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微生物・植物由来の 新規ニトリル分解・合成酵素の産業利用

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微生物や植物には,シアン代謝の酵素系「アルドキシム トリル経路」が存在する.われわれは,微生物および植物に おいて,アルドキシムやニトリルの代謝に関する種々の酵素 を明らかにしてきた.微生物において,アルドキシム脱水酵 素がニトリルの生合成にかかわることを示し,構造解析にも 成功した.また,植物のヒドロキシニトリルリアーゼについ ては,広範な活性の探索および光学活性シアノヒドリン合成 などへの利用研究を行った.キャッサバ(

)由来の -MeHNLについては,大腸菌での特異な可溶性 発 現 の 現 象 を 発 見 し,そ の メ カ ニ ズ ム を 推 定 し た.本 稿 で は,微生物および植物のシアン代謝経路の比較生化学研究を 行い,それらに存在する酵素を巧みに用いて,有用物質合成 に利用する研究の成果について解説する.

はじめに

微生物や植物には,シアン代謝の酵素系があり,これ をわれわれは,「アルドキシム‒ニトリル経路」と呼んで

い る.こ の 経 路 に 存 在 す る ニ ト リ ル ヒ ド ラ タ ー ゼ

(NHase)はわが国で発見命名され,今や最も重要な工 業用酵素の一つとなっている(1, 2).本酵素は,ニトリル の水和反応を触媒しアミドを与える酵素であるが,代謝 における存在意義はまだ不明のままである.われわれ は,微生物および植物において,アルドキシムやニトリ ルの代謝に関する種々の酵素を探索し,微生物のアルド キシム脱水酵素,NHase,アミダーゼおよびニトリラー ゼ,ならびに植物のP450,ヒドロキシニトリルリアー ゼ(HNL)などについて,それぞれを比較しながら基 礎研究を行い,さらに有用物質生産への利用研究を展開 してきた.HNLについては,活性の探索,異種ホスト での可溶性発現および応用研究を進めている.本解説記 事では,われわれの最近の研究とその周辺について記 す.

微生物のニトリル代謝とアルドキシムニトリル経 路の酵素の利用:ダイナミックな光学分割による光 学活性アミノ酸の合成

アルドキシム‒ニトリル経路を構成する酵素群は,微 生物と植物で異なっている.微生物では,上記の酵素群

【解説】

微生物植物由来の 

新規ニトリル分解合成酵素の産業利用

浅野泰久

Industrial  Use  of  New  Nitrile-Synthesizing  and  Degrading  Enzymes of Microbial and Plant Origins

Yasuhisa ASANO,  富山県立大学生物工学研究センター,富山県 立大学工学部生物工学科,JST ERATO浅野酵素活性分子プロ ジェクト

(2)

によって,アルドキシムをカルボン酸にまで代謝する

(図1.最近,Ozakiらは, 由来 のFlavin依存性のモノオキシゲナーゼが,L-Trpから対 応するアルドキシム合成を触媒することを報告している が(3),実際のアミノ酸代謝に関与しているとは考えられ ていない.L-アミノ酸からアルドキシムを生成する酵素 は,それ以外見つかっていないが,アルドキシムからカ ルボン酸に至る経路については,われわれの新酵素アル ドキシム脱水酵素およびNHaseの発見によって証明し ている(1, 2)

微生物アルドキシム‒ニトリル経路の酵素は,いずれ も優れた特性をもっており,それらの利用についての報 告は増加する一方である.NHaseは,工業用酵素とし て全世界で使われるに至り,年間60万t以上のアクリル アミドが合成されているとのことである.しかし,高い 立体選択性を示すNHaseはあまり知られていない.ア ミノ酸アミダーゼは立体選択性に優れており,われわれ もラセミ体アミノ酸アミドの光学分割などに利用してき た(4).また,ニトリラーゼは,シアン耐性が高く,たと えばシアノヒドリンの光学分割などにも利用されてき た(5).アルドキシム脱水酵素は,アルドキシムの脱水反 応によりニトリルの合成を触媒するユニークな酵素であ

(6, 7).われわれは,分子科学研究所のAonoらとの共

同研究でそのX線構造解析にも成功し二価のヘム鉄を 有する特異な構造を明らかにしている(8)(図2.また,

最近,アルドキシム脱水酵素を光学活性ニトリルなどの 合成にも適用している(R. Metzner  ,未発表).

光学活性アミノ酸をより効率的に生産する手法の開発 は,基礎および応用の両面から注目を集めている.われ われは,アルドキシム‒ニトリル経路にある微生物酵素 を巧みに使って,

α

-アミノニトリルのダイナミックな光

学分割(DKR)による光学活性アミノ酸の合成を行っ た.ラセミ体

α

-アミノニトリルから光学活性アミノ酸を 得る酵素的方法としては,1)NHaseと立体選択的なア ミダーゼを組み合わせる方法,および2)立体選択的な ニトリラーゼを用いる方法がある.しかし,両方法と も,光学分割法であるので,得られる光学活性アミノ酸 の収率は,最大で50%を上回ることはない.われわれ は,ラセミ体の

α

-アミノニトリルを水和してラセミ体の アミノ酸アミドを生成させるために非立体選択的な NHaseを用い,さらに または 立体選択的アミダー ゼ,および

α

-アミノ-

ε

-カプロラクタム(ACL)ラセマー

(9, 10)の3種類の酵素を用いて,

α

-アミノニトリルから

図2  sp. N-771由来のアルドキシム脱水酵素の

X-線構造解析

活性中心のヘム近傍における -ブチルアルドキシムとのMichaelis 複合体(8)

β 図1微生物および植物のアルドキシム

ニトリル経路

(A)細菌のアルドキシム‒ニトリル経路,

植物のシアン配糖体の生合成と分解.

(3)

光学活性アミノ酸へのDKRによる合成をすることを計 画した(図3.ACLラセマーゼが,アミノ酸アミドに 対するラセミ化活性を有することは,ACLとアミノ酸 アミドの構造類似性から予測した(9).土壌より分離した  71Dが生産するNHaseは,培地中 へのブチロニトリルの添加により誘導され,

α

-アミノブ チロニトリルに対して非立体選択的に

α

-アミノブチルア ミドへと変換する高いNHase活性を有していた.その 基質特異性は,

α

-アミノニトリルのみならず,アクリロ ニトリルやブチロニトリルなどの脂肪族ニトリル,ベン ゾニトリルやマンデロニトリルのような芳香族ニトリル に対して非常に幅広い.各種アミノニトリルに対する 値は,1〜2と算出され,目的の反応に合致する性質を 示 し た.  71DのNHase遺 伝 子 の 下 流 に は,

NHaseシャペロンタンパク質遺伝子(p15K遺伝子)が 存在し,ほかのNHase生産菌同様に,アルドキシムデ ヒドラターゼ遺伝子からp15K遺伝子がポリシストロ ニックなオペロンを形成していることが明らかとなっ た.NHase遺伝子の終止コドンとp15K遺伝子の開始コ ドンがオーバーラップ(ATGA配列)している区間に 新しくSD配列を加え,大腸菌で発現させた.このよう に改良したNHase遺伝子は,大腸菌内で高発現し,乾 燥菌体1 g当たり野生株の30倍の活性を示した(11)

NHaseの基質である

α

-アミノニトリルは,水中でアル デヒドとシアンに分解され,また一般的にNHaseは低 濃 度 の シ ア ン で 強 く 阻 害 さ れ や す い.し か し,本 NHaseは,高いシアン耐性能を有しているため,シア ン存在下でも効率良く

α

-アミノニトリルから

α

-アミノ酸 アミドへの変換が可能であった.計画どおり,NHase, 

または 立体選択的アミノ酸アミダーゼおよびACL ラセマーゼの精製酵素を用いて,ラセミ体の

α

-アミノニ トリルから各種の または 体の光学活性アミノ酸を合 成した(11)(図3).

一方,側鎖の大きいアミノ酸アミドのラセミ化は,

ACLラセマーゼの狭い基質特異性のため効率が悪かっ た.そこで,基質アナログと酵素の複合体のX線構造 解析の結果(12)から,フェニルアラニンアミドに対し高 活性を示す変異型ACLラセマーゼ(L19V/L78T)を導 き,基質特異性の拡張に成功した.変異型ACLラセ マーゼおよび 立体選択的アミダーゼ遺伝子を共発現 させた組換え大腸菌を作製し,それを用いてラセミ体 フェニルアラニンアミドから効率良く( )-フェニルア ラニンを合成することに成功した.また,逆に,変異型 ACLラセマーゼおよび 立体選択的アミダーゼ遺伝子 を共発現させた組換え大腸菌を用い,ラセミ体フェニル アラニンアミドから( )-フェニルアラニンを合成した.

そのほか,同様に( )-  および( )-フェニルアラニン のアナログを合成した.さらにNHase遺伝子を発現さ せた大腸菌,および変異型ACLラセマーゼならびに 立体選択的アミダーゼ遺伝子を共発現させた大腸菌を用 いることにより,ラセミ体フェニルアラニノニトリルか ら効率良く( )-フェニルアラニンを合成した(13).この ような光学活性アミノ酸合成法は,過去に全く報告がな く,われわれ独自の新しい方法である.

植物のアルドキシムニトリル経路,ヒドロキシニ トリルリアーゼの探索と利用

植物のアルドキシム‒ニトリル経路は,疎水性アミノ 酸(L-Tyr, L-Phe, L-Val, L-Ile, L-Leu)からシアン配糖体 を合成するための一経路である.また,アルドキシムか ら分岐して,グルコシノレートが生合成される(14). Halkier, Møllerらは, のデューリン生 合成において,L-Tyrからアルドキシム,アルドキシム からシアノヒドリンへの変換が2つのシトクロムP450 によって触媒されることを示している(15).われわれの 実験でも,梅( )において,L-Pheが2つ のP450によってアルドキシムを経て,シアノヒドリン へと変換されることを確認している(T. Yamaguchi & 

Y. Asano,未 発 表).一 方,Nogeら は,植 物

(オオイタドリ)が重水素標識化された

L-Pheをフェニルアセトニトリルに変換することを明ら かにしている(16).このように,アルドキシム‒ニトリル 経路の2つ目のP450による反応生成物がニトリルある いはシアノヒドリンであるかについては,まだ多様性と 一般性が明確にされていない.生合成されたシアノヒド リンは,さらに配糖体化され,シアン配糖体が生合成さ れる.これらのシアン配糖体は,植物体で貯蔵される が,組織の破壊などの物理的な要因で

β

-グルコシダーゼ 図3ダイナミックな光学分割によるアミノニトリルからの光

学活性アミノ酸の合成

(A)NHase, ACLラセマーゼおよびD-アミノペプチダーゼを組み 合わせて用いる( )-アミノ酸の合成.(B)NHase, ACLラセマー ゼおよびL-アミノ酸アミダーゼを組み合わせて用いる( )-アミノ 酸の合成.

(4)

と接触することにより加水分解されて,シアノヒドリン に戻ると,酵素HNLあるいは,非酵素的な分解により,

アルデヒドとシアンを生成する(17).これら植物のアル ドキシム‒ニトリル経路を応用することで,アミノ酸を 出発物質としてシアン非依存的にニトリルを合成するこ とが可能となる.実際に,Miki, Asanoは,

のP450 79A2と,  sp. OxB-1由来のアルドキシ ム脱水酵素を大腸菌で共発現し,L-Pheからのフェニル アセトニトリルの微生物合成に初めて成功している(Y. 

Miki & Y. Asano,未発表)(図4

また,HNLは逆反応によってアルデヒドとシアンか ら立体選択的にシアノヒドリンを生成しうる有用酵素で あり,これまで幅広く基礎・応用の両面において研究が 進められてきた.HNLに関する初期の研究は,1837年 にドイツのLiebigとBöhlerによって行われた.彼らは,

アーモンド抽出液をエムルシンと呼び,それによってシ アン配糖体アミダリンを基質としてHCNが遊離される ことを観察したとされている(18, 19).エムルシンは,

β

- グルコシダーゼおよびHNLを含んでいたことがわかる.

植物のシアンの発生の能力は2,650〜3,000種もの多くの 植物に分布しているとされており(17),上記の経路に よって生合成されるシアン配糖体は数十種類が同定され ている(19).このHNLの存在は,シアンの発生の能力の 分布に比べて,極めて限定されていて,いまだ数十種類 の植物などにしか認められていない.その中でも, 立 体選択的なHNLの分布は希であり,僅か4種類の植物 においてのみ報告されていた.高等植物において知られ ている,シアノヒドリンからHNLの関与によりシアン が発生する現象は,昆虫やカビなどの外敵から植物体を 守るため獲得した能力と考えられている.HNLの利用 に関する研究として,Effenbergerらは,アーモンド

( ( )) 由 来 の -HNL(20)を,

Grienglらはパラゴムノキ( )の 立 体選択的なHNL(21)を有機合成に利用してきた.これら のHNLの合成への利用研究は,微生物酵素の開発と合 成への利用研究がたどった歴史とは,かなり異なる様相

を呈していた.すなわち,合成に用いる際にアーモンド などの入手しやすい酵素源を用い,酵素活性さえ測定し ないで実験する場合がほとんどであり,酵素化学的な研 究は意外にも極めて少なかった.本酵素は,わが国の

(株)日本触媒によって,工業用酵素として利用されてい る.組換え微生物を用いたHNLの大量生産,耐久性の 高い改変HNLの開発,および固定化HNLを用いる工業 的な光学活性シアノヒドリンの製法が確立されてい る(22)

HNLには, および 立体選択的な酵素,FADを含む ものあるいは

α

/

β

構造のものがあり,それぞれ酸化還元 酵素あるいは加水分解酵素から進化したと考えられてい る(17).それらは, -mandelonitrile lyase(EC 4.1.2.10),  hydroxymandelonitrile lyase(EC 4.1.2.11), aliphatic  - hydroxynitrile lyase(EC 4.1.2.46)および -hydroxyni- trile lyase(EC 4.1.2.47)に分類されている.本酵素は,

シアノヒドリンの分解と合成の可逆反応を触媒し,ケト ンまたはアルデヒドとシアン化合物から医薬品などの中 間体である光学活性シアノヒドリンの合成に利用可能な 工業用酵素として注目されている.そのため,新しい HNLや,HNLを大量生産する方法の開発が望まれてい る.最近では植物病原細菌 (23)

(24)などの微生物由来のHNLも報告さ れている.後者については,そのCupin構造が解明され ているが,比活性は植物酵素に比べて著しく低い.

われわれは,シアンの発生能力やシアン配糖体の数に 比較して,このHNL活性が比較的狭い植物種にしか認 められない点に興味をもち,また微生物でしばしば行わ れる有用酵素のスクリーニングと同様な発想と手順を踏 む研究が,植物分野ではあまり行われていないことに気 づいた.多数の植物酵素を扱ってみると,植物抽出液 は,しばしば多糖類と思われる物質で粘重になった.ま た,多くは着色しており,酵素活性を吸光度で測定する ことができなかった.富山県中央植物園との共同研究 で,74属,163種の植物の,葉,根,種子などの抽出液 を調製し,種々の試行錯誤を経て, および -HNL活 図4植物酵素シトクロムCYP79A2と微 生物酵素アルドキシム脱水酵素を組み合 わせた( )-Pheからのフェニルアセトニ トリルの合成

(A)植物のアルドキシム‒ニトリル経路に よる( )-Pheの代謝.(B)細菌のニトリル 代謝.

(5)

性を検出した.中国,雲南省由来のトウダイグサ科 の 葉 に -HNL活 性 を,パ ッ ションフルーツ( )の葉と種子,なら びにかりん( ),西洋ななかまど

( ),梅,花もも( )の

種子が -HNL活性を示すことを発見した(17, 25).パッ シ ョ ン フ ル ー ツ 由 来HNL( HNL) や び わ(

)由来HNL( HNL)などは,芳香族 アルデヒドおよび脂肪族ケトンに作用して, 体の光学 活性シアノヒドリンを与えた. 立体選択的なHNLの うちびわ由来HNL( HNL)(26)や梅由来HNL(

HNL)はFADを補酵素として含むのに対し,同じ 立 体選択性を示す HNLは従来知られたHNLと異なり,

その構造にFADは含まれておらず,分子量が18,000と 小さな単量体の糖タンパク質であり,興味深い特徴を有 している(27)

食品として容易に入手できる梅の種子(仁)からFAD を含む HNLを精製し,その諸性質を明らかにし た(28). HNLを用いて,各種の芳香族,および脂肪 族のケトンやアルデヒドから系統的に( )-シアノヒド リンを高い鏡像体過剰率および収率で合成した(29, 30). 44種類の置換ベンズアルデヒド誘導体,10種類のヘテ ロ芳香族および多環のアルデヒド類,13種類の脂肪族 アルデヒド,15種類の不飽和脂肪族アルデヒド,8種類 の環状脂肪族アルデヒド,15種類の脂肪族メチルケト ンなど約100種類の化合物に対する反応性を調べたとこ ろ,反応しない化合物は数種類に過ぎず,非常に基質特 異性が広い酵素であることが判明した.また, HNL をコードする全長cDNAをクローニングした. HNL の1次構造はブラックチェリー( )由来 -HNLや,アーモンド由来 HNLのアイソザイム群と も高い相同性を示した. に分泌発現させ た梅由来HNLのアイソザイム HNL-2は, HNLと 同様な -HNL活性を示した(28).このように, HNL は広い基質特異性を示すのみならず,高い立体選択性お よび高収率でシアノヒドリンの合成が可能である.本酵 素のX線構造解析を進行させている.

次に, に発見した -HNL遺伝子につい ては,cDNAクローニング,酵素化学的諸性質の解明,

X線構造解析,および大腸菌での可溶性発現に成功して いる(31). 由来の -HNL( HNL)を大 腸菌形質転換株から精製し,基質特異性を含む詳細な酵 素化学的諸性質を解明した. HNLは,機能的に活性 を有する状態として異種宿主での発現に成功した世界で 3番目の新しい -HNLである.本酵素は,FADを含ま

ず,サブユニットの分子量約29,500のダイマー酵素であ る.約100種類の化合物(65種類の芳香族および35種 類の脂肪族アルデヒドやケトンなど)を用いて基質特異 性を調べた.ホモロジーモデリングした酵素モデルにピ ペロナールをドッキングさせるシミュレーションを行 い,活性中心付近において基質特異性を決定する残基を 推定した.本酵素には,

α

/

β

加水分解酵素の活性発現に 必要とされる3つのアミノ酸残基としてSer, His, Aspが 存在することを推定した.さらに,大腸菌をホストとし て,可溶性画分に良好に発現する変異型酵素を得てい る.本酵素の立体構造も解明しつつある.本研究によっ て, HNLを大腸菌形質転換株より季節にかかわらず 大量に調製することが可能になり,有用物質合成に役立 たせることができる.

キャッサバ( )由来の - HNL 遺伝子の大腸菌内での可溶性発現

分子生物学の発展により,各種起源のタンパク質の異 種宿主での発現実験が行われてきたが,いまだ多数のタ ンパク質が封入体として不溶性画分にしか発現しないた め,それらの機能を明らかにできない問題点が存在して いる.また,これらの現象は,生物工学における酵素や タンパク質の利用において大きな問題となっている.

( )-マンデロニトリルの合成に利用することを目的とし,

キャッサバ( )由来 -HNL( HNL)

遺伝子を合成し,大腸菌内での発現を検討した.大腸菌 内で発現させた HNLはほとんどが封入体として発現 され,可溶化酵素として発現させるには長時間の低温培 養が必要とされた.そこで,発現効率を改善するため,

HNL遺伝子に変異を導入した結果,大腸菌で容易に 発現が可能な酵素へと進化させることに成功した(32)

当初,基質のベンズアルデヒドは反応阻害剤としても 作用するため,アルデヒドが作用すると思われるLys残 基に着目し変異導入を検討した. HNLに含まれるLys 残基は20カ所あり,この中からほかの -HNLと相同性の ある残基,

β

-シート上に位置する残基など,立体構造や 基質特異性に影響を与えると予想される6残基を選出し た.ハイスループットスクリーニングによる多数の検体 処理の結果,可溶性画分に得られる活性型酵素量が上昇 す るLys→Pro(Lys176Pro, Lys199Pro, Lys224Pro) 変 異を認めた.目的であったアルデヒド耐性の向上は認め られなかったが,このPro置換は変異点を掛け合わせる と相乗的に効果を上昇させ,3残基へのPro置換により発 現レベルが約10倍に改善された.さらに,ランダム変異 により,His103を疎水性アミノ酸に変異すると,大腸菌

(6)

において極めて安定に可溶性に著量発現されることを発 見した(32)(図5).

これらの HNL変異型酵素の での可溶性発 現機構を酵素化学的および生物物理学的手法を で明らかにし,それらの生化学的,物理化学的性質の変 化が大腸菌における可溶性発現に及ぼす影響を考察し た.まず,変異型酵素を精製し,温度やpHに対する安 定性,動力学的定数の算出などの性格づけを行い,野生 型酵素と比較した.また,円偏光二色性(CD),FT- IR,蛍光スペクトルなどを測定した.さらに,温度を 変化させた条件,および変性剤であるグアニジン塩酸塩 による化学的変性時におけるCDの変化を測定した.そ の結果,CDは,野生型酵素および変異型酵素のいずれ にも,僅かな違いしか認められなかった.熱による失活 では,変異型酵素が野生型酵素に対して熱安定性を5℃

程度失っていた.グアニジン塩酸塩による酵素の失活と

L-Arg水溶液中での再フォールディング実験では,野生 型酵素が全く再活性化しないのに対して,His103Metや His103Leuの変異型酵素が,それぞれ33および47%再 活性化することを発見した.これらの結果から,変異型 酵素は で,1点から3点の変異により,変性剤に よる分子内水素結合の喪失状態から,活性型へと自力で 再フォールディングする能力を獲得したことが認められ た.したがって,これらの変異型酵素に見られる変性と 再フォールディングにおけるフレキシブルな性質が,変 異型HNLが大腸菌内において活性型として高次構造を 形成する際に有効に機能すると考えられる.動植物由来 タンパク質の異種宿主における発現に関する技術は一般 性に欠ける問題点があり,従来,HNLの発現には酵母

などを用いる必要があったが,このような進化分子工学 の手法により変異型酵素が取得でき,植物酵素 HNL を大腸菌を宿主として,活性型として容易に調製するこ とが可能になった.このように大腸菌でのタンパク質

(酵素)の可溶性発現を,進化分子工学を用いて可能に した事例が記録されたことは,この例を除いてほとんど ない.

次に, HNL変異型酵素His103Leuについて,大腸 菌,酵母 ,動物細胞

,および2種類の無細胞発現システム(大腸菌由来の WakoPUREシステム,および小麦胚芽システム)にお ける発現について検討した(33).それぞれの発現系にお いて総活性と比活性を測定したところ, , 

および小麦胚芽システムでは,野生型および 変異型酵素の両者とも同様に高い活性で発現された.一 方,大 腸 菌 の 形 質 転 換 株 お よ び 大 腸 菌 由 来 の WakoPUREシステムでは,いずれも,変異型酵素のみ が総活性,比活性とも高く発現された.したがって,変 異型酵素His103LeuやHis103Metが可溶性に発現される のに対し,野生型酵素が可溶性発現されないことは,試 験した範囲では大腸菌の系のみにおいて観察される現象 であることが判明した.今回検討した酵母,動物細胞,

および小麦胚芽の系では,それらに含まれるシャペロン がHNLの可溶性発現に対して有効に機能するが,大腸 菌のシャペロンやシャペロンのない大腸菌由来Wako- PUREシステムでは,野生型HNLが良好に発現しない と考えられる.

これらのHNLは,光学活性な各種シアノヒドリンの 合成に用いることができるほか(34),シアンの求核性と

図5 由来HNLHis103

変異による大腸菌での可溶性発現(32)

(7)

同様な性質を示すニトロメタンなどの基質に置き換える と,Henry反応(ニトロアルドール反応)を触媒するこ とが期待できる.シロイヌナズナ(

)由来の HNLや HNLを用い水溶液中でHenry 反応を行うと,非酵素的な反応の影響を強く受け低い立 体選択性を示すのみであったが, HNLを大量に用い 水‒有機溶媒の二相系での反応を検討すると,ジイソプ ロピルエーテルや酢酸ブチルを有機溶媒として用いた場 合に,各種の芳香族アルデヒドから高い鏡像体過剰率で

( )-

β

-ニトロアルコールを合成することができた(35)

β

- ニトロアルコールは,シアノヒドリン同様,医薬品など の原料や中間体として有用な化合物である.

以上のように,多数の新しい植物HNLを発見した.

パッションフルーツ,梅, など由来の新 しいHNLの酵素化学的諸性質を初めて明らかにした.

また,進化分子工学的手法により得られたキャッサバ由 来の変異型 -HNLが,可溶性酵素として活性を有して 発現される現象を および各種宿主において明ら かにし,HNLが活性型として大腸菌宿主内で高次構造 を形成する機構の一端を推定した.つまり,変異型酵素 は変性に対してフレキシブルな性質を獲得し,それが大 腸菌内のタンパク質合成直後の正しいフォールディング と高次構造の形成過程において有効に機能したと考えら れる.これらの酵素は,いずれも大腸菌形質転換株より 容易に取得することが可能になり,種々の有用物質合成 の触媒として役立たせた.

おわりに

生体を構成する物質の代謝に関与する酵素を合成反応 の触媒として有効に利用する「酵素法」は,生体内と同 様に温和な条件下で反応が行われるため,公害がなく省 エネルギーに役立つ極めて優れた合成手法と言える.わ れわれは,微生物と植物における「アルドキシム‒ニト リル経路」の酵素群の比較生化学とそれらを構成する各 種酵素を合成反応に触媒として利用する研究を行ってい る.アルドキシム‒ニトリル経路に関連する酵素の利用 としては,NHase,アミノ酸アミダーゼおよびアミノ酸 アミドラセマーゼとを組み合わせるダイナミックな光学 分割反応により,ラセミ体アミノニトリルあるいはラセ ミ体アミノ酸アミドを基質として, 体および 体アミ ノ酸の立体選択的な合成を初めて可能にした.また,植 物の「アルドキシム‒ニトリル経路」に存在する酵素の 一つであるHNLに着目し,自然界からのスクリーニン グにより多数の新しいHNLの分布と有用性を明らかに

した. HNLを大腸菌で大量発現させ,有用物質生産 に有効に利用できることを示した.さらに, HNLに 大腸菌において活性を有する可溶性酵素として発現され る,従来記録されていない新しい変異を発見することが できた.われわれは,このような変異について,多数の 例を得つつある.タンパク質や酵素には,まだまだ人類 が知らない,極めて大きな可能性があることを示すもの である.

謝辞:本研究は,主として富山県立大学工学部で行われたものであり,

引用文献で記載された博士研究員,大学院生,学部学生,研究室の同僚 らの多大な貢献に感謝いたします.多くの植物材料をご提供いただいた 富山県中央植物園に御礼申し上げます.アルドキシム脱水酵素のX線構 造解析を行っていただいた分子科学研究所の青野重利教授およびACLラ セマーゼのX線構造解析を行っていただいた名古屋大学工学部の山 根 隆教授に感謝申し上げます.また,日本学術振興会科学研究費補助 金(基盤(A)23248015,基盤(B)26292041,基盤(B)(2) 18380061,基盤

(B)(2) 16380064)などの援助を受けたことを記して感謝いたします.

文献

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プロフィル

浅野 泰久(Yasuhisa ASANO)

<略歴>1975 年京都大学農学部農芸化学 科卒業/1977 年同大学大学院修士課程修 了/1980 年博士課程単位取得/1981 年日 本学術振興会特別研究員/1982 年農学博 士/同年米国パデュー大学薬学部博士研 究員,オハイオ州立大学理学部化学科博 士研究員/1984 年(財)相模中央化学研究 所副主任研究員/1990 年富山県立大学助 教授/1995 年同大学教授/2006 年同大学 生物工学研究センター所長(2010 年 3 月 まで)/2011 年富山県立大学附属図書館長

(2012 年 3 月まで)/2012 年 4 月 ERATO 浅野酵素活性分子プロジェクト研究総括

<研究テーマと抱負>動・植物の酵素資源 を微生物と同レベルで探索すること<趣 味>弦楽器演奏

Copyright © 2014 公益社団法人日本農芸化学会

Referensi

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考えられるオリゴ糖を検出したが(19),Barileらは同一 分子量の4つの構造異性体を発見した.Taoらは検出し た24種の酸性オリゴ糖のうち7種のNeu5Gcを含むオリ ゴ糖を発見したが,Barileらはかれらの24種の酸性オ リゴ糖のうち2種しかNeu5Gcを含むオリゴ糖を見いだ せなかった.この違いはウシの個体によるミルクオリゴ