2001 年 3 月 31 日
ゼロエミッションパート論文
『 廃 棄 物 電 子 取 引 の 可 能 性 』
山口研究会5期生 ゼロエミッションパート
足利聖子 池田洋一 中西心紀 廣江りつ
目 次
一章 産業廃棄物とゼロエミッション
1.産業廃棄物を取り巻く状況・・・・・・・・・・・・・・・・2 2.ゼロエミッションとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 3.理想的なゼロエミッション・・・・・・・・・・・・・・・・4
二章 廃棄物電子取引
1.廃棄物電子取引とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 2.従来の廃棄物交換取引制度の問題点・・・・・・・・・・・・7 3.問題点の解決・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
三章 廃棄物電子取引の現状と分析
1.廃棄物電子取引の分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 2.それぞれの廃棄物電子取引の特徴と分析・・・・・・・・・13
四章 廃棄物電子取引におけるコスト分析
1.システム導入時・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 2.廃棄物交換取引成立後・・・・・・・・・・・・・・・・・15
五章 提言:自治体による P F I 方式の採用
1.自治体の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 2.自治体における民間の活用・・・・・・・・・・・・・・・19
3. P F I とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
4. P F I の廃棄物電子取引への活用・・・・・・・・・・・・・20
5.「官民協調型」の提案 ・・・・・・・・・・・・・・・・・21
6.循環型社会における廃棄物電子取引の意義・・・・・・・・23
一章 産業廃棄物とゼロエミッション
1.産業廃棄物を取り巻く状況
現在,わが国の年間産業廃棄物の総量は約4億トンであり,そのうち42%がリサイクル,
44%が焼却・破砕などによる減量化,残り14%が埋め立てられている.一般廃棄物と比較
するとリサイクル率は高いものの,総量が一般廃棄物の約8倍であるため,約 6000万トン もの産業廃棄物が埋め立てられていることになる.
1998年以降,産業廃棄物処理場の新規許可件数が減少し,処分場が減少している(図表 1).この原因は1997 年の廃棄物処理法改正が翌年施行された結果,最終処分場新設の条 件が厳しくなったからである.産業廃棄物の処分場残余年数は3.1年と予測され,このまま の状態でいけば残余年数は減少の一途をたどると考えられる.また,産業廃棄物の不適正 処理が進み,不法投棄量が増えることによって環境汚染が懸念されている(図表2).産業 廃棄物処分場におけるダイオキシン等の化学物質による汚染問題も深刻な問題である.
新規の廃棄物処分場建設に際して地域住民による反対もしばしば発生し,これまでのよう に処分場を設けて廃棄物に対処する方法ではシステムとしてたちゆかなくなってきている.
よって社会全体として廃棄物を減量化し,循環型社会に向けて全ての主体が対策をとるこ とが急務となっているといえる.
図表2)産業廃棄物の不法投棄の量
0 10 20 30 40 50
1995 1996 1997 1998 1999
単位:万トン
出処:旧厚生省
単位:件
出処:日本経済新聞3月7日 137
193
129 130
0
2650 100 150 200
1995 1996 1997 1998 1999
図 表 1 )産 業 廃 棄 物 最 終 処 分 場 の 新 規 許 可 件 数 の 推 移
以上のような廃棄物をめぐる環境の変化から,政府は目標を設定し法律の制定・改訂を 行っている.例えば2000 年に制定された循環型社会形成基本法では、リデュース,リユー ス,リサイクルの優先順位による環境対策の取り組みの方針を明らかにし、廃棄物処理法 の改正により,産業廃棄物処理に自治体が直接関与できるようになった.
一方,1999年に制定した政府の廃棄物減量化目標は,2010年に1996年対比最終処分量 を半減させるというものであった.産業廃棄物に限っていえば,排出量を 13%に抑え,リ サイクル率を42%から48%に引き上げることで最終処分量を半減するという計画である.
これに対して産業界はすばやい反応を示した.経団連は1999 年に,2010 年の最終処分
量を1990 年対比25%削減する数値目標を掲げたが,これを政府目標の基準年である1996
年度推定数字と比較すると,70%の減量目標にあたる意欲的なものである.経済界が政府 の規制を待たずに動き出していることは歓迎すべき取り組みであるといえる.
また,環境分野の注目が高まる中,企業の環境意識の高まりも顕著であり,ISO14001の 認可件数はうなぎのぼりに増加している.事実,ISO14001 の認証取得件数は2000 年10 月末には4636件に達した.
さらに社会の環境意識の高まりに伴い,企業は環境対策の責任を担うようになってきた.
環境に取りくまない企業は淘汰される時代に突入しているといってよいだろう.
例えば,各製造業者は工場のゼロエミッション達成に尽力している.なぜならゼロエミ ッションの達成が循環型社会の鍵を握るとされ注目を集めているからである.ではゼロエ ミッションとはどのような概念なのであろうか.
2.ゼロエミッションとは
「ゼロエミッション」は国連大学の学長顧問を務めたグンダ・パウリ氏によって1994 年に 唱えられた概念である.国連大学においてパウリ氏らが進めていた研究は産業部門のゼロ エミッションを対象としており,「ひとつの産業から出た廃棄物をほかの産業部門で資源と して使い,産業集団(クラスター)1を形成することによって,廃棄物をなくし,資源を浪 費しない,環境に負荷を与えない産業社会を作ること」2を目標にしている.
このようなゼロエミッションの概念は日本国内に急速に広まり,各地で実験がおこなわ れ,製造工場や地域型ゼロエミッションとして実験・実践されている.例えば屋久島にお いては,産業のゼロエミッションに限らず地域から排出される全ての廃棄物を対象とし,
循環に必要なエネルギーの効率化をも視野に入れた環境と地域振興の両立を図る地域型ゼ ロエミッションが創設され話題を呼んでいる3.
また1997 年には北九州市,川崎市,岐阜県,長野県飯田市,1998年には福岡県大牟田 市,札幌市が,通産省(現経済産業省)からエコタウン4として認定され,産業,行政,大 学関係者,住民を巻き込んで循環型社会,ゼロエミッションの達成に取り組んでいる.
1 クラスター…廃棄物をゼロにする目的で異業種産業が一つのグループを形成すること.これにより,生 産システムは一方通行型から循環型になる.
2 吉村元夫『地域発・ゼロエミッション』p28、29より
3 吉村元夫『地域発・ゼロエミッション』p30〜34より
4 エコタウン…自治体,企業から出る地域の廃棄物をリサイクルによってゼロにする.「ゼロエミッショの 実現に向けてリサイクル事業の支援をしようという国の事業に指定された地域.
特に最近では,大手企業が自社工場のゼロエミッションを次々と達成しつつある(図表 3).
こうした大手製造企業の取り組みは,深刻な最終処分場不足からくるコスト増大が今後 避けられないと予想される中でゼロエミッション化を行うほうが全体のコスト削減につな がると判断されている結果といえよう.
しかしこれらのゼロエミッションは必ずしも全てのケースで合理的な廃棄物の削減を行 っているとは限らず,お金を払って,つまり逆有償でセメント業者等に廃棄物を引き取っ てもらい,無理やりにゴミをゼロにしている企業も存在する.環境イメージのアピールに
「ゼロエミッション」を利用している面も否定できない.
一般にゼロエミッションとは「ごみゼロ」という意味であるが,各企業によって解釈はま ちまちである.必ずしもごみを完全に無くすという意味でとらえていない企業もあり,環 境に負荷を与えない範囲での廃棄物最小化と定義している企業もある.どこまで達成する のがゼロエミッションであるのか基準が曖昧で,実際に廃棄物が最適に循環しているのか 疑わしい面も否定できない.
図表3)ゼロエミッションをめぐる主要企業の動き
出処:日本経済新聞2 0 0 0 年7 月2 8 日
3.理想的なゼロエミッション
ゼロエミッション化を推し進め,理想の産業クラスターを形成していく場合,次の3つ のステップ5が考えられる.
第1段階は,まず個々のプロセスにおいて可能な限り自己完結型システムをすることで
5 『ゼロエミッション型産業をめざして−産業における廃棄物再資源化の動向―』より,大分大学工学部 教授羽野忠他『プロセスゼロエミッション化のための物質フロー解析と要素技術の開発』
トヨタ自動車 2003 年度末までに国内全工場
本田技研工業 国内全5生産事業所で近く達成
富士重工業 2001 年度をメドに国内主要3工場
コマツ 2010 年度までに国内全 15 営業所
キャノン 2003 年度をメドに国内全 43 営業所
コニカ 2003 年度をメドに国内全 15 事業所
富士通 2003 年度末までに国内全 13 工場
シャープ 2002 年度中に国内全 9 工場
ブリヂストン 2005 年度までに国内全 15 事業所
積水化学工業 2002 年度までに国内全 30 営業所
大日本印刷 2001 年度までに国内 10 工場
神戸製鋼所 2001 年春に加古川製鉄所
TOTO 2005 年度までに国内全9工場
ある.例えばLCAなどのような製品の製造工程の徹底的な見直しによる廃棄物減量化など の策である.
第2段階として,廃棄物の「出し手」と廃棄物を原材料とする「受け手」との間で有機 的結合を形成し,廃棄物の有効利用を図ることである.
さらに,第3段階として,各種のプロセスや産業のエミッションを広くデータベース化 し,産業間で多様なネットワークを形成することによって,トータルエミッションを最小 にするような最適産業システムを構築することである.
各企業の工場におけるゼロエミッション化は,第1段階におけるゼロエミッションであ り,生産ラインの見直し等によって廃棄物の発生を抑制しようとするものである.つまり リデュースの観点である.しかし1企業の取り組みだけではどうしてもゼロエミッション 化を効率的に進めることに無理がある.理想的に産業同士が有機的に結びつき,クラスタ リングを形成することやネットワーク化を推進し,トータルな面でのエミッション最小化,
ゼロエミッションを完成することが重要である.
もちろん第1段階における努力は必要不可欠ではある.しかし産業間のクラスターが形 成されネットワーク化によって効率化し,第2段階,第3段階が実現して初めて社会全体 のゼロエミッションが促進されていると言うことができる.
我々が定義するゼロエミッションの最終的な目標とは,「トータルエミッションを最小に するような最適産業システムを構築すること」である.真の循環型社会の構築には費用対効 果の観点からも無理のないように廃棄物を活用することが重要である.
二章 廃棄物電子取引
1.廃棄物電子取引とは
それでは,第2段階,第3段階のゼロエミッションが促進され,循環型社会が形成され るためには現段階でどのようなシステムが存在するだろうか.
現在脚光を浴びているのはインターネットを利用した産業廃棄物交換システム,「廃棄物 電子取引」である.これは廃棄物の排出事業者と,廃棄物を原料として利用したい利用業者 の情報をインターネット上で公開し,仲介事業者が双方を引き合わる,ゼロエミッション 推進上画期的なシステムである(図表4).インターネット使用人口の増加に伴う電子商取 引の増加で注目を集めている.
産業廃棄物交換システムのはしりは自治体による年数回の冊子発行であった。廃棄物を 出す排出事業者と廃棄物を原料として受け入れる廃棄物利用事業者が自治体を介しマッチ ングすることを狙ったものであり,廃棄物の有効利用を促すことを目的としたものであっ た.
三章で詳しく述べるが,廃棄物電子取引はコンサルティングを有するタイプと掲示板方 式によるタイプが存在する.
図表4)廃棄物電子取引のイメージ図
出処:(特)環境事業団ホームページ
2.従来の廃棄物交換取引制度の問題点
このようなシステムがうまく機能すると、第2段階,第3段階のゼロエミッションが促 進され,循環型社会形成へとつながる。産業廃棄物交換システムが考案され実行されたの は割に古く,1976年に大分県において取り組まれたのが最初の例である.当時はインター ネットが普及していなかったため,年1回の冊子の発行が中心であり,もちろん電子取引 は行われてはいなかった.各企業が冊子を見て交渉する方式で,後に述べる「掲示板型」と 原理はほぼ同じである.
しかし冊子型の交換取引には以下のような問題点がある.次に述べるのは自治体による 冊子型の廃棄物交換取引制度における問題点である6.
①情報誌の作成の手間と負担
廃棄物の提供・利用に関する企業調査,情報誌の編集・作成にかかる手間,費用負担 等が大きい.また,このため情報誌の発行までに数ヶ月を要し,発行回数も多くて年2 回程度に制限される.
②登録事業所に関する問題
情報収集手段がアンケート等によることから調査対象事業所数に限度がある.また,
公表時には登録事業者名が不明であるため,相互の情報交換には制度運営者の仲介が必 要である.
③廃棄物情報に関する問題
情報誌の紙面の制約から廃棄物に関する掲載情報の内容量が制限される.また,情報 の更新が遅れる.
④量・時間・質のミスマッチ
需要ニーズがあっても,量的に少なすぎる場合や,廃棄物の発生時期と利用希望時期 に隔たりが生じる場合,情報誌には質に関する情報がないため排出品質と要求品質とに 差が生じている場合がある.
⑤利用事業者にメリットがない
利用事業者にとって品質等に不安のある廃棄物を活用するメリットがない.
⑥取引先の信頼性についての不安
情報誌やホームページのデータの情報だけで面識のない企業との直接交渉をするには 不安がつきまとう.
⑦廃棄物処理に関する制度面の問題
利用事業者は,産業廃棄物処分業者でなければ処理料を徴収することはできない.
また自分で利用する場合以外は,運搬業者としての許可を得た者でなければ廃棄物を 移動できない.さらには都道府県域を越えた移動には制約がある.
⑧提供事業者の不安
6『INDUST』2000年11月号より環境事業団環境保全対策推進質室長代理 牧田泉「リサイクル需給情報交 流促進事業」―新しい廃棄物情報交換システム―より
提供事業者にとっても処理事業者以外の者に処理委託する場合には,管理責任につい ての不安が残る.
⑨情報面のセキュリティの問題
提供事業者・利用事業者の双方共,詳細な廃棄物情報を外に出すことや,相手の分か らない企業に知らせることにより企業秘密の漏洩につながることを懸念する.廃棄物の 製造工程で出るものであるため,廃棄物の成分についての情報が他社に漏洩することは,
その企業の企業秘密である原料,製造過程まで漏洩してしまう可能性が高い.よって仲 介業者が秘密を漏らさない主体であるといえるかという信頼性は重要な問題となって くる.
⑩需給情報のアンバランス
提供事業者の「譲りたい」情報の量が,利用事業者の「利用したい」情報の量を圧倒的に 上回っている.
3.問題点の解決
以上のうち①,②,③,④の問題点はインターネットを介した電子取引で即解決すると 考えられる.WEBを利用すればアンケートをとって情報誌を作成する一連の作業による手 間がかからない.また以前のように紙面の制約もないので掲載情報の内容量が制限される ということはない.情報の更新をこまめに行うことで,タイムラグが発生せず,最新の情 報を利用することができる.情報冊子を用いて情報収集をするよりもインターネットを用 いて廃棄物の仲介を行うほうがはるかに効率的であるといえる.
また後に述べるコンサルティングサービスを有する仲介サービスを利用することで④,
⑤,⑥,⑦,⑧,がほぼ解決されると思われる.量・時間・質の問題はは実際に廃棄物が 本当に利用できるのかを確かめ,そのまま利用できない場合はどうしたら利用できるのか を助言することで解決される.また利用事業者はコンサルタントによって⑤の廃棄物の品 質の問題が解決される.また企業同士の間に入り適切な取引先を仲介するため⑥の問題も 解決する.⑦は産業廃棄物処分業者,運搬業者の資格を持つ仲介業者が間に入ることで解 決するだろう.県境を越えた取引も自治体に申請することでほとんど問題なく取引できて いる7.
⑧の問題は取引者同士が契約する時点で綿密な取引契約書を交わすことで解決できると いえる.またその契約にも第3者である仲介業者の助言を受けることで当事者同士よりも 円滑に進めることができるであろう.
⑨の問題点は守秘義務契約を結ぶことで建前上は未然に防止することができる.
⑩はまだまだ排出者の方が多い段階ではあるが,ある程度は仲介業者の裁量によって解 決できる可能性もある.ただ再利用する業者は明らかに排出業者よりも少なく,これから のリサイクル市場の拡大に期待するところ大である.以上をまとめると図表5の通りとな る。
7 アミタ・昇和興業・リサイクルワンのヒアリングより
図表5)廃棄物交換取引の問題点とその解決策
問題点 解決策
①情報誌の作成負担 電子取引で解決
②登録事業所に関する問題 電子取引で解決
③廃棄物情報に関する問題 電子取引で解決
④量・時間・質のミスマッチ コンサルティングで解決
⑤利用事業者にメリットがない コンサルティングで解決
⑥取引先の信頼性について不安 コンサルティングで解決
⑦廃棄物処理に関する制度の問題 コンサルティングが解決
⑧提供事業者の不安 契約書の充実により解決
⑨情報面のセキュリティの問題 守秘義務契約によって解決
⑩需給情報のアンバランス 仲介業者の活躍とこれからの発展に期待
以上よりインターネットを用いた廃棄物電子取引は以下の点で優れているといえる.
1,距離的な問題が解決し,遠隔地同士の取引ができる.
2,情報タイムラグがない(時間差によるミスマッチが解決.)
3,情報収集の効率性が促進される.(冊子のように手間がかからず効率的.)
4,情報量に限界がない.
以上のように廃棄物交換取引を円滑に実現させるためには,インターネットによるサー ビスを行うことが必要であり,さらにコンサルティングサービスが付帯する方が望ましい.
従来電話や営業活動で地道に顧客層を開拓していた民間のリサイクル業者にとっても,
顧客獲得の門戸を広げられる可能性も出てくる.
また企業における環境意識の高揚に伴いリサイクルへの需要が増えたため,インターネ ットを利用したリサイクル事業へ進出した例もみられる8.以上のような理由からインター ネットを使用した廃棄物電子取引はゼロエミッション達成に向けて大きな鍵を握る分野で あると考えられる.
またこのシステムによって,第 2 段階,第3 段階におけるぜロエミッション化が促進さ れ,トータルエミッションを最小にするような最適産業システムを構築できると考えられ る.
8 民間のリサイクル仲介業者,アミタ,昇和興業もこれに当てはまる.
三章 廃棄物電子取引の現状と分析
1.廃棄物電子取引の分類
では実際に廃棄物電子取引にはどういうものがあるのだろうか.
現在,廃棄物電子取引を行う主体は3種類(国,自治体,民間)存在する.
国主導型 国①…環境事業団リサイクルネット(2001年 1月15日実証実験開始)
国②…産業廃棄物ネット(1998年7月1日サービス開始)
自治体主導型 静岡県,群馬県,愛知県など
民間主導型 民間①…リサイクルワン(2001年1月9日有料サービス開始)
民間②…アミタ(2001年1月15日マッチングサービス開始)
民間③…昇和興業(2000年6月サービス開始)
など
我々は上記それぞれの主体についてヒアリングに基づく調査を行った.調査の結果,同 じ廃棄物電子取引でもそれぞれ,形式,料金,対象などにおいて,異なった特徴をもつこ とがわかった.
以下に分析の観点を示す.
a. 形式
1. コンサルティング仲介型
管理者であるリサイクル仲介業者が排出業者とリサイクル業者の双方の情報を基にコ ンサルティングを交えマッチングする方式である.廃棄物電子取引を行っている仲介業 者はリサイクル先の情報を収集しておき,排出元から情報が登録された場合,仲介業者 が最適なリサイクル先を紹介する.同時に,廃棄物をリサイクルしやすいものにするよ う企業にコンサルティングを行う.それによって情報公開のみの場合に比べ,よりリサ イクルが促進されることになる.
2. 掲示板型
インターネット上に情報を載せるだけで当事者同士に取引を任せる方式である.仲介 業者が設置した掲示板に,排出元やリサイクル先が一方的に情報を登録するものであり,
検索や連絡は各自行う必要がある.ただ連絡手段として一旦,管理者に連絡し,連絡先 を仲介してもらう形式をとるケースがほとんどである.この場合,コンサル仲介型に比 べ,やはりリサイクル機能は劣るだろう.
b. 利用料金 1. 無料
仲介業が国や自治体主導型の場合は利益を得る必要がないため,閲覧,登録,利用 など全ての面で無料である.ただしこの場合は税金を用いるため,コスト削減へのイ ンセンティブは生まれない.
2. 有料
仲介業が民間主導型の場合は,民間は営利団体であるため利益を得る必要がある.
料金としては登録料,システム使用料,仲介料,手数料,運搬費などが考えられるが,
どの料金を取るかは企業によって異なる.競争相手がいるため,コスト削減へのイン センティブが生まれる.
c. 取引先 1. 全企業
企業の規模や廃棄物の量などに関わらず,全企業を対象にしている.
2. 系列(中小企業を含む)
コスト・ベネフィットの面から特に系列(中小企業を含む)を相手に廃棄物取引を実 現させている.
3. 大企業
コスト・ベネフィットの面から特に大企業を相手に廃棄物取引を実現させている.
d. 対象地域 1. 全国
企業の規模や廃棄物の量などに関わらず,全国の産業を対象にしている.
2. 地域密着
地域密着型で,一定地域にある企業を相手に廃棄物取引を実現させている.イン ターネットを利用して門戸を全国に開放しているが,実質的に取引は地盤地域が中 心となるケースも多い.
e. 着眼点(何を目的に「廃棄物電子取引」を始めたのか.) 1. リサイクル
循環型社会の実現を目的としているため,リサイクルに対する意識が強い.逆に,
廃棄物の適正処理を行うことを想定していない.
2. e-ビジネス
将来を見据えたビジネスの手段として,廃棄物取引を行っている.そのため,採算 が取れないようであれば,廃棄物取引を仲介するインセンティブは薄れる可能性があ る.
3. 適正処理
廃棄物の不法投棄を無くすことを目的としている.そのため,循環型社会を実現さ せるためのリサイクルとは直線的に結びつかない.
f. コンサルティング 1. 有り
廃棄物をリサイクルするだけでなく,製造工程を見直すことによりリデュースやリ ユースが行えないかどうかを調査する.また廃棄物を他産業で利用しやすいものにす るための取り組みをアドバイスすることも可能である.
2. 無し
廃棄物をリサイクルするための取引だけを目的として,リデュースやリユース,廃 棄物の改善など,リサイクル以外のことに対しては一切干渉を行わない.
g. マッチング
1. 委託型
仲介業者がコンサル仲介型の場合,そのマッチングは仲介業者への委託型となる.
取引に関する責任は仲介業者にあるが,廃棄物から企業秘密が漏れないように,排出 元は,仲介業者やリサイクル先と守秘義務契約を結ぶ場合がある.
2. 自社責任型
仲介システムが掲示板型の場合,そのマッチングは自社責任型となる.取引に関す る責任は排出元とリサイクル先にあるため,取引相手の信用情報を得る必要がある.
h. 実績 1. 有り
インターネットの普及が進む前から同じようなシステムはあったため,情報誌や FAXを使って廃棄物取引をしていた一部の自治体や企業には,今までの実績がある.
ただし利用状況には差がある.
2. 無し
これから本格的にサービスが開始される仲介組織には利用企業に対する信用はな いと言える.また現在はシステムの実験中であるため取引が発生していないところも ある.
i. 情報量 1. 有り
仲介業者が国や自治体主導型の場合は,リサイクル先や処理先に関する膨大な情報 量がある.
2. 無し
仲介業者が民間の場合には,情報量が少なく,自力で集めるしかない.
j. 廃棄物情報のセキュリティ問題 1. 有り
長年の実績があることや,コンサルの仲介の存在,守秘義務契約などによって信頼 度を確保している.
2. 無し
掲示板型の場合は自社責任のため,廃棄物仲介業者に対して信頼関係を築く必要は ない.
k. 中小企業
1. 利用しやすい
特に国や自治体管理の仲介サービスを利用する場合,サービスを利用するために料 金を取らないため,コスト意識が高い中小企業にとって利用しやすい.
2. 利用しにくい
特に民間の仲介サービスを利用する場合,廃棄物情報の登録が面倒であり,サービ スの利用料金をとられるため,よほど環境意識が高くなければ中小企業にとっては利 用しにくい.
l. サービス 1. 有り
仲介業者が民間型の場合,廃棄物仲介以外のコンサルタントなどのサービスが充実 している.
2. 無し
仲介業者が国や自治体型の場合,廃棄物仲介以外のサービスがない.
これらをまとめると以下のようになる(図表6).
図表 6)それぞれの廃棄物電子取引システムの比較表 国①
国② 自治体 民間① 民間② 民間③
形式 掲示板型 掲示板型 掲示板型 掲示板型 コ ン サ ル 仲介型
コ ン サ ル 仲介型
マッチング 無 無 無 無 有 有
利用料金 無料 無料 無料 毎 月 の 登
録 料 + 仲 介手数料
仲 介 手 数 料
仲 介 手 数 料
取引先 全企業 全企業 全企業 全企業 系列(含中 小企業)
大 企 業 中 心
対象地域 制限なし 制限なし 管轄地域内 制限なし 実質的に地 域
実質的に地 域
着眼点 リサイクル 産廃処理 リサイクル eビジネス リサイクル リサイクル
実績 無 ? 県に依る 有 有 有
情報量 有 有 有 無 無 無
セ キ ュ リ テ ィ ( 信 頼 性 )
有(公的機 関として)
有(公的機 関として)
有(公的機 関として)
有(守秘義 務契約)
有(守 秘 義 務契約)
有(守 秘 義 務契約) 中小企業 利用しやす
い
利用しやす い
利用しやす い
利用しやす い
利用しにく い
利用しにく い
サービス 無 無 無 有 有 有
2.それぞれの廃棄物電子取引の特徴と分析
以上のような調査結果をもとに各システムの特徴とその優劣についての分析を行った.
掲示板型はコンサルティング仲介型に比べてリサイクル機能は劣る.なぜなら廃棄物を 効率よく取引相手企業の原料にするためには蓄積されたノウハウ・技術が必要不可欠であ るからである.掲示板型の場合は実際の取引は利用企業同士の裁量に任されており,第 3 者が技術的な面でサポートすることはできない.
ただ自己責任で行う分,国や自治体が主導である掲示板方式は利用料金がかからないと いうメリットも存在し,さらに匿名で取引ができるので,その結果中小企業が利用しやす いと考えられる.また掲示板型の場合は,利用企業が多岐に渡ると考えられる.
また主体によってコンサルティング機能の有無がある.産業廃棄物処理業者がリサイク ル業者に転身し,ノウハウ・技術を蓄積してきた結果,コンサルティングによるマッチン グが可能となるケースがある.この場合,掲示板方式では実現しにくい取引も可能となる だろう.例えば廃棄物を原料として利用しやすいようにコンサルティングを行い,その結 果,今まで再利用が不可能だった廃棄物を利用することができるようになる可能性がある.
そしてコンサルティングにより排出物を利用するリサイクル先の情報も活用できるので,
最適なマッチングを排出元企業に提案することができる.
コンサルティング仲介型の場合,全国からホームページを通して申し込みをすることが できるが,運送料のコストの問題もあり,実質的に対象企業は地盤地域が中心になる.コ ンサルティングや調査のためにリサイクル仲介業者が実際に企業に赴く面からみても地盤 地域中心にならざるをえないだろう.
そもそもサイト開設における目的はさまざまであり,環境事業団は循環型社会促進の目 的,民間はもちろん収益増大のために情報量の増加が目的であるが,着眼点がリサイクル,
e−ビジネスに分かれる.
ところで民間企業の場合は,新規に取り組む環境事業団などとは違い,今までに培った 実績があるため,既に取引企業先との信頼関係が存在する.これらの企業は今後もその仲 介企業を利用すると考えられる.自治体の実績は各自治体によって異なるが,まだまだ盛 んであるとはいえず,一部の自治体(静岡県,愛知県,群馬県等)が奮闘しているのみで 全体としてはまだまだ不十分である.
一方,国や自治体には,公共機関としての信頼性があるため廃棄物に関する情報収集力 があり,民間仲介業より多くの情報量を持っている.
さらに信頼性の問題について述べると,国や自治体に情報を提供しても悪用される心配 がないため,安心して情報提供ができる.なぜなら公共機関としての信頼性があるからで ある.これに対して民間の仲介企業の場合には,二者間で守秘義務契約を結び,情報が漏 れないようにすることができる.
ところで,環境意識が低い中小企業に利用させるためには,廃棄物電子取引をするにあ たり,余計な費用がかからない方が利用しやすい.それはつまり掲示板型の自社責任型の 取引である.しかしこのような中小企業にも,コンサルティングを行うことによって利用 できる廃棄物に変えることができる可能性も充分にある.
またサービス面では,配車の手配やホームページのコンテンツの充実等,民間仲介業の 方が優れたものを提供できる.
国①のケースでは現在実験段階であり,取引は実現していない.自治体はもともと廃棄 物交換のための情報誌を発行しており,それをWEB上に移したものである.情報誌は自治 体によっては高い利用実績があったため9,インターネットに移行したことでよりタイムリ ーな情報を送れるようになり,さらに利用状況が多くなることが考えられよう.
あくまで民間は営利団体であるため利益の増大のために,まとまった取引ができる大企 業を取引相手にするという傾向がある.
9 大分県,神奈川県では冊子による廃棄物交換取引に高い利用実績がある.
四章 廃棄物電子取引におけるコスト分析
1.システム導入時
廃棄物電子取引を利用する場合,コスト面でのメリットにはどのようなものがあるだろ うか.まずシステム導入によるコストメリットについて触れる.以下は民間のリサイクル 仲介業者10によるシステムを利用した場合の導入メリットについて言及したものである(図 表7).
図表7) 民間業者①の導入メリット 自社システム システムを導入 導入コスト 150万円/年 30万円/年 導入スピード 最低3ヶ月 3日
導入効果 50〜1000PV11 10万PV
リサイクルワンへのヒアリングより
各製造企業が自社でシステム開発を行い廃棄物取引情報を収集するよりも,リサイクル 仲介業者を利用し廃棄物電子取引を利用したほうが導入コスト,導入スピード,導入効果 において優れている.例えば自社でシステムを導入する場合,通常初期費用を合わせて年 間150 万円のコストがかかるのに比べて,民間①のシステムを導入すれば年間30万円のみ ですぐに導入できるというメリットがある.また導入スピードも自社で開発するのが最低 でも 3 ヶ月かかるのに比べて,システムを委託した場合は3日で導入できるというメリッ トがある.また導入効果が大きく,自社導入に比べてアクセス数が圧倒的に違う.
以上はASP(Application Service Provider)のサービスの例でありインターネットを 用いたeビジネスの観点からみたものである.
ちなみに料金を徴収しない自治体の廃棄物電子取引の場合も同様の効果が見込まれるが,
WEB技術,システム等のサービス面で民間業者の方が優れているといえる。
2.廃棄物取引成立後
さらにもう一歩踏み込み,実際に取引が行われた場合のコスト例について検討すること にする12.
①汚泥処理
灰触媒のような汚泥を処分場で埋め立てた場合,排出業者が支払うコストは運搬費用込 みで約25円〜30円/kgかかる.しかしセメント業界で再利用処分すると運搬費込みで約 50円/kgかかることになる(図表8).
10 株式会社リサイクルワンへのヒアリングより.
11 ページビューの略、画面あるいは広告などが表示された回数のことを指す.
12 株式会社昇和興業へのヒアリングより.
図表8) 埋め立てとリサイクルの費用の比較
埋め立て 約 25 円〜30 円/kg(運搬費用込み)
仲介業者を利用(セメント処理) 約 50 円/kg(運搬費用込み)
この汚泥処理のようにリサイクルをしたほうが,コストがかかるケースも多く存在する.
これが,中小企業がなかなか環境対策にまで手が回らずリサイクルが進んでいない原因 の1つとなっている.
しかしリサイクルをすることでコスト削減を達成することは可能である。リサイクル仲 介業者のコンサルティングの結果実現したリサイクルによって排出業者の大幅なコスト削 減が実現している。以下はその例である。
②硫酸
ある化学系企業の硫酸処理の例を説明する(図表9).最初に通常処理を行った場合を考 える.廃棄物電子取引を利用する前に自社工場で行っていた生産ラインで発生する硫酸処 理のコストが処理1と処理2である.
図表9) ある化学系企業の硫酸処理例
処理1 コスト 30 円/kg 処理2 コスト 28 円/kg 仲介業者を利用(他業者が再利用) 有償 4円で売却
処理1 H2S O4+C a C O3→C a S O4+H2O+C O2↑ 処理2 H2S O4→H2O+S O3↑
処理1は硫酸(H2SO4)に炭酸カルシウム(CaCO3)を加えて石膏(CaSO4),水,二 酸化炭素へ化学反応を発生させ,処理する方法で1kg あたり30円のコストがかかる.また 処理2は燃焼させて取り出す処理方法で1kg あたり28円のコストがかかる.つまり当該化 学系企業は処理1と処理2を用いていたため硫酸を処理するために大幅なコストを投入し ていた。
しかし廃棄物電子取引システムを利用した仲介業者のコンサルティングにより今まで処 理していた硫酸が1kgあたり4円で有償物として取引されることになった.これはリサ イクル仲介業者の蓄積されたノウハウが生かされてはじめて実現した処理形態である.こ の化学系企業はリサイクル業者と1ヶ月あたり約500tの取引を行うため,①、②の処理を 行っていた時と比較して月に約1700 万円のコスト削減が実現し,単純計算で年間2億400 万円のコスト削減を実現することが可能となった.もちろん処理施設の設備投資や維持費 が必要であるため,その分のコストを割り引いて,1億数千万円のコスト削減になる.
また仲介業者に買い取られた硫酸は他業者に売却され,再び原料として利用されること になる.以上のケースは仲介業者に委託し,コンサルティングをうけることにより,廃棄 処理をするよりもリサイクル処理にまわしたほうが大幅なコスト削減が実現したものであ る.しかしこのような例は限られており,既に述べたリサイクル費用のほうが高くなるケ ースも発生する.
今後,最終処分場の逼迫により処分価格が上昇していくと考えられる.将来最終処分価
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格が上昇していくのでリサイクル価格のほうが安くなり,リサイクルが進んでいくだろう.
しかしリサイクルの促進にはその他の要素の解決も必要である.リサイクル市場の創設,
不法投棄の対策を解決しない限り,たとえ処分価格が上昇してもリサイクルは進まないと いえる.
産業廃棄物は品目も多く,品質,バージンの値段の高低によって有償,逆有償と様々で ある.有償になるものは硫酸,リン酸,モリブデン,パラジウム,貴金属を含む金属スク ラップなどがある.仲介業者のアドバイスによる技術開発によって再利用技術が生まれ,
新たにリサイクルしやすくなる廃棄物も今後増加してくるだろう.無論これらのサービス を行うにあたってノウハウの蓄積,技術力を兼ねそろえたコンサルタントの意義が大きい といえる.単なる掲示板方式による廃棄物電子取引では,取引相手はもちろんノウハウの 面でマッチングに結びつかない可能性が高いと考えられるからである.
よってコンサルティングのサービスを有する廃棄物電子取引システムは効率的に機能す るのである.
旧通産省の試算によると環境産業の市場規模は,1998年の15兆円から2010年の37兆 円の2.5倍になると予想されている.リサイクル業者の需要はますます増加していくことに なると考えられる.廃棄物をリサイクルすることの需要が増えることで,リサイクル業者 の需要,取引が増え,今後ますます廃棄物のリユースやリサイクルをする技術,ノウハウ の重要性が増していくだろう.
それによってリサイクル仲介業者の技術力,ノウハウはさらに増し,より廃棄物の再 利用技術が進んでゆくと考えられる.国と自治体では一般的にコンサルティングをはじ めきめこまかいサービス,WEB技術,業者の格付けは難しく,ネットを介したコンサ ルティングの充実した民間のリサイクル業者が今後伸びていくであろう.
つまり循環型社会への促進のためにはネット取引が行えて,かつノウハウを持った民間 のリサイクル業者が伸びてゆくことが望ましいといえる.
五章 提言:自治体による P F I 方式の採用
1.自治体の取り組み
ここで,廃棄物の仲介をしている一部の自治体の現状を見ることにする.アンケートは 環境事業団が1999 年に実施し,全都道府県のうち,41都道府県から回答があったもので ある.まずは廃棄物交換システムの有無についての結果について考察してみる(図表10).
図表1 0 ) 廃棄物交換システムの有無
実施している 実施していな 48%
いが開始を検 討している
20% 実施していた が休止してい 実施していな
いし,する予定 もない
17%
1999年段階で実施しているのは 48%の都道府県であるが,開始を検討している都道府県
が 20%もあり,廃棄物交換システムに対する関心の高さがうかがえる.他方、休止したと
ころも15%ある。休止した理由として最も多かったのが,取引実績がなかったためである.
これは,コンサルティングなどのサービスが不十分であったことが原因と考えられる.
実施しない理由として最も多かったのが,廃棄物の減量化に有効であるか具体的な検討 を行っていないためである.実際に取引が成立していることを踏まえると,検討を行えば 廃棄物交換システムを実施するだろうと考えられる.
次に実際に廃棄物交換システムを実施している自治体の登録方法(図表 11)と,情報提 供方法(図表12)についての結果を考察する.
図表 1 1)登録方法 図表1 2 ) 情報提供方法
このように申請書や情報誌などを利用している自治体が多く,インターネットを利用し たメリットを生かしていない自治体が多いことがわかる.しかし将来的にインターネット を活用したいという自治体も多く存在する.
最後に国が主体となって廃棄物交換システムの構築を予定していることについて,どの ような対応を取るかという環境事業団の質問の結果は図表13の通りである。
図表13)今後,国のシステムができたら
その他 79%
国のものとは別に 自治体で運営する
予定 16%
国のものができれ ば自治体独自のも のの運営を休止す
る予定 5%
国とは別に自治体で運営すると答えた都道府県には,国のシステムではきめ細かい対応 ができないのではないかという不安を持っていることがわかった.
その他の対応をとる理由として,国が整備する廃棄物交換システムの具体的な内容を確 認した上で検討したいという回答が多かった.
これらのアンケート結果を総合すると,国や自治体の廃棄物交換システムは民間のシス 電話・FAX
4%
その他 46%
申請書 33%
インターネット 17%
電話・FAX 4%
その他 12%
インターネット 32%
情報誌 52%
テムと比べるとまだ成長段階にあると言える.ただし,静岡県,群馬県,愛知県,神奈川 県,大分県などのように廃棄物交換システムに積極的に取り組んでいる県もある.
2.自治体による民間の活用
四章までで民間によるコンサルタントの効果について,また、本章前節にて自治体の現状を述 べてきた.
処理業者に産業廃棄物処理の委託を許可するのは「都道府県」と「政令指定都市」である.また,
自治体の枠を超えて再資源化しようとすると,どうしても運送コストが高くついてしまうため,非効率 なリサイクルになってしまう.自治体ごとの不法投棄への取り締まりは厳しく,現在,廃棄物の越境 は難しいという面もある.
そこで,産業の資源化において自治体の果たす役割が大きくなるのではないかと考え,我々は 自治体に対して提言を行う.
まず我々が必要性を感じているのは,自治体の「体質改善」である.
自治体は安全を重視し,高いリスクを伴う事業は行わない傾向にある.例えばひとつの 例として,自治体が排出企業にリサイクル仲介企業を紹介するとする.その場合,自治体 は必ず古くから行っていて信頼があることが明らかな企業のみを選定する.設立してから 年数が浅く,政治的な縁故もない企業はそもそも入札参加や自己宣伝の機会すら与えられ ずに除外されてしまっているということが多々ある.
しかし,リサイクル技術の革新は日進月歩である.新しい企業でも新しい技術が日々開 発研究されている.新しい技術を盾に新しく事業を興すものも多いはずである.そのよう な新しい技術を行政が無視するのは,社会全体でみるとデメリットが大きい.
循環型社会の形成のために,自治体は信頼性を重視するのは無論大事ではあるが,信頼 性を年数以外の基準で確認し,技術力なども比較し,競争が公正にオープンに行われるよ うに図ることこそ,今,自治体が行っていくべきことなのである.
ただ逆に,自治体の中にはこうした民間の効率性を積極的に取り入れた政策を行ってい るところもあるので紹介する.
三重県では,民間企業で長年,環境部門などを担当してきた専門家3人を県の環境技術 専門員として採用した.自治体にはコストについての意識,サービス戦略の意識が不足し ているため民間人の登用は県庁内部にもよい影響を与えている.
東京都では,産業廃棄物を出すメーカーなどが適正な産廃処理業者を選ぶ際の参考にな る指標を四月をめどに作成,公表する.産廃の不法投棄に結び付きやすい極端な安価受注 を防ぐため標準的な処理料金を明示するほか,業者選択の目安となるチェック項目(排出 量に見合う処理能力を持っているからや資本金,過去の違反処分歴など)を示す.
しかしこれらはまだまだ特殊な例であり,やはり多くの自治体が民間の効率性を積極的 に取り入れているとは言いがたい.そこで,私たちは次のように提言したい.それは,「PFI 方式の導入」である.
3. P F I とは
PFIとはPrivate Finance Initiativeの略であり,民間の持っている経営力・資金力・技
術力等を有効活用し,民間資金を導入して社会資本を整備する英国で生まれたシステムで ある.入札で選ばれた民間企業が公共施設を建設・運営し,公共サービスを提供するもの で,公共側は財政負担を軽減でき,市民は効率よく質の高いサービスを受けられる.その ためPFI を実行する民間企業は,施設のライフサイクル全体でのコストマネージメントや マーケティング・資金調達等に関して総合力が要求される.事業対象の例としては,橋,
鉄道,都市開発などが挙げられる.以下に例を示す(図表14).
図表14)PFIの種類
類型 独立採算型 サービス提供型 官民協調型 特徴 民間が施設を建設し,利
用者からの料金収入で事 業を運営
民間が施設を建設・運営し,
主として公共からの収入(施 設利用料・サービス委託料 等)によりコストを回収
公共と民間が双方の資 金を用いて施設を建設 し,運営は民間が主導
例 有料道路,橋,発電施設,
庁舎等
庁舎,刑務所,病院 都市開発,鉄道
出処:( 社 ) 日 本 建 設 業 団 体 連 合 会 ホ ー ム ペ ー ジ
4. P F I の廃棄物電子取引への活用
上図のように,PFIは社会資本の整備のための手法であり,主に施設の運営・管理を行う ものである.しかしIT化の中,ハード面ばかりでなくネット上の電子掲示板といったソフ ト面の施設の社会資本整備は必ず求められるだろう.このPFI を「廃棄物電子取引」に応 用するべきだと我々は考えた.
三章までで見てきたように,仲介を行う機関の中では,民間のリサイクル仲介業者によ って産業廃棄物の再資源化に貢献している割合はかなり高いと考えられる.
しかし,民間仲介企業に任せておいただけでは,社会全体のトータルエミッションの最 小化を達成できない.なぜなら「中小企業の問題」が残っている.というのは,民間の仲 介企業は中小企業に積極的にアプローチしない傾向にある.それは同じ営業コストである のに,大企業に比べて利益が少ないからである.つまり,リサイクル仲介業者にとって,
中小企業の場合,大企業と比べて規模の面でまとまった取引がないため,中小企業と取引 をすると利益率が低くなってしまうということである.
また,中小企業側からみても仲介企業に積極的にアプローチしようというインセンティ ブが乏しいといえる.それには以下の3つの理由が考えられる.
・ 情報が少なく目先のことで精一杯であるため,環境意識が低く処分場の価格上昇に対す る危機意識が低い.
・ 情報が少ないため,費用対効果の面で利益になるという意識が低い
・ 大企業と比較してITインフラが整っていない.などの理由によると考えられる.
そこでわれわれは,中小企業に対する取り組みとして自治体による仲介のサービスの充 実を提言する.そして,そのために自治体は「PFI 方式」を採用すべきであると考えるので ある.
前節「自治体の実状」を参照すると,現在,48%の自治体が廃棄物の需要者・供給者に関 する情報を収集・提供し,そのうち 32%の自治体がそれをインターネット上で公開してい る.
現在のシステムの問題点は,民間に比べ情報自体の信頼性や効率性などサービスの質の 面であきらかに見劣りし,マッチングのための努力が足りず,結果として十分な効果が出 せていないことである.つまりなかなか取引件数は増加していないのが現状である.(図表 15)
図表15)各自治体の廃棄物仲介システムでの交換成立実績
自治体(都道府県)の廃棄物仲介システムでの 交換成立実績(平成9年度)
0 5 10 15 20 25 30 35 40
把握なし 0件 1件 2件 5件 11件 71件 取引件数
取引が行われた自治体数
出処:環境事業団
とはいえ,他方自治体が自治体の区域内の情報を数多く集める点では優れているのも確 かであり,自治体は単なる利益追求でなく循環型社会の形成を目的とした活動に予算を組 むことが可能である.
そこで,PFIにより民間が持つ経営力と技術力とを活かして自治体がサービスを強化し,
中小企業に廃棄物電子取引を増加させるという目的を達しつつ「財政資金を最も効率的に 利用する」ことができるのである.
具体的には,自治体から委託を受けた民間事業者は,廃棄物の需給情報をまとめ電子掲 示板などの形で公開する.また,技術的なコンサルティングも充実させていく.さらには IT インフラの整っていない中小企業に対しては個別に民間事業者の専門コンサルタントが 各企業を訪問し,技術的な相談に応じることも必要となる.
5.「官民協調型」の提案
では,先ほどあげた3つの事業類型(独立採算型・サービス提供型・官民協調型)のう
ち,どれが一番適切であるのか.
まず,事業を完全に「独立採算型」で行うのは無理があると考えられる.ネットワーク 構築にかかる費用は,ハードの施設の建設にかかる膨大な費用と比べ多いとはいえない.
しかし,短期的なスパンでみれば,廃棄物が資源であるとの意識の低い中小規模の事業者 の市場を開拓していくのであるから,事業開始当初からコンサルタントなどの人件費など も含めた建設・運営コストに比べ大きな収益が上がるというのは考えづらい.とすると,
民間仲介企業にとって事業参入のメリットが少なくなり,優良な民間仲介企業の参入の可 能性が低くなる.
「サービス提供型」の場合は自治体から必ず収益が入るわけであるから,民間仲介企業 のコストやリスク管理に対する危機意識が薄くなり,民間の長所である効率性を高めるう えでディスインセンティブとなる可能性がある.また,民業圧迫ということにもなりかね ない.
そこで,私たちは「官民協調型」を提案する.これは民間仲介企業にとっては,事業に 参入するメリットが増えるが,経営努力により収益が非常に変わってくるわけでありリス クを多く負担するわけでもあるから,必死に経営するインセンティブも存在する.
官民協調型には,公共部門による「事業費の一部補助」と「料金の一部補助」とがある.
前者は初期投資額が大きく,事業期間内での回収が困難な場合等において,公的部門が事 業費の一部を負担することになるケース,後者は料金が政策的に低く設定されている場合 等において,その一部を公的に補助するケースなどが想定される.
この点,事業開始段階の初期においては,中小企業事業者にまず,廃棄物の再資源化に 経営上の観点から関心を持ってもらえるような誘導を行うために,コンサルタント料金を はじめは安く(無料で)設定して誘導するなどの工夫が必要になると思われる.よって,
公的な補助が必要になるだろう.中小事業者から潜在的なニーズを引き出し,廃棄物が再 資源化するとの認識をもってもらったあとは,適正なサービス料金を利用者から受け取る べきだと考える.
なぜなら,自治体はあくまで,民間企業が費用対効果を検討した結果参入できず,かつ それでも社会のトータルエミッションの最小化に必要な場合のみ参入すべきであると考え られるからである.そこで,民間仲介企業が中小企業相手の市場に参入しても費用対効果 が十分に大きい場合,自治体の一企業への過剰な補助は民業圧迫になってしまうと考えら れる. そこで,事業の初期段階においてのみ,自治体が補助金を出すようなかたちとす る.
また,PFI事業においては,想定される責任およびリスクの所在を明確にし,官民双方が 主体的にリスク管理を行うことが重要である.このため,官民間で責任およびリスクを分 担する際には,先ず,それらの所在を明確化し,各部門の責任をはっきりさせておく必要 がある.個々のリスクについては,それを最も効率的に管理できる主体が責任をもって負 担するという「最適なリスク分担」の考え方に基づくべきである.例えば,行政の失敗に よる事業の失敗は行政が責任をとり,民間の失敗による事業の失敗は民間が責任をとるよ う,あらかじめ明確に文書化しておくべきだろう.
6.循環型社会の中での廃棄物電子取引の意義
以上のように我々は,民間を主導とした廃棄物電子取引が活性化されることが必要であ り,そしてそのために現状ではPFI 方式が採用されるべきではないかと考えた.
しかし,それだけにとどまらず,こうした情報の普及は社会全体としての課題を浮き彫 りにする可能性を持っている.
「引き取り手がない」という単なるあきらめで終わらせてしまうのではなく,真の循環 型社会の形成を目指すためには,問題点も明確にすることが重要である.
本当に引き取り手がないのか,再資源化にコストがかかりすぎることが問題なのか,そ れとも距離的な輸送コストの問題なのか,品質や分別の問題があるのか.あるいは,その 結果本当に処理に困るものであることが明らかになれば,それを出さないようにする必要 性が浮き彫りにもなるわけである.
廃棄物電子取引システムはそうしたアクティブな機能を持った社会システムとして,今 もっとも必要といえるのではないだろうか.
参考文献(五十音順)
1)隈本一樹『ゴミ行政はどこが間違っているのか』(合同出版)1999年
2)日本学術振興会産学協力研究委員会『 ゼロエミッション型産業をめざして−産業にお ける廃棄物再資源化の動向―』(株式会社シーエムシー)2001年
3)光多長温・杉田定大『日本版PFIガイドブック』(日刊工業) 1999年 4)山口光恒『地球環境問題と企業』(岩波書店)2000年
5)吉村元男『地域発ゼロエミッション』(学芸出版社)2000年 6)『INDUST』2000年11月号(社団法人全国産業廃棄物連合会)
7)『日経 ECO21』 2001 年 3 月号(日経ホーム出版社)
8)『日経エコロジー』2000年4月号(日経BP社)
9)日本経済新聞2000年7月28日一面,2001年3月7日『首都圏経済』,2001年3月 16日,17日『循環型経営に挑む』
インターネットリソース
1)アミタ http://www.amita-net.com/
2)環境事業団 http://www.jec.go.jp/
3)産廃情報ネット http://www.sanpainet.or.jp/
4)昇和興業 http://www2u.biglobe.ne.jp/~showa-k/index.html 5)リサイクルワン http://www.recycle1.com/
6)社団法人日本建設業団体連合会http://www.nikkenren.com/
7)JWNET http://www.jwnet.or.jp/
8)PFI の可能性 http://www.emco.co.jp/ebic/center/sanwa/pfi.html ヒアリング先 (五十音順)
新井薫様 群馬県環境政策課 井ノ口順子様 株式会社アミタ
上田晃輔様 産業廃棄物処理事業振興財団 鏡田誠様 株式会社太平洋セメント 木南陽介様 株式会社リサイクルワン 斉藤純一郎様 株式会社昇和興業
牧田泉様 特殊法人環境事業団環境保全対策推進室