名古屋大学法学研究科は、1990年代以降、アジア諸国に対する法整備支援、とりわけ途上国、体制移行国 の法学教育支援に取り組んできた。2006 年からは、ウズベキスタン、モンゴル、ベトナム、カンボジアに、「日本 語による日本法教育」を行う日本法教育研究センターを設立した。当センターでは、各国の法と並行して、日本 語で日本法を学ぶことにより、将来、各国の法改革を担う人材を育成することを目指している。本事業では、日 本法教育研究センターにおいて、外国人学生に日本語で社会科学の基礎を教える、日本語教育と社会科学教 育のいわば橋渡しにあたる部分の教育カリキュラムとその教材を体系的に整備することを目的とする。
2. 活動
(1) 社会科学を学ぶ留学生のための教材開発
① 2009年夏、名古屋大学の法学・政治学研究者と日本語教育研究者が教材コンセプトを協議
■ 日本史・公民教材:日本史・公民の内容を読解素材として用いた中級前半向け日本語教材として構成
■ 日本法入門教材:日本語教材としても日本法教材としても用いられる総合教材として構成
③ 本文執筆、編集
■ 2009年秋~2010年春、分担して執筆、編集
■ 名古屋大の日本語教育研究者の指揮のもとに、日本語教育専攻の大学院生も編集に参加
(2)教育実践による教材の検証
① 2009年秋より、日本史・公民、および日本法入門の教材を、日本法センター全4センターにおいて試用
② テレビ会議を利用した遠隔教育と現地での授業を組み合わせて指導
③ 日本語講師の助言により、日本語中級レベル学生向けの専門講義スクリプトを作成
④ 日本語講師と法学講師が教室で同席、あるいは、指導分野を分担して、共同授業を実践
(3)2009年11月6日に行われた「名古屋大学東京フォーラム」において教材を配布
3. 成果
(1) 期待する成果
① 教材及び方法論は一般に公開され、日本の大学の社会科学専門教育の経験知をもって広く社会に貢献 する。特に、日本の援助関係者、法学教育、国際連携教育事業等における利用が期待される。
② 法学・政治学教育関係者および日本語教育関係者とのネットワークが構築され、大学が国際連携教育に 貢献するための継続的な協力関係の礎が築かれた。
社 会 科 学 を 学 ぶ 留 学 生 の た め の
基 礎 教 材 開 発
国際教育協力
への貢献
この事業では、(1)法学をはじめとして社会科学を学ぶ外 国人学生のための基礎教材として日本史・公民の教材開発、(2)
テレビ会議等を活用する遠隔教育と現地での教育を組み合わせ たカリキュラム・教授法の開発、(3)ウズベキスタン、モンゴル、
ベトナム、カンボジアの日本法教育研究センターでの実践によ る教材の検証、(4)名古屋大学での外国人学生を対象にした 講義での教材の検証、(5)教材の検証結果を踏まえた教育方 法論の確立、を行います。そして、その成果を社会科学分野に おける教育協力モデルとして公開することにより、国内外の援 助関係者が教育協力の現場で活用可能な成果物を作成すること を目指します。
平 成 2 1 年 度 「 国 際 協 力 イ ニ シ ア テ ィ ブ 」 教 育 協 力 拠 点 形 成 事 業
日本法教育研究センター
を海外
で設立
名古屋大学大学院法学研究科と法政国際教育協力研究セン ターは、ウズベキスタン、モンゴル、ベトナム、カンボジアの 4ヵ国に日本法教育研究センターを設立しました。日本法教育 研究センターでは、各国の法科大学・法学部に在籍する学部生 が、各国の法学教育を受けながら、同時に日本法を日本語で4 4 4 4 4 4 4 4学 んでいます。自国の法制度についての知識に加え、外国(日本)
の法制度についての知識も身につけることで、まだ法律が未整 備な各国において、将来、法改革を担うことのできる人材に育 つことが期待されています。
この事業では、「社会科学を学ぶ外国人学生のための基礎教材開発」の方法論を確立し、
社会科学分野における教育協力モデルとして公開することにより、国内外の援助関係者が 教育協力の現場で活用可能な成果物を作成することを目指しています。
教 育 協 力 の 現 場 で 利 用 可 能 な 成 果 物 の 公 開 関係者による事前の研究会の開催
各国の日本法教育研究センターおよび名古屋大学での 留学生向け社会科学入門講義での検証
日本史・公民教材(レジュメ、スクリプト、ビジュアル教材)の開発
▼事業展開のイメージ図
日本語教育
から社会科学教育
への橋渡
ししかし、一定の日本語を習得した外国人が、法学をはじめと する社会科学を学ぶ上で、利用可能な教材は限られていますし、
カリキュラムや方法論も確立されていません。
そこで、この事業では、「社会科学を学ぶ留学生のための基 礎教材開発」の方法論を確立するために、いわば日本語教育と 社会科学教育の橋渡しにあたる部分の教育カリキュラムとその 教材を体系的に整備することを目標としています。
(左上)ハノイ法科大学(ベトナム)
に設置した日本法教育研究セン ターの開所式
(右上)同センターでの日本語4講義
(左)モンゴル国立大学法学部(モン ゴル)に設置した日本法教育研 究センターの学生たち
(右)タシケント国立法科大学(ウズ ベキスタン)での日本法4講義(ス クーリング)
(下)作成中の社会科学教材
名 古 屋 大 学 大 学 院 法 学 研 究 科 名古屋大学法政国際教育協力研究センター
名古屋大学
法政国際教育協力センター センター長 鮎京正訓 法政国際教育協力 長 鮎京 訓
法学研究科 准教授 大屋雄裕
法学研究科 特任講師 金村久美
2010/02/25
海外で・日本について学ぶための教材 本 材 社会科学(特に法学)の基礎教育
大学院進学のための準備
背景
日本法教育研究センター
名古屋大学法政国際教育協力研究センター
2
日本語による日本法教育のための機関
名古屋大学法学部が 海外大学と提携して設置
名古屋大学法学部が、海外大学と提携して設置
2005 ウズベキスタン 2006 モンゴル
2007 ベトナム 2008 カンボジア
実績
2007・第 1 期生が卒業
第 期生が卒業
2名が名大法学研究科へ進学
2009・2名が修士課程を修了 1名は博士課程へ進学
それ以外にも大使館推薦国費 などに多数合格
順調な応募と高い進学意欲
順調な応募と高い進学意欲
2011/モンゴル・ベトナムから 留学開始予定
2012/カンボジアから
留学開始予定
対象としての「日本法」
世界共通のものが対象ではない
(日本法は日本固有の存在)
素材(法令・判例)、研究成果の
ほぼすべてが日本語で書かれている 頻繁なアップデート
(法改正・新判例の登場)
概念・考え方も言語に依存している
「上告」を英語に訳せるか?
「上告」を英語に訳せるか?
アマルガムとしての日本法
控訴 上告
appeal上訴違憲立法審査権 judicial
review
法律の留保 Vorbehalt des Gesetzes
統治行為論 acte de gouvernement
名古屋大学法政国際教育協力研究センター
4
各国に「日本法に詳しい法律家」を育てる
現地大学の教育をきちんと受ける
現地大学の教育をきちんと受ける
法学教育=現地大学に依存
語学教育・日本法教育に重点
日本語能力試験を基準として想定
言語知識やエ セイ読解等を問う客観式試験
言語知識やエッセイ読解等を問う客観式試験
論文執筆能力等、学生としての総合力は問えない
法学政治学教育の特性
語彙・表現、読解資料の特殊性
最優秀層の需要に
応えられているか?
教育手法・評価手法の違い
日本 多量のレポ ト 論文執筆
日本:多量のレポート・論文執筆
各国:口頭試問などが重要
大学教育のイメージ
日本:「学問」の府、「学修」から「研究」へ
各国:職業教育としての「学習」
各国:職業教育としての 学習」
法律=社会の反映
西洋近代という「普遍性」
西洋近代という「普遍性」
近代法・政治の諸前提
日本という「特殊性」
日本の歴史・地理事情
途上国における不足
独自の「近代」経験
独自の「近代」経験
民主政・市場経済……
日本に関する情報
名古屋大学法政国際教育協力研究センター
6
日本語能力 研究能力 背景知識
短期間にこれらの 短期間にこれらの 短期間に れら 短期間に れら
ギャップを埋めるためには?
ギャップを埋めるためには?
日本法教材 日本語教材
•
比較法概論
•
近代法制史
•
政治体制
•
司法制度
•
読解・文法
•
語彙・漢字
•
講義の聴解
•
ディベート
•
要約・論文
日本語能力 研究能力 背景知識
日本語を学ぶ
日本法を素材に 日本語を学ぶ教材
日本法を学ぶ
本文
講義スクリプト わかりやす
い話し方
質問、練習 日本語能力
試験3~2級 レベル
い話し方
日本法教員と 日本語教員の 共同授業
名古屋大学法政国際教育協力研究センター
8
読解問題
法学・日本語共通 本文
法学用語 アウトプット練習
教材として充実
アウトプット能力を 育てる
方法論・成果のまとめ
G30
教材開発の第一段階終了
実践結果のフィードバック → 今後の改善 応用可能性の模索
教育方法論の改善
G30
実践結果のフィ ド ック 今後の改善
グローバル30 (含「国際社会科学コース」)
名古屋大学ウズベキスタン事務所の設置
長期的な留学生増加への積極的な対策
名古屋大学 名古屋大学
法政国際教育協力センター センター長 鮎京正訓
法学研究科 准教授 大屋雄裕
法学研究科 特任講師 金村久美
2010/02/25