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地 理 観 - fukushima-u.ac.jp - 福島大学

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(1)

わ が 地 理 観

初 雄

 本稿では多年考へてきたわが地理観を概説する のが目的である.私の地理観もある点では古代の 地理学者が考えていたのと同様な地理思想で一貫 しているところもある.しかし地理学史を調べて みると誰でも気がつくように,時代によって多少 重点の置き方が変わって,地理観のすべての点で 固定していたわけではない.すなわち時代によっ て少しづつではあるが,違った考え方が強調され ていたことは事実である.時にはそれが学問の退 歩かと思われることも少々はあったようであるけ れども,まづは学問の進歩が考え方の細部を変え たというのが正当であろう.

 (1)地理学とは何か

 まづ第一に問題にしたいのは,地理学とは何か ということである.これに関しては様々の見解が ありうるが,私は少くとも地理という名が内容を 明示していると考えている.もしその内容が名称 にふさわしくなければ,名称を変更すべきであろ

う.

 地理のr地」は地球または地表,あるいは土地 を指示している.「理」という字との組合わせを 名称とする学問は,地理学の外に,生理学・心理 学・物理学・論理学などがあるが・それらに使用

されている「理」は,ものごとのすじみちとか,

物事のすじめを意味している.生命あるものの本 体に関する知識の体系が生理学,精神現象すなわ ち心に関する知識の体系が心理学・物性に関する 知識の体系が物理学といったようなものである。

 地理学は地球または地表に関する知識の体系で ある.Erdkunde,Geographyあるいは,アレキサ ンダー・フォン・フンボルトが好んで使用したと いわれるErdbeschreibungが,地理学に相当する 語であるが,これは同時に地学という意味をもた せて,かつては使用されていた.1879年創立の東 京地学協会がTokyo Geographical S㏄itey・その

学会誌r地学雑誌」をJoumal of Geographyと称

している如くである.Erdeが地球ならErd㎞1de は地球に関する学問ということになるのであろう が,昨今では地球科学といえばr地球物理学」を 意味している.地理学者でも昔は地球を扱うこと を心がけていた事実はあるが,今では地球という よりは,地球の表面に関する科学ということにな ってきている.もっとも,地表を理解するに必要 な限りでは,地表下のある程度内部まで扱はねば ならぬし,また上空のある高さまで含めるから,

幾何学的な球の表面というように限定しているわ けではない.

 地表の科学というなら,地質学も同じ仲間であ るが,地質学は地表の過去に関する学問であるの に対し,地理学はその現在に関する学問であると いう考え方が過去において提出されたこともある けれども,地理学でも過去を扱うこともある.何 のことわりもなければ,地理学は現在の地表にお ける空間的左右関係を問題とする学問であるが,

過去のある時点で,地表の空間的左右関係を記載 すれば,歴史地理学とか先史地理学とか,あるい はもっと古い地質時代の問題を扱う古地理学と呼 ばれる研究になることはよく知られている事実で ある.そうであれば過去と現在という観点で地質 学と地理学とを区別することは不可能だというこ

とになる.

 地理学は場所に関する学問で,場所の構成要素 の一つである自然そのものに関する学問ではな い.また同時に,人間に関する学問でもないことは すでにあきらかである.但し自然そのものに関す る学問でないとか,人間に関する学問でないとい っても,自然や人間を除外しようといのではない.

かって人間を除外しようと考えた学者もある如く であるが,それは正当ではない.私どもは人聞を 地表の構成要素の一つ,あるいは地理的要因とみ なすのである.このことは人間が土地に従属して いるとか,附属物であるという風に考えようとす るのではない.むしろ人間中心的に考えなければ

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2 福島大学教育学部論集第25号

ならないのであるが,要するに地理学は場所・地 域・大陸に関する科学で,地表を構成している個 々の諸要素でたとえば岩石・土・大気・動植物な どの個々に関する学問でないのと同じく,人間の 科学ではないのである.

(2)地理学の研究対象について

 以上概論したところで,私が考えている地理学 の研究対象は何んであるかは判明した筈である が,地理学には固有の研究対象がなく,あるのは 個有の見方・考え方だけだとする人もある.小・

中学校の社会科的な考え方では正しくそうなって いる.社会科ではr社会生活の現実」を問題にし て,これを三つの観点からみるといわれてきた.

一つの観点は社会生活の現実を経済生活・政治生 活・社会生活といった面から系統的に見るもの,

次には時間的継起関係からみる歴史的観点と,空 間的左右関係からみる地理的な観点とがある.こ れら三つの観点はそれぞれ見方考え方に個有の立 場があっても,見る対象は社会生活の現実なので あるから,対象は共有していると考えているので ある.アルフレット・ヘットナーが述べたように r実在は同時に三次元的空間である.したがって その全貌を理解するには,三つの異った見地から 検討しなければならない.第一の見地は時間や空 間を問題にしないで,対象とする主題の客観的類 似性の中にその統一を見いだす.第二の見地から は時の推移にともなう発展がみられる.そして第 三の見地からは,空間における配置と区分とが見

られる」というのと同じであろう.

 私の考え方では,地理学は社会科とは違って,

研究対象が社会生活の現実ではなく,地球とか地 球の表面という実在を問題にしている.それ故も しさきのような考え方を肯定すれば,ヘットナー のいう三つの立場間で全く対象を共通にしている ことになる.こういつた側面があることは否定で きないにしても,はたして地理学に固有の研究対 象がないのであろうか.

 さきに述べたように地理学は場所に関する科学 であって,現在では地球全体の科学だと考えてい る学者はいない.しかもハーツホーンのいうよう にr地理学はコ・グラフィ的科学であって,歴史 的諸学が実在の時間的断片を考察するのに対し,

コログラフィ的諸学は空間的断片を考察する.と りわけ地理学は地球の表面,すなわち世界の空間

1973−11

的断片を研究する.地理学はそれ故にその名に反 しない」とのべ,さらに「いろいろな地域の間に みられる差違を記述し,解釈しようと努める.こ のような学問領域を地理学と共に頒ちあっている ような他の科学はない」と述べていることは,全

く同感である.

 ここにいう空間的断片において,他の系統諸科 学が部類分けして研究する異質的現象が,地表で は混ぜあわさっているばかりでなく,複合的な地 域的結合すなわち統合あるいは綜合を形づくって いる.このような意味での地表・土地・場所が地 理学の研究対象なのであって,それから遊離して いるものは,地理学の研究対象ではない筈であ

る.

 もし前述のような三つの見方があるという考え 方にたつなら,地理学だけでなく,どの具象科学 もその科学固有の対象はなく,共有の対象だけを もっことになる.しかし後段で述べた考え方をと ると,地理学には固有の研究対象があるというこ とになる.私は後段の考え方を持っているものの 一人である.

 空間的断片とはいっても,この研究対象は実験 室内に持ち込めるような大きさの対象ではない.

普通はとても一目で見渡せない程度の広さを持っ ている・私どもはこの空間的断片を研究するの に,比較観察という方法をとる.しかし視野が限 定されている私ども人間にとっては,プレストン

・ジェームズのたとえ話をかりると,あたかも新 聞写真の上に附着しているバクテリアか,絨緞の 上をはいまわっている蟻のようなもので,新聞写 真の網目の点の大小か,目の前の絨緞の毛の色や 形だけが直接に見られるだけである.したがって 達観しないと,網目の粗密あるいは黒点の配列の 状態が,えがき出している新聞写真の図柄,ある いは種々の色を組みあわせて織り出している絨鍛 の模様がわからないのである.

 この欠陥を補うのが地理学では地図である.私 はかつてr分布図はレントゲン写真なり」という 記事をかいたことがあるが,今でもそのとうりだ

と考えている.レントゲン写真が臨床医の診断を 助ける大切な資料であると同じように,地図は地 理学研究上極めて重要な道具である.レントゲン 写真と多少相違している点は,一目で見渡せない 程度に広い場所を,一定の縮尺で縮めていろいろ な場所の比較ができるようにする点である.した

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がってまた縮めて表現するから,あらゆる事実を そのまますべて画き出すことが不可能で,事実を 選択ないし省略をして表現している点である.

 したがってどんなに正確にできている地図でも 地図を読むことだけで地理の研究が完了するもの でないことは論をまたない.比較観察をやるのは 現実の地表の様子についてである.臨地の観察こ そまさに地理学研究の基本であるが,それも一つ の場所をみるだけでは,場所の特異性がわからな い.それでなるべく様子の異ったいろいろの場所 の比較観察を行なう必要がある.この場所の比較 あるいは対比は,他の実験科学の実験に相当する ことになる.つまり実験観察をやるかわりに,比 較観察を行なうのである.地図はそれをやるため の補助の道具である.

(5)土地記述の学としての地理学

 地理学の研究対象はさきにのべた如く,地表.

土地あるいは場所であるが,それを地理学ではど うするかとv・うと,GeographieあるいはErdbes−

chreibu㎎の名が示すように,「土地の記述」を やるのである.r地理学とは土地に関する記述で ある」とアンドレ・ショレーはその著r地理学の方 法論的考察」の巻頭で述べている,しかしそれに

もかかわらず同氏はこの定義が漠然としていて,

一体何を記述すればよいのか明かでないと述べて いる.そしてr数理地理学(地図学)時代には,

海岸線とか,河川の流路,山豚の方向など線的な 記載であった.次の時代には文学的になり,地形

・気候,人間社会の歴史・風俗・習慣など百科全書家 の精神で,物語り風に記述した」とのべている.

 たしかにr記述」の仕方は時代によって変化が あったが,地理学は単に土地の記述をするという ことではなく,土地の場所的相違性に関する記述 でなければならない.すなわち地域の個性あるい は地域の性格の究明とそれに関する記述でなけれ ばならない.この地域の個性を地域性ともいう が,このような土地の個別性の探究とその記載こ そが地理学の主題である.

 このことは古代から人間の知識欲の一部を満足 させてきた.元来人間は異国的なもの,風変りの 事実現象に興味をひかれるという共通性をもって いる.これに対する興味の深さには個人差がある であろうが,変った事象に興味を感ずるのは人間 の本能の一つといってもよいであろう.地理学の

父といわれるミレトスのヘカタイオス(550−475 BC)が書いたといわれる地理書G6s Periodos は世界誌とか世界巡行記と訳されているが,当時 知ることができたいろいろな土地の事情をかきし

るしたものとされている.

Geographiaという語はアレキサンドリアの図書 館長であったエラトステネス(273−192BC)が,

ヘカタイオス以来使用されてきたG≦s Periodosの 語にかえて使用したのがはじまりだといわれてい

る.これは土地の記載ということであるが,狭義 には今日の地誌学ということになろう.しかしエ ラトステネスの著書Geographikaは三巻からなっ ていて,第一巻は地理学史,第二巻は数理地理学

と自然地理学,第三巻が世界地誌であったから,

地誌学ばかりでなく,一般地理学も含んでいた.

 このようにして地理学は主として個別記載的な 叙述に限られていた時代があった.しかし地理学 が単に個性記述のみに専念して,一般的概念と普 遍的法則とを発展させることをしないとしたら,

地理学は科学たるための大事な規準の一つを欠い ているといわれても仕方がない.それ故先学は 単に個別記載的な叙述だけにとどまることはしな かった.すなわち系統諸科学の成果をもとり入れ て,かつそれを発展させることによって,地理学 が一般的概念に基づく一般的観察へと向つたので

ある.

 地理的事象の研究を一般化することによって,

一般地理学を発展させた.こうして地理学には一 般地理学と特殊地理学の二つの分野が含まれるこ

とになった.

(4)一般地理学と特殊地理学との関係

 地理学を一般地理学と特殊地理学に分類したの は,ベルナルド・ヴァレニウス(1622〜1650)の Geographiageneralis(1650)にはじまるといわ れている.ヴァレニウスは一般地理学の中に,絶 対・相対および比較の三つの部門を頒け,絶対部 門では地球の形・大きさ・その運動・水陸の分布

・地形および植生を扱い,相対部門では天体との 関連で生ずる緯度・経度・気候帯などの諸問題を 扱い,比較部門では地表の諸地域を比較すること によって,その相違を考察した.

 一般地理学は系統地理学とも呼ばれるが,この 系統地理学という語は1905年ハーバートソンが使 用しはじめたといわれる.ここで系統というのは

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4 福島大学教育学部論集第25号

いうまでもなくr系統だった」とか,r組織的な」

とかいうことであるから,一般地理学とか地理学 汎論という呼び方よりも,その内容を適切に示し ているということができよう.すなわち一般の自 然諸科学あるいは社会諸科学との関連がかなり密 接な分野であることもこの名がよく示している.

 特殊地理学すなわち地域地理学とこの系統地理 学とは,ともに地理学であるから,本質的に別個 のものではあり得ない.しかし二つに分けられる のであるから,一面から見ると違った特性をもっ ていることも確かである.

 共通している点は地表の諸地域の地域性を究明 することを基本的目標としていることである.も しこの目標からそれていたら系統地理学でも,地 域地理学でもあり得ない.しかし系統地理学は系 統別に,事象を分類して,個々の事象別に地表の 特色すなわち地域の性格を把握しようとしてい る.事象別に地域の特性を探究しようとする点も,

地域地理学と違っているが,さらにいま一つ違う 点は,事象別・系統別に一般化して,一般概念を 追求し,法則を定立しょうとする点である.

 これに対して地域地理学すなわち地誌学は,地 域毎にその特性を個別的に探究し,地域性を明か にしようと努めている.この場合地誌学は地理的 複合体・地的統一体としての地域を研究対象にし ている点が系統地理学上相違している.この場合 問題になる一つは,地域の大小である.プレストン

・ジェームズは小地域の研究をTopographyとし,

中地域の研究ならChorography,それが大地域で あればGeographyとなるといってv・る.地域が大 きくなるほど,細部の地域的相違性あるいは特異 性が,無視されて,順次高度に一般化された目立 った特性だけが取扱われることになる.この際一 般化するということでは,系統地理学と似ている ように見えるけれども,かりに二つ以上の大陸に またがるような大地域を扱う場合でも,地域地理 学としては系統地理学の扱い方とは違っている.

つまりその大地域について総合的に,あるいはそ れを地理的複合体として扱うからである.

 一地方の詳細な描写をした地誌が,ここでいう Topographyであり,Chorographyも地誌と訳され

るから,地域地理学の一つの分科であることには かわりがない.

 この地域地理学の研究に際して,系統地理的研 究の成果が活用されれば,個々の地域性探究が・

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客観的且つ合理的に進められる筈であるし・逆に 個別的な地域の具体的・科学的な研究が進んでお れば,系統地理学の発展も期待できるというよう に,系統地理学と地域地理学とは,車の両輪のよ うな関係をもっており,左右についている両方の 車の大きさが同じでないと,うまく前進しないと いうことになる.

 同様のことは系統科学と地理学との関係につい てもみとめられる.地理学史をみると,地理学の進 歩が隣接の系統諸科学の影響を強くうけているこ とは明かである。最近の例でみると地震学・古地磁 気学あるいは地質時代の年代測定技術の進歩は目 覚しいものがあって,それが海底更新説あるいは プレート・テクトニックス説を発展させ,日本列 島附近の特有な弧状列島の成りたちも解明の日が 近いように見える.

 日本列島は従来その外形から千島弧・本州弧・

琉球弧および伊豆マリアナ弧などに分類されてい た.しかるに日本およびその附近の火山岩石区(久 野1960)の研究や日本およびその附近の深発地震

・中深発地震の震源の深さの分布(気象庁地震課 1958,1966)などをみると,杉村新が提唱したよ

うに,日本列島は東日本島弧系と西日本島弧系の 二つに分けるのが合理的のように見える.この東

日本島弧系の中には千島弧・東北日本弧および伊 豆マリアナ弧が含まれ,西日本島弧系には西南日 本弧・琉球弧が含まれる.

 東日本島弧系では,深発・中深発地震の発生す る震源面が,日本海溝附近から大陸側に向って,

30〜50。の傾斜で傾むき,その深度は大陸側で深 いことが1930年代にわかっていた.それが1960年 代に入ると可成りくわしい等深線がひけるように なった.その震源面の勾配は東北日本弧と伊豆マ リアナ弧とでは多少違いがあるけれども,いづれ も日本海溝に面する側で浅くなっていることは顕 著な事実である.

 一方本多・市川ら(1960)の発震機構の研究から 東日本島弧系での発震時の最大圧縮力の方向が,

深発地震だけについてみると,おおよそ震源面の 傾斜の方向にそろっていることも確認された.

 西日本島弧系では震源面の勾配も,発震時の最 大圧縮力の方向も,東日本島弧のそれとは別系統 の配置を示している.

 また古地磁気学の進歩では,海底に地磁気異状 の縞模があることがわかり,これはおよそ70万年

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間隔で反復される南北両極の逆転でおこる,正極 時代および逆極時代の反復の記録であると解され るようになった.つまりこの縞模様が海底更新の 年輪にあたるのだという.

 太平洋東部では,東太平洋海膨とよばれる中央 海嶺がある.これはアメリカ合衆国西部のカリフ ォルニア南方から南米大陸西方沖合の東太平洋底 を南西方向に多少彎曲してのび,ニュージーラン ドと南極大陸の間を通って印度洋までたどれる中 央海嶺である.この地帯にそっては地震も頻発す

るが,それがいづれも浅発地震であることが注目 されている。ここが海底地殻の湧き出し口で,こ こから左右両側に向って海底地殻が移動してゆく と説かれている.

 1968年以降は深海底の岩石を採って,その年代 測定が行なわれるようになった.それによると東 太平洋でも東太平洋海膨から遠く離れるほど古い 時代に岩石が誕生したことがわかってきた.こう

なると,中央海嶺で海底地殻が生れて,そこから ベルトコンベアーにのったように,海底地殻が,

一方では北西方向に,他方では南米大陸方向に向 って動いていると考えざるを得ない.この海底地 殻の移動してゆくさきは,海底地殻の沈み口にあ たる海溝だという.

 日本海溝もその海底地殻の沈み込み口の一つ で,ここでは東日本島弧系の陸の地殻の下に,太 平洋底の海の地殻が沈み込んでいると説かれてい る.この説によると日本海溝附近からその大陸側 の大陸棚の一部で知られているフリー・エァ重力 異常もうまく説明される.つまり大陸をつくって いる軽い地殻が,海底地殻の沈み込みでひきづら れて,下方にまくれ込むのだという.そのためこ

こでは比重の小さい地殻が厚くなって,重力に負 の異常がでるのだと説かれている.

 更にまた興味があるのは,近年の自然残留磁気 の研究の結果である.日本列島の自然残留磁気を 研究した京大グループは洵に興味深い成果をあげ ることに成功した.それは中生代と第三紀以降と では日本列島で,岩石磁気め磁化の方向(偏角)

が大きく変っていることを実証したからである.

 第三紀以前の岩石磁気の磁化方向を測定した結 果では近畿地方以西でほぼ北北東方向を示すの に,東北地方では北西方向を示している.それに 対し,第三紀以降のそれは,西日本も東日本も,

正極時代と逆極時代があって,反対方向を示すこ

とはあっても,それがおよそ現在の南北方向を指 している。この事実は本州島の中央部,フォッサ・

マグナか関東構造線かは明かでないが,その附近 で本州弧が折れまがったことを証拠だてている.

 このような新事実が発見されて,いろいろな新 知識が加わったのであるが,日本列島は何故花採 のような形をとっているかについては,いくつか の憶説はあっても,どうもまだ完全に説明できる 段階にはきていないようである.一方ではいろい ろなことがわかればわかる程,新しくわからない 問題がでてきている.たとえばアラスカからア リューシャン沖の地磁気異常の縞模様などはその 一つで,ここではどうも海溝に近い方が新しい時 代の縞模様のようである.そうすると単純に海溝 は海底地殻の沈み口だとはいえないことになりそ うである.この特殊な事例については,地磁気異 常の縞模様をつくった中央海嶺が,ここではアラ スカ側の大陸地殻の下にもぐり込んだという説明 が必要になる.サン・アンドレアス大断層で有名 なカリフォルニアでは,大陸の下に中央海嶺がも ぐり込んだ形になって,環太平洋地震帯のうち,

ここだけは深発地震がなく,震源の浅いものだけ 観測されている事実もあるから,アラスカ側の大 陸地殻の下に中央海嶺がもぐり込むというような ことも起るのかも知れない.但しこのようなこと が何故おこるのかは不明である.

 学問の研究はすべてこういうことのくりかえし なのであろう.調べれば調べるほどわからないこ

とが出てくる.それを解明しようと努めて,新し い学問の進歩があるのである.

 測量技術の進歩も私共に新知識を提供してくれ る.ここでは昭和41〜42年測量になる1万分の1 湖沼図・猪苗代湖を例にとってみよう.すでに吉 村信吉(1937)が測量した猪苗代湖の深度図でも その所在が推定されていた郡山市湖南町側の溺れ 谷の地形(堀江正治,1953)は1万分の1湖沼図で 明瞭に描出されている.ここでは舟津川谷,菅川・

常夏川谷などの延長が,川口から沖合2,000π附 近まで認められ,これらの溺れ谷間の尾根筋が,

ところによっては2・500π沖合まで延びて,深度 80πの湖底の平坦面までたどることができる.た

だしこの溺れ谷は埋積谷の形態をなしているよう に見える.明治21年7月の裏磐梯の泥流押出しで 長瀬川上流を堰止めたとき,大倉川・中津川ある いは大川などの埋積谷が沈水したのと同じよう

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6 福島大学教育学部論集第25号

に,翁島泥流の押出しで,猪苗代湖の湖盆が完成 し,湖南のいくつかの埋積谷が水没したのであろ

う.

 猪苗代湖の北西部にある翁島は泥流丘陵の一つ で,この附近には湖底にかくれている多数の泥流 丘陵が,翁島以外にも存在することが,新しい湖 沼図には示されている.底質図ではこれらが翁島 と同じように岩石でできていることが示され,0・5 π毎に引かれている等深線でも泥流丘陵の特色が うかがわれる.勿論翁島の水面下の地形をみても 中央火口丘などとは考えられない.

 猪苗代の北西部を除いて,湖岸近くの湖盆に20

〜30鋭の比高の急崖が並んでいる.これは湖棚の 縁にできた急崖であろう.このような急斜面は北 岸の長瀬川の三角州の前面にもある.ここの三角 州の新しい堆積物は,猪苗代駅南方で行われた80 物ほどの試掘でも基盤に達していないのであるか ら可成り厚いものとみられる。これが堆積する前 には一部にかりに湖盆をかこむ急崖があっても,

現在のようなほぼ楕円に近い平面形はとっていな かったに違いない,まして古猪苗代湖といわれる 水位がさらに高かった時代の,この湖の平面形は 可成り複雑な形になっていたこともすでに知られ ている.それにわが国第4位の大湖でありながら・

最深点は93.5πで,同湖の面積の100分の3にす ぎない沼沢沼の深度より小さい.その外周囲の地 質などに関する資料を考えあわせると,一部で考 えられているようなカルデラ起原の湖ではあり得 ないということになる.

 (5)地理的な見方考え方の基本

 地理学には個有の研究対象があって,その対象 の記述をやる科学が地理学であることはすでにの べた.しかしその記述を行なう場合に,如何なる 観点から記述してもよいというのではない・アル フレット・ヘットナーが述べたように,地理的な 観点があるのであるから,それが無視されたので

はいけない.すなわち,地理学は単に地球の表面 の科学というよりは,むしろ大陸・地方・景観お よび場所の地域的相違に関する科学である、した がって,プレストン・ジェームズの言葉をかりれ ば,地理学は物質的であれ非物質的であれ、人文的 であれ,また自然的であれ,地球上に不均等に分 布する事象を取扱うのである.全くどこにでも均 等に分布する事象は地域的相違性がないから地理

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的事象ではない.そのような事象はもっぱら系統 諸科学の研究対象になっている.

 たとえば大気の組成が地表近くでは炭酸ガス・

酸素および窒素その他の混合物からなっていると いうことは,地表上どこでも共通な事実であるか

ら,気象学の問題になっても,地理学の研究課題 にはならない,しかしある地域では特に水蒸気が 多いとか少ないという場所差があれば,またそれ の組成物質の何かが特に目立って地域差を示すな ら,それは地域的相違があるわけだから,地理的 事象として扱うことができる.ただしその場合も

それが土地の様子に反映せず,ことに人間生活に ほとんど影響がない程度であれば,かりに場所差 があっても地理的には重要性をもたない.大気の 温度の分布のように,地方によって大きな差があ って生物の生活に重大な関係があれば,当然重要 な地理的事象となる.これが地理的見方考え方の 第一点である.

 次にこの場所による不同な分布を示す事象の空 間的拡がりを追求する.そのためには,まづ適切 な指標を選択して,この指標事象の分布を探究す るのが唯一の方法である.こうして場所的相違を Areaとして把握するのである.それをやるために

は地域類型の設定が必要となる.こうして地域的 相違ばかりでなく,ある程度類似性が問題となる.

この場合にはある程度微細な相違点は無視される ことになる.単に場所的相違を地域の一特性とし て理解するだけで,そのAreaの把握をやらないと すれば,その場所的相違を完全に認識できたとい

うことにはならないのである.このことは空間的 左右関係を問題にする地理学にとって極めて重要 な観点である.

 地理学ではこの地域類型の分布を基礎にして,

地域的相違性および類似性の意義の解釈をしょう とする.この場合には一種類の分布図ばかりでな く,関連がある種々な事象の分布を調べておく必 要がある.そしてこれらの分布図の重合関係から・

プレストン・ジェームズが提唱したように一致(同 所共存または同所相似)あるいは不一致の地域関 係を調査する.このような静的な分布図の外に,

たとえば交通流動量を指示するような動的な分布 図も必要である.この二種類の分布を探求するこ とによって,同一場所での地域関係と,他地域と の空間関係が立証されることになる.こうして分 布を通じ地人関係を追求するのが,地理的観点の

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一つである.この外に土地と人との関係を詮索す る方法もあるが,いづれにしても地理学ではこれ らの関係を重視するので,関係の学ともいわれる.

 この種の関係はとりあえずは個々の事象間で確 めるのであるが,それらの間の相互作用も検討し なければならない.さらに重要なことは如何なる 地理的事象でも,そこに共存する他の諸事象と,

あるいは隣接ないし遠く離れている地域にある事 象とも多角的な関係をもっている.この多角的関 係を要素複合とか有機的統一とか,あるいは複合 体と呼んだ人があるが,この統合・総合という観 点こそ地理的観点のうち最も重要なものだという べきであろう.これを調べるには地域の研究が必 要である.それ故地理学はコログラフィ的性格が あるといわれるのである.

(6)地理学の法則

 さきに述べたように,地理学は一面で一般概念 を追求し,法則定立を目標にしていることは確か である.ところが地理学において,現在どの程度 法則が発見されているのであろうか.リチャード

・ハーッホーンが述べているように,地理学の法 則はその量からみても,あるいは信頼度からみて も現状で充分なのだと満足している地理学者は一 人もいないであろう.もっと多くの法則を導きだ すことが可能なかぎり,何人も現状に満足すべき ではないのであるが,満足できないからといっ て,すぐに充分な数の法則が発見できるわけでは ない.見方によっては,他の系統諸科学で発見さ れているような法則が,地理学特に人文地理学や 地誌学にあるのかどうかが問題となる.

 すでに地理学者が多数輩出して,それぞれ立派 な業績を残し,また地理学の方法論者は地理的理 法とか,地理学における法則の探究の必要性を論 じたけれども,具体的にこれが地理学の法則だと 述べた人は,意外に少ないのである.

 諸関係の一般化が即ち法則であるというのな ら,多少の事例はある.ことに自然地理学ではそ の点で比較的進んでいて,地形学や気候学の分野 ではいくつかの法則定立あるいは一般化に成功し ている.普遍的な原理・法則を追求しないのでは 科学たるの資格がないという見方がある.地理学 も科学の仲間であれば,一般概念を体系化し,相 互作用についての一般法則を確立しなければなら

ないはずである.

 ここでは人文地理学の法則だけに限定して所見 をのべよう.人文地理学の法則と明かにことわっ て,具体的に法則の事例を提示した少数の例の一 つは,オットー・マウルの人文地理学(人類地理 学1932)である.彼は次の六個の法則をあげ概説 している.a),因果の法則(物理化学的因果律

・生物学的因果律,および心理的因果律を含む).

b),中間項の意義の法則.c),関係変化の法 則。d),発展の法則(進化の法則).e),移 行および引用の法則.f),地理学的作用の交互 作用と統一の法則がこれである.

 因果の法則は土地と人との関係が直接的である 場合に限ってみられるもので,あらゆる場合に因 果の法則があてはまるとは勿論考えられてはいな い、中間項の意義の法則では,大部分の関係が直 接関係ではなく,中間項を挿入して,中間項の意 義を正しく解釈し関係を解釈しなければならぬこ とが強調されている.関係変化の法則は自然も人 間もともに歴史の流の中で変化をする.特に人間 側の文化能力の変化が大であるから,関係が変る というのであるが,地理的条件の意義の変化の法 則といってもよいと思う.それは歴史的に変化が 起りうるばかりでなく,地域が別個であることに よっても変化が起りうるので,一つの地域での関 係を他の地域に無条件であてはめることができな い場合があることになる.

 発展の法則は地理的習慣性の法則に相当する.

ここでは土地と人との関係は過去にさかのぼらな いと解明できない.移行および引用の法則は起原 地域と伝播地域との関係で,起原地域をつきとめ ることができないと,関係が鮮明に理解できない.

最後の交互作用と統一の法則は,土地と人とが相 互に作用しあうということと,多数の条件がそれ ぞれ交互作用で結びつき,一条件の変化も時には 予側できない地域の特色の変化を招来し,新しい 有機的関係ないし地的統一がうみだされるという 関係を指摘している.

 ジャン・ブリューンヌの人文地理学(1925)で は活動の原理と相互関係の原理をあげている.後 者はオットー・マウルの(f)の法則に相当し,これ

によって最高の概念である地的統一の関係をみる ことになるという.活動の原理は自然・人文のい づれをとわず地理的事象は永久的変化の過程にあ り,われわれは現在の時点で観察しているのであ るが,変化を予想してかからねばならないという

(8)

8 福島大学教育学部論集第25号 1973−11

ことを指摘している.

 私どもは他の諸科学の研究者によって発見され た法則を,もし地理的事象の解釈に役に立つなら 借用することは遠慮しなくてよい筈である、但し 利用可能だからといって,それを地理学の法則に 加えるとすれば問題があろう.それはチユーネン の孤立国の法則について,リチャード・ハーツホ ーンが論じた通りである.ウェバーの工業立地三 角形の法則なども同じだと考えられる・これらの 法則は地理学の法則というわけにはいかない、

 この法則の問題に関連して,上田誠也(1971)

はr地球科学者の熱情は,普遍的な諸原理に立脚 して,地球を理解しようというところにあると主 張する.しかしつきつめてみると,普遍的原理そ

のものもさることながら,地球を知りたいという のが真の動機であり,情熱の源泉であるようだ」

とのべている.この言葉をかりていえば,地理学 者は普遍的な法則に立脚して・大陸・地域あるいは 場所を理解しようとしているが,普遍的法則もさ

ることながら,地域あるいは場所の特性をよりょ く理解したいというのが.研究しようという情熱 の源泉だということになろう,そう考えれば原理 や法則が発見できなくても,気にしないでよいの かも知れない.但し発見できたらこれに越したこ

とはない.

 本稿は私の停年退官記念講演の草稿を補足修正 したものである.

主 要 な 参 考 文 献

Brunes,Jean. (1920):H躍常醐G80gr妙妙. (New York)

〔松尾俊郎抄訳(1929):ジャン・ブリュンヌ 人文地理学。(古今書院)〕

飯 本 信 之(1940):地理学発達史.(中興館)

飯 塚 浩 二(1949):人文地理学説史.(大化堂)

飯塚浩二(1968):地理学方法論.(古今書院)

Hartsh。me,Richard.(1939);丁履V庶7θ・∫Gε・grσ殉.(㎞caster)

〔野村正七訳(1957):ハーツホーン 地理学方法論。(古今書院)〕

James,Prestton E. (1935):・4 0躍1加80∫Gθogr砂乃ン。 (New York)

James,Preston E.(1952): Toward a Further Understanding of the Regional Con£ept・

雇」4ssoσfαf∫o oヅ・4餌8ガσ醐Gθogrα助8rs.Vo1.42.No・3・

木内信蔵(1961):人文地理学.至文堂)

木内信蔵(1968):地域概論.(東京大学出版部)

Mau11,0tto,(1932):」4 f加ψ0980grα助ツ.(Berlin)

〔辻村太郎・山崎禎一訳述(1935):オットー・マウル 人文地理学。(古今書院)〕

宮川善造(1957):現代地理学原論.(古今書院)

野 間 三 郎(1963):近代地理学の潮流・(大明堂)

辻村 太郎 編(1955):新地理講座2,地理学本質論、(朝倉書店)

田 中 啓 爾(1949):地理学の本質と原理・(古今書院)

上田誠也(1971):新しい地球観.(岩波書店)

上田誠也・杉村新(1970):弧状列島.(岩波書店)

綿 貫 勇 彦(1635):地理学方法論.(地人書館)

山本正之・正井泰夫・田中真吾共訳(1863):アンドレー・ショレー 地理学の方法論的考察.

 」4η σ」ε0ゾ

(大明堂)

(9)

My View of(㎏aphy.

      Hatsuo YAsuTA

1).Geography is a science which studies the spacial relation on the present face of the earth,

      as the name implies.

2).Geography has a proper object of study.It makes the earth surface or spacial fragments

      of the world㎝oblect of s忙dy.

3).Geography is a science of descriptions of lands.But they are not s㎞ple descripti㎝s       of the areal differences among the lands.We have developedg㎝eralgeographybecause

      we have not only discribed regional characteristics,but also generalized the study of

      geo9Taphical facts.

      geographyalike,andtheyhave some止inginco㎜on wi止each o止er in㎏vi㎎出e

      study of regional characteristics of regions.But they are divided into two,so they

      have also different characteristics.The former aims to study a generahdea and es−

      tablish laws,by generalizing individual topics.The latter a㎞s to explain special ch−

      aracters of every region.And these sections promote their progress of stロdies each

      other.

5).Geography has a proper point of view and its own way of thinking,in addtion to its pro−

      per objects of study.In the first place,we attach great import㎝ce to the pheno−

      mena distributed unevenly on the earth surface.In the second place,we devise to

      catch an area distributi㎎the phenomena that show the regional differences.In the third       place,we try to interpret the relations amo㎎different phenomena by means of reading

      the distribution皿aps.In the fourth place,we study the interactions and organic re−

      lations among these phenomena,especially from a point of integration.

4).General geography(systematic geogr.)and special geography(regional geogr.)are

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10 福島大学教育学部論集第25号 1973−12

6)、 Geography has few laws that are compared with the laws of other systematic sciences.

  It is important to search for general laws,but I believe that we should make an effort

  to understand characteristics of various regions better, in a study of geography.

Referensi

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