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毒のないジャガイモはつくることができるのか? - J-Stage

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(1)

グ リ コ ア ル カ ロ イ ド は,管 理 を 誤 る こ と で ジ ャ ガ イ モ に 増 加・蓄積し,ヒトや家畜に中毒を起こす潜在的な危険物質で ある.従来の育種ではグリコアルカロイドをなくすことがで きないとされてきた.近年,この生合成にかかわる遺伝子が 同定されつつある.われわれと競合グループの成果,今後の 見通しについて解説する.

はじめに

ジャガイモは,トウモロコシ,米,小麦に次いで世界 で4番目に多く生産されている食用作物である.ジャガ イモ(塊茎)から出た芽(萌芽)や緑色になった塊茎

(特に表皮の近傍)は,有毒物質のグリコアルカロイド と呼ばれるソラニンとチャコニンを多量に含む.緑色の 塊茎は光照射によってもたらされ,グリコアルカロイド は少量であれば,「えぐい」や「焼けつくような」と表 現されるような不快な味を示す.多量に蓄積されたもの を摂取した場合は食中毒の症状を示し,年に数件程度は 小学校などの菜園で収穫したジャガイモを誤管理したた

めの中毒事件が報告されている(1〜3)

.ジャガイモの芽を

取ることや,緑色になった皮を厚く剥いて(緑色になっ た領域より深いところまでグリコアルカロイドは蓄積し ているので)調理するのは蓄積したグリコアルカロイド を除去するためである.

筆者がこの研究を開始したきっかけは,所属していた 麒麟麦酒(株)がM&Aで取得し保有していたフランスの ジャガイモ育種会社Germicopa社のR&Dマネージャー であるボネル氏から勧められたことにある.彼から

「ジャガイモ育種において,いままでの技術の延長線上 でできない最大の課題はグリコアルカロイドである」と 教わった.グリコアルカロイドのないジャガイモができ れば,食の安全に直接結びつくとともに品質向上が期待 できる.ジャガイモを安全に食べることができているの は収穫後の貯蔵・輸送・販売や調理・加工の過程で厳密 にコストをかけて管理されているためである.これらの コストが削減できる可能性がある.作物では,耐病性付 与などの品種改良で野生種の形質導入のための交雑育種 が行われているが,ジャガイモの場合は野生種と交配す るとグリコアルカロイド含量が高くなる場合が多く,育 種の障害になっていた.この点でも改善が期待できる.

【解説】

Is It Possible to Breed Toxin-Free Potato?: Identification and  Application of Glycoalkaloid Biosynthetic Genes

Naoyuki UMEMOTO, 理化学研究所環境資源科学研究センター

毒のないジャガイモはつくることができるのか

グリコアルカロイド生合成遺伝子の同定とこれから

梅基直行

(2)

グリコアルカロイドは身近な毒性物質であるが,われわ れの研究以前には生合成経路に関する報告は極めて少な く,経路特異的な遺伝子についても糖転移酵素の報告の みであった(4〜6)

.ジャガイモはソラニンとチャコニンと

いう2つの物質を同時に蓄積するため,一方の物質の生 合成に関与する糖転移酵素の発現を抑制することでは,

他方の物質が増加してしまうことが報告されていた.グ リコアルカロイド全体の量を制御するためには,糖が付 加される前,つまりアグリコンまでの生合成経路を解明 する必要があることが示唆された.

グリコアルカロイド生合成遺伝子の同定

ソラニン(

α

ソラニン)とチャコニン(

α

チャコニン)

はアグリコンであるソラニジンに3糖であるソラトリ オース,またはチャコトリオースが付加されたものであ る(図

1

.ジャガイモとゲノムが8%しか違わないトマ

トには,トマチジンに4糖であるリコテトラオースが付 加したトマチン(

α

トマチン)が蓄積している.青い未 熟果に多く含まれるトマチンは,ジャガイモのグリコア ルカロイドほど多くの毒性報告はない.これらはステロ イドアルカロイドとも総称される.

われわれはジャガイモ野生種を含む400種以上の系統 が蓄積するグリコアルカロイドを分析したことがある.

一部の系統では構造が異なるグリコアルカロイドが観察 できたが,大部分の系統では最終産物のソラニンとチャ コニンだけをもっており,想像される中間産物の蓄積は 観察できなかった.ステロイドアルカロイドは,トレー サー実験からコレステロールを初発物質とすることが予 想され(7)

,16位,22位,26位(図1)に酸化の過程と窒

素原子を導入する過程が予想されていた(8)

われわれはステロイドの酸化過程にシトクロムP450 ファミリーの酵素が関与していると仮定し,公開されて いたジャガイモの発現データベース(9)から,シトクロム

P450型酸化酵素をコードすると推定できる遺伝子を抽 出した.ESTの発現部位に関する記述で,グリコアル カロイド含量が特に多い萌芽と花器官に発現が多い配列 を候補遺伝子とした.これらの遺伝子(断片)の情報を 用いて,ジーンサイレンスを引き起こすRNA干渉によ るノックダウン用のベクターを作製した.遺伝子をノッ クダウンすることで,グリコアルカロイドが顕著に減少 することを指標にグリコアルカロイド生合成遺伝子を同 定することとした.われわれが以前に行ったペチュニア の花色素遺伝子のノックダウンの実験や,本実験の過程 でブラシノステロイド生合成遺伝子をノックダウンして しまった経験から,ノックダウンの表現型が観察できる のは,得られた形質転換体数の1〜2割の個体であるこ とがわかっていた.そのため,およそ30個体の形質転 換体を取得し,グリコアルカロイドの低下と標的遺伝子 のmRNAの減少を解析した.その結果,3つのシトクロ ムP450酸化酵素(PGA1, PGA2, PGA3: Potato Glycoal- kaloid Biosysthesis)が生合成経路に関与することを明 らかにして特許出願を行った(10, 11)(図

2

窒素が導入される過程については,同じナス科トウガ ラシのアルカロイドであるカプサイシンの窒素導入遺伝 子 が同定されたこと(12)と,トレーサーを使った研 究から窒素導入はアミノトランスフェラーゼによるこ と(13)が予想されたことから,pAmtに相同性をもつ PGA4を見いだした(図2)

.ノックダウン形質転換体を

作成してPGA4が生合成に関与することを明らかにし た(14)

.PGA3やPGA4をノックダウンした植物には,少

なくとも3つの部位が酸化されたあとに生成するフロス タン型のサポニン(加水分解するとスピロスタン型トリ テルペンであるヤモゲニン)が蓄積することがわかっ

(15, 16)

.このことから上記3つのシトクロムP450では

グリコアルカロイド生合成の酸化過程すべてを説明する ことができず,新たに2オキソグルタル酸依存性ジオキ シゲナーゼである16DOXを候補遺伝子として選抜し 図1初発物質であるコレステロールと ジャガイモとトマトのグリコアルカロイド の構造

(3)

た.同様にノックダウン形質転換体を作製しグリコアル カロイド生合成遺伝子であることを確認した(17)(図2)

グリコアルカロイド生合成遺伝子としてのコレステ ロール合成酵素遺伝子の同定

植物ステロールに進む経路とグリコアルカロイドに進 む経路との違いは,24位にメチル基を付加するメチル トランスフェラーゼ(SMT1)の活性によって制御され ると考えられていた.しかし,SMT1を過剰に発現した ジャガイモ形質転換体の解析では,グリコアルカロイド を制御できるような結果は得られず,生合成経路の分岐 は不明なままであった(18)

この分岐点にわれわれはステロール側鎖還元酵素

(Sterol Sidechain Reductase)であるSSR1とSSR2の2 つの酵素をジャガイモとトマトから見いだし,SSR1と SSR2それぞれが,植物ステロールに進む経路とグリコ アルカロイドに進む経路を分担していることを明らかに した(19)

.実は,先述のシトクロムP450の機能評価実験

のために作製した酵母が本酵素遺伝子の発見につながっ ている.酵母を使った遺伝子同定として,基質である

β

アミリンを酵母細胞内で合成させ,シトクロムP450で あるグリチルリチン生合成遺伝子を発現し生産物を検出 する方法が報告されている(20)

.酵母でコレステロール

を つ く る 方 法 が,ヒ ト の24位 還 元 酵 素 で あ る 図2既報告の遺伝子と同定した遺伝子,推定されるグリコアルカロイド生合成経路

実際の経路は上流のシクロアルテノールから網目状に取る可能性があるが簡略した.

図3酵母を用いたSSR酵素活性の検出 24-メチレンコレステロールをつくる酵母

(左)とデスモステロールをつくる酵母(右)

にSSR2, SSR1, LKB, DHCR24を 導 入 し た.

SSR2, DHCR24で は コ レ ス テ ロ ー ル が,

SSR1, LKBではカンペステロールが顕著に生 成した.

(4)

DHCR24(21)を利用した特許文献に報告されていた(22)

つまり,DHCR24に相当する遺伝子がジャガイモに存在 すれば,ジャガイモでもコレステロール合成酵素を同定 することができる.ジャガイモとトマトの発現データ ベースとゲノムを検索したところ,

,シロイ

ヌナズナとエンドウの植物ステロール合成遺伝子である

(23)(24)と も 相 同 性 の あ る 遺 伝 子 が2つ

( と )あることがわかった.相同性の結果か らは,どちらがコレステロール合成酵素遺伝子であるの かを判断することはできなかった.別のステロール合成 酵素遺伝子でジャガイモから同定されたCYP51は植物 ステロールに進む物質とコレステロールに進む物質の両 方を触媒することが報告されていた(25)

.SSR1とSSR2

は発現部位に違いはなく発現量もほぼ同じであり,2つ の遺伝子産物が両方の経路の活性をもつ可能性もあると 考えられた.そこで,24メチレンコレステロールとデ スモステロールを作製する2つの酵母を作成し,それぞ れにSSR1とSSR2を個別に導入した(図

3

.対照とし

てはヒトのDHCR24と特許文献(22)に引用されていたエ ンドウのLKB(26)を用いた.SSR1とSSR2は別々に主に ステロイドのΔ24 (27)還元酵素活性とΔ24 (25)還元酵素活性 をもつことがわかった.この 遺伝子をジャガイモ とトマトでノックダウン形質転換体を作成したところ,

顕著にグリコアルカロイドの含量が低下する形質転換体 を得ることができた.このことからSSR2はグリコアル カロイド生合成に必須のコレステロール合成酵素である ことが確認できた(図2)

.これらノックダウン形質転

換体は,対照と異なる表現型は観察されず,グリコアル カロイド生合成経路を抑制しても,蓄積する産物は植物 ステロールに流れることが確認できた.この遺伝子抑制 は新規な代謝産物の蓄積が起きにくいと期待できる結果 である.

グリコアルカロイドのないジャガイモの作製とゲノ ム編集

遺伝子を同定した後,従来育種に利用するため変異体 を取得する必要がある.自殖性植物のイネ,トマトやダ イズでは,突然変異体の集団をTilling法などによって 変異体を選抜・取得することが広く行われつつある.通 常のジャガイモは4倍体であること,ジャガイモは塊茎 で栄養繁殖するため流通されている品種は,アリルに多 種類の遺伝子が存在していることから,Tilling法に よって変異体取得が行われた例は少ない(28)

.しかし

ジャガイモでも種子を用いた変異処理は容易であり,プ ライマーのデザインを工夫しアレルを特異的に検出する

ことで,変異体をスクリーニングすることも可能である ことを示した(27)

.ただし,変異体自体は当代で検定す

る必要があることと,得られた変異が後代に伝わる保証 はないなど,系としては改善する必要がある.また,た とえ変異が得られたとしても,4倍体にまで変異を集積 しなければならないことを考えると育種を達成するため には時間が必要である.

近年,遺伝子をターゲットにして変異を導入するゲノ ム編集が脚光を浴びている.この技術はジャガイモのグ リコアルカロイド遺伝子を破壊するような,多倍数体で ある実用植物の遺伝子破壊に最も適する技術である.わ れわれは特異性の高いゲノム編集技術であるTALEN

(Tal effector nuclease) を 用 い てSSR2遺 伝 子 を 破 壊

(ノックアウト)することを試みた. 遺伝子を認 識して 遺伝子を認識しないTALENのデザインを 行って発現カセットを作製し,これを導入した形質転換 体を取得した.遺伝子発現の誘導など詳細な検討を行う 前の予備的な段階であったが,1系統だけジャガイモ4 倍体にある 遺伝子のすべてのアリルを破壊した系 統を獲得することができた(19)

.多倍数体植物でのゲノ

ム編集の実施例としてはコムギに先を越されたが(29)

ジャガイモでは初めての例となった.今後は,より簡便 で効率も高いとされるもう一つの技法であるCRISPR/

Casを用いた遺伝子破壊にも取り組み,ジャガイモでの 実用化に向けた課題の検討を進めていく予定である.

グリコアルカロイド生合成遺伝子群と染色体上での 遺伝子クラスター

すでに同定されているグリコアルカロイド糖転移酵素 遺伝子と,われわれが明らかにした6つの遺伝子,推定 される経路を図2にまとめた.グリコアルカロイドに生 合成遺伝子が明らかになるにつれ,ある特徴に気がつい た.すべてではないが,いくつかのグリコアルカロイド の遺伝子は,染色体上の2つの領域に多く存在する

(図

4

.7番染色体には

が隣接し,近 傍に糖転移酵素遺伝子である と がある.

12番染色体には と が隣接する.近年,植 物の二次代謝産物の遺伝子がクラスターを形成している ことが,いくつかの植物種で報告されている(30)

遺伝子と 遺伝子はジャガイモやトマトでは2番染 色体に大きく離れて存在しクラスターは形成せず,その 近傍に相互に類似の遺伝子はない.われわれは6番染色 体にありクラスターを形成していない 遺伝子を すでに同定していたこともあり,ほかの植物とは違う部 分的なクラスターであるとの認識であった.しかし,

(5)

元々トマトの研究者で同定した遺伝子が少なかったイス ラエルのアサフ・アハロニ博士のグループは,逆に,こ のことを主題とした論文を発表した(16)

.彼らはトマト

のグリコアルカロイドであるトマチンの1糖目の転移酵 素遺伝子 遺伝子を報告していた(31)

.同じよう

な 手 法 で,2〜4糖 目 を 付 加 す るGAME2, GAME17,  GAME18と同定した.報告にあるGAME4はわれわれ が同定していたPGA3のトマトのオーソログである.わ れわれはPGA3の酵素活性を同定や特定することができ ていないが,彼らも同様である.クラスターを主張する ために,ほかのいくつかの遺伝子についてはウイルス誘 発性遺伝子サイレンシング法でグリコアルカロイド含量 の低下が見られることだけを報告した.われわれの同定 したPGA2, PGA4, 16DOXのトマトのオーソログが,そ れぞれGAME7, GAME12, GAME11に該当する.また,

コレステロールをつくるために必要なステロイド7位還 元酵素であるDWF5(19)は,ジャガイモには2つのパラロ グがある.2つのDWF5は,活性を共有しているか,基 質特異性が異なるかについては明らかになっていない.

2つの 相同性遺伝子は1番染色体と6番染色体に 存在しクラスターを形成していない(32)

.個々の遺伝子

の正確な機能同定と染色体上での部分的な遺伝子クラス ターの役割は,まだまだ多くの研究を必要とする.

植物のコレステロール代謝系の役割とその応用 前述のとおり目的としていたコレステロールをつくる 酵母は作製できたが,酵母を使ってはPGA1やPGA2に ついては活性を特定することはできなかった.しかし酵 母でコレステロールを自由につくることができるという 技術は,たとえば,現在羊毛などから得られているビタ ミンD3を酵母で発酵生産することが可能になるという ことであり,今後の開発が期待されている.この酵母は

通常のエルゴステロール型ステロイドがすべてコレステ ロール型になっているが,生育速度は若干遅くなる程度 であり正常に生育する.さらにステロイドだけでなく酵 母の脂質をすべて哺乳類型に変更することによって,い ままで酵母を使って発現できなかった哺乳類の膜タンパ ク質を機能的に発現できるのではないかと期待されてい る.新たな異種タンパク質の発現宿主としての有用性に ついても検討を進めている.

本研究は植物でのコレステロールの役割についても新 たな手掛かりを提供した.ほとんどの植物は植物ステ ロールと称される24アルキルステロールを主成分とし ており,コレステロールの含有量は低い.しかしナス科 植物は植物では特殊であり,総ステロイド化合物の数%

から1割がコレステロールであることが知られてい る(33)

.ジャガイモやトマトではコレステロールがグリ

コアルカロイドの原料となっていることは明らかにし た.タバコもコレステロールを多量に含んでいるが,タ バコはコレスロールを前駆体とするような二次代謝産物 は報告されていない.最近,ほかのナス科植物のゲノム 配列やトランスクリプトームが報告されている.ナス属

( )から遠いトウガラシ( )

,タバコ

( )

,ペチュニア(

)にもSSR1ととも にSSR2に相当すると予想される配列が見つけることが できた(図

5

.われわれはジャガイモやトマトでコレ

ステロールを大幅に低下した形質転換体を取得したが,

上述のように目立った表現型は観察できていない.24 アルキルステロールが主成分の大部分の植物でも微量の コレステロールが検出され,コレステロールを多く含む 組織も知られている(34)

.コレステロールがナス科植物

全般やそれ以外の植物にとって意義のあるものなのかど うかは興味がもたれるところである.

おわりに

そもそもグリコアルカロイドは何のために存在してい るのか.なくしてしまうと虫や病気に弱くなるのではな いか.この研究を発表すると多くの人から質問を受け る.グリコアルカロイドは少なくともジャガイモ塊茎の 生産については必要ない.われわれが作製したグリコア ルカロイドを作らない遺伝子組換えジャガイモは,限ら れた環境でしか試験をしておらず,今後,フィールドテ ストなど実際の栽培環境に近い状態で評価・検討を進め なければ,これらについて答えることはできない.過去 の研究や総説ではグリコアルカロイドと耐虫,耐病性と の関連を強く述べているものがあるが,引用されている 図4グリコアルカロイド生合成遺伝子に見られる遺伝子の並

Spud DB (http://solanaceae.plantbiology.msu.edu/index.shtml)の 情報を基に作図した. 白抜き矢印は想定される遺伝子. 遺 伝子と 遺伝子の間にも遺伝子配列が予想されている.

(6)

原著には根拠の乏しいものが多い.確実に周知されてい るものは,ジャガイモ野生種由来のグリコアルカロイド の一種であるレプチンがコロラド羽虫の耐虫性に関与し うるという報告だけである(35)

.抽出物を過剰に病害虫

に添加した実験は意味があるとは考えにくく,ジャガイ モを侵す病害虫は,そもそもグリコアルカロイドの影響 は受けないと報告されている.グリコアルカロイドは光 や打撲によって誘導されるが,病害や虫害で誘導される ことは少ない.では,なぜ乾重量1%を超えるようなグ リコアルカロイドをジャガイモは蓄積する必要があるの だろうか.毒としても,それほど効果的な毒ではない.

グリコアルカロイドは,塊茎からでた萌芽,土壌から地 上にでて緑色になった塊茎表皮近傍,そして花に極めて 多く局在する(36)

.同じくナス科のトウガラシの実に局

在するカプサイシンは鳥との共進化が報告されてい る(37)

.筆者はジャガイモのグリコアルカロイドは,草

食動物との共進化によるものではないかと想像し先行研 究を探したが見つけることはできなかった.最近,京都 大学の大山修一博士らによって,ジャガイモの原産地で あるペルーのアンデス山脈でジャガイモ野生種とラクダ 科の草食動物のビクーニャとの関係が報告された(38)

ビクーニャはジャガイモ植物体と花は食べないがトマト とよく似たジャガイモの実を食べる.消化されなかった 種子は糞として排出され,糞場から野生ジャガイモが多 く見つかるとのことである.多くのジャガイモ探索研究 者がアンデス地方に入った20世紀前半にはビクーニャ の生息数が激減していたが,近年,ビクーニャの生息数 が回復し野生ジャガイモの生育域と重なるようになった

ことで発見・報告することができたとのことである.本 現象とグリコアルカロイドが直接関与しているかについ て確定的な事実はないが,今後,現地での研究に協力し ていきたいと考えている.この報告は,グリコアルカロ イドは草食動物の摂食コントロールに用いられてきたと の仮説に期待をもたせるものである.

グリコアルカロイドのないジャガイモはできるのだろ うか.ジャガイモは直接ヒトの口に入るものであり,代 謝物を変化させたものについてはしっかりとした評価を 行う必要があるだろう.ゲノム編集した植物の作製や社 会受容についても,多くの課題がある.今後のグリコア ルカロイドの研究の深耕,ジャガイモ育種が進展するこ と,そしてグリコアルカロイドのないジャガイモを皆様 に届けることができるようになることを願っている.

謝辞:本研究の多くはキリン株式会社基盤技術研究所にて行われました.

キリングループ,大阪大学村中俊哉教授のグループ,SSR2遺伝子の同定 は理化学研究所環境資源研究センター斉藤和季副センター長と澤井学博 士,昆虫細胞などでの異種発現解析やゲノム構造は神戸大学水谷正治准 教授のグループと,ゲノム編集は広島大学山本卓教授のグループと,

TILLINGは農研機構北海道農業研究センター田宮誠司上席研究員のグ ループと,多くの方々との共同研究で行われました.帯広畜産大学保坂 和良特任教授から多くの系統の提供を受けました.東京工業大学大山清 博士には図の掲載を承諾いただきました.研究メンバーみなさまに深く 感謝いたします.本研究の一部は,生物系特定産業技術研究支援セン ター・イノベーション創出基礎的研究推進事業ならびに,総合科学技 術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)

「次世代農林水産業創造技術」によって実施されました.感謝いたしま す.

文献

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ジ ャ ガ イ モ,http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/

poison/higher̲det̲08.html

図5SSR2相同遺伝子の系統解析

配 列 は 文 献(19)に 加 え て タ バ コ(SSR1: 

XP̲009624735.1, SSR2: XP̲009624490.1),トウ ガ ラ シ(39) (SSR1: Capana02g000339, SSR2: 

Capana02g001326),ペ チ ュ ニ ア(40) (SSR1: 

c o m p 3 2 7 2 2 ̲ c 0 ̲ s e q 1 ,   S S R 2 :   C o n t i g s  comp27732̲c0̲seq1)を用いてMEGA version  6(41)で行った.ブートストラップ確率(%)と置 換数距離を示した.

(7)

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プロフィル

梅基 直行(Naoyuki UMEMOTO)

<略歴>1986年東京大学薬学部薬学科卒 業/1991年同大学薬学系大学院生命薬学 専攻博士課程修了,博士(薬学)取得,麒 麟麦酒株式会社基盤技術研究所研究員/同 アグリバイオカンパニー植物開発研究所主 任研究員などを経て,2015年から理化学 研究所環境資源科学研究センター上級研究 員<研究テーマと抱負>分子育種,面白く て役に立つ研究したいと思っている<趣 味>果樹栽培とジャム作り,火山形態観察 Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.53.843

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maghamiらのデータの信頼性はそれほど高くないこと がわかる.各タンパク質のC末にTAP-tagを付けたこ とによる発現の変化がこの原因の一つであろう. プロテオマップによりタンパク質発現リソースの配 分を可視化する プロテオーム解析によって得られた数千のタンパク質 の発現量を単にテーブル(あるいはデータベース)とし