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巻頭言 Top Column - J-Stage

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化学と生物 Vol. 56, No. 9, 2018

喜寿を迎えて思うこと

池田篤治

京都大学名誉教授,福井県立大学名誉教授

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

巻頭言 Top Column

Top Column

学術論文におけるデータ捏造改ざんの報 道がありました.「私の記憶にある限りで は捏造改ざんはしていないし元のデータは 廃棄してしまいました」というような嘘を つかず,モラルに反する行為と認めたため に著者は速やかに懲戒解雇になりました.

一方で国の指導的立場の人たちによるデー タ捏造,記録文書の隠蔽改ざん,虚偽発言 といったモラルに反すると思われる行為が 次から次へと報道されますが,彼ら自身が 自ら進んで事実を認め明らかにしようとす る姿勢は全く見られません.社会にとって 大切な何かが失われてきているように思え ます.このことを踏まえてモラル本能とそ の社会的意味について少し考えてみまし た.

本能にはいろいろあると思いますが基本 的な本能として食欲,性欲,権力欲(供給 が需要に足りないときは自分が生き残るた めに他者より強い権力をもつ必要があるで しょう)が考えられます.これらの本能は 生存欲というものを理屈抜きに認めること によって納得できるでしょう.これらの本 能が遺伝的に継承されてきたおかげで人類 はその誕生以来現在まで生存を続けていま す.ところで食欲本能を満たす食物の獲得 には狩りや農作業のような共同作業が必要 であったでしょう.そうすると上記の個人 的本能と調和したかたちでさらに集団協調 本能(モラル本能)というようなものが あってもおかしくないだろうと漠然と考え ていたところ,たまたま目にした新書

(1, 2)でモラルは古くから深い学問的考察

の対象になっており,実際にモラルが進化 過程で本能として位置づけられることを知 りました.すべてを理解できたわけではあ りませんが,モラルの観念は利他行為が何 らかの形で自己利益につながる相互利他性 という社会的本能に基づいていること,属 する社会の習慣によって大きく影響される こと,他の本能との葛藤があること,さら に,異なる社会(異なる国など)の間での モラルのぶつかり合い,などなど,モラル

についての広く深い考察が行われているこ とを知りました.そしてモラルは社会形成 の要となるような重要な本能であることに 思い至りました.

モラルの意味するところは,抽象的表現 ですが,社会に属する人々が集団としての 暮らしをお互いに保証するための暗黙の約 束事,もしくはそれを守ろうとする心や振 る舞い,と言えるだろうと思います.ただ モラル本能は間接的な社会的本能に由来す るので,個人的本能(食欲,性欲,権力欲 など)との間で調和が取れない場合は軽視 されることがあるでしょう.それを戒める 手段としてモラル破りを罰する法律という ものが必要になるのでしょう.現在の日本 の社会では先に述べたように,国の指導的 立場の人々が次々と想定外のモラル破りを 行っています.想定外のモラル破りにはそ れに対応した法律が想定されていないの で,法的処罰が難しくなります.最近は大 企業によるデータ捏造をはじめとして,同 様なモラルに反すると思われる行為がしば しば報道されます.気づかない間にモラル 軽視に鈍感な世の中になってきているよう な気がします.「君たちはどう生きるか」

という漫画本(3)が1年足らずの間に200万 部を超えるベストセラーになっているのは このような日本の現状に多くの人たちが不 安や危機感をもっている現れではないのだ ろうかと思います.日本社会がこれからど うなっていくのか,構成員である私たち一 人ひとりが考えざるをえない立場に立たさ れていることを強く感じます.

  1)  内井惣七:ダーウインの思想̶人間と動 物のあいだ,岩波新書,2009.

  2)  亀田達也:モラルの起源̶実験社会科学 からの問い,岩波新書,2017.

  3)  吉野源三郎 原作,羽賀翔一 漫画:君 たちはどう生きるか,マガジンハウス社,

2017.

Copyright © 2018 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.56.585

(2)

プロフィール

池田 篤治(Tokuji IKEDA)

<略歴>1965年京都大学農学部農芸化学 科卒業/1967年同大学大学院農学研究科 修 士 課 程 修 了/1968年 同 大 学 農 学 部 助 手/1973年 同 助 教 授/1992年 同 教 授/

1997年 同 大 学 大 学 院 農 学 研 究 科 教 授/

2005年福井県立大学生物資源学研究科教 授/2010年同研究科退職.現在京都大学 名誉教授,福井県立大学名誉教授<趣味>

絵画鑑賞

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

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