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宇都宮市における 2012 年の月降水の安定同位体比の特徴

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Academic year: 2025

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(1)

福島大学共生システム理工学研究科  

藪 崎 志 穂 

文星芸術大学  

島 野 安 雄 

1.は じ め に

 地下水の涵養域や地下水流動を把握するための手段 の一つとして,酸素や水素の安定同位体が多く利用さ れている。酸素や水素は水を構成する元素であるため,

これらの同位体を用いることにより水そのものの挙動 を追うことができる。また,通常の条件下では岩石等 との反応は生じず,他の水塊との混合や蒸発の発生の ような限られた場合以外では同位体比は変化しにくい ことから,水循環や地下水流動等を把握するのに適し たトレーサーであるといえる。

 降水は地下水や湧水等の源であるため,降雨−浸透

−流出過程や地下水流動を明らかする際には,降水の 安定同位体データを把握することが重要である。降水 の同位体比と他のデータを併せて用いることにより,

水循環を明らかにするうえで重要な手がかりを得るこ とができる。

 降水の酸素・水素安定同位体比には幾つかの特徴が あり,1)降水量が増えると同位体比が低くなる雨量 効果(amount effect),2)気温が高いと同位体比が 高くなる温度効果(temperature effect),3)標高の 高い地域ほど同位体比が低くなる高度効果(altitude  effect),4)内陸部ほど同位体比が低くなる内陸効果

(continental effect),5)高緯度地域ほど同位体比が 低くなる緯度効果(latitude effect)などが挙げられ,

これは日本国内に限らず,海外の各地でも確認されて いる1)2)。これらの特徴を利用して,地下水の涵養域 の推定や地下水流動に関する研究が試みられている。

 降水の同位体比の形成には,降水量や気温,地形な どの諸条件が関わっているため,場所によって同位体

比は異なる。よって,研究対象地域のできるだけ近い 場所での観測データを利用することが望ましい。近年,

分析機器の発達や分析手法の進歩により,安定同位体 分析が比較的容易に行えるようになったため,降水の 酸素・水素安定同位体の観測は多くの場所で行われる ようになってきた。世界各地の降水の酸素・水素安定 同位体比のデータは IAEAの Global Network of Iso- topes in Precipitation(GNIP)で公開されており,広 域的な水循環研究や同位体比の分布特性を把握する場 合には大いに活用することができる。しかし,GNIP の観測地点は限られているため,地域的あるいは局地 的なスケールでの研究を行う際には,大抵の場合,自 ら観測してデータを得る必要がある。国内においても,

各地で降水の同位体観測が行われている。東北地方に 関しては,岩手県大船渡市の綾里で採水された降水の 同位体データ(1979〜2006年)がGNIPで公開されて おり3),青森県八戸市のイベント降水の水素同位体比 の研究も行われているが4),その他の研究例は少なく,

福島県内では継続的な観測はこれまでにほとんど行わ れていない。そこで,本研究では福島県福島市で月降 水を採取し,酸素・水素安定同位体比の特徴を把握す ることを目的とした。更に,長年にわたって継続的に 観測している他の2地点の降水の同位体データと福島 市の同位体データを比較することにより,将来的には データの無い期間の同位体比について推定することも 視野に入れて観測を実施した。

2.研 究 方 法

2.1 降水の採取方法

 降水のサンプリングは福島県福島市(福島大学構

福島市,小川町,宇都宮市における

2012 年の月降水の安定同位体比の特徴

(2)

内),埼玉県小川町,栃木県宇都宮市の3地点を対 象とし,各地点に蒸発防止構造を有した装置(Fig.1)

を設置して,月に一度採水を行っている。福島市で は2012年4月から,小川町と宇都宮市では1993年9 月から月降水を採取し,現在も継続中である。本稿 では,2012年に採水した降水の同位体データについ て考察する。福島市では降水の採取時に採取量を計 測し,採取量から降水量に換算して加重平均値を求 める際に利用している。採取した降水サンプルはポ リプロピレン製,或いはポリエチレン製の容器に保 存し,冷暗所で保管をして,一般水質分析と酸素・

水素安定同位体分析を実施している。各地点の気象 データは,気象庁の観測所(福島市:福島,小川町:

青梅,宇都宮市:宇都宮)で観測されたデータを利 用した。なお,小川町,宇都宮市の1994年から

2006年までの同位体データは公表済みである6)

2.2 分析項目,方法

 降水サンプルは採取時に EC(電気伝導率),pH の測定を行い,イオンクロマトグラフィーにより水 質分析を実施した(DIONEX社製,ICS‑1000,ICS 

‑2000)。酸素・水素安定同位体比は,外部機関に分 析を依頼し,近赤外線半導体レーザーを用いたキャ ビティリングダウン吸収分光法により分析を行っ

た。また,酸素・水素安定同位体比は,標準物質

(v-SMOW)からの千分率偏差であるδ値として示 している。

3.結果・考察

3.1 気温,降水量

 上述したように,降水の安定同位体比は降水量や 気温などの気象条件の影響を大きく受ける。本稿で 対象としている2012年の気象の特徴を把握するた め,各地点の長期間の年平均気温,年降水量の変化 について,それぞれFig.2aおよびFig.2bに示した。

福島市と宇都宮市は1890〜2012年,小川町は1976〜

2012年のデータを用いて作成した。また,各地点の 気温,降水量の平均値をTable 1に示した。

 Fig.2aの年平均気温の経年変化では,増減の変動

Fig.1    Precipitation  sampler  settled  at  Fukushima University

Fig.2  Long-term variation of(a)annual mean  air temperature and(b)annual precipi- tation amount at Fukushima(from 1890  to 2012), Ogawa(from 1976 to 2012)and  Utsunomiya(from 1890 to 2012

1900 1920 1940 1960 1980 2000

10 11 12 13 14 15 16

Air temperature (℃)

year Fukushima

Ogawa Utsunomiya

(a)

1900 1920 1940 1960 1980 2000 0

500 1000 1500 2000 2500 3000

(b)

Precipitatioamount ()

year Fukushima

Ogawa Utsunomiya

(3)

はあるものの,いずれの地点も徐々に上昇する傾向 が認められ,特に1950年を過ぎたころから気温上昇 が顕著になっている。比較をするために,3地点共 にデータが揃っている1976〜2012年の平均値をみる と,福島市は13.0℃,小川町は13.8℃,宇都宮市は 13.7℃で(Table 1),小川町と宇都宮市はほぼ同じ であるが,高緯度に位置する福島市では0.8℃ほど 低くなっている。2012年の平均気温をみると,福島 市では13.2℃,小川町と宇都宮市では14.0℃で,

1976〜2012年の平均値よりもそれぞれ0.2℃ほど高

いが,ほぼ平年並みであったと言える。

 一方,Fig.2bの年降水量の経年変化をみると,

明瞭な変動傾向は認められないものの,若干,減少 傾向であることが伺える。1976〜2012年の年降水量 の平均値は,福島市では1,154.2㎜,小川町では 1,495.3㎜,宇都宮市では1,487.6㎜であり(Table  1),気温と同様に小川町と宇都宮市ではほぼ同じ量 であるのに対し,福島市では300㎜ほど少なくなっ ている。2012年の年降水量は,福島市では1,070.5㎜,

小川町では1,360.5㎜,宇都宮市では1,668.0㎜であ り,福島市と小川町では1976〜2012年の平均値と比 べてそれぞれ84㎜,135㎜ほど少ないが,宇都宮市 では平均値よりも180㎜ほど多くなっている。これ は,宇都宮市の2012年5月の月降水量が316.5㎜と 例年よりも多いことが起因していると考えられる。

以上のことから,宇都宮市の降水量を除くと,3地 点の2012年の気温,降水量はほぼ平年並みであった。

 次に,2012年の月平均気温,月降水量の変化につ いて,それぞれ Fig.3a および Fig.3bに示した。月 平均気温は,福島市,小川町,宇都宮市ともに,ほ ぼ同様に変動している。各地点の値を比較すると,

7〜12月では3地点でほぼ同じであるが,1〜6月 の間は福島市では他の2地点と比べて低くなってお り,特に1〜4月の冬季から春先にかけての差が大 きいという特徴が認められる。月降水量は,福島市

では他の2地点と比べて夏季の降水量が比較的少な く,年間の変動幅が他の2地点と比較して小さい。

1976〜2012年の月降水量の平均値でも同様の傾向が あらわれていることから,これは2012年のみの特異 的な現象ではなく,福島市の降水量の季節変化は比 較的少ないといえる。しかし,全体的にみると,降 水量は夏期に多く,冬期に少ないという特徴は,3 地点ともに一致している。小川町と宇都宮市では,

5,6,9月では相対的に多くなっており,梅雨前線 や秋雨前線の影響があらわれている。一方,10〜2 月においては,宇都宮市の10月を除くと月降水量は 100㎜以下と少なくなっている。また,福島市と小 川町では8月の降水量が50㎜以下であり,平年値(そ れぞれ約150㎜,220㎜)と比べて非常に少ないこと も特徴の1つである。

Table 1  Average  of  air  temperature  and  annu- al  precipitation  amount  at  Fukushima,  Ogawa and Utsunomiya 

(1890‑2012)AT AT

(1976‑2012) P

(1890‑2012) P (1976‑2012)

Fukushima 12.3 13.0 1167.7 1154.2

Ogawa 13.8 1495.3

Utsunomiya 12.9 13.7 1510.0 1487.6  AT : air temperature

 P : precipitation amount

Fig.3  Temporal variation of(a)monthly mean  air temperature and(b)monthly precip- itation  amount  at  Fukushima,  Ogawa  and Utsunomiya in 2012

Jan 0 5 10 15 20 25 30

(a)

Air temperature ()

2012 Fukushima Ogawa Utsunomiya

Dec Nov Oct Sep Aug Jul Jun May Apr Mar Feb

Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec 0

50 100 150 200 250 300 350

(b)

Precipitatioamount ()

2012

Fukushima Ogawa Utsunomiya

(4)

3.2 降水の酸素・水素安定同位体比の特徴

 福島市,小川町,宇都宮市で採取した2012年の月 降水の酸素安定同位体比(δ18O)を Fig.4aに,水 素安定同位体比(δD)をFig.4bに,d-excess値(=

δD−8δ18O)を Fig.4cにそれぞれ示した。また,

各地点の同位体比,気象データを Table 2にまとめ た。

 今回,図に示したのは1年分のデータであるため,

季節による変化は詳細には読み取ることができない が,Fig.4a ,4bより,5月に同位体比は相対的に 高く(重い同位体が多く)なり,1,3,7月におい て同位体比は相対的に低く(軽い同位体が多く)な る傾向が認められる。各地点の同位体比の変動を比 較すると,小川町と宇都宮市では同位体比はほぼ同 じように変化しているが,福島市についてはやや違 いがある。小川町と宇都宮市は共に関東平野に位置 し,太平洋側の気団が卓越するという気象的な共通 の特徴を有するため,同一の水蒸気によって降水が もたらされる場合が多く,即ち同位体比は似た値を 示すと考えられる。一方,奥羽山脈の東側に位置す る福島市は,小川町や宇都宮市と同様に太平洋側に 近いと言えるが,太平洋との間に阿武隈高地がある ため,地形的な条件が異なっている。また,福島市 は小川町や宇都宮市から距離的にも離れているた め,この2地点とは降水の元となる水蒸気も異なる 可能性が高く,結果として降水の同位体比に差異が 生じていると予想される。

 d-excess値の変動(Fig.4c)をみると,3地点と もに夏季に低く,冬季に高い値を示し,明瞭な季節 変動を有している。こうした特徴は,茨城県つくば 市7)や京都盆地8),埼玉県熊谷市9)など,関東や 近畿地方で確認されている。降水のd-excess値の季 節変動は,降水の元となる水蒸気の起源が異なるこ とに起因しており,中部地方や東北地方では,夏は 太平洋側の気団が卓越し,冬は日本海側の気団が卓 越するためであると説明されている10)。これは,太 平洋側の湿潤な環境下で形成された水蒸気の d-ex- cess値は相対的に低くなり,日本海側の乾燥した条 件下で形成された水蒸気のd-excess値は相対的に高 くなることに因るものである。今回の結果から,福 島市においても,上述の条件が成り立っているもの と考えられる。しかしながら,d-excess値の形成過 程には未だ不明な点があるため,今後,気象条件や 地形条件等との関係について詳細に調べ,d-excess 値の形成について更に把握してゆく予定である。

Fig.4  Temporal  variation  of(a)δ18O,(b)δD  and(c)d-excess at Fukushima, Ogawa  and Utsunomiya in 2012

Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec

‑13

‑12

‑12

‑11

‑10

‑9

‑8

‑7

‑6

‑5

(a) 2012

 Fukushima  Ogawa  Utsunomiya δ18()

Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec

80

‑70

‑60

50

‑40

30

‑20

(b) 2012

 Fukushima  Ogawa  Utsunomiya

δ()

Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec 0

5 10 15 20 25 30

(c)

d-excess

2012 Fukushima Ogawa Utsunomiya

3.3 降水のδ−ダイアグラム

 天水のδ18OとδDには正の相関が存在し,その関 係はδD=8δ18O+10となることが報告されている11)。 この回帰線はCraigの天水線と呼ばれている。国内 の天水線の一例を示すと,茨城県つくば市ではδD

(5)

=7.6δ18O+10.7(1992〜2006年)12),埼玉県熊谷市 ではδD=7.2δ18O+6.8(2007〜2009年)12),京都 府京都市ではδD=8.4δ18O+15.5(2009〜2010年)

8),群馬県の白根山周辺ではδD=8.0δ18O+9.6

(2010年)13),長野県松本市ではδD=7.2δ18O+2.6

(2009〜2011年,未公表),となっており,多少の違 いはあるものの,Craigの天水線に近い値を示して いる地点が多い。

 2012年の月降水の同位体データを用いて,福島市,

小川町,宇都宮市のδ−ダイアグラムをそれぞれ Fig.5a ,5b,5cに示した。各地点の天水線を求め Table 2  Stable isotope ratios, monthly mean air temperature and monthly precipitation amount at Fuku-

shima, Ogawa and Utsunomiya in 2012

Fukushima Ogawa Utsunomiya

2012in 

δ18O δD AT P δ18O δD AT P δ18O δD AT P

Jan  0.2 −12.35 −74.1  1.8  58.0 −10.66 −58.1  1.5  22.0 Feb  0.4  −8.13 −43.6  3.0  80.0  −9.77 −54.5  2.6  70.5 Mar  4.7 −11.01 −70.0  6.7 119.5  −9.74 −62.5  6.4 145.0 Apr  −7.47 −50.3 10.9 102.2  −7.13 −43.4 12.5 119.0  −7.49 −45.7 12.2 107.0 May  −5.62 −32.4 16.9  75.5  −6.12 −38.1 17.5 261.0  −7.69 −50.3 17.8 316.5 Jun  −9.53 −66.5 19.4 172.2  −9.11 −62.9 20.0 208.5  −8.86 −60.0 20.1 166.5 Jul −10.59 −75.3 24.7 131.3  −8.69 −61.2 25.3  61.5  −8.20 −55.8 25.2 161.0 Aug  −6.53 −43.2 27.9  40.9  −7.91 −59.9 27.2  34.0  −8.45 −56.3 27.6 176.5 Sep  −8.91 −55.8 24.2 140.0  −8.07 −50.7 23.8 207.5  −8.99 −58.6 24.4 223.5 Oct  −6.99 −37.3 16.2  58.2  −8.78 −55.1 17.0  77.0  −6.96 −38.5 17.0 135.0 Nov  −8.00 −39.5  9.2  79.4  −9.68 −56.5  9.5  87.5  −7.45 −31.7  9.3  86.0 Dec  −9.69 −51.6  3.2  13.4  4.2  47.0  4.0  58.5 W.M.  −8.49 −54.7 13.2*1 813.1*2  −8.40 −53.2 14.0*1 1360.5*2  −8.35 −52.8 14.0*1 1668.0*2 AT : air temperature  P : precipitation amount  W.M. : amount-weighted mean

*1 : average  *2 : total

‑6

‑80

‑80

‑70

‑60

‑50

‑40

‑30

‑20

(a)

δ()

δ18O () Fukushima

δD =7.5δ18O+11.1 (r2=0.747)

‑5

‑13 ‑12 ‑11 ‑10 ‑9 ‑8 ‑7

δD =5.8δ18O‑4.7 (r2=0.774)

‑6

‑80

‑80

‑70

‑60

‑50

‑40

‑30

‑20

(b)

δ()

δ18O () ‑5

‑13 ‑12 ‑11 ‑10 ‑9 ‑8 ‑7 Ogawa

δD =6.3δ18O+1.8 (r2=0.518)

‑6

‑80

‑80

‑70

‑60

‑50

‑40

‑30

‑20

(c)

δ()

δ18O () ‑5

‑13 ‑12 ‑11 ‑10 ‑9 ‑8 ‑7 Utsunomiya

Fig.5  δ18O  versus  δD(δ-diagram)

at(a)Fukushima,(b)Ogawa  and(c)Utsunomiya in 2012

(6)

たところ,福島市ではδD=7.5δ18O+11.1(r2= 0.747),小川町ではδD=5.8δ18O−4.7(r2=0.774),

宇都宮市ではδD=6.3δ18O+1.8(r2=0.518)となっ た。いずれの地点も,天水線に沿うように値がプロッ トされており,比較的良い正の相関が認められる。

また,3地点の中で,福島市の天水線は Craigの天 水線とほぼ一致しているが,小川町,宇都宮市では 天水線の傾きが小さいため,y軸切片の値も相対的 に低く,Craigの天水線とは異なっている。長期デー タを用いて求めた天水線は,小川町(1993〜2009年)

ではδD=7.6δ18O+10.2(r2=0.917),宇都宮市

(1998〜2009年)ではδD=7.3δ18O+8.4(r2=0.873)

であり12),共に Craig の天水線に近い値を示し,

2012年の結果とはだいぶ異なっている。1年分の比

較的短い期間のデータでは,1つの降水イベント(特 に降水量が多いイベント)の影響が大きく反映され てしまうため,平均的な特徴を把握するためには,

少なくとも2〜3年ほどのデータを蓄積して解析す Fig.6  Relation  between  monthly  mean  air 

temperature and(a)δ18O,(b)δD Fig.7  Relation between monthly precipitation  amount and(a)δ18O,(b)δD

0

‑14

‑12

‑10

8

6

(a)

Fukushima Ogawa Utsunomiya

δ18O ()

Air temperature (℃)

30 20

10 0

14

‑12

‑10

8

‑6

(a)

Fukushima Ogawa Utsunomiya δ18O ()

Precipitation amount (㎜)

350 300 250 200 150 100 50

‑80

‑70

‑60

‑50

‑40

‑30

‑20

(b)

δD ()

0 10 20 30

Fukushima Ogawa Utsunomiya

Air temperature (℃)

‑80

‑70

‑60

‑50

‑40

‑30

‑20

(b)

0 50 100 150 200 250 300 350

δD ()

Precipitation amount (㎜)

Fukushima Ogawa Utsunomiya

ることが望ましいと言えるだろう。

3.4 安定同位体比と気温,降水量の関係について  「1.はじめに」で記述したように,降水の安定 同位体比は降水量や気温の影響を受けて値が変化 し,理論的には,気温が高いと同位体比は高くなり,

降水量が多いと同位体比は低くなる。本稿で取り上 げている2012年の月降水の安定同位体比と,気温,

降水量との関係を把握するために,月平均気温とδ

18Oの関係を Fig.6aに,月平均気温とδDの関係に ついて Fig.6bに示した。また,月降水量とδ18Oの 関係を Fig.7aに,月降水量とδD の関係について Fig.7bにそれぞれ示した。

 月平均気温とδ18O値およびδD値には,明瞭な相 関は認められない(Fig.6a, 6b)。しかし,月平均気 温が19℃を超える4か月分(6〜9月)のデータと,

それ以外の期間(10〜5月)のデータを分けてみる と,10〜5月のデータで正の相関が存在している。

(7)

 月降水量とδ18O およびδD の関係(Fig.7a ,7b)

においても,全体的には明瞭な相関はあらわれていな い。福島市のデータについては,僅かではあるが負の 相関が確認できるが,小川町,宇都宮市のデータでは こうした傾向は認められない。気温の場合と同様に,

データを6〜9月と10〜5月に分けてプロットしたと ころ,6〜9月の間の月降水量とδ18Oの回帰直線の 決定係数(r2)は,福島市では0.682,小川町では0.294,

宇都宮市では0.471であり(Fig.9a),降水量とδ18O 値には弱い負の相関が存在する。6〜9月の間の降水 量は比較的多く,湿潤な時期となっているため,同位 体比の形成には降水量の影響が強く働いていると考え られる。一方,10〜5月の場合では,いずれの地点に Fig.8  Relation  between  monthly  mean  air 

temperature  and δ18O  values(a)from  June  to  September,(b)from  October  to  May.  The  solid  line  shows  the  cor- relation line of Fukushima, dashed line  shows  the  correlation  line  of  Ogawa  and bold line shows the correlation line  of Utsunomiya.

Fig.9  Relation between monthly precipitation  amount and δ18O values(a)from June  to September,(b)from October to May. 

The solid line shows the correlation line  of  Fukushima,  dashed  line  shows  the  correlation line of Ogawa and bold line  shows the correlation line of Utsunomi- ya.

0

14

‑12

‑10

‑8

6

(a)

June-September

Utsunomiya

δ18O=0.07AT‑10.2 (r2=0.311) Ogawa

δ18O=0.14AT‑11.9 (r2=0.610) Fukushima

Ogawa Utsunomiya

δ18O ()

Air temperature () Fukushima

δ18O=0.30AT‑16.0 (r2=0.367)

30 20

10

Fukushima Ogawa Utsunomiya Utsunomiya

δ18O=‑0.0087P‑7.0 (r2=0.471)

Ogawa

δ18O=‑0.022P‑8.2 (r2=0.294) Fukushima

δ18O=‑0.025P‑5.8 (r2=0.682)

0

‑14

‑12

‑10

‑8

6

(a) Precipitation amount (㎜)

δ18O ()

350 300 250 200 150 100 50

June-September

Utsunomiya

δ18O=0.20AT‑10.4 (r2=0.782) Ogawa

δ18O=0.24AT‑11.3 (r2=0.467) Fukushima

δ18O=0.25AT‑10.4 (r2=0.912)

0

‑14

‑12

10

8

‑6

(b)

Fukushima Ogawa Utsunomiya

δ18O ()

Air temperature (℃)

30 20

10

October-May

Fukushima Ogawa Utsunomiya Utsunomiya

δ18O=0.0072P‑9.4 (r2=0.210) Ogawa

δ18O=0.021P‑11.4 (r2=0.438)

Fukushima

δ18O=0.028P‑9.4 (r2=0.391) 0

14

12

‑10

‑8

‑6

(b) Precipitation amount (㎜)

δ18O ()

350 300 250 200 150 100 50

October-May

6〜9月の月平均気温とδ18Oの回帰直線の決定係 数(r2)は,福島市では0.367,小川町では0.610,

宇都宮市では0.311であり(Fig.8a),弱い正の相関 が存在している。また同様に,10〜5月の場合では,

福島市で0.912,小川町で0.467,宇都宮市で0.782 であり(Fig.8b),小川町ではやや値が低いが,い ずれの地点も気温とδ18Oに正の相関が認められる。

月平均気温とδD の回帰直線の決定係数について も,δ18Oと同様の傾向が認められる。このことから,

10〜5月(秋季〜春季)の比較的降水量の少ない期 間では,気温と同位体比には正の相関が存在してい ることになり,この期間の同位体比の形成には気温 の影響が大きいことを示唆している。

(8)

おいても降水量とδ18O値には弱い正の相関が認めら れ(Fig.9b),6〜9月の場合とは相反し,また理論 的な特徴とも相反している。この期間の降水量は相対 的に少ないため,気温の影響のほうがより強く働いて いる可能性が示唆される。

 以上のことから,酸素・水素安定同位体比には,降 水量が比較的多い期間(6〜9月)では雨量効果の影 響が強く及び,降水量が比較的少ない期間(10〜5月)

では温度効果の影響が強くあらわれていると考えられ る。こうした結果は,つくば市の降水データにおいて も確認されており7),福島市やつくば市では同様のメ カニズムにより降水の同位体比が形成されている可能 性が示唆された。

4.ま と め

 福島市,小川町,宇都宮市で採取した2012年の月降 水の酸素・水素安定同位体比の結果を解析したところ,

以下の特徴を把握することができた。

1) 降水の酸素・水素安定同位体比には季節的な変化 は顕著には認められないが,冬季に相対的に低くな る傾向がある。また,3地点の同位体比は同じよう に変化しているが,詳細にみると福島市の変動はや や異なっている。

2) 降水のd-excess値は,夏季に低く,冬季に高い値 を示し,明瞭な季節変化を有している。

3) 2012年の降水データでは,各地点共に同位体比は 天水線に沿うようにプロットされているが,小川町 と宇都宮市の天水線はCraigの天水線よりも傾きが 小さくなっている。小川町と宇都宮市の2012年の天 水線の値は,長期間の観測結果を用いて求めた天水 線の値とは異なっており,平均的な値を求めるため には,2〜3年以上のデータの蓄積が望ましい。

4) 各地点の降水の同位体比には,6〜9月では雨量 効果が,10〜5月では温度効果が認められた。降水 の安定同位体比の形成には,降水量の多い期間は降 水量の影響が強く働き,降水量の少ない期間では気 温の影響が強く働いていることが考えられる。

 各地点の降水採取は現在も継続しており,それらの データを蓄積して今後も解析を進めてゆく予定である。

参 考 文 献

1)Dansgaard, W.(1964): Stable isotopes in precipi- tation. Tellus, 16, 436‑468.

2)Clark, I. and Fritz, P.(1997): Environmental iso-

topes in hydrogeology. Lewis Publishers, 328p.

3)IAEA HP (GNIP): http://www-naweb.iaea.org/

napc/ih/IHS̲resources̲gnip.html (2013年7月19 日閲覧)

4)Sato, H., Muranaka, T., Shima, N. and Takahashi,  S. (2005): Characteristics of stable hydrogen iso- tope ratio in precipitation in the Hachinohe area,  Japan. RADIOISOTOPES, 54, 229‑232.

5)気象庁HP(気象統計情報):http://www.jma.go. 

jp/jma/menu/report.html (2013年7月19日閲覧)

6)Yabusaki, S., Tase, N. and Shimano, Y. (2010): 

Temporal variation of stable isotopes in precipita- tion at Tsukuba, Ogawa and Utsunomiya City in  Japan. Groundwater response to changing climate.

(IAH book No.16), Taniguchi, M. and Holman, I. 

(Edi.), CRC Press, 55‑66.

7)藪崎志穂・田瀬則雄(2005):つくば市における 降水の安定同位体比の特徴について.水文・水資源 学会誌,18,592‑602.

8)藪崎志穂・河野 忠(2012):京都盆地で採取し た標高別降水の安定同位体比特性.地球環境研究,

14,23‑30.

9)藪崎志穂(2010):埼玉県熊谷市の降水の酸素・

水素安定同位体比の特徴.地球環境研究,12,121‑

125.

10)早稲田周・中井信之(1983):中部日本・東北日 本における天然水の同位体組成.地球化学,17,

83‑91.

11)Craig, H. (1961): Isotopic variations in meteoric  waters. Science, 133, 1702‑1703.

12)藪崎志穂(2011):地下水の水質と安定同位体の 特徴およびその活用法.高村弘毅編「地下水と水循 環の科学」.古今書院,41‑68.

13)正井理恵(2011):白根山周辺における雨水の安 定同位体効果について.立正大学環境システム学科 卒業論文,35p.

Referensi

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