリー図」 に並べ替えるという問題が提示されている (同:4)。
図9の例では、 単語が対象とされているが、 このほか、 文 (語句) を対象 とした例も挙げられている。 また、 第8時の イースター島にはなぜ森林が ないのか の指導における 「ツリー図」 の例は、 図10のように示されている (同:5)。 図10では、 内容の 「レベルの違い」 が整理され、 文章の論理構造 が 「ツリー図」 として可視化されている。
6 東京書籍 新しい国語6下 に収録されている教材である。
生 き 物
イースター島の森林破壊の原因 抽象的
まとめる 見出し
↑
ラットがもた らした生態系 への影きょう
人間による 直接の 森林破かい 植
物
動
物 宗教的・文化的な目的
食糧生産 を目的 ヤ
シ の 実 を 食 べ る
モ ア イ 像 を 立 て る た め の
「
て こ」
モ ア イ 像 を 運 ぶ た め の
「
こ ろ」
魚
・ 海 鳥 を と ら え る た め の 丸 木 舟
農 作 物 を 栽 培 す る た め の 農 地 開 こ ん サ
ク ラ
バ ラ シ
マ ウ マ
サ ル イ
ヌ
↓ 具体的 詳しい
図9 (秋山2005:4) 図10 (秋山2005:5)
2) 考察
秋山は、 一単元の授業の詳細を報告しているが、 その指導過程は、 6時間 の授業での教材文の読み取りの後に、 「ツリー図」 を用いる授業が行われる というもので、 他の先行実践とは異なるものになっている。
提示された 「ツリー図」 は、 他の先行実践と同様に、 上位に抽象的な内容 を置き、 下位になるほど具体的な内容が置かれるというものである。 秋山が 堀 (2002) を参照していることもあり、 基本的な性質は、 堀の 「樹形図」 や 佐藤の 「ロジックツリー」 と共通している。
しかし、 秋山 (2005) においてもやはり、 他の先行実践と同様に抽象と具 象の関係のみが対象とされており、 その他の関係については言及されていな い。
先行実践の成果と課題 1) 成果
先行実践では、 上方に上位概念、 下方に下位概念を位置付け、 樹形図状の 図で抽象と具象の関係を可視化するという点が共通している。 これらの理論 的背景には、 ハヤカワの〈抽象のハシゴ〉の存在が窺える。 樹形図状の図で 抽象と具象の関係を可視化するという方法は、 論理構造を把握する際の手段 として有効な手段であると言える。
また、 先行実践では、 取り立て指導による習得から、 読み取りでの活用へ という段階的指導が計画されている。 指導した方法を子どもが習得し実際の 読解において活用することにより、 その方法が方略として定着すると考えら れる。
2) 課題
取りあげた先行実践においては、 主に抽象と具象の関係が対象とされ、 そ の他の関係に言及しているのは、 野口 (1987) のみである。 その野口 (1987) にしても、 上位概念と下位概念の関係の類別を検討すると、 抽象と具象の関 係と概括できる類別でしかない。
説明的文章における論理関係は、 必ずしも 「抽象と具象」 だけに限らない。
したがって、 抽象と具象の関係だけで論理を追うことはできない。 6つの関 係を可視化するロジックツリーは、 論理構造を捉えるうえで、 より汎用性が 高い方略であると考えられる。
1 佐藤佐敏によるロジックツリーの提案
ロジックツリーの特長そもそもロジックツリーとは、 ビジネ ス界で問題解決思考のツールとして広まっ たものであるが、 佐藤 (2007) は、 これ を国語科教育に転用し、 「抽象と具象」
等の6つの 「論理」 を可視化する方略と しての活用を提案している。
佐藤の提案の特長は、 前述のように、
上位概念と下位概念の関係を 類別する点である。 具体的に は、 「抽象と具象」、 「全体と 部分」、 「主張と根拠」、 「結果 と原因」、 「目的と手段」、 「一 般と特殊」 の6つの関係が可 視化の対象とされている。 具 体的には、 図11、 図127のよ うなロジックツリーの活用法 が提案されている。
図11は、 下位の3つの文を 原因 (下位概念) として、 結 果 (上位概念) を推論させる 問題である。 また、 図12は、
ロジックツリーとして作成させることによって、 提示された文章の論理構造 を捉えさせる問題である。 図12では、 上段と中段は 「主張と根拠」 の関係で あり、 中段と下段は 「抽象と具象」 の関係である。
このように、 さまざまな論理的関係を可視化する方略を提示している点が、
ロジックツリーの特長である。
ロジックツリーを活用する指導過程佐藤 (2009a:141) は、 ロジックツリーを活用する指導過程として、 習 得から活用へという段階的な過程を設定している。 習得の段階では、 図11の ような 「下位項目と上位概念の関係を考え、 空白に当てはまる文を推論して いく」8問題が提示されている。 佐藤 (2009a) は、 この習得の段階において、
7 引用者一部改変。 佐藤 (2007) は ( ) 部が空所補充問題となっている。
8 佐藤 (2007) は、 この 「下位項目と上位概念の関係を考え、 空白に当てはまる文を推論して いく」 行為を 「ラベリング (ラベルを貼る)」 と呼んでいる。
結 果 と 原 因 文 レ ベ ル 山
内 さ ん は
︑ わ が ま ま で
︑ 人 と よ く 衝 突 し た
︒
山 内 さ ん は
︑ こ ら え 性 が な く
︑ 何 を や っ て も 長 続 き し な い
︒
山 内 さ ん は 好 き な 事 務 職 に つ け ず
︑ 苦 手 な 客 相 手 の 商 売 に 就 い た
︒
図11 (佐藤2009a:151)
≪説明≫ 実際に目にする文章をツリーで整理してみましょう。
死刑というのは野蛮な社会に残る風習です。 現に、 ヨーロッパ諸国では 死刑は、 ありません。 「目には目を」 といった野蛮な発想からきているの です。 死刑でなくとも、 罪を償うことはできます。 終身刑として、 生涯を 通じて服役してもらえば良いのです。 また、 何よりも冤罪の問題があるで はありませんか。 警察が取り調べの段階で、 自白を強要したということも あるのです。 その場合、 死刑に処した人々は、 殺人をしたと同じことにな ります。 これで良いといえるのでしょうか。
↓
(死刑を廃止すべきだ) 主張
(冤罪がある) 他の方法で
も償える (野蛮な風習) 理由
警 察 が 自 白 を 強 要 す る こ と も あ る
(
終 身刑 で よい
) (「
目 に は 目 を
」
野 蛮 な 発 想) (
西 欧 諸 国 は 死 刑 が な
い
)
具体的な理由図12 (佐藤2007:資料7)
これらの問題を 「使用する語彙や概念を易→難へ」、 「生徒の生活経験に近い 例題→生活経験のない社会的な例題へ」、 「二層のツリー→三層のツリーへ」、
「単語→文→文章」 というスモールステップを踏みながら提示することで
「論理の習得」 が図られると提案している。
その後の活用の段階について、 佐藤 (2009a:142) は、 「教科書の教材を 使った通常の授業」 において、 「説明的文章の段落ごとの小見出し」 や 「全 体の要旨」 を捉えるために 「ロジックツリーの活用を促す」 という 「読むこ と」 領域における活用の方途を示している。 そして、 実際に、 中学校1年生 を対象とした説明的文章の授業の指導略案を提示している (2009b:60)。
しかし、 これらの 「読むこと」 における活用は、 あくまで方法論の提案で あり、 具体的な授業プログラムが提示されているわけではない。 この点につ いては、 さらに追究する余地が残されている。
2 授業プログラムの構想
ロジックツリーを活用する授業このように考えてくると、 ロジックツリーを作成するという活動が、 文章 の論理構造を可視化することにあたることは明らかである。 また、 ロジック ツリーという方略を生徒に活用させることは、 生徒の論理構造を捉える力を 高めることになると考えられる。
生徒の論理構造を捉える力を高めるために、 次のような授業を組織する。
・ ロジックツリーという方略を理解し、 論理的な関係に関する知識 を獲得するための習得段階の授業
・ 教材本文の論理構造を捉えるためにロジックツリーを活用し、 そ の良さを実感する活用段階の授業
授業プログラムの構想Ⅲ−2−
で述べた授業の在り方をもとに、 ロジックツリーを活用する授 業プログラムを表1のように構想した。 対象は中学校2年生を想定してい る9。 先行実践の知見を活かし、 習得段階と活用段階から単元を構成してい る。
習得段階では、 佐藤 (2007) に倣い、 ワークシートを用いてロジックツリー の取り立て指導を行う。 活用段階では、 教科書教材 「情報検索で開ける世界」
9 授業プログラム実施校との関係から、 対象学年、 および総時数を設定している。 これらの点 については、 さらなる検討が必要であろう。
(松永和紀) をもとに、 文章の論理構造をロジックツリーで可視化する活動 を行わせる。 その後、 文章を要約させ、 論理構造を捉えることで文章の内容 を適切に理解できることを実感させる。
このような授業を行うことで、 生徒は適切に文章の論理構造を捉えること ができるとともに、 論理構造を捉える方略であるロジックツリーを身に付け、
論理構造を捉える力が高まるであろう。
成果と今後の課題 1 成果
本研究は、 佐藤 (2007) によって提案された論理構造を可視化する方略で あるロジックツリーについて、 次の2つの点を明らかにし、 ロジックツリー という方略を理論的に裏付けるとともに、 国語科授業における論理構造の可 視化の方途を提案した。
第一に、 ロジックツリーは、 ハヤカワの〈抽象のハシゴ〉という抽象と具 象の関係を可視化する方法の系譜に属するものであること。
第二に、 ロジックツリーでは、 抽象と具象の関係以外の関係も可視化の対 象とされており、 同じ系譜にある一連の先行実践の提案よりも汎用性が高い こと。
そして、 上記の理論に則り、 ロジックツリーを活用し、 説明的文章の読み において文章の論理構造を可視化する授業プログラムを構想した。
表1 授業プログラムの構想
段階 時数 内 容
習 得 段 階
第1時 ・ ロジックツリーについての説明
・ 抽象と具象の関係のラベリングの問題 (単語レベル) 第2時 ・ 抽象と具象の関係のラベリングの問題 (文レベル)
・ 抽象と具象の関係のラベリングの問題 (文章レベル) 第3時 ・ その他の関係のラベリングの問題 (単語、 文レベル)
・ 文章をもとにロジックツリーを作成する問題
活 用 段 階
第4時
・ 教材文 (「情報検索で開ける世界」) を通読し、 文章の概要と大まかな構 成を捉える。
・ 難語句について調べ、 意味や用法を知る。
第5時 ・ 前半部分 (1〜7段落) のロジックツリーを作成し、 筆者の主張とその 根拠となる事例の内容を捉える。
第6時 ・ 後半部分 (8〜19段落) のロジックツリーを作成し、 筆者の主張とその 根拠となる事例の内容を捉える。
第7時 ・ 終末部分 (20〜23段落) のロジックツリーを作成し、 筆者の主張を捉え る。
第8時 ・ 終末部分 (20〜23段落) における筆者の主張を要約する。
2 今後の課題
第一に、 Ⅲ−2−
で構想した授業プログラムについて、 実際に授業を実 践し、 その効果を検証していく。
第二に、 ロジックツリーの理論的な裏付けとして、 認知心理学的なアプロー チから、 個の思考に着目した考察を深めることも可能であろう。
これらの課題については、 今後修士論文として本研究をまとめていく際の 課題とする。
【文献】
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井上尚美 1972 言語・思考・コミュニケーション 明治書院
井上尚美・福沢周亮・平栗隆之 1974 一般意味論―言語と適応の理論― 河野心理 教育研究所
佐藤佐敏 2007 「論理的思考力を身に付ける授業」 新潟大学教育人間科学部附属新潟 中学校研究紀要 第50集 新潟大学教育人間科学部附属新潟中学校
佐藤佐敏 2009a 「ロジックツリーの習得と活用」 国語教育研究所編 論理的な記述力 の開発に挑む 明治図書
佐藤佐敏 2009b 「ロジックツリーを習得し、 説明的文章にて活用しよう」 高木展郎・
三浦修一編 国語科の指導計画作成と授業づくり 明治図書
佐藤佐敏 2014 「経験にアクセスしながら論理を学ぶ」 ことばの学び LETTER5 三省堂
田村学・黒上晴夫 2014 こうすれば考える力がつく!中学校思考ツール 小学館 寺崎賢一 1988 「分析の技術」 を教える授業 明治図書
寺崎賢一 2006 「抽象と具体の関係・同列の関係……を認識する能力を鍛える教材」
教育科学国語教育 №674 明治図書
野口芳宏 1987 続・授業で鍛える―説明文指導のコツ― 明治図書
堀裕嗣・研究集団ことのは 2002 聞き方スキルを鍛える授業づくり 明治図書 松本修 2009 「中学校・高等学校/説明文・評論文」 全国大学国語教育学会編 国語
科教育実践・研究必携 学芸図書
森田信義 1998 説明的文章教育の目標と内容 渓水社
山本茂喜 2015 ビジュアル・ツールで国語の授業づくり 東洋館出版
(はなつか・ひろし 本学大学院人間発達文化研究科)